現代の若者は「失われた20年世代」と呼ばれ、安定志向で合理性を重視する。彼らの育成には、報酬ではなく、仕事の目的や理由を明確にし、自律性、熟達、目的意識を育む「モチベーション3.0」の考え方が有効だ。企業は若者の不安を取り除き、成長を実感できる環境を提供することで、彼らのやる気と責任感を育むことができる。
今時の若者の特徴と育成について、
モノづくり通信第2号「人材育成特集」
では、最近の若者世代を「失われた20年世代」と呼び、その特徴をまとめました。
失われた20年世代の特徴
- 物心ついたときにはバブルが崩壊し、日本経済の低迷期に育ったため、世の中が良くなっていく実感を持っていない
- 物質的には比較的恵まれた環境に育ち、地位や金銭への執着が少ない
- 安定した生活、夢や希望、社会的貢献を求める傾向が強い
- 正義感が強く、組織や権力による理不尽な強制は拒否する傾向が高い
- 従って、それまでの世代のように、慣例や上司の権限で本人の納得のいかない業務を強制しても、容易に従わない
という特徴があります。
こういった特徴を持った彼らを育成するためにモノづくり通信第2号では【能力不足】【育成不十分】【やる気不足】の3つの観点から、13の処方箋を提示しました。
ゆとり教育世代と若者を取り巻く環境の悪化
モノづくり通信第2号を発行した5年前と比較しても若者を取り巻く状況は厳しくなっています。
企業は成果を上げるために、成果報酬制度など結果を第一に求めるようになってきています。
しかし、そのことがむしろ若者の意欲を低下させている可能性があります。
ダニエル・ピンク氏は著書「モチベーション3.0」において、報酬が自発性や創造性を奪うことを述べています。
そこで若者を取り巻く環境と彼らの不安や苦悩を明らかにし、その処方箋としてピンク氏のモチベーション3.0はどのように効果を発揮するかを考えます。
ゆとり教育について
そもそもゆとり教育とは何でしょうか。
「ゆとり教育」という言葉だけは、様々な場面で使われていますが、それがどのようなものかは、正確に伝えられていない気がします。
1990年代に起きた校内暴力、いじめ、登校拒否が社会問題となり、1996年中央教育審議会では、子どもたちの生活の問題点として、ゆとりのなさ、社会性の不足を指摘しました。
これからの教育の方向として、「生きる力」の育成が必要とし、今までの「詰込み型の教育」を反省し、「ゆとり」を重視して、自ら考え、自発的な力を養うための改革を提言しました。
具体的には授業の量を減らし、総合教育を導入しました。これが「ゆとり教育」です。
一方、その後日本の子供の学力が海外に比べて低下しているという報告があり、その原因にゆとり教育が挙げられました。
2009年からは授業内容を増加させた学習指導要領が施行されました。
この改定された教育の事を「脱ゆとり教育」と称しています。
ゆとり教育は画期的だった
そう考えるとゆとり教育は、教育の本質を転換した画期的な取り組みでした。
なぜなら日本の学校教育は、自ら考えることを求めず、上からの命令に従順に従うことを目的としていたからです。
それは明治政府の教育の目的は、軍隊の整備にあったからです。
明治に入り富国強兵策を取った日本政府は、近代的な軍隊の整備に迫られます。
しかし当時の農村の若者は
「方言がひどく言葉が通じない」
「集団行動がとれない」
など軍隊として組織化するには問題がありました。
徴兵制度により欧米に対抗できる軍備を整えるために、学校教育制度が至急整備されました。
学校では指示を聞き、確実に行うことが第一に求められました。
サービスとしての教育と、その対価
その教育が今大きく変質しています。内田樹の「下流指向」によれば、子供たちにとって今日の教育は、
「自らが何かを犠牲にして、それを代償として受けるサービス」
となっています。例えば、レストランでは、お金を払い、対価として食事というサービスを受け取ります。お金を払うという「痛み」と引き換えに「食事」という快楽を得ています。
そして学校では、子供たちは
「おとなしく教室に座っている」
ことの対価として、
「良い成績」
としいう報酬を受け取っているのです。これは子供だけの責任ではなく、日本の社会や子供たちの両親が、「教育もサービスとみなすようになった」ことが問題です。そう考えると、昨今の学生の行動が理解できます。
教育もコスパが重要
教育もサービスですから、学生は高いコスパ(コストパフォーマンス)を求めます。つまり、授業時間が短いため苦痛の時間が少ない授業で、なおかつ良い成績がもらえる授業です。従って学生がレポートをコピペするのは、コスパを高めようとすればとても理にかなった方法です。なぜ彼らはこのように考えるのでしょうか ?
