人口減少社会とこれから起こる変化

日本の現在の人口は1億2700万人、

これが2050年には9,700万人、

2100年には5,000万人

にまで低下すると予測されます。
 

この人口減少を受けて、2014年5月、元岩手県知事で元総務大臣の増田寛也氏は、

2040年には896の自治体が消滅するという報告書 

通称「増田レポート」を発表し、全国の自治体関係者に衝撃が走りました。
 

では、この人口減少はどのようなものか、そして企業経営にどのような影響を及ぼすのか、さらに「増田レポート」も指摘しなかった事実について述べました。
 

1 人口減少の現実

 

現在1億2700万人の人口は、2050年には、9,700万人、2100年には5,000万人にまで低下すると予測されます。
 

年齢別人口推移と高齢化率

年齢別人口推移と高齢化率


 

15歳~64歳までの生産年齢人口は、ピークの1995年には8,717万人でした。

その後低下し2015年には7,682万人と1,035万人も減少しました。

2030年には6,773万人(2015年に対し-909万人)、2050年には5,001万人(2015年に対し-2,681万人)まで減少します。

全人口のうち65歳以上の人口が占める割合(高齢化率)は、現在の26%が、2050年には39%、2100年には42%にまで上昇すると言われています。

つまり高齢者の割合は現在の1.5倍にもなります。

これは先進国で最も高い値です。
 

主要国の高齢化率の推移

主要国の高齢化率の推移


 

しかし他の国も2050年までに高齢化率は上昇し、現在の日本の26%を上回ります。

原因は、合計特殊出生率(出生率)の低下です。
 

合計特殊出生率と出生数

合計特殊出生率と出生数


 

ただし、先の人口低下のグラフは出生率が現状のままであればという前提です。

出生率が変われば、以下のように人口は変化します。
 

 

長期的な人口の推移と将来推計

長期的な人口の推移と将来推計


 

出生率が現状とほぼ同じ1.34程度の中位推計の場合、2110年には人口は4,286万人になります。

出生率がさらに低下し、1.1にまで低下した低位推計では、2110年に人口は約3,000万人、

逆に出生率が1.6にまで回復した高位推計では、人口は6,000万人、

出生率が人口置換水準2.07にまで回復した場合、9,136万人になります。
 

超長期的な人口の推移と将来推計

超長期的な人口の推移と将来推計


 

実は、日本の人口は江戸時代後期から明治維新にかけては3,000万人代でした。

その後急速に増加し、1945年の敗戦時は7,200万人でした。

2100年には、この明治維新前後の人口に戻ってしまいます。
 

2 人口問題への対処が遅れた原因

 

日本の少子高齢化が後手に回った背景には、人口問題の歴史的な変化があります。

つまり、つい30年前までは人口増加が最大の課題でした。
 

18世紀 人口制限しなければ、人口は幾何級数的に増大(マルサス)
【人口増加が問題】

1918年 米騒動

1927年 人口食糧問題調査会が増加する人口に対し海外移住を検討

1937年 日中戦争勃発 過少人口論「産めよ、殖やせよ」
【人口増加が国策】

1947年 第一次ベビーブーム 人口抑制論高まる
【人口増加が問題】

1948年 優生保護法により人工中絶が合法化

1955~1964年 年金制度と高齢者福祉が最重要課題

1975年 出生率が人口置換水準2.07を下回る。

1980年代 出生率の急落
【人口減少が問題】

1988年 人口問題審議会が少子化問題を取り上げる。

1990年 合計特殊出生率が1.57となる。「1.57ショック」

2001年 森首相 施政方針演説で少子化対策を重点課題に。

2005年 出生率が1.26にまで低下。
 

2008年 人口がピークアウト

2014年 増田レポート「2040年自治体の半分が消滅」
【地方消滅問題】

(1) 人口増加が課題

 

人口問題については、戦前には過大から過少へと激しく振れました。

そして戦後は一貫して人口増加が問題と考えられていました。

また世界的には今でも増加する人口が大きなリスクと考えられています。

そのようなムードから、日本では、1975年に出生率が人口置換水準を下回り、人口低下が始まっても、深刻な問題ととらえていませんでした。

また、現実の人口がしばらく増加していたことも、対応が遅れた原因です。
 

(2) 年金制度問題

 

1960年代は、高齢者人口の増加に対応するため、年金と高齢者福祉が重点課題でした。

1961年には国民年金法(保険料の徴収)が適用開始され、国民皆年金制度が確立されました。

その後、1985年に基礎年金制度が導入され、現在の年金制度の骨格ができました。
 

3 地方の課題

 

