ロットが減少すれば利益が少なくなります。これについては【原価計算と見積の基礎】9.ロットの減少によるコストアップで説明しました。
それでも利益を出すためには、段取費用を削減します。
これには段取時間の短縮や外段取化があります。ここでは
- 段取の種類
- 段取時間の短縮
- 外段取化
- 段取時間の短縮と外段取化のコスト削減効果
について述べます。
1.二種類の段取
一般的に「段取」と呼ばれる作業は、二種類あります。1つは「品種の切替」、もう1つは「新たな製品の生産準備」です。
品種の切替
現在生産中の製品を「すでに実績がある別の製品」に切り替えることです。
今日では製品の種類が増え、大量生産の工場も以前より頻繁に段取を行っています。
多品種少量生産では段取の頻度はさらに高くなっています。そのため段取時間は生産性に大きく影響します。
段取で行うことは加工方法によって変わります。具体的には以下のような内容です。
【機械加工】
加工プログラムの切替、刃物の交換、加工治具の準備、設定値の入力など
【樹脂成形】
金型の交換、樹脂原料の入れ替え、射出成形機の設定など
【プレス加工】
金型の交換や材料の入れ替え
段取後は、テスト生産を行い品質を確認します。問題があれば製造条件を調整します。品質に問題がなければ生産を開始します。
すでに実績がある製品なので製造条件は確立し、作業手順も決まっています。そのためできるだけ短時間に行います。できれば目標時間を決め、実際にかかった時間を記録します。
新たな製品の生産準備
これは「今まで実績のない製品」の生産準備です。以下の作業が増えます。
【機械加工】
加工プログラムの作成やテスト加工
単品生産や多品種少量生産では、日々新たな製品を生産します。日常の段取の多くはこの「新たな製品の生産準備」です。
【プレス加工、樹脂成形加工】
新しい金型を使ったテスト加工、加工条件の調整です。量産の現場ではそれほど多くありません。
プレス加工、樹脂成形加工など量産工場では、「品種の切替」を段取と呼び、新たな製品の生産準備は「生産立ち上げ」や「生産準備」と呼ぶこともあります。
この新たな製品の生産準備は、時間よりも作業の正確さとその後の生産の品質が安定していることが重要です。最初の設定に問題があれば、その後不良品を大量に生産してしまいます。
このように、2種類の段取では内容や要求されることが違います。では段取時間はどうやって短縮すればよいでしょうか。
2. 段取時間短縮の方法
実際に段取作業を観察すると、様々な課題が見つかります。
- 段取に必要な治具や金型が近くにないため、遠くまで取りに行っている。あるいは治具や金型が見つからず探している。
- 治具や金型を取り付ける位置が定まっていないため、調整や芯出しをしている。
- 交換部分がユニット化されていないため、交換に時間がかかる(例 マシニングセンタのツールホルダの数が十分になく、ツールホルダの交換でなく、ツールホルダの刃物を交換している)。
- 段取作業中、締め付けるボルトの数が多く、締め付けに時間がかかっている。
- 段取の手順が作業者によってバラバラで、段取時間も作業者によって異なる。
このような課題を改善します。
一方、段取時間は同じでも、段取を生産中に行えば、設備の停止時間を短くできます。これが外段取化です。
3. 外段取化
外段取とは、生産中に次の生産の段取を行うことです。
例えばプレス加工や樹脂成形加工では、生産中に次の金型を運びます。樹脂成形加工では、すぐに生産できるように予めヒーターで金型の温度を上げておきます。
このように生産中に行う段取を「外段取」と呼びます。これに対して設備を止めて行う段取を「内段取」と呼びます。「内段取」の一部を「外段取化」すれば、段取中の設備の停止時間を短くできます。
図1では、金型交換1時間のうち、30分を外段取化しました。その結果、内段取時間は30分に短縮できました。

