原価と見積の疑問 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 数人の会社から使える原価計算システム「利益まっくす」 Wed, 28 Feb 2024 06:03:53 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.5.3 https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/04/riekimax_logo.png 原価と見積の疑問 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 32 32 【原価と見積の疑問】3.イニシャル費の回収はどうすればいいのか? https://ilink-corp.co.jp/9604.html https://ilink-corp.co.jp/9604.html#respond Wed, 17 Jan 2024 02:40:22 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=9604 No related posts. ]]>  
変動費と固定費、全部原価計算と直接原価計算について【原価と見積の疑問】2.直接原価計算の方が良いと言われたが?で述べました。

製品を新たに立ち上げる際、金型や治具が必要なことがあります。

金型や治具の費用は生産開始に先立って発生するため「イニシャル費」と呼びます。生産開始前に設計やプログラムを行う場合、これもイニシャル費です。

このイニシャル費について

  1. 生産立ち上げまでの手順
  2. イニシャル費の回収方法
  3. 時には金型は別の事業部にする

この3点を述べます。
 

1.生産立ち上げまでの手順

 
部品の立ち上げに金型が必要な場合の生産開始までの流れを図4-7-1に示します。
① 生産開始前に、顧客は部品メーカーに金型を発注
② 金型完成後、顧客は金型費用を部品メーカーに支払う
  金型は納品せず部品メーカーに置いておく
③ 部品メーカーは顧客から金型を「預かって」部品を生産する
④ 金型は顧客の資産

図1 量産開始までのプロセス

金型の費用は②で最初に支払います。金型は発注先の資産です。

ところが金型の費用を金型費として払わず、発注する部品の価格に金型費用分を上乗せして支払うことがあります。金型は部品メーカーの資産になります。

この場合は、金型代を部品代から確実に回収する必要があります。これがイニシャル費の回収です。
 

2.イニシャル費の回収方法

 
金型費用を部品価格に上乗せして回収する場合、上乗せする金額は回収期間とその間の生産数から決めます。

図2に樹脂成形B社がある製品の生産を開始する場合の金型費と部品代を示します。

図2 金型代を部品価格に上乗せして支払う場合

この製品の受注は2年間で240万個の見込みです。1個当たり1円上乗せすれば2年間で金型費240万円が回収できます。

金型の法定耐用年数は2年なので、2年の間に減価償却も完了します。

しかし生産開始1年でこの製品は生産中止になりました。1年間で回収できた金型費は120万円、残り120万円は回収できていません。

この場合120万円は顧客に別途「金型補償代」として請求します。

図3 途中で生産中止になった場合

このイニシャル費の回収不足を発見するためには、生産開始からの累計生産量を記録して、いつ240万個に達したのか監視しなければなりません。

一見簡単なようですが、部品メーカーは多くの種類の部品を生産しています。受注量も毎月変動します。これを常にチェックするのは大変です。

一方、顧客も累計発注量を監視し、予定よりも短い期間で予定数量に達した場合は、その分価格を引き下げなければなりません。

このようにイニシャル費を部品価格に上乗せして回収する方法は、受注側、発注側双方に負担のかかる方法です。

つまり

  • イニシャル費を分割して回収する場合は一定期間内の累計生産量と、期間内に累計生産量に達しなかった場合の金型補償代の支払いを取り決め
  • 生産開始後は累計生産量を管理

 

3.時には金型は別の事業部にする

 
自社で金型の調達(あるいは製造)と製品(部品)の製造を行う場合、金型と製品で利益率が違うことがあります。例えば図4では

【B1製品】金型は赤字、製品は黒字
  金型費の赤字を製品の利益でカバー
  長く製造するほど利益が増える

【B2,B3製品】金型は黒字、製品が赤字
  製品の赤字を金型の利益でカバー
  長く製造するほど利益が減少

図4 製品種別の利益管理

この会社が赤字の場合、従来の財務会計(月次の利益管理、部門別の利益管理など)では、どこに問題があるかわかりません。

またB2,B3製品は、顧客が金型を自社調達に変えれば赤字になってしまいます。

こういった場合、事業毎、製品毎の利益がわかるようにします。方法は2つあります。

① 製品ごとに金型と製品の利益を管理する
② 金型と製品の事業部を分ける
 

製品ごとに金型と製品の利益を管理

 
図4に示すように、製品毎に金型と製品の利益がわかる仕組みをつくります。

ある製品は、製品は赤字でも金型が大きな利益を生んでいるかもしれません。あるいは無理な金型の使い方をしているため、金型の寿命が短くなって、利益が出ないかもしれません。

