【製造業の値上げ交渉】1. 原価はどうやって計算すればいいのだろうか?

値上げ交渉では値上げ金額の根拠資料の提出を求められることがあります。それにはまず製品の原価が必要です。

では個々の製品の原価はどうやって計算するのでしょうか。

これは値上げ計算の基本となるため、ここで説明します。
 

製造原価の計算

 
製造原価は以下の式で計算します。

製造原価=材料費+外注費+製造費用 

ここで製造費用は以下の式で計算します。

製造費用=直接製造費用(労務費+設備費)+間接製造費用

これを図1に示します。


図1 製造原価の構成

材料費

図2に示すように鋼材、樹脂原料などの原材料の費用です。

モーター、センサー、ボルト、ナットなどの購入品も材料費です。

材料費の種類
図2 材料費の種類

一方、ボルト、ナットやピンなどのうち、個々の製品の使用量を管理せず消耗品として購入する場合があります。この場合は、材料でも消耗品(製造経費)として計上されます。

この会社がこれらの費用を原価として管理していなければ、そのまま製造経費(間接製造費用)とします。

材料費は使用量に単価をかけて計算します。

材料費=単価×使用量 
 

外注費

熱処理など自社ではできない工程や、生産能力の不足により社外に製造を委託するなど、製造工程の一部を社外に委託した費用です。

製造費用

製造費用には以下のように人と設備の費用があります。

製造費用=製造費用(人)+製造費用(設備)

人の製造費用「製造費用(人) 」は、人の1時間当たりの費用「アワーレート(人) 」〈注〉に人の製造時間をかけて計算します。

製造費用(人)=アワーレート(人)×製造時間(人)


〈注〉
アワーレートは、チャージ、賃率、ローディングなどと呼ばれることもあります。意味は同じなので本書ではアワーレートとします。アワーレートの単位時間は、1時間(円/時間)の他、1分(円/分)、1秒(円/秒)の場合もあります。

製造時間(人)は、段取がある場合は1個当たりの段取時間と加工時間の合計です。

1個当たりの段取時間は、1回の段取時間をロット数で割って計算します。
製造時間(人)の計算
設備の場合も同様です。

設備の製造費用「製造費用(設備) 」は「アワーレート(設備)」に設備の製造時間をかけて計算します。

製造費用(設備)=アワーレート(設備)×製造時間(設備) 

製造時間(設備)も人と同様に計算します。
製造時間(設備)の計算

人と設備が同じ時間作業する現場では、製造時間は同じ時間、アワーレートは人と設備の合計になります。

アワーレート(人+設備)=アワーレート(人)+アワーレート(設備)

製造費用(人+設備)= アワーレート(人+設備)×製造時間
 

間接製造費用

直接製造費用は図2に示すように材料費、外注費と、直接製造する作業者、設備の費用です。

間接製造費用は、現場の管理者や間接部門など製造に直接携わっていない人の費用と、工場の経費(製造経費)です。
直接製造費用と間接製造費用
図3 直接製造費用と間接製造費用

間接製造費用はどの製品にどのくらいかかったのかはっきりわからない費用です。

間接製造費用は各現場に分配してアワーレートの計算に入れます。
(この計算方法は 「製造業の値上げ交渉3 間接費用や販管費はどう考えるのか?」で説明します。)

本コラムでは間接製造費用を含んだアワーレートを「アワーレート間」と呼ぶことにします。
 

会社の費用

 
会社に入ってくるお金(売上)、出るお金(費用)、残るお金(利益)のその期の合計は、図4に示すように決算書に記載されます。

決算書には図4に示す損益計算書、製造原価報告書があります。
(他に貸借対照表もありますが、原価計算では使いません。)

決算書の構成
図4 決算書の構成

A社の現場の構成を図5に示します。
A社の現場の構成
図5 A社の現場の構成
 

具体的な原価計算

 
ここまで説明した原価計算を、架空の企業A社 A1製品を例に具体的に説明します。
 

A1製品の費用、時間

 
材料費 : 330円
外注費 : 50円

製造工程 : NC旋盤
製造時間 : 0.075時間

NC旋盤のアワーレート間は以下の値でした。
(アワーレート間の具体的な計算は 「製造業の値上げ交渉3 間接費用や販管費はどう考えるのか?」で説明します。)

アワーレート間(人) : 3,150円/時間
アワーレート間(設備) : 1,470円/時間

NC旋盤の現場は、人と設備が同じ時間作業するため、

アワーレート間(人+設備)=アワーレート(人)+アワーレート(設備)
=3,150+1,470=4,620円/時間

製造費用=アワーレート(人+製造時間)×製造時間
   =4,620×0.075=346.5≒346円

(小数点以下まで計算すると346.4になるため、後の計算の都合上、端数は切り捨てます。)

製造原価=材料費+外注費+製造費用
   =330+50+346=726円

製造費用は346円、製造原価は726円でした。

このアワーレートはどうやって計算するのでしょうか?

これについては 【製造業の値上げ交渉】2.アワーレートはどうやって計算すればいいのだろうか?を参照願います。

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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