13.間接費の考え方|どこまで原価に含めるべきか

【コラムの概要】

中小企業にとって財務会計の原価計算は、間接費の分配が複雑で手間がかかりすぎる。現場で必要なのは決算用ではなく、受注見積や実績把握に使える簡便な原価情報である。そこで工場経費は直接部門に分配するシンプルな方法を説明する。それでも実情に合わせて調整は必要になる。この考え方を1種類の製品だけの工場で説明し、それを70人の工場のモデルに展開して説明した。

間接費のについては、間接費とは?見積に入れないと利益が残らない理由 で間接費の実態と財務会計での分配の考え方とその問題について説明しました。
このコラムでは中小企業が使い易い簡便な分配方法について、具体的に説明します。

1. 中小企業には困難な財務会計の原価計算

前のコラムで述べたように、財務会計の原則に従った原価計算は間接費の分配計算が複雑で、中小企業が行うには難しすぎます。

それは企業会計原則や企業会計基準の目的が正確な在庫評価や決算書作成だからです。四半期ごとに株主や金融機関へ報告しなければならない上場企業や大企業は不可欠ですが、中小企業は決算は年に一度であり、その処理は会計事務所や社内経理担当者が適切に行っています。つまり、会社全体の財務会計上の原価計算はすでに機能しており、それ以上の精緻に計算してもメリットをもたらしません。

注)
本コラムでは、間接費を割り振ることを「分配」と呼びます。
財務会計では割り振ることを「分配」と呼び、分配も「割り当てる」という意味です。
財務会計は「分配」のほかに「賦課」という言葉もあり、以下のように使い分けています。
分配:製造原価を計算する際に、間接費を何らかの基準(分配基準)を用いて振り分けること
賦課:製造原価を計算する際に、「何に」「どれだけ」使ったのかがわかる直接費を振り分けること
「直接費は賦課して、間接費は分配する」という表現します。しかし、本書では難しい会計用語を用いず、一般的な「分配」を使用します。

2. 経営現場が必要とする原価

中小企業の経営現場で必要なのは「財務報告のための精密な原価計算」ではなく、「意思決定に使える原価情報」で、これは次の二つです。

(1) 見積原価の把握

受注時に「この製品はいくらでつくれるのか」予測原価を素早く算出し、適正な販売価格を決定する。

(2) 実績原価の把握

生産した後「実際はいくらかかったのか」を把握し、見積原価よりも高ければ、原価低減や値上げを行う。

図 原価の必要性
図 原価の必要性

このためであれば費目別・部門別に細かく間接費を分配する必要はありません。規模の限られる中小企業は一貫性のあるルールで、手間をかけずに計算しなければ運用が困難です。そこでシンプルなルールで間接費を分配する方法を説明します。

わかりやすく説明するためには製品が1つだけの工場を考えます。この工場の年間の製造原価と売上、利益を図に示します。

図 製品が1つの工場
図 製品が1つの工場

3. 単一製品モデルで考えるシンプルな計算方法

この工場は、
直接費による製造費用に対し、間接費による製造費用は2倍でした。

従って1時間かかって製造する製品は
直接費による製造費用1,500円に対し、
間接費による製造費用3,000円でした。

図 直接製造費用と間接製造費用、売価
図 直接製造費用と間接製造費用、売価

計算を具体的に説明します。

直接製造費用

この製品の直接費による製造費用 (直接製造費用)は1,500円でした。

【条件】
社員は2名、年間労務費は

  • 直接作業者1名 300万円
  • 間接作業者1名 300万円
  • 直接作業者の年間就業時間 2,000時間
  • 製造時間 1時間

【計算】

直接作業者のアワーレート(人)= 直接作業者の労務費 年間就業時間 = 300万円 2,000時間 =1,500円/時間

直接製造費用=直接作業者のアワーレート(人)×製造時間=1,500×1=1,500円

間接製造費用

>この製品の間接費による製造費用 (間接製造費用)は3,000円でした。

間接製造費用は、間接費と直接費の比率 (間接費レート)から計算します。

間接費レートは、2でした。

【条件】
間接作業者労務費  300万円
工場の経費 300万円

【計算】

間接費合計 = 間接作業者労務費 + 工場の経費 = 300 + 300 = 600 万円

間接費レート= 間接費合計 直接費合計 = 600 300 = 2

間接製造費用は、3,000円でした。

【計算】

間接製造費用 = 間接費レート × 直接製造費用 = 2 × 1,500 = 3,000 円

この製品の製造費用は、4,500円でした。

【計算】

製造費用合計 = 直接製造費用 + 間接製造費用 = 1,500 + 3,000 = 4,500 円

製造原価は?

この製品の材料費は、1,500円

製造原価は6,000円でした。

【計算】

製造原価 = 材料費 + 直接製造費用 + 間接製造費用 = 1,500 + 1,500 + 3,000 = 6,000 円

この会社の年間の材料費は、1,500万円

年間の製造原価合計は1,200万円でした。

【計算】

年間の製造原価合計 = 材料費 + 労務費(直接+間接) + 工場経費 = 300 + 300 + 300 + 300 = 1,200 万円

この製品の販管費は?

