【原価計算と見積の基礎】5.設備のアワーレートの計算方法(1)ではアワーレート(設備)の計算に必要な減価償却費について説明しました。
ここではアワーレート(設備)の具体的な計算について説明します。
アワーレート(設備)の計算
アワーレート(設備)の計算に使用する設備の年間費用は、実際の償却費とランニングコストです。アワーレート(設備)の計算は以下の式です。
複数の設備がある場合、複数の設備を平均した現場の平均アワーレート(設備)を計算します。
A社 マシニングセンタ1(小型)の現場の場合
A社のマシニングセンタ1(小型)の現場の設備を(図1)に示します。

計算を簡単にするため4台とも
購入価格 : 2,100万円
ランニングコスト : 18.4万円
年間操業時間 : 2,200時間
稼働率 : 0.8
実際の耐用年数 : 15年
とします。実際の償却費は
現場の平均アワーレート(設備)は
マシニングセンタ1(小型)の現場のアワーレート(設備)は900円/時間でした。
4台の設備は導入後、それぞれ4年目、8年目、11年目、12年目でした。
決算書の減価償却費は
4年目 : 215万円
8年目 : 138万円
11年目 : 0円
12年目 : 0円
従って減価償却費から計算したアワーレート(設備)は
減価償却費から計算したマシニングセンタ1(小型)の現場のアワーレート(設備)は600円/時間でした。
24時間稼働した場合
人は24時間働けませんが、設備は24時間稼働できます。24時間稼働すれば稼働時間が長くなり、アワーレート(設備)は低くなります。
A社のマシニングセンタ1(小型)を24時間稼働させた結果、
年間操業時間 : 2,200時間 → 6,000時間
年間の電気代 : 18.4万円 → 50.2万円
年間の電気代は50.2万円に増加しました。アワーレート(設備)は
電気代は増えましたが稼働時間が大幅に増えたため、アワーレート(設備)は
昼勤のみ: 900円/時間
24時間 : 400円/時間
昼勤のみの44%になりました。高価な設備はアワーレート(設備)が高くなりますが、24時間動かせばアワーレート(設備)を低く抑えられます。
年に半分しか稼働しない場合
逆に設備を動かさなければアワーレート(設備)は上昇します。
マシニングセンタ1(小型)の現場で、購入11年目と12年目の設備が半分しか稼働しない場合(図2、図3)


アワーレート(設備)は以下のようになります。
アワーレート(設備)は1,200円/時間、約1.3倍になりました。
将来更新する設備は使わなくても費用が発生しています。そのため使わない時間が長ければアワーレート(設備)は高くなります。
高い設備と安い設備がある場合
価格の高い設備と低い設備は、アワーレート(設備)が違うのでしょうか。
A社のマシニングセンタ1(小型)の現場で、高性能な設備(例えば5軸マシニングセンタ)を1台導入した場合を考えます。この設備は、複雑な加工ができる反面、価格が4,200万円と高価でした。
図4に示すマシニングセンタ1(小型)の現場で購入4年目の設備が4,200万円の場合

