販管費は販売費と一般管理費の合計で、営業や管理部門の人件費、広告宣伝費、事務費用などが含まれる。製造原価とは区別されるが実質的には生産活動に不可欠で、原価の一部と考えられる。製品別には製造原価に販管費レートを掛けて配分し、見積に反映させて適正価格を算出する。事業形態や規模により販管費レートは異なり、NB品・OEM品や開発費の有無によっても差が生じる。
ある製品が儲かっているかどうか、判断する時、受注金額から製造原価を引いた「粗利」があれば十分でしょうか?
実は粗利から販売費及び一般管理費(以下、販管費)を引いてマイナスであれば赤字なのです。
なぜそうなのか?
これについて説明します。
1. 販管費とはどのような費用なのか?
(1) 販管費と製造原価の違い
工場で発生する費用は
- 製造原価 製造に直接関係する費用
- 販管費 製造に直接関係しない費用
に分けて計上されます。

(2) 販売費と一般管理費
販管費とは、販売費と一般管理費を合わせた費用です。
- 販売費 販売活動に関わる費用で、営業の人件費、広告宣伝、製品の配送など
- 一般管理費 業務全般の管理活動の費用で、経理、総務、人事などの人件費、事務所の消耗品やコピー機の費用など
製造業の場合、業務全般の管理活動の多くが製造部門に関する管理です。総務は工場で働く人の労務管理や給与計算を行い、経理は工場で購入する物品や発生する費用の経理処理を行っています。従って製造に直接関係しない費用と言っても、こうした活動は生産に不可欠な活動です。
販管費と製造原価は会計上の扱いが異なりますが、広く考えれば原価の一部です。実際、財務会計では製造原価と販管費を合わせたものを「総原価」と認識しています。
(3) 具板的な費用
架空のモデル企業A社の販管費と製造原価を以下に示します。
製造原価
- 労務費 工場で働く人の給与、賞与、法定福利費など
- 外注費 外部委託加工費
- 製造経費 工場の経費で以下のようなものがあります。
- 電気代
- 水道光熱費
- 修繕費
- 賃借料
- 保険料
- 消耗品費
- 租税公課
- 保守料
- 雑費
- 減価償却費
販管費には以下のようなものがあります
- 販管費の項目
- 役員報酬
- 給与手当 営業、総務、経理
- 法定福利費 営業、総務、経理
- 福利厚生費
- 広告宣伝費 広告宣伝の費用
- 旅費交通費 営業の交通費も含む
- 荷造運賃 製品の配送費用
- 通信費
- 事務用品費
- 車両費 社用車の費用
- 保険料
- 減価償却費
- 支払手数料
- リース料
- 雑費
(4) 現実には区別はあいまい
現実には「どの費用を販管費とし、どの費用を製造原価とするか」、これは会計事務所や経理のやり方でずいぶん違います。著者が過去に見た中小企業の決算書でも
- 生産管理、品質管理など「工場の管理部門の労務費が販管費」になっている。
- 工場の製造部門が修理・保守などアフターサービスを行うが、製造部門だから「労務費が製造原価」になっている。
- 製品の顧客への配送費用は販管費、原材料を工場に運ぶ費用は製造原価だが、運送会社からの請求書は一つのため「すべて販管費」。
問題は製造原価と販管費の比率が変わる
後述のように顧客が販管費を低く考える場合、本来は製造原価の費用を販管費に入れてしまうのは問題です。
従って後述の販管費レートを計算する際、決算書の販管費の金額をうのみにするのは危険です。中には製造原価も含まれているかもしれないからです。個々の費用を再確認するのが望ましいです。
2. 財務会計の販管費の特徴
財務会計では販管費は製造原価とは扱いが異なります。
(1) 原価は在庫の増減の影響を受けるが、販管費は影響を受けない
在庫が増減すると原価は増減しますが、販管費は変わりません。
これは、在庫の製造にかかった費用は、その期の原価(売上原価)にならないというルールがあるからです。
例えば、モデル企業A社
- 売上高: 10億円
- 製造原価: 8億円
- 販管費: 1億6,000万円
在庫の増減がない場合
営業利益は4,000万円でした。
【計算】
期首の棚卸高と期末の棚卸高は同じ5,000万円で増減はありませんでした。
売上原価 = 期首製品棚卸高 + 当期製造原価 - 期末製品棚卸高 = 5,000 + 80,000 - 5,000 = 80,000万円
つまり売上原価 = 製造原価
粗利(売上総利益) = 売上 - 売上原価 = 10億円 - 8億円 = 2億円
営業利益 = 粗利 - 販管費 = 20,000万円 - 16,000万円 = 4,000万円

