【原価計算と見積の基礎】1.なぜ原価が必要なのか?

原価計算と見積の基礎
このコラムの概要

原材料やエネルギー、人件費の高騰が続く中、中小製造業にとって「自社製品はいくらで作っているのか?」を正しく把握することがこれまで以上に重要になっています。利益を確保するには、値上げ交渉や価格転嫁を的確に行う必要があり、その基盤となるのが「個別原価」の管理です。本記事では、個別原価とは何か、なぜ見積や経営判断に不可欠なのか、財務会計との違いを交えながら、中小企業が最低限押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。

なぜ個々の製品の原価(以降、個別原価)が必要なのでしょうか?

「たとえ個別原価がわかっても発注先が一方的に値段を決めるので意味がない」
このような意見もあります。

しかし、個別原価がわからないことで次のような問題があります。
 

「どんどん上がる物価」個別原価がわからなければ値上げできない

 
個別原価がわからなければ原材料や光熱費が上がっても、製品がいくら上がっているのかわかりません。なぜなら原材料や光熱費は生産量によって毎月変動するからです。

試算表を見ても費用が増えているのは「その月の使用量が増えたため」なのか、「値上げの影響なのか」わかりません。決算になって利益が減ったことで、ようやく値上げの影響がわかります。
 

原材料価格の上昇

 
鋼材など鉱物資源は世界中で需要が増加し、価格も上昇しています。

図1の厚板16~25ミリの鋼材の市況価格は、2021年の4月から1年間で40%も上昇しました。

図1 鋼材価格の推移 (厚板16~25ミリの例)

 

エネルギー価格の上昇

 
原油価格は、ウクライナ戦争や産油国の供給調整、投機マネーの流入により大きく変動します。さらに原油や天然ガスは円安の影響も強く受けます。

これにより電気代は高騰し、kWhあたりの平均販売単価は、図2に示すように2022年12月には2年前に比べ2.5倍に上昇しました。(中部電力の例)
 

図2 電気平均販売単価の推移(中部電力)


 
他にも、樹脂や潤滑油など石油を原料とする製品や、刃物などの消耗品、梱包用の段ボール、運送費なども上がっています。
 

人件費の上昇

 
人件費も上昇しています。

図3に示すように、最低賃金は10年間で26%上昇しました。(例 愛知県)最近は人手不足による賃金上昇が加わっています。
 

図3 最低賃金の推移(愛知県)


 

値上げは喫緊の課題

 
このような背景から電気・ガスなどの光熱費、消耗品や運送費などは、随時値上げされています。

これに対し交渉の余地はほとんどありません。その分値上げしなければ利益が削られてしまいます。多くの中小企業にとって値上げは喫緊の課題です。

しかし中には「値上げは無理」とあきらめている会社もあります。

材料費や運送費は、交渉のやり方によっては値上げできる可能性があります。

いくら個別原価が上がったのかわからなければ値上げ交渉ができません。他にも、個別原価がわからないために起きる問題があります。
 

「本当はもっと高いかもしれない」実績原価との違い

 
それは実績原価が見積をオーバーしてもわからないことです。

実績原価が高くなる原因は

  • 設備のトラブルや不安定な工程のため、予定より時間がかかった。
  • 納期に間に合わないため、製造している製品を止めて別の製品を割り込ませた。そのため段取が2回発生した。
  • 作業ミスのため不良品が発生した。
  • 顧客から傷の指摘を受け、全数検査を追加した。
  • 金型費は製品の価格に上乗せする契約で受注したが、途中で生産が打ち切られた。

など様々です。
 

問題を早期に発見するためには実績原価の把握が必要

 
実績原価が上がれば利益が減るだけでなく、時には赤字になります。しかし実績原価を把握していなければ、赤字かどうかもわかりません。

問題を早く発見し対処するには、実績原価の把握は不可欠です。

一方、多品種少量生産の場合、1個1個製造時間を記録するのは大変です。それでも「ロット毎に生産開始と完了の時間を記録する」などやり方を工夫すれば実績時間の記録は可能です。
 

儲かっているかどうかがわかる「ものさし」

 
つまり個別原価は、工場がどのくらい儲かっているかどうかを把握する「ものさし」です。ものさしがなければ、現場が日々適切な利益を出しているかどうかがわかりません。

決算をしてようやく儲かっていないことがわかります。しかしその時は手遅れです。
 

試算表では儲かっているかどうかわかりにくい

 
試算表でもお金の動きはわかりますが、会社全体のお金の動きです。しかも工場の費用は毎月変動します。さらに売上と費用は発生時期もずれます。

儲かっているのかどうかは、試算表ではわかりにくいのです。

しかし、実績原価がわかれば生産している製品が「利益を生んでいるのか、赤字になっているのか」わかり、直ちに手を打つことができます。(図4)
 

図4 個別原価がわからないと問題が放置される


 

原価は計器の役割

 
夜間飛行している航空機のパイロットは、機体が上昇しているのか、下降しているのか目視ではわからないといいます。そのためパイロットは計器を見て操縦します。

同様に個別原価は、工場が適正に運営されているのか、高度(利益)を落としているのかを判断する計器なのです。(図5)
 

図5 個別原価は工場の「ものさし」


 

「ものさし」を財務会計に使う必要はあるか?

 
財務会計において原価計算は重要です。それは個別原価から在庫や仕掛品の金額を計算し、そこから会社の利益を計算するからです。

そのため、大企業は発生した費用を細かく集計して個別原価を計算します。

原価計算は専任の社員が専用のシステムで行います。これは中小企業にとってはとても高いハードルです。
 

決算目的の原価計算と管理目的の個別原価は分ける

 
しかし、決算に必要な原価計算は、今までも会計事務所や税理士が行っています。新たに計算した個別原価を財務会計に使用するメリットは中小企業にはありません。

財務会計に使用しようとすれば、会計基準に合わせた複雑な処理をしなければなりません。そこに手間をかけるより、個別原価はあくまで製品の収益性を評価する「ものさし」とし、製造の仕方や見積のやり方を改善することに力を入れた方が現実的です。
 

お金を数えるのは1度だけ

 
原価計算は、結果が金額(数字)で出るため、つい手間をかけてしまいます。しかし、「どれだけ手間をかけてお金を数えてもお金が増えるわけではありません」。

お金を数えるのは最低限(1回)で十分です。あとはお金を増やすこと(現場の改善)に努力すべきです。

この個別原価はどうやって計算するのでしょうか。

これは【原価計算と見積の基礎】2.製造原価の計算方法(1)で説明します。

「原価計算と見積の基礎」の他のコラムは以下から参照いただけます
本コラムは「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」【基礎編】【実践編】の一部を抜粋しました。

「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」の目次
【基礎編】

  • 第1章 なぜ個々の製品の製造原価が必要なのか?
  • 第2章 どうやって個別原価を計算するのか?
  • 第3章 アワーレート(人)はどうやって計算する?
  • 第4章 アワーレート(設備)に必要な減価償却費
  • 第5章 アワーレート(設備)はどうやって計算する?
  • 第6章 間接製造費用と販管費の分配
  • 第7章 個々の製品の原価計算

【実践編】

  • 第1章 製造原価の計算方法
  • 第2章 難しい原価計算を分かりやすく解説
  • 第3章 原価を活かした工場管理
  • 第4章 原価を活かして見えない損失を発見する
  • 第5章 意思決定への原価の活用

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【基礎編】アワーレートや間接費、販管費の計算など原価計算の基本
【実践編】モデルを使ってロットの違い、多台持ちなど実務で起きる原価の違いや損失

弊社執筆の原価計算に関する著作は以下からご参照いただけます

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