これを的確に判断するには、図4のように金型と製品を合わせた利益を管理します。 図4では、

B1製品 : 金型利益▲50万円 製品利益70万円/年
B2製品 : 金型利益 30万円 製品利益▲10万円/年
B3製品 : 金型利益 800万円 製品利益▲30万円/年

こうすれば製品毎の収益がわかります。B1製品は短期間に生産中止になれば赤字です。逆にB2、B3製品は、受注が継続すれば損失が増えていきます。
 

金型と製品の事業部を分ける

 
金型と製品を別の事業部にして、事業部毎の利益を計算します。

金型の減価償却は2年です。金型の売上はその期の売上ですが、費用は2年に分けて計上されます。

一方、製品を生産する費用は毎期計上されます。

このように金型と製品は費用と収益のタイミングが異なるため、事業部を分けた方が収益を適切に判断できます。

金型を別事業部にする場合は、以下の手順で行います。

① 金型事業と製品事業の販管費を分ける(金型事業は主に調達のみなので、販管費の比率を製品事業よりも低くします)
② 金型の調達に関わる費用を計算し、金型事業部の販管費に入れる
③ 減価償却費は金型事業と製品事業を分ける

図5に樹脂成形B社を金型事業と製品事業に分けた例を示します。

図5 金型事業と製品事業に分けた場合

図5で、決算書の営業利益は2,000万円です。成形事業と金型事業を分けた結果、成形事業は7,404万円の赤字、金型事業は9,404万円の黒字でした。

金型の調達に関わる人件費は440万円でした。この440万円、金型の減価償却費4,500万円、販管費分配656万円を金型事業の販管費としました。その結果を図5の右に示します。

この結果から、B社は成型事業で発生する大きな赤字を金型の利益でカバーしていることがわかります。

金型販売だけにすれば高収益企業になりますが、成形を行うから金型の注文が入るので、金型販売だけにはできません。

このように2つの事業に分ければ、事業毎の収益性が明確になります。

一方、金型の調達と成形事業の業務は、同じ社員が行うため、金型事業の費用を仕訳の段階で分けるのは困難です。そのため財務会計とは別に計算します。

このように場合によっては金型を別事業にすれば、事業毎の収益性を明らかにできます。
 

では収益性が低く、赤字の場合、赤字なら受注しない方が良いのでしょうか。

実は見積では赤字でも受注した方が会社全体では利益が増える場合があります。

これについては書籍「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書【基礎編】」で詳しくご説明しています。

経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

中小企業でもできる簡単な原価計算のやり方

 
製造原価、アワーレートを決算書から計算する独自の手法です。中小企業も簡単に個々の製品の原価が計算できます。以下の書籍、セミナーで紹介しています。

書籍「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」

中小企業の現場の実務に沿ったわかりやすい個別製品の原価の手引書です。

基本的な計算方法を解説した【基礎編】と、自動化、外段取化の原価や見えない損失の計算など現場の課題を原価で解説した【実践編】があります。

ご購入方法

中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書 【基礎編】

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【基礎編】
価格 ¥2,000 + 消費税(¥200)+送料

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【実践編】
価格 ¥3,000 + 消費税(¥300)+送料
 

ご購入及び詳細はこちらをご参照願います。
 

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」
普段疑問に思っている間接費・販管費やアワーレートなど原価と見積について、分かりやすく書きました。会計の知識がなくてもすらすら読める本です。原価管理や経理の方にもお勧めします。

こちら(アマゾン)から購入できます。
 
 

 

セミナー

原価計算と見積、価格交渉のセミナーを行っています。

会場開催はこちらからお願いします。

オンライン開催はこちらからお願いします。
 

 

簡単、低価格の原価計算システム

 

