製造業の個別原価計算26 売上が右肩下がりの状況での設備の更新

製造業は、材料を加工して付加価値を生む事業です。付加価値を生み出すのは「人」や「設備」です。この「人」や「設備」し、売上が減っても容易に減らすことができない固定費です。
 

売上が増えている時は、人や設備を増やして固定費が増加しても、売上の増加が固定費の増加をカバーするため、利益が増えます。ただし固定費が増加すれば損益分岐点が上昇します。損益分岐点が上昇すれば、以前より少ない売上の減少でも赤字になります。従って固定費の増加は慎重に行います。
 

一方設備は老朽化するため、いつか更新しなければなりません。
 

この設備の更新は売上が増えている時はとても容易です。売上が増えていれば利益も増えているため、借入金の返済も容易だからです。何か問題が起きても「売上が解決」してくれます。
 

今日、人口が減少している日本は、事業分野によっては市場全体が縮小しています。この傾向は地方ではより顕著になっています。あるいは生活様式が変わったため、今までの市場が大きく縮小した事業もあります。例えば、ふすまや畳は、生活が洋風化し和室が減ったため大きく縮小しました。
 

このように売上が横ばい、または減少している時は、設備の更新の借入は大きな負担になります。当初無理のない返だと思っていた金額が、売上が下降すると利益が大きく減少し、返済が重くのしかかってきます。
 

このような場合、設備の更新はどのように考えたらよいでしょうか。
 

(1)設備の更新と資金収支

老朽化した設備を更新する場合、その設備がもたらす売上から設備の費用を回収します。
 

以下架空の機械加工A社の例から具体的に検討します。
 

A社は老朽化したマシニングセンタを1台更新することにしました。更新する設備の金額を表1に示します。
 

表1 更新するマシニングセンタ  

価格 1,800万円
実際の耐用年数 15年
実際の償却費 120万円
法定耐用年数 10年

 

この設備の法定耐用年数は10年ですが、実際は15年使用する予定です。
 

この設備の減価償却費を表2に示します。
 

表2 減価償却費   単位 : 万円

減価償却費(定率法) 実際の償却費
1年 360 120
2年 290 120
3年 230 120
4年 180 120
5年 150 120
6~10年 120 120

 

会計上の減価償却費は表2の減価償却費(定率法)です。
 

しかし個々の製品の原価を計算する際に使用するアワーレート(設備)の計算に定率法の減価償却費を使用すると、アワーレート(設備)が毎年変わってしまいます。そこでここでは購入金額を本当の耐用年数で割った金額を元にアワーレート(設備)を計算します。これをここでは「実際の償却費」と呼びます。
 

この減価償却費の考え方については「製造業の個別原価計算8 『減価償却費とアワーレートの関係』」を参照願います。
 

このマシニングセンタの実際の償却費は購入価格1,800万円を15年で割って、120万円でした。
 

このマシニングセンタの年間の収益を計算します。わかりやすくするために、このマシニングセンタはA1製品1種類のみを生産しているものとします。A1製品1個の販売価格、製造費用、利益を表3に示します。
 

表3 A1製品の原価と販売価格 単位 : 円

販売価格 5,560
材料費 2,500
製造費用 1,980
販管費 860
利益 220

 

A1製品は販売価格5,560円、材料費2,000円、製造費用1,980円、従って製造原価3.980円、利益220円でした。計算に使用したアワーレート(設備)は、表1の実際の償却費120万円を元に計算しました。
 

A1製品の年間の販売量と年間の売上、利益を表4に示します。
 

表4 A1製品年間の販売量と年間の売上、利益

年間販売数量(個) 5,680
売上 3,160
材料費(変動費) (万円) 1,420
製造費用 (万円) 1,125
販管費 (万円) 488
固定費(製造費用+販管費) (万円) 1,610
利益 (万円) 130

 

数字はわかりやすくするため、1桁目を四捨五入して丸めています。
 

実際の償却費120万円は、購入金額を実際の耐用年数で割った金額です。そしてアワーレート(設備)は、今回はこの実際の償却費を用いて計算しました。
 

従って期初に計画した通りA1製品が年間5,680個生産されれば、年間120万円のお金が生まれます。そしてこの120万円の現金が15年間継続して入れば、設備の更新費用の回収は完了です。
 