1960年代 ベビーブーム世代が就職年齢に達し、農村部から三大都市圏に集団就職し、都市部の人口が増加
【三大都市圏に集中】

1970年代 消費者の持ち家志向と住宅市場の振興のため郊外の宅地開発が活発に。三大都市圏の近郊に分譲住宅を開発

モータリゼーションが発達し、地方では公共交通機関のない地域でも分譲住宅を開発
【郊外の開発】

1980年代 貿易黒字対策と内需拡大のため、地方への公共投資が増加自治体規模に合わない公共事業が増加「ハコモノ」行政
地方債を発行し自治体が下水道などインフラ整備に投資
【地方の公共事業の増加】

1988年  ふるさと創生事業で各自治体に1億円給付

1990年代 地価高騰により、マンション需要が増加

2000年 大規模店舗法廃止、大型ショッピングモールが隆盛、商店街の衰退が加速

2006年 平成の大合併により3,232あった自治体が、1,820に減少
【地方財政の悪化】

2007年 夕張市が財政再建団体に指定、実施的に財政破綻

2014年 増田レポート「2040年自治体の半分が消滅」

三大都市圏への人口集中と持ち家推進のため、郊外の宅地開発が発達しました。

さらにモータリゼーションの発達と郊外の大規模ショッピングモールの発展により、商店街や小規模店が消えて行きました。
 

郊外の発展と公共事業の投資により、自治体の担当範囲が拡大し、財政負担が増加しました。

人口減少と地場産業の衰退により夕張市が財政破綻し、他にも大阪市など破たん寸前の自治体も少なくありません。
 

(1) 「地方消滅」増田レポートの衝撃

 

増田レポートとは、2014年5月、元岩手県知事で元総務大臣の増田寛也氏が「日本創生会議」で発表した報告書です。

2010年の国勢調査から推計した結果、2040年には896の自治体が消滅する可能性が高いことがわかり、全国の自治体関係者に衝撃が走りました。
 

原因は、東京への一極集中が続き、地方の若者が移動するためです。

東京圏は1960年代から一貫して人が集まり、戦後からの累計では1,147万人の若年人口が地方から東京圏へ流出しています。

しかし東京の出生率は1.13と、全国平均の1.43より大幅に低く、若者が来ても子供は増えず、東京の高齢化は進行しています。
 

地方は若者がいなくなり、今後は高齢者すら減少するため、人口は大幅に縮小します。

そして必要な行政サービスを提供できる下限の人口1万人を割り、自治体が存続できなくなります。
 

増田レポートの目新しい点は、今までは日本全体の人口減少、少子化が議論されてきましたが、地方に目を向けたことと、その結果、より深刻な問題があることを提言した点です。
 

出産・子育てに関する東京の問題は以下の4点です。
 

  1. 住居、通勤、保育などの環境が地方より悪い。
  2. 出産に伴い退職せざるを得ないケースが多い。
  3. 晩婚化が進み、30代後半で一人目を出産すると年齢的に2人目以降をあきらめる。
  4. 教育費が高い。

 

(2) 政府の「まち・しごと・創成本部」

 

増田レポートを受けて、政府は「まち・しごと・創成本部」を創設し、「地方創生」と「少子化対策」に取り組んでいます。

  • 地方移住の推進
  • 若者の正社員化促進
  • 結婚・出産・子育て支援
    目標1 : 2025年までに合計特殊出生率=1.8
    目標2 : 2034年までに合計特殊出生率=2.1
  • 小さな拠点形成(都市のコンパクト化)
  •  

    政府の政策案はちょっとわかりにくいので、増田氏の著作から彼の提言を見てみます。
     

    1. ITの駆使とサービス産業の生産性向上 地方での雇用創出
      ITを活用して、地方でも仕事ができるような環境をつくる。
    2. 世界的ローカルブランド「匠の技」の創出 地方のものづくりを海外に発信
      燕市などのように地域の中小企業の技術をブランド化して、海外と取引する。
    3. 街のブランド化(世界オンリーワン)病院中心の街やロケの街など
      地方の都市にユニークな特徴を持たせて、人を呼び込む。
    4. 地方の暮らしやすさを発信 都会と異なる価値観の提供
    5. 圏内2地域居住でIターン・Uターンの間口を広げる
      両親が山間地に住んでいる人に、まずその近くの中核都市に移住してもらい、週末に両親のもとに通えるような環境を作る。
    6. スーパー広域合併(30万人都市構想とコンパクトシティ)
      地方に30万人規模の中核都市を重点整備し、人や都市機能を集約する。
    7. アクティブシニアCCRC(Continuing Care Retirement Community)地方への移住
      60代の元気なシニアの地方への移住の推進
    8. 3人目以降の子供に現金給付

     