数人の会社から使える個別原価計算システム「利益まっくす」

「この製品は、本当はいくらでできているだろうか?」

多くの経営者の疑問です。「利益まっくす」は中小企業が簡単に個別原価を計算できるて価格のシステムです。

設備・現場のアワーレートの違いが容易に計算できます。
間接部門や工場の間接費用も適切に分配されます。

クラウド型でインストール不要、1ライセンスで複数のPCで使えます。

利益まっくすは長年製造業をコンサルティングしてきた当社が製造業の収益改善のために開発したシステムです。

ご関心のある方はこちらからお願いします。詳しい資料を無料でお送りします。

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

こちらにご登録いただきますと、更新情報のメルマガをお送りします。
(登録いただいたメールアドレスは、メルマガ以外には使用しませんので、ご安心ください。)

経営コラムのバックナンバーはこちらをご参照ください。
 

]]>
https://ilink-corp.co.jp/9604.html/feed 0
【原価と見積の疑問】2.直接原価計算の方が良いと言われたが? https://ilink-corp.co.jp/9601.html https://ilink-corp.co.jp/9601.html#respond Wed, 17 Jan 2024 02:39:43 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=9601 No related posts. ]]>  
【原価と見積の疑問】1.間接費用の分配とは?では間接製造費用の分配について述べました。

一方売上が不足する場合、在庫を増やせば利益を増やせます。なぜ在庫を増やせば利益が増えるのでしょうか。
 

全部原価計算での利益

 
財務会計の原価計算が全部原価計算だからです。全部原価計算では在庫を製造した費用は、その期の原価になりません。

全部原価計算では利益は以下の式で計算します。

売上原価=期首在庫+製造原価-期末在庫

営業利益=売上-売上原価-販管費

従って期末在庫が増えれば売上原価は少なくなります。売上原価が少なくなれば利益が増えます。

具体的な数字で見てみます。表1は、ある企業の1か月の売上と利益です。
          
        表1 全部原価計算の利益 単位 : 万円                   

売上 5,000
期首在庫 0
当期製造原価 4,000
期末在庫 0
当期売上原価 4,000
売上総利益 1,000
販管費 600
利益 400

その月の売上5,000万円、製造原価4,000万円、販管費600万円、利益は400万円でした。翌月、売上が半分の2,500万円になりました。

表2に示すように材料費、外注費など変動費は減少しました。しかし固定費は変わらないため、製造原価は3,000万円でした。その結果1,100万円の赤字でした。

そこで工場の稼働は維持して前月と同量を生産しました。売れなかった半分は在庫とします。これを表3に示します。

           表2 売上が半分になった場合 単位 : 万円

売上 2,500
期首在庫 0
当期製造原価 3,000
期末在庫 0
当期売上原価 3,000
売上総利益 ▲500
販管費 600
利益 ▲1,100

 

           表3 在庫を増やした場合 単位 : 万円

売上 2,500
期首在庫 0
当期製造原価 4,000
期末在庫 2,000
当期売上原価 2,000
売上総利益 500
販管費 600
利益 ▲100

製造原価は4,000万円ですが、在庫の生産分2,000万円はその月の売上原価になりません。そのため売上原価は2,000万円になり、赤字は100万円に減少しました。

全部原価計算で利益を管理するとこうしたことが起きます。利益を出すように現場に圧力をかけると現場は在庫を増やしてしまいます。

だから全部原価計算でなく直接原価計算の方がよいといわれています。これはどういうことでしょうか。
 

直接原価計算での利益

 

変動費のみで原価を計算するのが直接原価計算です。直接原価計算では利益は以下の式で計算します。

変動売上原価=期首在庫+変動原価(変動費のみ)-期末在庫

営業利益=売上-変動売上原価-固定原価(固定費)

