ISO9000とは何者か? 2015年の大改定とともに考える その3
この度、ISO9001 2015年版と、ISO14000 2015年版が発行され、
2年間の移行期間を経て、2015年版への対応が求められています。
この2015年版では、今までの2008年版と異なり、
マネジメントシステムの評価だけでなく、
企業経営の中身にまで踏み込んだ内容となっています。
今、なぜISOが企業経営の中身にまで入り込むのか?
そもそもISOとは何なのか?
前回まで2回に渡り、ISOの成り立ちと、マネジメントシステムとコア業務との関係について述べました。
ISO9000とは何者か? 2015年の大改定とともに考える その1マネジメントシステムについて
ISO9000とは何者か? 2015年の大改定とともに考える その2 マネジメント活動とコア活動
本コラムでは、今回の改正の概要とその真意、そして改正の問題点について述べます。
ISOの認証は圧倒的にアジアが多い
ISO9001は、海外の規格なので
アメリカやヨーロッパの多くの企業が
認証を取得していると思っていました。
実は、企業数から意外な事実が分かりました。
ISO(国際標準化機構)は
2009年12月7日、2008年末時点でのISOマネジメントシステム規格の
世界の認証取得数を公表しました。
ISO9001 | ISO14001 | ||
---|---|---|---|
中国 | 224,616 | 中国 | 39,195 |
イタリア | 118,309 | 日本 | 35,573 |
スペイン | 68,730 | スペイン | 16,443 |
日本 | 62,746 | イタリア | 12,922 |
ドイツ | 48,324 | イギリス | 9,455 |
イギリス | 41,150 | 韓国 | 7,133 |
インド | 37,958 | ドイツ | 5,709 |
アメリカ | 32,400 | アメリカ | 4,974 |
フランス | 23,837 | スウェーデン | 4,478 |
韓国 | 23,036 | ルーマニア | 3,884 |
ISO9001のトップは中国で、2位はなんとイタリアでした。
そして日本は6万2746社でなんと4位です。
でも随分少なく感じます。
日本の製造業の企業数は66万3千社、
従って全製造業の1割程度しか認証取得していません。
また、アメリカは日本の半分程度です。
さらにISO14001は欧米の企業がさらに少なくなります。
このようにISOの認証取得は、欧米よりも中国や日本のようなアジアの企業の方が多く、ISO(国際標準化機構)にとって、アジアはとても良いお客さんです。
つまり欧米で生まれた品質マネジメントシステムは、主に中国、インド、日本などのアジア企業に導入されているのです。
減少する認証取得企業数
ところが日本では、認証企業数が減少しています。
この図では、2007年にピークを迎え、2008年から徐々に減少しています。
これは過去に認証取得した企業が更新しなくなっているのです。
これは認証取得し、実際に運用してみると、ISOの効果に疑問がもたれるようになったからです。
その原因として、
- ISOを導入して何年も経過して、活動がマンネリ化・形骸化し、社員にとって余分な仕事になっている。
- 審査での指摘事項が規格に対する適合性のみであり、審査を受けても役に立たない。
- ISOを導入して特に大きな不良や問題がないのにもかかわらず、審査費用が高い。
また高額な審査費用を嫌って、審査を受けない企業も出てきました。
あまり知られていないのですが、ISOは必ず審査を受けなければならないわけではありません。
自己適合宣言と言って、ISOに適合していることを自ら宣言する方法があります。
海外は、自己適合宣言の割合は日本より高いと言われています。
今回の大幅改正の内容
このような背景から、今回、より役に立つISOを目指して、大幅な変更が加えられました。主な内容は
- 現状分析・課題の明確化
- プロセスアプローチの強化
- リスクベース思考の採用
- パフォーマンス重視
- 経営環境分析・事業環境分析
以下に詳細を解説します。
現状分析・課題の強化
ISOは従来マネジメントシステムと言いつつも、品質に限定していました。
マネジメントシステムの主眼は、経営の改善であり、その主目的は売上げや利益の増加であるはずです。
しかしISOは今までそういった経営部やとは無関係でした。
しかし2015年版の改正では、中期経営計画や方針管理と、品質マネジメントシステムとの一体化を目指しています。
そして品質マネジメントシステムの課題に、売上や利益などの経営課題も含めることを目指しています。
(含めないようにすることも企業自身が選択できますが)
現状分析や課題を強化した理由は、品質方針や品質目標が企業の事業活動とかい離し、審査のためだけになっている企業が少なくないからです。
ダブル・スタンダードをなくすために、経営管理と品質マネジメントシステムとの一体化を図っています。
プロセスアプローチ
品質を高めるためには、結果だけを管理しても効果はなく、製造工程自信を改善する必要があります。
トヨタ生産方式では、「品質は工程で造り込む」という考え方を取っています。
検査で不良品を排除するのではなく、検査結果を製造工程にフィードバックし、製造品質を高めて、検査をなくすことに努力します。
プロセスアプローチとは、この考え方そのものです。
これは2008年版から取り入れられていましたが、2015年版ではより一層強調されました。
ISOでは、プロセスのインプットとアウトプットを明確にし、プロセスがうまく行っているかどうか、指標を決めて、監視します。
問題があれば改善するPDCA(Plan-Do-Check-Actionのサイクル)の構築が求められます。
この回の改訂では、品質マネジメントシステムが「プロセスを効果的に改善しているかどうか」を評価することが強化されました。
つまり改善の仕組みがしっかりとできていて、その効果が高いか確認しなければなりません。
リスクベース思考
今回の改訂では、新たにリスクベース思考が導入されました。
