Posts Tagged ‘人件費’
【原価計算と見積の基礎】4.人のアワーレートの計算方法
【原価計算と見積の基礎】2.製造原価の計算方法(1)では工場で発生する必要と製造原価の構成について
【原価計算と見積の基礎】3.製造原価の計算方法(2)では間接製造費用と販管費、見積金額の計算について説明しました。
ここではアワーレート(人)の計算について説明します。
アワーレート(人)は稼働率を入れて計算
アワーレート(人)とは、1時間あたりの人の費用です。
これは時給とは違うのでしょうか?
アワーレート(人)の計算
アワーレート(人)は、人の年間費用を1年間の稼働時間(実際にお金を稼いでいる時間)で割って計算します。
1年間の稼働時間は、年間の就業時間に稼働率をかけて計算します。
従ってアワーレート(人)の計算は以下のようになります。
つまりアワーレート(人)は、稼働率の分、時給より高くなります。
A社 正社員Aさんのアワーレート(人)
A社の正社員Aさんの費用とアワーレート(人)を図1に示します。稼働率は80%とします。
Aさんの支給額は月20.23万円〈注1〉賞与含めて15か月分で303.5万円でした。
社会保険料の会社負担分は303.5万円の16%、49万円でした。
〈注1〉本コラムはできるだけ区切りがいい数字になるように金額を決めています。そのため、現実の費用と比べると高すぎる、あるいは低すぎることがあります。
Aさんの年間費用は
年間費用=20.23×15×(1+0.16)
=352 万円
Aさんのアワーレートは、
A社 パート社員Hさんのアワーレート(人)
パート社員Hさんの時給は、960円/時間、年間費用は115.2万円でした。(図2)
アワーレート(人)は、稼働率が0.8のため、Hさんのアワーレート(人)1,200円/時間でした。
正社員Aさんのアワーレート(人) : 2,000円/時間
パート社員Hさんのアワーレート(人) : 1,200円/時間
時給960円のHさんのアワーレート(人)は、稼働率0.8で割ったため1,200円です。
なぜアワーレート(人)の計算に稼働率をかけるでしょうか?
この稼働率は何を意味するのでしょうか?
稼働率の意味するところ
稼動率の意味は、企業や書籍により様々です。本コラムは、稼働率を「就業時間に対し付加価値を生んでいる時間(稼働時間)の割合」とします。
例えば、ある作業者の1日は図3のようになっていました。
この1日は以下のように分けられます。
【付加価値を生んでいる時間】
- 段取時間
- 生産時間
【付加価値を生んでいない時間】
- 朝礼
- 移動
- トイレのため離席
- 資材を探す
- 会議
- 片付け
ここで付加価値を生んでいる時間に段取時間が入っているのは、本コラムは段取費用も見積に入れているからです。
多品種少量生産では、ロットの大きさが違うと製品1個当たりの段取費用が大きく変わります。そのため原価に段取費用を入れます。
大量生産で段取の頻度が少なく、段取費用が見積に入っていない場合、段取時間は付加価値を生まない時間です。
作業者が1日忙しく働いていても、このような付加価値を生まない「稼いでいない時間」があります。しかしこの時間も費用(人件費)は発生しています。
そこで就業時間に対し付加価値を生んでいる時間の割合を稼働率とします。
アワーレート(人)は、人の年間費用を就業時間に稼働率をかけたもので割って計算します。受注が少なくなり稼いでいる時間も少なくなれば、稼働率は下がります。
1日フルに生産するだけの受注がなく、空いた時間に5S活動(整理・整頓)や改善活動を行っても、それは「お金を稼いでいない時間」です。その分、アワーレート(人)は高くなっています。
稼動率は、作業者の稼働時間と就業時間を集計すれば計算できます。
実際は1年を通して行うのは大変なので、数名を一定期間調べて全体の稼働率を推定します。稼働率の値は、1日現場に入っている作業者でも80~95%ぐらいです。
賃金、社会保険料、派遣、請負などの費用は?