在庫が増加した場合
営業利益は1億円増加しました。
【計算】
• 期首製品棚卸高: 2,000万円
• 期末製品棚卸高: 1億2,000万円 (+1億円)
売上原価 = 期首製品棚卸高 + 当期製造原価 - 期末製品棚卸高 = 2,000 + 80,000 - 12,000 = 70,000万円
• 売上原価は1億円減少
粗利 = 売上 - 売上原価 = 10億円 - 7億円 = 3億円
営業利益 = 粗利 - 販管費 = 30,000万円 - 16,000万円 = 1億4,000万円
• 営業利益は1億円増加

在庫が減少した場合
営業利益はマイナス6,000万円でした。
【計算】
• 期首製品棚卸高: 1億2,000万円
• 期末製品棚卸高: 2,000万円
• 在庫が1億円減少
売上原価 = 期首製品棚卸高 + 当期製造原価 - 期末製品棚卸高 = 12,000 + 80,000 - 2,000 = 90,000万円
• 売上原価は1億円増加
粗利 = 売上 - 売上原価 = 10億円 - 9億円 = 1億円
営業利益 = 粗利 - 販管費 = 10,000万円 - 16,000万円 = △6,000万円
• 営業利益は5,000万円のマイナス

(2) 全部原価計算と工場の支出額の違い
これは、在庫の生産にかかった費用(製造原価)は、その期の原価(売上原価)にしないという全部原価計算の会計原則によるものです。
在庫の増加により、売上原価が減少するのは、会社と外部とのお金のやり取りを考えれば正しいです。在庫は売れていないからお金は入ってこない、だから原価としないというわけです。
しかし、社内で使ったお金で考えれば、在庫の生産でも原材料や労務費、工場の経費は発生し、その分お金は出て行っているのです。
3. 製品の販管費
(1) 製品の販管費
製品の販管費はいくらにすればいいのでしょうか?
これは会社全体で、製造原価に対する販管費の比率(以下、販管費レート)を計算します。個々の製品の製造原価に販管費レートをかければ、その製品の販管費が計算できます。
モデル企業A社 販管費レート20%
【計算】
• 製造原価: 8億円
• 販管費: 1億6,000万円
販管費レート= 販管費 製造原価 = 16,000 80,000 = 0.2 = 20%
個々の製品の販管費は製造原価の20%とします。
(2) 販管費レートは製造業でも様々
この販管費レートはいくらが適正なのでしょうか?
- 事業のやり方によって異なる
同じ業種でも事業のやり方によって異なります。部品の多くを社外(外注)に委託すれば、製造原価は少なく、相対的に販管費の比率が増えて販管費レートは上がります。
主に下請けであれば営業費用は多くありませんが、自社の商品として市場で販売すれば多額の営業費用がかかります。 - 工場の規模によって変わる
規模が小さくても、総務・経理や役員の人件費は発生します。営業や事務所の費用もかかります。対して工場の規模が大きくなると、製造原価は大きくなりますが、それに比例して販管費が大きくなるとは限りません。従って規模の大きな工場は販管費レートが小さく、規模の小さな工場は販管費レートが高くなります。 - 一般的な数値
平成21年度発行「中小企業実態調査に基づく経営・原価指標」によれば、中小企業の製造業平均で売上高に対する販管費の比率は18.1%でした。かといってこれがすべての工場に当てはまるわけではありません。
(3) 製品の適正価格
販管費は原価ではありませんが、工場で発生している費用です。この費用は製品を販売した売上から賄わなければなりません。なぜなら工場にお金が入るのは売上しかないからです(投資等の収益があれば別ですが)。
例えばA社の場合、年間で1億6,000万円の販管費が発生しています。これも見積に入れなければ会社が赤字になってしまいます。
だから見積には販管費も必要です。この販管費はそれぞれの製品でいくらかかっているのか全く分からない費用です。そこで製造原価に販管費レートをかけて、それぞれの製品の販管費を計算します。
例えば、A1製品の製造原価が1,000円の場合
- A社の販管費レート: 20%
- 目標利益率: 5.3%の場合
製造原価と販管費を合計したものを「販管費込み原価」と呼ぶことにします
目標利益は販管費込み原価に目標利益率をかけて計算します。
見積金額は製造原価、販管費、目標利益の合計です。
A1製品の見積金額は1,264円
【計算】
販管費 = 製造原価 × 販管費レート = 1,000円 × 0.2 = 200円
販管費込み原価 = 製造原価 + 販管費 = 1,000円 + 200円 = 1,200円
目標利益 = 販管費込み原価 × 目標利益率 = 1,200円 × 0.053 = 64円
見積金額 = 製造原価 + 販管費 + 目標利益 = 1,000円 + 200円 + 64円 = 1,264円

