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【製造業の値上げ交渉】13. なぜ取引先はアワーレートが高いというのだろうか?

 
値上げ交渉では値上げの根拠を求められることがあります。

これについて【製造業の値上げ交渉】12. 取引先から値上の根拠を求められた。どうすればいいのだろうか?を参照願います。
 

そこで値上げの根拠の資料を持って行くと、資料を見て「アワーレートが高い」と言われることがあります。

このアワーレートは先期の費用に基づいて適切に計算したアワーレートです。

(自社のアワーレートの計算方法は【製造業の値上げ交渉】2. 我が社の人と設備のアワーレートはいくらなのだろうか?を参照願います。)
 

なぜ取引先はアワーレートが高いと言うのでしょうか?

このアワーレートについて取引先が誤解している可能性があります。

それは

  1. アワーレートは間接費を含まない
  2. 稼動率は100%
  3. 減価償却が終われば設備の費用はゼロ

これについて説明します。
 

1.アワーレートは間接費を含まないと思っている

 
これはアワーレートが「人や設備で直接発生した年間費用を人や設備の年間時間で割ったもの」と取引先が思っている場合です。

本コラムではアワーレートは「各現場の人や設備の直接製造費用に、分配した間接製造費用を加えたものを人や設備の年間時間で割ったアワーレート間」です。

このアワーレート間には、間接製造費用も含まれています。

 

具体的な計算例 アワーレート(人)

 
架空のモデル企業A社の例で説明します。

(A社の詳細は【製造業の値上げ交渉】1. 個々の製品の原価はいくらなのだろうか?を参照願います。)

A社 NC旋盤の現場
(アワーレートの計算方法は【製造業の値上げ交渉】2. 我が社の人と設備のアワーレートはいくらなのだろうか?で説明しました。)
 

アワーレート(人)の計算

 
直接製造費用
4人の労務費合計 1,672万円

 

間接製造費用を含んだアワーレート間(人)の計算

 
NC旋盤の現場の人の間接製造費用の分配は、544万円でした。従ってアワーレート間(人)は、 

3,150円/時間で、間接製造費用を含めたアワーレート間(人)は、775円/時間増加しました。

注記)
本コラムでは、数字をわかりやすくするためにアワーレートは一桁目を四捨五入しています。実際に計算する際は正確な値を使用してください。

図2 NC旋盤の現場の人の直接製造費用と間接製造費用


 

具体的な計算例 アワーレート(設備)

 
NC旋盤の現場の設備の費用は

  • 設備償却費 : 100万円/台
  • 電気代 : 23.2万円/台
  • 設備(NC旋盤) : 計4台


 

間接製造費用を含んだアワーレート間(設備)の計算

 
NC旋盤の現場の設備の間接製造費用の分配は、544万円でした。従ってアワーレート間(設備)は、  

1,470円/時間で、間接製造費用を含めたアワーレート間(設備)は、770円/時間増加しました。

図2 NC旋盤の現場の設備の直接製造費用と間接製造費用


 

人と設備が同時に作業する場合

 
NC旋盤の現場は人と設備が同時に作業するためアワーレートは、アワーレート(人)とアワーレート(設備)の合計になります。

直接製造費用のみアワーレート(人+設備)は

アワーレート(人+設備)=アワーレート(人)+アワーレート(設備)
           =2,375+700=3,075円/時間

間接製造費用を含むアワーレート間(人+設備)は、

アワーレート間(人+設備)=アワーレート間(人)+アワーレート間(設備)
            =3,150+1,470=4,620円/時間 (+1,545円/時間)

間接製造費用を含むことで、アワーレート間(人+設備)は1,545円/時間 増加しました。
 

取引先は何を現場のアワーレートとしているか

 
取引先に原価の知識があり、自社の工場のアワーレートが直接製造費用のみのアワーレートの場合、アワーレートを計算する基準が違います。そのため見積書に書かれたアワーレートが高すぎると言います。これは直接製造費用のみで原価を考えている可能性があります。

この時、どちらのアワーレートの計算方法が正しいのか、議論をしても水掛け論になってしまいます。
 

取引先が直接製造費用のみでアワーレートを計算している場合

 
その場合、直接製造費用のみのアワーレートで製造費用を計算に、別に間接製造費用を加えて原価とします。
 

直接製造費用と間接製造費用の比率を計算

 
そこで各現場の直接製造費用のみのアワーレートと、間接製造費用を含んだアワーレートの比率から、直接製造費用と間接製造費用の比率を計算します。

例えばA社 NC旋盤の現場の例を以下に示します。

  • 直接製造費用のみのアワーレート(人+設備) : 3,075円/時間
  • 間接製造費用を含んだアワーレート間(人+設備) : 4,620円/時間

比率は1.50でした。
 

直接製造費用を計算

 
A社 NC旋盤の現場のアワーレート(人+設備)は3,075円/時間

A1製品の製造時間 : 0.075時間

直接製造費用=直接製造費用のみのアワーレート(人+設備)×製造時間
      =3,075×0.075=230.6円

直接製造費用のみで計算したA1製品の製造費用は230.6円でした。
 

間接製造費用を含んだ製造費用

 
間接製造費用を含んだ製造費用は、直接製造費用にこの比率をかけて計算します。

間接製造費用を含んだ製造費用=直接製造費用×比率
              =230.6×1.5=345.9≒346円

直接製造費用のみのアワーレートは3,075円/時間です。A1製品の製造費用は230.6円でした。しかしこれには間接製造費用が入っていません。

間接製造費用は、先の計算から直接製造費用の50%なので115.4円でした。その結果、製造費用は直接製造費用と間接製造費用を加えた346円でした。このように説明して製造費用が正しいことを理解してもらいます。

図3 直接製造費用のみのアワーレートで計算した場合


 

2.稼働率が入っていない

 
もうひとつの可能性は、顧客がアワーレートを計算する際に稼働率を入れていないことです。実際の現場の1日は図5のようになっています。

図5 ある作業者の1日

1日現場にいる作業者でもその中で朝礼、会議といった付加価値を生んでいない時間があります。この時間も人件費は発生しています。この費用もアワーレートに入れなければ、アワーレートが低すぎてしまいます。

そこで本コラムではアワーレートを計算する際に稼働率を分母にかけます。

この稼働率は、年間就業時間に対し付加価値を生んでいる時間(稼働時間)の比率です。

A社の例では、稼働率を0.8としました。もし顧客が稼働率100%でアワーレートを計算していれば、その分アワーレートは低くなります。

A社 NC旋盤の現場では

直接作業者の稼働時間合計=2,200×4×0.8(稼働率)=7,040時間

稼動率100%では

直接作業者の年間時間合計=2,200×4×1.0=8,800時間

設備の年間時間も同じでした。


アワーレート(人+設備)=アワーレート間(人)+アワーレート間(設備)
           =2,520+1,180=3,700円/時間 (▲920円/時間)

稼動率80%では4,620円/時間だったので、稼動率100%にすることで920円/時間低くなりました。

図5 稼働率を入れた場合と入れない場合の人のアワーレート


図56 稼働率を入れた場合と入れない場合の設備のアワーレート


 

稼働率100%はありえない

 
稼動率は工場によりさまざまです。大量生産の工場は常に人や設備が稼働するようにして稼働率100%を目指します。それでも材料の供給が間に合わなかったり後工程が遅れたりして稼働率は100%にはなりません。多品種少量生産では、製品の切替えが頻繁に発生し、稼働率は大量生産の工場より低下します。

一方取引先が自社の工場のアワーレートを稼働率100%で計算することがあります。しかし生産していない時間も費用は発生しています。その分も見積に含めなければ赤字になってしまいます。

自社の工場の稼働率が現実に80%ならば、稼働率80%で計算した原価が「適正価格」です。
 

3.減価償却が終わっている

 
法定耐用年数を過ぎた設備の減価償却費はゼロです。そうなると設備の費用はランニングコストのみになってしまいます。

しかし本コラムではアワーレート(設備)に使用する設備の償却費は、将来の更新を考えて「実際の償却費 (購入金額を本当の耐用年数で割った金額)」を使用します。

図7 設備を更新すれば新たな減価償却が発生

A社 NC旋盤の現場の場合、購入金額1,500万円、本当の耐用年数15年のため、実際の償却費は100万円でした。

NC旋盤の現場の4台の設備が、すべて減価償却が終わっている場合、設備の費用はランニングコスト23.2万円のみです。その場合、アワーレート間(設備)は以下のようになります。

実際の償却費から計算したアワーレート間(設備)は1,470円/時間でした。決算書の減価償却費でアワーレート間(設備)を計算すれば、570円/時間も低くなりました。

これについては発注側、受注側どちらも誤解していることがが多いです。

しかし高額の設備を使用する工場では、設備の更新に多額の資金が必要です。更新の時点で「必要な資金が会社に内部留保されている」、「新たに借入できるだけの十分な自己資本とキャッシュフロー」のいずれかが必要です。減価償却が終わった設備でも更新まで考えれば、費用は決してゼロではないのです。
 

アワーレートは考え方によって違う

 
このようにアワーレートは計算する条件によって値が大きく違います。アワーレートは、どの条件で計算するのかで大きく変わります。

本コラムで述べた「稼働率を入れる」、「実際の償却費を使って計算する」は正しいのですが、これを納得してもらうには「なぜそうなのか」理由を理解してもらう必要があります。これはなかなか大変です。

取引先が納得しなければ、取引先が考える条件に合わせてアワーレートを変えます。

例えば、稼働率100%で稼働率80%と同じアワーレートになるように年間費用や時間を調整します。そして見積金額は変えないようにします。
 

原価は真実

 
本コラムで述べた原価は、決算書の数字を元にした真実です。
(ただし算出条件が変われば値も変わるため、唯一無二ではありません。)

A社 A1製品の製造原価は726円、販管費182円、販管費込み原価は908円です。これだけの費用が発生していることを前提に、必要な利益が得られるように交渉します。

ただし受注が少なければ、固定費の回収を優先して赤字でも受注することもあります。それでもA1製品は販管費も含めて908円の費用が発生していることは変わりません。

他にもアワーレート以外に販管費や利益が高いと言われることがあります。

販管費や利益が高いと言われる原因について【製造業の値上げ交渉】14. なぜ取引先は販管費が高い、利益が多いと言うのだろうか?を参照願います。
 
経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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【原価と見積の疑問】1.間接費用の分配とは?

