昨年あたりから急速にマスコミに登場したRPA (Robotic Process Automation)、ホワイトカラーの生産性が大幅に向上し、事務部門において大幅な省人化やコストカットの実績が報告されています。その成果を聞いて、導入を決定した企業も多くあります。
このRPAはどのようなものでしょうか?
そして本当にそのような大幅な効率アップが実現するのでしようか?
このRPAについて、調べました。
RPAとその特徴
RPAとは
RPAとはRobotic Process Automationの略で、事務作業を人に変わってソフトウェア・ロボットを用いて自動化することで、事務作業の効率化を図るものです。ここでソフトウェア・ロボットとは何でしょうか?
ロボット(robot)とは、人の代わりに何等かの作業を自律的に行う装置、もしくは機械のこと(ウィキペディアより)です。この定義だと、装置もしくは機械を指しますが、今日では、物体としては存在しないが「人の代わりになんらかの作業を、ある程度の工程や手順を自動的行うもの」という意味で、コンピューター言語によるプログラムやソフトウェアもロボットの範疇に含まれます。そこでRPAもロボットとされています。
RPAの3段階
このRPAの中に認知技術(ルールエンジン・機械学習・人工知能等)を活用したロボットで、人間を補完して業務を遂行できる仮想知的労働者(Digital Labor)を指す場合もあります。ソフトウェアと仮想知的労働者ではずいぶん違いますが、これは以下の表のようにRPAには3段階の発展があるからです。
表1 RPAの3段階
クラス | 主な業務範囲 | 具体的な作業範囲や利用技術 |
---|---|---|
クラス1 | 定型業務の自動化 | 人が行っているマウスやキーボード操作をロボットが自動的に行うことで定型業務を自動化。WEBやメール、伝票などからの情報取得や入力作業などに適用される。 |
クラス2 | 一部非定型業務の自動化 | AIを活用して定型業務だけでなく、判断を伴う業務や非定型業務にも活用できるもの。音声認識や手書き文字読取、画像解析や過去のデータと照合して判断を行う業務に期待されている。 |
クラス3 | 高度な自律化 | 定型業務の自動化だけでなく、業務プロセスの改善や意思決定まで行うもの。まだ実現していない。 |
現在、広く利用されているのはクラス1の定型業務の自動化です。その中で一部のRPAに手書き文字認識や音声認識にAIが使われ、クラス2に近いものが使われ始めました。一方クラス3の時期は未定ですが、2030年には実現するという説もあります。
RPAの導入が促進した背景
日本でRPAを積極的に導入しているのは金融機関です。大手金融機関は顧客との間に膨大な数の取引があります。業務の多くがシステム化されましたが、人手による部分もまだ残っています。厳しい経営環境に直面している金融機関は、AIやビッグデータとともにRPAも早くから研究し、その導入による業務効率化や生産性向上を研究してきました。その成果が明らかになるにつれて、他でも導入に取り組む企業が増えています。
そのため調査機関によれば2020年にはRPAの国内市場は2兆円を超えると予測されています。最も大企業がRPAを導入する場合、予算規模は数十億円とも言われ、大手が導入するだけでも市場は容易に1兆円に達します。
RPAが注目される背景には、少子高齢化により将来の労働人口が減少することがあります。内閣府によると、2014年は6,587万人の労働力人口が、2060年には3,795万人に減少します。総人口に占める労働人口の割合は、2014年の約52%から2060年には約44%に低下する見通しです。
RPAで人間でなくてもかまわない定型業務を自動化すれば、人間が行うべき業務が精査され、より効率的に業務を遂行することが可能となり、日本の労働人口減少の問題解決に貢献するといえます。
RPAと従来のITシステムの違い
RPAはロボットと呼ばれますが、実態はソフトウェアです。なぜ、ここにきてRPAという新たなソフトウェアが脚光を浴びたのでしょうか? それは従来のITシステムの成り立ちとも関係があります。
ITシステムの成り立ち
従来のITシステムは、会計、受発注管理、生産管理などの業務を、それぞれ仕様を作成し、プログラムを組んで構築しました。30年以上前のオフコン全盛の時代は、ソフトウェアはオフコン導入の際にユーザーの要求に合わせて製作するのが主流でした。
