製造業の個別原価計算 10 「間接費用は労働生産性に影響するのか?」
昨今は、働き方改革と合わせて、労働生産性の向上が求められています。働き方改革で労働時間が減少する分、労働生産性を向上して補おうというわけです。
この労働生産性は、以下の式で示されます。
製造業では、工場が生み出す付加価値は工場が生産する製品です。対して投入する労働量は、狭い意味ではその製品を生産する作業者です。
労働生産性の向上は製造部門の努力?
つまり労働生産性を向上するには、カイゼンを継続して、作業のムダをなくして効率よくものをつくれるようにすることが必要なります。少ない労働量でより多くの付加価値を生み出すことが求められます。
そうなると製造部門に対する要求ばかり厳しくなります。
実はそうではありません。
なぜなら、分子の付加価値は、
付加価値 = 売上高 – 外部購入価値(材料費、購入部品、運送費、外注費など)
これは、
付加価値 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費
とも書けます。
そうなると、付加価値を高めるためには、賃上げを行って人件費を上げ、設備投資を行い減価償却費を増やすことも必要です。
むしろ言い方を変えると、賃上げや設備投資を行っても、しっかり営業利益が出るようにする必要があります。
労働生産性の向上は間接作業者や事務、営業担当も必要
そうなると、労働生産性の向上は、直接ものをつくっている作業者だけの問題ではありません。
ものをつくっていないけれど工場で働いている間接作業者の生産性や、販管費に含まれる事務所や営業担当の生産性も含まれます。
間接作業者の人件費は間接製造費用となり、これが増えれば営業利益が少なくなります。同様に事務所や営業担当の人件費は、販管費となり、これが増えればやはり営業利益が少なくなるからです。
労働生産性を高めるためには、賃上げをして、なおかつ十分な営業利益が出るように間接製造費用や販管費を抑える必要があります。
間接製造費用とは?
では、この間接製造費用とはどのような費用でしょうか。
製造現場では、自分の手で直接ものを生み出している直接作業者と、受入やリフトマン、保全など直接はものを生み出さない間接作業者がいます。これらの間接作業者の人件費は間接製造費用になります。
他にも決算書の製造原価報告書には、製造原価として消耗品、水道光熱費、運賃、賃借料、減価償却費、修理費、保守料などがあります。
どの製品にどれだけ使用したかわかるものは直接製造費用に入れることも…
これら費用のうち、刃物代やオイル、塗料など、どの製品にどのくらい使用したか、明確になっているものは、変動費として直接製造費用に含めることができます。その場合は、その製品の原価を計算する際に、これらの費用を入れます。
あるいは直接製品を製造する設備の減価償却費は、この減価償却費から設備のアワーレートを計算します。この場合の減価償却費は、直接製造費用に入れます。それ以外の設備のアワーレートは、間接製造費用になります。
個別製品の間接製造費用は一律の割合から計算
それぞれの製品の間接製造費用の額は、直接製造費用に一定の割合をかけて計算します。
この割合は、決算書の先期の費用を元に直接製造費用と間接製造費用の比から計算します。
そのためには、決算書からの先期の直接製造費用と間接製造費用の総額を出さなくてはなりません。
これは以下の手順で行います。
- 製造原価の労務費を直接作業者の人件費と間接作業者の人件費に分けます。
- その他費用の中で、減価償却費などの直接製造費用と、それ以外の間接製造費用に分けます。
- そして直接製造費用と間接製造費用の比を求めます。
計算してみると、15~30%ぐらいあることが多いようです。中には、50%以上のこともあります。
従って見積を計算する際に、この間接製造費用を入れていないと見積が低すぎてしまいます。
間接製造費用を一律で計算するのは、原価が不正確にならないか
確かに電気代が多くかかっている設備とそうでない設備の製造間接費用が同じで良いかといわれると不安になります。
これらは科学的な基準で配賦すべきと主張される方も多いようです。
確かに、熱処理炉とマシニングセンタの電気代を同じにするのは乱暴かもしれません。
