AV事業を分社化したソニー「イノベーション・スピリットが失われるまで」

2015年02月18日ソニーは、音響・映像機器(AV)部門の分社化を発表しました。

この次は、昨年7月に投資ファンドに売却されたVAIOのように、AV事業も売却されてしまうか気になります。

さらに本社に残るデジタルカメラ事業の分社化も検討していると伝えられています。

2015-2017年度の中期経営方針では、2017年度の営業利益目標を5,000億円以上、株主資本利益率(ROE)目標を10%以上としています。

 

数々のイノベーションを生み出してきたソニーとは、どのような会社だったのでしょうか。

ソニーの社風、文化を表すものに「ソニー・スピリット」があります。

しかし、この「ソニー・スピリット」として引き継がれてきた文化を明文化したものは、あまり多くありません。

以下に昭和41年4月発行の「会社案内パンフレット」の冒頭にあったものを紹介します。

 

ソニー・スピリット

ソニーは開拓者。その窓は、いつも世界に向かって開かれ、はつらつとした息吹に満たされている。

人のやらない仕事、困難であるために人が避けて通る仕事に。ソニーは果敢に取り組み、それを企業化していく。

ここでは、新しい製品の開発とその生産・販売のすべてにわたって、創造的な活動が要求され、期待され、約束されている。

ソニーに働く者の喜びは、このこと以外にはない。

めいめいが、己の力をぎりぎりまで問いつめ、鍛えあげ、前進していく。

同時にそれが、たくみにより合わされ、編みあげられていく。

開拓者ソニーは、限りなく人を生かし、人を信じ、その能力をたえず開拓して前進していくことを、ただひとつの生命としているのである。

(下線は筆者)

 

開拓者魂は、ソニー最初のヒットとなったトランジスタラジオに見られます。

1947年、ベル研究所は世界で初めてトランジスタを開発しました。

ソニーの井深大は1952年アメリカを訪問した井深は、

ウエスタン・エレクトリック社(以降、WE社)が2万5000ドル(当時のレートで約900万円)、

現在の物価に換算すると2億円でトランジスタの特許を公開するという情報を得ました。

まだ中小企業の東京通信工業(ソニーの前進)の井深はこのライセンス購入を決意します。

そして井深は自らトランジスタの製造工程も開発し、1955年トランジスタラジオTR-55を発売しました。

trnsisterradio

値段は18,900円、当時の大卒の初任給が7,000円前後ですから、初任給の2.7倍今の60万円前後でしょうか。

しかし井深は、「好きなところに持ち込んで電池だけで聞くことができるラジオ」という付加価値に自信を持っていました。
 
そして意外なところに市場がありました。

当時アメリカでラジオは、自宅のリビングルームに置き、家族で音楽を楽しんでいました。
 
良きアメリカの家庭、そこで聞かれる音楽は、ビングクロスビーやフランクシナトラでしょうか。

こんな感じだったと思います。
 

パティ・ペイジ テネシーワルツ

ドリス・デイ ケ・セラ・セラ

 

しかし子供たちは、親と別の部屋でどうしても聞きたいものがありました。

それは既存の価値観をブレイクスルー音楽の出現、エルビス・プレスリーなどロックミュージックです。

親たちはプレスリーのダンスを「下品、はしたない」と即座にチャンネルを変えました。

アメリカの子供たちにとって、親から邪魔されず好きな音楽を聴くことができるトランジスタラジオはどうしても欲しいものでした。

しかしRCA、ゼニス、ゼネラル・ラジオなど、当時のラジオの大手メーカーにとって、価格が安く、市場が限定された小型トランジスタラジオに魅力はありませんでした。

対して真空管ラジオは、補修用の真空管の販売や交換のための大きな市場もありました。

大手メーカーもトランジスタの研究にも取り組んでいましたが、それはリビングに置く大型の真空管ラジオの代替でした。

 

しかしそれが完成した頃には、市場はソニーなどのメーカーに席巻されてしまいました。

現在の視点から見ると、真空管ラジオからトランジスタラジオへの転換は、自然な流れです。

しかし当時の視点で考えると、性能は低く、市場がなく誰が買うのかも分からないトランジスタに多額の研究開発投資を行い、製品化することは極めて勇気のいる決定ではなかったでしょうか。

