【製造業の値上げ交渉】13. 顧客からアワーレートが高いと言われた。なぜだろうか?

 
値上交渉では値上げの根拠を求められることがあります。

これについて【製造業の値上げ交渉】12. 値上げの根拠とは?どこまで出せばよいのか?を参照願います。
 

こうして値上げ資料を持って交渉に行くと、資料を見て「アワーレートが高い」と言われることがあります。

このアワーレートは先期の費用に基づいて適切に計算したアワーレートです。

(自社のアワーレートの計算方法は【製造業の値上げ交渉】2. アワーレートはどうやって計算すればいいのだろうか?を参照願います。)
 

なぜでしょうか?

実はアワーレートについて3つの誤解が考えられます。

それは

  1. アワーレートは間接費を含まないと思っている
  2. 稼動率は100%と考えている
  3. 減価償却が終われば設備の費用はゼロと思っている

以下に説明します。
 

1.アワーレートは間接費を含まないと思っている

 
アワーレートは「人や設備で直接発生した年間費用を人や設備の年間時間で割ったもの」と顧客が思っている場合です。

本コラムで原価を計算するアワーレート間は「各現場の人や設備の直接製造費用に、分配した間接製造費用を加えたものを人や設備の年間時間で割ったもの」です。

このアワーレート間は間接製造費用も含まれています。

図1 間接製造費用の分配


 

具体的な計算例 アワーレート(人)

 
架空のモデル企業A社の例で説明します。

(A社の詳細は【製造業の値上げ交渉】1. 原価はどうやって計算すればいいのだろうか?を参照願います。)

A社 NC旋盤の現場
(アワーレートの計算方法は【製造業の値上げ交渉】2. アワーレートはどうやって計算すればいいのだろうか?で説明しました。)
 

アワーレート(人)の計算

 
直接製造費用
4人の労務費合計 1,672万円

 

間接製造費用を含んだアワーレート間(人)の計算

 
間接製造費用を含む
間接製造費用分配 544万円 

アワーレート間(人)は、 3,150円/時間でした。


注記)
本コラムでは、数字をわかりやすくするためにアワーレートは一桁目を四捨五入しています。実際に計算する際は正確な値を使用してください。

間接製造費用を含めたアワーレート間(人)は、775円/時間増加しました。

図2 NC旋盤の現場の人の直接製造費用と間接製造費用


 

具体的な計算例 アワーレート(設備)

 
アワーレート(設備)
直接製造費用

  • 設備償却費 : 100万円/台
  • 電気代 : 23.2万円/台
  • 設備(NC旋盤) : 計4台


 

間接製造費用を含んだアワーレート間(設備)の計算

 
間接製造費用を含む
間接製造費用分配 544万円 

アワーレート間(設備)は、1,470円/時間で、間接製造費用を含めたアワーレート間(人)は、770円/時間増加しました。

図3 NC旋盤の現場の設備の直接製造費用と間接製造費用


 

人と設備が同時に作業する場合

 
NC旋盤の現場は人と設備が同時に作業するためアワーレートは、アワーレート(人)とアワーレート(設備)の合計になります。

直接製造費用のみ

アワーレート(人+設備)=アワーレート(人)+アワーレート(設備)
           =2,375+700=3,075円/時間

間接製造費用を含む

アワーレート間(人+設備)=アワーレート間(人)+アワーレート間(設備)
            =3,150+1,470=4,620円/時間

間接製造費用を含むことで、アワーレート間(人+設備)は1,545円/時間増加しました。
 

顧客が何を現場のアワーレートとしているか

 
顧客に原価の知識があって、自社の工場のアワーレートも知っていて、そのアワーレートが直接製造費用のみアワーレートの場合、計算する基準が違うため、見積書に書かれたアワーレートが高すぎると指摘します。

その場合、顧客は直接製造費用のみで原価を考えている可能性があります。

ここでどちらのアワーレートの計算方法が正しいのか、議論がそこに向かうと水掛け論になってしまいます。
 

顧客が直接製造費用のみでアワーレートを計算している場合

 
その場合、直接製造費用のみのアワーレートで製造費用を計算に、別に間接製造費用を加えて原価とします。
 

直接製造費用と間接製造費用の比率を計算

 
そこで各現場の直接製造費用のみのアワーレートと、間接製造費用を含んだアワーレートの比率から、直接製造費用と間接製造費用の比率を計算します。

例えばA社 NC旋盤の現場の例を以下に示します。

  • 直接製造費用のみのアワーレート(人+設備) : 3,075円/時間
  • 間接製造費用を含んだアワーレート間(人+設備) : 4,620円/時間

比率は1.50でした。
 

直接製造費用を計算

 
A社 NC旋盤の現場のアワーレート(人+設備)は3,075円/時間

  • A1製品の製造時間 : 0.075時間

直接製造費用=直接製造費用のみのアワーレート(人+設備)×製造時間
      =3,075×0.075=230.6円

直接製造費用のみで計算したA1製品の製造費用は230.6円でした。
 

間接製造費用を含んだ製造費用

 