そのため、これらの費用を配賦基準(コストドライバー)に従って配賦する活動基準原価計算(Activity Based Costing : ABC)という手法もあります。しかし大企業ならできるかもしれませんが、中小企業にはABCはとてもハードルが高いです。
ABCの問題
しかもABCで配賦したとしても、それが正しいのか疑問があります。
例えば、ABCの配賦の例は以下のようなものです。
建物の減価償却費、賃借料 | 設備の専有面積 |
---|---|
倉庫の賃借料、倉庫担当者や購買担当者の労務費 | 各製品の材料費 |
消耗品、水道光熱費、生産技術部門の労務費 | 設備の稼働時間 |
このような費用管理は中小企業では容易でないことが分かります。
また苦労して費用を割り付けても、それが正しいか疑問です。
事実、日本大学商学部が東証一部上場企業にたいして調査した際も、ABCの実施率は製造業で10%弱でした。
実際の金額の違いから決める
そこで間接製造費用が一律で問題ないかどうかは実際の金額を調べて、一律で個々の製品に分配した結果、どのような問題があるのか検証することをお勧めします。
例えば、前述の熱処理炉とマシニングセンタの電気代の場合、まず電気代の総額を調べ、製品1個当たりの電気代を計算します。その結果、製品の原価に占める電気代の割合が少なければ、わざわざ手間をかけて分配を変える必要はありません。
もし電気代がある程度の割合を占めている場合は、熱処理炉とマシニングセンタの定格容量からおよその電気代の違いを概算して、それを元に分配の割合を変えます。
このようにすれば、実務上は問題ない精度でそれほど手間をかけずに製造間接費を分配できます。
同様に特定の製品で輸送費が多くかかっていたり、消耗品の使用量が著しく多い場合も、それらの負担割合を変えて調整します。
直接製造費用が増えれば間接製造費用も増える?
間接製造費用は、直接製造費用に対する比で計算するため、直接製造費用が増えれば間接製造費用も増えます。
例えば、1工程追加して加工時間が長くなると、間接製造費用も増えます。そして、その分原価も増えます。
これは直接製造費用以上に原価が増えるため、担当者にとって理解しがたいかもしれません。
これは、この計算方法である以上避けられないことです。
考え方として、直接製造費用が多い製品は、その分間接製造費用も多く負担してもらうということです。
ただ、この論理は顧客に値上げを説明する際は、理解は得られないかもしれません。
従って、もし顧客の要望で工程が追加された場合、間接製造費用の増加はごまかして説明しなければなりません。
実際は、値上げに関しては、きっちりと間接製造費用分ももらわなくても直接製造費用分だけでももらえれば「良し」としなければならないこともあります。この考え方は販管費も同様です。
販管費の場合
個々の見積の販管費は、間接製造費用と同様に決算書から製造原価と販管費の比を計算して、個々の見積の製造原価に対して比をかけて計算します。
この販管費は、販売費及び一般管理費ともいわれ、会社の費用の中で直接製造にかかわらない費用のことです。
この販管費には、役員報酬や事務や営業の人件費、広告宣伝費、運賃などがあります。
今日、売上の中で販管費の占める割合は増えていて、中小企業でも販管費は売上高の15~30%を占めています。
製品により販管費に違いがある場合
販管費の中で、製品ごとに大きく違う費用は、場合によっては製品ごとに計算します。
例えば、製品ごとに運賃が大きく違うため、販売費及び一般管理費として一律に分配すると見積が異なってしまう場合です。この場合、販売費及び一般管理費は変動費と考え、製品ごとに計算して製造原価に加えます。
あるいは製品の事業分野により、BtoB事業とBtoC事業がある場合、BtoB事業は営業費用は少ないが、BtoC事業の為、販促費や広告宣伝費が多く販管費がたくさんかかります。
このような場合は、事業分野ごとに販管費の比率を変えます。どの程度比率を変えるかは実際の販管費の違いを計算し、そこから比率を計算した上で実際の原価を見て調整します。
こういった製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。
他にも製造業の値上げ金額の計算と値上げ交渉のポイントについては下記リンクを参照願います。
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