それは「学んでいることの価値」を
「学んでいる子ども自身が分かっていない」
のが教育の特徴だからです。子どもどころか
「サイン、コサイン、タンジェントを女の子に教えて何になる?」
と発言した鹿児島県の伊藤祐一郎知事のように大人でもわかっていない、あるいは答えられない人がいます。
価値の分らないものに子どもたちは
「苦痛という対価を払いながら、成績という報酬を得ている」
のが現代の教育ならば、子どもたちは試験以外で学ぶ努力をするでしょうか。こうして学ぶ努力を放棄した子どもたちは
「自ら下流へ向かう流れに乗ってしまう」
と内田氏は述べています。
就職予備校としての大学
学ぶことの価値がわからない子どもたちが唯一価値を認めているのが、大企業や官公庁への就職です。となると大学に求められるのは、学問をするための高等教育機関でなく就職のための予備校です。大学生活のゴールが良い会社への就職ならば、大学生活は就職のための準備活動がメインになります。多くの若者は大学3年生から就活のため、セミナーなどでエントリーシートの書き方や面接の受け方を学んでいます。大学もそういった学生に良い環境、サービスを提供することで、学生が良い会社に就職できるようにします。

若者たちの特徴
こういった教育環境で育った若者たちはどのような特徴があるのでしょうか。
生れた時からネットがある世界
今の若者たちは、生まれた時から携帯電話やインターネットがある世代です。若者にとって、いつでも誰かと連絡を取ることができ、情報はタダで手に入るのが当たり前という感覚です。皮肉なことに豊富な情報量は若者を内向的にしました。世界中のあらゆる情報が手に入れば、わざわざ出かけて行って、実際に見たいという欲望は希薄になります。
コピペ文化
かつて情報はとても貴重でした。新聞や雑誌の情報は、捨ててしまえば二度と手に入りません。大事な雑誌はいつまでも持っていたり、新聞記事を切り抜いてスクラップブックに貼ったりしたものです。今では、いつでも無料で手に入ります。(すべてとは限りませんが…)
無料で手に入るものは無断で使用しても、彼らは罪を感じません。彼らは、ネットにあるものは公共の知識=自分の知識と考え、それをコピペしてレポートを作成しても問題とは思いません。
新村社会とSNS疲れ
LINEやツイッターなどSNSで、いつでもどこでも、人とコミュニケーションができるようになりました。若者たちは孤独でないはずですが、かえってコミュニケーションに失敗すると、仲間外れにされるという新たな村社会になっています。
このような仲間のコミュニティでうまく生きていくために、若者の中にはコミュニティが求めるキャラを自ら演じている子もいます。場の空気に敏感に反応し、返答を返す技術も必要です。
若者のグループのメールの平均登録人数は、114.2人(10~20代)で、1日のメールの送受信は30~40代の約2倍です。仕事のコミュニケーションで頻繁にメールを使用する30代のビジネスマンの2倍のメールをプライベートで取り交わしています。
この常に人とのコミュニケーションの緊張を強いられる状態を
「ケータイはポケットにむき出しの刃物を入れている気分」
と表現した若者もいます。
行動範囲の狭さ
国立市在住の大学生が、今度旅行に行くことに決めました。
行先は「お台場!」
電車で1時間もかからない距離です。そこに行くことが旅行になるほど彼女の行動範囲は狭いのです。

なぜこれほど行動範囲が狭いのでしょうか?ひとつには、モノが豊かで遠くまで移動しなくても、欲しいものが手に入るからかもしれません。私が若い頃、1980年代は通販も今程発達しておらず、インターネットもありませんでした。テレビや雑誌で見たものを手に入れようと思えば、それを扱っているお店まで行かなければなりませんでした。地方に住んでいる場合、普段は近くのお店で買っていても、休日には欲しいものを手に入れるために大都市に出かけていきました。
今では、大抵のものがどこでも手に入ります。地方でもちょっとした都市にはイオンがあり、都会と同じようなものが手に入ります。お店になければ、アマゾンで買うこともできます。欲しいものを手に入れるために、わざわざ遠くに出かけていく必要はありません。
節約し続けても、節約疲れはない
大学を卒業して無事就職した若者がお金持ちになるためには、どうしたら良いでしょうか?