現在ではソフトウェアに対する要求が高度化し、開発に時間と費用が掛かるようになりました。そのため、その都度製作していたのでは高価になるので、市販のソフトウェアを購入するケースが増えています。それでも、今でも自社の業務に合わせて一から作ることもあります。(フルスクラッチといいます)
市販のソフトウェアは、会計、受発注管理、予算管理、顧客管理、在庫管理などそれぞれの機能に特化して製作されています。会社の業務全体をシステム化するには、複数のソフトウェアを統合して運用する必要がありました。
現在は、基幹業務システム(ERP)が導入され、これらの業務は統合されるケースが増えてきました。それでもデータ入力や異なった業務へのデータ転送などは、人による作業がまだ多く残っています。これらの作業の多くは、作業内容は決まっている定型化した作業であり、コンピューターに置き換えることができるものでした。
ITシステム、RPA、エクセルマクロ・VBAの違い
RPAとよく似たものにエクセルマクロとVBAがあります。エクセルマクロはエクセル上で動くプログラムのことです。これを活用すればエクセル上の操作を自動化できます。プログラムはエクセルでの操作を記録するだけで可能です。またVBAはエクセルに標準で搭載されているプログラムでエクセル以外にも、ワードやパワーポイントとの間の処理を自動化することができます。
エクセルマクロ・VBAが、エクセルやオフィスソフト内での自動化を得意とするのに対して、RPAは他のソフトとの間、さらにWEBアプリとの間の作業を自動化します。
一方、RPAで自動化している作業の中には、わざわざRPAで操作しなくても、元々のITシステムを改造した方が、使いやすいこともあります。以下に、作業の自動化に対して、ITシステムの改造、RPA、エクセルマクロ・VBAの特徴と違いを述べます。
ITシステムの改造、又はモジュールの追加
- 動作は安定し、高速
- 専門知識が必要で、対応に時間と費用がかかる
- 改造に情報システム担当者が要件定義や仕様打合せなどの手間を取られる
- 複数のベンダーのITシステム間に改造やモジュールを追加する場合、コミュニケーションのコストが増加する
RPA
- プログラミングの専門知識は不要、教育を受ければ現場の担当者でもプログラミングが可能
- 自社で対応できるため、対応が早く費用もかからない
- 担当者に相応のスキルが必要
- 情報システムが担当すると、業務負荷が増加する
- 条件によっては、動作が不安定になったり、エラーが起きたりする
エクセルマクロ・VBA
- 自社で対応できるため、外部費用がかからない
- 担当者に相応のスキルが必要だが、現場でも可能
- エクセル内(エクセルマクロ)、オフィス内(VBA)の制約がある
- プログラムによっては動作が不安定になる
このように考えると、事務の効率化=RPA と短絡的に考えるのではなく、エクセルマクロ・VBAの方が向いているものと、既存のITシステムを改造した方が良いものがあり、適切に判断する必要があります。
RPAの利点
RPAをエクセルマクロ・VBAやITシステムの改造と比較すると以下の3
あります。
- 辞めない、休まない、夜間に自動処理が可能
- 働き続ける、集中力が低下しない
- 変化に強く、同じ間違いを繰り返さない
【辞めない、休まない、夜間に自動処理が可能】
人のように突発的に休みを取ったり、退職したりしません。また24時間働き続けることができるので、時間のかかる業務は夜間に行うことができます。またカレンダー機能があり、決まった時間に自動的に開始するため、作業忘れがありません。
【働き続ける、集中力が低下しない】
長時間稼働しても人のように集中力が低下してミスをすることがありません。大量のデータを処理する場合、人はどこかでミスをするのでその予防や対策が必要ですが、RPAはプログラムが正しければミスがありません。
【変化に強く、同じ間違いを繰り返さない】
相手のアプリケーションごとに変わる業務や、日ごとに変わる業務など変化が激しい時もプログラムを切り替えることで柔軟に対応できます。また同じ間違いを繰り返すこともありません。
このような特徴があるため、ある程度の手順が決まっている、いわゆる「定型作業」に対しては、RPAはミスなく効率を大幅に向上することができます。「ITシステムによる改善を検討したが費用対効果が見合わず断念した」「そもそも自動化はできないとあきらめていた」業務などにも、改善と改革の可能性を与えてくれる技術です。
RPAを導入する5つのメリット
RPAを導入することで得られるメリットは、以下の5つです。
- ホワイトカラー業務の自動化・効率化
