製造原価の大部分を占める間接費とは、製造に直接関わらない工場の経費や間接部門の人件費です。品質管理や製造環境の高度化により、その割合は増加傾向にあります。
間接費は多くの固定費を含み、生産量の増減で製品ごとの原価が変動します。正確な原価計算には、この間接費を適切に製品へ分配する必要がありますが、その分配方法には手間がかかり、根拠が不明瞭になる問題も抱えています。
しかし、間接費を計算しないと、適正な売価を設定できず、生産した製品が利益があるかもわかりません。そのため中小企業も間接費の分売は不可欠です。
アワーレート(人)の計算については
またアワーレート(設備)については
実際のアワーレートの中で、人や設備の費用など直接費のほかに、間接費も大きな金額を占めています。
この間接費とはどのような費用でしょうか?
1. 間接費とは?
製造原価の内訳
工場で発生する経費の1年間の合計は、決算書の製造原価報告書に示されます。その内訳は以下の通りです。
材料費
- 主要原材料
- 購入品
- 補助材料:直接/間接
- 工場消耗品:間接
- 消耗工具:直接/間接
労務費
- 直接労務費
- 間接労務費
外注費
工場経費
- 電力費:直接/間接
- 減価償却費:直接/間接
- 賃借料
- 地代家賃
- 通信費
- 会議費
- 保険料
- 修繕費:直接/間接
- 旅費交通費
- 荷造包装費
- 工場消耗品費
- 租税公課
- 消耗器具備品
- 教育訓練費
- 諸会費
- 雑費
間接費
ここで「間接」と記載されているものが間接費用です。労務費の間接費は、現場の間接作業者、管理者、および間接部門の労務費です。

この間接費をどのように原価に入れるのかが課題です。なぜなら、原価に占める間接費が増加しているからです。
2. なぜ間接費の分配が必要なのか
原価に占める間接費は増えています。工場によっては加工費の50%が間接費ということもあります。その結果、間接費をどのように原価に組み込むかで原価が大きく変わります。
間接費が増えた理由
顧客・市場の要求が厳しくなっている
品質に対する要求は年々厳しくなり、かつてはリコールにならなかった不良品がリコールや自主回収になっています。そのため、不良品を作らない・出さないために、より高度な品質管理・工程管理や、万が一不良品が流出した場合の迅速な対応のためのトレーサビリティ(製造履歴管理)が求められています。そのため、品質管理・工程管理など管理部門の人員が増加しました。
検査設備・評価設備の増加
より高度な品質管理のためには、検査設備や評価設備の充実が求められることもあります。こうした設備の増加も間接費の増加につながります。
製造環境の改善
わずかな異物混入やより高い精度のため、温度・湿度、空調や異物対策が必要なこともあります。よりレベルの高い空調や温度管理、入室時の異物混入対策なども間接費を増加させます。
他にも様々な要因で間接費が増加します。これを適切に各現場に分配することが必要です。
※注)
本コラムでは、間接費を割り振ることを「分配」と呼びます。
財務会計では割り振ることを「配賦」と呼び、「配賦」も「割り当てる」という意味です。
財務会計には「配賦」のほかに「賦課」という言葉もあり、以下のように使い分けています:
- 配賦:製造原価を計算する際に、間接費を何らかの基準(配賦基準)を用いて振り分けること
- 賦課:製造原価を計算する際に、「何に」「どれだけ」使ったのかがわかる直接費を振り分けること
「直接費は賦課して、間接費は配賦する」という表現をします。
しかし、本書では難しい会計用語を用いず、一般的な「分配」を使用します。
工場で発生する費用はすべて原価
