ドナルド・R・キーオの「ビジネスで失敗する10の法則」後半は、深く思考しない、専門家を盲信する、官僚主義に陥る、一貫性ないメッセージ、将来を恐れる、情熱を失うといった失敗要因を指摘。これらは経営者・社員双方に共通し、データに溺れず本質を見極め、責任回避せず、信念と情熱を持つ重要性を説く。
ビジネスで失敗する10の法則 著者はドナルド・R・キーオ氏。
彼は1981年から1993年まで米国コカコーラ社の社長だった人で、実は勤務していた食品会社がコカコーラ社に合併され、その中から社長に抜擢された人物です。彼の書いた失敗の法則は、経営者だけでなく社員の立場でも参考になる内容です。そこで同書の内容から、経営者として考える点と、社員の立場で考える点と比較しました。
法則1~5までについては、以下のサイトを参照願います。
法則6 考えるのに時間を使わない
インターネットの普及により、膨大な情報が机に座ったまま収集できるようになりました。そのため新しいことに取組むとき、競合や類似の取組などいろいろな情報やデータを調べて起きないと心配になります。また他人から指摘されることもあります。その結果、充分にデータを収集しなければ議論すら始められず、会議の準備に多くの時間がかかることも珍しくありません。
しかしデータが多ければ正しい判断ができるのでしょうか?
同書では、1970年代前半に心理学者が行った実験について述べています。競馬の予想屋がレースの結果を予想する際に、提供した情報の量と予想成績について調べました。その結果、提供した情報が5種類のときより、40種類の時の方が、予想成績は悪かったのです。

またデータをいくら集めても、データを活用して考えなければ、新しいアイデアや発想は生まれません。これは肉や野菜など材料をどれだけ集めても、料理にならないようなものです。
ところが最近は詳細なデータが容易に手に入るため、それをコピーアンドペーストすれば、何かプランができたような気になってしまいます。これは食材を集めに行ったら肉や野菜だけでなく、レトルトのカレーや調理済みの冷凍食品が手に入るようなものです。
しかし、レトルトのカレーや冷凍食品では、本格的なお店で提供する料理にはなりません。つまり、食材を料理に変えるプロセス「思考」が重要になります。集めたデータから状況を冷静に分析し、深く思考することが必要になります。それには、思考だけに集中する時間が必要です。
誰にも電話を取り次がないように言って、
携帯電話の電源を切り、
会議室に一人籠って、
紙と鉛筆で考えます。
時間は30分でも1時間でも構いません。1人で考え、思考を整理することで頭の中が整理され、新たなひらめきが生まれます。
社員の立場では
問題解決や新しいアイデアを練る際に、思考に専念する時間をつくることは、とても効果があります。実は意外と日常生活の中で、思考に専念する時間はなかったりします。お勧めなのは、自分のキャリアの棚卸です。今までのキャリアと習得したスキル、これから死ぬまでに残された時間と、やりたいこと、そのために習得すべきスキルを書き出します。その結果、思っていたより残された時間が少ないことに気づいたりします。
法則7 専門家と外部コンサルタントを全面的に信用する
キーオ氏は、十代の頃、家畜商から市場で牛を買い付けるアルバイトをしていました。家畜商は、キーオ氏に牛の見分けかたをいろいろ教えてくれました。そして、最後に最も大切なことを教えてくれました。
「人でなく、牛をよく見るんだ」
キーオ氏が社長になると、マーケテイング、経営戦略、新規事業の専門家やコンサルタントが明晰な頭脳と専門的な理論により、様々な提案をキーオ氏にしました。しかし、専門家の提案が「牛から目を離して」いれば必ず失敗します。

キーオ氏は、コカコーラの味を見直したニューコークの発売を決定しました。事前に行った、大量の味覚調査、フォーカス・グループ、試験販売、マーケテイング調査、コンサルタントの分析、全てニューコークが成功することを裏付けていました。1985年4月全米で大々的にニューコークを発表しました。