一生懸命働いて、昇進すれば、給料が上がってお金持ちになるでしょうか?
定年まで勤めても部長クラスに昇進できるのは、今ではわずかです。もし昇進しても、会社の経営が悪化すれば真っ先にリストラの対象になります。サラリーマンが豊かになるためには、給料が増えないのであれば、お金を使わないことです。こうして多くの若者たちは派手な消費を行わず、貯蓄に励みます。
閉ざされた未来と失敗が許されない社会
教育は投資から投機に
発展途上国では、教育は効率の良い「投資」です。貧しい家庭は、リスクを分散するために子供をたくさん産みます。子供がたくさんいれば、一人ぐらい頭の良い子がいます。両親は、その子にお金を集中して上の学校に行かせます。その子が公務員や学校の先生になってくれれば、安定した給料を一家にもたらし、家族を支えてくれます。かけたお金の何十倍ものお金が返ってきます。
日本では、大学の学費は高く、卒業しても安定した仕事に就けるとは限りません。入った会社がブラック企業であったり、仕事が自分に合わなくて会社を辞めたりすると、残るは非正規の仕事しかありません。一度非正規のフリーターになれば、例え有名な大学を出ていても正社員になるのは容易ではありません。教育はリスクが高いわりにリターンの少ない「投機」になってしまいました。
失敗の許されない新卒一括採用 落ちればフリーター
就職氷河期に正社員になることができず、現在もフリーターを続けている赤城智弘氏は、自らの苦境を
「希望は戦争」
とまで語っています。もし日本で戦争が起きれば、日本は流動化し、正社員も公務員もフリーターも同じ危険にさらされます。
「今のままフリーターとして死ぬよりは、戦争が起きて、戦争の犠牲者として死にたい」
赤城氏は語っています。
若者たちを取り巻く環境が彼らに対し過酷なのは、彼らの置かれている状況が、彼らの自己責任になっていることです。就職氷河期でも努力して、大手企業や官公庁に就職した若者はいます。大人たちは、それと比較してフリーターをしている人たちに
「努力が足らない」
と叱咤します。本当に彼らは努力が足らなかったのでしょうか。
実は議論がすり替えられています。彼らが苦境に陥っているのは「努力の問題ではなく」
「一度失敗したら二度と這い上がれない仕組み」
だからです。
現在の社会制度は、100%完全なキャリヤパス、つまり受験を乗り切って大学を卒業し、新卒で就職してずっと会社でも働き続ける人だけが対象になっています。医療、年金、福祉もそのような人を対象に設計されています。企業の採用も、基本的には新卒一括採用がメインです。
しかし多くの若者たちは、大学を中退したり、最初の会社を辞めたりします。その結果二度と這い上がれない「下層市民の生活」に陥ってしまいます。中高年も同様で、会社の業績が悪化すると中高年はリストラされ、年収1/3の非正規の仕事しかなくなります。
この搾取される若者たちを元フリーターの作家 雨宮処凛氏は、
「プロレタリアート」
と呼んでいます。雨宮氏自身、フリーター時代食べるのにも困り、ティッシュに醤油をかけて飢えをしのいだ経験があります。
若者たちは、自分たちを取り巻くこのような環境を理解しています。そして少しでも良い生活を得るために、安定した大企業に入り、そこで一生を終えることを望みます。そんな彼らに「失敗しても良いからチャレンジしろ」と言ったら、どんな反応をするでしょうか。
産業構造の変化が原因
正社員の採用抑制、非正規社員の増加は、産業構造の変化にも原因があります。機械化、IT化により、今まで人が行っていた仕事がコンピューターや機械に置き換えられました。
今残っている仕事は、
- 単純労働であるが、機械に置き換えるにはコストがかかり過ぎる仕事
- 機械やコンピューターではできない仕事
の2つです。
若者がリスクを取らない原因 社会環境
実は別の意味で今の環境は、若者たちにとって厳しいかもしれません。
なぜなら、
- 今のところ不自由がないため、上昇志向が生まれにくい
- これから豊かになっていくという実感はない
- 未来への明るい展望もない
決して良くはないが、では現状から脱却するために努力するインセンティブも生まれにくい状況だからです。
バブル崩壊以前、戦後から高度成長期は、
「貧しかったが、豊かになるという実感」
がありました。衣食住が満ち足りても、
「科学技術の進歩で良い製品が出てきて、まだ豊かになる実感」
がありました。
そして実際に給料も上がり、工業製品は安くなり、豊かな生活を送ることができるようになりました。希望があれば、人はチャレンジする意欲が湧きます。