1,264円はA社にとっての適正価格
この1,264円で受注できれば、A社は製造原価、販管費をカバーし、目標利益を得ることができます。
従って1,264円はA社にとって適正価格です。
適正価格の意味は、この金額であれば必要な費用をカバーして適正な利益が得られる価格という意味です。
ここで「適正価格に利益まで入るのか?」と疑問に思うかもしれません。この利益の考え方については別のコラムで説明します。
企業が異なれば適正価格も異なります。
企業によって時間当たりの費用(アワーレート)、販管費レートが異なるからです。
販管費レートに疑問
ここで会計に詳しい方の場合、製造原価に販管費レートをかけて販管費を計算することに違和感を持つ方もいるかもしれません。なぜなら販管費は固定費なので、全体の売上が変われば、販管費レートも変わるからです。
これは製造業と他の業界で事業構造が違うからです。
4. 小売業と製造業の違い
(1) 製造業は原価に固定費が含まれる
例えば製造業と小売業を比較すると、製造業の場合、製造原価に工場の経費が入っています。この工場の経費は固定費です。
しかし小売業の場合、製造原価ではなく仕入原価です。仕入原価は商品の仕入れの費用で社内の費用は含まれません。この仕入原価は100%変動費です。
しかも小売業の場合、販管費は同じまま薄利多売で売上を増やすことができます。
(2) 薄利多売が成り立つ小売業
小売業は、値段を下げれば販売量を大幅に増やすことができます。例えば50%OFFのセールを行えば、今の2倍の売上も可能です。50%値下げすれば利益は下がりますが、売上が2倍になれば粗利合計は増えます。つまり利益が増えます。
粗利合計を管理
だから、値下げして販売量が大きく変動する小売業の場合は、売上合計を管理していても利益は管理できません。そのため粗利の合計を管理します。粗利の総額が販管費を上回れば利益が出ます。売上不振で赤字の場合、値下げして売上増加を図ることも可能です。
(2) 薄利多売が成り立たない製造業
しかし多くの製造業でこの薄利多売は成り立ちません。工場の生産能力は設備と人員で決まります。だから価格を下げて受注が2倍になったとしても、それをこなす生産能力がありません。
販管費も製造原価と同様に原価と考えて個々の原価に含めて考えます。
そして製造原価、販管費も含めて利益が出る金額で受注するようにします。
(3) 製造業でも薄利多売が成り立つ場合
しかし多くの製造業でこの薄利多売は成り立ちません。工場の生産能力は設備と人員で決まります。だから価格を下げて受注が2倍になったとしても、それをこなす生産能力がありません。
販管費も製造原価と同様に原価と考えて個々の原価に含めて考えます。
そして製造原価、販管費も含めて利益が出る金額で受注するようにします。
1万個の半分しか売れない場合
例えばある製品を製造する設備は1万個/日の生産能力があります。1万個/日生産すれば予定した原価で生産でき、販管費もカバーできます。
ところが販売不振で半分しか売れない場合、工場の固定費、販管費をカバーできず赤字になってしまいます。そこで価格を下げて販売量が増えるのであれば、粗利の合計は増えて赤字が少なくなります。つまり小売業に近い考え方です。
このように販管費も工場には不可欠な費用で、販管費も含めて利益が出る金額で受注する必要があります。しかしこの販管費を「管理費」と考える人もいます。
5. 販管費と管理費
(1) 管理費
管理費とは、商品の発注、在庫管理、納期管理、納品にかかる費用
商社や卸から購入する場合、これらの費用を管理費として見積にプラスします。
商社・卸は、商品を仕入れて販売するだけで加工はしません。それでも営業活動、受注処理、納期管理、納品などに費用がかかります。さらに商品を在庫する場合、在庫管理の費用もかかります。そこで売価の3~10%を管理費として請求します。
工場の場合、管理費は工場の人や設備に関する管理業務
中小企業の場合、製造原価の10~30%にもなります。
(2) 販管費を管理費と考える取引先
ところが取引先が管理費と考えていると、見積書の管理費は低く考えます。
実際に管理費が5%と利益2%、あるいは管理費と利益合わせて10%と指定する場合もあります。
取引先の考える販管費の例
A社は製造原価の20%の販管費が発生しています。
しかし取引先が管理費5%、利益2%、合計7%と指定した場合
販管費は70円、見積金額は1,070円です。
【計算】
• 製造原価 1,000円
管理費+利益 = 1,000円 × 0.07 = 70円
見積金額 = 製造原価 + (販管費 + 利益)= 1,000円 + 70円 = 1,070円