発表の直後から抗議の電話が殺到しました。キーオ氏は、気づきました。あれだけの専門家、あれだけのデータは、誤解の素でした。
つまり牛を見失っていました。
「いくつかの疑問を知っている方が、答えをすべて知っているよりいい」 ジェームズ・サーバー
トヨタ自動車では、「技術者は一日3回手を洗いなさい」と教えられます。つまり
「1日3回は現場に行って自分の目で確かめなさい」
と言うことです。実際にやってみると、多忙な時間の合間にこれを毎日実行するのは大変です。
社員の立場では
膨大な業務を、限られた時間やリソースでこなさなければならない今日、つい手元のデータや情報だけで判断しようとすることがあります。しかしこれは極めて危険です。
以前新しい取引先と取引を始める際、その会社に全く行かないで取引を始めたことがありました。しばらく経って大きな品質問題が発生しました。実はその会社は社員5人の小さな会社でした。そして自分達が求めていた品質や供給能力がとてもないことが分かりました。
地方の新たな取組としてB級グルメを活用した成功例がマスコミで紹介されました。実際に行ってみるとガラガラでした。データや情報だけでは、本当のことは分かりません。
法則8 官僚組織を愛する
1973年アトランタのコカコーラ本社ビルに移ったキーオ氏は、手ごわい官僚組織に出会います。優先すべきは、決まりや手続き業務でした。キーオ氏の秘書は、鉛筆1本買うのも決められた手続きを踏まなければならず、仕事は進みませんでした。
官僚組織の素はとなるものは、様々な業務に関する規則や慣例です。始めは、これらは社員の仕事をスムーズにするためのものでした。ところがいつか規則や慣例が独り歩きをするようになります。本来の業務の目的よりも、
規則や慣例を守ることが目的になってきます。
なぜそうなるかというと、
誰も責任を取りたくないからです。
ある目的のために規則や慣例に反した場合、もしその結果大きな問題が発生すると、違反を認めた人は責められます。場合によっては責任を取らされます。今では、組織や個人が失敗して社会的に注目を浴びると、大々的にマスコミが報じます。そして非難中傷が繰り返されます。
2011年7月から約55日間、松山市立津田中学校で、プールの注水バルブが開っきぱなしになっていたため、水道使用料268万円分の損害が出ました。同市教委は、校長と教頭、プール管理責任者の体育主任教諭の3人に計134万円の損害賠償を請求しました。この件、プール漏水防止マニュアルはなく、閉め忘れた教員も特定できませんでした。
これでは
官僚組織になるなという方が無理です。
官僚組織化と類似の現象に大企業病というものがあります。それを表す典型的な発言が、
「俺は聞いていない」
です。会議の場でこれを発言する上司は、何を求めているのでしょうか。組織の成果よりも、自分が中心であるように思えます。
社員の場合
官僚組織化と大企業病は、知らず知らずのうちに自分の中に入り込み、自分を変えてしまいます。そうならないためにも、「誰のために」をまず考えます。(大抵は、最も身近な顧客です)
誰のためより組織やルールが優先される場合、自ら判断して行動する前に、上司に相談することをお勧めします。もし上司が大企業病に犯されていたら、その場は無理に逆らわず従います。そのことを忘れないように手帳に書いておきます。自分が上司になった時、それを反面教師にします。権力がないのに官僚組織に立ち向かっても、砕け散るだけです。
法則9 一貫性のないメッセージを送る
コカコーラ社のファウンテン部門は、毎年冬に営業会議と称して保養地に幹部と営業担当者、そしてその妻を招待して豪華な祝賀会を開く習慣がありました。ある年はその部門は赤字でしたが、慣例に従って営業会議を開く予定でした。これをキーオ氏は止めさせました。部門が赤字なのに保養地で営業会議を開くことは
「業績が悪くても関係ない、報酬は受け取れる」
というメッセージを発していたからです。
社員の立場では
自身の発言、行動、立ち振る舞いは、すべて第三者に対するメッセージです。
部下に
「自ら積極性を持って仕事に取り組んでほしい」
と言っているのに、部下から
「こうしたい」
と提案があったときに
「それは、以前やって失敗したからやめた方がいい」
とアドバイスすれば、誰も積極的にならなくなります。
法則10 将来を恐れる
人は、未知のものには恐れを感じます。例えば、滅多に起きない飛行機事故を怖がったりします。
人口は急激に増加し、人類は飢えに苦しむことになる。(1798年マルサスの人口論)
人口は21世紀半ばに100億人に達し、地球の生命維持システムを崩壊させる(1968年ポールRエーリッヒの人口爆弾)
2012年中国崩壊 2014年日本沈没
インフレ、不動産バブル、人民の不満、環境汚染などから中国の成長は「持続不可能」であり、中国経済は崩壊する。2011年 浅井隆氏の著書
このような主張が度々起きるのは、人は楽観的な話より悲観的な話の方に関心が高いからです。そのためテレビ、書籍も悲観的なテーマの方が多いです。しかし悲観的な予測は、めったに当たったことはありません。そして、悲観的な考えにとらわれると、新しい試みができなくなってしまいます。
キーオ氏は、
失敗したいのであれば、将来を恐れるといい
成功した入りであれば、将来を楽観し熱意を持って将来に立ち向かうべき
と述べています。
最悪ケースのシナリオはめったに実現しない 作者不詳の言葉
社員の立場に置き換えると
新しい提案、新しいプロジェクト、ひょっとすると新しい会社への転職、新たな取組に万全なものはありません。何らかのリスクが必ずあります。悲観主義に陥れば、リスクばかりが大きく見えてきます。何もしない事が良い選択に思えます。新たなことにチャレンジする時には、自らを楽観主義者に変え、悲観的な話には耳を傾けないことです。
プラスワン 法則 仕事への熱意、人生への熱意を失う
分別のある人は世界に自分を合わせようとする。
分別のない人は世界を自分に合わせようとする。
だから、進歩はすべて分別のない人のおかげだ
ジョージ・バーナード・ショー
キーオ氏は「成功している人は必ず仕事に対する情熱を持っている」と述べています。これからは日本でも、定年まで一つの会社に勤めることは、少なくなってくるかもしれません。数年後には別の会社で仕事をしているかもしれないのに、今の仕事に情熱など持てないと思うかもしれません。
しかし、だからこそ
仕事には情熱が必要だ
とキーオ氏は語っています。そして
情熱は育てられる、つまり自らが育てるものだと。
今ある職を「これが最後の職と考えて最善をつくし、この仕事を離れる時は当初より良い状態する」と決意します。
リスクを取るのを止め、
柔軟性をなくし、
部下を遠ざけ、
自分は無謬だと考え、
反則すれすれのところで戦い、
考えるのに時間を使わず、
外部の専門家を全面的に信頼し、
官僚組織を愛し、
一貫性のないメッセージを送り、
将来を恐れていれば
その事業必ず失敗する
とキーオ氏は述べています。
同様に、
リスクを気にして思考の範囲を狭め、
他部署や専門外の人の意見には耳を傾けず、
部下からの報告を待つだけで自分からは部下の方に行かず、
現地での確認はせず、
上司の指示であれば法を犯すこともためらわず、
考える時間をつくらず、
裏を取らずにデータやネットの情報だけで判断し、
自分の身を守るために規則やルールは厳格に運用し、
自分が言ったり行ったりすることと、違うことを部下に要求し、
将来を恐れて新しいことに取組まず、
仕事に情熱を持たない、
振り返ってみると、
「結構やってしまったなあ」
と反省しています。
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