製造業の個別原価計算13 「なぜ実績原価が必要なのか?見えない赤字の例」

製造業は、最初に受注するために見積をつくりますが、その際に個別原価が必要です。
 
この個別原価の計算には、人や設備のアワーレート、間接製造費用や販売費及び一般管理費の比率が必要です。これらを予め計算し、見積もった製造時間から個別原価を計算します。
 
その見積を元に顧客と価格交渉を行い、受注すれば製造します。そして完成すれば、実際の製造時間から実績原価を計算し、予定していた利益が出ているか確認します。

 
この個別原価の計算方法については、
製造業の個別原価計算11 「個別原価の計算方法と見積金額の出し方」
に詳しく書かれています。
 

またアワーレートの決め方については、
製造業の個別原価計算7 「アワーレートはいくらだろうか?人件費について」
製造業の個別原価計算9 「アワーレートはいくらだろうか?設備のレートについて」
に詳しく書かれています。
 

実際には実績時間の記録と実績原価の計算を行っていない工場も多くあります。

現実には個々の見積では利益が出ているのに、決算を締めると思ったよりも利益が出ていない、あるいは赤字になってしまう会社があります。
 
図1 決算を締めると…
図1 決算を締めると…
 

なぜそうなるのでしょうか?
 
それは実際に製造する際に原価を引き上げる要因があるからです。しかもこれは実績原価を調べないとわからないことが多く、私はこれを見えない赤字と呼んでいます。

では、どのようなものが見えない赤字なのでしょうか?
 
以下に3つ例を示します。
 

製造ロットの減少

 

例えば、機械加工のA社がある製品を100個受注しました。

この製品の材料費は500円

1個の加工時間は1時間、段取時間は2時間と見積しました。 
 
A社のアワーレートは、機械と作業者合わせて4,000円/時間でした。
 
A社の直接製造費用に対する間接製造費用の比率(間接費レート)は、0.2でした。
 
(直接製造費用とは、製品の製造に直接かかわる作業者や設備などの費用です。
間接製造費用は、人や設備以外に物流や受入などの間接作業者の人件費や、消耗品や光熱費など工場の稼働に必要な費用です。工場によっては間接製造費用が直接製造費用の10~30%かかることもあります。
販管費は、販売費及び一般管理費のことで事務や営業の人件費、事務所の経費など製造に関与しない費用のことです。製造原価に対する販管費の比率は会社によって異なりますが、製造原価の15~30%ほどかかることが多いようです。)

この間接製造費用と販管費については
「造業の個別原価計算10 「間接費用は労働生産性に影響するのか?」
に詳しく書かれています。
 
A社の製造原価に対する販管費の比率は、0.25でした。
 
見積原価に対する利益率は、0.10でした。

(製造原価と販管費を足したものをここでは「見積原価」と呼びます。見積をつくる際は見積原価に必要な利益を加えます。これは予め見積原価に対する利益率を計算しておき、個々の見積原価にこの利益率をかけて計算します。)
 
この製品の見積は、
 
製造時間=段取時間/ロット数+加工時間
=2/100+1=1.02 (時間)
 
直接製造費用=アワーレート×製造時間
=4,000×1.02=4.080 (円)

製造時間が1.02時間なので、製造に直接かかわる人と設備の費用は4,080円です。
 

間接製造費用=直接製造費用×販管費レート
=4,080×0.2=816 (円)

4,080円の直接製造費用に対して、これにかかる間接製造費用は816円です。
 

製造原価=材料費+直接製造費用+間接製造費用
=500+4,080+816=5.396 (円)

直接製造費用と間接製造費用に材料費を加えたものが製造原価です。
 

販管費=製造原価×販管費レート
=5,396×0.25=1,349 (円)

5,396円の製造原価に対して、これにかかる販管費は1,349円です。
 

見積原価=製造原価+販管費
=5,396+1,349=6,745 (円)

その結果、製造原価に販管費を加えた見積原価は、6,745円でした。
 

目標利益=見積原価×見積原価利益率
=6,745×0.1=675 (円)

6,745円の見積原価に対し、目標利益は675円でした。
 

見積金額=見積原価+目標利益
=6,745+675=7,420 (円)

その結果、顧客に提出する見積金額は、7,420円になります。
 

この見積を元に顧客と価格交渉を行い、実際の受注金額が7,200円でした。
 
これは目標利益には届きませんでしたが、1個当たり455円の利益がありました。

製造ロットが10個に減少

ところが顧客から、どうしても今月中に10個欲しいと言われ、10個だけ生産することになりました。この時の原価と利益はどうなったでしょうか?
 