ここで一般的な変動費と固定費を図1に示します。

図1 製造原価と販管費の変動費と固定費

製造原価の変動費は主に材料費と外注加工費です。他にも、製造経費の一部に変動費がありますが金額はそれほど大きくありません。

販管費の変動費は製品を運ぶ運賃や消耗品などです。本コラムは簡単にするために、変動費は材料費と外注費、固定費は労務費、製造経費、販管費とします。

表2の売上が半分になった例を、直接原価計算と全部原価計算で比較したものを表4に示します。

       表4a 売上が半分になった場合(全部原価計算) 単位 : 万円

売上 2,500
期首在庫 0
当期製造原価 3,000
期末在庫 0
当期売上原価 3,000
売上総利益 ▲500
販管費 600
利益 ▲1,100

       表4b 売上が半分になった場合(直接原価計算) 単位 : 万円

売上 2,500
期首在庫 0
変動原価 1,100
期末在庫 0
当期変動売上原価 1,100
限界利益 1,400
固定原価 2,500
利益 ▲1,100

この場合、在庫が増えていないため、全部原価計算と直接原価計算の赤字1,100万円は変わりません。在庫を増やした場合を表5に示します。

       表5a 在庫を増やした場合(全部原価計算) 単位 : 万円

売上 2,500
期首在庫 0
当期製造原価 4,000
期末在庫 2,000
当期売上原価 2,000
売上総利益 500
販管費 600
利益 ▲100

       表5b 在庫を増やした場合(直接原価計算) 単位 : 万円

売上 2,500
期首在庫 0
変動原価 2,200
期末在庫 1,100
当期変動売上原価 1,100
限界利益 1,400
固定原価 2,500
利益 ▲1,100

全部原価計算では在庫が増えたため100万円の赤字になりました。

直接原価計算では在庫を増やしても原価(変動売上原価)は変わらず、1,100万円の赤字も変わりません。

このように、全部原価計算では在庫を増やせば利益は増えます。実際に決算を良くするために期末に在庫を増やすことがあります。しかし、売上が下がっているのに在庫を増やせば、売れない在庫が増えてしまいます。売れない在庫は資金繰りを悪化させます。だから直接原価計算がよいと言われます。

ただし、証券市場、金融機関、税務署など外部に出す財務諸表は全部原価計算で計算しなければなりません。直接原価計算が使えるのは内部管理(管理会計)のみです。

では工場管理のための原価計算は直接原価計算にすべきでしょうか。これは在庫を利益と結びつけることで起きる問題です。

在庫量は利益と関係なく、「需要に応じ、欠品を出さず短納期を実現するための最小限」にすべきです。在庫が多ければ

  1. 資金繰りが悪化
  2. 在庫管理にコストがかかる
  3. 在庫が陳腐化して売れなくなる
  4. 設計変更があると修正しなければならない

こうした見えないコストや廃棄ロスが発生します。

一方、原価の視点では「在庫も生産すれば工場の稼働率は上がり原価は下がる」、つまり在庫も生産すれば原価は下がります。そこで管理者は

  • 最大在庫量を守り、現場がヒマでもそれ以上は生産させない
  • 最大在庫量を守った上で、工場の稼働が最大になるようにする
  • 受注不足の場合は、受注を増やすように努力する
  • 工場の成果は、利益(売上原価)でなく生産高(製造原価)で評価

このようにします。「売れない在庫をつくらない」のは大原則です。その上で、管理者は受注を増やして工場の稼働が最大になるように努めます。

他にも直接原価計算はメリットがあります。それは全部原価計算には固定費の分配の問題があるからです。
 

固定費を分配しない直接原価計算

 

全部原価計算は変動費と固定費を合わせて原価を計算します。この固定費には間接部門の人件費や工場の経費があります。これらを各現場に分配してアワーレートを計算します。

しかし、固定費の中で間接部門の費用や製造経費はどの現場にどのくらいかかったのか正確にはわかりません。

また固定費の分配ルールは「これが正しい」というものがありません。しかも固定費の分配の仕方によって原価は変わります。

一方、変動費のみで原価を計算する直接原価計算は固定費の分配はありません。従って固定費を分配しない直接原価計算の方がよいといわれています。

図2に全部原価計算と直接原価計算の原価の構成を示します。

図2 全部原価計算と直接原価計算

この直接原価計算は以下の場合には使いやすい方法です。

  • 原価に占める変動費の割合が高い
  • 売価が市場価格で決まるため、緻密な原価計算を必要としない

例えば、自動車メーカーは製造原価の約80%が外部からの購入部品(変動費)です。こういった製品であれば、変動費のみの直接原価計算でも問題ありません(実際の自動車メーカーは製造費用も原価に入れていますが。)

一方、直接原価計算を価格決定に使用すると、適正な価格がわかりにくいという問題があります。
 

価格決定の問題 見込み生産と受注生産の違い

 

見込み生産と受注生産で価格決定の考え方は異なります。
 

見込み生産と受注生産の違い

 

