製造業の個別原価計算22 自動化はどれだけコストダウンできるのか
厳しいコスト競争にさらされる製造業、少しでもコストを下げるために自動化を進め、より少ない人数で生産できるように各社努力しています。
では自動化によってどのくらいコストは下がるのでしょうか?
「自動化した設備に替えたから、あの現場では1人作業者が減るので年間○○円のコスト削減…」
このような計算をするかもしれません。
では実際に自動化により「ある製品の原価」はいくら下がるのか?
個別原価計算から自動化の効果を計算します。
実は自動化には様々なケースがある
設備を自動化した結果、作業者は設備に材料をセットし、起動ボタンを押せば、後は設備が無人で生産します。
ここで作業者は起動ボタンを押した後、何をするのでしょうか?
① 作業者は設備から離れない
作業者は設備から離れずに、完成品の品質チェック(測定)や次の生産の準備をします。そして時々設備の様子を監視します。
この場合は、設備が無人で生産しても作業者の人件費は相変わらず発生しています。つまり自動化してもコストは自動化していない時と同じです。
この場合の製造コストは1個当たりの段取費用+加工コストです。段取中は、設備は停止し作業者が段取するため、設備と人の費用がかかっています。生産中も同様に設備と人の費用がかかっています。
② 作業者が設備から離れる
生産を開始すると、作業者は設備を離れて他の作業を行います。順送プレスや樹脂射出成形では段取が終了して生産を開始すれば、作業者は次の設備の段取を行ったり、次の生産の準備を行ったりします。
生産中、作業者はこのように様々な活動を行うため、作業者の費用を特定の設備に結び付けることができません。そこで生産中の作業者の費用は、その現場の間接製造費用と考えます。
この場合の製造コストも1個当たりの段取費用+加工コストですが、生産中は設備の費用のみになります。
③ 多台持ち
材料や完成品(ワークと呼びます)の取付・取外しは自動化できていない場合、作業者が行います。その際、1人の作業者が複数の設備を担当することがあります。これを「多台持ち」と呼び、大量生産の工場でよく行われる方法です。
作業者は最初の設備のワークの取付・取外しが終わると、次の設備のワークの取付・取外しを行います。最後の設備のワークの取付・取外しが終わる頃には最初の設備の加工が完了しています。そこで最初の設備のワークの取付・取外しを行います。
多台持ちでは作業者の費用が複数の設備にかかります。そこで2台持ちの場合、製造費用を計算する時は、作業者の加工時間を実際の時間の1/2にします。
④ かけ逃げ
「かけ逃げ」とは、終業間際にワークを設備にセットして起動ボタンを押して加工を開始して帰ることです。設備は夜間無人で加工し、加工が終われば停止します。事故や火災が心配になりますが、ワイヤーカット放電加工機などはそのような危険は少なく、夜間無人で運転することが一般的です。
かけ逃げの原価は、その工程が元々無人加工か、有人加工かにより変わります。
元々無人加工であれば原価は無人加工として計算します。製造費用は設備の費用のみです。
元々は有人加工で、たまたまかけ逃げできるワークがあった場合は、有人加工として原価を計算します。いつもかけ逃げできるわけではないので、無人加工で原価を計算すると原価が低くなりすぎてしまいます。
実は間接製造費用の方が高いこともある!
設備のアワーレート(アワーレート(設備))は以下の式で計算します。
式1
ここで設備の直接製造費用は設備の減価償却費と電気代や消耗品などのランニングコストです。間接製造費用は工場全体で発生する消耗品や水道光熱費、保守費や建物の費用など様々な費用です。
さらに生産管理や資材調達、物流など工場の間接部門の人件費も間接製造費用です。
これらの間接製造費用を各現場の人と設備に分配します。
またアワーレート(人)は設備と同様に直接製造費用と間接製造費用の合計を就業時間と稼働率で割って計算します。
式2
ここで作業者の直接製造費用は年間の支払賃金と会社負担の社会保険料の合計です。
注)
工場内には様々な設備があります。そして同じ部署 (課、係)でもアワーレートの異なる設備もあります。そこで各部署の中で設備や人のアワーレートが同じ単位に細分化します。これを便宜的に「現場」と呼びます。
ここでは間接製造費用や販管費を製品や部門に割り振ることを「分配」と呼びます。会計の本ではこれを「配賦」と呼びます。配賦も「割り当てること」という意味です。会計は「配賦」のほかに「賦課」という言葉もあり、以下のように使い分けています。
配賦:製造原価を計算する際に、間接費を何らかの基準(配賦基準)を用いて振り分けること
賦課:製造原価を計算する際に、「何に」「どれだけ」使ったのかがわかる直接費を振り分けること
しかしここでは難しい会計用語を用いず、一般的な分配を使用します。
間接製造費用は「どの現場にどのくらいかかっていたのか」正確にはわかりません。この間接製造費用の分配は、原価計算では悩ましい問題で「これが正しい」という答えはありません。一般的には以下の3つの方法があります。
- 設備の直接時間に比例して分配
- 人の直接時間に比例して分配
- 直接製造費用に比例して分配
それぞれ一長一短あるため、自社に適した分配方法を選択します。
各現場に分配した間接製造費用を人と設備に分配します。