労務費には図4に示すように
- 賃金
- 賞与
- 退職金
- 各種手当
- 社会保険料(法定福利費)
- 福利厚生費
- 雑給
があります。
この労務費は、賃金、賞与、退職金、各種手当などが含まれます。
各現場の人の年間費用は、その現場に所属している人の労務費を集計します。
社会保険料は、全社員がまとめて計上され、個々の社員の金額はわからないことがあります。社会保険料の会社負担の合計はA社では約16%でした。そこで人件費の16%で概算しました。(これは業界によって異なりますので注意してください。)
派遣社員や請負の費用は労務費でなく、外注費や製造経費に入っていることもあります。
これらは原価計算では「労務費」なので、各現場の人の費用に入れ、その分、外注費や製造経費からマイナスします。
賃金の高い人のつくった製品の原価は高いのか?
正社員Aさんとパート社員Hさんのアワーレート(人)は
正社員Aさんのアワーレート(人) : 2,000円/時間
パート社員Hさんのアワーレート(人) : 1,200時間
パート社員Hさんのアワーレート(人)は正社員Aさんの60%です。その結果、同じ製品を1時間かけて製造した時の費用は
正社員Aさんが製造 : 2,000円
パート社員Hさんが製造 : 1,200円
パート社員Hさんが製造すればAさんの60%になります。
この計算は正しいのですが、現実には全く同じ製品を、つくった人が違うために異なる原価で管理するのは困難です。
そこで正社員Aさん、パート社員Hさんも含めた、その現場全体の平均アワーレート(人)を使います。
A社のマシニングセンタ1(小型)の現場の平均アワーレート
A社のマシニングセンタ1(小型)の現場は、図5に示すようにA~Dさんまで4人の作業者(正社員)がいました。年間総支給額も352~528万円と幅がありました。
ただし就業時間と稼働率は、計算を簡単にするため同じにしました。
マシニングセンタ1(小型)の現場の作業者の年間費用合計は
作業者の年間費用合計=352+352+440+528
=1,672 万円
マシニングセンタ1(小型)の現場の作業者の「就業時間×稼働率」の合計は
作業者の「就業時間×稼働率」の合計=2,200×0.8×4
=7,040 時間
平均アワーレート(人)は以下の式で計算します。
マシニングセンタ1(小型)の現場の場合
平均アワーレート(人)は、2,380円/時間でした。この2,380円/時間であれば、誰がつくっても同じ原価になります。
工場全体で平均アワーレート(人)とする場合
工場によっては、応援のために現場同士で人が頻繁に移動し、現場の作業者を固定できないことがあります。
その場合、工場全体の平均アワーレート(人)を計算します。現場毎のアワーレート(人)の差が大きくなければ、これでも十分です。大企業でも工場のアワーレート(人)はひとつのところもあります。
A社の現場と労務費を図6に示します。ここで実稼働時間合計は、就業時間×稼働率の合計です。稼働率は全て0.8としています。
直接製造部門の直接労務費合計 : 8,957万円
直接製造部門の間接労務費合計 : 115.2万円
直接製造部門の稼働時間合計 : 42,080時間
すべての現場の平均アワーレート(人)は2,160円/時間でした。
この2,160円/時間であれば、マシニングセンタ1(小型)、マシニングセンタ2(大型)、NC旋盤、ワイヤーカット、組立のどの現場も同じアワーレート(人)で原価を計算できます。
ではどういう時にアワーレート(人)を分ける必要があるのでしょうか。
必要ならば、事業分野、製品分野で分ける
例えば、工程や扱う製品が異なるため、アワーレート(人)を変えたい場合です。
例1 明らかに原価が違う
- 組立は付加価値が低いため、賃金の低いパート社員主体で製造
- 加工は付加価値が高く技術も必要なため、賃金の高い正社員が製造
この場合、組立と加工を同じ平均アワーレート(人)にすると、組立は加工の高い賃金の影響を受けてアワーレート(人)が高くなります。
見積も高くなってしまい、受注がしづらくなります。そこで組立と加工のアワーレート(人)を分けます。組立の現場のアワーレート(人)を図7に示します。
組立のアワーレート(人) : 1,530円/時間
マシニングセンタ1(小型)のアワーレート(人) : 2,380円/時間
マシニングセンタ1(小型)の現場のアワーレート(人)は、組立の現場の約1.5倍でした。
例2 事業が違う
- 現場1は、大量生産品の製造、作業者は1日現場から離れず生産に従事
- 現場2は、多品種少量品の製造、作業者は生産の準備や打ち合わせなど現場から離れることが多い
この場合、現場1と現場2の作業者の賃金は同等でも、稼働率が大きく違います。そこで現場1と現場2で稼働率を変えてアワーレート(人)を計算します。
一方、現場には設備を操作する人や組立作業者など付加価値を生む作業者以外に、生産の準備をしたり、生産完了後の片づけをしたりする作業者もいます。
この人たちの費用はどうなるのでしょうか。
現場の間接作業者や管理者の費用はどうするのか?