【見込み生産】
図3に示すように、自社商品を市場に販売する場合、どの商品をどのくらい生産するかは自分達で決めます。一方価格は市場の需要と市場への供給で決まります。原価が高いからと高い価格をつけても、競合が安ければ売れません。

その反面、価格を下げれば、利益は減りますが販売量は増えます。その結果、利益の合計は増えることもあります。

【受注生産】
顧客や取引先からの受注に応じて生産します。受注量は顧客の計画で決まります。価格を下げたからといって受注量は大きく増えません。

図3 見込み生産と受注生産の違い

見込み生産の場合、個々の製品の利益の多寡よりも「受注量×利益」が最大化するように価格を決めます。

受注生産の場合、原価を適切に計算し、高く受注するように顧客と交渉します。

ただし、受注がとても少なく固定費の回収が不足する場合は、価格を下げてでも受注を増やします。ではいくらまで下げてもよいでしょうか。
 

粗利と営業利益

 

いくらまで下げれば利益があるのか、これは製造業と小売業で異なります。

小売業の場合、販売価格から(仕入)原価を引いたものが売上総利益(粗利益)です。

製品1個の粗利益は

粗利益=販売価格-仕入原価

ここで

変動費 : 仕入原価
固定費 : 販管費

とすると

限界利益=売上-変動費 

限界利益=粗利益 (図4)。

図4 小売業の変動費と固定費の例

図4では

売価 : 1,000円
仕入原価 : 760円
粗利 : 240円
販管費 : 190円
利益 : 50円

毎月の粗利益の合計が販管費を上回れば利益はプラス、下回れば赤字です。粗利益率が高い商品でも販売量が少なければ粗利益の合計は多くありません。

逆に、粗利益率は低くても販売量が多ければ粗利益の合計は多くなります。利益を増やすには、毎月の粗利益の合計を大きくします。

製造業では仕入原価でなく製造原価です。製造原価には、変動費と固定費があります。

製造原価=変動費(材料費・外注費)+固定費(製造費用)

粗利益=受注金額-製造原価

限界利益=受注金額-変動費

従って限界利益≠粗利益です。これを図5に示します。

図5 製造業の変動費と固定費の例

製造業は製造原価の中にも固定費があります。そのため、粗利益でなく限界利益の合計を管理します。限界利益の合計が固定費を上回れば利益はプラス、下回れば赤字です。

一方、生産量は工場の設備と人員で決まります。受注が多くても急には生産量を増やせません。小売業のように価格を下げて大量に販売するのは困難です。1つ1つの受注で確実に利益を確保しなければなりません。
 

直接原価計算で売価を決めるリスク

 

直接原価計算の問題は、受注価格と利益の関係が見えにくいことです。先の製品の見積を全部原価計算と直接原価計算で比較したものを図6に示します。

図6 直接原価計算と全部原価計算の見積

a. 全部原価計算では

製造原価 : 760円
販管費 : 190円
目標利益 : 50円
見積金額 : 1,000円

です。50円値引きすれば利益はゼロです。

b. 直接原価計算では
変動費 : 380円
目標限界利益 : 620円
見積金額 : 1,000円

です。実際は販管費の一部にも変動費がありますが、計算を簡単にするためすべて固定費とします。

例えば、920円で受注した場合、限界利益は540円です。利益はまだあるように思えますが実際は、920円は販管費込み原価950円に対し30円マイナスの赤字です。しかし直接原価計算ではわかりません。

受注生産では1件1件の受注で確実に利益が出るようにしなければ利益が確保できません。そこで全部原価計算で製造原価と販管費を明確にします。
 

一方、生産開始に先立って金型や治具などが必要なことがあります。これらは生産に先立って発生するためイニシャル費と呼ばれます。

金型や治具の費用をイニシャル費として一括で支払わず、製造する製品価格に上乗せして払う場合があります。これがイニシャル費の回収です。

このイニシャル費の回収については【原価と見積の疑問】3.イニシャル費の回収はどうすればいいのか?を参照願います。

経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

中小企業でもできる簡単な原価計算のやり方

 
製造原価、アワーレートを決算書から計算する独自の手法です。中小企業も簡単に個々の製品の原価が計算できます。以下の書籍、セミナーで紹介しています。

書籍「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」

中小企業の現場の実務に沿ったわかりやすい個別製品の原価の手引書です。

基本的な計算方法を解説した【基礎編】と、自動化、外段取化の原価や見えない損失の計算など現場の課題を原価で解説した【実践編】があります。

ご購入方法

中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書 【基礎編】

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【基礎編】
価格 ¥2,000 + 消費税(¥200)+送料