4,200万円のマシニングセンタは
実際の償却費 : 280万円 (2倍)
マシニングセンタ単体の
アワーレート(設備) : 1,700円/時間
それまでの2倍近くになります。そのため現場の平均アワーレート(設備) は、1,100円/時間 になり、200円/時間上昇しました。その分見積も高くなります。
高価な設備は価格に見合った付加価値を生むことができれば問題ありません。
しかし、従来の設備と同じ付加価値しか生まなければコストアップになってしまいます。
価格の高い設備は原価が高くなる?
4,200万円のマシニングセンタと2,100万円のマシニングセンタでは、アワーレート(設備)は異なります。
つまり価格の高い設備で製造すれば原価も高くなります。
そのため単価の低い加工は、安い設備を使うように指示する管理者もいます。では安い製品は高い設備を使うべきではないのでしょうか。
アワーレート(設備)の主な違いは、実際の償却費です。実際の償却費はすでに過去に払ったお金です。例え高い設備を使っても新たにお金が出ていくわけではありません。高い設備も使わなければお金は稼ぎません。
つまり設備が高くても、どんな仕事でも入れて設備を動かした方が利益は増えるのです。
そこで設備の価格が違っても同じ能力であれば同じ現場と考えます。そしてその現場の平均アワーレート(設備)を使用します。そうすればどの設備を使用しても原価は同じです。
設備を増やしたらどうなるのか?
設備を増やせば、その分、減価償却費・実際の償却費は増えます。それに応じて受注を増やさなければお金は増えません。
つまり設備を増やすということは、工場全体の費用を増やすことです。その分受注を増やして設備の稼働率を維持しなければなりません。設備が増えても受注が増えなければ、設備の稼働率が下がり原価が上昇します。
一方、測定器のように直接生産しない設備を増やせば、アワーレート(設備)が上昇します。そして工場のコスト競争力は弱くなります。それでも必要であれば測定機は入れなければなりません。その分現場は高コストになっていくので、より付加価値の高い受注を増やさなければなりません。
間接的に使用する設備を増やすとアワーレート(設備)はどうなる?
現場にはボール盤やグラインダーのように日常の生産には使用せず、部品の修正や治具の作成に使用する設備もあります。(図5)
常時使用されて付加価値を生む設備に対して、これらは生産をサポートする設備です。本コラムはこれを「補助的に使用する設備」と呼びます。

補助的に使用する設備は、使用頻度が低く更新期間も長いため、その費用はアワーレート(設備)には入れません。ただし、高額でしかも短期間に更新する設備の場合、その設備の実際の償却費を設備の年間費用に加えて、アワーレート(設備)を計算します。
例えば、図6のマシニングセンタ1(小型)の現場で、検査のため500万円のデジタルマイクロスコープを導入しました。デジタルマイクロスコープの実際の耐用年数は10年でした。このデジタルマイクロスコープはマシニングセンタの現場のみで使用します。
そこでデジタルマイクロスコープの実際の償却費50万円/年を、マシニングセンタ1(小型)の現場の間接製造費用とします。

間接設備を含む平均アワーレート(設備)の計算は以下の式です。
(設備の年間費用合計は、実際の償却費+ランニングコストの合計)

アワーレート(設備) : 900円/時間 → 970円/時間
アワーレート(設備)は70円/時間増加しました。
どこまで細かく計算するのか? 設備のランニングコスト
設備のランニングコストには図7のようなものがあります。

その内訳は
- エネルギーコスト
電気、ガス、水道など水道光熱費 - 消耗品
オイル、クーラントなど液体
二酸化炭素、アルゴン、窒素ガスなど気体
ウェス、刃物、工具など固体 - 修理・保守費用
修理代、保守契約などサービス費用
これらの費用はどの設備でどれだけ発生したのか正確にはわかりません。そこで間接製造費用として、他の工場の経費と共に各現場に分配します。
ただし、設備によっては特定の費用がとても高いことがあります。その場合、その費用はその設備の直接製造費用としてアワーレート(設備)の計算に入れます。例えば
- ヒーターがあるため消費電力がとても大きい設備。あるいは射出成型機など設備の大きさで消費電力が変わりアワーレート(設備)にも影響する場合。
- 窒素、二酸化炭素やアルゴンガスなどのガスを多く消費する設備。
- 食品製造設備のように終業後洗浄のため多量の水を使用する設備。
- 刃物やオイルなどの特定の消耗品の使用量が多い設備。
- 多額の修理費が発生する設備。
- 多額の修理費に備えて毎年保険をかけている設備。又は高額な保守契約をメーカーと締結している設備。
これらの費用は、その設備、あるいは現場固有の費用として、アワーレート(設備)の計算に入れます。
人と設備以外の費用、間接製造費用と販管費の計算は、書籍「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書【基礎編】」で詳しくご説明しております。
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