仕事のミスとミスを防ぐリーダーの役割 その2

組織が目標を達成できない原因に、ミスによる失敗があります。

組織のリーダーは、部下のミスを防ぐために何をすべきか、リーダーに必要な考え方を以下の経営コラムで述べました。

仕事のミスとミスを防ぐリーダーの役割 その1

以下ではミスの原因となる人間の注意力と不注意について、また記憶力と忘れることについて述べます。
 

人間の注意力とミス

 

多くのミスは、不注意が原因で発生します。
 

不注意でミスや事故が…

不注意でミスや事故が…


 

では人間の注意力はどのようなものでしょうか。
 

覚醒水準(ボンヤリとコックリ)

覚醒水準とは、どのくらい目がパッチリと醒めているかの程度であり、注意の容量を決める大きな要因です。

いくら一所懸命注意を配分しようと思っても、配分すべき注意の全体量が乏しくてはどうにもなりません。
 

覚醒水準は以下の5つの「フェーズ」に分けられます。

表1 人間の情報処理の信頼性と覚醒水準

フェーズ 意識の状態 注意の作用 生理的状態 信頼性
0 無意識・失神 ゼロ 睡眠・脳発作 0
意識ボケ 不注意 疲労・単調
眠気、酒酔い
0.9以下
リラックス 受動的 安静起居・休息
定常作業時
0.99~0.99999
明晰 能動的 積極活動時 0.999999以上
過緊張 1点に固執 感情興奮時
パニック状態
0.9以下

(うっかりミスはなぜ起きる 芳賀繁 著 より引用)
 

覚醒水準が「フェーズⅠ」の状態が、うっかりしていた、ぼんやりしていた状態です。

実際は、明確に「フェーズⅠ」の状態になるわけではなく、意識は「フェーズⅠ」から「フェーズⅢ」の間を行ったり来たりしています。

覚醒水準が高くなりすぎ「フェーズⅣ」になると、過緊張や興奮状態となってしまいます。

注意をうまく配分できず、範囲が狭くなり、ひとつのことに注意を奪われる「一点集中」に陥ってしまいます。
 

エラーの確率が一番低いのは「フェーズⅢ」です。しかしこの状態を長く続けることはできません。

あまりがんばりすぎると、肝心な所で集中力がダウンしてしまい、ミスをしてしまいます。

リラックスした状態の「フェーズⅡ」と緊張した状態の「フェーズⅢ」とを、要所で上手に切り換えるのがコツです。
 

サーカディアンリズム

人間は、体内に時計を持っていて、この体内時計が持っているリズムをサーカディアンリズムと言います。

サーカディアンリズムの主な機能は、眠りと体温のコントロールです。

体温が高いときは、覚醒水準が上昇し、活動性も高くなります。逆に、体温が低くなると、眠気が生じ、注意力が低下します。

一般的に人は、夜明け前に体温が低くなります。したがって、夜明け前にエラーをする可能性が高くなるわけです。

医療従事者の夜勤は、サーカディアンリズムの点から、潜在的にミスを引き起こしやすいと言えます。

夜明け前は覚醒水準が低下するうえに、さらに入院患者への作業が増えるので、ミスが起こりやすくなります。
 

意識が他のことに向いてしまうミス

覚醒水準が「フェーズⅠ」から「フェーズⅣ」へと高まると、対象へ意識が集中します。

一方あまり集中しすぎて過緊張の状態になってもミスが多くなります。

ミスが起きるもう一つの原因は、別のことに注意が向けられてしまい、現在行っていることに対する注意レベルが低下してしまうことです。

つまり覚醒水準は「フェーズⅢ」であるにもかかわらず、他ことに気を取られて、肝心の対象に対しては「フェーズⅡ」になってしまうことです。
 

これは男性ドライバーが道を歩くミニスカートの女性に気を取られて、信号を見落としてしまうようなことです。

人が最適な状態で仕事をしているとき、100の注意のうち、70を仕事に向け、残り30を、仕事をとりまく周辺の状況に向けています。

この30の注意は、仕事をもう一段上から見て、視野狭窄に陥らないように全体を俯瞰しています。

この作業用の注意と管理用の注意の配分バランスがくずれると、不注意エラーが発生します。
 

この不注意を防ぐには、

  • 注意を余計なことに向けさせない。情報騒音を排除し、興味関心を引くものが回りにないようにする。
  • 注意を向けさせたいものに、注意を引き付けるように工夫する。交通標識や危険表示などのように大きくする、対比をつける、色を付ける、動かす、などで目立たせる。

