値上げ幅を決める際、本来必要な値上げ金額をそのまま要求しても、取引先に認められるとは限りません。
取引先の多くは、過去から積み残した赤字や利益不足ではなく、昨年から今年にかけて上昇した材料費、人件費、電力費などを値上げの対象と考えるからです。
そのため、値上げ幅は次の二つを計算して決めます。
- 前回の価格決定後に上昇した費用
- 赤字を解消するために最低限必要な金額
この二つを比較し、大きい方を今回の値上げ額の目安とします。
ただし、それでも適正価格に届かない場合は、今回の値上げとは別に、今後どのように価格を是正するかを取引先と協議する必要があります。
本コラムでは、具体例を使って値上げ金額と値上げ率の計算方法を解説し、計算した値上げ幅を取引先との交渉にどう使うかを説明します。
1. 値上げ幅に正解はありません
2. なぜ必要な値上げ金額が大きくなってしまったのか?
3. 大きすぎる値上げは受け入れられない
4. 値上げすれば転注されるのか?
5. コストダウン提案も入れる
値上げ交渉のまとめサイト
このテーマ以外にも交渉の進め方や取引先への説得について、以下のまとめサイトから参照いただけます。
値上げ交渉・価格交渉の進め方まとめ ~価格の根拠の伝え方と取引先への対応を解説~
1. 値上げ幅に正解はありません
「何円値上げすればよいか」という質問に、一律の正解はありません。
例えば本来128円の値上げが必要でも、その金額では取引先が受け入れられないことがあります。
そのため値上げは次の3つの価格を考えて決めます。
| 価格 | 目的 |
|---|---|
| ①適正価格 | 本来必要な価格(128円値上げ) |
| ②販管費込み原価 | 赤字を解消できる価格 |
| ③交渉価格 | 取引先が受け入れられる可能性が高い価格 |
適正価格は社内で決める価格、交渉価格は取引先と決める価格です。
値上げ幅は2種類に分けて考える
1. 今回、取引先に認めてもらう値上げ幅
これは、前回価格を決めた時点から現在までに上昇した費用を製品別に計算した金額です。
例えばA1製品で、昨年から今年にかけて、
- 人件費:20円上昇
- 材料費:15円上昇
- 電力費・その他経費:5円上昇
なら、今回説明しやすい値上げ額は40円です。
取引先から見れば、「今回新たに発生した40円」であれば、値上げの根拠として理解しやすくなります。
2. 自社が本当に必要としている値上げ幅
一方、現在の価格860円に対して適正価格が988円なら、必要な値上げは128円です。
しかし、この128円には、
- 最近上昇した費用
- 数年前から価格転嫁できなかった費用
- もともとの見積不足
- 必要利益の不足
が混在しています。
取引先は、このすべてを「今回の費用上昇」としては認めないわけです。
では、結局いくら要求すればいいでしょうか。
まずは上昇した費用分のみの値上げをお願いする
まず、昨年から今年に上昇した費用を計算し、それを今回の値上げ額として要求します。
ただし、それだけでは赤字が解消しない場合は、現在の適正価格も併せて示し、残りの不足分を段階的に是正するよう交渉します。
先ほどの例なら、以下の表のようになります。
| 内容 | 金額 |
|---|---|
| 現在価格 | 860円 |
| 販管費込み原価 | 908円 |
| 適正価格 | 988円 |
| 今回交渉価格 | 910円 |
ただし900円では、販管費込み原価908円を下回るため、まだ赤字です。
900円は「費用上昇分だけ」の例であり、910円は「実際の交渉価格例」であることが自然につながります。
そこで実務上は、40円だけでなく、
「今回上昇した費用は40円です。しかし現在の原価は908円で、40円の値上げだけでは赤字が残ります」と説明し、
赤字を解消するためには、最低価格に近づけるよう交渉します。
人件費、電気代の上昇による値上げ金額はいくらなのか、簡単に概算できます。
45秒で値上げ金額を計算
2. なぜ必要な値上げ金額が大きくなってしまったのか?
こうなった原因は、これまで様々な費用が少しずつ上がっていたのに、それが価格に反映できなかったためです。
その結果、「自社の現在の見積金額」と受注金額との乖離が大きくなってしまいました。
しかもこれまで「コストダウンはあっても値上げはあり得ない」という状況だったため値上げができませんでした。その結果、値上げ金額が大きくなってしまいました。
例えば、架空の企業A社 A1製品は
受注金額が860円、販管費込み原価が908円のため、48円の赤字でした。
目標利益を得るには、価格を988円に
つまり128円の値上げが必要でした。これを図に示します。

実はA1製品は、〇年前の見積は860円でした。
販管費込み原価は800円、60円の利益でした。
しかしその後、材料費、外注費、人件費、工場の経費が上昇し、
現在の販管費込み原価は908円、860円の受注金額では48円の赤字になってしまいました。
電気代の上昇によっていくら値上げしなければならないのか、具体的な値上げ金額の計算はこちらから
電気代の上昇は原価にどれだけ影響するのか?