従来人手に頼っていたオフィス業務を効率化・自動化を実現できます。 - 人的ミスの防止
人間が集中力を持続できる時間は限られており、特に何度も繰り返し行う作業では、ミスが発生することが避けられません。 - 生産性向上
従来人間が行っていた定型業務をRPAに代行させることで、担当者を他の業務に時間を割くことができ、全体の生産性が向上します。また今後人手不足が深刻化すると、生産性向上が喫緊の課題となり、RPAを導入がその解決策となります。
また月に数日しかないが、その間は作業量が多くミスが許されない業務は、担当者の負担が大きく、ミスが担当者に大きな負担となることがあります。
RPAは一度記録した作業を正確に実行するため、人的ミスの防止になります。またRPAは長時間作業しても、人間のように集中力が途切れ精度が下がることがありません。 - コスト削減
5分かかる作業がRPAで3分となっても、単体での時間短縮効果は限られています。しかし日々の業務や複数の人が関係する業務では、わずかな時間の短縮も蓄積すれば大きな効果を生みます。またRPAが自動的に行うことで管理の手間がなくなり、曜日・時間に関わらず作業を行うため、全体として大きな工数削減が実現し、その結果、人件費削減につながります。
事務業務のアウトソーシングとの比較
データ入力などの事務業務を海外、特に新興国や発展途上国へ委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)が、事務業務の効率化の方法として普及しています。しかし、これらは人が行うため、担当者の教育やスキル向上が必要で、スタッフが退職したりすると引き継ぎがうまくいかず、品質が低下したり、納期がかかるなどの問題が生じます。
新興国や発展途上国へ委託する場合、これらの国々の人件費が上昇すれば、コストも上がります。さらに正確性が求められる業務は、二重三重のチェックが不可欠となり、コストと時間がかかる問題もありました。
RPAは、このようなBPOの人に関する問題がなく、品質とコストが維持できる点に違いがあります。
RPA導入の効果と注意点
効果の4段階
RPAの導入は以下のように4段階の効果があるといわれています。
- RPAソフトウェアの特性 一次効果
コンピューター処理のため、以下の効果が得られます。- ① 効率化
・ミスがない
・見直しや確認が不要 - ② 生産性
・処理速度が早い
- ① 効率化
- ロボットファイルの設計ノウハウ 二次効果
- 反復処理を実装する、スケジュールに沿って実行する、などを組み込むことで、生産性を向上
- プロクラムを部品化・モジュール化し、社内で共用することで、業務を横展開できる、二次効果
- システム全体としての効果 三次効果
OCR、AIと合わせて導入することで、相乗効果が生まれ自動化が促進します。 - 導入活動による効果 四次効果
RPAを導入するために、業務全体を見直し、定型化された業務とそうでない業務を洗い出すことで、業務全体の見直しや改善が進みます。
実際にRPAを導入すると、一次や二次の効果よりも三次や四次の効果の方が大きいといわれています。
導入にあたっての注意点
【RPAへの正しい理解】
大手企業のRPA導入事例やコスト削減効果に踊らされず、RPAのできることを正しく理解します。企業によっては、前述のように当初は時間短縮の効果はそれほど大きくありません。セミナー参加や他社の導入事例集を集めるのも理解を深めるのに良い方法です。
【RPA自動化に適した業務の洗い出し】
導入する部門の業務を洗い出し、定型化されている業務やルール化されている業務の中で、情報が電子化されている業務を候補に挙げます。また時間短縮やミス防止など効果のわかりやすいものから取り組みます。
【RPAの導入の準備】
プロジェクト等推進体制をつくりリーダーを決定します。特に情報システム担当には負荷がかかるので、前向きな人を選びます。最初は小さな業務から取り組み(スモールスタート)、徐々に対象範囲を拡大します。
RPAを使う際の注意点
RPAを使う上で注意すべきことは、RPAで自動化できることは定型的な業務に限定されることです。人間が判断するような業務は、現状のRPA クラス1ではできません。
また定型的な業務でも、文字や画像の識別、音声の識別などコンピューターが苦手とする識別はRPAには向いていません。多くのRPAは、文字認識(OCR)や音声認識は搭載しておらず、それらは別のソフトウェアを使用することになります。従って業務がスムーズにいくかどうかは、それらのソフトウェアに依存します。
具体的な注意点 ユーザックシステムのブラウザ名人 の例