管理費5%、利益2%は適正価格1,264円に対し194円のマイナスです。
赤字=見積金額-販管費込み原価=1,070-1,264=▲194円
どうすればいいでしょうか。
(3) 販管費も原価の一部と考える
販管費を管理費と誤解したことが問題です。
実際は販管費と製造原価の境界はあいまいです。そこで管理費5%、利益2%で見積をつくらなければならない場合、最初から管理費5%、利益2%で適正価格になるように、販管費の一部を製造原価に移してしまう方法があります。
A社の場合、適正な販管費レート20%
• 製造原価 8億円
• 販管費 1億6,000万円
販管費レート= 販管費 製造原価 = 16,000 80,000 = 0.2 = 20%
取引先の指定が管理費5%の場合
製造原価は9億1,429万円、販管費は4,571万円です。
【計算】
製造原価2 修正後の製造原価
製造原価2= (製造原価+販管費) (1+管理費の比率) = (80,000+16,000) (1+0.05) = 91,429万円
販管費2=製造原価+販管費-製造原価2=80,000+16,000-91,429=4,571万円
販管費-販管費2=16,000-4,571=11,429万円
従って現状の販管費1億6,000万円から、1億1,429万円を製造原価に移せば、販管費レートは5%になります。

この販管費は、販売費と一般管理費の合計です。一般管理費は工場での様々な管理活動の費用です。
この管理活動は、原材料や外注加工品のように外部から購入するものと、加工費のように社内で製造する費用と同じと考えてよいかという意見があります。
6. 購入品と内製品の販管費
(1) 原材料や外注加工品で発生する費用
注文書の作成や納期管理、受入検査や研修にかかる費用です。具体的には資材課の人件費と工場の経費の負担分です。
(2) 内製で発生する費用
製造部門だけでなく、生産管理や品質管理など多くの部門が関係します。人数が多いため、それに伴う総務、経理などの費用も高くなります。
(3) 原材料、購入品の比率が大きく違う製品
A社の販管費は製造原価の20%です。
製造原価が1,000円の製品の販管費は20%の200円です。
同じ製造原価で材料費の比率が違っても販管費は同じです。
材料費の比率が大きく違う例
例えば、
- A2製品
- 材料費 900円
- 加工費 100円
- A3製品
- 材料費 100円
- 加工費 900円
販管費はいずれも200円です。
同じ販管費ではアンバランス
(4) 販管費の比率を材料などの購入品と社内の製造費用で分ける
具体的には販管費を二つに分けます。
- 販管費1 購入材料(材料、購入品、外注加工品)の販管費
- 販管費2 製造費用(社内)の販管費
それぞれの販管費から販管費レートをそれぞれ計算します。
その際、購入材料の販管費はいくらなのか、特に根拠はありません。それぞれの販管費から計算した販管費レートを見て、販管費の比率を適当に調整します。
A社の場合
決算書の
- 材料費+外注加工費 3億円
- 労務費+製造経費 5億円
- 製造原価 8億円
- 販管費 1億6,000万円
- 販管費レート: 20%
でした。
購入材料の販管費レート10%とした場合
製造費用の販管費レートは26%です。
【計算】
• 販管費1 3,040万円
その結果
• 販管費2 1億2,960万円
• 販管費レート2 26%

(5) 異なる販管費レートで計算した例
A2製品 販管費116円
A2製品 販管費116円
【計算】
• 材料費 900円
• 加工費 100円
販管費1 = 材料費 × 販管費レート1 = 900円 × 0.1 = 90円