若者たちがリスクを取らないのは、その方が経済的な合理性にかなっているからです。人はリスクを取る際、得られる成果より、失うものの大きさの方を強く意識するからです。
おおらかで希望があった年配の人達の時代
「俺たちの頃は、失敗を恐れず果敢にチャレンジしたものだ」
以前は仕事に失敗しても職を失うことはほとんどありませんでした。多くの企業では、プロジェクトの失敗を許容する余裕がありました。上司も部下を育てるために、失敗しても大目に見て次にチャレンジさせました。
今や数少ない正社員は、多くの企画やマネジメントに追われています。しかも成果主義の浸透と、失敗を許さない環境により、新しいことにチャレンジできなくなってきました。
やりがい、自分らしさと仕事の管理
このような現状に対し、ゆとり教育世代は、自らの意思で考え、自主性を重んじる教育を受けてきました。彼らに対して年配者の
「理由はともかく、俺たちはこうしてきたから、お前もそうしろ!」
という指導は、相性が良くありません。彼らに合った環境や指導をしないと、自らの意思で考え、自主性を重んじる教育を受けてきた彼らは
「この仕事は自分のやりたい仕事ではなかった」
と辞めてしまいます。では、ゆとり教育世代のモチベーションを高めるにはどうしたらよいでしょうか。
モチベーションについてのダニエル・ピンクの考察
ダニエル・ピンクは、著書モチベーション3.0でモチベーションを以下の3段階に分けました。
【モチベーション1.0 】
空腹、睡眠、性欲などの生理的欲求
【モチベーション2.0 】
金銭的報酬
これにはうまく行ったときの報奨というアメと、規則に従わない場合、失敗した時の罰則のようなムチを含みます。成果報酬制度もこの分類に該当します。これは
「仕事とは本質的には楽しくないものだ」
「人は報酬でやる気を出させて、しかし、ちゃんとやっていないか監視しておかないと、サボる」
という考えに基づいています。
【モチベーション3.0 】
モチベーションの新たな潮流
創造的な仕事に対する報酬の影響を調査した結果、報酬を目的としなくても、人はレベルの高い仕事を意欲的に行うことが分かりました。
報酬はモチベーションを高めるのか
インターネットで情報が無料で手に入る今日では、報酬に対する考え方も変わってきました。
マイクロソフトの百科事典MSNエンカルタをご存知でしょうか。プロのライターや編集者が編纂し、CDとダウンロード版があります。(このサービスは2009年終了しました。)
対してフリー百科事典ウィキペディアは、サービス開始から8年で270の言語、1300万を超える項目が載っています。その執筆者は一銭も報酬を受け取っていません。
皆さんはどちらを利用していますか?
リナックスを始めとするオープンソースソフトウェアの多くは、プログラマーがボランティアで作成しています。リナックスは大企業のサーバ、データセンター、クラウドの分野で導入が急速に進み、2014年に導入率は79%に増加しました。対するウィンドウズの導入率は36%に減少しました。
リナックスのセキュリティが他よりも優れていると回答した企業は78%にのぼりました。
(Linux FoundationのEnterprise End User Councilが実施したアンケート調査の結果より)
報酬の隠されたコスト
マーク・レッパーとデイヴィッド・グリーン、二人の心理学者が、1978年に報酬の効果について調査しました。
幼稚園の子供たちにうまく絵が書けたら、よくできましたという賞状を与えたところ、子供たちは絵を描くことに興味を持たなくなってしまった。
高校生に数学の問題集1ページを解く毎にお金を与えたところ、短時間には一生懸命取り組んだ。しかし数学そのものへの興味を失ってしまった。
デザイナーが仕事に情熱を燃やしていても、そこで製品がヒットすれば、多額の報酬を約束すると短期的には非常なパフォーマンスを発揮する。しかし長期的には仕事に対する興味を失ってしまう。
「人は、他人の意欲をかき立て利益を上げるために報酬を用いるが、自発的な動機がなくなるという代償を支払うことになる。」
倫理に反する行動を助長
外的な数値だけを目標とし、それに報酬をリンクさせると、目標を達成するために不正行為などの「近道」が増えます。粉飾決算による不正な利益創出、アスリートの禁止薬物の使用など、結果だけを追い求め、そこに金銭的報酬が絡むと、倫理に反する行動が横行するようになります。