等があります。
 

加齢

人は加齢により様々な身体的機能が低下します。特に視覚、聴覚、平衡感覚、皮膚感覚、内臓感覚、痛覚などの感覚・知覚が著しく低下します。

中高年になると、近くのものが見えにくくなったり、コンピュータディスプレイの文字が見づらくなったりします。

また、明るいところから暗いところに入ったとき、初めは何も見えなかったのが徐々に見えるようになる現象を、暗順応といいます。

眼が暗所に対して感度調節をし、弱い光でもとらえられるように感度が上昇するのですが、これも高齢者と若者のちがいが顕著な例です。
 

高齢者では、

  1. 暗順応に要する時間が長くなる
  2. 暗順応による感度上昇に限界があり、若年者ほどの高感度が得られなくなる

という二つの機能の低下がみられます。
 

疲労

疲れるとミスをしやすくなります。

この疲労は、ミスを起こすまで、疲労していることに気がつかない場合もあり、注意が必要です。

疲労は加齢とも関係があり、一般に加齢とともに疲労回復の時間は多く必要となります。
 

単調

注意は同じ水準で持続させることができません。

同じ作業を連続して行うと、最初は間違わずに処理できますが、やがてミスが入り込む可能性が高くなります。

実際には忙しい状態が続いた後に、ミスがよく発生します。

つまり単純作業は、注意力を低下させ、ミスを誘発します。

リーダーは長時間の単純作業を発見したら、如何に変化を加えて注意力を高める作業にするか、考えなければなりません。
 

その他ミスの原因となるもの

 

【近道・省略・カン違い】

職場や作業に慣れると、ラクをしようと工場内で指定した安全通路を通らずに、近道をしようと現場を斜めに横切ったりします。

あるいは必要な安全確認を省略します。人間は常にラクをしたがる生き物だからです。
 

さらに取りに行くのが面倒だからとスパナーをハンマー代わりにしたり、必要な保護具を使わなかったりと、正しいやり方を行わないこともあります。

また、バルブを閉めたつもりが閉まっていなかったなどのカン違いもあります。
 

【憶測・思い込み】

クレーンなどの玉掛け作業では、玉掛け者が退避したと勝手に判断して、玉掛け者が合図をする前にクレーンを操作し、吊った荷を移動し始めるといったことがあります。

電気配線工事では、同僚が電源を切ってくれていると思い込んで検電をせずに作業を始めて感電するとこともあります。

仕事に慣れてくると、「多分こうだ」「こうなっているはずだ」など自分の勝手な判断で、コミュニケーションを取らず安全を確認しないために、重大なミスにつながることがあります。
 