販管費2 = 製造費用 × 販管費レート2 = 100円 × 0.26 = 26円
販管費 = 販管費1 + 販管費2 = 90円 + 26円 = 116円
販管費込み原価 1,116円
【計算】
販管費込み原価 = 製造原価 + 販管費1 + 販管費2 = 1,000円 + 90円 + 26円 = 1,116円

A3製品 販管費244円
【計算】
• 材料費 100円
• 加工費 900円
販管費1 = 材料費 × 販管費レート1 = 100円 × 0.1 = 10円
販管費2 = 製造費用 × 販管費レート2 = 900円 × 0.26 = 234円
販管費 = 販管費1 + 販管費2 = 10円 + 234円 = 244円
販管費込み原価1,244円
【計算】
販管費込み原価 = 製造原価 + 販管費1 + 販管費2 = 1,000円 + 244円 = 1,244円
単一の販管費レートで計算した販管費は200円に対して、販管費レートを分けることで
• A2製品 1,116円
• A3製品 1,244円
材料費率が大きく異なる場合、この方が適切に見積金額を計算できます。
逆に材料費率が製品によって大きく違わない場合、販管費レートは一つで問題ありません。
なおこの計算は決算書の販管費を分割してそれぞれの販管費レートを計算したため、見積金額で販管費が過少になることはありません。
原価計算システム「利益まっくす」
購入材料と製造費用に別々に販管費レートを設定することができ、販管費レートを調整する機能もあります。
(6) 購入品に販管費を認めない場合
極端な場合、材料費に管理費を認めない取引先もあります。
実際は材料の発注、納品にも費用がかかります。それを認めなければ商社や卸は成り立ちません。要求自体に無理がありますが、こういった取引先もあるようです。
購入材料の販管費をゼロ
もし原材料に管理費(販管費)を入れることができなければ、先の計算で購入材料の販管費をゼロとして計算すれば、計算できます。
例えばA社の場合、購入材料の販管費をゼロとすると製造費用のみの販管費レートは、32%です。
有償支給の場合は難しい
ただし材料が有償支給の場合、有償とはいえ支給材料です。従って材料費に管理費を求めるのは難しいかもしれません。
7. 営業費用の異なる製品の販管費
製品に自社製品として営業部門があり、営業経費をかなりかけて販売する製品と、下請けとしてメーカーから部品の製造を請け負う製品がある場合、営業経費が大きく異なります。販管費は、販売費と一般管理費なので、この販売費が変わります。これはどう考えればよいでしょうか?
(1) 事業を分ける
自社製品として販売する場合と下請けとして製造のみを請け負う場合は事業構造が異なります。そこで別々の事業と考えます。
たとえば自社製品と部品製造の比率が半々だった場合、年間の製造原価も半々です。これに対して、自社製品は営業部門の人件費や旅費、広告宣伝費に費用がかかり、販管費は部品製造の3倍かかったとします。
そこでそれぞれの製造原価と販管費から販管費レートを計算します。
(2) 計算例
A社
自社製品と部品製造の比率: 50 : 50の場合
- 製造原価
- 自社製品: 4億円
- 部品製造: 4億円
- 自社製品と部品製造の販管費の比率: 3 : 1
- 自社製品: 1億2,000万円
- 部品製造: 4,000万円
自社製品の販管費レート30%、部品製造の販管費レート10%
【計算】
自社製品の販管費レート= 自社製品の販管費 自社製品の製造原価 = 12,000 40,000 = 0.3 = 30%
部品製造の販管費レート= 部品製造の販管費 部品製造の製造原価 = 4,000 40,000 = 0.31= 10%