 
工場で発生する費用には、直接製品を製造する人や設備で発生する直接製造費用の他、間接部門の人件費や工場の製造経費のように間接的に発生する間接製造費用があります。
 

間接製造費用はどうやって分配するのか?

 
個別原価を計算するためには、間接製造費用を各製品に分配しなければなりません。

間接製造費用は、原価の中で高い割合を占めます。間接製造費用の主なものは、

  • 間接部門の人の費用
  • 工場の製造経費

です。

A社の間接製造費用を図1に示します。

  • 直接製造部門では
      間接作業者や管理者
  • 間接部門では
      生産管理や品質管理
  • また製造経費では
      水道光熱費や修理費、家賃など様々な費用

があります。

図1 A社の間接製造費用

間接作業者や間接部門は、直接製品を製造しません。つまりお金を稼いでいません。そのため、これらの費用は製品の売上で賄われます。

そして実際に製品をつくっているのは、直接作業者や製造設備です。つまり間接作業者や間接部門は、直接製造部門に支えてもらっているのです。(図2)

図2 間接部門の費用は直接作業者と設備が支えている

この間接製造費用はどうやって分配すればいいのでしょうか。
 

間接製造費用の分配

 

間接製造費用の分配1 製品に直接分配

 

ひとつの方法は、各製品の直接製造費用を計算し、この直接製造費用に何らかのルールで間接製造費用を分配する方法です。

原価計算の本には分配基準の例として、「直接材料費、直接労務費、直接製造費用、直接活動時間、機械稼働時間、生産量、売上高」がかかれています。

しかし直接材料費を基準にすれば、製品によって材料費の比率が異なると間接製造費用が変わってしまいます。

このようにそれぞれ一長一短があるため、本コラムは比較的問題の少ない直接製造費用を使用します。

本コラムでは、直接製造費用に対する間接製造費用の比率を間接費レートと呼びます。この間接費レートは決算書の直接製造費用と間接製造費用から計算します。


間接製造費用、製造費用は以下の式で計算します。

間接製造費用=直接製造費用×間接費レート

製造費用=直接製造費用+間接製造費用
    =直接製造費用×(1+間接費レート)
 

間接製造費用の分配2 各現場に分配

 

間接製造費用を各現場に分配し、各現場の直接製造費用と間接製造費用からアワーレートを計算する方法です。

1) の製品に直接分配する方法では、すべての製品が同じ間接費レートになります。

もし間接製造費用が多い現場と少ない現場があれば、ひとつの間接費レートでは不十分です。

例えば、高額な設備が多い現場と作業者だけの現場があった場合、高額な設備の多い現場には間接製造費用を多く分配した方が適切です。

そこで、間接製造費用を各現場に分配します。そして現場毎の間接製造費用と直接製造費用の合計から、アワーレートを計算します。これを図3に示します。

図3 間接製造費用の分配


各現場への間接製造費用の分配は、各現場の(1) 直接製造費用、もしくは(2) 直接製造時間に比例して計算します。

ただし、特定の現場でとても多く消費している費用があれば、その現場固有の費用とします。

(1) 直接製造費用に比例
直接製造費用が大きい現場は生み出す付加価値も高いため、間接製造費用をたくさん負担させるという考えです。

(2) 直接製造時間(人の稼働時間と設備の稼働時間の組合せ)に比例
直接製造時間が大きい現場は工場の資源(リソース)を多く使用するため、生み出す付加価値も高いと考えます。その分間接製造費用をたくさん負担させる考えです。

人の合計時間と設備の合計時間の組み合わせとは、

  • 人の時間で分配する場合、無人加工の現場では人の加工時間はゼロです。そういった現場には設備の稼働時間で分配します。
  • 設備の時間で分配する場合、設備がなく人だけで製造する現場では設備の時間がゼロです。その場合は人の稼働時間で分配します。

図4は、A社の各現場の稼働時間と間接製造時間の分配を示します。

図4 合計時間に比例した場合

どちらの分配ルールを採用するかでアワーレートは変わります。しかし、どちらが正解ということはないので、自社に合った方法を選択します。

間接製造費用も含めたアワーレート間は、

 

間接製造費用は大半が固定費です。固定費とはどのような費用でしょうか。

固定費と変動費、そして全部原価計算と直接原価計算については2.直接原価計算の方が良いと言われたが? を参照願います。

経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
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【原価計算と見えない赤字】1.高い設備は原価が高いのか

 
【原価計算と見積の基礎】では、原価計算、アワーレート計算の基礎と見積金額の計算について説明しました。

【原価計算と見えない赤字】では、この原価を活用して現場で発生する損失を金額で表示し、見える化します。

例えば、大きな設備と小さな設備で原価はどのように変わるのでしょうか?

設備の大きさの違いによる原価に関して、以下の5点について述べます。

  1. アワーレート(設備)と設備の費用
  2. 設備の違いによって現場を分けるかどうか
  3. 設備がラインになっている場合
  4. アワーレート(設備)の間接製造費用の影響
  5. 具体的な原価の違い

 

1. アワーレート(設備)と設備の費用

 
アワーレート(設備)は、

本コラムでは設備の年間費用は、決算書の減価償却費でなく実際の償却費を使います。ランニングコストには以下のものがあります。

設備の購入費用 : 実際の償却費
ランニングコスト : 光熱費、消耗品費、修理代、保守料など


図1
 

ランニングコスト

 
ランニングコストは設備を動かすのに必要な電気代など光熱費、消耗品費、修理代、保守契約費用などです。

この中で設備の差が大きいものをアワーレート(設備)に入れます。今回は電気代のみランニングコストに入れました。

それ以外の費用は金額が少なく設備毎の差も小さいので、間接製造費用として各現場に分配しました。

設備の年間費用が高ければアワーレート(設備)も高くなります。

では設備によって現場を分けた方がいいのでしょうか。
 

2. 違う設備は現場を分けた方がいいか

 

これは設備の機能・能力で判断します。

設備の価格やランニングコストが違っていても、同じ加工であれば生み出す付加価値も同じです。従って、同じ現場にします。
 

A社の場合

 

機械加工A社は、小型のマシニングセンタ4台と大型のマシニングセンタ4台があります。(図2)

この4台は導入時期が異なり、減価償却が残っている設備もあります。ただし加工能力はこの4台の間で差はありません。

大型のマシニングセンタは、大きな部品が加工できるため単価の高い製品が受注できます。

一方、小型のマシニングセンタよりスピードが劣るため、小さな部品は原価が高くなります。

そのため現場はこの2つを使い分けしています。そこで小型のマシニングセンタと大型のマシニングセンタは別の現場とします。

ただし同じ製品を、ある時は大型のマシニングセンタ、ある時は小型のマシニングセンタと、現場が使い分けしていなければ同じ現場にします。

つまり、現場を分けるかどうかは「実際に使い分けしているかどうか」です。

図2

では、複数の設備がラインになっている場合はどうでしょうか。
 

3. 設備がラインになっている場合

 

図3aは、複数の設備を連結してひとつの製造ラインになっています。設備の配置は固定されラインの構成を変えません。この場合、全体を1つの設備と考えます。

逆に設備を常に移動してライン構成が頻繁に変わる場合は、ひとつひとつの設備をそれぞれの現場とします。

図3 ラインを1つの現場と考える場合とそうでない場合

 

違いはサイクルタイム

 

これはサイクルタイム(タクトタイム)〈注1〉によっても変わります。

図3aの場合、各設備のサイクルはライン全体で同期され、ライン全体のサイクルタイム(タクトタイム)は1分でした。この場合、ライン全体で1つの現場と考えます。

対して図3bの場合、各設備のサイクルタイムはバラバラです。工程の順序も常に工程1→工程2→工程3→工程4になるとは限りません。

この場合は、それぞれを別々の現場と考えます(本当は各設備のサイクルタイムがバラバラだと仕掛品が増えて望ましくないのですが)。


〈注1〉
サイクルタイムとタクトタイムの定義は、企業や人によって異なります。本コラムでは以下のように定義します。
【サイクルタイム(CT:Cycle Time)】
1つの工程の開始から完了まで1サイクルにかかる時間のことです。

【タクトタイム(TT:Takt Time)】
ピッチタイムとも呼ばれ、1つの製品の製造にかかる時間です。

ラインで生産する場合は、ライン全体のサイクルタイムです。ラインを構成する設備のサイクルタイムが完全に一致することはめったにありません。

ラインの中にはサイクルタイムの短い設備や長い設備があります。そこで、ラインのタクトタイムはラインを構成する設備の中で最も長いサイクルタイムになります(図4 参照)。

図4 サイクルタイムとタクトタイム


サイクルタイムのばらつきの分、ラインの生産性は低下します。これは以下の式で計算します。

例えば、3台の設備でラインを構成し、各設備のサイクルタイムは
設備1 : 8分
設備2 : 9分
設備3 : 10分
の場合、ラインのタクトタイムは10分です。ラインの効率は

各設備のサイクルタイムのばらつきを縮めない限り、現状では10%のロスが必ず発生します。これは複数の設備に工程分割すれば必ず発生するロスです。

実際は、アワーレートの計算には直接製造費用だけでなく、間接製造費用も含まれます。

間接製造費用はアワーレート(設備)にどのように影響するのでしょうか。
 

4. 間接製造費用の影響

 

この間接製造費用を現場に分配する場合、様々な方法があります。本コラムは、

  • 現場の直接製造費用に比例
  • 現場の直接製造時間に比例

この2つを使います。

この間接製造費用を含めたアワーレートがアワーレート間(人)、アワーレート間(設備)で、これは以下の式で計算します。

では設備の大きさによって、原価はどう変わるでしょうか。具体的な数値で検証します。
 

5. 具体的な原価の違い

 