そのため、リスクの洗い出しと評価、その対策が必要です。
製品およびサービスの適合性、顧客満足度を向上させる能力に影響を与えるリスク、及び機会が明確化され、対処されていることが求められています。
BCP計画(事業継続計画)が策定されている企業はそのまま利用できますが、BCP計画が企業はリスクアセスメントからやらなくてはなりません。
パフォーマンス評価
今回の改訂で新たに「パフォーマンス評価」が追加されました。
パフォーマンス“performance”とは、日本語では「業績、実績、性能、履行」などの意味があります。
ISO9001では『達成度が判定可能な結果』という意味があります。
正直言って、どのような意味にも取れる日本語であり、審査員の解釈により様々な考え方ができるため問題となりそうです。
この意図するところは、マネジメントシステムが経営面にまで踏み込んでいくことです。
今まで、実際の品質がどれだけ悪くてもISO9001は認証できました。
ISOは品質のマネジメントシステムの認証であり、品質そのものを認証しているわけではありません。
ISOは、PDCAにより改善を継続することが求めていますが、改善の程度は企業が独自に決める事ができます。
品質が悪く、改善が進まなくても、マネジメントシステムさえあれば、ISO9001認証の看板を掲げることができます。
しかしこれは、顧客から見て納得できるものではありません。
そして、このような実態であれば企業は、費用をかけて品質マネジメントシステムを導入しようという意欲がなくなります。
そこでパフォーマンス評価を行い、品質を向上させる仕組みを積極的に構築することが追加されました。
このパフォーマンスは、品質だけでなく、経営課題全般が含まれます。
よく企業に、ISOの要求するマネジメントレビューために、わざわざ品質会議を開催する必要はなく、経営会議に品質の一項目を加えることを勧めてきました。
あるいは、経営の視点においては、コストも納期も品質です。
従って、生産会議やコストダウン会議もマネジメントレビューになります。
経営環境分析・事業環境分析
自社の組織の中で、品質マネジメントシステムの対象とする組織は、組織の外部・内部の課題を明確にし、監視・レビューすることが追加されました。
内部要因と外部環境分析は、SWOT分析のようなツールがあります。
他にも、細かな変更は多々あり、品質マニュアルの修正が必要です。
それらについては、改正に関する書籍やウェブサイトをご参照ください。
やった方がよいことと、本当にやるべきこと
このように見ると、いずれもやれば良い事ばかりです。
しかし、コストをかけて行うべきものかどうかは別の問題です。
特にリソースの限られる中小企業は、その工数が本来の業務に大きな影響を及ぼします。
かつての多くの審査員が、受審企業の規模を無視して、大企業が行うような理想的なシステムを要求し、不評を買いました。
本来は、中小企業の規模に合ったやり方を工夫しなければならないのですが、そのような意欲や力量のない審査員もいました。
今回の改訂で、新たな要求事項が追加されましたが、規格の要求するところをクリヤする最低のやり方を良く考える必要があります。
その点で、パフォーマンスのような、どうとでも解釈できる用語は困りものですが…。
ISOの限界
ここで問題が予想されるのが、品質マネジメントシステムの認証を受けるのに、経営の中身まで審査員に見せる必要があるのかという点です。
特に大企業では、社員にも見せていない経営管理の部分を見せるのは困難ではないかという気がします。
私がかつていた組織では、おそらく「ISOは品質をよくするために導入したのだから、そのことに専念すれば良い。経営は我々の問題だ。」ということになると思います。
つまりパフォーマンスは、品質に限定した方が現実的ではないかという気がします。
つまり「経営に役立つISO」より、「品質向上に効果のあるISO」であるべきではないでしょうか。
ひょっとするとISOの事務局は、品質を高めるには経営全般にまで踏み込んで、目標を設定し、改善活動を行う必要があると考えたかもしれません。
それは大手コンサルファームが、マネジメントシステムから経営戦略にまで踏み込んで取り組んでいることをイメージしたのでしょうか。
企業がそこまでオープンであれば、経営に役立つISOとなるかもしれません。
そうでない場合、無理に経営にまで踏み込めば、ダブル・スタンダードがより一層ひどくなる可能性があります。
企業にとってISOのメリット
では、このようなISOは企業にとってメリットは何でしょうか。
マニュアル化の効果
ISOは、多くの業務にマニュアル化を要求します。
このマニュアルは、従来の正社員主体の現場ではなくてもよかったのかもしれません。
しかし、外国人研修生や派遣社員、さらに昨今の若者の正社員など多様な人材がいる組織には、マニュアルは大変効果的です。
不良の対策や是再発防止が強制的に行われる
不良が発生すると、発生原因の追究や対策が、不適合品対策書などの文書に基づき行われます。
この文書は、最後まで処置を行わないと完結しません。
また完結せずに放置しておくと、監査で不適合となります。
その結果、不良対策が確実に行われるようになります。
私は、ISOの最も良い点のひとつと考えています。
教育が確実に行われる
スキルアップのための教育は、ISOでは力量の評価と訓練計画の策定が求められます。
そのため、毎年教育訓練計画を作成し、確実に行うようになります。
これは要員のスキルを高め、組織全体の能力を向上します。
顧客要求や法規制を確実にクリヤする
設計では、インプットレビューにより顧客の要求を確認し、それに基づき設計を行うことで漏れや抜けがなくなります。
また設計結果に対し設計検証を行い、顧客の要求や法規制を満足しているか評価します。
これにより顧客の要求を満たし、法規制をクリヤした製品ができます。
ただし、この設計での評価は、設計検証と妥当性確認の2つがあります。
従来の設計活動にその区別がなく、多くの企業で混乱を招いています。
この設計検証と妥当性確認について、別の機会にお伝えします。
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