製品1個の販管費は、製造原価に対する比率(販管費レート)で計算します。この販管費レートは、年間の製造原価と販管費から計算します。
これについては別の経営コラムで詳しく説明します。

この製品の販管費は1,500円でした。

【条件】
年間材料費 300万円
この会社の販管費 300万円
会社全体の製造原価 1,200万円

【計算】

販管費レート= 販管費 製造原価 = 300 1,200 = 0.25

製品1個の販管費 = 製造原価 × 販管費レート = 6,000 × 0.25 = 1,500 円

製品の利益と会社全体の利益

この製品の利益は、個2,500円でした。

【条件】
売価 1万円

【計算】

利益 = 売価 - 製造原価 - 販管費 = 10,000 - 6,000 - 1,500 = 2,500 円

会社全体では

利益500万円でした。

【条件】
年間販売量 2,000個
年間売上 2,000万円

【計算】
会社全体の利益

利益 = 売価 - 製造原価 - 販管費 = 2,000 - 1,200 - 300 = 500 万円

このようにすれば簡単に間接費を含んだ原価が計算できます。
そしてこれは会社全体の年間の原価、利益とも一致します。

4. もうひとつの計算方法

もうひとつの計算方法として、間接費を直接部門に分配して、間接費を含んだアワーレート(アワーレート間)を計算し、アワーレート間から原価を計算する方法があります。

アワーレート間を計算します。その結果

アワーレート間は、4,500円/時間でした。

【条件】
間接費合計 600万円
直接費  300万円
直接作業者の年間就業時間 2,000時間

【計算】

アワーレート間= (直接費+間接費) 直接作業者の年間就業時間 = (300+600)×10,000 2,000 = 4,500 /時間

間接費も含んだ製造費用 = アワーレート間 × 製造時間 = 4,500 × 1 = 4,500 円

同じ結果になりました。

5. 間接費を含んだ原価計算

こうすれば間接費を含んだ原価が簡単に計算できます。ポイントは

  • 直接製造費用に比例(間接費レート)して、間接製造費用を計算
  • 間接費レートは決算書の費用から計算すれば、費用はもれなく分配される(ただし今期の費用の比率は先期の決算と同様という条件)
  • 財務会計の間接費の分配も根拠は希薄だから、この方法でも問題ない

これは前述の1製品、直接1部門、間接1部門のシンプルな工場なら問題ありません。

現実に起きる問題

この考え方で実際の工場で間接費を含んだ原価を計算すると以下の2点の問題が起きることがあります。

  • 間接部門の関与が直接部門によって違うことがある
  • 直接部門によって、工場の経費への負担度合いが違うことがある
間接部門の関与が直接部門によって違う

現実の工場は様々な間接部門があります。例えば

  • 受入検査
  • 出荷検査
  • 生産管理
  • 品質管理
  • 資材管理

直接部門によっては、途中工程のため出荷検査がない、資材を使用しない現場もあります。それでも間接費レートで一律に直接製造費用から間接製造費用を計算すると、その現場の製造費用が高すぎてしまうことがあります。

工場の経費への負担度合いが違う

例えば、加工部門には多くの加工設備があり工場のスペースも多く占有しています。またクレーンやフォークリフトなど工場の資源を多く使用しています。対して組立部門は組立作業するスペースだけで、他には工場の資源を使用しません。その結果、同じ比率で間接製造費用を計算すると、組立部門の原価が高くなってしまいます。

財務会計では細かく工場の経費を分配するのですが、これとても手間がかかる割に分配は適正かというと不安になります。

間接費の分配を調整

そこで解決策として
【間接部門の関与が直接部門によって違う】
ことについては、間接部門の費用を分配する際に、一律でなく、関与する直接部門を選択して分配します。

【工場の経費への負担度合いが違う】
ことについてはそこで最終的には計算した間接製造費用を確認し、分配を調整します。

これは計算したアワーレート間を確認して、人が主体の直接部門がアワーレート間が高すぎれば間接費の分配を調整します。こういった操作のためには、「4. もうひとつの計算方法」で、間接費を直接部門に分配して、アワーレート間を計算する方法が使い易いです。

間接費の分配に正解はない

つまり間接費の分配は、論理的に計算する完全な方法はなく、どこかで調整が必要になります。ただし3.で述べたような直接部門が少なく、決まった製品しか作らない工場は、3.の簡単な方法でも問題はありません。

原価計算システム「利益まっくす」の調整機能

弊社の開発した原価計算システム「利益まっくす」は、こういった点から以下の調整機能があります。

  • 間接部門の費用は、関与する直接部門を個別に選択
  • 間接費用の分配は各直接部門への重みづけが設定可能

「利益まっくす」の詳細は以下からご参照いただけます

6. モデル企業の間接費と原価

それでは様々な間接部門がある場合はどうでしょうか?
多くの直接部門と間接部門があるモデル企業A社(架空)の間接製造費用と原価の計算を示します。

A社

売上 10億円
従業員 70人

A社の構成を図に示します。

図 A社の構成
図 A社の構成

NC旋盤の現場

直接部門 NC旋盤の現場の構成は以下の通りです。

図 NC旋盤の人の構成と費用
図 NC旋盤の人の構成と費用
図 NC旋盤の人の構成と費用
図 NC旋盤の人の構成と費用

構成】
作業者(全員直接作業者) 4人 
直接作業者 4人 
時間 2,100時間 (4人とも)
稼働率 0.8 (4人とも)