生産の準備をしたり、生産完了後の片づけをしたりする作業者は、付加価値を直接生んでいません。しかし彼らがいなければスムーズな生産はできず、彼らも現場に不可欠な人たちです。
また現場の管理者も管理に専念していれば付加価値を生んでいません。
こういった人たちの費用は、その現場の間接製造費用としてアワーレート(人)の計算に入れます。
補助作業者の費用
例えば、図8のマシニングセンタ1(小型)の現場には、生産準備など補助作業を行うパート社員Hさん(間接作業者)がいました。
中小企業の工場には、管理者自ら生産を行うプレイングマネジャーもいます。彼らは管理業務もあるため、1日フルに生産ができません。
この場合は管理者の時間を
直接時間 : 生産している時間 (%)
間接時間 : 管理など生産していない時間 (%)
に分けます。
プレイングマネジャーの費用
図9の管理者 正社員Dさんは、直接50%、間接50%でした。間接50%は、その現場の間接製造費用とします。
間接製造費用の分、平均アワーレート(人)は上昇します。
その結果、2,900円/時間でした。
間接作業者や管理者が増えれば、アワーレート(人)の計算で分子(人件費)は増えますが分母(実稼働時間)は増えません。その分、アワーレート(人)は高くなります。
つまり直接生産しない人が増えれば原価は高くなるのです。
稼働率が低い年は翌年アワーレート(人)が高くなる?
忙しい月は人の稼働率が高く、暇な月は稼働率が低くなります。
その結果、忙しい月はアワーレート(人)が低くなり、暇な月はアワーレート(人)が高くなります。そうなると原価が変わってしまいます。
これでは製品が儲かっているのは
- 高く受注できた
- 短い時間で生産できた
- たまたまその月は稼働率が高かった
どれなのかわからなくなってしまいます。
アワーレート(人)は、原価を計算する「ものさし」です。
そこで稼働率は年間で一定とし、アワーレート(人)は一年間変わらないようにします。(この点が、毎月の稼働率から実際原価を計算する財務会計の原価計算と違う点です。)
一方、年によって繁忙状況が変わることもあります。
本コラムは、先期の決算書からアワーレートを計算します。そのため先期の稼働率が低ければ、翌期のアワーレート(人)は高くなります。
本当は、先期は受注が少なかったので、今期は受注を増やしたいところです。
しかし今期のアワーレート(人)が高ければ、見積も高くなってしまい、一層受注しにくくなります。
この場合は、工場が元々目標としている稼働率でアワーレート(人)を計算します。そしてその稼働率を達成できるように営業活動に力を入れます。
では、アワーレート(設備)はどうやって計算するのでしょうか。
アワーレート(設備)の計算方法は【原価計算と見積の基礎】5.設備のアワーレートの計算方法(1)で説明します。
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。
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【原価計算と見積の基礎】1.なぜ原価が必要なのか?
なぜ個々の製品の原価(以降、個別原価)が必要なのでしょうか?
