製造業の個別原価計算 29「販売費及び一般管理費を原価の中でどう考えるか?」

製造業の場合、費用は製造原価と販売費及び一般管理費 (以降、販管費)があります。

製造原価は製品を製造する際に発生した費用で、材料費、労務費、その他経費(減価償却費、電力料、賃借料、修繕料など)などです。

販管費は商品や製品を販売するための費用(販売費)と会社全般の業務の管理活動にかかる費用(一般管理費)です。

この販管費はどのように考え方らよいでしようか?

個別原価での販管費について考えました。
 

販管費はどのような費用か?

 

一般的には以下の費用は販売費及び一般管理費に計上されます。

【人に関する費用】

役員報酬

(製造部門以外の人の)賃金、社会保険料

福利厚生費
 

【営業・事務に関する費用】

広告宣伝費

旅費交通費

事務用品費

荷造運賃
 

【その他製造原価にならない費用】

(工場以外の)水道光熱費

(工場以外の)消耗品費

(工場以外の)リース料、減価償却費

(工場以外の)租税公課

(工場以外の)雑費

その他の費用
 

この販管費は、販売費と一般管理費を合計したものです。

このうち一般管理費は上記の事務の費用やその他製造原価に含まれない費用です。しかしこれらの費用の大半が工場で働く人や工場や設備を維持するための費用で、工場には不可欠なものです。

従って財務会計上は製造原価と販管費は異なるものですが、販管費も製造に必要な費用と考えます。
 

販管費も見積に入れるべき

 

見積をつくる際に、製造原価に必要な売上総利益(粗利)を足して計算する企業もあります。
そして「粗利が〇%以上あるから儲かる」と判断します。

実際は粗利から販管費を引いたものが営業利益です。

営業利益がマイナスであれば赤字です。

最近は中小企業でも様々な管理業務が増えて、そのための人材を増えています。その結果販管費も増大し、売上高の15~30%を占めています。

従って常に販管費を意識して、受注金額から製造原価と販管費を引いて、必要な営業利益が確保できるようにします。この費用構造を図に示します。
 

製造原価と販管費

製造原価と販管費


 

販管費レートの計算

 

では個別原価の販管費はどのように計算すればよいでしょうか?

販管費は間接製造費用と同様に「どの製品にどれだけかかっているのかわからない費用」です。

そこで先期の決算書から製造原価に対する販管費の比率(販管費レート)を計算します。

個別原価の販管費は、その製品の製造原価に販管費レートをかけて計算します。

販管費計算の例

販管費と見積計算の例を示します。

ある製品は
材料費200円
製造費用1,000
販管費レート20%
でした。

販管費は

販管費=(200 + 1,000)×0.2 = 240円

販管費込み原価=200+1,000+240=1,440円

目標見積原価利益率14%
の場合

目標利益=1,440×0.14=201.6≒200円

見積価格=1,440+200=1,640円

見積価格は1,640円になります。
 

製造原価、販管費と見積価格

製造原価、販管費と見積価格


 

売上が減少すると販管費が高くなる

 

製造業は固定費の比率の高い事業です。

従って固定費を管理し、固定費に合わせて売上を最大化する必要があります。

その点、販管費は大半が固定費です。

前述した販管費の個々の費用は、売上が減少しても短期間では減りません。(長期的には減らすことは可能ですが。)

従って、現在の販管費で実現できる最も高い売上を達成するように、受注と生産を頑張ります。もし売上が少なくなると、売上に対し販管費の比率が高くなり、販管費レートが上昇します。その結果、見積が高くなります。

例えば売上が減少して販管費レートが20%→25%になれば

販管費=(200 + 1,000)×0.25 =300円

販管費込み原価=200+1,000+300=1,500円

目標見積原価利益率14%
の場合

目標利益=1,500×0.14=210円

見積価格=1,500+210=1,710円

見積価格は1,710円になり、70円高くなります。
 

売上が減少すると

売上が減少すると


 

購入品と内製品の販管費は同じでよいか?