そのような場合は、罰金を取れば不正はなくなるのでしょうか。
報酬の依存性
スタンフォード大学のナットソンは、報酬の期待感の生理的プロセスを研究した結果、報酬の期待感が高まる時、脳の側坐核という部分からドーパミンが分泌されることを発見しました。このドーパミンが側坐核から分泌される現象は、アルコール依存症や薬物中毒症と全く同じでした。
報酬が得られると一時、気分が高揚します。しかし、長くは続きません。何度も報酬を得ていると、同じ金額では物足りなくなります。つまり報酬は、一度を手にすると、また欲しくなるという依存性があり、しかも、同じ金額では物足りなくなってくるという、麻薬やアルコールと同様の中毒性もあります。
創造的で非ルーチンな仕事への報酬とは
それでもどうしても報酬が必要な場合は、
- 思いがけない報酬(事前には知らせない)
- すべて終わった後で与える
必要があります。それでも次回、報酬の可能性があることを匂わせると、報酬を期待するようになります。良い報酬に必要なことは、以下の2点です。
1.具体的であること
褒めること、みんなで認めること、みんなからの感謝などプラスのフィードバックなどは賞品や報酬よりずっと害は少ないものです。
2.有効な情報を与えること
具体的なフィードバック、色遣いが良かった、あの時にこう提言したことはチームの雰囲気を変えたなど。
時間報酬
弁護士は、どうして幸せそうでないのかとピンク氏は問います。それは、弁護士は時間報酬のため、より多くクライアントに請求するためには、より時間をかける必要があるからです。つまり問題を解決するというアウトプットより、どれだけ時間をかけたかというインプットが重視されます。そして短時間でよい解決策を見つける事より、より時間をかけることが望まれます。これは取り組む人間の創造性を著しく阻害します。
このように、アメとムチの致命的な欠陥は、以下の7点です。
- 内発的動機を失わせる
- 成果が上がらない
- 創造性を蝕む
- 好ましい言動への意欲がなくなる
- ごまかしや近道
- 依存性
- 短絡的思考
モチベーション3.0の実現
では、モチベーション3.0を実現するために、どうすれば良いのでしょうか。
- 自律性
- マスタリー 熟達
- 目的 ゴール
- 自律性 好きなようにさせる
社員を規則で縛ったり、仕事の内容を決めてしまったりすることは、モチベーションを下げる要素となります。
勤務時間の制限を除く
アメリカのIT企業 メディウス社は、ROW(results-only work environment) 、つまり完全結果指向の職場環境を採用しています。ROWは、出退勤の時間も、出勤場所も一切自由な勤務体系です。しかも目標の達成と報酬は結びついていません。どれだけ働くか、どこまで成果を出すかすら、社員個人の裁量に任されているのです。
CEOのジェフ・ガンサーは、
「マネジメントとは、社員が最高に仕事をできる環境を作りだすこと」
と言っています。
フェデックスデー
新興ソフトウェア企業アトラシアンでは、木曜日の午後2時から、全社員が通常業務と全く関係ない業務に取り組みます。そして金曜日の午後4時に、各自結果を披露して乾杯します。この活動から、多くの新たなサービスが生まれました。その後、同社は特定の日でなく、常時、勤務時間の20%は、会社のテーマとは関係ない事業に取り組んでも良いという20%ルールに発展しました。
マスタリー(熟達)に至る三つの法則
- マインドセット 価値あることを上達させたいという欲求
- 苦痛
- 斬近線である くるたのしい(玄田有史)苦しいけど楽しい
1. マインドセット
《達成目標と学習目標》
英語のテストで90点を取るという達成目標を与えられた子供と、英語を話せるようになるという学習目標を与えられた子供では、明らかに学習態度が異なります。
スタンフォード大学の心理学教授ドゥエックは、中学生に科学の法則を学んでもらい、半数の生徒に達成目標、残り半数の生徒に学習目標を与えました。そして生徒たちに新しい問題を解くために、今学んで知識を応用するように指示しました。
その結果、学習目標を与えられたグループは、達成目標を与えられたグループより、時間をかけて課題に取り組み、複数の解決策を試行しました。
2. 苦痛
マスタリーに至るためには、忍耐力と情熱が必要です。
