【製造業の値上げ交渉】4. 人件費の上昇で原価はどれだけ変わるのか?

様々な費用が上昇しています。人件費も例外ではありません。
 

人件費の上昇

 

デフレが続く日本では、これまで人件費は変わっていないと思っている方もいます。

実はこれまでも人件費は年々上昇していました。

それは最低賃金が年々増加していたからです。

図1に2014年から2023年の間の最低賃金(全国加重平均)の推移を示します。

2014年から2023年の10年間で最低賃金は780円から1,004円と約3割(28.7%)上昇していました。

図1 10年間の最低賃金の推移

図1 10年間の最低賃金の推移

直近の3年間、2021年から2023年の3年間でも930円から1,004円と8%上昇しています。

加えて都市部では人手不足のため、最低賃金ではバート・アルバイトの雇用が難しくなっています。

さらに近年は物価上昇のため、多くの企業は正社員の賃金も引き上げています。
 

賃金上昇でアワーレートは増加

 

人件費が上昇すれば、作業者の費用は増加しアワーレート(人)は高くなります。

このアワーレートの上昇は、人の直接製造費用だけでなく、間接製造費用や販管費も押し上げます。

なぜなら間接部門や販管費の人件費も上昇するからです。

この人件費の上昇により原価はどれだけ増加するのでしょうか?
 

人件費の上昇によるアワーレートの上昇

 

そこで会社全体で人件費が8%上昇した場合、架空のモデル企業A社のアワーレートを計算します。

モデル企業A社の詳細は「製造業の値上げ交渉1 原価はどうやって計算すればいいのだろうか?」を参照願います。
 

平均アワーレート(人) (直接製造費用)の上昇

 

A社のNC旋盤の現場の作業者は4人、直接作業者の平均アワーレート(人)は2,375円/時間でした。

このアワーレートの計算は「製造業の値上げ交渉2 アワーレートはどうやって計算すればいいのだろうか?」を参照願います。

作業者4人の年間費用 : 1,672万円

人件費が8%上昇したため

作業者の年間費用=1,672×(1+0.08)=1,806万円

1,672万円が1,806万円に上昇しました。その結果
平均アワーレート(人)の計算

平均アワーレート(人)は、

  • 上昇前 2,380円/時間
  • 8%上昇 2,570円/時間

190円/時間増加しました。
 

間接部門費用も上昇

 

人件費が8%上昇したため、間接部門の労務費も増加します。

その結果、NC旋盤の現場の間接製造費用の分配が544万円から571万円に増加しました。

これにより間接製造費用を含んだアワーレート間(人)は〈注〉
間接製造費用を含んだアワーレート間(人)


〈注〉本コラムでは、間接製造費用を含んだアワーレートを区別するために、

  • 直接製造費用のみのアワーレート : アワーレート(人)、アワーレート(設備)
  • 間接製造費用を含んだアワーレート : アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)

と表記します。
またアワーレートは、直感的に理解しやすいように一桁目を四捨五入しています。(正確さよりもわかりやすさを重視しています。) 実際の計算では正確な数字を使用願います。

アワーレート間(人)は、

  • 上昇前 3,150円/時間
  • 8%上昇 3,380円/時間

230円/時間増加しました。
 

アワーレート間(設備)も上昇

 

この間接製造費用分配の増加は、アワーレート間(設備)にも影響します。

NC旋盤の現場の設備の間接製造費用の分配も544万円から571万円に増加しました。
間接製造費用を含んだアワーレート間(設備)

アワーレート間(設備)は、

  • 上昇前 1,470円/時間
  • 8%上昇 1,510円/時間

40円/時間増加しました。

このアワーレート間の上昇により原価はどう変わるでしょうか?
 

A1製品の原価

 

モデル企業A社 A1製品の原価を計算します。

A1製品の原価

 

  • 製造時間 : 0.075時間
  • アワーレート間(人) : 3,380円/時間
  • アワーレート間(設備) : 1,510円/時間

アワーレート間(人+設備)の計算

製造費用の計算

製造費用は、

  • 上昇前 346円
  • 8%上昇 367円

21円増加しました。

その結果、製造原価は
製造原価の計算

製造原価も21円増加しました。
 

販管費の増加と見積金額

 

人件費の上昇により販管費の労務費も増加します。

A社の販管費は7,700万円が7,868万円に増加しました。
 

販管費レートは増加するとは限らない

 

ただし、A社の場合、販管費の増加以上に製造原価が増加しました。

その結果、販管費レートは25%から24.7%と、むしろ減少しました。
 

実際の販管費と見積金額

人件費8%上昇後の見積金額は
 

製造原価747円
見積金額の計算

見積金額は

  • 上昇前 987円
  • 8%上昇 1,023円

26円増加しました。これを図2に示します。

図2 人件費の上昇による見積金額の上昇

図2 人件費の上昇による見積金額の上昇

このように人件費の上昇は原価全体に影響します。
 

3年前に見積した製品も高くなっている可能性

 

自社の時給も最低賃金と同様に上昇している場合、3年前に987円で見積した製品は、現在は26円高く受注しなければ、目標の利益が得られないことになります。

ギリギリの価格で受注した場合、今は赤字になっている可能性もあります。

この値上げ金額の計算は、利益まっくすの値上げ計算シートを使って計算することができます。

では、人件費以外に電気代や消耗品が上がった場合、原価はどうなるのでしょうか?

これについては【製造業の値上げ交渉】5. 電気代の上昇で原価はどれだけ変わるのか?」を参照願います。

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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