製造時間=段取時間/ロット数+加工時間
=2/10+1=1.2 (時間) +0.18時間
 
直接製造費用=アワーレート×製造時間
=4,000×1.2=4.800 (円) +720円
 

間接製造費用=直接製造費用×販管費レート
=4,800×0.2=960 (円) +144円
 

製造原価=材料費+直接製造費用+間接製造費用
=500+4,800+960=6.260 (円) +864円
 

販管費=製造原価×販管費レート
=6,260×0.25=1,565 (円) +216円
 

見積原価=製造原価+販管費
=6,260+1,565=7,825 (円) +1,080円
 

実際の受注金額が7,200円なので、
 
利益=7,200-7,825=-625 (円)
 
となり、625円の赤字になってしまいました。
 
このロットの減少で怖いのは、赤字になっていても現場の担当者は気づかないことです。
 
今まで1個7,200円で受注しているので、ロットが減少しても受注金額は変えられないと現場は思っています。そしてロットが減少したため、段取時間の割合が増えて、生産効率が落ちていると感じていても、それが赤字の原因とは現場は思いません。その結果、誰も声を上げず赤字が放置されてしまいます。
 
もし実績原価を集計していて、625円の赤字が分かれば、問題が経営者にも伝わり、価格の交渉や納入ロットの見直し等のアクションを行うようになります。
 

イニシャル費の回収

 
生産に先だって金型や治工具の準備が必要な製品は、生産の前に金型代や治具代などの費用が発生します。これをイニシャル費と呼びます。イニシャル費は他にも、設計やプログラムなどの費用があります。
 
これらのイニシャル費を生産開始前に金型費として顧客が払ってくれれば問題はありません。

しかし金型費として一括で払うと、金型や治工具が顧客の資産になります。そこで一定期間製品価格に金型代を上乗せして支払う場合があります。
(自動車業界では、製品に上乗せすると月々の生産数によって金型代の支払いが変動するため、24か月の均等分割払いにするところが多いです。)
 
この場合、受注する側は金型費が回収できるまで、累計受注数を記録しなければなりません。一方発注側も金型費が回収できれば発注価格を引き下げるため、累計発注量を監視しなければなりません。このようにどちらに取ってもイニシャル費を分割で支払う方法は面倒な方法です。
 
ここで先のA社の製品に300万円の加工治具が必要だったとします。顧客からは、毎月1,000個、2年間で24,000個の発注予定が提示され、2年間治具費を製品の発注価格に上乗せすることにしました。
 
この場合、製品1個当たりの治具代は、
3,000,000/24,000=125 (円)
 
上の例題でロット100個の場合、製造原価5,396円なので、これに治具代125円を加えて、=5,396+125=5,521 (円)
 
販管費=5,521×0.25=1,380 (円)
 
見積原価=5,521+1,380=6,901 (円)
 
受注金額は、同じ7,200円とします。
 
利益=7,200-6,901=299 (円)
 
となって、299円の利益です。
 

途中で生産が打ち切られた場合

ところが2年間の予定が6か月で生産が打ち切られました。
 
これ以上イニシャル費が支払われなかった場合、原価はいくらになるのでしょうか?
 
この場合、製品1個当たりの治具代は、
3,000,000/6,000=500 (円) +375円
 

製造原価5,396円に治具代500円を加えて、
=5,396+500=5,896 (円) +375円
 

販管費=5,896×0.25=1,474 (円) +94円
 

見積原価=5,896+1,474=7,370 (円) +469円
 

受注金額は、同じ7,200円とすると、
 
利益=7,200-7,370=-170
 

となって、170円の赤字となってしまいます。
 
従ってイニシャル費を製品に乗せて回収する場合、どこかの部署が累計受注数を記録し、イニシャルが回収できたかどうかを確認する必要があります。
 
実際は、このように顧客の方から明確に製造中止と言ってこない場合もあります。あるいは受注はあっても当初予定の数量よりもずっと少ない場合もあります。
 
その場合は、2年経過した時点で回収できたイニシャル金額を計算し、残りは一括で支払ってもらうように交渉します。(もし顧客が応じない場合、顧客は下請法に抵触する恐れがあります。)
 

不良によるロスの影響

 
不良のために製品を廃棄すれば、その分の損失が生じます。例えば、先の例で100個ロットを製造した際に1個不良が生じたら、利益はどのように変わるでしょうか?
 