    先に述べた地方の歴史から考えると、二つの課題が見えてきます。

    • 内需拡大、持ち家政策推進のため、無秩序に広がった郊外の住宅地が、人口減少社会に突入し、人の密度が減少するため、行政サービスのコスト負担が過大となる。
    • 内需拡大のため、地方債を発行して肥大化し危機的な状況にある地方財政を、中核都市に人を集中することで立て直す。
    •  

      (3) 増田レポートに見る国の指向

       

      岡田知弘・京都大学経済学部教授は、増田レポートが「道州制に向けたステップ」であり、「周到に準備された」と指摘しています。

      増田レポート発表の前に、増田氏と菅義偉官房長官は事前にすり合わせを行い、発表に先立って、メディア関係者に消滅可能性がある自治体のデータを事前送付しています。

      地方紙の多くがこのデータを1面トップに掲載したことで、自治体消滅、地方消滅をめぐる議論は一気に加熱しました。
       

      このタイミングでレポートを出した狙いは、大きく2つはあります。

      ひとつは、増田レポート発表1週間後の2014年5月15日に発足した第31次地方制度調査会の雰囲気づくりです。

      実際、ある委員からは「道州制を見据えた議論を展開すべきではないか」との提言が出て、畔柳信雄会長は「自然に道州制の議論にもなる」と記者に答えました。
       

      もうひとつは、2015年度から開始される国土形成計画「国土のグランドデザイン2050」を推進し、社会資本投資の「選択と集中」を進めるためです。

      人口30万人規模の「高次地方都市連合」の形成や、集落再編の手段として「小さな拠点」構想が盛り込まれました。

      では、これまでの日本の地方活性化策はどこに問題があり、安倍首相は「地方創生」の先に何を目指しているのでしょうか。
       

      (4) 増田レポートへの批判

       

      ・東京への一極集中は経済的な合理性

      増田レポートでは、首都圏の大地震のリスクから、東京一極集中を止めることを提言しています。

      しかし人口が密集する地域に人が集まるのは、仕事や生活の利便性などの経済的な合理性があるからです。

      「規模の利益」を考えると、各地域の人口が均等に減少した「広く非効率な社会」よりも、人口が集積する地域に集まって暮らす方が効率的です。

      東京一極集中に歯止めを掛けるという考え方が、経済的な合理性に反していれば、結果としてうまくゆかないかもしれません。
       
       

      ・本質は地方消滅ではなく、「地方自治体の破綻」

      数々の地方都市の街づくりのプロジェクトにかかわる、木下斉(きのした・ひとし)氏は、「地方消滅という言葉が一人歩きしている」と指摘をしています。

      木下氏の主張は以下のようなものです。
       
      「地方消滅」の議論では、

      • 地方そのものの衰退問題
      • 地方自治体の経営破綻の問題
      • 国単位での少子化問題

      この3つが全て混在して取り扱われている。
       

      東京から地方へ人口が移動すれば、地方が活性化し地方自治体も存続、少子化も解消することになっているが、そんなに簡単ではないと言います。

      つまり消えるのは、「地方そのもの」でなく「今の単位の地方自治体が、今のまま経営していたら潰れる」ということです。

      つまり、地方消滅ではなく、「地方自治体の破綻」です。
       
       

      「自治体は、人口減少より先に財政破綻の問題と向き合う必要がある」と木下氏は主張します。

      財政非常事態宣言を解除できていない自治体は全国に存在しています。2040年を待たずに、財政問題のために自治体が消滅するかもしれません。

      それは今までの地方政策と自治体運営のミスが原因です。
       
       

      ・根拠と処方箋が問題

      「地方自治体が今のままでは破綻する」という警告は重要ですが、その根拠と処方箋に問題があると木下氏は主張します。

      人口問題だけではなく、政治・行政の運営・経営にも問題があるからです。
       

      人口問題については、地方から考えるのではなく、大都市部の出生率問題と向き合うべきです。

      日本より人口が少ない国でも公共サービスを立派にやっている国はあるわけですから、できないはずはありません。
       

      国のモデル事業に取り組んで、幸せになった地域がどれだけあるのでしょうか。

      せっかく地道な努力を行って成果を出していた取り組みが、ある日、国からの莫大な予算を与えられ、そのために潰れてしまった事例すらあります。

      「地方創生」に必要な方法論は、意識的に国からの支援や方法論から出来る限り自立して、人口の縮小と向き合い、それを打開しようとしている地方にこそあると木下氏は主張します。
       
       

      また、前出の岡田知弘・京都大学経済学部教授は、増田レポートの問題を以下のように述べています。

      ・増田レポートのデータ分析の方法
       

      このシミュレーションは「東京への人口の一極集中が続く」という前提に立っているが、その根拠となっているのは、2005年から2010年の間の人口移動率から算出した20~39歳の女性の減少率です。

