【原価計算と見積の基礎】8.自動化とロボットの活用

設備の大きさによる原価に違いについて【原価計算と見積の基礎】7.高い設備は原価が高いのかで説明しました。

一方、今日では多くの設備がコンピューター制御化(NC化)され、起動ボタンを押せば自動で生産します。

この時、原価はどうなるのでしょうか。

この自動化・無人化に関し、以下の6点について述べます。

  1. 人と設備、段取と加工の組合せ
  2. 無人加工と有人加工の違い
  3. 無人加工中の作業者の費用
  4. 夜間かけっぱなしの場合
  5. 人をロボットに置き換えた場合
  6. 具体的な原価と利益

 

1. 人と設備、段取と加工の組合せ

 
人と設備が稼働する場合、どのように原価を計算するのでしょうか。

最初に図1に示すように製造費用を人と設備、段取と加工(製造)で分けて考えます。

図1 段取と加工

図1で加工中の人と設備の組み合わせから

  • 有人加工 (人と設備が同時に加工)
  • 人のみ
  • 無人加工 (加工は設備のみ)

この3つがあります。

無人加工の場合、段取は

内段取 : 設備を止めて段取
外段取 : 生産中に設備を止めずに段取

の2つがあります。

「人のみ」の現場で設備を一部使用する場合、設備の費用は、その現場の間接製造費用とします。そしてアワーレート間(人)の計算に入れます。

同様に「無人加工」の現場で一部人が関与する場合、人の費用はその現場の間接製造費用とし、アワーレート間(設備)の計算に入れます。

なお、本コラムで原価に段取費用を入れているのは、ロットの大きさが変わると原価も変わるためです。

ロットが少なくなれば1個当たりの段取費用が高くなり原価が上がります。これが原因で赤字になることもあります。

一方、大量生産で段取がほとんどない場合、段取費用は原価に入れません。その場合、段取は生産ロスと考えます。
 

2. 無人加工と有人加工の違い

 
有人加工 : 加工中、作業者が設備を常時操作する
無人加工 : 加工中、作業者は設備についていない

この違いを段取と加工に分けて説明します。
 

有人加工

 
【段取】
作業者は設備を止めて段取を行うため、人と設備の両方の費用が発生します。

【加工】
作業者は設備を常に操作するため、加工中も人と設備の両方の費用が発生します。

図2 有人加工

有人加工の場合、製造費用は人の費用と設備の費用の合計です。

人と設備の時間が同じであれば、アワーレートはアワーレート間(人)とアワーレート間(設備)の合計です。これをアワーレート(人+設備)と呼ぶことにします。

アワーレート間(人+設備)=アワーレート間(人)+間アワーレート(設備)
 