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【実践編】
価格 ¥3,000 + 消費税(¥300)+送料
 

ご購入及び詳細はこちらをご参照願います。
 

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」
普段疑問に思っている間接費・販管費やアワーレートなど原価と見積について、分かりやすく書きました。会計の知識がなくてもすらすら読める本です。原価管理や経理の方にもお勧めします。

こちら(アマゾン)から購入できます。
 
 

 

セミナー

原価計算と見積、価格交渉のセミナーを行っています。

会場開催はこちらからお願いします。

オンライン開催はこちらからお願いします。
 

 

簡単、低価格の原価計算システム

 

数人の会社から使える個別原価計算システム「利益まっくす」

「この製品は、本当はいくらでできているだろうか?」

多くの経営者の疑問です。「利益まっくす」は中小企業が簡単に個別原価を計算できるて価格のシステムです。

設備・現場のアワーレートの違いが容易に計算できます。
間接部門や工場の間接費用も適切に分配されます。

クラウド型でインストール不要、1ライセンスで複数のPCで使えます。

利益まっくすは長年製造業をコンサルティングしてきた当社が製造業の収益改善のために開発したシステムです。

ご関心のある方はこちらからお願いします。詳しい資料を無料でお送りします。

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

こちらにご登録いただきますと、更新情報のメルマガをお送りします。
(登録いただいたメールアドレスは、メルマガ以外には使用しませんので、ご安心ください。)

経営コラムのバックナンバーはこちらをご参照ください。
 

]]>
https://ilink-corp.co.jp/9601.html/feed 0
【原価と見積の疑問】1.間接費用の分配とは? https://ilink-corp.co.jp/9598.html https://ilink-corp.co.jp/9598.html#respond Wed, 17 Jan 2024 02:38:03 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=9598 No related posts. ]]>  
工場で発生する費用には、直接製品を製造する人や設備で発生する直接製造費用の他、間接部門の人件費や工場の製造経費のように間接的に発生する間接製造費用があります。
 

間接製造費用はどうやって分配するのか?

 
個別原価を計算するためには、間接製造費用を各製品に分配しなければなりません。

間接製造費用は、原価の中で高い割合を占めます。間接製造費用の主なものは、

  • 間接部門の人の費用
  • 工場の製造経費

です。

A社の間接製造費用を図1に示します。

  • 直接製造部門では
      間接作業者や管理者
  • 間接部門では
      生産管理や品質管理
  • また製造経費では
      水道光熱費や修理費、家賃など様々な費用

があります。

図1 A社の間接製造費用

間接作業者や間接部門は、直接製品を製造しません。つまりお金を稼いでいません。そのため、これらの費用は製品の売上で賄われます。

そして実際に製品をつくっているのは、直接作業者や製造設備です。つまり間接作業者や間接部門は、直接製造部門に支えてもらっているのです。(図2)

図2 間接部門の費用は直接作業者と設備が支えている

この間接製造費用はどうやって分配すればいいのでしょうか。
 

間接製造費用の分配

 

間接製造費用の分配1 製品に直接分配

 

ひとつの方法は、各製品の直接製造費用を計算し、この直接製造費用に何らかのルールで間接製造費用を分配する方法です。

原価計算の本には分配基準の例として、「直接材料費、直接労務費、直接製造費用、直接活動時間、機械稼働時間、生産量、売上高」がかかれています。

しかし直接材料費を基準にすれば、製品によって材料費の比率が異なると間接製造費用が変わってしまいます。

このようにそれぞれ一長一短があるため、本コラムは比較的問題の少ない直接製造費用を使用します。

本コラムでは、直接製造費用に対する間接製造費用の比率を間接費レートと呼びます。この間接費レートは決算書の直接製造費用と間接製造費用から計算します。


間接製造費用、製造費用は以下の式で計算します。

間接製造費用=直接製造費用×間接費レート

製造費用=直接製造費用+間接製造費用
    =直接製造費用×(1+間接費レート)
 

間接製造費用の分配2 各現場に分配

 