RPAは、販売管理システムや勤怠管理システムなどのソフトウェアをRPAという別のソフトウェア(RPAでは、ロボットといいますが)で操作します。従って、RPAが安定して動作するためには、RPAが認識しやすいように動作を設定する必要があります。
【安定性を確保するために】
RPAが安定した動作をするために、通常はプログラミングの際、マウスを操作し選択や入力を行う場合は、RPAはマウスがhtmlのどこを操作しているか認識し、htmlのタグとしてプログラミングしています。
キーボードで操作する場合も、キーボード入力を認識してプログラミングしています。
対して画像内の座標を指定した場合は、サイトによってはPC環境に応じて画像サイズを変える場合があり、座標が違ってしまう可能性があります。
画面全体の座標を指定した場合、画面表示はPCのディスプレイの設定により異なるため、思ったように動作しない場合があります。
RPAのベンダー
Biz Robo / Basic Robo (Kofax Kapow10)
Kapow社が提供していたツールをKOFAX社が買収・統合したもので、RPAテクノロジー社からはBiz Robo / Basic Roboとして提供されていますが、他のベンダーからはKofax Kapow10として提供されています。
サーバー上で稼働し、複数のロボットを同時に使用でき、Webによる大規模なデータ処理アプリケーションに適しています。国内では100社を超える企業に導入され、トリンプインターナショナル社、日本生命、オリックスグループなどに導入されています。費用は、一例として年間利用料の場合60万円~となっています。
Ui Path
マイクロソフトのWorkflow FoundationやXAML書式を適用したRPAツールで、動作シナリオ作成、実行、管理支援などをモジュール化し、別々に提供することで、小規模~大規模企業まで幅広く対応する製品です。国内で555社に導入され、三井住友フィナンスグループ、電通、早稲田大学などに導入されています。価格は、最小構成単位で年間利用料87.5万円、自動実行を含めた開発・実行・管理機能の最小単位の年間利用料が385.5万円となっています。
Blue Prism
2001年に設立されたRPAの老舗で、金融、医療など高度なセキュリティが必要な分野に強く、日本ではDeNA、住友商事など金融機関や広告代理店、Web企業など30社に導入されています。価格は年間利用料が120万円~です。
Automation Anywhere
世界市場では、Blue Prism社、Ui Path社と並んで 3大RPAプロバイダーの1社です。事務処理業務のRPAプラットフォームAutomation Anywhere Enterpriseの他に機械学習/コグニティブ技術によって非構造化データ解析を行い、意味を理解し、必要なアクションをRPAに渡すIQ Bot、リアルタイムでデータからの洞察を得るBot Insight、仮想技術により業務量に応じてボットの数をオンデマンドで調整するBot Farmなどのツールを提供しています。
国内では、横河電機、サントリービジネスシステム、第一生命保険などが導入し、価格は最小構成で100万円/年、標準的な構成で1,300万円/年です。
WinActor
NTTの研究所で生まれた純国産RPAツールで、ほぼすべてのWindowsデスクトップアプリケーションに対応し、Webアプリケーションにも対応しています。デスクトップ型でサーバーを必要としないのでPC1台から始めることができ、画面イメージによる機能に特徴があります。2000社を超える企業が導入し、価格はフル機能版が90.8万円、実行機能のみが24.8万円です。
Autoジョブ名人
ユーザックシステム社が開発したWebシステム向けの国産RPAツールです。元々Web EDIの受信システムを10年以上にわたり販売していてWebからのデータ処理に強みがあります。ブラウザ操作に特化したAutoブラウザ名人、メール処理を中心としたAutoメール名人もあります。価格は年間60万円、スクリプト実行版は年間18万円です。
CELF RPAオプション
SCSK社が開発したもので、Excelの知識でWebアプリケーションを作ることができるクラウドサービスCELFにRPAオプションとして追加されたものです。ほぼすべてのWindowsデスクトップアプリケーション、およびWebアプリケーションに対応しています。Excel内の処理やデータベース連携を得意とし、RPAで行う処理を単純化することができます。価格は、CELFの年間利用料が17.5万円、RPAオプションが3.5万円です。