心理学者のアンダーソン・エリクソンは、研究の結果、エキスパートと呼ばれる人々の天賦の際と思われていた資質が、少なくとも10年間の厳しい訓練の結果にあることが判明しました。つまり運動能力やIQのテスト結果よりも、「根性」が、その選手の将来の成績を予測する効果的な材料になります。バスケットボールの殿堂入りを果たしたジュリアス・アービングは以下のように語っています。
「プロフェッショナルとは、自分が心から愛することをするということだ。たとえどんなに気乗りしない日があっても」
3. 斬近線(プラトー)
訓練を継続することで、目指すスキル・技術に近づいていきます。しかし決して目指す技術に至りません。近づけば近づく程、目指す姿とのわずかな違いに気づきます。そのわずかな違いは、簡単には埋まりません。だからこそ到達しようとする価値があるのかもしれません。
どうしても得られないからこそ、それは、達人にとっては魅力的なゴールです。
目的 ゴール
《正しい目標を持つ》
エドワード・デシ、リチャード・ライアン、クリストファー・ニェミェツは、ロチェスター大学の卒業生の人生目標とその後の人生を追跡調査しました。
- 外発的抱負:金持ちになりたい、有名になりたいという「利益指向型の目標」
- 内発的抱負:他の人の人生に手を貸し、自らも学び成長したい「目的指向型の目標」
それぞれの目標を持った若者の卒業してからの1~2年後を調査しました。
《その結果》
目的指向型の目標を持ち、それを成し遂げつつあると感じている者は、学生時代より大きな満足感と幸福感を感じていました。
それに対して、利益指向型の目標を持った者は、富や賞賛を得て目標を達成していたのにも関わらず学生時代より幸せになっていませんでした。むしろ不安、落ち込みなどネガティブな要素が強まっていました。つまり金銭や賞賛などを欲しいと思い手に入れても、幸せになるのではなく、かえって不満が増していました。
モチベーション3.0を取り入れる
今の若者を取り巻く状況と、ダニエル・ピンクの考察を合わせて考えると、成果主義、報奨制度が、若者のモチベーションを高める方向と異なることが分かります。
では、どのような方法が考えられるでしょうか
不安感を取り除く リスクを排除
まず若者たちを取り巻く環境、彼らの社会観を理解します。その上で、彼らが行動をためらっているリスク要因を徹底的に排除します。
具体的には、
- 失敗に対する懲罰制度の全廃
- 成果主義の全廃
などです。
「そんなことをしたら、怠けるのではないか」と思われるかもしれません。もし報奨と懲罰を取り除いたら怠けるようであれば、仕事自体が創造性のない単純労働になっているかもしれません。その場合、仕事に自律性、判断の自由度、創意工夫の要素を盛り込み、創造的な労働に変える必要があります。
単純労働を創造的な労働に変えるためには、懲罰と報酬は障害でしかなりません。
目的、理由、目標を明示
若者たちのやる気を引き出すためには、今取り組んでいる仕事の目的、理由、目標を明確にすることです。
- 何のためにその仕事を行うのか
- なぜそれをやらなければならないのか
- その目標は何か
これを明確に指示します。そしてやり方は、彼らに考えさせます。とはいえど、最初からやり方を考えられるわけではないので、段階的に考えさせるようにします。そのためには、基礎的な仕事の知識と能力が必要です。
基礎的な能力の向上
社員として中途採用しても、基礎的な仕事の知識と能力を身につけていない若者も多くいます。前に勤めていた企業が、彼らを酷使する単純労働力としてとして扱って入れば、必要な職業能力の訓練を行っていません。そのような若者は、当たり前のことも知らないため、自ら考え行動する人材にするために、まず基本的な職業能力の訓練を行います。
熟達への道 結果の見える化
このような職業能力の訓練から、段階的に創造的な仕事に取組ませます。その際に、自らの成長が自覚できるような仕掛けをつくります。徐々にスキルが上がっているのに、本人が自覚できないと、途中で嫌になって辞めてしまいます。そのため身につけた能力を図や数値で見えるようにすることは大変有効です。
若者たちが資格取得に熱心なのは、身につけた能力が資格という形で見えるからです。例えば、社内資格制度により、スキルアップする毎に段階的に資格が身に着くような制度をつくります。
自律性 自ら考え、行動させる
自ら考え行動し、失敗することでリーダーシップが身に着きます。重要なのは、失敗することです。でも仕事で失敗させるのは勇気がいります。そんな時、お勧めなのは大会などのイベントに参加することです。