機械加工A社

 
図5に示すA社の2つの現場(マシニングセンタ1(小型)とマシニングセンタ2(大型))のアワーレート(設備)や原価を比較します。

図5 A社のマシニングセンタのアワーレート

マシニングセンタ2(大型)の1台の年間費用280万円はマシニングセンタ1(小型)140万円の2倍でした。アワーレート(設備)も2倍になりました。

ここでは、間接製造費用を各現場の直接製造費用に比例して分配しました。

これは「直接製造費用の高い現場は付加価値の高い製造をするため、間接製造費用を多く負担する」考え方です。

その結果、分配した間接製造費用は、

マシニングセンタ1(小型) : 145万円

マシニングセンタ2(大型) : 185万円

でした。

間接製造費用を分配したアワーレート間(設備)は、

マシニングセンタ1(小型) : 1,720円/時間

マシニングセンタ2(大型) : 2,850円/時間

1.7倍に差は縮みました。

この違いが原価にどう影響するのでしょうか。A社 A1製品の原価を図6に示します。

図6 A1製品の受注条件と原価、利益

A1製品は

製造費用
マシニングセンタ1(小型) : 380円

マシニングセンタ2(大型) : 470円 (+90円)

利益
マシニングセンタ1(小型) : 50円

マシニングセンタ2(大型) : ▲60円

マシニングセンタ1(小型)では50円の利益が、マシニングセンタ2(大型)では60円の赤字になりました。このように大きな(年間費用の高い)設備は原価が上がります。

実際マシニングセンタ2(大型)は製造費用が90円増えました。しかし、この90円の多くは固定費(実際の償却費)です。つまり赤字でも本当にお金が出ていくわけではありません。

もし、マシニングセンタ2(大型)でも加工できる製品があり、マシニングセンタ2(大型)が空いていれば、マシニングセンタ2(大型)で加工すべきです。

そうすれば原価計算上は赤字でも会社の利益は増えます。この点は誤解する現場の人も多いので注意します。
 

樹脂成形加工B社

 

B社は大きさの異なる50トンから450トンまでの射出成形機があります。

一般的には樹脂成形は成形機の大きさでアワーレートを変えます。顧客も同様に成形機の大きさに応じて見積を査定します。そこで大きさの異なる4種類の成形機のアワーレートを計算します

4台の成形機の年間費用とアワーレートを図7に示します。

図7 A社のマシニングセンタのアワーレート

450トンの成形機1台の年間費用380万円は、50トンの成形機70万円の5.4倍でした。

年間費用から計算したアワーレート(設備)も450トンの成形機は700円/時間、50トンの成形機の5.4倍でした。

小型の成形機も大型の成形機も、電気代を除けば工場で消費する経費は大きく変わりません。そこで、間接製造費用を各現場の直接製造時間に比例して分配しました。

これは「直接製造時間の多い現場はそれだけ工場のリソースを多く使用しているため、間接製造費用を多く負担する」考え方です。

間接製造費用を分配したアワーレート間(設備)は、

50トン : 830円/時間
1850トン : 930円/時間
280トン : 1,190円/時間
450トン : 1,400円/時間 (50トンの1.7倍)

でした。

450トンの成形機のアワーレート間(設備)は、50トンの成形機の1.7倍まで差が縮みました。

この違いは、原価にどう影響するのでしょうか。B1製品の原価を図8に示します。

図8 B1製品の受注条件と原価、利益

B1製品は

製造費用
50t : 14.1円
180t : 15.9円 (+1.8円)
280t : 20.2円 (+6.1円)
450t : 23.7円 (+9.6円)

利益
50t : 3.3円
180t : 1.2円
280t : ▲4.0円
450t : ▲8.1円

50トンでは3.3円あった利益が、450トンでは8.1円の赤字になりました。ただし、この8.1円の大半は固定費です。赤字でも本当にお金が出ていくわけではありません。

もし450トンの成形機が空いていて、450トンの成形機で製造できる製品があれば、450トンの成形機で製造すべきです。そうすれば原価は赤字でも会社の利益は増えます。

このように設備毎の原価の違いを計算できました。

では設備を自動化すれば原価はどう変わるでしょうか?

設備の自動化と多台持ち、ロボットの活用については【原価計算と見えない赤字】2.自動化とロボットの活用を参照願います。

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【原価計算と見積の基礎】3.製造原価の計算方法(2)

 
【原価計算と見積の基礎】2.製造原価の計算方法(1)では工場で発生する必要と製造原価の構成について説明しました。

ここでは間接製造費用と販管費、見積金額の計算について説明します。

間接製造費用も原価の一部です。そこでこれらの費用も製品の原価に組み込みます。

では、どうやって間接製造費用を原価に組み込むのでしょうか。
 

間接製造費用の分配1 製品に直接分配

 
最も簡単な方法は直接製造費用に何らかのルールで分配〈注1〉する方法です。

〈注1〉
本コラムでは、間接製造費用を割り振ることを「分配」と呼びます。会計では割り振ることを「配賦」と呼びます。この配賦も「割り当てる」という意味です。
会計では「配賦」のほかに「賦課」という言葉もあり、以下のように使い分けています。

配賦:製造原価を計算する際に、間接費を何らかの基準(配賦基準)を用いて振り分けること

賦課:製造原価を計算する際に、「何に」「どれだけ」使ったのかがわかる直接費を振り分けること

「直接費は賦課して、間接費は配賦する」という表現します。しかし、本コラムでは難しい会計用語を用いず、一般的な「分配」を使用します。

原価計算の本には、分配基準の例として以下のものがあります。

  • 直接材料費
  • 直接労務費
  • 直接製造費用
  • 直接活動時間
  • 機械稼働時間
  • 生産量
  • 売上高

これらの分配基準は一長一短があります。

例えば「直接材料費に比例して分配する方法」は、製品によって材料費の比率が異なると間接製造費用が変わってしまいます。

そこで本コラムはこのような問題の比較的少ない「直接製造費用に比例する方法」を使用します。直接製造費用に対する間接製造費用の比率を、本コラムは「間接費レート」と呼びます。

間接費レートは、決算書の直接製造費用合計と間接製造費用合計から計算します。

間接製造費用は、直接製造費用に間接費レートをかけて計算します。

間接製造費用=直接製造費用×間接費レート

製造費用は、直接製造費用と間接製造費用の合計です。

製造費用=直接製造費用+間接製造費用
    =直接製造費用×(1+間接費レート)

この方法は、どの製品も直接製造費用に比例して間接製造費用を計算します。

しかし現場によっては間接製造費用がたくさん発生した現場とそうでない現場があります。その場合、次の方法で間接製造費用を各現場に分配して原価を計算します。
 

間接製造費用の分配2 各現場に分配

 
間接製造費用を部門別に計算し、各現場に分配する方法です。

例えばA社では、資材発注部門は、原材料を使う加工や組立の現場には関係しますが、検査や設計には関係しません。
そこで資材発注部門の費用は、加工と組立の現場に分配します。

このようにして各現場の直接製造費用と間接製造費用を計算し、その合計からアワーレートを計算します。これを図1に示します。

図1 間接製造費用の分配

 

財務会計の計算方法

 
財務会計では、この部門別の費用の計算は以下のように行います。

  1. 水道光熱費、消耗品費、修繕費などを各現場と間接部門に分配する
  2. 共用部の減価償却費、保険料、賃借料など共用部の費用を何らかの
    分配基準で各現場と間接部門に分配する(分配基準の例 人数、床専有面積、光熱費など)
  3. 間接部門の費用を各現場に分配

実際は、消耗品費や水道光熱費などは、各現場や間接部門がどれだけ使っているのか正確にはわかりません。またこれらの費用を各現場や部門に分配しても金額は低いので、そこに労力をかけてもメリットは多くありません。
 

直接時間、又は直接製造費用に比例して分配

 
そこで本コラムは、間接製造費用(製造経費と間接部門費用)は各現場の「直接時間」、または「直接製造費用」に比例して分配します。

例えば、A社の資材発注の費用は、加工と組立の各現場それぞれの直接製造費用に比例して分配します。ただし特定の現場が多く消費している費用があれば、その現場の費用を増やします。
 

間接製造費用を含んだアワーレート

 
こうして計算した間接製造費用と直接製造費用を現場毎に合計し、稼働時間で割ってアワーレートを計算します。

なお本コラムは、直接製造費用から計算したアワーレートと、直接製造費用と間接製造費用の合計から計算したアワーレートを区別するために、これをアワーレート間(人)、アワーレート間(設備)と表記します。


アワーレート間(人)の計算方法は、【原価計算と見積の基礎】4.人のアワーレートの計算方法

アワーレート間(設備)の計算方法は、【原価計算と見積の基礎】5.設備のアワーレートの計算方法(1)

6.設備のアワーレートの計算方法(2)

で説明します。
 

製造費用の計算式

 

間接製造費用を含んだ製造費用は以下の式で計算されます。

製造費用(人)=アワーレート間(人)×製造時間(人)
 
製造費用(設備)=アワーレート間(設備)×製造時間(設備) 

製造費用(人+設備)=製造費用(人)+製造費用(設備)

本コラムでは、製造費用は製造費用(人+設備)を指します。もし人と設備が同じ時間製造すれば、製造費用は以下の式になります。

製造費用=(アワーレート間(人)+アワーレート間(設備))×製造時間
    =(アワーレート間(人+設備))×製造時間 

ここでアワーレート(人+設備)は、アワーレート間(人)とアワーレート間(設備)を合計したものです。
 

A社のアワーレート間

 

この方法で計算したA社のアワーレート間(人)、アワーレート間(設備)を表1の右側に示します。

表1 アワーレート間(人)、アワーレート間(設備) 単位 : 円/時間

アワーレート アワーレート間
設備 設備
マシニングセンタ1(小型) 2,380 900 3,360 1,720
マシニングセンタ2(大型) 2,380 1,800 3,420 2,850
NC旋盤 2,380 700 3,150 1,470
ワイヤーカット 2,250 400

2,400 ※550 (890)
出荷検査 1,720

2,350
組立 1,530

1,920
設計 2,750

3,220

※ ワイヤーカットは段取のアワーレート、( )内は加工のアワーレート


マシニングセンタ1(小型)の現場のアワーレート間(人)は、

(直接製造費用のみの)アワーレート(人) : 2,380円/時間

(間接製造費用を含めた)アワーレート間(人) : 3,360円/時間

間接製造費用を含めると980円/時間増加しました。

アワーレート間(設備)は、

(直接製造費用のみの)アワーレート(設備) : 900円/時間

(間接製造費用を含めた)アワーレート間(設備) : 1,720円/時間

間接製造費用を含めると820円/時間増加しました。
 

製造原価の計算

 