製造原価1,000円の販管費込み原価
- 自社製品1,300円
- 部品製造1,100円
自社製品の販管費=1,000×0.3=300円
部品製造の販管費=1,000×0.1=100円
販管費込み原価
自社製品=1,000+300=1,300円
部品製造=1,000+100=1,100円

従って部品製造の場合、1,100円で受注すれば、製造原価、販管費をカバーし、利益はゼロです。
しかし自社製品の場合、1,300円で売らなければ、利益は出ません。
自社製品を商社や卸など流通業者で販売する場合、この販管費の差200円が商社や卸に移転します。つまり販売活動にはそれだけ経費がかかるわけです。
8. NB品とOEM品の販管費
前述の例は、自社製品の製造と部品製造と事業が異なりました。中には同一の製品を自社で販売する場合(ナショナルブランド品: NB品)と、相手先ブランドで製造する場合(Original Equipment Manufacturing: OEM品、あるいはPrivate Brand: PB品)もあります。
(1) NB品とOEM品がある場合
適正な売価を決めるにはNB品とOEM品の販管費を分けます。NB品は営業部門の人件費や旅費、広告宣伝費に費用がかかるため販管費は高く、OEM品は販管費は低くなります。

A社はNB品とOEM品があり、比率は半々だった場合
NB品とOEM品の販管費の比率が3 : 1の場合、
先の場合と同様
- NB品の販管費レート: 30%
- OEM品の販管費レート: 10%
製造原価1,000円の場合
- NB品の販管費: 300円
- OEM品の販管費: 100円
NB品は1,300円で利益ゼロですが、OEM品は1,100円で利益ゼロです。
(2) NB品とOEM品が両方あるメリット
同じ製品でラベルだけ変えて、NB品とOEM品を製造する場合、OEM品を多く受注して生産量を確保し原価を下げ、同じラインでNB品も製造すればNB品単体で製造するよりも原価は下がります。OEM品の価格が厳しく利益がない場合も、量を確保してNB品の原価を下げることはあります。これを活かしてNB品で利益を確保します。
9. 開発費と販管費
(1) 開発部門の費用
自社で製品を開発・製造し開発部門に多くの人がいる企業もあります。開発は設計・プログラム・テストなど高いスキルが必要で人件費も高くなります。その結果、開発部門の費用は高くなります。ただし開発部門は製品を直接製造しないため、その費用は間接費です。