そしてトランジスタラジオのヒットは、ソニーの決断とその後の様々な苦労を克服した研究開発と、パーソナルなラジオを求めた世の中の変化のタイミングがあったためではないでしょうか。

 

多額の研究開発がなくてもヒット商品は生まれました。

 

一方ヒット商品が生まれるには、研究開発、タイミング、そして革新性を見極め、強い意志で実行する人が必要です。

1978年の秋、ソニー創業者の井深大氏は海外への出張の際、飛行機の中で音楽を聴くためにポータブル式のカセットレコーダー「通称 デンスケ」を持って行きました。

そして井深氏は、録音機能のない小型のものが欲しいと思っていました。

ある時井深氏は、開発現場を歩いていて、新聞記者の口述速記用の小型のカセットレコーダー「プレスマン」の録音機能を外して、ステレオ再生用に改造する実験をしているのを偶然目にしていたのです。

そして、「プレスマン」をステレオに改造したものを自分用に特別に作らせて、出張に持って行きました。

出張から帰って来た井深氏は、社長の盛田氏に

「これはおもしろいよ。歩きながら音楽が聞けるステレオのカセットプレーヤーがあるといいだけどなあ」

と語りました。

これを聞いて、盛田氏は商品化を決意しました。

 

しかし他のスタッフ全員が反対しました。

「再生しかできないテレコなんて売れるわけない」

大手販売店の幹部に試作品を見せても「売れない」と言われます。

当時ヘッドホンをつけて音楽を歩きながら聞く人は誰もいませんでした。

市場がないから、売れるとは誰も思いません。

会う人会う人に試作品を見せて、聞いてもらうとみんな欲しいといいます。

 

盛田氏は確信しました。

「これはヒットする」

こうして盛田氏の強引なトップダウンで、手のひらサイズの「ウォークマン」が1979年7月に発売されました。

streoplayer

その前の6月にプレス発表しましたが、全く反応がありません。

そして発売当初は全く売れませんでした。

仕方なく営業スタッフがヘッドホンをつけてあちこちを歩き回りしてデモンストレーションしたほどです。

しかし認知が広まり出した8月に入ると爆発的に売れ始めました。

ヘッドホンステレオで音楽を聴きながら歩く、何かをする楽しさに人々が目覚めたのです。


(1987年ウォークマンのCM)

 

新しいライフスタイルが生まれました。


(1979年 ウォークマンのCM)

否定的だった販売店から催促が相次ぎ、生産が間に合わない状況になりました。

このウォークマンというのは和製英語で、海外では違う商品名でした。

アメリカでは「サウンドアバウト」

イギリスでは「ストウアウェイ」

しかし口コミで世界中にウォークマンの名前が広がり、最終的には商品名はウォークマンに統一されました。

 

ウォークマンは今までの市場に投入された製品ではなく、新たな市場を自らつくった製品でした。

その可能性を、確信をもって推し進めたのは、盛田氏と井深氏だけでした。

 

このソニーからイノベーションが起きなくなったのはなぜでしょうか。

ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセン氏は、ソニー・アメリカの元CEO ミッキー・シュルホフにインタビューしました。

その結果、1980年代に入り、盛田氏が経営から手を引いた結果、MBA出身者が経営戦略を立てるようになりました。

彼らの手法、市場を定量的に分析し、成長性を予測し、戦略を構築する手法は、既存事業の持続的な発展には役立ちました。

画期的な製品を生み出すには、顧客の気づかない願望や問題を直感的に気付き洞察し製品に落とし込むことはできませんでした。

ソニーのイノベーションは、井深氏、盛田氏ほか数名が、世の中にないニーズを見つけ出す能力、製品への高い目標設定、技術に対する深い理解があったから実現したものでした。

これらを引き継ぐ人材を育てられなかった(育てなかった)ことが現在の結果となったと思います。

そう考えると、発表されたソニーの経営改革案に、新たなイノベーションを起こす要素はあるのでしょうか。

若い頃、ソニーは何かわくわくさせる、輝きをもった製品を沢山見せてくれました。

このような製品をつくりたくて、きっと多くの若者が夢を持ってソニーに入社したと思います。

それなのに活躍する場を与えられず、リストラで去らねばならなかった多くの技術者、「かつての若者」。

その気持ちを思うと胸が痛みます。

 
 

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