【製造業の値上げ交渉】14. 顧客から販管費が高い。利益が多すぎると言われた。なぜだろうか?

 
顧客から見積書のアワーレートが高いと言われる原因について【【製造業の値上げ交渉】13. 顧客からアワーレートが高いと言われた。なぜだろうか?で述べました。
 

同様に、顧客から見積書の販管費(管理費)が高いと言われることがあります。「管理費は5%」と顧客は言います。しかし販管費が5%では赤字になってしまいます。

どうすればいいのでしょうか?
 

販管費は管理費でない

 
このような話はよく聞きます。実は販管費について誤解があります。

それは

販管費は管理費でない

ということです。これはどういうことでしょうか?
 

販管費とは?

 

販管費は、販売費及び一般管理費の略です。

販管費は会社で発生する費用の中で、製造に直接関係しない費用です。これは販売費と一般管理に分けられます。

販売費 : 商品や製品を販売するための費用

一般管理費 : 会社全般の業務の管理活動にかかる費用

具体的には、

販売費は、営業の人件費や社用車の費用、顧客への発送運賃や広告宣伝費などです。

一般管理費は事務、経理などの人件費、役員報酬や旅費交通費などです。
 

工場には不可欠な費用

 

では、これらの費用がなくて工場は運営できるでしょうか?

事務や経理の仕事の大半は工場で発生する費用の処理です。製造に直接関係しないといっても彼らがいなくては工場は成り立ちません。

販管費と製造原価は、会計上の扱いが異なるため財務会計では分けて計上います。しかしどちらも製造には不可欠な費用です。

近年は事務や経理などが増えて、中小企業の販管費も増加しています。平成21年度発行「中小企業実態調査に基づく経営・原価指標」によれば中小企業 製造業の販管費の平均は18.1%です。

表1 中小企業の販管費と利益率    単位 : %

  製造業平均 卸売業平均 小売業平均
販管費 18.1 14.2 29.7
利益率 3.3 1.4 0.4

出典 平成21年度発行「中小企業実態調査に基づく経営・原価指標」


販管費か製造原価かは、会計事務所の裁量によって変わる

 
発生した費用を製造原価に計上するのか、販管費に計上するのかは、経理や会計事務所の判断でも変わります。

販管費と思われるものが製造原価に計上されたり、製造原価と思われるものが販管費に計上されるのは珍しくありません。

図1 製造原価と販管費


 

管理費とは?

 
一方見積書では販管費でなく「管理費」になっていることがあります。

管理費は、建設関係では工事管理費と呼ばれ、工事の進捗管理や資材、業者の手配などです。一般的には、このような商品やサービスの発注、納期管理、納品に関する費用です。商品やサービスの価格の一定割合を管理費として、商品やサービスの価格に上乗せします。

製造業も外注に依頼したものを顧客にそのまま販売する場合、仕入金額の〇%を管理費として見積に記載します。

この管理費は外注への発注、納期管理、検品などの費用です。これは商社でいえば口銭に相当します。
 

製造業の販管費は原価の一部

 
商社の場合、年間の口銭合計が販管費を上回れば、利益が出ます。

口銭の比率が少ない商品でも、合計金額が大きければ口銭の合計が増え利益が出ます。

つまり薄利多売でも売上が大きければ利益が出ます。

一方工場の場合、生産量は設備や人員で決まってしまいます。生産量を急には増やせないため、受注が急に増えても対応できません。商社のように薄利多売でも売上を増やして利益を出すことはできません。

個々の受注で販管費も含めて利益が出るようにしなければなりません。

そう考えれば工場の販管費は商社の口銭とは違い、原価の一部です。管理費と販管費の捉え方の違いが、顧客が低い管理費を求める原因のひとつです。

もうひとつ顧客が管理費を低く考える原因があります。
 

顧客は本当の原価をわかっていない可能性

 
それは顧客が本当の原価をわかっていない可能性があることです。

例えば顧客が自社の工場で製造した部品の原価を計算する際は、原価は工場の製造原価とその工場の販管費の合計です。
 

社内売買の価格と社外販売の価格

 
図2は、A事業部のA1工場で製造した部品を、B事業部のB1工場が使用した場合です。B事業部はこの部品をA事業部から購入します。その価格は、A1工場の製造原価とA1工場の販管費(又は管理費)の合計です。

図2 工場原価と本社費


図2 工場原価と本社費

しかしこの価格は社内売買の価格です。この部品を社外に販売する場合は、A1工場の原価に本社部門の費用を加えなければなりません。なぜなら本社はお金を稼いでいないため、本社の費用は各事業部が分担しなければならないからです。

この部品を社外に販売したことがなければ、A1工場の人は社外に販売する価格を知りません。そのため社内売買の価格を部品の価格だと思ってしまいます。

しかし、この部品を外注に発注すれば、その見積には外注の販管費や利益が含まれます。これは自社でいえば本社負担費用も含んだ価格です。

他にも利益が高いと言われた場合はどうでしょうか?
 

利益は儲けでない

 
利益率8%で見積をつくったところ顧客に「利益が高すぎる!」と言われました。

しかしこの会社は8%の利益が必要なのです。なぜでしょうか?

利益は「儲け」でないからです。
 

利益の本当の姿

 
決算書では、売上から製造原価と販管費を引いたものが営業利益です。
(正確には在庫の増減で変わりますが、説明を簡単にするためにこれは省略します。)

営業利益から、利息などの営業外費用を除き、法人税を支払った残りが税引き後の利益です。

一方、製造原価や販管費にある減価償却費は実際には現金の支出のない費用です。その分お金が残ります。そこで税引き後の利益に減価償却費を加えた金額が会社に残るお金です。

これを図3に示します。

図3 営業利益と実際のお金の動き

図3の会社は

売上高2億円、営業利益は1,600万円、

売上高に対する利益率は8%、

利益は多く見えます。

営業利益から借入金の利息100万円、

法人税600万円を引いた税引後の利益は

900万円でした。

さらに減価償却費が500万円あるので、

残るお金は1,400万円です。

この会社は借入金があるため毎期の返済額は1,000万円です。

その結果、毎期400万円のお金が残り、これが設備の更新の原資になります。

この400万円を毎期内部留保して、設備の更新時期が来ればこのお金を使います。あるいは借入して設備を更新する場合、この400万円が新たな借入金の返済原資になります。

このように見ていくと、この会社の営業利益1,600万円は決して多くないことが分かります。

もし赤字受注が続き利益がなければ、設備の更新時期が来ても更新できません。

近年、製造業の廃業の原因に、経営者の高齢化と設備の更新ができないことがあります。特に高額の設備を使用する場合、内部留保が少なく利益もなければ新たな借入もできません。

このような理由から、利益が少ない、あるいは赤字であれば、利益が取れる金額に値上げしなければなりません。

ところが値上げ交渉で「値上げ金額が高すぎる!」と言われることがあります。これはどうしたらよいでしょうか?

これについては【製造業の値上げ交渉】15. 値上げ金額が高すぎると言われた。いくら上げるのが適切だろうか?を参照願います。
 
経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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