コアコンピタンス経営とは、イノベーションの創出だった?

今から10年以上前、サラリーマン時代に当時の社長が年頭のあいさつで、

「今後は、わが社のコアコンピタンスに集中し、…」

と話されました。

当時は、何のことかさっぱりわかりませんでした。

おそらく社長の言っていることの意味を100%理解した社員は、

数えるほどしかいなかったと思います。

ここで、コアコンピタンスとは、「核となる能力(competence)」の意味です。

これは、企業の強みである能力、ノウハウ、企業力のことで、

他社との競争のなかで、優位性を生み出す能力です。

例として、

ソニーの小型化技術、

米フェデラル・エクスプレスの物流管理システム、

トヨタの生産管理方式

などがコアコンピタンスの代表例として挙げられています。

なぜ、「コアコンピタンス経営」という考えが出てきたのか?

それは、それ以前の経営手法がうまくいかなかったからです。

経営戦略を構築するフレームワークとしては、

90年代、多くのアメリカ企業は、マイケル・ポーター氏の「競争戦略」

コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中化戦略

の3つの戦略を実践しました。

この考え方は、トップ企業を打ち負かすためには

トップ企業と自分の企業の違いを徹底的に分析(ベンチマーキング)し、

競争に勝つための要素を明確にして、それを高めるというものでした。

 

そして多くの大企業は高額な費用を払って

コンサルタント会社に戦略策定を依頼しました。

 

しかし多くの企業は成功できませんでした。

 

そこで90年代、業績の悪化した多くの企業は、不採算部門を切り捨てる

ダウンサイジング

リストラクチャリング(リストラ)

リエンジニアリングにより、

短期的で即効性のある戦略を行い、収益を改善しました。

業績不振の企業が、経営者が交代しリストラを発表すると、株価が上昇しました。

これは株価が経営者の評価を決める、「株主至上主義」の影響もありました。

しかしリストラでは、一時的な収益の改善はできても、

新たな成長を生み出すことはできません。

 

新たな成長を生み出す戦略

新たな成長を生み出す戦略

 

そして1994年にロンドン・ビジネス・スクールの教授ゲリー・ハメルと、

ミシガン大学の教授C・Kプラハラードが「コアコンピタンス経営」を提唱しました。

ハメルとプラハラードは、キャノン・ホンダ・ソニーなどの日本企業に

なぜアメリカ企業が市場を奪われたのかを分析しました。

その結果、日本企業はアメリカ企業のまねをしたのではなく、

自分たちが勝てる市場そのものを新たに作ったと結論づけました。

つまり、未来の顧客・市場・必要なサービスを自らが見つけ、

市場を開拓しなければ、トップに立てないという結論です。

そのためには

1 新しく切り開いていかなければならない「顧客のメリット」は何か?

2 「顧客のメリット」を提供するために、どんな能力(コアコンピタンス)が必要か?

3 どのように顧客と接するように考えるべきか?

ということは、あの時の社長は年頭のあいさつで、

「顧客のメリットをよく考えて、さらなるメリットを提供するためには、

どのような技術を磨き新たな製品・サービスを提供するか、よく考えなさい」

と言ったわけです。

残念ながら、そのように受け取った社員はごく少数だったと思います。

もっとわかりやすい言葉で言ってくれたらと、思います。

 

つまりハメルとプラハラードの主張は、

市場の創造、イノベーションの創出です。

またハメルとプラハラードがこのように考えた大きな理由は、

当時のアメリカの大企業の多くがいたずらに多角化に走り、

収益性が低下していたことが挙げられます。

 

有名なGEのCEOジャック・ウェルチは、

「1位か2位以外の事業はすべて撤退する」と宣言し、

ニュートロンジャック(中性子爆弾ジャック)と恐れられました。

つまりそうしなければならないほど、関連のない事業が林立していたのです。

日本でも大手電機メーカーの中には、住宅建設や不動産、保険など

本業と関連のない事業がある会社があります。

ただ、では自社の事業をコアコンピタンスに集中し、それ以外を外部に委託する

ということになります。

その際、何が自社のコアコンピタンスなのか、判断を誤ると、

大きな市場をみすみす他社に渡すことになります。

 