先に挙げた工場の経費の中には、一見原価に思えない費用もあります。しかし、実際に支出された費用です。
それに対して、工場でお金を稼いでいるのは直接部門の作業者と設備だけです。先に挙げた経費はすべて、直接部門の作業者と設備が稼いだ売上で賄っています。つまり、間接作業者や間接部門の人の費用、工場の経費は、直接部門の作業者と設備が支えているのです。

だから原価を計算する際は、間接部門の費用も工場の経費も、適切な金額を原価に入れなければなりません。工場で使ったお金はすべて原価です。だからボールペン1本余分に買っても原価は上がるのです。これはいくら原価が上がるのかも計算できます。
実態は固定費
一方、間接費の多くが固定費です。固定費なので生産量が増えても変わりません。したがって、生産が増えれば製品1個あたりの間接費は減少します。つまり、生産量が変動すると製品1個の原価も変動します。
生産量によって製品1個あたりの間接費が変わるなら、間接費を細かく計算しても意味がないという意見もあります。実際、管理会計では固定費を振り分けず、直接費のみで計算する「直接原価計算」という方法もあります。
問題は、間接費も原価に入れなければ「いくらで売れば利益が出るのか」「適切な売価」が分からないことです。これは部品加工など受注型生産の工場では問題になります。
そこで、受注型生産の工場では条件を決めて間接費も含めた原価を計算します。一方、自社製品を見込み生産する工場では、価格は市場価格で決まる場合も多く、売価を決めるために原価は必要ありません。その場合は、生産量に応じてトータルでの原価と利益を管理します。
では、間接費の分配はどうすればいいのでしょうか?
3. 財務会計の原価計算
大企業は間接費も含めて原価を計算しています。この大企業が行う財務会計に則った正しい原価計算とは、以下の手順で行います。
(1) 経費を部門別に計算
毎月発生した経費を仕訳する際、「どの部門で使った費用か」が明らかな費用は、その部門の費用にします。この部門は以下のように分けられます。
直接部門
直接製品を製造する部門(例:加工、組立、塗装、検査など)
検査は、検査費用が見積に含まれている場合、検査部門もお金を稼いでいるので直接部門。検査費用が見積に含まれていなければ間接部門です。
同様に設計も、設計費用が見積に含まれていれば直接部門、含まれていなければ間接部門です。
間接部門
直接製品を製造しない部門(例:生産管理、品質管理、資材管理、生産技術など)
この時、消耗品費でも、機械加工部門の刃物代など使用部門が明確にわかる費用は、その部門の費用とします。しかし、消耗品費の中でもウェス、ガムテープなど使用部門が不明確な費用は「共通費」です。他にも共通費には保険料、家賃など様々な費用があります。

(2) 共通費を各部門に分配
この共通費は、何らかの分配基準(配賦基準)を用いて各部門に分配します。分配基準には以下のようなものがあります。
- 社員数:人件費や福利厚生費など、人員に比例すると考えられる費用
- 占有面積基準:家賃や保険料、固定資産税など、建物や敷地の使用に比例する費用
- 機械帳簿価格基準:減価償却費や保守料など、機械設備の価値に比例する費用
- 動力使用量基準:電気代や燃料費など、エネルギー使用量に比例する費用
一見論理的に見えますが、実務でやろうとすると頭を抱えます。雑費や租税公課はどうやって分配すればいいでしょうか?水道代や電気代は各部門の消費金額が分かるでしょうか?
また、社員数の場合、短時間勤務のパート社員と正社員を同じ1人と考えてよいでしょうか?他にも嘱託や派遣社員、請負はどうすればよいでしょうか?
