値上げ交渉では取引先から「金額の根拠は何ですか?」と聞かれることがあります。
これが説明できなければ、値上げはうまくいきません。
では、値上げの根拠とは何を示せばいいのか、
どこまで詳細を開示すべきか、考え方と実務のポイントを解説します。
1. 値上げの根拠とは何か?
2. なぜ10%値上げではだめなのか?
3. 値上げ金額が適切であることを示す資料とは?
4. どこまで取引先に開示してもよいか?
5. 値上げ金額の明細はどうやって計算するのか?
値上げ交渉のまとめサイト
このテーマ以外にも交渉の進め方や取引先への説得について、以下のまとめサイトから参照いただけます。
値上げ交渉・価格交渉の進め方まとめ ~価格の根拠の伝え方と取引先への対応を解説~
1. 値上げの根拠とは何か?
様々な費用が高くなっている今日、製造業も値上げ交渉が避けて通れません。
しかしこれまで「価格引下げ」には対応してきましたが、「値上げ」は経験がない企業もあります。
意を決して値上げ交渉に行くと…
取引先から
「根拠となる資料を出してください」
と言われます。この根拠とは何でしょうか?
なぜ顧客は値上げの根拠を求めるのか?
この根拠とは、それぞれの製品の値上げ金額と、その金額の内訳です。
この内訳は、材料費、人件費、エネルギー費、それ以外の経費が上昇した場合、
その製品の材料費、人件費、エネルギー費、それ以外の経費が上昇による値上げ金額の明細です。
そしてそれぞれの費用がどれぐらい上昇したかを示す資料です。
なぜ取引先はこういった根拠資料を要求するのでしょうか?
顧客が最も気にするのは「便乗値上げ」です。
様々なものの値段が上昇し、ある程度の値上げはやむを得ないというムードになってきました。
かといって仕入先の値上げをすべて受け入れれば原価が高くなってしまいます。
取引先が部品メーカーの場合、今度は取引先が自身の納入先に値上げをお願いしなければなりません。
その場合、取引先も「こういった理由で仕入れ先から値上げがあったため、納入価格の見直しをお願いします」
とお願いしなければなりません。そのためにも具体的な値上げの根拠となる資料が必要です。
社内での承認・決裁
仕入先からの値上げは、取引先の内部で審査し、承認を得なければなりません。例え担当者が「その金額が妥当な金額だ」と思っても上司から
「なぜその金額なのか」
「もっと値上げ金額を引き下げることができないのか」
と指摘されるかもしれません。

つまり値上げの根拠とは、取引先が内部で審査・承認するために必要な資料なのです。
値上げ交渉の手順については以下のコラムが参考になります。
初めての値上げ交渉、何から始めればよいのか?
2. なぜ10%値上げではだめなのか?
缶コーヒーや菓子パンなど身近な商品の場合、「物価上昇により120→140円」といった値上げをします。
同様に製造業でも、これまでは材料、電気代などの物価上昇のため「10%値上げをお願いします」とお願いしてきました。
ところが今はそれが通らなくなっています。それは取引先が
「本当に10%も原価が上がったのか?」
「実際の値上げ金額はもっと低いのではないか」と考えるからです。
多くの人が気づかない『食品とは値上げの考え方が違う』
実は、私たちが普段接している一般消費者向けの商品、例えば食品などの値上げと製造業の値上げとは違うのです。
一般消費者向けの商品は多額の広告宣伝費を投じています。そしてこの広告宣伝費を投じれば、それだけ売上は上がるのです。
そうなると自社が値上げしてもライバル企業が値上げしなければ、多額の広告宣伝費を投じても自社の商品は売れなくなってしまいます

例えば食パン、皆さんは食パンにこだわりがありますか?
「絶対にA社の○○(商品名)食パンでないといやだ!」
そういう方もいるかもしれません。しかし多くの方は同じ食パンならば安い方を買うのではないでしょうか?
だからメーカーは消費者に振り向いてもらうために広告宣伝やキャンペーンに多額のお金をかけています。
そこで自社だけが値上げすれば、顧客は安いライバルメーカーの商品を買います。値上げしても市場シェアが低下すれば、売上が低下してしまいます。
これでは本末転倒です。
小麦価格が高騰してもパンは高くならない。
実際は、小麦価格が高騰しても食パンの原価は10%も上がりません。
計算してみましたが1円にも満たない金額でした。
しかし小麦以外にも食パンをつくって売るためには、他の原材料、工場の経費、人件費、販売促進費など様々な費用がかかっています。それらが上がれば利益は減少します。
だからメーカーは値上げはできるだけ我慢します。それで耐え切れなくなった時、ライバルメーカーの値上げ動向も踏まえて値上げします。
この時の値上げ金額は10円値上げといったわかりやすい金額です。
つまり消費者向け商品メーカーの値上げ金額は、原価以外の様々な要素により決定されている金額です。
3. 値上げ金額が適切であることを示す資料とは?
一方、製造業、特に中小企業の多くはメーカーの下請けです。
値上げを我慢したからといって、売上が増えるわけではありません。
しかも費用が増加すれば、その分利益が減少します。値上げをしなければ、会社が立ち行かなくなってしまいます。
値上げ金額の妥当性を示す資料
製造業の値上げ交渉では、取引先に値上げ金額の妥当性を示す資料を提示します。もし電気代の上昇のため値上げするのであれば、10%というキリのいい数字にはなりません。
この値上げ金額の資料の例を、下図に示します。