「たとえ個別原価がわかっても発注先が一方的に値段を決めるので意味がない」
このような意見もあります。
しかし、個別原価がわからないことで次のような問題があります。
「どんどん上がる物価」個別原価がわからなければ値上げできない
個別原価がわからなければ原材料や光熱費が上がっても、製品がいくら上がっているのかわかりません。なぜなら原材料や光熱費は生産量によって毎月変動するからです。
試算表を見ても費用が増えているのは「その月の使用量が増えたため」なのか、「値上げの影響なのか」わかりません。決算になって利益が減ったことで、ようやく値上げの影響がわかります。
原材料価格の上昇
鋼材など鉱物資源は世界中で需要が増加し、価格も上昇しています。
図1の厚板16~25ミリの鋼材の市況価格は、2021年の4月から1年間で40%も上昇しました。
エネルギー価格の上昇
原油価格は、ウクライナ戦争や産油国の供給調整、投機マネーの流入により大きく変動します。さらに原油や天然ガスは円安の影響も強く受けます。
これにより電気代は高騰し、kWhあたりの平均販売単価は、図2に示すように2022年12月には2年前に比べ2.5倍に上昇しました。(中部電力の例)
他にも、樹脂や潤滑油など石油を原料とする製品や、刃物などの消耗品、梱包用の段ボール、運送費なども上がっています。
人件費の上昇
人件費も上昇しています。
図3に示すように、最低賃金は10年間で26%上昇しました。(例 愛知県)最近は人手不足による賃金上昇が加わっています。
値上げは喫緊の課題
このような背景から電気・ガスなどの光熱費、消耗品や運送費などは、随時値上げされています。
これに対し交渉の余地はほとんどありません。その分値上げしなければ利益が削られてしまいます。多くの中小企業にとって値上げは喫緊の課題です。
しかし中には「値上げは無理」とあきらめている会社もあります。
材料費や運送費は、交渉のやり方によっては値上げできる可能性があります。
いくら個別原価が上がったのかわからなければ値上げ交渉ができません。他にも、個別原価がわからないために起きる問題があります。
「本当はもっと高いかもしれない」実績原価との違い
それは実績原価が見積をオーバーしてもわからないことです。
実績原価が高くなる原因は
- 設備のトラブルや不安定な工程のため、予定より時間がかかった。
- 納期に間に合わないため、製造している製品を止めて別の製品を割り込ませた。そのため段取が2回発生した。
- 作業ミスのため不良品が発生した。
- 顧客から傷の指摘を受け、全数検査を追加した。
- 金型費は製品の価格に上乗せする契約で受注したが、途中で生産が打ち切られた。
など様々です。
問題を早期に発見するためには実績原価の把握が必要
実績原価が上がれば利益が減るだけでなく、時には赤字になります。しかし実績原価を把握していなければ、赤字かどうかもわかりません。
問題を早く発見し対処するには、実績原価の把握は不可欠です。
一方、多品種少量生産の場合、1個1個製造時間を記録するのは大変です。それでも「ロット毎に生産開始と完了の時間を記録する」などやり方を工夫すれば実績時間の記録は可能です。
儲かっているかどうかがわかる「ものさし」
つまり個別原価は、工場がどのくらい儲かっているかどうかを把握する「ものさし」です。ものさしがなければ、現場が日々適切な利益を出しているかどうかがわかりません。
決算をしてようやく儲かっていないことがわかります。しかしその時は手遅れです。
試算表では儲かっているかどうかわかりにくい
試算表でもお金の動きはわかりますが、会社全体のお金の動きです。しかも工場の費用は毎月変動します。さらに売上と費用は発生時期もずれます。
儲かっているのかどうかは、試算表ではわかりにくいのです。
しかし、実績原価がわかれば生産している製品が「利益を生んでいるのか、赤字になっているのか」わかり、直ちに手を打つことができます。(図4)
原価は計器の役割
夜間飛行している航空機のパイロットは、機体が上昇しているのか、下降しているのか目視ではわからないといいます。そのためパイロットは計器を見て操縦します。
同様に個別原価は、工場が適正に運営されているのか、高度(利益)を落としているのかを判断する計器なのです。(図5)
「ものさし」を財務会計に使う必要はあるか?