無人加工での作業者の費用
無人加工において生産中に作業者が設備を離れて他の作業を行う場合、作業者の費用は、その現場の間接製造費用になります。
従ってこの作業者の費用は段取中は直接製造費用になり、加工中の費用は間接製造費用になります。そこで作業者が「1日の間に段取時間がどのくらいで、それ以外の時間がどのくらいか」この比率が必要になります。そこで図6のように作業者の1日の時間を「段取が〇%、生産中が〇%」と調べます。これは日報を調べたり、作業者へヒアリングしたりして調べます。それに基づいて作業者の費用を段取(直接製造費用)と間接製造費用に分けます。
事例 金属切削加工A社
架空の金属切削加工A社について、無人加工、有人加工、2台持ちの原価の違いを計算します。
A社の設備と人員構成
A社の設備と人員構成を図7に示します。
アワーレート
各設備の直接製造費用は減価償却費とランニングコストから計算します。減価償却費は税法の減価償却でなく、購入価格を実際の耐用年数で割って計算します。(ここではこれを「実際の償却費」と呼びます。)実際の耐用年数はどの設備も15年としました。
ランニングコストは、今回は電気代のみとしました。
表1 設備1台の価格と実際の償却費 単位 万円
価格 | 実際の償却費 | 電気代 | 合計 | |
マシニングセンタ 1(小型) |
2,100 | 140 | 30 | 170 |
マシニングセンタ 2(大型) |
6,300 | 420 | 40 | 460 |
NC旋盤 | 1,500 | 100 | 40 | 140 |
平面研削盤 | 2,100 | 140 | 20 | 160 |
ワイヤーカット 放電加工機 |
2,100 | 140 | 100 | 240 |
各設備の年間の操業時間と稼働率を表2に示します。わかりやすくするために操業時間2,200時間、稼働率0.8に統一してあります。ただしワイヤーカット放電加工機は夜間無人運転するため、操業時間は5,500時間です。実稼働時間は操業時間に稼働率をかけたものです。
表2 設備1台の操業時間と稼働率
操業時間 (時間) |
稼働率 | 実稼働時間 (時間) |
|
マシニングセンタ 1(小型) |
2,200 | 0.8 | 1,760 |
マシニングセンタ 2(大型) |
2,200 | 0.8 | 1,760 |
NC旋盤 | 2,200 | 0.8 | 1,760 |
平面研削盤 | 2,200 | 0,8 | 1,760 |
ワイヤーカット 放電加工機 |
5,500 | 0.8 | 4,400 |
各現場に分配した間接製造費用と、表1、表2の値からアワーレート(設備)を計算し表3に示します。
表3 各設備のアワーレート(設備)
直接製造費用 (万円) |
間接製造費用 (万円) |
実稼働時間 (時間) |
アワーレート (設備)(円/時間) |
|
マシニングセンタ 1(小型) |
170 | 180 | 1,760 | 2,000 |
マシニングセンタ 2(大型) |
460 | 180 | 1,760 | 3,600 |
NC旋盤 | 140 | 260 | 1,760 | 2,300 |
平面研削盤 | 160 | 150 | 1,760 | 1,800 |
ワイヤーカット 放電加工機 |
240 | 930 | 4,400 | 2,700 |
間接製造費用の影響が大きいため、各設備のアワーレート(設備)の違いは直接製造費用の違いほど大きくありません。
各現場の作業者の労務費と直接製造費用と間接製造費用の比率を表4に示します。
表4 作業者1人の労務費と直接製造費用の比率
労務費 (万円) |
直接製造費用 比率(%) |
間接製造費用 比率(%) |
直接製造費用 (万円) |
|
マシニングセンタ 1(小型) |
500 | 100 | 0 | 500 |
マシニングセンタ 2(大型) |
500 | 100 | 0 | 500 |
NC旋盤 | 500 | 100 | 0 | 500 |
平面研削盤 | 500 | 100 | 0 | 500 |
ワイヤーカット 放電加工機 |
500 | 40 | 60 | 200 |
ワイヤーカット放電加工機は無人化工なので、作業者の時間は段取が40%、その他の作業が60%でした。人件費の60%(その他の作業分)は設備の間接製造費用に入れます。
各作業者の就業時間と稼働率を表5に示します。
表5 各作業者の就業時間と稼働率
終業時間 (時間) |
稼働率 | 直接製造費用 比率(%) |
実労働時間 (時間) |
|
マシニングセンタ 1(小型) |
2,200 | 0.8 | 100 | 1,760 |
マシニングセンタ 2(大型) |
2,200 | 0.8 | 100 | 1,760 |
NC旋盤 | 2,200 | 0.8 | 100 | 1,760 |
平面研削盤 | 2,200 | 0.8 | 100 | 1,760 |
ワイヤーカット 放電加工機 |
2,200 | 0.8 | 40 | 704 |
各現場に分配した間接製造費用と、表4、表5の値から計算したアワーレート(人)を表6に示します。
表6 各作業者のアワーレート(人)
直接製造費 (万円) |
間接製造費 (万円) |
実労働時間 (時間) |
アワーレート (設備)(円/時間) |