直接費のアワーレート(人)

直接費のアワーレート(人)は、3,050円/時間でした。

【計算】

直接費のアワーレート(人)= 直接作業者の労務費合計 (時間×稼働率)の合計 = 2,050×10,000 (2,100×0.8)×4 = 3,051 ≒ 3,050 円/時間

直接費のアワーレート(設備)

直接費のアワーレート(設備)は、940円/時間でした。

【構成】
直接製造設備 NC旋盤4台 
設備費用合計 633.6万円
時間 2,100時間 (4台とも)
稼働率 0.8 (4台とも)

【計算】

直接費のアワーレート(設備)= 直接設備の年間費用合計 (時間×稼働率)の合計 = 633.6×10,000 (2,100×0.8)×4 = 943 ≒ 940 円/時間

間接費の分配

間接費の分配は、485万円でした。

【条件】
間接部門は

  • 生産管理
  • 資材管理
  • 品質管理

間接部門の費用合計 1億1,575万円

工場の経費は

  • 電気代                
  • 水道光熱費       
  • 修繕費                
  • 賃借料                
  • 保険料                
  • 消耗品費            
  • 租税公課            
  • 保守料                
  • 雑費   
  • 減価償却費            

工場の経費合計は 8,573万円

ただし減価償却費、電気代の一部の直接費としてアワーレート(設備)の計算に含まれるので、その分は除外しています。

アワーレート間の計算

アワーレート間(人) 3,770円/時間
アワーレート間(設備) 1,670円/時間

間接費の分配 970万円
これを人と設備に分配してアワーレート間を計算します。

アワーレート間(人)= (直接作業者の労務費合計+間接費) (時間×稼働率)の合計 = (2,050+485)×10,000 (2,100×0.8)×4 = 3,772 ≒ 3,770 円/時間

アワーレート間(設備)= (直接設備の費用合計+間接費) (時間×稼働率)の合計 = (633.6+485)×10,000 (2,100×0.8)×4 = 1,665 ≒ 1,670 円/時間

間接費を分配したことで
アワーレート(人)は、1.2倍、
アワーレート(設備)は、1.8倍
に増加しました。

原価計算

A1製品(架空)の原価を計算します。

図 A1製品の原価
図 A1製品の原価

【条件】
材料費 300円
段取時間 0.5時間
加工時間 0.1時間
ロット 100個

製品1個の製造時間計算

1個の製造時間= 段取時間 ロット数 +加工時間= 0.5 100 =0.105 時間 

直接製造費用の計算

直接製造費用は、419円でした。

【条件】
人と設備が一緒に製造(1人1台持ち)

アワーレートは人と設備の合計になります。

【計算】

アワーレート = アワーレート(人) + アワーレート(設備) = 3,050 + 940 = 3,990 円/時間

製造費用 = アワーレート × 製造時間 = 3,990 × 0.105 = 419 円

間接製造費用を含んだ製造費用の計算

アワーレート間(人) 3,77 0円/時間

アワーレート間(設備)  1,670 円/時間

間接費を含んだ製造費用 571円でした。

【計算】

アワーレート = アワーレート(人) + アワーレート(設備) = 3,770 + 1,670 = 5,440 円/時間

製造費用 = アワーレート × 製造時間 = 5,440 × 0.105 = 571円

差 = 571 - 419 = 152 円

間接費を含んだことで、152円高くなりました。

材料費が300円なので、

製造原価 = 300 + 571 = 871 円

【計算】

アワーレート = アワーレート(人) + アワーレート(設備) = 3,772 + 1,665 = 5,437 円/時間

製造費用 = アワーレート × 製造時間 = 5,437 × 0.105 = 571 円

まとめ

  • 中小企業は複雑な財務会計上の原価計算より、意思決定に役立つ原価情報が必要
  • 意思決定に役立つ原価情報は見積原価と実績原価の把握
  • 間接費を直接費の比率で計算すれば原価計算は簡素化できる
  • あるいは間接費を含むアワーレートを計算する方法もある
  • 間接部門によっては、製造部門への関与度合いの考慮が必要
  • 間接費の分配に完璧な方法はない。実際は調整が必要なこともある

では販管費はどう考えたらいいのでしょうか。
これについては、販管費とは?見積と利益にどう影響するのか を参照願います。

次に読む

間接費の範囲が分かったら、次は会社全体にかかる費用が見積や利益にどう影響するかを確認します。

販管費とは?見積と利益にどう影響するのか

原価だけを見ていると、会社全体の費用が見えません。
見積と利益に影響する販管費の考え方を確認します。

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