製造業の個別原価計算 24 段取とロット数の原価への影響

弊社の「利益まっくす」は、段取費用と加工費用をそれぞれ計算して、その合計から個別原価を計算します。そのため段取時間も稼働時間に含めています。しかし段取時間は稼働時間に含めないやり方もあります。
 

「利益まっくす」が段取時間を稼働時間に含めて個別原価を計算する理由は、ロットの大きさが変わった時の製造原価の違いを明らかにするためです。
 

ロットが小さくなれば原価は上昇します。これは段取時間の長さやロットの大きさにより変わります。そのため、段取時間やロットの大きさが変わった場合は、個別原価を確認する必要があります。
 

そこで本コラムでは、ロットの違いによる個別原価の違いを計算します。
 

実は一般的に段取と呼ばれている作業には、2種類あります。
 

2種類の段取作業

ひとつは「品種の切替」、もうひとつは「新たな製品の生産準備」です。それぞれの作業内容は大きく違います。
 

品種の切替

生産中の製品を「すでに実績がある別の製品に切り替える」ことです。
 

作業内容は、例えば機械加工では、加工プログラムの切替、刃物の交換、加工治具の準備や設定値の入力などです。
 

樹脂成形加工では金型の交換や樹脂原料の入れ替え、射出成形機の設定などです。
 

プレス加工は金型の交換や材料の入れ替えです。
 

段取が終わったら、生産した製品の品質確認を行います。製造条件の調整が必要な場合は条件を変更します。品質に問題がなければ段取作業は終了です。
 

新たな製品の生産準備

「今まで全く実績のない製品の生産準備」です。
 

例えば、機械加工では「品種の切替」での作業にプラスして、加工プログラムの作成やテスト加工も行います。単品生産や多品種少量生産は、毎回生産するものが異なるため、日常の段取はこの「新たな製品の生産準備」です。
 

一方プレス加工、樹脂成形加工など量産加工では、全く実績のない製品の生産準備は多くありません。そのため日常の段取の多くが「品種の切替」です。プレス加工、樹脂成形加工では新たな製品の生産準備は「段取」と呼ばず「生産立ち上げ」や「生産準備」と呼ぶこともあります。
 

段取で必要なこと

同じ段取でも「品種の切替」と「新たな製品の生産準備」では作業量や作業の難易度が異なります。
 

どちらにしても段取中生産できないため、生産性を高めるには段取回数の削減と段取時間の短縮が必要です。一方「品種の切替」と「新たな製品の生産準備」では段取時間を短縮するための取組が異なります。
 

「品種の切替」では、製造条件はすでに確立しているので、段取の手順は決まっています。そのため生産性を上げるには、この決まった手順をできる限り短い時間で行うようにします。そのため目標時間を決めて段取時間をストップウォッチ測ったりして、段取時間の短縮を行います。
 

「新たな製品の生産準備」では、製造条件はまだ決まっていないため、段取の間に適切な加工条件を決定し、安定した品質で生産できるようにします。最初にテスト加工を行って品質が良いか確認します。段取作業は時間よりも作業の正確さと加工条件の適切さが重要です。
樹脂成形やプレス加工などの量産では、一度生産が始まれば短時間に大量の製品ができてきます。そのため最初の設定が適切でないと大量に不良を生産してしまいます。
 

一方単品加工や多品種少量生産では、日々新たな製品の生産準備を行っています。つまり段取は日常の生産活動です。従って正確さと同時に短時間で行うことも求められます。
 

このように段取はスピードと適切さという相反する要求があります。それでは段取を生産中にできるようにしたらどうでしょうか?
 

