6. 人のアワーレートの計算方法(2)実務での考え方

このコラムの概要

アワーレート(人)とは、現場で働く人の1時間あたりの人の費用で、賃金以外に稼働率や雇用形態、賞与・退職金・有給・入退社といった要素によって大きく変動します。また派遣社員やアルバイト、間接作業者・管理者の費用も適切に取り込む必要があります。アワーレート(人)の計算は決算書を活用して工場全体の平均アワーレートから計算することもできます。

前回の「アワーレート(人)とは?その1」では、人の1時間あたりの費用としてのアワーレートと、時給との違いを解説しました。アワーレート(人)は単なる賃金だけでなく、稼働率や雇用形態により大きく変動するのが特徴です。
今回は、実際の現場でアワーレート(人)を計算する際に直面する疑問と、その対処法について具体的に紹介します。

アワーレート(人)の計算に関する疑問

人の費用はどこまで含めるのか?

賃金台帳などから社員ごとの年間費用と年間労働時間が把握できれば、アワーレートは容易に算出できます。しかし実務では、賃金台帳の開示が難しい場合も少なくありません。


その場合は、工場全体の平均アワーレート(人)を算出します。この際、決算書の「製造原価報告書」を活用し、以下のような費用を含めて計算します。

  • 賃金
  • 賞与
  • 退職金
  • 法定福利費
  • 福利厚生費(※ただし保養所契約や宿泊補助など、生産と直接関係のない費用は除外)
  • 雑給(アルバイト等)
  • 工賃(外注作業)
  • 派遣労務費(派遣社員の費用)

現場で作業する正社員・パートのほかに、派遣社員・アルバイト・請負(外注)がいれば、これらもアワーレートに含めます。
ただし、福利厚生費のうち「保養所の契約」や「宿泊補助」など生産と直接関係しない費用は除外しましょう。

派遣社員・社内外注・アルバイトの費用

正社員・パートだけでなく、派遣社員・アルバイト・請負(外注)作業者も直接作業に従事していれば、アワーレートに含めます。これらの費用は「労務費」ではなく「製造経費」に分類されていることもあります。また外国人技能実習生の管理費なども労務費に含めます。

人件費の変動への対応

賞与と退職金

賞与や退職金は特定月に集中して発生します。年間平均で計算する場合は、これらを含めて問題ありません。
一方、月次でアワーレート(人)を算出する場合は、賞与・退職金引当金を使って各月に按分するか、実績や見込額を基に月割りする必要があります。

入退社の影響

実際には社員数は1年を通じて一定ではありません。増減がある場合、年間の労務費と就業時間を合計して平均を出すのが現実的です。入退社の影響でアワーレート(人)が変わることを認識し、必要に応じて補正しましょう。

図 入退社があった場合
図 入退社があった場合

有給休暇の影響

有給取得が進む工場も増え、年間で一定の有給を取得する場合、取得日数分だけ就業時間が減少します。有給休暇を取得すると、賃金は変わらず就業時間が減るため、アワーレートは上がります。有給取得日数が多い現場は、年間就業時間は必ず有給を考慮した実際に就業した時間でアワーレート(人)を計算します。

図 有給の影響
図 有給の影響

アワーレート(人)はどの期間で計算すべきか

年間平均

工場管理のための原価計算の目的は以下の2つです。

  1. 見積金額の妥当性を判断
  2. 実際の利益を分析し改善点を探る

そのため、原価の基準となるアワーレート(人)は年間で固定するのが基本です。アワーレートを毎月変えると、利益変動の要因分析が難しくなります。

月平均

月次決算を行う工場では、毎月のアワーレートを計算する必要があります。

  • 作業者ごとの労務費と就業時間から計算
  • 工場全体の労務費と就業時間から平均を計算

どちらの方法でも、賞与や退職金は月割りにし、入退社の影響にも注意します。

直接費と間接費の扱い

直接作業者と間接作業者

直接作業者は製品を実際に製造する人です。他に現場には準備・片付け・書類管理などの業務をする間接作業者もいます。
現場に間接作業者がいる場合、アワーレート(人)の分母には直接作業者の就業時間のみを含め、分子には直接・間接作業者の労務費を合算します。

平均アワーレート(人)= 直接作業者の労務費 + 間接作業者の労務費 直接作業者の就業時間 × 稼働率


ある現場の直接作業者は4名

  • 若手社員a1、a2 400万円
  • 中堅社員b  550万円
  • ベテランc 700万円

4人とも年間就業時間2,100時間、稼働率0.8とします。

総人件費 = 400 + 400 + 550 + 700 = 2050 万円
(就業時間×稼働率)の合計 = 2,100 × 0.8 × 4 = 6,720 時間

平均アワーレート(人)= 2,050万円 6,720時間  = 2,051 ≒ 2,050円/時間

この現場には、間接作業者としてパート社員が1名いました。
間接作業者(パート社員) の年間労務費は、105万円

図 平均アワーレート(人)
図 平均アワーレート(人)