財務会計において原価計算は重要です。それは個別原価から在庫や仕掛品の金額を計算し、そこから会社の利益を計算するからです。
そのため、大企業は発生した費用を細かく集計して個別原価を計算します。
原価計算は専任の社員が専用のシステムで行います。これは中小企業にとってはとても高いハードルです。
決算目的の原価計算と管理目的の個別原価は分ける
しかし、決算に必要な原価計算は、今までも会計事務所や税理士が行っています。新たに計算した個別原価を財務会計に使用するメリットは中小企業にはありません。
財務会計に使用しようとすれば、会計基準に合わせた複雑な処理をしなければなりません。そこに手間をかけるより、個別原価はあくまで製品の収益性を評価する「ものさし」とし、製造の仕方や見積のやり方を改善することに力を入れた方が現実的です。
お金を数えるのは1度だけ
原価計算は、結果が金額(数字)で出るため、つい手間をかけてしまいます。しかし、「どれだけ手間をかけてお金を数えてもお金が増えるわけではありません」。
お金を数えるのは最低限(1回)で十分です。あとはお金を増やすこと(現場の改善)に努力すべきです。
この個別原価はどうやって計算するのでしょうか。
これは【原価計算と見積の基礎】2.製造原価の計算方法(1)で説明します。
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。
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【製造業の値上げ交渉】4. 人件費が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?
最低賃金が上昇し、人手不足もあって人件費が上昇しています。
また2022年以降、資源高、円安などの影響で物価も上昇しています。生活を維持するための賃上げも必要になってきました。
人件費の上昇
デフレが続く日本でも、これまでも人件費は上昇していました。
それは最低賃金が上がっているからです。
図1に2014年から2023年の間の最低賃金(全国加重平均)の推移を示します。
2014年から2023年の10年間で最低賃金は780円から1,004円と約3割(28.7%)上昇していました。
最低賃金は10年間で3割近くも上昇しています。
直近の3年間、2021年から2023年の間でも930円から1,004円と8%上昇しています。
加えて人手不足もあって、最近は最低賃金ではバート・アルバイトの雇用が難しくなっています。
賃金上昇でアワーレートは増加
人件費が上昇すれば、作業者の費用は増加します。さらに作業者の費用(直接製造費用)だけでなく、間接部門や販管費の人件費も上昇するため間接製造費用や販管費も押し上げます。
これにより原価はどれだけ増加するのでしょうか?
人件費の上昇によるアワーレートの上昇
架空のモデル企業A社を例に、会社全体の人件費が8%上昇した場合の原価の上昇を計算します。
モデル企業A社の詳細は「製造業の値上げ交渉1 個々の製品の原価はいくらなのだろうか?」を参照願います。
平均アワーレート(人) (直接製造費用)の上昇
このA社のNC旋盤の現場は、作業者は4人、直接作業者の平均アワーレート(人)は2,375円/時間でした。
このアワーレートの計算は「製造業の値上げ交渉2 我が社の人と設備のアワーレートはいくらなのだろうか?」を参照願います。
作業者4人の年間費用 : 1,672万円
人件費が8%上昇したため
作業者の年間費用=1,672×(1+0.08)=1,806万円
1,672万円が1,806万円に上昇しました。その結果
平均アワーレート(人)は、
- 上昇前 2,380円/時間
- 8%上昇 2,570円/時間
190円/時間増加しました。
間接部門費用も上昇
人件費が8%上昇したため、間接部門の労務費も増加します。その結果、NC旋盤の現場の間接製造費用の分配は、544万円から571万円に増加しました。
これにより間接製造費用を含んだアワーレート間(人)は〈注〉
〈注〉本コラムでは、間接製造費用を含んだアワーレートを区別するために、
- 直接製造費用のみのアワーレート : アワーレート(人)、アワーレート(設備)
- 間接製造費用を含んだアワーレート : アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)
と表記します。
またアワーレートは、直感的に理解しやすいように一桁目を四捨五入しています。(正確さよりもわかりやすさを重視しています。) 実際の計算では正確な数字を使用願います。
アワーレート間(人)は、
- 上昇前 3,150円/時間
- 8%上昇 3,380円/時間
230円/時間増加しました。
アワーレート間(設備)も上昇
間接製造費用分配の増加は、アワーレート間(設備)にも影響します。
NC旋盤の現場の設備の間接製造費用の分配も544万円から571万円に増加しました。
アワーレート間(設備)は、
- 上昇前 1,470円/時間
- 8%上昇 1,510円/時間
40円/時間増加しました。
このアワーレート間の上昇により原価はどう変わるでしょうか?