複数の工程で製造する場合は、各工程の製造費用を合計します。
 

A1製品の製造原価

 

図2に複数の工程で製造したA社 A2製品の例を示します。

図2 複数工程での原価

3工程の製造費用の合計は1,060円でした。製造原価は製造費用に材料費と外注費を加えたものです。

製造原価=材料費+外注費+製造費用 

図2は、材料費450円、外注費50円なので、

製造原価=450+50+1,060
    =1,560円

製造原価は1,560円でした。
 

見積金額の計算

 
販管費は製造原価に一定の比率(販管費レート)をかけて計算します。

販管費=製造原価×販管費レート 

製造原価に販管費を加えたものを本コラムでは「販管費込み原価」と呼びます。(会計では「総原価」と呼びます。)

販管費込み原価=製造原価+販管費

見積金額は、販管費込み原価に目標利益を加えたものです。

目標利益は、販管費込み原価に「販管費込み原価利益率」をかけて計算します。

目標利益=販管費込み原価×販管費込み原価利益率

見積金額=販管費込み原価+目標利益 

販管費込み原価利益率の計算については、【原価計算と見積の基礎】8.販管費と利益の計算で説明します。
 

販管費、目標利益、見積金額

 

A社 A1製品 (マシニングセンタ1(小型)で製造)の原価、販管費、目標利益を図3に示します。

図3 見積金額

A社は、販管費レート25%、販管費込み原価利益率は8.7%でした。

販管費=製造原価×販管費レート
   =760×0.25=190円

販管費込み原価=製造原価+販管費
       =760+190=950円

目標利益=販管費込み原価×販管費込み原価利益率
    =950×0.087=83≒80円

見積金額=販管費込み原価+目標利益
    =950+80=1,030円

見積金額は1,030円でした。

アワーレートはどうやって計算するのでしょうか。

アワーレート(人)の計算方法は【原価計算と見積の基礎】4.人のアワーレートの計算方法で説明します。

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ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

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【原価計算と見積の基礎】2.製造原価の計算方法(1)

 
【原価計算と見積の基礎】1.なぜ原価が必要なのか? では、工場が儲かっているかどうかの「ものさし」として、原価の必要性を説明しました。ここでは原価計算の方法について説明します。

製造業では、会社に入ってくるお金は製品の売上です。会社の費用はこの売上から賄われます。この費用が増えれば利益が減少します。

つまり会社の費用が増加することは、原価が増えることです。

言い換えれば「会社で発生する費用はすべて原価」です。つまり「ボールペン1本買っても原価は増える」のです。

この費用にはどのようなものがあるのでしょうか?
 

発生する費用はすべて決算書に書かれている

 
会社に入ってくるお金(売上)と出るお金(費用)、そして残るお金(利益)は、決算書に記載されています。

この決算書には図1に示す損益計算書、製造原価報告書があります。

図1 決算書の構成

この決算書の費用について、以下に説明します。
 

材料費

 
材料費は、製造原価報告書の材料費に計上されます。材料費は図2に示すようなものがあります。

図2 材料費


 
〈原材料〉

原材料には、原料と材料があります。

原料:製造工程で性質が変わるものです。

例えば、樹脂原料は粒上のペレットですが、成型機を通すことで
樹脂製品に変わります。

材料:製造工程で基本的に性質が変わらないものです。

鋼材は、加工機で切削することで形は変わりますが、
鋼材の性質は変わりません。

   ただし熱処理をすれば硬さは変わります。しかし硬さ以外は原型も性質もとどめているので、材料のままと考えます。

〈部品〉
購入した状態のまま使用するものです。

部品には、製造先によって購入品(メーカー)、外注品(外注)、内製品(社内)の3種類があります。

部品の中には、ボルトやピンのように使用量が多く、ひとつの製品に何個使用したのか管理していないものがあります。

その場合、材料費でなく工場消耗品(製造経費)とすることもあります。

〈工場消耗品〉
補修用材料、洗浄剤、オイル、燃料、包装資材など、生産活動に伴って消費されるものです。

多くは製品1個にどのくらい使用されているのかわかりません。あるものが原材料か、工場消耗品なのかは、企業によって変わります。

例えば、組立工場では塗料は消耗品ですが、塗装工場では、塗料は原価に占める割合が高いため原材料です。

〈消耗工具器具備品〉
スパナなどの工具や切削・研削工具などの刃物、測定工具など、資産にならない少額の工具や備品です。

機械加工工場は、切削・研削工具の消耗が激しく、これらは材料費とすることもあります。
また特定の製品で激しく消耗する工具は、その製品固有の材料費にすることもあります。

製品1個の材料費は以下の式で計算します。

材料費=単価×使用量 
 

外注費

 
メッキ、塗装、焼入れなど製造工程の一部を社外に委託した費用です。大抵の場合、製品1個の外注費は明確です。

一方、外注先に支払う費用がすべて外注費とは限りません。中には、材料費や労務費もあります。これを図3に示します。

図3 外注先に支払う費用とその区分

外注に支払う費用には以下のものがあります。

〈材料費〉
外注先が仕入れた材料、部品を購入。
外注先が購入した材料を外注先が加工し完成部品として納入。

これらは会計上は材料費ですが、外注費に仕分けされることもあります。

〈外注費〉
外注先に材料(又は半加工品)を支給して、製造の一部を委託し、完成品、又は半加工品として納入。

〈労務費〉
外注先の社員が自社に来て、自社の工場内で製造の一部を請け負えば、これは派遣社員と同様に労務費です。

組立工程の一部を外注先に委託した場合、外注先の社内で行えば外注費ですが、外注先の社員が自社に来て作業すれば労務費です。

外注先に支払った費用でも、このように内容によっては材料費・外注費・労務費です。

しかし全部外注費として決算書に計上されていることもあります。財務会計上は問題ありませんが、原価計算では内容に応じて分ける必要があります。

また受注が増えたため、一部の製品の製造を外注に委託することがあります。その結果、同一製品で内製と外注の2つの原価ができます。この場合、元々内製の製品であれば内製の原価とします。

外注に出して原価が上がった場合は、「実績原価が上がった」と考えます。
 

労務費

 
製造原価報告書の労務費は、製造部門や間接部門など工場で働いている人たちの人件費です。
製品1個つくるのにかかった労務費は、作業者の1時間当たりの費用(アワーレート(人))に〈注1〉製造時間をかけて計算します。

労務費=アワーレート(人)×製造時間

A社の現場〈注2〉には図4に示す人たちがいました。

図4 製造現場の人たち


〈注1〉アワーレートは、チャージ、賃率、ローディングなどと呼ばれることもあります。意味は同じなので本コラムではアワーレートとします。アワーレートの時間単位は、1時間(円/時間)の他、1分(円/分)、1秒(円/秒)があります。

〈注2〉本コラムではアワーレートを計算する組織の単位を「現場」と呼びます。同じ部署でも設備の種類が異なりアワーレートも異なれば別の現場とします。
例えば、製造1課にマシニングセンタとNC旋盤があれば、現場1はマシニングセンタ、現場2はNC旋盤とします。

自社が雇用:
正社員、パート社員、実習生他にシニア社員を定年後、嘱託やアルバイトとして雇用する場合もあります。社長など役員が現場で作業していれば、役員報酬(販管費)の一部も原価計算では労務費です。

他社が雇用:
派遣社員や社内外注・請負これらが製造原価の労務費です。一方、図5に示す
派遣社員や社内外注の費用は、外注費や製造経費に計上されていることもあります。

図5 労務費以外に計上される人の費用

自社で雇用する人の費用の内訳:
正社員、パート社員、実習生、嘱託・アルバイトなど、自社が直接雇用する人の費用には以下のものがあります。

  • 賃金・給与
  • 退職金 (又は退職引当金)
  • 賞与 (又は賞与引当金)
  • その他手当
  • 法定福利費
  • 福利厚生費
  • 雑給

法定福利費や福利厚生費は、製造原価と販管費を分けずに、すべて販管費に計上されていることもあります。
また実習生に関する費用は労務費でなく製造経費の場合もあります。

派遣社員、社内外注など他社が雇用する費用:
派遣社員の費用は、企業によって労務費、外注費、製造経費など計上の仕方が異なります。また社内外注や請負は、外注費に計上されることがあります。

その場合、外注先が社内外注と加工外注の両方を行っていれば、加工外注の費用と社内外注の費用が一緒になっています。
原価計算では、外注費と労務費に分けます。

このように原価計算では人の費用は、決算書の費目を確認して適切に分類します。
 

製造経費

 
工場で発生する費用の内、材料費、労務費、外注費以外は、製造経費です。
ただし、総務、経理や営業など、製造に直接関係しない費用は販管費です。

製造経費には図6に示すようなものがあります。

図6 製造経費


 

販管費

 
販管費(販売費及び一般管理費)は、会社で発生する費用のうち製造に直接関係しない費用です。

これは図7に示すものがあります。

製造に直接関係しない費用とは何でしょうか。これは以下の2つです。

販売費 商品や製品を販売するための費用「販売費」
一般管理費 会社全般の業務の管理活動にかかる費用「一般管理費」

図7 販管費

工場では日々これらの費用が発生します。

原価を計算するためには、これらの費用を元に製品1個あたりの原価を計算しなければなりません。

この原価の構成はどうなっているのでしょうか。
 

製造原価の計算

 

製造原価の構成

 
図8にA社 A1製品の製造原価を示します。

図8 A1製品の製造原価の構成

A1製品は、材料費330円、外注費50円、製造費用380円でした。
製造原価は、材料費、外注費、製造費用の合計760円でした。

製造費用380円の内訳は、直接製造費用(人)、直接製造費用(設備)、間接製造費用です。

【直接製造費用】
製品を製造するのに直接携わった人や設備の費用で、その中で製品1個製造するのにどのくらい発生したのか、はっきりとわかる費用です。
これには人と設備の費用があります。

