危機がなければ、イノベーションは起きない?「成功の罠」から抜け出す方法

最近読んで非常に面白かった本です。

「ヤバい経営学」フリーク・ヴァーミューレン著 東洋経済

 

この本は、優良企業が成功した要因ではなく、なぜ優良企業がダメになってしまったのかを分析した本です。

その結果、世間で言われている良い経営・良い経営者が、実はそれほどのものではないのではなかったというアンチテーゼを提言しています。

成功の要因は様々で、他社の成功事例はあまり参考になりませんが、失敗した要因はどの経営にも共通しますので、失敗を調べることは非常に参考になります。

そういう点でも、異色の経営の書として、とても勉強になります。

その「ヤバい経営学」から、「成功の罠」について

 

なぜ優良企業が失敗するのか。

優良企業として成功した会社が、その後のビジネス環境の変化にうまく対応できずに、ダメになっていくことは少なくありません。

1966年にアメリカの大企業ランキング「フォーチュン100」に載っていた企業のうち、現在も生き残っている企業はたった19社しかありません。

これが「成功の罠」と呼ばれる現象です。

 

以下、「ヤバい経営学」から引用

優良企業であっても、新規参入企業の登場、顧客が求めるものの変化、全く新しい技術やビジネスモデルの開発など、新たな局面に正しく対応できていないのだ。

優良企業は長期にわたって、自社の競争力の源(製品、サービス、生産方式など)に注力し、結果的にその強みにますます磨きをかけていく。

しかしこのやり方は、それ以外の製品やプロセス、考え方といったものを、おろそかにしたり、または捨てたりするという犠牲を払っている。

結果として、会社は一つのことには大きな強みを持つが、それ以外はすべて失う。

もちろん会社の経営環境が変わらなければ、このやり方に問題はない。

もっとも、ほとんどの業界では、まさにこの環境の変化が起きるのだが…。

引用ここまで

 

その結果、本書では、ホンダの小型バイクに駆逐されたハーレーダビッドソン、

ラジアル化の波になり遅れたファイアストン、

他にもディジタル・イクイップメント(DEC)、タッパーウェアなど

一時は市場を支配していたのに、成功が続かなかった企業を挙げています。

これは、優良企業の経営者は、環境が大きく変化しても、それに十分に対応する事ができず、結果として市場を失っています。

これを本書では、「視野狭窄」と呼んでいます。

 

つまり会社が大成功していたら、経営者は変化するところを見たくないため、他社が採用し始めた新技術を敢えて見ないようにします。

あるいは、本書ではあまりにも強い成功は、他のビジネスへの取組が色あせて見えるとも警告しています。

 

これをクレオソート・ブッシュと呼んでいます。

このクレオソート・ブッシュは、砂漠に生息するハマビシ科の植物で、周囲に他の植物が生えないように、土壌に毒の成分を放出しながら繁殖します。

クレオソートブッシュ

 

つまり、あまりに成功した製品があると、他のビジネスはすべて収益性が低く、色あせて見えてしまい、その結果、他のビジネスに取組まなくなってしまうのです。

 

これは、「イノベーションのジレンマ」で、C・クリステンセンも述べています。

成功した企業は、その成功を持続させるために、製品の改良に注力します。

その結果、市場シェアは上昇し利益が向上します。

一方、イノベーションは、その製品とは別の種類の製品で起きます。

それは、始めは成功した製品にはとても及ばない低い性能ですが、それまでの製品にない特徴を持っています。

そしてそれが、やがて市場を席巻し始め、成功した製品を市場から駆逐してしまうのです。

 

例えば、かつて北米市場を支配していたオートバイは、ハーレーダビッドソンやトライアンフなどの大型バイクでした。

当時ホンダがそれらに対抗して輸出したオートバイは、性能の上でとてもかなわず、北米での販売は大変苦戦していました。

その時、ホンダの社員が移動用に使用していたスーパーカブに人気が出ました。

そこで「The Nicest People on a Honda」というキャンペーンをして、大ヒットしました。

nicest people on a

 