実際の現場は教科書よりも複雑です。
(3) 間接部門費用を直接部門に分配
こうして計算した各部門の費用のうち、間接部門は直接お金を稼いでいないため、その費用は直接部門に分配しなければなりません(間接部門配賦)。
ここでまた分配基準が必要です。この分配基準には以下のような例があります。
- 資材管理部門:在庫出庫額
- 資材発注部門:発注伝票数
- 生産管理部門:生産計画数
- 品質管理部門:検査数
これも実務では悩むことが多いのです。
例えば、生産管理部門の費用を生産計画数で分配した場合、図のように加工部門と組立部門のその月の生産計画数が同じ50件であれば、50%ずつ分配されます。しかし加工部門は原材料のみで計画の変更はほとんどないのに対し、組立部門は外注加工が多く、納期遅れのため計画の変更が多発していました。実際は組立部門に多くの生産管理の費用がかかっていました。

このように、間接部門費用を直接部門に分配する基準には悩ましいものがあります。しかも間接部門の費用は大きく、この分配の仕方によって原価が大きく変わってしまいます。
(4) 分配(配賦)方法の種類
しかも分配の方法自体も4種類あります。
- 直接配賦法
間接部門費を直接、各直接部門に配賦する方法。計算は単純だが、間接部門同士のサービス提供は考慮しない。 - 階梯式配賦法
サービス提供量の多い間接部門から順に配賦する方法。間接部門間の一方通行的なやり取りを考慮できる。 - 相互配賦法
間接部門同士の相互サービスも反映する方法。精度は高いが計算はやや複雑。 - 連続配賦法・連立方程式法
最も精密な方法で、間接部門間の相互提供を完全に考慮する。大企業やERPシステムで多用。
中小企業の場合、直接配賦法で十分です。なぜなら、そもそも分配基準が前述のように便宜的なもので、現実とは乖離しているからです。
(5) 間接費を製品に分配
こうして直接部門に配賦された間接費を、それぞれの製品の原価を計算する際に分配します。この分配基準には以下のようなものがあります。
- 直接材料費基準:材料費が多い製品ほど間接費を多く配分
- 直接労務費基準:手作業中心の工程では有効
- 製造直接費基準:直接材料費と直接労務費の合計に比例して配分
- 直接作業時間基準:作業時間を基準に配分。小ロット多品種に向く
- 機械稼働時間基準:機械時間が多い製品に多く配分。自動化工場に向く
- 生産量基準:同一製品や類似品の大量生産に有効
- 売上高基準:販売価格や収益性と比例して配分。ただし製造原価の正確性はやや落ちる
実際は直接作業時間基準及び機械稼働時間基準で十分です。こうして計算した間接部門費用の合計と直接費の合計を、その製品の生産数で割れば、1個の製造費用が計算できます。
ただし、これらの計算はその月の結果がわかっているからできる計算です。つまり、財務会計の原価計算は、実際に発生した費用を割り振って個々の製品の原価に落とし込む方法です。従ってその月の費用が確定しないと原価が分かりません。
工場の利益と製品別損益管理を実現
このように計算することで、その月に生産した製品の製造原価が計算されます。これにより、それぞれの製品の利益がいくらだったのか、製品別損益管理ができます。
間接部門の費用も含めた直接部門の費用も計算できます。そこから部門別損益管理も可能です(ただし、それには1つの製品の売上を各直接部門に振り分けなければなりません)。
また、部門別損益管理を間接部門にまで展開したものが、京セラが行っているアメーバ経営です。
4. 財務会計の原価計算の問題
例えば、今まで原価計算の仕組みがない中小企業がこの方法を導入しようとすると、以下のような問題があります。
経費(共通費)の分配
工場の経費(共通費)を各部門に分配する際、分配基準と実際の消費量との関連が弱いものも多く、「これで正しいのか?」という疑問がわきます。
例えば、地代家賃が従業員用の駐車場の賃料の場合、これは各部門の人数で分配すべきでしょうか。しかし、各部門の中で車通勤の比率は一定ではありません。では、車通勤の人数を調べて分配すべきでしょうか?