 

小売業の場合、どの商品も問屋さんから仕入れて販売します。従って商品ごとの販管費の比率は同じです。

製造業で、小売業のように外部から購入して顧客に納入する製品と、材料のみ購入し自社で内製加工して納入する製品があった場合、同じ販管費レートで良いでしょうか?

購入品と内製品の社内の管理の手間を比較すると

《購入品》

発注、納品・受入、検収、支払
 

《内製加工品》

材料発注、納品・受入、検収、支払

社内生産計画・進捗管理、製造、検査、出荷
 

社内での製造工程の分、関係する部署が多くなります。その分一般管理費も増えます。

つまり
事務所に社員・パートが8名いる場合、購入品だけなら2人で十分だが、工場に80人いるから、あと6名が必要なのです。

そうなると、購入品に対して販管費レート20%は高いということになります。その場合は、購入品と内製品の販管費レートを変えます。
 

購入品と内製品の比率が異なる場合

 

例えば以下のA1製品とA2製品の製造原価はどちらも1,200円です。しかしA1製品は材料費200円、製造費用1,000円に対し、A2製品は材料費1,000円、製造費用200円です。

同じ販管費レート20%であれば、販管費はどちらも240円です。しかし先の考え方から、A2製品は製造費用が200円と少なく、人や設備をA1製品ほど使用していないため、販管費は低いはずです。

そこで今回は
購入品の販管費レート10%
内製品の販管費レート30%
として計算しました。

これは販管費レートを計算する際に、購入品と内製品を分ければ計算できます。ただしどちらをどのくらい多くするかは正解がありません。トライ&エラーで決めていきます。

この例では

【A1製品】

材料費200円
製造費用1,000
販管費レート(購入品) 10%
販管費レート(内製品) 30%

販管費=200×0.1 + 1,000×0.3 =320円

販管費込み原価=200+1,000+320=1,520円

目標見積原価利益率14%

目標利益=1,520×0.14=212.8≒210円

見積価格=1,520+210=1,730円
 

【A2製品】

材料費1,000円
製造費用200
販管費レート(購入品) 10%
販管費レート(内製品) 30%

販管費=1,000×0.1 + 200×0.3 =160円

販管費込み原価=200+1,000+160=1,360円

目標見積原価利益率14%

目標利益=1,360×0.14=190.4≒190円

見積価格=1,360+190=1,550円
 

見積価格はA1製品1,730円、A2製品1,550円になります。

同じ販管費レート20%の場合、A1製品、A2製品どちらも1,640円なので、販管費レートを変えることで購入品と内製品の比率の違いが見積価格に反映されました。
 

購入品と内製品の比率が異なる場合

購入品と内製品の比率が異なる場合


 

購入品の販管費を認めない取引先の場合

 

販管費は販売に限らず企業活動で必然的に発生する費用です。これがなくては工場を運営できないため、その費用は当然見積に組み込まなければなりません。

ところが取引先によっては購入品の販管費を認めないところもあります。

「付加価値を生む製造費用は販管費や利益を認めるが、右から左に流すだけの購入品は販管費や利益は認めない」という考えのようです。
(それを言われると商社や卸は成り立たなくなってしまうのですが…。)

もし購入品に販管費を入れなければ見積はどうなるのでしょうか?
 

この場合、購入品にかかっていた販管費の回収も全て内製品から行うことになります。従って、製造原価の中で購入品の金額が50%、つまり半分が購入品の場合、
販管費レート(購入品) 0%
販管費レート(内製品) 40%
になります。

その結果
A1製品、A2製品の価格は

【A1製品】

材料費200円
製造費用1,000
販管費レート(購入品) 0%
販管費レート(内製品) 40%

販管費=200×0 + 1,000×0.4 =400円

販管費込み原価=200+1,000+400=1,600円

目標見積原価利益率14%

目標利益=1,600×0.14=224≒220円

見積価格=1,600+220=1,820円
 

【A2製品】

材料費1,000円
製造費用200
販管費レート(購入品) 0%
販管費レート(内製品) 40%

販管費=1,000×0 + 200×0.4 =80円

販管費込み原価=200+1,000+80 =1,280円

目標見積原価利益率14%

目標利益=1,280×0.14=179.2≒180円

見積価格=1,280+180=1,460円

見積価格はA1製品1,820円、A2製品1,460円になります。
 

購入品の販管費を認めない場合

購入品の販管費を認めない場合


 