【考えごと】

覚醒水準が「フェーズⅢ」から「フェーズⅡ」に低下する原因の一つが考え事です。

作業中に、家庭やレジャーなど作業以外のことを考えて、作業に対する注意が不足しミスが起きます。

特に私生活での大きな問題などがある場合は、作業中も頻繁に思い出され、作業に対する注意力がおろそかになってしまいます。
 

 深刻な悩みごとは、悩みごとが気になり仕事中も放心状態になってしまいます。

話も 「うわの空」で仕事に対する注意力もなくなるため、そのような状態の人を危険な作業に着かせるのは極めて危険です。
 

【意識の迂回】

例えばある人と会話中にふと窓の外を見て、急に雨が降り出したことに気づくと、意識は雨に向かい、会話に対する意識が途絶えてしまうことがあります。

会話中は、話題に意識が集中していますが、会話中に日ごろから心の中に気にかけていることを思い出した時、会話と関係のないことに気を取られます。

そして、次の瞬間に、再び会話に意識が戻ります。

このような、今行っている行動や思考と関係ないことに一時的に意識を持つことを「意識の迂回」といいます。
 

これは、日々の作業中にも生じます。

通常は作業手順に沿って、作業や品質の確認、設備の操作などに次々と意識を転移させて行っています。

しかし作業の途中で日ごろから気になっている心配ごとをふと思い出して、一時的にそのことだけを意識します。

そして次の瞬間に、再び本来の作業に対する意識に戻ります。

不注意によって事故が起きる原因の中には、このように意識が迂回していることが原因の場合が少なくありません。
 

リーダーは、このような注意力を低下させミスを誘発する原因である覚醒水準、他の気を引くもの、加齢、疲労の影響を理解し、必要な対処をしなければなりません。
 

不注意と記憶

 

不注意やウッカリミスの原因が、記憶の間違いだった場合も少なくありません。

不注意は前述のように覚醒水準を高めたり、注意力を低下させる要因を取り除いたりすることで対策が可能です。

しかし記憶が原因の場合は、そのような対策は効果がありません。では、なぜ記憶が変わってしまうのでしょうか。
 

記憶のあいまいさ

人間の記憶は、時間の経過とともに急速に減衰します。

また記憶内容が変わることもあります。

ミスをなくすためには、記憶とはかくもあてにならないものであり、できれば記憶に頼らずに仕事を進めていきたいものです。
しかし現実にはなかなかそうはいきません。
 

間違った記憶

人は記憶を再現する過程の中で、記憶を自分に都合の良いものに作りかえることがあります。

つまり記憶は作られるのです。
 

カリフォルニア大学のエリザペスーロフタスの研究室によれば、実験室でやったと「想像した」だけのことでも、実際にやったのだと思い込ませることができました。

記憶はつくり変えられるのです。
 

実は記憶したことは時々刻々変わっているのです。

まるで真珠のように、思い出すと同時にその中身を磨いています。

思い出すたびに、関係ない細部は捨てて、ふさわしいと思うことをつけ足しています。

ですから恨みは思い出すたびにどんどん肥大化して、「仕返し」となってしまうのです。

試合で負けた悔しさは、ハードな練習をこなす活力となりますが、人から受けた仕打ちはあまり思い出さない方が良さそうです。
 

また記憶する要素は、脳の中に整理整頓されてしまわれているわけではなく、脳のあちこちに散らばっています。

視覚要素の記憶は視覚体系に、言語要素の記憶は言語体系にあります。

人が思い出している時は、あちこちにある貯蔵庫から記憶の要素を出してきて再構成しています。

その時の呼び出すテーマが変われば、再構成されるものも変わります。
 

警察で取り調べを受けた際、犯人でないのに刑事から自白を迫られ、記憶の断片をつなぎ合わせて、起きてもいない物語を語ってしまうことすらあります。

取り調べの苦痛から逃れたいばかりに…。
 

記憶のメカニズム

 

記憶のメカニズム

記憶のメカニズム


 