ロボットコンテストやコマ大戦などのイベントに、若手社員でチームを組んで出場します。費用は会社が負担します。若者の中には、明確な目標があり、順位がはっきりするような活動では、がぜん頑張るタイプがいます。チームで取り組むことで、リーダーはチームをまとめるリーダーシップも身につける事ができます。
報酬は逆効果
このような活動や、仕事でがんばった社員に対し、金銭で報いることはむしろ逆効果になります。金銭でなく、
認めること、承認が最大の報酬
です。会社が目標を達成した場合、売上や利益が目標に達した場合、全員を集めてねぎらうことで、社員は達成感を感じます。そこで報奨金を出す必要はありません。あるいは個人の社員が頑張った場合は、別室に呼び出してねぎらう、一緒に昼食を取るなども効果的です。
よく経営者の方に
「目標達成したら、報酬を出してください。ただしお金は必要ありません。お昼ごはんに饅頭かケーキを1つ出すだけで十分です。」
とお話しします。社員全員にケーキをあげても、そんなにお金はかかりません。それでも全員が社長から認められたと感じます。
しかしお金を渡すと、次にもっと成果が出た時、さらに金額を上げないと、社員は認められたと感じなくなります。金銭は常に上げ続けないと、満足度が下がるという性質があります。
ユニークな取組で社員のモチベーションを高めているUTグループ(株)
UTグループ(株)は、数々のユニークな取組で社員のモチベーションを高めている人材派遣企業です。主に半導体工場の人材派遣や業務請負を手がけています。創業は1995年、現在1万人以上の技術職社員が、全国500以上の工場で働いています。
売上高364億円、経常利益21億円、2003年にJASDAQに上場しました。
社長の若山陽一氏は
「派遣する社員の待遇をいかに良くするか」
を常に考え、ユニークな取組を行ってきました。
登録する人材は、「無期雇用」の正社員。社会保険も100%加入する。社員に技能教育を行い、技能アップに応じて昇給する職能給制度の導入する。
製造業、中でも半導体製造の分野に特化
- スタッフだけでなく、マネージャーも一緒に派遣する「チーム派遣」マネジメント能力向上のため、社員の派遣先をローテーションする
- 社員が自ら、現場のマネージャーや執行役員に立候補できる「エントリー制度」
- 社員持ち株会で社員に自社株を持たせる
- 派遣されたチーム同士で、改善成果を競う「FCグランプリ」これにより社員に成功体験を積ませる
このようなユニークな取組により、社員のモチベーションは上がりました。また研修など教育制度の充実により、スキルも向上し、何より社員が辞めないため、継続的にスキルを上げる事ができました。その結果、高い専門技術を持った請負チームが顧客に認められ、部門を丸ごと請け負うようになりました。単価は高く、それが高い利益率になっています。
若者にやる気と責任感を持たせることは可能か
今の若者のマインドと行動は、決して彼ら個人の問題ではありません。今の社会環境とそれまでの教育が、彼らをそのように行動させているのです。従って彼らにやる気と責任感を持たせることは、十分可能です。やる気と責任感が出るような環境を与えれば良いのです。
もし、やる気と責任感が個人の性格的なものであれば、変えることは容易ではありません。人の性格は簡単には変わりません。
ただし、彼らにやる気と責任感を持たせるための答えは、決して一つではありません。若者のタイプや育った環境によっても変わるからです。しかし面倒でも、そのような環境を整え、彼らを成長させない限り、組織の未来はありません。
今、組織を支えている人材もいずれ年を取り、引退する時が来ますから。
参考文献
- モチベーション3.0 ダニエル・ピンク 講談社
- 若者のホンネ 香山リカ 朝日新聞出版
- 「新ぶら下がり社員」症候群 吉田実 東洋経済新報社
- 近頃の若者はなぜダメなのか 原田曜平 光文社新書
- なぜ日本は若者に冷酷なのか 山田昌弘 東洋経済新報社
- 未来から選ばれる働き方 神田昌典、若山陽一 PHPビジネス新書
経営コラム ものづくりの未来と経営
経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、技術革新や経営、社会の変革などのテーマを掘り下げ、ニュースからは見えない本質と変化を深堀したコラムです。「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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