平均アワーレート(人)= 直接作業者の労務費 + 間接作業者の労務費 年直接作業者の就業時間 × 稼働率 = (2,050+105)×10,000 6,720 = 3,207 ≒ 3,200 円/時間

間接作業者が増えたことでアワーレート(人)は、150円/時間増加しました。

直接部門と間接部門

工場には、製品を製造する直接部門以外に、生産管理、品質管理など事務的に業務を行う間接部門があります。
間接部門の費用は、間接費用として直接部門に振り分けます(会計では配賦と呼ぶ)。この間接費用の振り分けについては別のコラムで解説します。

管理専任者

現場に課長など管理専任者がいる場合、専任管理者の労務費はアワーレートに含め、分母には就業時間を含めません。

平均アワーレート(人)= 直接作業者の労務費合計+間接作業者の労務費合計+管理者費用 (直接作業者の就業時間×稼働率)の合計

先の現場に管理専任者1名がいる場合、

管理専任者の労務費 700万円

図 管理専任者がいる場合
図 管理専任者がいる場合

平均アワーレート(人)= (2,050+105+700)×10,000 6,720  =4,249 ≒ 4,250 円/時間

管理専任者が1名増えたことでアワーレート(人)は、1,200円/時間増加しました。
実際は、管理専任者は複数の現場を管理することもあります。その場合は管理専任者の費用を分割して現場の費用に加えます。

プレイングマネジャー

プレイングマネジャー(作業と管理を兼任する管理職)は、就業時間のうち実際に作業している比率だけ分母に加えます。
例えばプレイングマネジャーの時間の50%が生産活動の場合

図 プレイングマネジャーの場合
図 プレイングマネジャーの場合

平均アワーレート(人)= 直接作業者の労務費合計+間接作業者の労務費合計+管理者費用 (直接作業者の就業時間×稼働率+プレイングマネジャーの就業時間×0.5×稼働率)の合計

(就業時間×稼働率)の合計 = 2,100 × 0.8 × 4 + 2,100 × 0.5 × 0.8 = 7,560 時間

平均アワーレート(人)= (2,050+105+700)×10,000 7,560  = 3,776 ≒ 3,780 円/時間

管理専任者に比べてプレイングマネジャーはアワーレート(人)が、470円/時間下がりました。

稼働状況の変動

現場によって実際の稼働率は異なります。実際の値は、大量生産の作業者で90~95%、多品種少量生産の現場ではこれより低くなります。

稼働率= 生産時間 就業時間

稼働率を正確に把握するのは困難ですが、代表的な作業者をサンプリングし概算値を算出するのが現実的です。実際に日報を詳細に記録していない現場も多く、IoT機器などで自動化できていれば理想です。

直接時間と間接時間(日報)

日報を細かくつけている場合、「生産していない時間(非稼働時間)をどう考えるか」で稼働率が変わります。例えば、

  • 生産時間
  • 段取時間
  • 一時的な停止(30分以内 : チョコ停)
  • 長時間の停止(例 設備トラブルなど)
  • 計画的停止 受注がなく、計画的な生産停止
  • 日報に入れていない時間

数値例

内容時間(h)
生産時間4
段取時間1
一時停止0.1
長時間の停止0.9
計画的な停止1
日報未記録時間1

この中で「長時間の停止を原価とするかどうか」で稼働率が変わります。

長時間停止を原価に含める

原価が高くなるので、改善する。

稼働率= 6 8 =75%

長時間停止を原価に含めない

長時間停止は稼働率の低下として改善する。

稼働率= 5.1 8 =63.75%

どこまでを「稼働」とみなすかは原価計算の方針によります。

季節変動

暖房器具や熱中症対策商品のように冬や夏に需要が集中する製品は、繁忙期と閑散期で工場の稼働状況が変わります。稼働率も変わるため、月ごとで見ればアワーレート(人)が大きく変動します。

  • 年間平均アワーレート:安定性重視、原価のものさしに使う
  • 月平均アワーレート:正確な月次原価計算に使う

年間での利益計算には、年間アワーレート(人)をベースにしましょう。

まとめ

  • アワーレート(人)は賃金だけでなく稼働率などの要因で大きく変動する。
  • 決算書を活用すれば、賃金台帳がなくても工場全体の平均アワーレートを算出可能。
  • 賞与・退職金・有給・入退社などの変動にも対応した計算が必要。
  • 管理者や間接作業者の取り扱いも明確にし、就業時間(分母)と労務費(分子)を適切に整理する。
  • 稼働率の定義によりアワーレートは変動するため、現場の実態に即した基準の設定が重要。

以上が、実務に即したアワーレート(人)の計算方法とその留意点です。「間接費の配賦」や「稼働率改善の取り組み」については、別のコラムで解説します。

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