ハイウェイを長時間疾走するハーレーダビッドソンやトライアンフに比べ、スーパーカブは短距離の移動しかできませんでした。

しかし、大型バイクの「不良」のイメージに対して、

「善良な市民の乗り物」というイメージで、

ホンダは市場に浸透しました。

次に小型のオフロードバイクを北米に輸出し、スポーツとしてのオートバイというカテゴリを創り出し、遂には北米市場を席巻しました。

 

これも、イノベーションといえます。

 

成功した企業が、脅威となるべきイノベーションを無視して、従来の事業に邁進するのは、経営者が「成功の罠」に陥っているからであると、「ヤバい経営学」の著者のフリーク氏は述べています。

私は、この原因が経営者だけでなく、組織全体が「成功の罠」に陥っていると思います。

 

例えば、私は以下のような経験をしました。

私がかつて属していた企業は、電子部品組立機(チップマウンター)を製造・販売していました。

この装置は、パソコン、携帯電話などの電子機器には欠かせない回路基板を製造する装置です。

電子部品の進歩はめざましく、チップマウンターもそれに合わせて、日進月歩で進化しなければならず、非常に競争の激しい業界でした。

このチップマウンターは、1990年代は大型かつ高価だが、非常に高速で生産できるロータリー型と呼ばれる装置が市場を席巻していました。

私が属していた企業も、その製品ではトップシェアを競っていました。

 

ところが1990年代半ばから、ややスピードの遅い小型の装置を多数使用して、ロータリー型と同じ生産量を達成するモジュール型と呼ばれる製品が出現しました。

モジュール型が徐々に市場に浸透したとき、私のいた企業もモジュール型の開発に何度も取組みました。

ところが、

「モジュール型を大々的に発売すると、稼ぎ頭のロータリー型が売れなくなる」

と社内の反対に何度も遭遇しました。

 

つまり経営者だけでなく組織全体が、イノベーションに抵抗していました。

最終的には、ロータリー型が全く売れなくなってから、あわてて新たなモジュール型を開発・発売し、なんとか市場にとどまることができました。

このような危機的状況でも起きないと、従来の製品を捨てて、イノベーションを起こすのは非常に困難でした。

 

むしろ危機があるからイノベーションが起きるといえます。

 

例として、「ヤバ経営学」ではインデペンデント紙について述べています。

以下、「ヤバ経営学」から引用

その頃、イギリスの高級紙は大きな問題を抱えていた。

新聞各社は本格的にインターネットでニュースを報道していたし、「メトロ」のような無料新聞が市場にあふれていた。

さらに悪いことには、人々は新聞をあまり読まなくなってきていた。

ロンドンの四大新聞である「ガーディアン」「タイムズ」「デイリー・テレグラフ」「インデペンデント」の各紙はいずれも業績が悪化していた。

その中でも、インデペンデント紙が一番苦しい立場にいると考えられていた。

その他の新聞は富豪のオーナーのおかげで余裕があったが、インデペンデント紙は数年に及ぶ価格競争で、破綻寸前だったのだ。

そのときにインデペンデント紙は、ほとんどの会社が同様に状態であるならば、きっとやるであろう対策もできたはずだ。

それは状況を嘆きながら、コストをさらに切り詰めて、避けられそうな倒産を少しでも引き延ばす、といったものだ。

しかしインデペンデント紙はそういう選択をしなかった。

 

同紙は小さなサイズの新聞を始めたのだ。あの評判の悪い、タブロイド判(コンパクト判)サイズである。

長い間、新聞各社は小さいサイズの新聞の可能性について議論を続けてきた。

しかし誰もが、顧客がそっぽを向く危険が強すぎる、あるいは安物に見えるという理由で採用しなかった。

しかし、インデペンデント紙はそれを始め、そしてうまくいった。

顧客は小さなサイズの新聞を気に入った。

そして、同紙は生き残ったのだ。

引用ここまで

 

イノベーションを起こすことが、成功した企業ほど如何に大変か、自分の経験からも実感します。

しかし、今大変厳しい状況にある日本の大手メーカーは、イノベーションが起きる条件が揃っています。

ぜひ、それらの企業の優秀な技術者が、画期的な製品を出して欲しいと思います。

多くの人は、ぜひ応援したいと思っていますから。

 

ホンダのイノベーションについては、こちらから参照いただけます。

 

 
 

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