直接製造費用(人) : 人が直接関与して製造した費用
直接製造費用(設備) : 設備が直接関与して製造した費用

【間接製造費用】
物流や資材受入など製造に間接的に関わった人の費用です。加えて工場で発生する様々な費用(製造経費)も間接製造費用です。

また製造に直接かかわった費用でも、製品1個にどのくらいかかったのか正確にわからなければ、間接製造費用とします。
 

直接製造費用(人)とアワーレート(人)

 
直接製造費用(人)は、以下の式で計算します。

直接製造費用(人)=製造時間(人)×アワーレート(人)

製造時間(人) : 製品1個を製造するのにかかった人の時間
アワーレート(人) : 作業者1人が1時間作業した時に発生する費用

アワーレート(人)の計算は【原価計算と見積の基礎】4.人のアワーレートの計算方法で説明します。
 

設備の直接製造費用とアワーレート

 
直接製造費用(設備)は、製造にかかった設備の費用です。

直接製造費用(設備)=製造時間(設備)×アワーレート(設備)

製造時間 (設備) : 製品1個を製造するのにかかった設備の時間
アワーレート(設備) : 設備1台が1時間稼働した時に発生する費用

アワーレート(設備)の計算は【原価計算と見積の基礎】5.設備のアワーレートの計算方法(1)【原価計算と見積の基礎】6.設備のアワーレートの計算方法(2)で説明します。

例として、A社の現場毎のアワーレート(人)、アワーレート(設備)を表1に示します。

表1 A社の現場毎のアワーレート  単位:円/時間

アワーレート(人) アワーレート(設備)
マシニングセンタ1(小型) 2,380 900
マシニングセンタ2(大型) 2,380 1,800
NC旋盤 2,380 700
ワイヤーカット 2,250 400
出荷検査 1,720
組立 1,530
設計 2,750

現場によって、人件費や設備の費用が異なります。そのため、アワーレート(人)、アワーレート(設備)も現場によって異なります。
 

多品種少量生産では段取時間も見積に入れる

 
段取とは、品種の切替のことです。〈注3〉
 


〈注3〉段取は、大きく分けて以下の2種類があり内容は異なります。

(1) (すでに実績のある製品の) 品種の切替
(2) (過去に実績のない製品の) 生産準備

(1)の段取は、金型、材料、刃物、加工治具の交換、加工プログラムの切替、テスト加工と品質確認などを行います。

(2)の段取は、(1)に加え加工プログラムの作成やテスト加工、プログラムの修正などを行います。

プレス加工、樹脂成形加工のような量産工場は、段取は(1)を指します。段取の手順は決まっていて、できる限り早く行います。

一方、多品種少量生産や単品生産の工場は、段取は(2)のこともあります。

初めて製造する場合、プログラムや加工条件が適切でなければ不良品をつくってしまいます。従ってスピードだけでなく、的確な作業が求められます。

 

製品1個当たりの段取時間は

従って、ロット数が多ければ1個当たりの段取時間は短くなります。段取も含めた製造時間は、1個当たりの段取時間と1個の加工時間の合計です。

 

間接製造費用の分配

 
 

付加価値について

 
製造業は、材料を仕入れて製品に加工する事業です。

例えばA社は材料を330円で仕入れ外注に50円払って加工してもらいました。それを社内でA1製品に加工して1,000円で顧客に納入しました。(図9)

この時、工場が生み出した付加価値は、製品の価格1,000円から社外に払った費用(材料費と外注費の合計)380円を引いた620円です。

付加価値=売上-社外に払った費用

図9 付加価値


 

直接作業者と間接作業者

 
この付加価値を生む人が直接作業者です。
工場にはこの直接作業者以外に、ものを運んだり、生産管理といった付加価値を直接生まない人もます。その人たちを本コラムでは間接作業者と呼びます。

間接作業者の費用は間接製造費用です。
 

直接製造設備と補助的に使用する設備

 
多くの設備は「削る、穴を開ける」などの付加価値を生みます。こういった設備は直接製造設備です。

また設備には常時生産に使用され付加価値を生む設備以外に、たまにしか使われない設備もあります。

例えば、製品のひずみ取りに使用する油圧プレスは、製品にひずみが出た時だけ使用されます。製造工程が安定してひずみが出なければ使いません。

本コラムでは、このような設備を「補助的に使用する設備」と呼びます。

補助的に使用する設備は、どの製品にどのくらい使われたのか正確にわかりません。そのため、このような設備の費用は間接製造費用です。

言い換えると付加価値を生まない人や設備は「稼いでいない」人や設備です。しかし稼いでいない人や設備も良い製品をつくるには必要です。ただし、稼いでいない人や設備が増えれば、原価が高くなります。
 

具体的な間接製造費用

 
この間接製造費用を図10に示します。

図10 間接製造費用

【人の費用 (労務費) 】

  • 現場で生産準備や後処理など補助作業を行う作業者
  • 現場の管理者
  • 倉庫や工場内の物流(フォークリフトの運転)を行う作業者
  • 生産管理、品質管理など間接部門

 

【人以外の費用 (製造経費) 】

  • 現場にある直接製造設備以外の設備(補助的に使われる設備)
  • 測定機、フォークリフトなど間接部門の設備
  • クレーン、空調機など工場の共用設備
  • 工場の光熱費、借地代、税金などの費用

 
これらの間接製造費用も原価の一部です。そこでこれらの費用も製品の原価に組み込みます。

では、どうやって間接製造費用を原価に組み込むのでしょうか。

これは【原価計算と見積の基礎】3.製造原価の計算方法(2)で説明します。

経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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【製造業の値上げ交渉】5. 電気代が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?

 
クイズです。

ある会社(A社) 受注金額1,000円の製品で、電気代が30%上昇した時、原価はどれだけ高くなるでしょうか?

1. 5円  
2. 9円  
3. 20円

正解は2.の9円でした。電気代上昇の影響は意外と大きかったのではないでしょうか?

これは架空のモデル企業の場合でしたが、自社ではどうでしょうか?
 

資源価格の高騰と電気代の変化

 
日本の場合、電気、ガスなどのエネルギー費は原油や天然ガスの価格に影響されます。この原油や天然ガスは、ロシアの産出量も多く、ウクライナ戦争の影響で価格が上昇しました。また大半が輸入のため為替の影響も受けます。また原油は市場で取引されますが、時には投機マネーが流入して価格が大きく跳ね上げることもあります。

2000年から2023年の間の原油価格の推移を図1に示します。

図1 原油価格の推移

図1 原油価格の推移

天然ガスの価格も図2のように乱高下しています。

図2 天然ガスの価格の推移

図2 天然ガスの価格の推移

その結果、電気代も上昇しています。電気代(kWh単価)は、2020年から3年間で2.1倍になりました。

図3 電気代の推移

図3 電気代の推移

これにより原価はどれだけ上昇したでしょうか?
 

電気代の上昇によるアワーレートの上昇

 
電気代が上昇した場合、以下の2つが増加します。

  • アワーレート(設備)の計算に電気代が含まれている場合、その分の電気代の上昇
  • 共用部分の電気代が上昇し、それによってる間接製造費用の分配つが増加

これについて架空のモデル企業A社 NC旋盤の現場のアワーレートと原価を計算します。

モデル企業A社の詳細は「製造業の値上げ交渉1 個々の製品の原価はいくらなのだろうか?」を参照願います。
 

設備のアワーレートの上昇

 
A社 NC旋盤の現場

NC旋盤1台の年間電気代 : 23.2万円

電気代30%増加した場合 

増加後のNC旋盤1台の電気代=23.2×(1+0.3)=30.2万円

NC旋盤の現場は、4台のNC旋盤がありました。この現場の平均アワーレート(設備)は
平均アワーレート(設備)の計算

  • 値上げ前 : 700円/時間
  • 30%上昇後 : 740円/時間

40円/時間増加しました。

一方共用部分の電気代も上昇します。A社の年間の電気代は1,300万円、このうち共用部分の電気代は756万円でした。この756万円も30%増加します。

そのため、間接製造費用の分配は544万円→568万円と24万円増加しました。この間接製造費用の分配については「製造業の値上げ交渉3 間接費用や販管費も原価に含まれるのだろうか?」を参照願います。

従ってアワーレート間(設備) 〈注〉は
アワーレート間(設備)の計算


〈注〉本コラムでは、間接製造費用を含んだアワーレートを区別するために、

  • 直接製造費用のみのアワーレート : アワーレート(人)、アワーレート(設備)
  • 間接製造費用を含んだアワーレート : アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)

と表記します。
またアワーレートは、直感的に理解しやすいように一桁目を四捨五入しています。(正確さよりもわかりやすさを重視しています。) 実際の計算では正確な数字を使用願います。

間接製造費用も含めるとアワーレート間(設備)は

  • 値上げ前 : 1,470円/時間
  • 30%上昇後 :1,550円/時間

80円/時間増加しました。
 

人のアワーレートの上昇

 
共用部分の電気代が上昇によって間接製造費用が増加すると、アワーレート間(人)も上昇します。NC旋盤の現場の人の間接製造費用分配は設備と同じ568万円でした。

その結果、アワーレート間(人)は
アワーレート間(人)の計算

  • 値上げ前 : 3,150円/時間
  • 30%上昇後 :3,180円/時間

30円/時間増加しました。
 

電気代の上昇による原価・見積金額の増加

 
このアワーレートの上昇により原価はどうなるのでしょうか?

