【原価計算と見積の基礎】7.間接費用の分配

原価計算と見積の基礎
このコラムの概要

製品の正確な原価計算と見積もりには、間接費(家賃、光熱費など)の適切な分配が不可欠です。これらの費用を各製品に配賦する際、売上高や作業時間など、企業の状況に合った基準を選択することが重要です。これにより、製品ごとの収益性が明確になり、価格設定や経営戦略の精度が高まります。不適切な配賦は原価を歪め、企業の利益を損なう可能性があります。

 
6.設備のアワーレートの計算方法(2)ではアワーレート(設備)の計算について説明しました。ここでは人と設備以外の費用、間接製造費用と販管費の計算について説明します。
 

意外と大きい間接部門の費用

間接製造費用とは

 工場には直接製品を製造する直接部門と、製品を直接製造しない間接部門があります。間接部門には生産管理、資材調達、物流、品質管理などがあります。間接部門の費用は間接製造費用です。

また直接部門にも部長や課長など管理に専任し直接製造しない人たちもいます。現場の中にも生産準備など補助的な作業を行い、どれだけ作業すれば、どれだけ生産できるのか明確でない作業者もいます。彼らの費用も間接製造費用です。

A社の部門構成を図1に示します。

図1 A社の部門構成

A社の直接製造部門

  • マシニングセンタ1(小型)
  • マシニングセンタ2(大型)
  • NC旋盤
  • ワイヤーカット放電加工機
  • 組立
  • 出荷検査
  • 設計

A社は設計費用も見積に入れているため、設計も直接製造部門です。間接部門は

  • 生産管理
  • 資材発注
  • 品質管理
  • 受入検査

です。また製造課の課長やマシニングセンタの現場のパート社員は間接作業者です。 

設計や検査は直接部門か?間接部門か?

 加工、組立の現場は直接製造部門です。では検査や設計は直接部門と間接部門のどちらでしょうか?
これは、設計費用や検査費用が見積に含まれるかどうかによります。(図2)

図2 設計費用の考え方

【設計費用】
設計費用は、以下の2種類があります。

  1. 自社製品として設計し、製造・販売する製品の設計費用
  2. 顧客の要求に基づいて設計・製作する製品の設計費用

1.の設計費用は開発費で、製造原価の間接製造費用です。あるいは設計費用が研究開発費の場合、販管費のこともあります。

2.の場合、設計費用が見積に含まれるかどうかで、設計費用が直接製造費用か、間接製造費用か変わります。

設計費用が見積に含まれる場合、設計費用は直接製造費用です。この場合、製品毎に設計時間を集計し、設計時間から設計費用を計算し、原価に加えます。そうしないとその製品が儲かったかどうかがわかりません。

設計費用が見積に含まれない場合、設計費用は間接製造費用です。この場合、他の間接部門の費用と同じように各現場に分配します。

【検査費用】
検査費用も同様です。検査費用が見積に含まれる場合、検査もお金を稼いでいます。その場合、検査は直接部門です。検査費用は直接製造費用です。
一方、検査費用が見積に含まれなければ、検査は間接部門です。検査費用は間接製造費用です。

受入検査は見積に含まれないため、受入検査は間接部門で、受入検査の費用は間接製造費用です。
 

これも大きい「工場の経費」

 
もうひとつの間接製造費用は工場の経費です。図3に代表的な工場の経費を示します。

図3 製造経費

図3のうち消耗品・消耗工具費の一部は本来は材料費です。もし消耗品、消耗工具の中で、特定の製品で消費量が多いものがあれば、その費用は直接製造費用として、その製品の製造原価に入れます。

例えば、ある製品は特殊な刃物を使用して加工します。その刃物は高価で消費量も多いため、その刃物代のみ直接製造費用としてその製品の見積に入れます。 

間接製造費用の原価への組込み1 (簡便な方法)

 間接製造費用を原価に組み込む際、2つの方法があります。

ひとつは個々の製品の直接製造費用に一定の比率(間接費レート)をかけて間接製造費用を計算する方法です。この場合、間接費レートは第2章 式2-6より

間接費レート= 先期の間接製造費用 先期の直接製造費用

A社の場合

先期の間接製造費用合計 : 4,680万円
先期の直接製造費用合計 : 1億1,820万円

間接費レート= 4,680 1億1,820 =0.396≒0.40

間接費レートは40%でした。従って

製造費用=直接製造費用×(1+間接費レート)
    =直接製造費用×(1+0.4)
    =直接製造費用×1.4

直接製造費用を1.4倍すれば、製造費用になります。 

間接製造費用の原価への組込み2 (現場の分配)

