【原価計算と見積の基礎】7.高い設備は原価が高いのか

大きな設備と小さな設備で原価はどのように変わるのでしょうか?

設備の大きさの違いによる原価に関して、以下の5点について述べます。

  1. アワーレート(設備)と設備の費用
  2. 設備の違いによって現場を分けるかどうか
  3. 設備がラインになっている場合
  4. アワーレート(設備)の間接製造費用の影響
  5. 具体的な原価の違い

 

1. アワーレート(設備)と設備の費用

 
アワーレート(設備)は、

本コラムでは設備の年間費用は、決算書の減価償却費でなく実際の償却費を使います。ランニングコストには以下のものがあります。

設備の購入費用 : 実際の償却費
ランニングコスト : 光熱費、消耗品費、修理代、保守料など


図1
 

ランニングコスト

 
ランニングコストは設備を動かすのに必要な電気代など光熱費、消耗品費、修理代、保守契約費用などです。

この中で設備の差が大きいものをアワーレート(設備)に入れます。今回は電気代のみランニングコストに入れました。

それ以外の費用は金額が少なく設備毎の差も小さいので、間接製造費用として各現場に分配しました。

設備の年間費用が高ければアワーレート(設備)も高くなります。

では設備によって現場を分けた方がいいのでしょうか。
 

2. 違う設備は現場を分けた方がいいか

 

これは設備の機能・能力で判断します。

設備の価格やランニングコストが違っていても、同じ加工であれば生み出す付加価値も同じです。従って、同じ現場にします。
 

A社の場合

 

機械加工A社は、小型のマシニングセンタ4台と大型のマシニングセンタ4台があります。(図2)

この4台は導入時期が異なり、減価償却が残っている設備もあります。ただし加工能力はこの4台の間で差はありません。

大型のマシニングセンタは、大きな部品が加工できるため単価の高い製品が受注できます。

一方、小型のマシニングセンタよりスピードが劣るため、小さな部品は原価が高くなります。

そのため現場はこの2つを使い分けしています。そこで小型のマシニングセンタと大型のマシニングセンタは別の現場とします。

ただし同じ製品を、ある時は大型のマシニングセンタ、ある時は小型のマシニングセンタと、現場が使い分けしていなければ同じ現場にします。

つまり、現場を分けるかどうかは「実際に使い分けしているかどうか」です。

図2

では、複数の設備がラインになっている場合はどうでしょうか。
 

3. 設備がラインになっている場合

 

図3aは、複数の設備を連結してひとつの製造ラインになっています。設備の配置は固定されラインの構成を変えません。この場合、全体を1つの設備と考えます。

逆に設備を常に移動してライン構成が頻繁に変わる場合は、ひとつひとつの設備をそれぞれの現場とします。

図3 ラインを1つの現場と考える場合とそうでない場合

 

違いはサイクルタイム

 

これはサイクルタイム(タクトタイム)〈注1〉によっても変わります。

図3aの場合、各設備のサイクルはライン全体で同期され、ライン全体のサイクルタイム(タクトタイム)は1分でした。この場合、ライン全体で1つの現場と考えます。

対して図3bの場合、各設備のサイクルタイムはバラバラです。工程の順序も常に工程1→工程2→工程3→工程4になるとは限りません。

この場合は、それぞれを別々の現場と考えます(本当は各設備のサイクルタイムがバラバラだと仕掛品が増えて望ましくないのですが)。


〈注1〉
サイクルタイムとタクトタイムの定義は、企業や人によって異なります。本コラムでは以下のように定義します。
【サイクルタイム(CT:Cycle Time)】
1つの工程の開始から完了まで1サイクルにかかる時間のことです。

【タクトタイム(TT:Takt Time)】
ピッチタイムとも呼ばれ、1つの製品の製造にかかる時間です。

ラインで生産する場合は、ライン全体のサイクルタイムです。ラインを構成する設備のサイクルタイムが完全に一致することはめったにありません。

ラインの中にはサイクルタイムの短い設備や長い設備があります。そこで、ラインのタクトタイムはラインを構成する設備の中で最も長いサイクルタイムになります(図4 参照)。

図4 サイクルタイムとタクトタイム


サイクルタイムのばらつきの分、ラインの生産性は低下します。これは以下の式で計算します。

例えば、3台の設備でラインを構成し、各設備のサイクルタイムは
設備1 : 8分
設備2 : 9分
設備3 : 10分
の場合、ラインのタクトタイムは10分です。ラインの効率は

各設備のサイクルタイムのばらつきを縮めない限り、現状では10%のロスが必ず発生します。これは複数の設備に工程分割すれば必ず発生するロスです。

実際は、アワーレートの計算には直接製造費用だけでなく、間接製造費用も含まれます。

間接製造費用はアワーレート(設備)にどのように影響するのでしょうか。
 

4. 間接製造費用の影響

 

