よく使われているけど、漠然と理解している言葉「戦略」について考える
企業で働いているときは全く縁がなかったけれど、経営コンサルタントになってから非常に良く聞く言葉があります。
それは
「戦略」
です。
戦略とは、どのような意味でしょうか。
この言葉をよく使っている方も、一言で言うのは難しいのではないでしょうか。
戦略は軍事用語
戦略(strategy)は、軍事用語です。
クラウゼヴィッツの戦争論によれば、戦略は
「戦争における勝利(政治的目的の達成)のための方法論」
です。
戦略は戦争における個々の軍事行動(作戦や戦役)に、戦争の目的に適合した具体的な目標を与えます。
日本大百科全書(ニッポニカ)によれば
戦術の上位概念として、一般に師団やそれ以上の大戦闘単位の軍事行動を計画・組織・遂行するための通則をさす。
大辞林では
長期的・全体的展望に立った闘争の準備・計画・運用の方法。戦略の具体的遂行である戦術とは区別される。
分かったでしょうか?
私はよくわかりませんでした。
戦争から戦略の意味を考える
戦略は、「戦争とは何か?」という戦争の目的を考えると容易に理解できます。
戦争とは、
「軍事でもって国家間の争いを解決する外交手段」
です。
「そんなことはない!」とおっしゃる方もいるかもしれませんが。
国家間でお互いが主張を譲らないとき、
最初は外交交渉により解決を図ります。
それでも解決しない時、戦争という手段に訴えます。
戦争は、お互いの軍隊が戦い、つまり殺し合いして、勝敗を決めます。
その結果、勝った方が自分の主張を通すわけです。
途中で優劣が決まり和平交渉が成立する場合もあれば、相手の国を完全に占領するところまで行う場合もあります。
戦争のルール
実は軍隊の維持にはお金がかかります。
かつてヨーロッパでは、自国で軍隊を持たず、外部から兵士を雇って戦争を行っていた時期があります。
これが傭兵です。
一方、それに対して、国民から広く兵士を集めて大規模な軍隊を組織し、戦争を行った最初の指導者がナポレオンでした。
それまでは戦争は、一部の軍事の専門家や傭兵が指導者の為に命を懸けた戦いでした。
そして外交の一手段だから、戦争にはルールがあります。
例えば、
- 赤十字のマーク入った船や自動車は、攻撃してはいけない
- 白旗を上げて降伏したら、攻撃してはいけない
- 捕虜は殺してはいけない
などのルールです。
ただし、今日は、正式な軍隊同士の戦争よりも民兵やゲリラとの局地紛争の方か多く、このようなルールも守られず、一般の市民まで被害に遭っているのが現実です。
では、戦争を外交手段のひとつとして考えた場合、戦略とは何でしょうか。
戦略とは、クラウゼヴィッツの戦争論にあるように
「戦争目的を遂行するためのやり方、計画、方針」
です。
戦争の目的
そして戦争は外交の一手段ですから、目的があります。
例えば、日露戦争では、日本の目的は
「ロシアに勝って、有利な条件で講和条約を結び、中国東北部、及び朝鮮からロシアを撤兵させること」
でした。
ロシアを占領し、クレムリン宮殿に日の丸を立てる事ではありませんでした。
その目的を達するためのやり方が戦略です。
戦いに勝っても、戦略的には敗北する
従って、一回の戦闘で勝利することは、戦略の目的ではありません。
一回の戦闘、会戦や海戦での勝利は、味方と敵の損失(失った軍艦や亡くなった兵士の数、失った陣地)で決まります。
しかし場合によっては、1回の戦闘で負けでも、戦争の目的の遂行に貢献すれば、戦略的には勝利といえます。
例えば、太平洋戦争で、
1942年5月の珊瑚海海戦では、日本とアメリカともに航空母艦1隻を失いました。
つまり戦術的には引き分けでした。
しかし、この戦闘で日本の航空母艦「翔鶴」「瑞鶴」は多数の乗組員が帰還できず、次のミッドウェー海戦には参加できませんでした。
その結果、ミッドウェー作戦には、4隻の航空母艦で臨まざるをえず、これが敗北の1因となりました。
その意味で珊瑚海海戦は、戦略的には敗北と言えます。
経営戦略とは
それでは、戦争でなく経営において
戦略とはどのような意味でしょうか。
経営戦略とは
日本大百科全書(ニッポニカ)によれば
経営目標を達成するための手段選択の枠組みをいう。
経営戦略は、経営目標と経営計画の中間に位置し、計画の策定と実施が目標実現に有効に機能するよう媒介する。
世界大百科事典によれば
経営方針は経営の基本目標を示したものといえ,経営戦略は,この基本目標を実現するため,いかなる事業活動を行うかについての指標といえる。
ブリタニカ国際大百科事典
企業が競争的環境のなかで生抜いていくために立てる基本的な方針。
Wikipediaによれば
経営戦略(けいえいせんりゃく)は、組織の中長期的な方針や計画を指す用語である。
分かったでしょうか?