3. 大きすぎる値上げは受け入れられない
一方、値上げは取引先の立場も考えなければなりません。
取引先は仕入部品の価格が上昇すれば、それを製品の価格に転嫁しなければならないからです。
取引先が自社製品を販売するメーカーの場合、値上げすれば競合との競争に負けて市場シェアを失うかもしれません。
取引先も製品をメーカーに納める下請けだった場合、仕入部品が値上げした分、今度は取引先が値上げ交渉しなければなりません。これはとても大変なことです。
経済産業省の「自動車産業適正取引ガイドライン」には、ティア1など下請け部品メーカー(といっても大企業)が取引先の自動車メーカーに対し、
「仕入価格の上昇を価格転嫁ができない」、
「値上げすると次のサプライヤー選定に影響すると言われた」
という事例が載っています。
こういった背景があるため、取引先が大幅な値上げを受け入れるのは難しいのです。
>《私の経験》(機械メーカーで、設計、品質保証に24年間従事しました。)
私の経験でも仕入部品の値上げはある程度は許容しましたが、大幅に上がれば他の仕入先を探しました。大幅な値上げは製品の原価を大きく上げるからです。
その場合、まず今の仕入先に対し「以前と同じ価格でつくるためにはどうしたらよいか」を協議しました。それがうまくいかなければ他の仕入先を探しました。
それでも値段が高くなるような場合は、以前の価格でできないか設計変更を検討しました。
しかし設計変更は品質リスクを伴います。仕入先を変えて同じ価格でできるのであれば、そうしました。
値上げ交渉では相手の立場や置かれた状況を理解することが交渉の成功に影響します。これについては以下のコラムが参考になります
担当者が値上げを断る本当の理由とその対策
4. 値上げすれば転注されるのか?
大幅に値上げすれば、転注されるリスクがあります。また大幅な値上げは取引先との関係が悪化し、その後の取引にも影響します。
どうしたらよいでしょうか?
適正価格を示して交渉
rこのような場合、値上げは取引先が受け入れられる(と思われる)金額にとどめておく必要があります。
ただし、本当に必要な金額は取引先に提示します。そして
「原価はこれだけかかっているため、本当はここまで値上げしたい。しかし大幅な値上げは難しいことは理解しているので、これだけは上げてほしい」
と交渉します。
例えばA社は、
A1製品をいきなり128円値上げするのが困難であれば、取引先に
「当社の適正価格は988円ですが、いきなりその価格にするのは難しいでしょうから、せめて80円値上げして940円にしてもらえませんか?」
と交渉します。
940円であれば、赤字は解消し32円の利益になります。目標利益ではありませんが、赤字で受注するよりはましです。
(実際の金額は自社と取引先との関係で変わります。この数字はあくまで参考値です。)
転注のリスクの低い製品は値上げ金額が高くできる
一方、何らかの理由があって他社がやらない製品であれば、取引先も値上げを受け入れざるを得なくなります。
その場合は、取引先が受け入れる値上げ金額はもう少し高くなります。
ただし値上げ金額があまり高いと、取引先は他にできるところを探し始めますので、さじ加減は必要です。
ただし他社がやらないものなのかどうかは、日頃から情報を集めていないとわかりません。
「なぜこれは当社に発注するのですか?」
「この図面の○○はとても難しいのですが、他にやるところはないのですか?」
取引先の担当者と日々の会話の中で「他に競合はあるのか」、「競合があれば価格や品質面ではどうか」などさりげなく質問して情報を収集します。
転注されても影響の少ない製品
あるいは受注が潤沢にあり、例えこの製品を失注しても業績への影響が小さければ、値上げ幅を大きくすることもできます。
値上げ交渉は失注のリスクがゼロではありません。受注が少なく、ひとつ失注しても業績に大きく影響すれば、値上げ交渉は消極的になります。
つまり営業活動がどれだけ成果を上げていて、受注がどれだけあるかが、値上げ交渉に影響します。
一方ずっと前に受注して、同じ価格でつくり続けている製品もあります。例えば15年前に受注して、受注価格は15年間変わっていない製品です。
rこれはどうすればよいでしょうか?
これについては赤字製品は値上げか、それともやめるべきか?を参照願います。
5. コストダウン提案も入れる
できれば
「できる限り値上げ金額を低くするようにコストダウンのアイデアを考えるから図面や仕様の見直しに協力してほしい」、
論点をコストダウン協議に変えます。
それには日頃から図面指示や形状に注意して、コストダウンできる箇所を探します。
例えばA1製品では、コストダウンを検討した結果、「公差を緩和し、検査基準を変える」ことで、製造時間を短くできることが分かりました。その結果
人件費 : マイナス20円
製造経費 : マイナス3円
が見込まれました。
これにより値上げを60円、値上げ後の金額920円に抑えても、40円の利益が出ます。これを図に示します。

値上げ交渉では、単に「値上げしてください」とお願いするだけでは、取引先に受け入れられにくくなります。
一方で、コストダウンの提案を組み合わせれば、取引先もメリットを感じやすくなり、交渉が前向きに進むことがあります。
適正価格を把握したうえで、今回認めてもらう値上げ幅と、自社で取り組むコストダウンを組み合わせながら、利益を改善していくことが重要です。
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