この間接製造費用を現場に分配する場合、様々な方法があります。本コラムは、

  • 現場の直接製造費用に比例
  • 現場の直接製造時間に比例

この2つを使います。

この間接製造費用を含めたアワーレートがアワーレート間(人)、アワーレート間(設備)で、これは以下の式で計算します。

では設備の大きさによって、原価はどう変わるでしょうか。具体的な数値で検証します。
 

5. 具体的な原価の違い

 

機械加工A社

 
図5に示すA社の2つの現場(マシニングセンタ1(小型)とマシニングセンタ2(大型))のアワーレート(設備)や原価を比較します。

図5 A社のマシニングセンタのアワーレート

マシニングセンタ2(大型)の1台の年間費用280万円はマシニングセンタ1(小型)140万円の2倍でした。アワーレート(設備)も2倍になりました。

ここでは、間接製造費用を各現場の直接製造費用に比例して分配しました。

これは「直接製造費用の高い現場は付加価値の高い製造をするため、間接製造費用を多く負担する」考え方です。

その結果、分配した間接製造費用は、

マシニングセンタ1(小型) : 145万円

マシニングセンタ2(大型) : 185万円

でした。

間接製造費用を分配したアワーレート間(設備)は、

マシニングセンタ1(小型) : 1,720円/時間

マシニングセンタ2(大型) : 2,850円/時間

1.7倍に差は縮みました。

この違いが原価にどう影響するのでしょうか。A社 A1製品の原価を図6に示します。

図6 A1製品の受注条件と原価、利益

A1製品は

製造費用
マシニングセンタ1(小型) : 380円

マシニングセンタ2(大型) : 470円 (+90円)

利益
マシニングセンタ1(小型) : 50円

マシニングセンタ2(大型) : ▲60円

マシニングセンタ1(小型)では50円の利益が、マシニングセンタ2(大型)では60円の赤字になりました。このように大きな(年間費用の高い)設備は原価が上がります。

実際マシニングセンタ2(大型)は製造費用が90円増えました。しかし、この90円の多くは固定費(実際の償却費)です。つまり赤字でも本当にお金が出ていくわけではありません。

もし、マシニングセンタ2(大型)でも加工できる製品があり、マシニングセンタ2(大型)が空いていれば、マシニングセンタ2(大型)で加工すべきです。

そうすれば原価計算上は赤字でも会社の利益は増えます。この点は誤解する現場の人も多いので注意します。
 

樹脂成形加工B社

 

B社は大きさの異なる50トンから450トンまでの射出成形機があります。

一般的には樹脂成形は成形機の大きさでアワーレートを変えます。顧客も同様に成形機の大きさに応じて見積を査定します。そこで大きさの異なる4種類の成形機のアワーレートを計算します

4台の成形機の年間費用とアワーレートを図7に示します。

図7 A社のマシニングセンタのアワーレート

450トンの成形機1台の年間費用380万円は、50トンの成形機70万円の5.4倍でした。

年間費用から計算したアワーレート(設備)も450トンの成形機は700円/時間、50トンの成形機の5.4倍でした。

小型の成形機も大型の成形機も、電気代を除けば工場で消費する経費は大きく変わりません。そこで、間接製造費用を各現場の直接製造時間に比例して分配しました。

これは「直接製造時間の多い現場はそれだけ工場のリソースを多く使用しているため、間接製造費用を多く負担する」考え方です。

間接製造費用を分配したアワーレート間(設備)は、

50トン : 830円/時間
1850トン : 930円/時間
280トン : 1,190円/時間
450トン : 1,400円/時間 (50トンの1.7倍)

でした。

450トンの成形機のアワーレート間(設備)は、50トンの成形機の1.7倍まで差が縮みました。

この違いは、原価にどう影響するのでしょうか。B1製品の原価を図8に示します。

図8 B1製品の受注条件と原価、利益

B1製品は

製造費用
50t : 14.1円
180t : 15.9円 (+1.8円)
280t : 20.2円 (+6.1円)
450t : 23.7円 (+9.6円)

利益
50t : 3.3円
180t : 1.2円
280t : ▲4.0円
450t : ▲8.1円

50トンでは3.3円あった利益が、450トンでは8.1円の赤字になりました。ただし、この8.1円の大半は固定費です。赤字でも本当にお金が出ていくわけではありません。

もし450トンの成形機が空いていて、450トンの成形機で製造できる製品があれば、450トンの成形機で製造すべきです。そうすれば原価は赤字でも会社の利益は増えます。

このように設備毎の原価の違いを計算できました。

では設備を自動化すれば原価はどう変わるでしょうか?

設備の自動化と多台持ち、ロボットの活用については【原価計算と見えない赤字】2.自動化とロボットの活用を参照願います。

経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

経営コラム【製造業の原価計算と見積】【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。


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