私は、ピンときませんでした。
そこで私は、以下のように考えています。
経営戦略は、
企業が、目指す将来の姿を実現するための手段、方法、やり方
です。
まず戦略の前に、3年後、5年後の自社の目指す姿があります。
その姿を実現するための、計画や実現方法、具体的なやり方が経営戦略です。
経営戦略には、目指す姿が必要
そう考えると、経営戦略を立てるためには、
企業の目指す姿が明確になっていなければなりません。
例えば、3年後の売上や事業内容、規模などです。
これが明確になって、初めて、そこに至るプロセスとして、戦略を考えることができます。
そのプロセスには、製品やサービスの改良、技術の向上、販路の拡大などがあります。
さらに、そのための人材の採用や教育も含まれます。
これは中期経営計画に近いものがあります。
ただ、中期経営計画は、数値により具体化され、経営目標となります。
しかし経営戦略は、やり方、手段なので数値化する必要はありません。
経営戦略は変化する
一方で経営環境が変化するのに伴い、経営戦略も随時変化します。
例えば、売上3億円の生産用設備を設計製作している中小企業が3年後に売上1.5倍の4.5億円の企業になろうとしたとします。
3年後に4.5億の売上は、企業の目指す姿、目標です。
3年後にこれを実現するための戦略は、
- 販路を拡大するために、自動車以外に電気機器生産や食品製造設備市場に参入する。
- 現在メインで製作している搬送設備から、より付加価値の高い加工・洗浄設備も受注する。
- 加工設備、洗浄設備を受注するために、自社に加工技術、洗浄技術を蓄積する。
- 短納期対応力を高め、既存顧客からの受注を拡大する。
等が考えられます。
この戦略を具体的な毎年の計画に落とし込み、実行します。
言い換えると、将来の姿は、3年とか、5年かかる航海の目的地です。
経営戦略は、目的地に行く為の航海のルートになります。
どのようなルートを通るのか、気象状況や海流などにより変わります。
つまり経営戦略は、環境の変化により変更されます。
フレームワークは戦略立案ではない
この戦略を立案するためには、
- 将来の自社の目指す姿の明確化
- 現状分析
- 目標を実現するためのやり方(戦略)の構築
- 毎期の目標値への展開
- 毎期の具体的な実行計画の立案
となります。
この現状分析や、将来の経営環境の分析のツールが、SWOT分析やファイブフォース分析などの戦略フレームワークです。
こう考えると、戦略フレームワークは、あくまで現状分析のツールであり、フレームワークが戦略を構築するわけではありません。
そして戦略の立案のためには、経営者が企業の将来の姿を明確にしている必要があります。
目指す姿は誰が決める?
大企業の場合、現状を分析し、経営環境を調査するためにコンサルタントを雇うことはあります。
しかしその企業の目指す姿、ゴールは、企業自身が決めなければなりません。
そしてゴールに至る方法、つまり戦略も企業自身が決めなければなりません。
なぜなら、ゴールに至る方法、つまり「戦略」こそ、他社と差別化する最も重要な点だからです。
これを決めることができるは、その事業のことを一番よく知っている企業自身です。
また戦略の立案は必ず中長期的な視点が必要です。
その場合、短期の利益を上げる目標は、長期的にはマイナスに作用することもあります。
例えばコスト削減。
研究開発費や設備投資、教育訓練などの投資は、1年間行わなくても売上がすくに低下することはありません。
これらを1年間止めれば、その分利益は増えます。
富士フィルムの古森氏は、
「研究開発費を削れば、数百億の利益はすぐに出せるという誘惑に駆られる。しかし将来の発展の為に、売り上げの2%は研究開発に投資してきた。」
従って長期的な自社の目指す姿を考えることは、極めて重要です。
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