製品の製造費用を計算するためには、人や設備の時間当たりの単価「アワーレート」が必要です。
これはよく時給と誤解されます。実は人のアワーレートは時給よりずっと高くなります。
このアワーレートはどのように考え、どうやって計算すればいいでしょうか?
ここでは人のアワーレートの考え方と具体的な計算方法と数値の例を解説します。
1. アワーレートとは何か?人のアワーレートとは?
2. アワーレート(人)はどうやって計算すればいいのか?
3. なぜアワーレートの計算に稼働率を入れるのか?
4. 賃金が高い人のアワーレートは高いのか?
5. 原価は現場の平均アワーレート(人)で計算する
原価計算の基本まとめサイト
製品別の原価は、人のアワーレート以外に設備のアワーレートや間接費、人と設備の組合せなども考えなければありません。
この原価計算の基本について以下のまとめサイトから見ることができます。
原価計算の基本まとめサイト ~製品別の原価計算の基礎を解説~
1. アワーレートとは何か?人のアワーレートとは?
アワーレートとは?
アワーレートとは、1時間当たりの費用です。製造費用は、このアワーレートに製造時間をかけて計算します。
1個の製造費用(加工費) = アワーレート × 製造時間
アワーレートは、円/時間 ですが、企業によっては、
円/分 (分レート)
円/秒 (秒レート)
を使用する場合もあります。
またアワーレートは、他にもチャージ、チャージレート、賃率と呼ばれることもあります。
人のアワーレートとは?
人の1時間の費用、人のアワーレート (以降、アワーレート(人)と呼びます) は、人の費用を時間で割って計算します。
人の費用は残業があれば毎月異なります。就業時間も毎月異なります。
そのためアワーレート(人)は毎月変動します。
しかし見積もりや原価管理のためのアワーレート(人)は、毎月変動すれば、原価が高い原因がアワーレート(人)が高いためか、製造時間が長いためなのか、わからなくなります。
そこでアワーレート(人)は、1年間の平均アワーレート(人)を使用します。
これは人の年間費用を年間の労働時間で割って計算します。
例:社員aさんの場合
- 年間費用:400万円
- 年間労働時間:2,100時間
- アワーレート(人) : 1,900円/時間
これは以下の式で計算します。
1時間の費用 =
1年間の人の費用年間時間
= 2,100 = 1,905 ≒ 1,900 円/時間
この例では、aさんのアワーレート(人)は、1,900円/時間でした。

人件費はアワーレートの計算にどう使われるのか?
ここで人の年間費用とはどのようなものでしょうか?
例えば、会社がaさんに支払う費用には以下のものがあります。
- 基本給 : 21万円 (定時時間162時間/月)
- 残業手当 2.1万円 (月平均残業時間 13時間、残業割増率 : 25%)
- 賞与(年間合計) : 3か月
- 総支給額 347万円
aさんの年収は、347万円です。
(実際は、ここから税金や社会保険料を引かれるため、手元に入るお金はもっと少なくなります。)
実は会社が負担する人件費はこれだけではありません。aさんの社会保険料の1/2は会社が負担しています。
社会保険料(会社負担) : 53万円(年間)
従って、aさんの人件費 (年間費用) は、
年間人件費合計 400万円 でした。
時給とアワーレート(人)の違いとは?
aさんの基本給を残業を除いた定時時間で割った時給は、約1,300円でした。
しかし実際の総支給額347万円を年間就業時間で割った時間単価は1,900円でした。
それはaさんの人件費には、賞与や手当、会社負担の社会保険料も含まれているからです。
実はアワーレート(人)は、この1,900円/時間ではないのです。
製品別の原価には、設備のアワーレートも必要です。設備のアワーレートの基本については以下のコラムが参考になります。
設備のアワーレートの計算 設備の費用と償却の考え方
2. アワーレート(人)はどうやって計算すればいいのか?
なぜならアワーレート(人)の計算には稼働率が入るからです。
アワーレート(人)の計算式
アワーレート(人)の計算式は以下の式です。
アワーレート(人) = 1年間の人の費用年間時間 × 稼働率
アワーレート(人)の計算には「稼働率」が入るため、稼働率が1以下であれば、稼働率の分アワーレート(人)は大きくなります。
稼働率を入れた時のアワーレート(人)
aさんの稼働率が80%の場合、アワーレート(人)は
アワーレート(人) = 1年間の人の費用年間時間 × 稼働率 = 400万円2,100時間×0.8 = 2,381 ≒ 2,380 円/時間
稼働率を入れると、アワーレート(人)は1,900円/時間が、2,380円/時間と1.3倍に増加しました。
なぜ稼働率で割るのでしょうか?
注) 本コラムは一桁目を四捨五入することがありますが、これは数字を直感的にとらえやすくするためです。実際のアワーレート(人)の計算は有効数字まで正確に計算します。
3. なぜアワーレートの計算に稼働率を入れるのか?
1日の就業時間の中で、実際に「付加価値を生んでいる時間」の比率です。
なぜなら作業者の1日の中でお金を稼いでいない時間があるからです。
「お金を稼いでいる時間」とは?
- お金を稼いでいる時間(稼働時間):段取・生産時間(見積に含まれるため原価対象)
- お金を稼いでいない時間(非稼働時間):朝礼、移動、資材を探す、片付け、トイレなど