この分配によって各部門の費用が変わります。例えば、工場の共通費を各部門の占有面積で分配した場合、面積が広い部門は共通費の負担が多くなります。自部門の占有面積を減らせば共通費が減って原価を下げることができます。かといって現場の通路まで狭くすれば原価は下がりますが、作業効率が犠牲になってしまいます。
間接部門費用の分配
より影響が大きいのが間接部門費用の分配です。これらの部門の人件費は高く、分配の仕方によって原価は大きく変動します。
資材管理の費用を在庫出庫額とした場合、組立部門は購入品・外注加工品が多く出庫額も多く成ます。一方加工品は材料だけなので、同じ点数でも出庫額は少なくなります。その結果、同じ労力をかけていても組立部門に資材管理の費用が多く分配されます。
集計に手間がかかる
そもそも月次決算すらできていない中小企業は少なくありません。月次決算を行うには、年払い・半年払いの費用を月割り計算する必要があります。さらに、毎月発生する費用を集計し、そこから間接費の配賦計算を行う必要があります。
大企業ではERPなどの統合システムが自動的に集計しますが、中小企業では高額なERPを導入していないことが多く、経理担当者がExcelで3日がかりで配賦計算をしているケースもあります。
しかも、それだけの労力をかけても「原価が分かる」だけです。しかもその原価は現場から疑問視されることも多い原価です。
部門別損益管理の課題
配賦計算が発展すると部門別損益管理を行う中小企業もあります。しかし、共通費の配賦によって部門の利益額が大きく変わります。
そのため、各部門の長は数字の変動に神経をとがらせます。その結果、社内で利益争奪戦が生まれます。
部門別損益管理とは「利益は社内のコスト削減によって生み出される」という内部管理志向によって生まれたものです。しかし、現実には企業に売上と利益をもたらすのは顧客です。
経営コンサルタントの故・一倉定氏は「企業活動はすべて顧客志向でなければならない」と言いました。社内で数字を操作しても、利益は1円も増えないのです。
5. 原価計算に間接費の分配が必要な理由
固定費を入れない直接原価計算の課題
間接費の多くが固定費です。そのため、売上が増えれば原価に占める間接費は下がり、利益が増えます。売上が減れば間接費は上昇し、利益は減少します。さらに利益は在庫の増減によっても変動します。
財務会計の原価計算は、こういった要因で変動し利益も変わります。そこで、固定費を配賦しない直接原価計算(変動費のみを原価に含める管理会計手法)が生まれました。中には、損益計算書を変動費・固定費に分けて5期分比較したものを出す会計事務所もあります。
ただし、直接原価計算には問題があります。
いくらで売ればいいのかわからない
そもそも、なぜ原価計算が必要なのでしょうか?
原価計算の最大の目的は、適正な受注価格を設定し、利益を確保することです。
受注時には「この案件はいくらで作れるか」を予測し、利益が出る価格で受注する必要があります。生産後は「実際はいくらかかったのか」を把握し、もし想定より高くついたなら、その原因を分析し、改善策を講じます。
この予測と改善のPDCAサイクルを回すことこそ、原価計算の本質です。

もし変動費だけの直接原価計算しか行わなければ、固定費の負担を考慮しないため、受注価格が低すぎて赤字になるリスクが高まります。
儲かったかどうかわからない
固定費も含めた製造原価を算出しなければ、その製品が本当に黒字なのか赤字なのかを正しく判断できません。
例えば、受注量が少なく固定費負担が大きい場合、変動費ベースでは黒字でも、固定費を含めれば赤字ということがあります。現場が「予定通りのコストで作れた」と思っていても、実は会社全体の利益を圧迫しているケースもあるのです。
したがって、間接費の配賦は面倒で不正確な部分があっても、経営判断のために避けて通れない作業と言えます。
まとめ
- 間接費は工場経費や管理部門など、生産に直接関係しない費用
- 品質管理や製造環境の高度化により、間接費の割合が増加
- 間接費の多くは固定費。そのため、生産量によって原価は変動
- 財務会計の原価計算は間接費の分配計算が複雑、しかも根拠が希薄
- 「いくらで作れるか」を予測し、「いくらかかったのか」を把握するため、中小企業も原価の仕組みが必要
このように、原価計算における間接費の分配は「正解のない作業」である反面、それを行わないと価格決定や採算判断ができなくなるというジレンマがあります。
では、どうすればいいのでしょうか?
これについては別のコラムで解説します。
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