製品の検査強化は品質向上に不可欠ですが、コスト増大も招きます。人件費や設備費に加え、検査時間の増加は生産効率を下げ、製品原価を引き上げます。しかし、不良品流出による損失やブランドイメージの低下を防ぐメリットもあります。コスト増大だけを問題視するのではなく、不良品発生による損失と比較検討し、品質とコストの最適なバランスを見極めることが重要です。
段取時間の短縮と外段取化について【原価計算と見積の基礎】13.段取時間の短縮で述べました。検査が追加された場合は原価はどうなるでしょうか?
検査費用が最初から見積に入っていれば問題はありません。しかし、見積にない検査をすれば原価は増えています。
あるいは、当初は無検査や抜取検査でした。しかし不良が流出したため全数検査を追加した場合です。全数検査の分、原価が増えています。
この検査の損失について
- 検査の種類
- 検査費用の違い
を述べます。
1. 検査の種類
検査の種類は大きく分けると
① 全数検査
② 抜取検査
③ 無検査
の3つです。

図1 抜取検査と全数検査
全数検査
製品をすべて検査する方法です。確実ですが、その分コストがかかります。プレス加工など加工時間が短い製品は、生産時間よりも検査時間の方が長く原価は大きく上昇します。
一方、全数検査でも検査漏れは起きます。全数検査をしても100%良品とは限りません。例えば、人が目視で検査する目視検査では、見逃しがどうしても起きてしまいます。
抜取検査
一定量のサンプルを抜き取って検査する方法です。抜き取ったサンプルの結果を統計的手法を用いて判定します。
図2の検査は、1,000個から10個を抜き取り「不合格品が1個以内なら合格」でした。不合格品が2個あれば、そのロットは不合格です。その場合、このロットは全数検査をします。
この抜取検査の方法はJIS(JIS Z 9002~9004、Z9015)に詳しく記載されています。実際はJISに規定された方法でなく「1,000個生産したから5個抜き取って検査」と抜取り数を適当に決めていることもあります。
製品の強度や溶接・半田付けなど接合部の強度は、破壊しなければ測定できません。従って検査したものは使えません。硬さ測定も製品にくぼみをつけるため、検査したものは使えません。こうした製品は抜取検査しかできません。
抜取検査の課題は、
- 不良品が流出することがある
- 誤判定がある
この2点です。これはサンプルからロット全体を(統計的手法で)推定するためです。つまり100%良品を保証することは抜取検査ではできないのです。
その一方、強度測定のように抜取検査でしかできない検査があります。今日、品質に対する要求は厳しく、顧客は「100%良品」を求めます。しかし抜取検査は100%良品を保証できません。だからといって全数検査をしても100%良品とは限りません。
100%良品を保証するには、以下の2点が重要です。
- ポカヨケのような不良品をつくらない仕組みをつくって、100%良品ができるようにする
- ばらつきを抑えて不良の発生確率を低くする。
では、この抜取検査の費用はいくらでしょうか。
抜取検査の場合、1個当たりの検査費用は、検査費用に抜取りの比率をかけて計算します。
無検査
検査しないことです。
- 規格から外れても、後工程や客先で発見できる
- 規格から外れても、その影響は限られるので検査費用をかけるまでもない
- 規格に対し、製品の品質が十分に高い
このような場合、無検査で製造します。
3種類のどの検査方法を採用するかは、製品の特長や品質に対する考え方によって異なります。
2.検査費用の違い
見積に全数検査が入っていないのに、全数検査を追加すれば原価は増えます。赤字になることもあります。何とか全数検査をやめたいところです。
そこで顧客に全数検査の廃止を理解してもらうために、コストダウンを訴えます。では、検査をやめるといくらコストダウンになるのでしょうか?
無検査、抜取検査、全数検査でどれだけ原価が変わるのか、具体的な数値で確認します。
機械加工A社 A1製品の場合
機械加工A社 A1製品の原価を無検査、抜取検査、全数検査で比較します。検査は各寸法をノギス、マイクロメーターで行いました。
検査時間 : 3分(0.05時間)
検査のアワーレート : 2,350円/時間
検査費用を以下に示します。
【全数検査】
検査費用=検査のアワーレート×検査時間
=2,350×0.05
=117.5 ≒ 120 円
全数検査追加による原価の上昇は120円でした。
【抜取検査】
抜取検査の数 : 100個中5個抜取
A1製品の抜取検査、全数検査の製造費用と利益を図2に示します。

検査費用 利益
無検査 : 0円 無検査 : 50円
抜取検査 : 6円 抜取検査 : 44円
全数検査 : 120円 全数検査 : ▲100円
抜取検査追加では、利益は6円減少し、全数検査では、利益は100円の赤字でした。
検査費用が見積に入っていない場合、全数検査を追加すれば原価は大幅に増加します。
抜取検査は1個あたりの検査費用が5/100に減少します。そのため検査費用は6円、抜取検査の影響は多くありません。そのため抜取検査の費用を原価と考えない企業もあります。
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本コラムは「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」【基礎編】【実践編】の一部を抜粋しました。
「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」の目次
【基礎編】
- 第1章 なぜ個々の製品の製造原価が必要なのか?
- 第2章 どうやって個別原価を計算するのか?
- 第3章 アワーレート(人)はどうやって計算する?
- 第4章 アワーレート(設備)に必要な減価償却費
- 第5章 アワーレート(設備)はどうやって計算する?
- 第6章 間接製造費用と販管費の分配
- 第7章 個々の製品の原価計算
【実践編】
- 第1章 製造原価の計算方法
- 第2章 難しい原価計算を分かりやすく解説
- 第3章 原価を活かした工場管理
- 第4章 原価を活かして見えない損失を発見する
- 第5章 意思決定への原価の活用
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