(2) 開発部門の分だけ原価は上がる
従って開発部門がある企業は間接費が高く、原価は高くなります。こういった企業は自社製品を開発することが多く、開発した自社製品は原価に対して高く売れるため、高い原価が吸収できます。
開発部門が製造原価の問題
多くの場合、開発部門の費用は製造原価になり、その費用は間接費です。その結果、間接費が増加し、直接部門のアワーレートは増加します。実際にそれだけの費用が発生しているため、高くなった原価は正しい原価です。
内製加工のアワーレートが上昇
問題は社内で部品を内製する場合です。開発部門のためアワーレートが高く、内製加工部門のアワーレートも高くなります。その結果、社外の部品メーカー(外注)と比べても高くなります。その結果「内製は高い」と外注加工を推進します。
その結果、内製加工部門の稼働率は低下し、逆に外注費は増加します。会社は儲からなくなります。
これは開発部門の費用を内製加工部門にも負担させたことが原因です。
(3) 対策
2案あります。
1. 開発部門の間接費は内製加工部門には負担させない。
内製加工部門は工場の経費のみ負担させます。その分組立部門の経費の負担が増え、組立部門のアワーレートが高くなります。
2. 開発部門の費用を製造原価でなく販管費とする。
開発部門の活動を研究開発と考えれば、製造原価でなく、販管費と考えることもできます。大企業の場合、研究開発費は販管費に計上するのが一般的です。そこで開発部門の費用を販管費とします。
製造原価は製造に関する費用のみとなり、内製加工部門の原価は社外と比較しやすくなります。
(4) 税制上の優遇
研究開発費は税制上の優遇を受けることもできますが、その場合も研究開発費が適切に費用計上される必要があります。開発部門の活動で研究開発に該当する時間を記録し研究開発費として計上する必要があります。その場合も製造原価より販管費の方が研究開発費として社内で認識されるようになります。
自社製品が利益を上げるためには、高い販管費でも利益が出るような売価にする必要があります。
では顧客の仕様に基づいて、その都度設計する製品の設計部門の費用はどうすればよいでしょうか。これについては別のコラムで説明します。
まとめ
- 儲かっているかどうかは粗利だけでなく販管費も考慮が必要
- 製造業の販管費は原価の一部と見なして見積に追加
- 販管費は製造原価に対する販管費の比率(販管費レート)から計算
- 製造業は生産能力が設備と人の制約を受けるため小売業のような薄利多売は困難
- 取引先が販管費を低くしか認めない場合、販管費の一部を製造原価に移す
- 原材料費の比率が高い製品と低い製品がある場合、購入材料と製造費用の販管費レートを変える
- 自社製品と下請けの部品製造では販管費が異なる
- 開発部門の費用を製造原価とすると内製加工費用が社外の加工先と比べて高すぎることが起きる
経営コラム【製造業の原価計算と見積】【製造業の値上げ交渉】は下記リンクを参照願います。
中小企業ができる簡単な原価計算手法
書籍
「中小製造業の『原価計算と値上げ交渉への疑問』にすべて答えます!」
「原価計算」と「値上げ交渉」について具体的に解説した本です。
原価計算の基礎から、原材料、人件費の上昇など原価に与える影響がわかります。取引先との値上げ交渉のポイントも解説しています。実務担当者から管理者・経営者に役立つ内容です。
中小製造業の『原価計算と値上げ交渉への疑問』にすべて答えます!
日刊工業新聞社

「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」
「この見積価格は正しいのだろうか?」「ランニングコストはどうやって計算するのだろうか?」多くの製造業の経営者や管理者が感じている「現場のお金」の疑問についてわかりやすく書した本です。
切削加工、プレス加工の架空のモデル企業を使って、アワーレートや見積金額を具体的な数字で示しました。難しい会計の理論はないので、会計の苦手な方も抵抗なく読めます。
中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!
日刊工業新聞社

「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」【基礎編】【実践編】
中小企業が自ら製品の原価を計算する手引書として、専門的な言葉を使わず、できる限り分かりやすく書いた本です。「難しい会計の知識は不要」「原価計算の専任者がいなくても事務や経営者ができる」ことを目指して、
【基礎編】はアワーレートや間接費、販管費の計算など原価計算の基本について書きました。
【実践編】は具体的なモデルを使ってロットの違い、多台持ちなど実務で起きる原価の違いや損失について書きました。
月額5,000円で使える原価計算システム「利益まっくす」

中小企業が簡単に使える低価格の原価計算システムです。
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セミナー
アワーレートの計算から人と設備の費用、間接費など原価計算の基本を変わりやすく学ぶセミナーです。人件費・電気代が上昇した場合の値上げ金額もわかります。
オフライン(リアル)またはオンラインで行っています。
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