(2)借入金の返済

ここで設備の購入資金1,800万円を融資で調達しました。
 

融資条件は利率2%、返済期間は7年返済なので、毎年の返済金額は280万円です。
 

この場合の売上、利益、借入金返済後の資金を表5に示します。
 

表5 借入金の返済も含めた資金収支  単位 : 万円

1年目 2年目 7年目 7年間合計
売上 3,160 3,160 3,160
変動費 1,420 1,420 1,420
固定費 1,610 1,610 1,610
利益 130 130 130 910
減価償却費(税法) 360 290 120
利益(決算書) ▲ 230 ▲ 160 10
法人税 0 0 4
税引後利益 ▲ 230 ▲ 160 6
実際の償却費 120 120 120
a.現金純増分(税引後) 250 250 246 1,756
b.借入金返済 280 280 280 1,960
差引 (a-b) ▲ 30 ▲ 30 ▲ 34 ▲ 204

 

毎年、売上は3,160万円、利益は130万円です。ここから毎年の資金収支を計算します。この時、法人税の影響を考えなければなりません。
 

1年目は、税法の減価償却費が360万円なので決算書の利益は▲230万円です。そのため法人税は発生しません。現金の増加は、利益130万円と実際の償却費120万円の合計250万円です。ここから借入金280万円を引くと30万円のマイナスです。
 

2年目は、税法の減価償却費が290万円なので決算書の利益は▲160万円で、法人税は発生しません。現金の増加250万円から借入金280万円を引くと30万円のマイナスです。
 

7年目になると、税法の減価償却費は120万円になり決算書の利益はプラス10万円です。法人税4万円が発生し、現金の増加246万円になります。この246万円から借入金280万円を引くと34万円のマイナスです。
 

8年目からは借入金の返済がなくなるため、現金はプラスになります。
 

11年目からは決算書の減価償却費がゼロになります。
 

7年間の現金の増加分の合計は1,756万円です。これに対して利息も含めた借入金の返済総額は1,960万円です。従って7年間で204万円資金が不足します。
 

一方借入金の返済が完了すれば現金の純増が続きます。実際の耐用年数15年間では、設備投資金額1,960万円を回収した後、1,550万円のプラスです。
 

従って長期的にはこの設備の更新はプラスですが、更新から7年間で204万円の資金が不足するため、他の手段で資金を手当てしなければなりません。
 

本来はこのような長期間の資金の収益を判断するには、〇年後のお金を現在価値(NPV)に変換します。これは10年後に手に入る100万円の価値は、10年間利息により増えることを考えれば、現在100万円ではないからです。そのため〇年後に入ってくるお金は〇年間の金利を差し引いて現在の価値に直します。これがDCF法(Discount Cash Flow)です。ただしそこまで計算すると計算が複雑になることと、現在は金利が低く、それほど大きな違いが出ないため、今回は現在価値の計算はしません。
 

(3)右肩下がりの場合

(2)の例では売上が横ばいでした。もし売上が右肩下がりに減少している場合、収支はどうなるでしょうか。
 

売上が年率2%で減少する場合の例を表6に示します。ここで利益率は変わらないものとします。
 

表6 売上が2%/年で減収した場合の資金収支  単位 : 万円

1年目 2年目 7年目 合計
売上 3,160 3,090 2,800
変動費 1,420 1,390 1,260
固定費 1,610 1,610 1,610
利益 130 90 ▲ 70 180
減価償却費(税法) 360 290 120
利益(決算書) ▲ 230 ▲ 200 ▲ 190
法人税 0 0 0
税引後利益 ▲ 230 ▲ 200 ▲ 160
実際の償却費 120 120 120
a.現金純増分(税引後) 250 210 50 1,020
b.借入金返済 280 280 280 1,960
差引 (a-b) ▲ 30 ▲ 70 ▲ 230 ▲ 940

 

年率2%で売上が減少すると、売上は1年目3,160万円、2年目3,090万円、3年目3,030万円と減少し、7年目には2,800万円になります。
 

これに伴い材料費(変動費)は減少しますが、製造費用と販管費は固定費のため変わらないので、利益が年々減少します。利益は1年目130万円、2年目90万円、3年目60万円と減少し、5年目から赤字になり7年目には▲70万円になります。
 

1年目は、税法の減価償却費が360万円、決算書の利益は▲230万円です。そのため法人税は発生しません。現金の増加は、利益130万円と実際の償却費120万円の合計250万円です。ここから借入金280万円を引くと30万円のマイナスです。
 

2年目は、税法の減価償却費が290万円、決算書の利益は▲200万円です。現金の増加は210万円で借入金280万円を引くと70万円のマイナスです。
 

7年目には利益がマイナスになり決算書の利益も▲160万円です。現金の増加は50万円のため、借入金280万円を引くと230万円のマイナスです。
 

7年間の現金の増加分の合計は1,020万円です。これに対して利息も含めた借入金の返済総額は1,960万円です。従って7年間で940万円資金が不足します。
 

最初からこのような計画を立てることはないと思います。しかし計画当初は横ばいだった受注が減少し売上が下降すると、このような状況に陥り資金不足になります。従って設備の更新を行った場合は売上を落とさないようにしなければなりません。
 