IBMはパソコン事業において自社のコアコンピタンスは、

パソコンの設計・製造・販売と考えていました。

そして、ソフトウェアやCPUはコアコンピタンスではないと判断して外部に任せました。

その結果、マイクロソフトとインテルが莫大な売り上げを上げました。

 

デルは自社のコアコンピタンスをパソコンの商品開発力と、

カスタマイズした製品を短納期で配送する能力と考えました。

そしてパソコンの製造は外部に委託しました。

台湾のASUSTEKは、当初パソコン内部の回路基板を受託製造しました。

その後、パソコン本体の組み立ても行うようになりました。

そしてデルに

「回路基板の設計もさせてください。

それは御社のコアコンピタンスではないでしょう。」

と提案しました。

デルは了承しました。

ASUSTEKはマザーボードの設計も請け負うことで売上が増大し、

デルは身軽になることで収益性が向上しました。

次に、「パソコン本体の設計もさせてください。

それは御社のコアコンピタンスではないでしょう。」

デルは了承しました。

ASUSTEKはパソコン本体の設計も請け負うことで売上が増大し、

デルは身軽になることで収益性が向上しました。

そしてある日

ASUSTEKブランドの、デルより安く、性能と品質は匹敵するパソコンが

市場に現れ、売上を伸ばしていきました。

 

磨くべき中核能力は?

磨くべき中核能力は?

 

 

逆に、ハメルとプラハラードの考えに沿って、顧客のメリットを追求して、

新たな技術を獲得し、競争優位を得た中小企業があります。

 

事例 その1

板金加工業の中小企業A社は、電子機器メーカー向けに

板金で筐体を製造していました。

この筐体は板金メーカーで製造した後、塗装、ラベル印刷を行い、

電子部品を組み立て、配線を行い完成します。

そこでA社は、顧客に提案しました。

「弊社が納めている筐体ですが、納入後塗装に出すのは大変でしょう。

弊社が塗装して納入します。」

そしてA社の社長は、塗装メーカーに出向き、社長自ら塗装の技術を学び、

自社に塗装とラベル印刷の設備を整えました。

顧客は大変喜び、A社に発注しました。

つぎにA社は、

「弊社が納めている筐体ですが、組み立てライン投入前に

いくつかの部品を組み立てて下準備をしています。

弊社がその組み立てを行えば、納入後すぐに組み立てラインに投入できます。」

顧客は大変喜び、A社に組み立てまで含めて発注しました。

こうして、A社は、板金加工から塗装・ラベル印刷・組み立てまでが、

自社のコアコンピタンスになりました。

 

事例 その2

印刷業のB社は、コンピューター用の伝票の印刷を得意としていました。

しかしパソコンの普及により伝票が減少し、売上が低下しました。

B社は自社のコアコンピタンスはコンピューター処理の伝票に必要な

穴あけ、ミシン加工、個別印刷などの技術であるとわかりました。

そこでB社は、同業の印刷会社でこの技術を持っていない会社と共同し、

営業活動を展開しました。

お互いのコアコンピタンスを補填することで、

より広い顧客に自社のサービスを提供できるようになりました。

ハメルとプラハラードは、顧客に向き合い、新たなメリットを提供できるように

自社の能力を磨くことが、コアコンピタンス経営であると主張しました。

しかし、前述のように自社の利益のことだけを考えて、コアコンピタンスに集中することは

大変危険です。

 

経営コンサルタントの一倉定氏は、以下のように述べています。

「直接目に見えないお客様こそ、会社の本当の支配者である、

という当たり前でしかも基本的な認識がなくて、経営はできない。

この認識に立って、お客様を考えみよう。

まず第一に、この支配者は、被支配者である会社に対して、

何も命令しないということである。

命令はしないけれど、自分の意にそわない時には『無警告首切り』をやる。

つまり、だまって、その会社の商品を買わない、と言うことである。」

 
 

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