A社のA1製品の原価と見積金額を計算します。
 

製造原価

 
A1製品

  • 製造時間 : 0.075時間
  • アワーレート間(人) : 3,180円/時間
  • アワーレート間(設備) : 1,550円/時間

アワーレート間(人+設備)の計算
製造費用の計算
その結果、製造原価は
製造原価の計算
製造費用は

  • 値上げ前 : 726円
  • 30%上昇後 : 735円/時間

9円増加しました。
 

見積金額

 
販管費は製造原価に比例して計算するため、販管費も増加します。

A社の販管費レート : 0.25
見積金額の計算

販管費も増加したため、見積金額は

  • 値上げ前 : 988円
  • 30%上昇後 : 999円/時間

11円増加しました。これを図4に示します。

図4 電気代の上昇による見積金額の増加

図4 電気代の上昇による見積金額の増加


 

金額は低いが利益への影響は大

 
見積金額は988円から999円と11円増加しました。11円は988円に比べれば小さな金額です。値上げをお願いすると「それぐらい企業努力で何とかしてくれませんか」と言われかもしれません。

しかし電気代が30%上昇し、経費が390万円増加したのは事実です。この11円の値上げができなければ、390万円の利益を喪失します。11円の値上げは、実際の電気代の上昇に基づく金額であることを伝えて、この金額だけは認めてもらうようにします。

その際、販管費や利益の増加分2円を認めてもらうのは難しいかもしれません。しかしA社は製造原価の25%の販管費が発生しているのは事実です。新たに見積をする場合は、販管費は184円になります。

販管費の増加分を認めてもらうのが難しければ、製造費用の上昇分9円だけは認めてもらいます。
 

電気代以外の工場の経費の上昇

 
消耗品など工場で使用する工具や資材の価格も上昇しています。

例えば機械加工工場では、金属を切削する刃物(バイトやエンドミル)を毎月大量に消費します。刃物にはタングステンなどレアメタルを使用するものもあり、資源価格の上昇やウクライナ戦争によりロシアからの入手が困難になったため価格が上昇しました。

あるいは設備の老朽化により修理代が増えていることもあります。他にも工場の土地の賃借料や材料の運送費が上昇していることもあります。

これらは原価に影響するのでしょうか?
 

比率を計算すれば原価の上昇が計算可能

 
本コラムのアワーレート間の計算では、各現場に間接製造費用を分配して計算しました。

例えば、A社 NC旋盤の現場では間接製造費用の分配は544万円でした。この544万円は先期の決算書の費用を元に計算しました。

A社の決算書の製造経費は

  • 電気代 : 1,300万円
  • 消耗品費 : 400万円
  • 修繕費 : 300万円

でした。この比率から、NC旋盤の現場のアワーレート間(人)、アワーレート間(設備)に占める電気代、消耗品費、修繕費の比率が計算できます。

A社のNC旋盤の現場のアワーレート間(人)、アワーレート間(設備)に占める電気代、消耗品費、修繕費の比率を図5、図6に示します。

図5 A社のNC旋盤のアワーレート間(人)に占める費用の比率

図5 A社のNC旋盤のアワーレート間(人)に占める費用の比率

図6  A社のNC旋盤のアワーレート間(設備)に占める費用の比率

図6 A社のNC旋盤のアワーレート間(設備)に占める費用の比率

なおこの計算は弊社の個別原価計算システム「利益まっくす」値上げ計算シート(オプション)から行いました。

詳細は「原価計算システム『利益まっくす』」の紹介サイトを参照願います。
 

A1製品の値上げ金額の計算

 
この比率から、A1製品の値上げ金額を計算します。

A1製品の材料費330円 外注費50円 製造費用346円
 

A1製品の費用の内訳

 
製造費用346円の内訳を図7に示します。

図7 A1製品の費用の内訳

図7 A1製品の費用の内訳

A1製品の製造費用346円の内訳は

  • 人件費 : 224円
  • 設備償却費 : 28円
  • 電気代 : 31.7円
  • 消耗品費 : 13円
  • 修繕費 : 10円
  • その他 : 39円

でした。
 

値上げ金額の計算

 
例えば

  • 人件費 : 8%
  • 電気代 : 30%
  • 消耗品費 : 15%
  • 修理費 : 10%

増加した場合

人件費=224×0.08=17.9円

電気代=32×0.3=9.6円

消耗品費=13×0.15=2円

修繕費=10×0.1=1円

値上げ金額合計=17.9+9.6+2+1=30.5≒30円

製造費用は30円上昇します。

製造費用=346+30=376円

A1製品は
材料費 : 330円 
外注費 : 50円
なので、製造原価は
製造原価の計算
販管費は製造原価に比例して計算するため
A社の販管費レート : 0.25
見積金額の計算
見積金額は

  • 値上げ前 : 988円
  • 値上げ後 : 1,027円/時間

34円増加しました。これを図8に示します。

図8 人件費、電気代、消耗品費の上昇による見積金額の増加

図8 人件費、電気代、消耗品費の上昇による見積金額の増加

以上の計算は決算書の数値を元に計算したものであり、真実です。ただし、それだけの金額が値上げ交渉できるとは限りません。値上げ交渉は顧客が納得できる理由が必要だからです。

それでも様々な費用が上昇した結果、原価がどのように変わったのか知っておくことは価値があります。

一方値上げの資料にはどこまで記載すればよいでしょうか。

これについては【製造業の値上げ交渉】6. 値上金額は見積書にどのように入れればいいのだろうか?を参照願います。

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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【製造業の値上げ交渉】4. 人件費が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?

 
最低賃金が上昇し、人手不足もあって人件費が上昇しています。

また2022年以降、資源高、円安などの影響で物価も上昇しています。生活を維持するための賃上げも必要になってきました。
 

人件費の上昇

 
デフレが続く日本でも、これまでも人件費は上昇していました。

それは最低賃金が上がっているからです。

図1に2014年から2023年の間の最低賃金(全国加重平均)の推移を示します。

2014年から2023年の10年間で最低賃金は780円から1,004円と約3割(28.7%)上昇していました。

図1 10年間の最低賃金の推移

図1 10年間の最低賃金の推移

最低賃金は10年間で3割近くも上昇しています。

直近の3年間、2021年から2023年の間でも930円から1,004円と8%上昇しています。

加えて人手不足もあって、最近は最低賃金ではバート・アルバイトの雇用が難しくなっています。
 

賃金上昇でアワーレートは増加

 
人件費が上昇すれば、作業者の費用は増加します。さらに作業者の費用(直接製造費用)だけでなく、間接部門や販管費の人件費も上昇するため間接製造費用や販管費も押し上げます。

これにより原価はどれだけ増加するのでしょうか?
 

人件費の上昇によるアワーレートの上昇

 
架空のモデル企業A社を例に、会社全体の人件費が8%上昇した場合の原価の上昇を計算します。

モデル企業A社の詳細は「製造業の値上げ交渉1 個々の製品の原価はいくらなのだろうか?」を参照願います。
 

平均アワーレート(人) (直接製造費用)の上昇

 
このA社のNC旋盤の現場は、作業者は4人、直接作業者の平均アワーレート(人)は2,375円/時間でした。

このアワーレートの計算は「製造業の値上げ交渉2 我が社の人と設備のアワーレートはいくらなのだろうか?」を参照願います。

作業者4人の年間費用 : 1,672万円

人件費が8%上昇したため

作業者の年間費用=1,672×(1+0.08)=1,806万円

1,672万円が1,806万円に上昇しました。その結果
平均アワーレート(人)の計算

平均アワーレート(人)は、

  • 上昇前 2,380円/時間
  • 8%上昇 2,570円/時間

190円/時間増加しました。
 

間接部門費用も上昇

 
人件費が8%上昇したため、間接部門の労務費も増加します。その結果、NC旋盤の現場の間接製造費用の分配は、544万円から571万円に増加しました。

これにより間接製造費用を含んだアワーレート間(人)は〈注〉
間接製造費用を含んだアワーレート間(人)


〈注〉本コラムでは、間接製造費用を含んだアワーレートを区別するために、

  • 直接製造費用のみのアワーレート : アワーレート(人)、アワーレート(設備)
  • 間接製造費用を含んだアワーレート : アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)

と表記します。
またアワーレートは、直感的に理解しやすいように一桁目を四捨五入しています。(正確さよりもわかりやすさを重視しています。) 実際の計算では正確な数字を使用願います。

アワーレート間(人)は、

  • 上昇前 3,150円/時間
  • 8%上昇 3,380円/時間

230円/時間増加しました。
 

アワーレート間(設備)も上昇

 
間接製造費用分配の増加は、アワーレート間(設備)にも影響します。

NC旋盤の現場の設備の間接製造費用の分配も544万円から571万円に増加しました。
間接製造費用を含んだアワーレート間(設備)

アワーレート間(設備)は、

  • 上昇前 1,470円/時間
  • 8%上昇 1,510円/時間

40円/時間増加しました。

このアワーレート間の上昇により原価はどう変わるでしょうか?
 

A1製品の原価

 
A社 A1製品の原価を計算します。

  • 製造時間 : 0.075時間
  • アワーレート間(人) : 3,380円/時間
  • アワーレート間(設備) : 1,510円/時間

アワーレート間(人+設備)の計算
製造費用の計算

製造費用は、

  • 上昇前 346円
  • 8%上昇 367円

21円増加しました。

その結果、製造原価は
製造原価の計算

製造原価も21円増加しました。
 

販管費の増加と見積金額

 
人件費の上昇により販管費の労務費も増加します。A社の販管費は7,700万円が7,868万円に増加しました。
 

販管費レートは増加するとは限らない

 
ただし、A社の場合、販管費の増加以上に製造原価が増加しました。その結果、販管費レートは25%から24.7%と、むしろ減少しました。
 

実際の販管費と見積金額

 
人件費8%上昇後の見積金額は、製造原価は747円なので
見積金額の計算

見積金額は

  • 上昇前 988円
  • 8%上昇 1,013円

25円増加しました。これを図2に示します。

図2 人件費の上昇による見積金額の上昇

図2 人件費の上昇による見積金額の上昇

このように人件費の上昇は原価全体に影響します。
 

3年前に見積した製品も高くなっている可能性

 
時給が最低賃金と同期して上がっている場合、3年前に988円で見積した製品は、現在は25円値上げしなければ、目標の利益が得られません。もしギリギリの価格で受注していた場合、今は赤字になっている可能性もあります。

この値上げ金額の計算は、利益まっくすの値上げ計算シートを使って計算することができます。

では、人件費以外に電気代や消耗品が上がった場合、原価はどうなるのでしょうか?

これについては【製造業の値上げ交渉】5. 電気代が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?」を参照願います。

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【製造業の値上げ交渉】3. 間接費用や販管費も原価に含まれるのだろうか?

 
【製造業の値上げ交渉】2. 我が社の人と設備のアワーレートはいくらなのだろうか?」で人と設備のアワーレートの計算方法を説明しました。

原価を計算するには、各現場の費用に間接製造費用を加えたアワーレート間〈注1〉を計算する必要があります。

では、このアワーレート間はどうやって計算するでしょうか?