RPAの実施例
投資信託の口座開設業務の自動化
ゆうちょ銀行は、これまで人が行っていた投資信託の口座開設業務に、富士通が開発した業務自動化システムを導入しました。OCRとRPA ( Kofax社の「Kapow(カパウ)」) を活用して、紙に記入した口座開設申込書の読み取り、内容確認、口座開設手続きを自動化し、作業時間を1/3に短縮しました。
この作業は、口座開設申込書と顧客の口座情報をひも付けを行い、口座の情報や顧客の個人情報を行員が比較・確認し、システムに手で入力しています。
これを読み取った申請書をOCR「DynaEye(ダイナアイ)」を活用し、印字された文字や手書きした文字を高精度に認識し、文字のつぶれなどで読めない時はエラーを返します。未記入部分などがあればエラーを出力し、行員は該当部分のみを確認して修正します。
読み取った申請書の情報は、普通口座の顧客情報と合わせて登録し、内容を照合して確認、投資信託システムへの入力から完了通知までをRPAで実施することで、これまでに投資信託の口座開設にかかっていた時間を3分の1に短縮しました。
定型化した業務にRPAを導入
社内の業務を洗い出し、定型化している業務にRPAを導入し、残業時間の削減を目指します。業務を洗い出した結果、59業務にRPAの適用を決め、21業務のRPA化が完了しました。例えば、勤怠管理の自動化、顧客への納期解答書の作成、請求書の確認業務などです。
Web EDIデータのダウンロード
Web EDIのデータを取引先のWebサイトからダウンロードしますが、発注が365日あり取引先の数も多いため、高い業務負荷でした。取引先ごとにWebサイトの画面が異なるため、操作方法も異なり、作業ミスや漏れが発生していました。
RPAに取引先ごとのデータのダウンロード作業をプログラム化し、自動的にダウンロードし、基幹システムに転送するようにした結果、受注ミスと休日出勤がなくなりました。
銀行の入金データのダウンロード
(ジャパネット銀行)
クレジットカードやデビッドカードの決済のため銀行のWebサイトにアクセスし入金データをダウンロードし確認していますが、決済の増加により業務量が増え、ミスや漏れが発生していました。銀行のWebサイトの操作に時間がかかるため、人員が増加する半面、ミスが許されないため離職者も増えていました。
RPAにより銀行のWebサイトに自動的にアクセスし入金データをダウンロードすることでミスがなくなり、時間も短縮されました。
勤怠情報をメール
(外食チェーン)
働き方改革で残業を規制するため、本部の勤怠管理システムで時間超過者をリストアップし、各店舗の店長に手作業でメールを送信していました。作業忘れや送信漏れが起き、作業工数もかかっていました。
RPAで警告メールを自動送信しました。
We価格調査
(タイヤのネットショップ)
毎日社員4名が専任して競合店の価格を調査していました。ミスの発生や社員のモチベーション低下の課題がありました。
価格調査をRPAにプログラムし自動化しました。
事例のまとめ
多くの事例では、中小企業はRPAの導入による削減時間は、1か月あたり数分から数百分、コストダウン効果で見れば、1か月数千円から数万円にすぎません。費用対効果で考えれば、RPAよりも人で行った方が良い場合もあります。
従ってRPAの導入はコストダウンだけでなく、社員の負担を少なくすることで、より付加価値の高い業務に注力できることや、業務負荷が増大した時にも柔軟に対応できなど、総合的に判断する必要があります。
専門的なプログラミング技術は不要ですが、業務の自動化とはプログラム化することなのでプログラミングのセンスがあった方が望ましいです。できればエクセルマクロなどの経験があると良いです。
RPAかソフトの改造か
このようにRPAの実施例を見ると、わざわざRPAを導入しなくても、現在使用しているITシステムを改造する、あるいはモジュールを追加した方が使いやすい場合があります。RPAは、既存のITシステムを別のソフトウェアで操作するため、RPA自体の不安定さが内在します。またRPAのプログラムの管理が発生します。大がかりな改造でない場合、既存のITシステムに追加のモジュールをアドオンすれば対応できる場合、RPAよりもこちらの方が、操作が簡単で動作も安定していることがあります。
逆にRPAの利点は、エンドユーザーが自分でプログラムできる点です。そのため迅速に立ち上げることができ、変更も容易です。またRPAはひとつで多くのソフトウェアを操作できるため、個々にITシステムを改造するよりも少ない費用でできます。