|
マシニングセンタ 1(小型) |
500 | 180 | 1,760 | 3,900 |
マシニングセンタ (大型) |
500 | 180 | 1,760 | 3,900 |
NC旋盤 | 500 | 180 | 1,760 | 3,900 |
平面研削盤 | 500 | 180 | 1,760 | 3,900 |
ワイヤーカット 放電加工機 |
200 | 70 | 702 | 3,900 |
製造原価の比較
A社のA2製品は以下の製品です。
表7 A2製品の材料費
材料単価(円/kg) | 320 |
使用量(kg) | 1.25 |
材料費(1個あたり)(個) | 400 |
製造工程はNC旋盤工程のみです。A2製品の段取時間と加工時間、ロット数を表8に示します。
表8 段取時間と加工時間
段取時間(時間) | 1 |
ロット数 | 1,000 |
段取時間/個(時間) | 0.001 |
加工時間/個(時間) | 0.089(5.3分) |
1回の段取時間は1時間ですが、1ロットで1,000個生産するため、製品1個当たりの段取時間は0.001時間でした。段取費用を表9に示します。
表9 A2製品の段取費用
設備 | 人 | |
アワーレート(円/時間) | 2,000 | 3,900 |
段取時間(時間) | 0.001 | |
段取費用(円) | 2 | 3.9 |
合計(円) | 5.9 |
段取時間が0.001時間と短いため、段取費用は5.9円(約6円)でした。
有人加工の場合の加工費用を表10に示します。
(計算結果は見やすくするために上から2桁に丸めてあります。)
表10 A2製品の加工費用(有人加工)
設備 | 人 | |
アワーレート(円/時間) | 2,000 | 3,900 |
加工時間(時間) | 0.089 | |
加工費用(円) | 180 | 350 |
合計(円) | 530 |
NC旋盤工程を無人加工とした場合の加工費用を表11に示します。
表11 A2製品の加工費用(無人加工)
設備 | 人 | |
アワーレート(円/時間) | 2,000 | 3,900 |
加工時間(時間) | 0.089 | 0 |
加工費用(円) | 180 | 0 |
合計(円) | 180 |
無人加工の場合、人の費用はゼロになり設備の費用のみになります。
NC旋盤工程を2台持ちとした場合の加工費用を表12に示します。
表12 A2製品の加工費用(2台持ち)
設備 | 人 | |
アワーレート(円/時間) | 2,000 | 3,900 |
加工時間(時間) | 0.089 | 0.0445 |
加工費用(円) | 180 | 170 |
合計(円) | 350 |
2台持ちの場合、人の作業時間は1/2になります。
表13にA2製品の製造費用を比較を示します。
表13 A2製造費用の比較 単位 円
有人加工 | 2台持ち | 無人加工 | |
製造費用 | 530 | 350 | 180 |
比率 | 1.00 | 0.66 | 0.34 |
表13から有人加工の設備を2台持ちにすれば、A2製品の製造費用は66%になの、無人加工にすれば34%になることがわかります。ただし、この比率は段取費用の割合により変わります。
この結果から、最終的な見積金額がどのように変わるのか、材料費、販管費、目標利益を加えた見積金額を表14に示します。
表14 A2製品の見積金額の比較 単位 円
有人加工 | 2台持ち | 無人加工 | |
製造費用 | 530 | 350 | 180 |
材料費 | 400 | ||
製造原価 | 930 | 750 | 580 |
販管費 | 150 | 120 | 100 |
目標利益 | 30 | 30 | 20 |
見積金額 | 1,100 | 900 | 700 |
比率 | 1.00 | 0.81 | 0.63 |
販管費レート0.165 目標利益率0.03
製造原価は材料費が加わるので差は少なくなります。製造原価に販管費と目標利益を加えたA2製品の見積金額は、有人加工に対して2台持ちは81%、無人加工は63%になりました。
アワーレートを見てもNC旋盤は2,000円/時間、作業者は3,900円/時間と作業者は設備の2倍近くあり、自動化によって人の費用が減少すれば、原価が大きく下がることがわかります。
このように費用を比較すると設備よりも人の費用の方が高いことが多く、自動化により人の費用を減らすことは原価低減に大きな効果があります。
今日では加工はNC工作機械などの進歩により自動でできるものが増えました。しかしワークの着脱や完成品の通い箱への収納などはまだ自動化できず、作業者が行っている現場は多くあります。そのためこういった付加価値の低い作業に多くのコストがかかっています。
中小企業は多品種少量生産が多いため、こういったワークの着脱や完成品の収納を機械化・自動化するのは大変です。しかし最近は低価格のロボットや視覚認識付きのロボットが増えてきたので、これらをうまく使って自動化すればコストを減らすことができます。
こういった製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。
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