先の例では、ロット100個の場合、1個の製造原価は5,396円、見積原価6,745円でした。
 
この製品は難易度が高いので、不良を見込んで現場は101個を製造しました。最終検査で不良が1個出てしまいましたが、100個を出荷することができました。
 

この時の利益は、
売上金額=受注単価×個数
=7,200×100=720,000円
 
原価=見積原価×個数
=6,745×101=681,245円
 

利益=売上金額-原価
=720,000-681,245=38,755円
 
1個当たりの利益=38,755/100=389円
 

当初予定していた製品1個の利益は455円なので、1個不良が発生したことで1個当たりの利益が389円と、66円低下しました。
 
このように不良は工場の利益を大きく減少させるため、現場の管理者は常に品質に気を配り、不良を減らさなければなりません。
 
しかし中には顧客から図面に記載されていないような内容を要求され、不良とされる場合があります。特にキズや色ムラなど外観に関するものは、図面や仕様書で明確に規定することが難しく、その判定も人の感覚によることが多いため、本来は不良でないものが不良とされることがあります。
 
そして現場の担当者は顧客の要求を受け入れ、不良と思われる製品を除外するため、不良率が上がり赤字が積みあがっていきます。この場合、不良による損失金額を明確にし、問題になるような金額であれば顧客と交渉します。不良がすでに合意された仕様によるものか、新たな要求なのか明らかにし、新たな要求であれば価格の見直しを求めます。
あるいは、元々の要求であっても、それを実現するには歩留まりが下がり原価が上がることを数字で説明して価格の交渉を行います。顧客の担当者が高い品質を要求すれば原価が上がることを理解してなく、自己保身的な考えから無理な要求を押し付けていることもあります。
 

実績原価のモニターは、経営状況を把握する重要なメーター

 
かつてのように受注がどんどん増えていて、それに合わせて生産量を増やしている時代は、工場の管理は出来高と稼動率の監視が重視されていました。
 
しかし国内の製造業の市場が伸びなくなった今日では、いくら稼働率を高めて生産量を増やしても見えないところで赤字を出していては、会社全体の目標利益の達成は望めません。これからは受注金額に対して実績原価をモニターし、個々の製品が確実に利益を上げるような管理が重要です。
 
そのためには、個別原価を計算する仕組みと、実績原価を把握する仕組みが必要です。これは航空機のコックピットの計器に相当します。例えば夜間飛行中の航空機は計器がなければ、機が上昇しているのか、下降しているのか分かりません。同様に企業も個別原価がわからなければ、利益が出ているのか、赤字が増えているのか分かりません。しかし個別原価により製品毎、顧客毎に赤字か黒字か分かれば、自社の経営状況が把握できます。
 

利益まっくす

 
弊社では、中小・小規模企業でも容易に個別原価の仕組みが構築できる方法「利益まっくす」を開発しました。この利益まっくすの詳細はこちらの冊子に詳しく書かれています。
 

 

《ご案内》

◆経営コラム 経営コラム 製造業の経営革新 ~30年先を見通す経営~◆

ものづくり企業の「30年先の経営」を考えるヒントとして、企業経営、技術の進歩、イノベーションなどのテーマを定期的に更新しています。

メルマガのハックナンバーについては、こちらをご参照ください。

 
こちらにご登録いただきますと、更新情報のメルマガをお送りします。

(登録いただいたメールアドレスは、メルマガ以外には使用しませんので、ご安心ください。)


 

◆未来を考えるワンコイン経営勉強会「未来戦略ワークショップ」◆

毎月第3日曜日 9:30~12:00 経営の失敗事例やイノベーションについて学ぶ有志の勉強会「未来戦略ワークショップ」を開催しています。

詳細は、こちらをご参照ください。

申込みは前日までに電話か、お問合せよりお申し込みください。

 

◆ニュースレター「モノづくり通信」◆

ものづくりや技術、イノベーションについて、弊社ニュースレター「モノづくり通信」を発行しています。

詳細は、こちらをご参照ください。

モノづくり通信の発行は、弊社メルマガでご案内しています。

こちらにご登録いただきますと、更新情報のメルマガをお送りします。
 
 


ページ上部へ▲

メニュー