無人加工

 
【段取】
有人加工と同じです。

作業者は設備を止めて段取を行うため、人と設備の両方の費用が発生します。

【加工】
設備が自動で加工し、作業者は設備から離れます。加工中は設備の費用のみ発生します。

図3 無人加工

ただし無人加工での作業者の費用がゼロになるには、加工中、作業者は他の現場で「別のお金を稼ぐ仕事」をする必要があります。

「お金を稼ぐ仕事」とは「見積に入っているバリ取りや検査など」です。見積に入っていない検査や次の生産準備はお金を稼いでいません。

その場合は加工中も人の費用がかかると考えます。その場合、無人加工でも原価は有人加工と同じです。

設備が無人で加工を続けるには、材料の自動供給と製品の自動取出し(自動排出)の機能が必要です。

こういった機能がなく材料の供給と製品の取出しを作業者が行う場合はどうなるのでしょうか。

この時、作業者が複数の設備を担当することがあります。これが多台持ちです。
 

多台持ち

 
作業者が1人で複数の設備を担当することです。大量生産の工場でよく行われます。

1人で2台担当すれば2台持ち、3台担当すれば3台持ちと呼びます。以下は2台持ちの説明です。

【段取】
作業者は設備を止めて段取を行うため、人と設備、両方の費用が発生します。

【加工】
2台持ちの場合、作業者は2台の設備を担当します。

設備の費用は有人加工と同じですが、人の費用は1/2です。

図4 多台持ち

A社のマシニングセンタ1(小型)の年間費用(実際の償却費)140万円です。これは正社員より低い金額です。

従って無人加工で人の費用がゼロになれば原価は大きく下がります。

2台持ちは人の費用が半分になります。有人加工より原価は低くなります。

一方、無人加工中作業者は他の現場で「別のお金を稼ぐ仕事」をする必要がありますが、これはなかなか難しいです。

実際は加工中作業者がその現場で設備の状態を監視したり、製品の検査や仕上げ作業を行ったりしています。

この場合、加工中の作業者の費用はどう考えたらよいでしょうか。
 

3. 無人加工の作業者の費用

 
この場合、無人加工中の作業者の費用は、設備の間接製造費用と考えます。

図5は、無人加工の設備が4台あり、2人の作業者が担当しています。

作業者は、設備の段取を順に行い、段取が完了すれば設備は無人で加工します。段取が終われば、作業者は次の段取の準備や完成品の品質確認を行います。

無人加工でも多くの現場はこのようにしています。

図5 無人加工中の作業者

この場合、加工中も作業者の費用は発生します。ただし加工中作業者は複数の設備を担当し、作業者の費用がどの製品にどのくらい生じているのかわかりません。

そこで加工中の作業者の費用は、設備の間接製造費用とします。
アワーレート間(設備)は

図5の例では4台の設備に作業者が2名なので2台持ちと同じです。作業者の持ち台数が多くなれば、原価はさらに下がります。

作業者の費用は、加工中は設備の間接製造費用、段取中は直接製造費用です。

そこで作業者の日々の時間の中で段取時間と加工時間の割合が必要になります。

ただしこの比率を正確に調べるのは大変なので、数日間サンプルを取って代表値とします。これを図6に示します。

図6 無人加工の作業者の費用

図6は設備が4台、作業者が2名の場合

作業者の段取時間と加工時間
段取 : 2,200時間 (50%)
加工 : 2,200時間 (50%)

設備は4台なので合計時間は
段取 : 2,200時間
加工 : 6,600時間

段取中は、人と設備の費用が両方発生するため、段取のアワーレートは、アワーレート間(人)とアワーレート間(設備)の合計です。

加工中は設備の費用のみです。ただし、人の費用は間接製造費用としてアワーレート間(設備)に含まれます。その結果

段取のアワーレート : 3,670円/時間 (2,610+1,060)
加工のアワーレート : 2,180円/時間

加工のアワーレートは低くなりました。

無人加工の設備は、帰る前に加工を開始し、夜間加工が終わったら設備は止まったままにする「かけ逃げ (又はかけ捨て)」ができます。

この場合の原価はどうなるのでしょうか。

4. かけ逃げ

かけ逃げの原価は、その現場が無人加工か、有人加工かで変わります。

図7に無人加工と有人加工の場合のかけ逃げを示します。

図7 有人加工と無人加工のかけ逃げ

 

無人加工の場合

 
図7aの場合、元々無人加工なので、無人加工として原価を計算します。

かけ逃げのメリットは設備の稼働時間が長くなることです。かけ逃げの頻度が高ければ、年間の稼働時間は長くなります。

その結果、アワーレート(設備)が下がります。

年間の設備の操業時間の合計は

設備の操業時間合計=昼の操業時間合計+かけ逃げ時間の合計
 

有人加工の場合

 
有人加工でも「かけ逃げ」ができるタイミングがあればかけ逃げする場合、かけ逃げの間の加工費用は無人加工と同じです。

ただし、いつでもかけ逃げできるとは限らないため、原価は有人加工とします。

かけ逃げした分は「見えない利益」と考えます。
 

5. ロボットの導入

 
ロボットを導入して無人加工ができれば原価は下がります。

しかし、従来の産業ロボットは高価で安全フェンスのため広い場所も必要で、導入は容易ではありませんでした。

近年、スピードはそれほど速くないのですが、安価で安全フェンスも不要な協働ロボットが普及してきました。

こういったロボットを導入した場合、原価はどうなるのでしょうか。

図8 ロボット化の場

500万円のロボットでも5年間使用すれば、年間のロボットの費用(実際の償却費)は100万円、パート社員と変わりません。

ただし協働ロボットは、スピードは遅いため人よりも時間は長くなります。

しかし、人は24時間働けませんが、ロボットは24時間働けます。ロボットは有休もとりません。

人は作業スピードが遅くなったり、トイレのために抜けたりしますが、ロボットは一定のスピードで動き続けます。

そこで現在の作業のままロボットを人と置き換えるより、スピードは劣っても24時間稼働できるロボットの特徴を生かして作業を見直しします。

ロボットを導入することで設備が長時間稼働できればアワーレート(設備)が下がり原価が低くなります。

ロボット化でどれだけ原価は下がるのでしょうか。

 