A1製品の原価
A社 A1製品の原価を計算します。
- 製造時間 : 0.075時間
- アワーレート間(人) : 3,380円/時間
- アワーレート間(設備) : 1,510円/時間
製造費用は、
- 上昇前 346円
- 8%上昇 367円
21円増加しました。
その結果、製造原価は
製造原価も21円増加しました。
販管費の増加と見積金額
人件費の上昇により販管費の労務費も増加します。A社の販管費は7,700万円が7,868万円に増加しました。
販管費レートは増加するとは限らない
ただし、A社の場合、販管費の増加以上に製造原価が増加しました。その結果、販管費レートは25%から24.7%と、むしろ減少しました。
実際の販管費と見積金額
人件費8%上昇後の見積金額は、製造原価は747円なので
見積金額は
- 上昇前 988円
- 8%上昇 1,013円
25円増加しました。これを図2に示します。
このように人件費の上昇は原価全体に影響します。
3年前に見積した製品も高くなっている可能性
時給が最低賃金と同期して上がっている場合、3年前に988円で見積した製品は、現在は25円値上げしなければ、目標の利益が得られません。もしギリギリの価格で受注していた場合、今は赤字になっている可能性もあります。
この値上げ金額の計算は、利益まっくすの値上げ計算シートを使って計算することができます。
では、人件費以外に電気代や消耗品が上がった場合、原価はどうなるのでしょうか?
これについては【製造業の値上げ交渉】5. 電気代が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?」を参照願います。
経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。
中小企業でもできる簡単な原価計算のやり方
製造原価、アワーレートを決算書から計算する独自の手法です。中小企業も簡単に個々の製品の原価が計算できます。以下の書籍、セミナーで紹介しています。
書籍「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」
中小企業の現場の実務に沿ったわかりやすい個別製品の原価の手引書です。
基本的な計算方法を解説した【基礎編】と、自動化、外段取化の原価や見えない損失の計算など現場の課題を原価で解説した【実践編】があります。
中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【基礎編】
価格 ¥2,000 + 消費税(¥200)+送料
中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【実践編】
価格 ¥3,000 + 消費税(¥300)+送料
ご購入及び詳細はこちらをご参照願います。
書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社
普段疑問に思っている間接費・販管費やアワーレートなど原価と見積について、分かりやすく書きました。会計の知識がなくてもすらすら読める本です。原価管理や経理の方にもお勧めします。
こちら(アマゾン)から購入できます。
書籍「中小製造業の『原価計算と値上げ交渉への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社
仕入先企業からはわからない発注先企業の事情を理解して、どのように値上げ交渉をするのか、自らの経験を踏まえてわかりやすくまとめました。値上げ金額や原価計算についてもできるだけわかりやすく書きました。
こちら(アマゾン)から購入できます。
簡単、低価格の原価計算システム
数人の会社から使える個別原価計算システム「利益まっくす」
「この製品は、本当はいくらでできているだろうか?」
多くの経営者の疑問です。「利益まっくす」は中小企業が簡単に個別原価を計算できるて価格のシステムです。
設備・現場のアワーレートの違いが容易に計算できます。
間接部門や工場の間接費用も適切に分配されます。
クラウド型でインストール不要、1ライセンスで複数のPCで使えます。
利益まっくすは長年製造業をコンサルティングしてきた当社が製造業の収益改善のために開発したシステムです。
ご関心のある方はこちらからお願いします。詳しい資料を無料でお送りします。
経営コラム ものづくりの未来と経営
人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中
ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?
未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?
経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。
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