〈注1〉本コラムでは、間接製造費用を含んだアワーレートを区別するために、

  • 直接製造費用のみのアワーレート : アワーレート(人)、アワーレート(設備)
  • 間接製造費用を含んだアワーレート : アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)

と表記します。
またアワーレートは、直感的に理解しやすいように一桁目を四捨五入しています。(正確さよりもわかりやすさを重視しています。) 実際の計算では正確な数字を使用願います。

 

直接製造費用と間接製造費用

 
工場の費用は、直接製造費用と間接製造費用があります。
 

直接製造費用

 
ある製品を製造するのにどのくらいかかったのかが明確にわかる費用
(これは人の費用と設備の費用があります)
 

間接製造費用

 
どの製品にどのくらいかかったのかが明確にわからない費用
(間接部門の費用や消耗品など、他に工場全体で発生する費用)

図1 直接製造費用と間接製造費用

図1 直接製造費用と間接製造費用

この間接製造費用は意外と多く、原価のかなりの割合を占めます。

そこで各現場のアワーレートは、その現場の直接製造費に間接製造費用を加えて計算したアワーレート間を使用します。そのためには間接製造費用を各現場に分配〈注2〉する必要があります。これはどうすればよいでしょうか?


〈注2〉
これは固定費の配賦とも呼ばれます。本コラムでは難しい会計用語は使用せず、一般的な「分配」と呼びます。

 

間接製造費用の分配

 

間接製造費用の分配は、本コラムは以下のように行います。

  • 間接部門の費用は労務費のみとする。
  • 間接部門の費用は、その部門が関与する現場のみに分配する。
  • 製造経費は間接部門には分配せず、各現場に直接分配する。

これは各現場の直接時間、又は直接製造費用に比例して分配します。
 

分配の考え方

直接製造費用に比例して分配

直接製造費用の大きい現場には、間接製造費用を多く分配します。直接製造費用が大きい現場は、生み出す付加価値が高くたくさん稼ぐはずなので、間接製造費用をたくさん負担してもらう考え方です。

直接製造時間に比例して分配

直接製造時間の大きい現場に間接製造費用を多く分配します。直接製造時間が大きい現場は、工場の資源(リソース)を多く使用し、生み出す付加価値も高いと考え、その分間接製造費用をたくさん負担してもらう考えです。

どちらの分配ルールを採用するかでアワーレート間は変わりますが、どちらが正解ということはないので、自社に合った方法を選択します。
 

アワーレート間の計算

 
アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)は、以下の式で計算します。
アワーレート間(人)の計算式

アワーレート間(設備)の計算式
では、架空のモデル企業A社(機械加工)のNC旋盤の現場のアワーレート間を計算します。
 

実際の計算

 
モデル企業A社の詳細は「製造業の値上げ交渉1 個々の製品の原価はいくらなのだろうか?」を参照願います。
 

アワーレート間(人)

 
NC旋盤の現場の人の費用とアワーレート間(人)を図2に示します。

NC旋盤の現場の作業者は4人、4人の人件費の年間合計は1,672万円でした。就業時間と稼働率は4人とも
就業時間 : 2,200時間
稼動率 : 0.8
でした。

図2 NC旋盤の現場の人の費用とアワーレート間(人)

図2 NC旋盤の現場の人の費用とアワーレート間(人)

A社は直接製造費用に比例して間接製造費用を分配しました。その結果、NC旋盤の人の現場の間接製造費用の分配は544万円でした。アワーレート間(人)は

アワーレート間(人)の計算

でした。

NC旋盤の現場は
アワーレート(人) : 2,380円/時間
アワーレート間(人) : 3,150円/時間
間接製造費用を分配したことでアワーレートは770円/時間 高くなりました。
 

アワーレート間(設備)

 
NC旋盤の現場の設備の費用とアワーレート間(設備)を図3に示します。

NC旋盤の現場には4台のNC旋盤があり、実際の償却費、電気代、操業時間、稼働率は4台とも以下の値でした。
実際の償却費 : 100万円
電気代 : 23.2万円
操業時間 : 2,200時間
稼動率 : 0.8

図3 NC旋盤の現場の設備の費用とアワーレート間(設備)

図3 NC旋盤の現場の設備の費用とアワーレート間(設備)

NC旋盤の現場の設備の間接製造費用分配は、544万円でした。

アワーレート間(設備)の計算

NC旋盤の現場
アワーレート(設備) : 700円/時間
アワーレート間(設備) : 1,470円/時間
間接製造費用を分配したことでアワーレートは770円/時間 高くなりました。

実は見積金額を計算するには、販売費及び一般管理費も入れる必要があります。
 

これも必要、販売費及び一般管理費

 
企業で発生する費用のうち、製造に直接関係しない費用が販売費及び一般管理費 (以降、販管費)です。これは以下の二つの費用です。

  • 販売費   : 商品や製品を販売するための費用
  • 一般管理費 : 会社全般の業務の管理活動にかかる費用

図4 販管費の例
図4 販管費の例

工場の人や設備の大半は製造のためのものです。一般管理費といってもその大半は製造のための管理費です。会計上の扱いが異なるため、製造原価と販管費は分けていますが、販管費がなければ工場は成り立ちません。
 

販管費も含めた金額が本当の原価

 
従って製造原価に販管費を加えたものが本当の原価です。会計ではこれを「総原価」と呼びます。本コラムではこれを「販管費込み原価」と呼ぶことにします。

販管費込み原価=製造原価+販管費

最近は中小企業も管理業務が増え、多くの中小企業は販管費が売上高の15~30%を占めています。従って、見積には販管費も入れて、必要な利益が出るような金額にします。
 

先期の決算書から比率を計算

 
それぞれの製品の販管費は、製造原価に一定の比率をかけて計算します。本コラムではこれを「販管費レート」と呼びます。

販管費レートは以下の式で計算します。
販管費レートの計算式

販管費=製造原価×販管費レート 
 

ではA社の実際の販管費レートを計算します。

実際の販管費レートの計算

 
A社の製造原価と販管費は先期の決算書から
製造原価 3億960万円  販管費 7,700万円 
販管費レートの計算

販管費レートは25%でした。

見積金額は、この販管費込み原価に目標利益を加えて計算します。

見積金額=販管費込み原価+目標利益

では目標利益はいくらでしょうか。
 

目標利益

 
目標利益の決め方は企業によってそれぞれのやり方があります。参考までに前年度の営業利益率から計算する方法を紹介します。
 

目標営業利益率から計算する方法

 
先期の営業利益率は以下の式で計算します。
先期の営業利益率の計算式

例えば、先期の営業利益率は3%、今期の目標営業利益率を8%としました。

見積書の目標利益は、図5に示すように販管費込み原価から計算します。そこで販管費込み原価に対する利益率(販管費込み原価利益率)を計算します。

図5 A社の売上高、製造原価、販管費と利益

図5 A社の売上高、製造原価、販管費と利益

販管費込み原価利益率は、以下の式で計算します。
販管費込み原価利益率
 

実際の利益率の計算

 
図5から先期の営業利益率は3%、それを元に今期の目標営業利益率を8%とした場合
販管費込み原価利益率

販管費込み原価利益率は8.7%でした。

目標利益は、販管費込み原価に販管費込み原価利益率をかけて計算します。

目標利益=販管費込み原価×販管費込み原価利益率 

実際にある製品A1製品の見積金額を計算します。
 

A1製品の見積金額の計算

 

A1製品の製造原価は726円でした。

A1製品の見積金額

987円で受注すれば、製造原価、販管費をカバーして、さらに79円の利益が得られます。これを図6に示します。

図6 A1製品の原価の構成

図6 A1製品の原価の構成


 

原価は真実

 
以上の方法で計算した原価は、実際に工場で発生した費用(先期のですが)を元に計算した金額です。従ってこの原価は「真実」といえます。ただし間接製造費用の分配方法などが変われば原価は変わります。つまり真実ですが「唯一の値」ではありません。
 

この金額で受注しなければ目標利益は達成できない

 
製造業は人や設備が生産することで付加価値を生みます。しかし人や設備の生産能力には限りがあります。

当初想定した稼働率で人や設備が1年間生産すれば、目標の売上や利益を達成します。一方想定以上に受注があっても急に生産を増やすことはできません。(外注化すれば売上は増えますが付加価値は多くありません。)

つまり人や設備によって生産量が限られるため、会社が利益を出すにはひとつひとつの製品で利益がなければなりません。

この点が店舗や人を増やさなくても販売量を大きく増やすことができる小売業や卸売業と違う点です。小売業や卸売業は価格を下げて販売が大きく伸びれば利益は増えるからです。
 

さまざまな費用が上昇し原価が高くなっている場合

 
従ってそれぞれの受注で利益があるのか、管理する必要があります。

今日さまざまな費用が上がっています。改めて原価を計算すると赤字になっている製品があるかもしれません。

では、費用が上がると原価はどれだけ高くなるのでしょうか?

これについては以下のコラムを参照願います。

【製造業の値上げ交渉】4. 人件費が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?

【製造業の値上げ交渉】5. 電気代が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?を参照願います。

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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【製造業の値上げ交渉】2. 我が社の人と設備のアワーレートはいくらなのだろうか?

 
【製造業の値上げ交渉】1. 個々の製品の原価はいくらなのだろうか?で、製造原価の計算方法を説明しました。

ここでは人や設備のアワーレートの計算方法を説明します。

アワーレートは1時間当たりの費用です。

人のアワーレート「アワーレート(人)」は時給と違うのでしょうか?
 