【感覚記憶】

我々が目、耳、鼻、舌、皮膚などを通じて外界から受ける情報は、感覚記憶に入ります。

外界からは常時膨大な情報が入っており、大抵の情報は感覚記憶で廃棄されます。

あるいは即座に対応しなければならない情報は感覚記憶から直ちに体を動かす神経に伝えられ、対処します。
 

例えば、知らずに熱いお湯に手を入れてしまった時、直ちに「熱い!」と手をお湯から出します。

これは反射と呼ばれる動作です。
 

【短期記憶】

この感覚記憶に入った情報の中で、意識が向けられた情報は短期記憶に一時保管されます。

短期記憶は、一度に記憶できる数字が「7プラス・マイナス2個」と小さく、保管時間が10秒から20秒程度と短いという特徴があります。
 

短期記憶の特性を考慮して、一度に読み取る数字は「7プラス・マイナス2個」としたり、一時的に記憶する情報は小さく、短時間で使用するようにしたりします。
 

【長期記憶】

短期記憶の一部は、感動したり、驚いたり、反復することで(記名処理と言います)長期記憶に保管されます。

長期記憶は文字通り長期間記憶することができ、有効な記憶術をマスターすれば、10の20乗ビットもの情報を記録できるそうです。
 

長期記憶には2つのタイプの記憶があります。

  • 勉強などで日頃行っている言葉が意味を伴った記憶(Semantic Memory)
  • 印象深い経験・体験したこと(読書や映画などを通じた疑似体験も含みます)の記憶(Episodic Memory)

 

長期記憶は、時間経過とともに忘却する特徴があります。

コンピューターは一度記憶すれば、故障がない限り、半永久的に保持されます。

しかし人間の記憶は細部まで正確に覚えることは難しく、さらに細部から徐々に忘れられています。
 

エビングハウスの忘却曲線

記憶の忘却について、心理学者  エビングハウスが実験結果から提唱した忘却曲線があります。
 

エビングハウスの忘却曲線

エビングハウスの忘却曲線


 

忘却曲線によれば、時間の経過と残っていた記憶の量は、

20分後 58%
1時間後 44%
1日後 26%
1週間後 23%
1ヶ月後 21%

と低下していきます。

この曲線が示す特徴的な点として、20分後には既に4割ぐらいのことを忘れ、1ヶ月後では2割ぐらいのことは覚えていることです。
 

短期記憶に頼る作業

 

仕事の中で短期記憶に頼っている部分はありませんか。

例えば、測定値の転記作業、途中で中断した作業がどこまでやってあるか、Aさんからの伝言など、これら多くの作業が記憶に頼っています。
 

その大半は、短期記憶の領域です。

転記作業をなくす

伝言は必ずメモにする

など短期記憶に頼らない作業に変えることは大変重要です。
 

設計ミスも短期記憶が原因

機械設計、電気設計、システムやソフトウェアなどの設計業務のミスの原因の多くが短期記憶にあります。
 

設計とは、入力条件(インプット)Aに対して、欲しい出力(アウトプット)G、Hを実現する装置や回路、システムを作ることです。

そのためには、AからG、Hに変換する論理的なプロセスを作る必要があります。設計者はこの論理を頭の中で構築します。
 

設計の思考プロセス

設計の思考プロセス


 

時には設計した結果、出力がG、Hだけでなく、Iも追加されることもあります。

この思考プロセスの中で、設計者がA→Cのプロセスを忘れてしまった場合、出力Iが欠落します。
 

A→Cのプロセスを忘れ

A→Cのプロセスを忘れ


 

この論理を構築する作業はすべて頭の中で行う為、プロセスを忘れることが時々起きます。

最後の設計検証の中でIをチェックすれば、ミスは検出できますが、大抵の設計では出力は膨大で、Iのチェックが漏れることが少なくありません。
 

あるいは、F→Iのプロセスを設計している際に、制約条件を忘れてしまい、結果がKに変わってしまう場合もあります。 

いずれも思考プロセスの中で、一時的に考えていたことを忘れなければ、防ぐことができます。
 

成約条件の忘れ

成約条件の忘れ


 

今日、不注意やウッカリミス、記憶違いによる問題に対して、個人の責任に負わせて注意するだけでは、再発を防ぐことはできません。

さらに個人に責任を負われることでモチベーションの低下や最悪離職を招きます。

不注意やミスの原因に踏み込んで、注意力に頼らないやり方や仕組みを構築することが組織のリーダーには求められます。
 

一方人が組織という集団を形成することで意図的に誤った行動をとることがあります。

これについては別の機会にお伝えします。
 

人間のウッカリミス、ヒューマンエラーについてもっと詳しく知りたい方は、こちらをご参照願います。

ヒューマンエラーを起こさないものづくりのために

 
 

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