 間接製造費用を部門別に計算し各現場に分配する場合、本コラムでは以下のように行います。

  • 間接部門の費用は労務費のみとする。
  • 製造経費は間接部門には分配せず、各現場に直接分配する。

この間接部門の費用と製造経費を、各現場の直接時間、もしくは直接製造費用のいずれかに比例して分配します。

  • 直接製造費用に比例して分配
  • 直接製造時間に比例して分配 (人・設備)

設備の直接製造時間に比例して分配する場合、設備がない現場は人の時間を使用します。人の直接製造時間に比例して分配する場合、無人で加工する設備の現場は設備の時間を使用します。(図4)

ただし、特定の現場で多く消費している費用があれば、その現場固有の費用とします。

図4 間接製造費用の分配

直接製造費用に比例して分配

 直接製造費用に比例して分配する場合、各現場の直接製造費用を計算し、直接製造費用の大きい現場には、間接製造費用を多く分配します。直接製造費用が大きい現場は生み出す付加価値が高くたくさん稼ぐはずです。たくさん稼ぐ現場には、間接製造費用をたくさん負担してもらうという考え方です。 

直接製造時間に比例して分配

 直接製造時間に比例して分配する場合、各現場の直接製造時間を合計し、現場毎の直接製造時間の比率を計算します。直接製造時間の大きい現場に間接製造費用を多く分配します。直接製造時間が大きい現場は工場の資源(リソース)を多く使用し、生み出す付加価値も高いと考えます。その分間接製造費用をたくさん負担してもらう考えです。 

アワーレート間の計算

 どちらの分配ルールを採用するかで現場毎のアワーレートは変わります。しかしどちらが正解ということはないので、自社に合った方法を選択します。

アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)は

アワーレート間(人)= 人の年間費用合計+間接製造費用分配 直接作業者の稼働時間合計

アワーレート間(設備)= 設備の年間費用合計+間接製造費用分配 直接設備の稼働時間合計

人の年間費用合計は、その現場の直接作業者と間接作業者の人件費の合計です。従って

アワーレート間(人)= 直接作業者人件費合計+間接作業者人件費合計+ 間接製造費用分配 直接作業者の稼働時間合計

また設備の年間費用合計は、その現場の直接製造設備の費用と間接製造設備の費用の合計です。従って

 

アワーレート間(設備)= 直接製造設備の年間費用合計+間接製造設備費用合計+間接製造費用分配 直接設備の稼働時間合計

A社マシニングセンタ1(小型)の現場の計算例

 A社マシニングセンタ1(小型)の現場の例を図5に示します。

図5 間接製造費用を含んだアワーレート(人)

A社は直接製造費用に比例して間接製造費用を分配しました。その結果、マシニングセンタ1(小型)の人の現場の間接製造費用の分配は580万円でした。

アワーレート間(人)= 直接作業者の人件費合計++間接作業者人件費合計+間接製造費用分配 直接作業者の稼働時間合計
= (1,672×10^4+115.2+580×10^4) 7,040
=3,363≒3,360円/時間

マシニングセンタ1(小型)の現場は

アワーレート(人) : 2,540円/時間
アワーレート間(人) : 3,360円/時間

この現場の間接製造費用を含んだアワーレート(設備)を図6に示します。

図6 間接製造費用を含んだアワーレート(設備)

マシニングセンタ1(小型)の設備の現場の間接製造費用分配は580万円でした。

アワーレート間(設備)= 直接製造設備費用合計++間接製造設備費用合計+間接製造費用分配 直接作製造設備の稼働時間合計
= (140+18.4)×4×10^4+0+580×10^4) 2,200×0.8×4
=1,724≒1,720円/時間

マシニングセンタ1(小型)の現場
アワーレート(設備) : 900円/時間
アワーレート間(設備) : 1,720円/時間 

「原価計算と見積の基礎」の他のコラムは以下から参照いただけます
本コラムは「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」【基礎編】【実践編】の一部を抜粋しました。

「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」の目次
【基礎編】

  • 第1章 なぜ個々の製品の製造原価が必要なのか?
  • 第2章 どうやって個別原価を計算するのか?
  • 第3章 アワーレート(人)はどうやって計算する?
  • 第4章 アワーレート(設備)に必要な減価償却費
  • 第5章 アワーレート(設備)はどうやって計算する?
  • 第6章 間接製造費用と販管費の分配
  • 第7章 個々の製品の原価計算

【実践編】

  • 第1章 製造原価の計算方法
  • 第2章 難しい原価計算を分かりやすく解説
  • 第3章 原価を活かした工場管理
  • 第4章 原価を活かして見えない損失を発見する
  • 第5章 意思決定への原価の活用

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