RPAを用いた業務効率化とその将来
効果は企業規模により異なる
RPAは定型化された業務が多ければ導入することで、業務を効率化することができます。しかし中小企業の場合、単純な定型業務に一人が専念していることは稀です。そのため業務を効率化しても人員削減までには至りません。
これが大企業では、定型業務にある程度の人員が投入されている場合があり、この場合はRPAを導入することで、人員削減とコスト削減が実現します。
またRPAを導入することで情報システム担当者の業務量は増加します。情報システム担当者が業務効率化に積極的でない場合、不満が大きくなります。
大企業の場合は、自部門の業務を洗い出し、定型化している業務、RPA導入で効果が見込める業務を抽出し、プロジェクトとして推進します。ある程度投資できればOCRや音声認識も導入することで、従来はコンピューターに置き換えできなかった業務も置き換えることができます。
中小企業の場合は、定型化できる業務をある程度ピックアップしますが、大企業のように時間とお金をかけて、業務を洗い出すようなことは、時間も人も不足です。そこでそれほど大がかりでないRPAを導入して、まずはRPAに置き換えられる業務をいくつか試してみます。それで効果が確認されれば、現場主導で置き換えできる業務を見つけて置き換えていきます。その際、最初は小さな業務から始めて、できるだけ大きな問題が起きないところから進めていきます。
定型的な業務で社外に発注している業務(business Process Outsource : BPO)は、RPAの導入により外注費の削減が可能です。
RPAの将来は?
【クラス1】
クラス1の機能では、中小企業では高額なRPAを導入しても効果は少ないと思います。RPAの効果は、情報システム担当者のスキルに依存するため、まずは安価なRPAを導入し、情報システム担当者のスキルアップを図ると良いでしょう。
この部分がどんどん使いやすくなれば、情報システム担当者だけでなく、一般の社員も簡単にプログラミングできるようになり、RPAを使う場面が増えます。データの入力に2時間の作業でもプログラミングが30分であれば、RPAの動作は短時間に終了するため、作業時間は半分以下になります。
そう考えると、RPA普及のポイントは、RPAの使いやすさの進化と、使う側のスキルの向上です。使う側がプログラミングに慣れていないと、RPAは面倒に感じられ、時間をかけてでも単純作業を続ける人が出るかもしれません。
例えば三次元測定機は、一度測定動作をすれば、自動で測定を繰り返すプログラミング機能が30年以上前からありました。そのため三次元測定の担当者にとってプログラミングは当たり前となっています。従って、環境が整えば多くの人がRPAのプログラミングになじむかもしれません。
【クラス2】
今後、OCRや音声認識がさらに普及すれば、クラス2は実現可能です。実際は、FAXや紙の帳票や伝票をデータ化して、オンラインで受け取れば、OCRは必要ありません。現実には、取引先とのシステムの違いやセキュリティの問題から、紙でのやり取りは依然としてあります。特に行政機関とのやり取りは印鑑での決済があるため、当分はデータ化しない、データ化してもpdfどまりと予想されます。
その場合、OCRがRPAに組み込まれ、エラーのノウハウを広く共有して識別制度が向上すれば、RPAはさらに様々な業務に適用できます。
クラス2の例として、請求書のスキャンデータから、AIにより書式を判断して項目を整理し、データベース化するものがあります。初めての書式でも類似の書式から判断したり、スキャンデータと過去の情報を比較してご認識を修正したりして、高い精度を実現しています。
【RPAとAIを組み合わせての発展】
RPAツールは導入してからが勝負、スモールスタートで始めて大きく育てる方が良いと言われています。わかり易いRPAから始めてIT活用率を高めていくことが手堅いと考えられます。ここでは、RPAから始めるAI活用の第一歩をご紹介します。
【RPAツールで扱うデータ等を拡大】
AI-OCRやAIスピーカーなどの技術を利用して、紙や画像、音声などの情報を、RPAが扱えるような形式のデータに変換し、自動化できる業務の範囲を広げます。非構造化データを構造化する、というような言い方もされます。RPAツールという自動化ロボットに、AI-OCRという優れた目を与えたり、AIスピーカーという優れた耳を与えたりするイメージです。
【審査等の判断業務との連動】