生産中に段取を行う「外段取」

 

段取回数が多いと、段取は生産性を大きく低下させます。そこで段取による設備の停止時間を短くするために、設備を止めずに生産中に段取作業の一部を行います。
 

例えば、プレス加工や樹脂成形は、生産中に次の生産の金型を設備の近くに予め運んでおきます。樹脂成形では金型をすぐに使えるように、ヒーターで予め金型の温度を上げておきます。
 

  • こうした生産中に次の段取を行うことを「外段取」と呼びます。
  • これに対して、設備を止めて行う段取を「内段取」と呼びます。

 

段取作業の一部を「外段取化」すれば段取時間を短くできます。
 

ワーク脱着の外段取化「パレットチェンジャー」

例えば、旋盤はワークの着脱が自動化しやすい設備です。
 

チャックと呼ばれる装置でワークを固定しますが、このチャックに駆動装置をつければ自動でワークの着脱を行うことができます。これにロボットでワークの取り付け、取り外しを行えば無人加工ができます。こうした自動化したNC旋盤は多くの大量生産の工場で使われています。
 

マシニングセンタはワークの形状が様々なものが多く、NC旋盤のように1つのチャックで様々なワークに対応するのが困難です。そこでパレットと呼ばれる治具にワークを固定します。このパレットを自動で交換して無人加工を行います。このパレットを自動で交換する装置をパレットチェンジャーと呼びます。
 

図1 パレットチェンジャー

図1 パレットチェンジャー


 

パレットからのワークの着脱は機械が他のワークを生産中に人が行います。パレットには様々なワークを取り付けられ、多くのパレットを取付けることができるマシニングセンタは、一晩中、無人で生産できます。
 

段取の原価への影響

段取時間が長くなれば、その分原価が上昇します。また製品1個の段取費用は、1回の段取費用を1回の生産ロットの数で割るため、生産ロットが小さくなれば製品1個の段取費用は増えます。
 

それではロットが変わると原価はどのくらい変わるのでしょうか?
 

中小ロットのロットの変更による影響~機械加工A社~

機械加工A社はA1製品をマシニングセンタで生産しています。
 

A1製品のロット数は100でした。
 

これがある時、顧客の要求で急遽ロット20で製造することになりました。
 

原価はどれだけ変わるでしょうか?
 

A社のマシニングセンタは作業者が常に設備を操作する有人加工です。そのため、段取と加工のどちらも人と設備の費用が発生します。
 

アワーレートは
アワーレート(人)  3,930円/時間
アワーレート(設備)  2,070円/時間
でした。
 

加工時間は0.3時間(18分)でした。
 

段取時間は1時間でした。
 

1個あたりの段取時間は
ロット100
段取時間=1/100=0.01時間 (36秒)
ロット20
段取時間=1/20=0.05時間 (3分)
でした。
 

段取費用は
ロット100
段取費用(人)=3930×0.01=39円
段取費用(設備)=2070×0.01=21円
合計 60円
 

ロット20
段取費用(人)=3930×0.05=197円
段取費用(設備)=2070×0.05=104円
合計 300円
でした。
 

加工費用は、ロット100、ロット20ともに
加工費用(人)=3930×0.3=1,180円
加工費用(設備)=2070×0.3=620円
合計 1,800円
でした。
 

ロットが100から20になったことで、段取費用は60円から300円と240円増加(5倍)しました。
 

段取費用、加工費用を合計した製造費用は
ロット100
製造費用=60+1800=1860円
ロット20
製造費用=300+1800=2100円
 

製造費用はロット100に対してロット20では240円増加(+13%)しました。
 

このA1製品の材料費は1,760円でした。
 

また販管費レートは19%でした。
 

従って販管費は
ロット100
販管費=(1760+1860)×0.19=690円
ロット20
販管費=(1760+2100)×0.19=740円
でした。
 

材料費、製造費用、販管費を合計した見積原価は
ロット100
見積原価=1760+1860+690=4310円
ロット20
見積原価=1760+2100+740=4600円
 

見積原価は290円上昇しました。
 

受注金額は4,400円でした。利益は
ロット100
利益=4400-4310=90
ロット20
利益=4400-4600=▲200
でした。
 

ロット100では90円の利益があったものが、ロット20では200円の赤字になりました。
 

ロット100のような比較的小さなロットでは、ロットが変わると1個あたりの段取時間が大きく変化します。その結果、製造原価も大きく変わります。そのため、このような比較的小さなロットは、ロットの大きさが変わった時は原価の変化を必ず計算します。
 

大ロットのロットの変更による影響~樹脂成形B社~

大量生産の比較的大きなロットが変化した場合の原価への影響はどうでしょうか?
 