間接製造費用を各現場に分配し、各現場の直接製造費用と間接製造費用からアワーレートを計算する方法です。

1) の製品に直接分配する方法では、すべての製品が同じ間接費レートになります。

もし間接製造費用が多い現場と少ない現場があれば、ひとつの間接費レートでは不十分です。

例えば、高額な設備が多い現場と作業者だけの現場があった場合、高額な設備の多い現場には間接製造費用を多く分配した方が適切です。

そこで、間接製造費用を各現場に分配します。そして現場毎の間接製造費用と直接製造費用の合計から、アワーレートを計算します。これを図3に示します。

図3 間接製造費用の分配


各現場への間接製造費用の分配は、各現場の(1) 直接製造費用、もしくは(2) 直接製造時間に比例して計算します。

ただし、特定の現場でとても多く消費している費用があれば、その現場固有の費用とします。

(1) 直接製造費用に比例
直接製造費用が大きい現場は生み出す付加価値も高いため、間接製造費用をたくさん負担させるという考えです。

(2) 直接製造時間(人の稼働時間と設備の稼働時間の組合せ)に比例
直接製造時間が大きい現場は工場の資源(リソース)を多く使用するため、生み出す付加価値も高いと考えます。その分間接製造費用をたくさん負担させる考えです。

人の合計時間と設備の合計時間の組み合わせとは、

  • 人の時間で分配する場合、無人加工の現場では人の加工時間はゼロです。そういった現場には設備の稼働時間で分配します。
  • 設備の時間で分配する場合、設備がなく人だけで製造する現場では設備の時間がゼロです。その場合は人の稼働時間で分配します。

図4は、A社の各現場の稼働時間と間接製造時間の分配を示します。

図4 合計時間に比例した場合

どちらの分配ルールを採用するかでアワーレートは変わります。しかし、どちらが正解ということはないので、自社に合った方法を選択します。

間接製造費用も含めたアワーレート間は、

 

間接製造費用は大半が固定費です。固定費とはどのような費用でしょうか。

固定費と変動費、そして全部原価計算と直接原価計算については2.直接原価計算の方が良いと言われたが? を参照願います。

経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

中小企業でもできる簡単な原価計算のやり方

 
製造原価、アワーレートを決算書から計算する独自の手法です。中小企業も簡単に個々の製品の原価が計算できます。以下の書籍、セミナーで紹介しています。

書籍「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」

中小企業の現場の実務に沿ったわかりやすい個別製品の原価の手引書です。

基本的な計算方法を解説した【基礎編】と、自動化、外段取化の原価や見えない損失の計算など現場の課題を原価で解説した【実践編】があります。

ご購入方法

中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書 【基礎編】

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【基礎編】
価格 ¥2,000 + 消費税(¥200)+送料

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【実践編】
価格 ¥3,000 + 消費税(¥300)+送料
 

ご購入及び詳細はこちらをご参照願います。
 

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」
普段疑問に思っている間接費・販管費やアワーレートなど原価と見積について、分かりやすく書きました。会計の知識がなくてもすらすら読める本です。原価管理や経理の方にもお勧めします。

こちら(アマゾン)から購入できます。
 
 

 

セミナー

原価計算と見積、価格交渉のセミナーを行っています。

会場開催はこちらからお願いします。

オンライン開催はこちらからお願いします。
 

 

簡単、低価格の原価計算システム

 

数人の会社から使える個別原価計算システム「利益まっくす」

「この製品は、本当はいくらでできているだろうか?」

多くの経営者の疑問です。「利益まっくす」は中小企業が簡単に個別原価を計算できるて価格のシステムです。

設備・現場のアワーレートの違いが容易に計算できます。
間接部門や工場の間接費用も適切に分配されます。

クラウド型でインストール不要、1ライセンスで複数のPCで使えます。

利益まっくすは長年製造業をコンサルティングしてきた当社が製造業の収益改善のために開発したシステムです。

ご関心のある方はこちらからお願いします。詳しい資料を無料でお送りします。

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

こちらにご登録いただきますと、更新情報のメルマガをお送りします。
(登録いただいたメールアドレスは、メルマガ以外には使用しませんので、ご安心ください。)

経営コラムのバックナンバーはこちらをご参照ください。
 

]]>
https://ilink-corp.co.jp/9598.html/feed 0