【製造業の値上げ交渉】6. 値上げ金額の明細はどうすればいいのか?

【製造業の値上げ交渉】5. 電気代の上昇で原価はどれだけ変わるのか?で説明した方法で計算すれば、それぞれの製品の値上げ金額が計算できます。

では、実際にいくら値上げしなければならないのでしょうか?

架空のモデル企業A社 A1製品について考えます。

A社の詳細は【製造業の値上げ交渉】1. 原価はどうやって計算すればいいのだろうか?」を参照願います。
 

値上げ金額の計算

 

「製造業の値上げ交渉5 電気代の上昇で原価はどれだけ変わるのか?」のA社 A1製品の例では、図1に示すように費用が増加しました。

図1 A1製品の費用の増加

図1 A1製品の費用の増加

  • 人件費 : 8%
  • 電気代 : 30%
  • 消耗品費 : 15%
  • 修理費 : 10%

が増加したため、

製造費用は

  • 人件費 : 17.9円
  • 電気代 : 9.5円
  • 消耗品費 : 2円
  • 修繕費 : 1円

合計30円上昇しました。

他にも

  • 材料費 : 10%
  • 外注費 : 5%

上昇したため

  • 材料費 : 33円
  • 外注費 : 2.5円

合計35.5円上昇しました。

これに伴い、販管費、目標利益も増えるため、値上げ金額の合計は90円(89.5円)になりました。

987円の受注金額から、90円値上げできれば上昇する費用をカバーして、利益が確保できます。
 

販管費、利益の増加の値上げは難易度が高い

 

実際は90円の値上げ金額のうち、24円は販管費、利益の増加です。

これは顧客から見れば、値上げを受け入れるのは難しいです。

A社は、先期は製造原価の25%の販管費が発生したのは事実です。新たに見積をする場合は、製造原価の25%で販管費を計算します。そうしないと販管費をカバーできず赤字になってしまいます。

しかし今受注している製品は、この金額で収支が取れているはずです。原価が上がったからといって、販管費も上げなければならないことはないはずです。

このように顧客から言われる可能性があります。

A社の場合、新たに見積計算する場合は、製造原価の25%を販管費、製造原価+販管費の8.7%を利益とします。

しかし値上げ交渉の場合は、実際に増加した費用、材料費35.5円、製造費用30.5円、合計66円の値上げができればOKと考えます。
 

値上げの根拠を求められた場合

 

実際の値上げ交渉では、値上げの根拠を求められることもあります。

簡単な資料で良ければ、先に説明した

A社 A1製品の場合、

  • 人件費 : 8%
  • 電気代 : 30%
  • 消耗品費 : 15%
  • 修理費 : 10%

が増加したため、

製造費用は

  • 人件費 : 17.9円
  • 電気代 : 9.5円
  • 消耗品費 : 2円
  • 修繕費 : 1円

合計30円上昇しました。

他にも

  • 材料費 : 10%
  • 外注費 : 5%

上昇したため

  • 材料費 : 33円
  • 外注費 : 2.5円
    • 合計35.5円上昇しました。

      これを文章にします。
       

      明細が必要な場合

       

      あるいは見積書の明細が必要な場合、1例として、以下のようなアワーレート、製造時間、値上げ金額を記載した明細を作成します。

      図2 見積書の明細の例

      図2 見積書の明細の例

      ただし資料が詳しければ詳しいほど、顧客はその根拠をいろいろと質問します。

      例えば、

      「人件費、電気代等が上昇した時、以下の値上げ金額はどうやって計算したのですか?」

      • 人件費 : 17.9円
      • 電気代 : 9.6円
      • 消耗品費 : 2.0円
      • 修繕費 : 1.0円

      この場合は、以下のように回答します。


      「御社のような大企業では、間接部門の人件費、電気代、消耗品、賃借料などの間接費は、各部門の専有面積や人数に比例して配賦しているかもしれません。

      しかし弊社のような中小企業はそのような詳細な計算はできないので、各部門の時間に比例して一律に配賦しています。その結果、下図のような比率になっています。

      なおこの費用構成は先期の決算書の数値を元に計算したのでほぼ正しいと考えています。なおこの計算方法は専門家に依頼したので、詳しくはわかりません。」

      もし弊社の利益まっくす、及び値上げ計算シートを利用されている場合


      「詳しい計算の仕方はわかりません。当社が使用している原価計算システムは、比率計算のアルゴリズムが非公開となっているためです。」

      図3 アワーレート間(人)の経費の比率

      図3 アワーレート間(人)の経費の比率

      図4 アワーレート間(設備)の経費の比率

      図4 アワーレート間(設備)の経費の比率

      以下の決算書の販管費、製造経費を元に比率を計算しています。

      図5 決算書(販管費)の費用構成

      図5 決算書(販管費)の費用構成

      図6 決算書(製造経費)の費用構成

      図6 決算書(製造経費)の費用構成


       

      適正な販管費、利益が認められない場合

       

      ここまで説明した値上げ金額は、先期の決算書から計算しました。従って真実の原価です。

      しかし中には見積書の販管費〇%、利益〇%と決めていて、それ以上の販管費、利益が認められない場合もあります。

      その場合は、顧客が認める販管費、利益にした上で製造原価を修正しなければなりません。
       

      A1製品の見積を修正した例

       

      顧客が認める販管費、利益にしたA1製品の見積を図7に示します。

      図7 顧客が認める販管費、利益にした見積

      図7 顧客が認める販管費、利益にした見積

      見積金額は、図2と同じです。

      この例では利益率3%、販管費レート7%が顧客の指定でした。

      図7では、その分製造費用が大きくなりました。

      段取時間、加工時間は同じ場合、アワーレートが大きくなりました。

      図2の見積書にある販管費や利益が必要なのは事実です。それが通らなければこのような作業が必要になります。

      この販管費、利益の問題については【製造業の値上げ交渉】3.間接費用や販管費はどう考えるのか?を参照願います。

      では、この値上げ金額をどのように交渉すればよいのか、これについては【製造業の値上げ交渉】10.どのように値上げ交渉すればよいのか?具体的な交渉の手順を参照願います。

      では図面や仕様にない検査や工程が後から追加された場合はどうすればよいでしょうか?

      これについては【製造業の値上げ交渉】7.適正価格はいくらだろうか?を参照願います。

      経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

       
      経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

       
       

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