間接製造費用を含んだ製造費用=直接製造費用×比率
              =230.6×1.5=345.9≒346円

直接製造費用のみでアワーレートを計算すれば、3,075円/時間で、A1製品の製造費用は230.6円でした。

これには間接製造費用が入っていません。

間接製造費用は、先の計算から直接製造費用の50%なので115.4円でした。その結果、製造費用は直接製造費用と間接製造費用を加えた346円でした。

このように説明して製造費用が正しいことを理解してもらいます。

図4 直接製造費用のみのアワーレートで計算した場合


 

2.稼働率が入っていない

 
もうひとつの可能性は、顧客がアワーレートを計算する際に稼働率を入れていないことです。

実際の現場の1日は図5のようになっています。

図5 ある作業者の1日

1日現場にいる作業者でもその中で朝礼、会議といった付加価値を生んでいない時間があります。

この時間も人件費は発生しています。この費用もアワーレートに入れなければ、アワーレートが低すぎ、赤字になってしまいます。

そこで本コラムではアワーレートを計算する際に稼働率を分母にかけています。

この稼働率は、年間時間に対し付加価値を生んでいる時間(稼働時間)の比率です。

A社の例では、稼働率を0.8としました。

もし顧客が稼働率100%でアワーレートを計算していれば、その分アワーレートは低くなります。

A社 NC旋盤の現場の例では

直接作業者
直接作業者の稼働時間合計=2,200×4×0.8(稼働率)=7,040時間

稼動率100%では

直接作業者の年間時間合計=2,200×4×1.0=8,800時間

設備の年間時間も同じでした。


アワーレート(人+設備)=アワーレート間(人)+アワーレート間(設備)
           =2,520+1,180=3,700円/時間

稼動率100%の場合が4,620円/時間だったので、920円/時間低くなりました。

図6 稼働率を入れた場合と入れない場合の人のアワーレート


図7 稼働率を入れた場合と入れない場合の設備のアワーレート


 

稼働率100%はありえない

 
稼動率は工場によりさまざまです。大量生産の工場は常に人や設備が稼働し、稼働率100%を目指します。それでも材料の供給が間に合わなかったり後工程が遅れたりして稼働率は低下します。

多品種少量生産では、製品の切替えが頻繁に発生し、そのため稼働率が低下します。

財務会計の賃率(アワーレート)は操業度(稼動率)を考慮するため、稼働率はある程度加味されているはずです。

ただし顧客の工場が管理のため独自にアワーレートを計算している場合、稼働率100%で計算することがあります。しかし生産していない時間も費用は発生しています。その分も見積に含めなければ赤字になってしまいます。

自社の工場の稼働率が現実に80%ならば、稼働率80%で計算した原価が「適正価格」です。
 

3.減価償却が終わっている

 
法定耐用年数を過ぎた設備の減価償却費はゼロです。そうなると設備の費用はランニングコストのみになってしまいます。

しかし本コラムではアワーレート(設備)に使用する設備の償却費は、将来の更新を考えて「実際の償却費 (購入金額を本当の耐用年数で割った金額)」を使用します。

図8 設備を更新すれば新たな減価償却が発生

A社 NC旋盤の現場の場合、購入金額1,500万円、本当の耐用年数15年のため、実際の償却費は100万円でした。

NC旋盤の現場の4台の設備が、すべて減価償却が終わっている場合、設備の費用はランニングコスト23.2万円のみです。アワーレート間(設備)は以下のようになります。

実際の償却費から計算したアワーレート間(設備)は1,470円/時間でした。

決算書の減価償却費でアワーレート間(設備)を計算すれば、570円/時間低くなりました。

これは発注側、受注側どちらも誤解していることがが多いです。

特に高額の設備を使用する工場では、設備の更新に多額の資金が必要です。更新の時点で必要な資金が会社に内部留保されているか、新たに借入できるだけの十分な自己資本とキャッシュフローがなければなりません。減価償却が終わった設備でも費用は決してゼロではないのです。
 

アワーレートは考え方によって違う

 
このようにアワーレートは計算する条件によって値が大きく違います。

アワーレートが高いか低いかは、どのような条件で計算するのかで大きく変わります。

また「稼働率を入れる」や「実際の償却費を使って計算する」は正しいのですが、これを納得してもらうには「なぜそうなのか」理由を理解してもらう必要があります。これはなかなか大変です。

顧客が納得しなければ、顧客が考える条件に合わせてアワーレートを変えます。

例えば、稼働率100%で稼働率80%と同じアワーレートになるように年間費用や時間を調整します。そして見積金額は変えないようにします。
 

原価は真実

 
本コラムで述べた原価は、決算書の数字を元にした真実です。
(ただし算出条件が変われば値も変わるため、唯一無二ではありません。)

A社 A1製品の製造原価は726円、販管費182円、販管費込み原価は908円です。これだけの費用が発生していることを前提に、必要な利益が得られるように価格交渉します。

ただし受注が少なければ、固定費の回収を優先して赤字でも受注することもあります。それでもA1製品は販管費も含めて908円の費用が発生していることは変わりません。

他にもアワーレート以外に販管費や利益が高いと言われることがあります。

販管費や利益が高いと言われる原因について【製造業の値上げ交渉】14. 顧客から販管費が高い。利益が多すぎると言われた。なぜだろうか?を参照願います。
 
経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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