アワーレート(人)の計算方法

 
違いは稼働率が入っていることです。

アワーレート(人)は、人の年間費用を年間の就業時間と稼働率で割って計算します。
 

人の年間費用

 
会社がその人に支払った費用の年間の合計です。これは賞与や各種手当を含めた年間の総支給額に、会社が負担した社会保険料を加えた額です。
 

年間就業時間

 
残業も含めた勤務時間の年間合計です。

有給を取った場合、その間は生産していない(お金は稼いでいない)ので、有給は年間就業時間には入れません。(有給の分だけ年間就業時間は短くなるため、アワーレートは高くなる。)
 

稼働率

 
就業時間のうち、実際に付加価値を生み出している時間の割合です。

付加価値を生んでいる時間とは、図1の段取時間と生産時間です。

図1に示すように、1日の就業時間の中にはトイレのため離席したり、資材を探しに行ったりなど、付加価値を生み出していない「お金を稼いでいない時間」があります。

図1 直接作業者の1日の例
図1 直接作業者の1日の例

付加価値を生んでいない時間も費用は発生しています。そこでアワーレートを計算する時間は、就業時間から付加価値を生んでいない時間をマイナスします。本コラムはこれを稼働時間と呼びます。

稼働時間は年間就業時間に稼働率をかけて計算します。

稼働率という言葉は様々な意味で使われます。本書では稼働率は「稼働時間を就業時間で割ったもの」とし、以下の式で表します。
稼動率
稼動率は年間で平均して計算します。

これは1日ずっと現場にいる作業者でも80~95%くらいです。これがリーダーの場合は、もっと低くなります。
 

なぜ段取時間は稼働時間か?

 
一般的には段取時間は生産していないため、生産時間と考えません。しかし本コラムは、段取時間は稼働時間と考えます。

その理由は、多品種少量生産の場合、段取費用も見積に入れなければならないからです。段取時間も見積に入っているため、段取時間も「お金を稼いでいる時間」です。

多品種少量生産で段取時間が長い場合、原価に占める段取費用の比率は高くなります。しかもロットの大きさが変われば段取費用が大きく変わります。そのため段取費用を見積に入れ、ロットが変わった場合も原価に反映するようにします。

一方、大量生産で段取の頻度が少なければ、段取費用は見積には入れません。その場合、段取時間は非稼働時間です。

現場では賃金の異なる作業者もいます。賃金が異なればアワーレート(人)も異なります。賃金が高い人がつくった製品は原価も高くなるのでしょうか。
 

人によって賃金が異なる場合

 
アワーレート(人)が高ければ原価も高くなります。賃金が高い人がつくった製品は原価も高くなります。その結果、現場に全く同じ製品で、賃金の高い人が生産した原価の高い製品と、賃金の低い人が生産した原価の低い製品ができてしまいます。

そうなると「誰が、どの製品を製造したのか」を管理しなければなりません。
 

平均アワーレート(人)を計算

 
現実にはそれは困難なので、その現場全体で平均した「平均アワーレート(人)」をその現場のアワーレート(人)とします。

平均アワーレート(人)は以下の式で計算します。
平均アワーレートの計算式

では具体的なアワーレート(人)の値はどれくらいでしょうか。

架空の企業A社(機械加工)のNC旋盤の現場のアワーレート(人)を計算してみます。
 

具体的なアワーレート(人)の計算

 
架空の企業A社のNC旋盤の現場の作業者は、図2のような構成でした。

NC旋盤の現場の構成
図2 NC旋盤の現場の構成

作業者は、A~Dさんまでの4人でした。

賃金は様々で、年間総支給額は、352~528万円と幅がありました。

年間就業時間と稼働率は、計算を簡単にするため、全員以下の値としました。
年間就業時間 : 2,200時間
稼動率 : 0.8

Aさんのアワーレート(人)は

2,000円でした。同様に他の人のアワーレート(人)も計算すると
Aさん : 2,000円/時間
Bさん : 2,000円/時間
Cさん : 2,500円/時間
Dさん : 3,000円/時間
でした。

そこで平均アワーレート(人)を計算します。

年間費用合計は

作業者の年間費用合計=352+352+440+528=1,672 万円

平均アワーレート(人)は
平均アワーレート(人)

平均アワーレート(人)は、2,380円/時間でした。

この2,380円/時間であれば、誰がつくっても同じ原価になります。


注記)
本コラムでは、数字をわかりやすくするためにアワーレートは一桁目を四捨五入しています。実際に計算する際は正確な値を使用願いします。

工場全体で平均アワーレート(人)を計算

 
工場によっては、応援のため現場間で頻繁に人が移動することがあります。そうなると現場の平均アワーレート(人)も頻繁に変わってしまいます。

そのような工場では工場全体の平均アワーレート(人)を使用します。

現場間のアワーレート(人)の差がそれほど大きくなければ、工場全体の平均アワーレート(人)でも問題ありません。大企業でも工場全体の平均アワーレート(人)で原価を計算する場合があります。
 

アワーレート(設備)の計算

 
アワーレート(設備)は、設備の年間費用を設備の稼働時間で割って計算します。
アワーレート(設備)の計算式
 

設備の年間費用

 
設備の年間費用は以下の2つです。

  • 設備の購入費用 → 減価償却費
  • ランニングコス ト→ 動力費、水道光熱費、消耗品、保守費など

ランニングコストは主に電気、ガスなどエネルギー費です。、他にも図3に示すように消耗品、保守費、修理費などがあります。

図3 ランニングコストの例
図3 ランニングコストの例

これらの費用の年間の合計は、決算書 (製造原価報告書) の「製造経費」に示されています。しかしその大半は、どの設備にどのくらいかかったのかは正確にわかりません。そこで間接製造費用として各現場に一定の比率で分配〈注〉します。
もし特定の設備が修理や保守のために多額の費用がかかる場合は、その現場固有の費用とします。


〈注〉
会計では固定費を割り振ることを「配賦」と呼びますが、本コラムは難しい会計用語でなく、一般的な「分配」を使用します。

 

年間操業時間

 
残業時間も含めて設備を動かしている時間の年間の合計です。

設備の場合、人と違って年間で半分しか稼働しない設備もあります。その場合、アワーレート(設備)は高くなります。
 

稼働率

 
年間操業時間の中で実際に付加価値を生み出している時間の割合です。この稼働率の考え方は人と同じです。設備の稼働率は、日報から調べたり、設備のモニターに表示されている場合もあります。わからない場合は、仮に〇%と決めて計算します。

設備に高い設備と安い設備があった場合、高い設備で生産した製品は原価が高いのでしょうか?
 

平均アワーレート(設備)

 
人と同様に設備も費用が異なれば、アワーレート(設備)が異なります。同じ製品でも設備が異なれば原価が異なります。しかし人の場合と同様に「どの設備が、どの製品を製造したのか」管理するのは大変です。

そこで現場の「平均アワーレート(設備)」をその現場のアワーレート(設備)とします。

平均アワーレート(設備)は以下の式で計算します。
平均アワーレート(設備)
 

税法の減価償却費と実際の減価償却費

 
設備の購入費用は、決算書に減価償却費として計上されます。

減価償却費は、

  • 減価償却の方法は定額法と定率法の2種類あり企業が選択
  • 耐用年数は、「法定耐用年数」が税法で決められている

という特徴があります。
 

定率法と定額法

 
定率法と定額法は、以下の違いがあります。

  • 定額法
    購入価格を法定耐用年数で割った金額で、毎年同じ金額を償却
  • 定率法
    毎年簿価の一定割合を減価償却の金額とする、簿価は毎年下がるため減価償却の金額も毎年下がる(途中から一定金額になる)

購入価格1,500万円、法定耐用年数10年の設備を購入した場合の、定率法と定額法の減価償却費を図4に示します。
図4 定率法と定額法の減価償却費
図4 定率法と定額法の減価償却費

定率法の場合、減価償却費は年々減少し、6年目から定額になります。
定額法の場合、減価償却費は10年間一定の金額です。

どちらも法定耐用年数10年を過ぎれば、減価償却費はゼロになります。

定額法と定率法のどちらかにするかは企業が決めます。中小企業は定率法を採用する企業が多いです。
 

法定耐用年数

 
法定耐用年数は設備の種類によって税法で決められています。

しかし設備の使い方や稼働時間が考慮されていないため、法定耐用年数よりも長く使える設備もあれば、法定耐用年数の前に使えなくなる設備もあります。
 

減価償却費でアワーレート(設備)を計算する問題

 
アワーレート(設備)を計算する際、この税法の減価償却費を使用すると以下のようなことが起きます。

定率法では、減価償却費が年々減少する
定率法、定額法のいずれも、法定耐用年数を過ぎれば減価償却費はゼロになる

定率法の場合、減価償却費が年々減少するため、アワーレート(設備)も年々減少します。
また法定耐用年数を過ぎれば減価償却費はゼロになるため、アワーレート(設備)は低くなります。

そうなるとアワーレート(設備)を低くしても利益が出ます。顧客からの値下げ要求が厳しい場合、価格を下げることもできます。

しかし設備はいつか更新時期が来ます。更新すれば新たに減価償却費が発生し、アワーレート(設備)は高くなります。その分値上げしないと見積が低すぎてしまいます。

減価償却費からアワーレート(設備)を計算すると、このような問題が起きます。
 

実際の償却を使用

 
そこで設備の購入費用を実際の耐用年数で均等に割った費用からアワーレート(設備)を計算します(本コラムはこれを「実際の償却費」と呼びます)。大企業の多くは、実際の償却費で減価償却を行っています。(図5)

実際の償却費は、以下の式で計算します。
実際の償却費の計算式

図5では、定額法の減価償却費は年間150万円(法定耐用年数10年)です。しかし本当の耐用年数が15年の場合、実際の償却費は100万円です。

図5 実際の償却費

図5 実際の償却費


図5 実際の償却費
 

実際のアワーレート(設備)の計算

 
A社のNC旋盤の現場を図6に示します。

図6  NC旋盤の現場の設備
図6  NC旋盤の現場の設備

計算を簡単にするため4台とも
購入価格 : 1,500万円
ランニングコスト : 23.2万円
年間操業時間 : 2,200時間
稼働率 : 0.8
実際の耐用年数 : 15年
とします。
 

アワーレート(設備)の計算

 
実際の償却費は
実際の償却費の計算

でした。現場の平均アワーレート(設備)は
現場の平均アワーレート(設備)

700円/時間となり、平均アワーレート(人)2,380円/時間と比べ低い値でした。

製造費用を計算する場合は、アワーレート(人)、アワーレート(設備)に、その現場の間接製造費用を加えたアワーレート間(人)、アワーレート間(設備)を使用します。

アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)の計算は
【製造業の値上げ交渉】3. 間接費用や販管費も原価に含まれるのだろうか?」
で説明します。

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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