RPAでAIのような高度な判断まで行おうとする場合は、高度な判断をする特化型AIと組み合わせるのが現実的です。例えば与信審査判断力を鍛えた特化型AIに、以下のように組み合わせます。
- RPAが与信審査AIに所得等の情報を渡し、この人にお金を貸しても大丈夫かと問う
- 与信審査AIは、受け取った情報から貸与可否を審査判断する
- RPAは与信審査AIから戻ってきた審査判断に応じた処理を行う
(貸与可であれば、貸し出す業務を自動実行する)
今後は、何かしらの目的に特化したAI商品が増えていくと予想されます。実用段階に達した特化型AIをRPAと組み合わせることで、それまではRPAには難しい業務を自動化できるようになります。RPAという自動化ロボットに、審査AI等の相談相手を付随するわけです。
クラス3の実用化は…
クラス2のRPAでのAIの役割は、OCRの認識精度を高めたり、取得したデータの項目を見て、適切な処理を判断したりするものです。これは、すでに音声認識や検索エンジンでAIの恩恵を受けている私たちにも馴染みやすいものです。また今後AIの活用としては、与信管理や融資の可否にAIやRPAの活用が予想されます。
より高度な非定型業務を判断するには、判断の元となるデータが蓄積されていなければなりません。今後RPAが普及し、様々な業務においてデータが蓄積されれば、それらのデータを活かして、AIが判断できる場面が出てくると予想されます。
今後どのような場面でAIを活用して、RPAが自動的に判断し、遂行できるような業務があるのか? もし、そのような業務が急速に増えればホワイトカラーの仕事が半減するかもしれません。
クラス3よりも重大な変化
むしろ、クラス1、あるいはクラス2のRPAが大量に普及することで、雇用環境に重大な変化が起きるかもしれません。
現在のホワイトカラーの仕事の多くは定型業務です。もしこれらがRPAに置き換わると残った仕事は創造的な仕事だけになってしまいます。これは設計でも例外ではありません。設計作業では多くの時間を過去の設計の複写や改変に割いており、本当に新しいものを考える時間は多くありません。
このような定型業務に対しクラス2のRPAをアシスタントとして導入すれば、作業効率は飛躍的に高まるでしょう。その半面、設計者は常に頭を動かすことに追われます。あるいは従来5時間かかっていた定型業務をRPAが5分で終わらせてしまえば、設計者は3時間創造的な業務に取り組むだけで同じ成果が出せるかもしれません。
一方、ホワイトカラーの中で創造的な業務に向いていない人材は、職場での居場所を失う可能性があります。すでに製造業の現場では、自動化された設備の設定やプログラム、改善のできる人材と、製品の着脱など単純作業しかできない人材とで待遇に格差が生じています。このような状況がホワイトカラーの職場でも、より深刻化するかもしれません。
そして、仕事をあまりに創造的なものだけにすることは、別な面で創造性の支障になる可能性があります。優れた研究者や開発者は、膨大なデータを手間をかけて整理・分析し、その過程でデータの中から神がかり的な直感でもって、新たな発見をすることがあります。そこまででなくても、ベテランはデータを眺めていて他の人が気づかない異常や問題点を発見します。
このような能力は、一見すると非効率に見える定型的な作業の繰り返しの中から生まれています。かといって、今更かつてのやり方に回帰できないでしょうが、生のデータを扱う時間を補完することも必要かもしれません。
参考文献
「絵で見てわかる RPAの仕組み」 西村 泰洋 著 翔泳社
本コラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
経営コラム ものづくりの未来と経営
IoT、DX、AI、次々と新しい技術が生まれ、新聞やネットで華々しく報道されています。しかし中には話題ばかり先行し具体的な変化は?なものもあります。経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、それぞれの技術やテーマを掘り下げ、その本質と予想される変化を深堀したコラムです。
このコラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストを元にしています。過去の過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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