樹脂成形加工B社のB1製品について比較します。
 

B社の成形機はローダーと呼ばれるロボットがついていて、成形した製品は自動で取り出すことができます。そのため生産中作業者は設備を直接操作しない無人加工です。従って生産中は設備の費用のみ発生します。
 

アワーレートは
《段取》
アワーレート(人)  3,320円/時間
アワーレート(設備)  1,030円/時間
《加工》
アワーレート(設備)  1,500円/時間
でした。
 

段取と加工でアワーレート(設備)の値が異なるのは、段取(人と設備)と加工(無人加工)で間接製造費用の分配が異なるためです。
 

製造時間は
加工時間0.0083 (30秒)
段取時間1時間
でした。
 

通常はロット8,000個で生産していますが、急遽顧客の要請で500個生産することになりました。その結果、原価はどう変わったでしょうか?
 

1個あたりの段取時間は
ロット8000
段取時間=1/8000=0.000125時間 (0.45秒)
ロット20
段取時間=1/500=0.002時間 (7.2秒)
でした。
 

段取費用は
ロット8000
段取費用(人)=3320×0.000125=0.42円
段取費用(設備)=1030×0.000125=0.12円
合計 0.54円
 

ロット500
段取費用(人)=3320×0.002=6.64円
段取費用(設備)=1030×0.002=2.06円
合計 8.7円
でした。
 

1個あたりの段取時間が短いので、段取費用も小さな金額です。
 

加工費用は、ロット8000、ロット500ともに
加工費用(設備)=1500×0.0083=12.5円
でした。
 

ロットが8000から500になったことで、段取費用は0.54円から8.7円と8.16円増加(16倍)しました。
 

段取費用、加工費用を合計した製造費用は
ロット8000
製造費用=0.54+12.5=13円
ロット500
製造費用=8.7+12.5=21.2円
 

製造費用はロット8000に対してロット500では8.2円増加(+63%)しました。
 

B1製品の材料費は35円でした。
 

また販管費レートは13%でした。
 

従って販管費は
ロット8000
販管費=(35+13)×0.13=6.1円
ロット500
販管費=(35+21.2)×0.13=7.1円
でした。
 

材料費、製造費用、販管費を合計した見積原価は
ロット8000
見積原価=35+13+6.1=54円
ロット500
見積原価=35+21.2+7.1=63円
 

見積原価は9円上昇しました。
 

受注金額は58円でした。利益は
ロット8000
利益=58-54=4
ロット500
利益=58-63=▲5
でした。
 

ロット500個では5円の赤字になりました。(この赤字には販管費も含まれています。)
 

製造ロットが500個に減少すると製造費用は21.2円とロット8,000個の2倍近くになります。加工は設備の費用のみですが、段取は設備と人の費用が発生するため、段取時間の増加は製造費用を大きく増加させます。
 

一方1時間の出来高を比較すると
ロット8,000
加工時間66.4時間 段取時間1時間 合計67.4時間
1時間の出来高=8000/67.4=119個
ロット500
加工時間4.2時間 段取時間1時間 合計5.2時間
1時間の出来高=8000/67.4=96個
 

ロット8000からロット500に減少すると1時間の出来高も118個から96個(20%)減少します。そのため時間当たりの稼ぐ力も低下します。
 

このように大量生産においても、ロットの大きな変化は原価が上昇します。加えて生産時間の中でその大半が段取時間となり、1時間の出来高も減少します。
 

こういった製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。

 

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