マシニングセンタの外段取
マシニングセンタには、図2に示すようにワークをパレットと呼ばれる治具に固定し、このパレットを自動で交換するものがあります。
パレットを自動で交換する装置をパレットチェンジャー(PC)と呼びます。パレットの交換は自動で行いますが、パレットからのワークの着脱は作業者が行います。
パレットには異なるワークを取り付けることができるため、パレットを交換すれば品種を切り替えることができます。またパレットチェンジャーに多くのパレットをセットすれば、夜間無人で生産できます。

4. 段取時間短縮と外段取化のコスト削減効果
射出成型加工の外段取化の効果
樹脂成形加工B社 B1製品 (ロット1,000個)、外段取化によって原価がどれだけ改善されるのでしょうか。
【従来】
段取時間(内段取) 1時間
【改善後】
外段取時間0.5時間 内段取時間0.5時間
外段取は生産中、作業者が空いている時間を使って行います。そのため外段取の人の費用はゼロです。
ロット数 : 1,000個
加工時間 : 0.0167時間 (1分)
この時の改善前と改善後の製造費用、利益を図3に示します。

製造費用 利益
段取1時間 : 16.7円 段取1時間 : 0.2円
段取0.5時間 : 15.2円 段取0.5時間 : 2.0円
ロット1,000個では0.2円しかなかった利益が、段取時間を短縮したことで2.0円に増加しました。全体の製造時間も短くなり、時間当たりの出来高も増えました。
この外段取化のコスト低減は、作業者が空いている時間に行うことで人の費用がゼロになったためです。
生産中作業者が手一杯で、外段取のため他から応援してもらう場合は、人の費用が発生します。そうなると外段取化のコスト低減効果は大幅に減少します。
実は外段取化の最大のメリットは、設備の稼働時間が長くなることです。
しかし、それをお金に変えるには、稼働時間が長くなった分、生産量を増やす、つまり受注を増やさなければなりません。外段取化を進めても受注が増えなければ利益は増えません。
パレットチェンジャーの効果
機械加工A社はA1製品の生産にパレットチェンジャー付きマシニングセンタを使用しました。パレットチェンジャー付きマシニングセンタで段取時間がゼロになれば原価はどうなるのでしょうか。
これも先の場合と同様に、パレット上のワークの着脱を誰が行うのかによります。
加工中に手の空いている作業者がワークの着脱を行えばワーク着脱の人の費用はゼロです。しかし、加工中作業者の手が塞がっていて、別の作業者が行えば人の費用が発生します。
A1製品をパレットチェンジャー付きマシニングセンタで生産した場合の原価を図4に示します。

製造費用 利益
PCなし : 480円 PCなし : ▲70円
PC有(増員有) : 440円 PC有(増員有) : ▲20円
PC有(増員なし) : 360円 PC有(増員なし) : 80円
ロット20の場合、利益は▲70円赤字でした。これがPC有、増員有の場合、▲20円でした。つまり段取のために増員して人の費用が発生すれば、外段取化してもコストダウン効果は高くありません。
パレットチェンジャーによる外段取化の最大のメリットは、段取作業をまとめて行うことで夜間無人運転ができることです。そうすれば設備の稼働時間が長く(2倍以上)なります。稼働時間が長くなれば設備のアワーレートが下がります。
従って、パレットチェンジャー付きマシニングセンタを導入した場合、夜間無人運転を必ず行います。同様に他の設備でも、高価なワーク自動交換装置を導入した場合、必ず夜間無人運転を行います。
この外段取化は、工程の品質が安定していて、段取後に加工条件の細かな調整が不要でなければなりません。品種切替後、作業者が加工状況を観察したり、切替後の初品を検査して補正値を入力していれば夜間無人運転はできません。
では検査が追加されると原価はどれだけ変化するのでしょうか?
検査の追加によるコストアップについては【原価計算と見えない赤字】5.検査追加によるコストアップを参照願います。
経営コラム【製造業の原価計算と見積】【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。
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