顧客がこのような指示をすれば、内製品の比率の高い製品は固定費の回収(販管費)が大きくなり、購入品の比率の高い製品は固定費の回収が少なくなります。

おそらくどの企業もA2製品の受注を嫌がると思います。
 

営業費用が異なる場合の販管費レート

 

販管費には営業費用も含まれます。

もし同じ製品でも営業費用が大きく変わる場合は、価格はどうなるのでしょうか?

例えば、ある製品を一部はOEM製品として顧客に納入し、一部は自社商品として販売する場合です。

この場合、BtoBは、営業担当者は少なく、他に販促費用がかかりません。

しかし自社商品は、営業担当者の人数が多く、取引先が全国にあれば旅費などの経費もかさみます。またカタログやパンフレットの製作、専用ホームページの作成など広告宣伝の費用もかかります。インターネットによる直販も行っていれば受注受付や発送などの費用もかかります。
 

事業によって異なる販管費

事業によって異なる販管費


 

この場合、同じ販管費レートだとBtoBに対しては販管費が過大となります。

そこで図に示すように、製造原価と販管費をそれぞれの事業で分けて、販管費レートを別々に計算します。実際は製造原価や販管費をBtoBと自社商品で分けて集計するのは困難なので、生産台数に応じて分配します。図にA社の例を示します。

この例ではB事業が自社商品です。自社商品は広告宣伝のため費用が多くかかるため、販管費レートは40%になりました。

A1製品がA事業とB事業で取り扱った場合の価格を計算します。

A事業のA1製品の価格 (販管費レート20%) 1,640円

【A2製品】

材料費200円
製造費用1,000
販管費レート 40%

販管費=(200 + 1,000)×0.4 =480円

販管費込み原価=200+1,000+480=1,680円

目標見積原価利益率14%

目標利益=1,680×0.14=235.2≒240円

見積価格=1,680+240=1,920円

見積価格はA1製品1,640円、A2製品1,920円になります。

実際は自社商品の場合は利益率も高くしますので、価格はもっと高くなります。
 

事業によって異なる販管費

事業によって異なる販管費


 

自社で販売するのは、営業体制の構築や広告宣伝、販売ツールの整備など大変な手間と時間がかかりますが、販売という大きな付加価値を生むプロセスを自社に取り込むため、利益率は高くなります。
(逆に自社で販売する場合、それぐらいの高い利益率にならなければ自社で販売するメリットがありません。)
 

NB品とOEM品

 

自社で販売すれば利益率が高くなるが、自社では十分な量が販売できない場合、製品の一部はOEM製品としてBtoBで販売する方法もあります。

取引先の規模が大きければ、取扱量も多く、高い稼働率で工場を動かせます。

その上、その製品の一部を自社製品として販売すれば、OEMでのボリューム効果から低コストが得られ、製品の競争力が高くなります。

これは自社商品化できる製品を持っている企業で同業者と協力関係にある場合、使える戦略です。ただしOEMはあまり多くなりすぎないように注意しないと、OEMが主となって、OEM先の下請企業になってしまいます。

またこの戦略を取るためには自社で製品を開発できる必要があります。そのためには商品企画、デザイン、試作、評価などの体制も必要です。そして取引先から言われたものを生産するのでなく、自分たちが開発した商品を取引先に提案して、OEMとして採用してもらいます。その際、自社製品として販売する旨を了承してもらいます。

このOEMの活用は販売力が弱い企業が自社商品を立ち上げる際に、工場を安定稼働させるために使える方法です。
 

こういった製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。

 

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