      中長期的な人口移動をみると、人口が東京に集中する時期には波があります。

      そのため、シミュレーションの際は一般的には中間値をとりますが、増田レポートでは最大値がとられています。
       

      ・地道な取り組みを無視
       

      東日本大震災(2011年)後に活発になった、若者の「田園回帰」について考慮されていません。また一部の自治体が取り組んできた取り組みも考慮されていません。

      実際には一部の過疎地域では、移住サポートや医療・教育支援により人口増加に転じた自治体もあります。

      この分析だけで、自治体消滅の可能性を言うには無理があるのではないかと岡田氏は主張します。
       

      ・20~39歳女性の半減という偏った指標
       

      自治体を構成しているのは、若い女性だけではなく、ほかの年齢層の女性や男性もいるのに、20~39歳女性が半減するという推計だけでは自治体の「消滅」を判断できないのではないでしょうか。

      このように無理な推計を基にするから「東京都豊島区が消滅する」などという笑い話のような結果が出てくると岡田氏は言います。
       

      ・道州制の布石
       

      安倍首相がその先に見据えているのは「道州制」の導入です。

      現行の都道府県制を廃止し、10程度の州と州都を置き、基礎自治体も人口30万人程度にくくり直す構想です。
       

      そして

      • 国は外交、軍事と通商政策
      • 州政府は経済開発や公共事業、高等教育政策
      • 基礎自治体は住民の生活に近い初等教育や医療、福祉を担う

      という「役割分担」を図ります。
       

      (5) 増田レポートが指摘しなかったこと

       

      ・起きなかった第三次ベビーブーム
       

      実は国が人口問題に対して後手に回ったのは、団塊世代ジュニアによる第三次ベビーブームを想定していたからです。

      ところがバブル崩壊後の日本で第三次ベビーブームは起きませんでした。
       

      ・少子化の原因は非正規雇用の増加
       

      人口減をもたらす最大の要因は少子化です。

      その大きな原因が非正規雇用の増加と、前出の岡田氏は言います。

      2010年の内閣府調査によれば、非正規雇用の20~30代男性の既婚率は6%に満たない状況です。

      非正規雇用は、地方より東京・大阪などの大都市圏に多く、これを解決しない限り少子化問題は改善されません。
       

      ・製造業の撤退が招いた地方の衰退
       

      地方の中核都市には、大手企業の1工場が多くの従業員を雇用し、地域経済が成り立っている都市が多くあります。

      また自治体は地域を活性化させるため、積極的に企業誘致を行ってきました。
       

      例 亀山市のシャープ液晶工場

      しかし業績不振や環境の変化により、工場が海外へ移転したり工場が閉鎖されると、その街の雇用や経済は大きな影響を受けます。

      あるいは増田氏が指摘するように、米軍も利用している三沢飛行場がある青森県三沢市、原発施設がある青森県六ヶ所村などは、所得の高い、若い人たちの雇用の場があるため消滅可能性が低い自治体となっています。
       
       

      ・優秀な人材の東京集中の流れ
       

      地方の成績優秀な若者は、高校、又は大学進学を機に大都市に移住します。

      高度な教育や環境を提供できる大学は限られ、多くの若者が東京の大学に進学します。

      その結果、就職の際に東京、又は東京に本社のある企業に就職します。

      特に安定志向の若者は、大企業や官公庁への指向が強く、ますます地方への回帰が減っているのではないかと考えられます。

      また地方の中堅企業は、東京では知名度が低く、高い技術や安定した経営の企業でも、人材の確保に苦労しているのが現状です。
       
       

      ・優秀な人材の争奪戦が始まる
       

      現在日本の景気は回復基調にあり、今後東京オリンピックなどのイベントのため、需要が拡大すると予測されます。

      また日本政策金融公庫によれば中小企業の業況判断は、2014年10月~12月期は16.9でしたが、1年後の2015年10月~12月期は26.8と大きく改善しています。

      若者の数が減っている上、優秀な子供は東京の大学に進学します。

      知名度の低い地方の企業にとって、優秀な人材の獲得はより困難になり、人材の獲得競争が激化すると予測されます。
       

      高等教育の入学者数

      高等教育の入学者数


       

      すでに少子高齢化の影響により、若者の人口は大幅に減少し、今後も減少が続きます。

      しかも若者は大手企業や官公庁など安定志向が強く、中小企業の採用は非常に苦戦しています。

      一方今後は単純労働の製造業は海外に移転し、ルーチンワークの事務作業はコンピューターに置き代わり、より創造的な仕事が人に求められるようになります。

      このような時代、いかにして意欲的な若者が来るような環境をつくるか、企業の競争力に大きな影響を与えるようになります。

       
       

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