こうした値上げ金額の明細があれば、取引先も金額の査定が容易です。そして
「電気代が30%上昇したため、9.6円増加」
と値上げ金額を妥当と感じます。
つまり値上げの明細を示すことで取引先はその金額が妥当であると感じるため、交渉がスムーズに進みます。
人件費、電気代の上昇による値上げ金額の具体的な計算は、以下の値上げ計算まとめコラムから見ることができます。
値上げ金額の計算方法 ~費用の上昇をどう価格に反映するかを解説~
▼ 値上げ金額を試算したい方へ
人件費や電気代の上昇を入力すると、値上げ金額の目安を簡単に計算できます。
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4. どこまで取引先に開示してもよいか?
なぜ取引先は詳細な資料を求めるのでしょうか?
これは以下の理由が推測されます。
- 上司に説明するのに必要
- 金額が妥当か査定するために詳しく知りたい
- 金額の詳細から値上げ金額を引き下げたい
詳細な数字を出すデメリット
結局、詳細な数字を出せば、値上げ金額の引き下げにつながりかねないので、できるだけ出さない方が良いです。
取引先が中小企業の費用を理解していないこともあるからです。
アワーレートや間接製造費用、販管費について取引先が誤解している場合もあります。
その結果
- アワーレートが高すぎる。○○円/時間ぐらいが適正でないか
- 製造時間が長すぎる。もっと短いはずだ
- 販管費が高すぎる。〇%以下にすべきだ
- 利益が大きすぎる
といった指摘を受けることもあるからです。
自身がアワーレートや販管費、利益の考え方が曖昧だと、取引先に値上げを説得するのが難しくなります。
アワーレートや販管費・利益の考え方については以下のコラムが参考になります。
5. アワーレートの計算方法とは?製造業で正しい時間単価を求める考え方
3. 販管費とは?見積と利益にどう影響するのか
取引先との信頼関係があり、コストダウン協議のためであれば…
一方、取引先と一緒にコストダウンを協議するには、詳細な原価情報が必要です。
「どのような工程で、製造時間はどれくらいか」わからなければコストダウンの協議が進みません。
その場合、取引先と信頼関係があれば、詳細に数字を出すことも可能です。

安く調達するためには
取引先は安く部品を調達したいと思っています。
当たり前ですが、安く部品を調達するためには、安くつくる必要があります。
そのためには作り方を変えなければなりません。
受注側と発注側が協力して、より安くつくる方法を一緒に考えて取り組む必要があります。
その結果、取引先も仕様や公差の見直しが必要になるかもしれません。
100円でつくるものを80円で買おうとしていないか?
安くつくる努力をしないで、交渉で安くしようとすれば
「100円でつくるものを80円で買おうとする」
ことになります。これは中小企業庁のいう「買いたたき」になってしまいます。
企業によってアワーレートは違う
企業によって、同じ工程でもアワーレートは違います。
その原因は、設備や人の違い、減価償却の違い、間接部門の比率、稼働率など様々です。
○○工程ならば○○円/時間 と一律では決められません。
顧客と計算条件が違う
しかも自社と顧客で計算条件が違うこともあります。例えば、
【顧客のアワーレート計算】 直接費用のみ、稼働率100%
【自社のアワーレート計算】 間接製造費用を含む、稼働率80%
こうなると取引先が計算するアワーレートは低くなります。
こちらが提出した資料のアワーレートを見て「こんなに高いわけない!」と思うかもしれません。
実際は、取引先の工場でも稼働率が下がれば原価は高くなっています。
これは原価差異として経理が計算していても、工場の人たちは知らないかもしれません。
しかし仕入れ先が見積をつくる時、稼働率100%では実現できない原価になってしまいます。
同様に間接部門費用、販売費及び一般管理費、利益も企業によって違います。
原価は真実
本コラムで述べる原価の計算方法は、先期の決算書の数値を元にしています。
今期の費用が先期とほぼ同じであれば、この原価は「真実」です。
従って、この見積金額で受注できなければ、製造費用、販管費をカバーして、なおかつ必要な利益を得られません。
しかし、この数字を正しく理解するには、それぞれの企業のおかれた背景や中小企業固有の事情を理解する必要があります。
計算した原価は正しく値上げ金額は適正であっても、取引先は中小企業の原価を正しく理解していない場合もあるため、原価の詳細を開示すれば問題が起きます。
従って開示は値上げの明細にとどめることをお勧めします。
取引先がアワーレートを誤解する原因と対策は以下のコラムが参考になります。
なぜ取引先はアワーレートが高いと言うのか?その原因と対策
5. 値上げ金額の明細はどうやって計算するのか?
材料価格の上昇
ある製品で材料費が20%上昇し360円になった場合

製造原価も60円増加し905円になりました。
材料費以外の費用の増加
材料費以外の費用の上昇による値上げ金額は、製品別の原価を計算する必要があります

A1製品の製造費用
段取時間1時間 加工時間0.1時間 ロット100個
アワーレート(人) 3,295円/時間 アワーレート(設備) 1,657円/時間
人の製造費用 363円 設備の製造費用 182円 合計545円
人件費が3%上昇した場合、A社の人件費は年間で537万円増加
その結果、
アワーレート(人) 3,382円/時間(+87円/時間)
アワーレート(設備) 1,668円/時間 (+11円/時間)
製造費用は
人の製造費用 372円 設備の製造費用 183円 合計555円(+10円)
10円増加しました。

会社全体で人件費3%の上昇は、A1製品で見ればわずかな金額です。しかしこのわずかな金額を値上げしなければ、年間では537万円もの利益を失います。
このように値上げ金額の詳細を計算すれば、それは決して大きくありません。しかしこの金額は値上げできなければ、年間では多額の利益が消えていくのです。
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人件費や電気代の上昇を入力すると、値上げ金額の目安を簡単に計算できます。
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