6. 有人加工・無人加工・2台持ち・ロボット化の具体的な比較

 
機械加工A社はA1製品をマシニングセンタ1(小型)で製造しました。
その場合の有人加工、無人加工、2台持ち、ロボット化の原価を比較します。

ロボットは

価格   : 500万円
耐用年数 : 5年
年間費用 : 100万円

としました。

(ロボットの法定耐用年数は、マシニングセンタ(金属加工機械)に取り付ければ、マシニングセンタの法定耐用年数10年が適用されます。今回は年間でフル稼働を想定し本当の耐用年数を5年としました)

この時のA1製品の製造費用と利益を図9に示します。

図9 A1製品の製造費用と利益の違い

製造費用          利益
有人加工 : 350円   有人加工 : 90円
2台持ち : 240円    2台持ち : 230円
ロボット化 : 180円    ロボット化 : 300円
無人加工 : 130円    無人加工 : 360円

製造費用は

有人加工→2台持ち→ロボット化→無人加工

の順に低くなります。従ってロボット化の原価低減効果は高いことがわかります。
 

樹脂成形の有人加工と無人加工

 

樹脂成形の場合、ローダー付き成形機は無人加工ができます。

一方、毎回金型に部品をセットするインサート成型の場合は有人加工です。

有人加工と無人加工で原価はどれだけ違うのでしょうか。

B社 180トン成形機の無人加工と有人加工のアワーレートは
【段取】           【加工】
無人加工 : 2,950円/時間    無人加工 : 930円/時間
有人加工 : 2,870円/時間    有人加工 : 2,870円/時間

有人加工の場合、人の費用があるため加工のアワーレートは無人加工よりも大幅に高くなります。その結果、B1製品の原価を図10に示します。

図10 樹脂成形の有人加工と無人加工の原価

製造費用          利益
有人加工 : 48.1円   有人加工 : ▲37.2円
無人加工 : 15.9円    無人加工 : 1.2円

加工のアワーレートは、有人加工は無人加工の約3倍のため、有人加工の製造費用は大幅に増加します。

その結果、無人加工では1.2円の利益が有人加工は37.2円の赤字でした。

つまり有人加工を無人加工にできれば大幅なコストダウンになります。

逆に、トラブルが起きて作業者が常に製品をチェックし、無人加工の現場が有人加工になっている場合、原価は大幅に増えています。

早急にトラブルを解決して無人加工にしなければ大きな損失になります。
 

夜間無人加工の原価

 
ワークの着脱まで自動化し、完全に無人加工ができれば、夜間無人加工できます。

そうすれば年間の稼働時間が大幅に増えます。アワーレート(設備)が低くなり原価が大きく下がります。

夜間無人加工をするためには、材料の自動供給と製品の自動取出しが必要です。例えば

  • NC旋盤 バー材自動供給装置やローダー、ロボット
  • マシニングセンタ パレットチェンジャー
  • 射出成形機 自動取出し機(ローダー)
  • プレス機 コイル材供給装置

などが必要です。

またワイヤーカット放電加工機は、最初から夜間無人加工を想定した設備です。

そこで図11にNC旋盤を夜間無人加工にした場合を示します。

図11 夜間無人加工の場合

夜間無人加工により
設備の稼働時間 : 2,200時間 → 6,800時間

3倍以上増加しました。その結果
加工のアワーレート(設備) : 1,720円/時間 → 1,020円/時間

アワーレートが大きく減少しました。
段取のアワーレートも下がり、人と設備合わせて2,930円/時間になりました。

夜間無人加工、無人加工、2台持ちの製造費用と利益を比較したものを図12に示します。

図3-2-12 夜間無人加工との製造費用、利益の比較
図12 夜間無人加工との製造費用、利益の比較

製造費用          利益
有人加工 : 350円   有人加工 : 90円
無人加工 : 130円    無人加工 : 360円
2台持ち : 240円    2台持ち : 230円
夜間無人加工 : 90円    夜間無人加工 : 410円

夜間無人加工により製造費用は90円になりました。従って夜間無人加工は高いコストダウン効果があります。

一方、ワイヤーカット放電加工機のように最初から夜間無人加工を前提にした設備は、夜間無人加工をしなければ原価が大きく上がってしまいます。

では製造ロットが変わると原価はどれだけ変化するのでしょうか?

ロットの減少によるコストアップについては【原価計算と見えない赤字】3.ロットの減少によるコストアップを参照願います。

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