このお金を稼いでいない時間も費用は発生しているため、アワーレート(人)の計算では稼働率で割って、稼働率の分アワーレート(人)が高くなるようにしています。
注) ここで段取時間を生産時間に入れているのは、見積金額に段取費用を入れているからです。段取もお金をもらうため「お金を稼いでいる時間」です。多品種少量生産では、ロットが変わると原価が大きく変わるため、原則として段取費用も見積に入れます。
これに対して大量生産では段取費用を見積に入れないことが多く、この場合、段取時間は「お金を稼いでいない時間」です。
稼働率の計算
稼働率は以下の式から計算します。
稼働率 = 稼働時間就業時間
原価計算の目的は以下の2つです。
- 見積金額の妥当性を判断
- 実際の利益を分析し改善点を探る
そのため、アワーレート(人)は1年間固定して使うのが基本です。前年実績をもとに設定した値に固定することで正確な利益分析ができます。
その場合、稼働率は年間の平均稼働率を使用します。
一方月次決算では、現場の稼働率は毎月変動するため、適切な稼働率を計算します。その結果、アワーレート(人)も毎月変動します。
注) 稼働率はさまざまな定義がありますが、本コラムでは稼働率は就業時間(設備は操業時間)に対する稼働時間の比率とします。
稼働率の実態と測定
現場によって実際の稼働率は異なります。
実際の値は、大量生産の作業者で90~95%、多品種少量生産の現場ではこれより低くなります。
稼働率によってアワーレート(人)が大きく変動しますが、全員の稼働率を把握するのは簡単ではありません。すべて日報に細かく記録していない現場も多く、たとえ記録していてもデータ化されていない工場もあります。(IoTデバイスでリアルタイムに記録していれば別ですが)。
そこで数人の作業者を数日間サンプリングしておよその稼働率を測定します。こうして調べると稼働率が思ったより低いこともあります。
(私の経験では、生産準備や後片付けのため1日の10%は非稼働時間でした。その結果、1日7.2時間(90%)で生産計画を立てるようにしました)。
稼働率を使わない場合の注意点
稼働率を使わない場合、非稼働時間の費用は「間接製造費」として別途原価に計上する必要があります。そのためには現場の作業者の非稼働時間を集計しなければなりません。これは手間がかかるため、稼働率を使って計算した方が簡単で実用的です。
稼働率が変わらない?でも実は原価増
受注が減って現場の出来高は減少しているのに稼働率が変わらないことがあります。なぜならその日の仕事がなくなると困るため、作業者が作業スピードを調整するからです。
例えば、出来高が800個から600個に減っても、8時間かけて製造していれば、一見稼働率は変わらないように見えます。しかし出来高を見れば稼働率は低くなっていて原価は高くなっています。従って稼働率だけでなく出来高にも注意が必要です。
4. 賃金が高い人のアワーレートは高いのか?
現場には賃金の高い人がいれば低い人もいます。この場合、アワーレート(人)はどうなるのでしょうか?

給料の違いによる差
この工場には中堅社員bさん、ベテラン社員cさんもいます。
アワーレート(人)はどう変わるでしょうか?
それぞれのアワーレート(人)を表に示します。
| 社員 | 年間人件費 | アワーレート(人) |
| 若手社員aさん | 400万円 | 2,380円/時間 |
| 中堅bさん | 550万円 | 3,270円/時間 |
| ベテランcさん | 700万円 | 4,170円/時間 |
同じ製品でも作業者によって原価は最大1.8倍も違います。
これはどう考えればいいのでしょうか?
賃上げするとアワーレート(人)はどうなるのでしょうか?人件費の上昇とアワーレート(人)の変化は以下のコラムが参考になります。
人件費が上がると原価はいくら上がるのか?
5. 原価は現場の平均アワーレート(人)で計算する
人件費の高い人が生産すれば原価が高くなるのは真実です。
しかし作業者の違いによって同じ製品の原価を管理するのは大変なので、現場単位で平均アワーレート(人)を使う方法が一般的です。
例 4人の現場の平均アワーレート
作業者と年間労務費は
若手社員a1、a2 400万円
中堅社員b 550万円
ベテランc 700万円
4人とも
年間就業時間2,100時間
稼働率0.8とします。
総人件費 = 400 + 400 + 550 + 700 = 2050 万円
(就業時間×稼働率)の合計 = 2,100 × 0.8 × 4 = 6,720 時間
現場の平均アワーレート(人) = その現場の人件費合計その現場の(就業時間×稼働率)合計 = 2,050万円6,720 = 3,051 ≒ 3,050 円/時間
平均アワーレート(人) 3,050円/時間であれば誰が生産しても同じ原価です。
工場全体の平均アワーレート(人)
現場間で人が頻繁に移動する工場では、現場のアワーレート(人)も都度変わります。そこで工場全体の平均アワーレート(人)を使います。
例
- 労務費合計:3億480万円
- 年間稼働時間:128,673時間
工場全体の平均アワーレート(人) = 製造原価の労務費合計工場の人の年間時間合計 = 3億480万円128,673時間 × 0.8 = 2,961 ≒ 2,960 円/時間
2,960円/時間 であれば、どの現場も同じアワーレート(人)で原価を計算できます。
パート主体で低コストの現場
例えば、組立現場はパート社員主体でした。パート社員の時給は低いためアワーレート(人)は工場平均より低くなります。
- 正社員2名 パート社員8名
- 労務費 1,790万円
- 就業時間合計 11,800 時間

組立現場のアワーレート(人) = 組立現場の労務費合計組立現場の年間時間合計 = 1,790 × 10,00011,836×0.8 = 1,896 ≒ 1,900円/時間
工場平均(2,960円)の約64%です。こうした現場は個別にアワーレート(人)を設定しましょう。
まとめ
- アワーレート(人)は「年間費用÷稼働時間」で計算。
- 稼働率を考慮しないと原価が低く見積もられるリスクあり。
- 給与の高低や働き方でアワーレート(人)は大きく変わる。
- 実務では現場ごとの平均、または工場全体の平均を活用。
実際にアワーレートを計算すると、管理者や人と設備の組合せをどう考えるかという疑問が出てきます。
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