(4)利益率が低下する場合

一方顧客からのコストダウンの要求が厳しく利益率が低下する場合はどうなるでしょうか。
 

受注価格が減少すれば利益率が低下します。できればそのような受注は断りたいのですが、そうなると全体の売上が下がって、3)で検討したように資金不足になってしまいます。それでは徐々に低下する価格で受注し続けた場合はどのようになるでしょうか。
 

受注価格が年率2%で減少する場合の例を表7に示します。ここで受注数量は変わらないものとします。
 

表7 受注価格が2%/年で減収した場合の資金収支  単位 : 万円

1年目 2年目 7年目 合計
売上 3,160 3,097 2,799
変動費 1,420 1,420 1,420
固定費 1,610 1,610 1,610
利益 130 67 ▲ 231 180
減価償却費(税法) 360 290 120
利益(決算書) ▲ 230 ▲ 223 ▲ 351
法人税 0 0 0
税引後利益 ▲ 230 ▲ 223 ▲ 351
実際の償却費 120 120 120
a.現金純増分(税引後) 250 187 ▲111 466
b.借入金返済 280 280 280 1,960
差引 (a-b) ▲ 30 ▲ 93 ▲ 391 ▲ 1,494

 

年率2%で受注価格が減少すると、売上は1年目3,160万円、2年目3,097万円、3年目3,035万円と減少し、7年目には2,899万円になります。
 

これに対して材料費(変動費)、製造費用と販管費は変わらないので、利益は3) 受注量の減少よりも大きく減少します。利益は1年目130万円、2年目67万円、3年目5万円と減少し、4年目から赤字になり7年目には▲231万円になります。
 

1年目は、決算書の利益▲230万円、現金の増加は250万円です。ここから借入金280万円を引くと30万円のマイナスです。
 

2年目は、税法の減価償却費が290万円、決算書の利益は▲223万円です。現金の増加は187万円で借入金280万円を引くと93万円のマイナスです。
 

7年目は利益はマイナスで決算書の利益は▲351万円です。現金もマイナス111万円のため、借入金280万円を引くと391万円のマイナスです。
 

7年間の現金の増加分の合計は466万円です。これに対して利息も含めた借入金の返済総額は1,960万円です。従って7年間で1,494万円資金が不足します。
 

量産部品などで、年率〇%でのコストダウン要求があった場合、1回の受注価格の低下はそれほど大きくなくても、毎年行われれば利益がなくなり、設備投資の回収ができなくなります。
 

そうならないようにするためには、受注価格の減少には十分注意します。将来そのような状況が予想されるような場合、設備投資は慎重に行います。
 

(5)設備を増設する場合

今まで1台で生産していた製品が、受注が2倍になったため、もう1台増設する場合はどうでしょうか。
 

この場合、社内のマンパワーには余裕があり、増員しなくて生産できるとします。その結果、2台に増やすことで増加しても固定費は変わらず、増加する費用は、変動費のみとなります。その結果を表8に示します。
 

表8 設備が追加された場合の売上、利益   単位 万円

1台 2台目 合計
売上 3,160 3,160 6,320
変動費 1,420 1,420 2,840
固定費 1,610 1,610
利益 130 1,740 1,870

 

1台の設備の売上は3,160万円で、2台では6,320万円です。
 

1台目の利益は変動費1,420万円、固定費1,610万円を引いて130万円でした。
 

これに対して2台目の利益は、売上から変動費1,420万円をマイナスするだけなので、1,740万円になります。実際は変動費に電気代もあり、また固定費も多少増えるので利益はもう少し少なくなります。それでも増産のため設備を増設する場合は利益は大きなものになります。
 

当然ですが、このような状況下での設備投資の回収は非常に楽になります。
 

(6)借入の重さ

このように売上が増加している状況と、売上が減少している状況では設備投資に対する条件が大きく異なります。
 

売上が増加している状況での設備の増設は利益が大きく、設備投資の回収は容易です。
 

対して売上が減少している状況では利益が大きく減少するため、設備投資の回収は難しくなります。あるいは売上が横ばいの見込みだったのに、様々な要因で売上が減少すれば、設備投資の回収が難しくなります。特に借入がある場合、資金が不足します。
 

また顧客からの度重なるコストダウンの要求により受注価格が減少すれば、その影響はより顕著に出ます。
 

従って設備投資を行った場合は「売上と利益率は落とさないこと」です。
 

そして、このような変化をいち早くつかみ、対応するためにも、製品毎の原価を把握し、さらに現場での実績原価と比較することが重要です。
 

 


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