独創的な考えを生み出す柔軟的思考

今日ほどイノベーションの重要性が語られている時代はないかもしれません。

本コラムでは「どうすれば新しいアイデアが生まれるのか」発想法について、

「アイデアだけでない!発明の成功と失敗を分けたもの」で発明から実用化までの道のりを

「ひらめきを生むには?偉大なイノベーターが取り組んできた方法」でイノベーターに必要な4つの力について

「独創的なアイデアを生み出すための発想法 その1」ではジェームズ・ヤングのアイデアの作り方を紹介し

「独創的なアイデアを生み出すための発想法 その2」ではコラボレーションの力について

「なぜアイデアが出ないのか?製品開発と発想法の関係」では、ひらめきのメカニズムとブレインライティングやTRIZなどアイデア出しの手法について

述べました。

今回は、アイデアを出すために必要な柔軟的思考について考えます。
 

画期的なアイデアとイノベーション

 
iPhoneのタッチスクリーン、ダイソンのサイクロン方式の掃除機、ホンダジェットの翼の上のエンジンなど、革新的な製品には、今までにない発想の技術や機能があります。このような独創的な発想はどのようにして生まれたのでしょうか?
 

例えばホンダジェットの翼の上にエンジンを置くアイデアは、藤野道格氏(現ホンダエアクラフトカンパニー社長)の発案でした。
 

図1 ホンダジェット (wikipediaより)

図1 ホンダジェット (wikipediaより)

新型ビジネスジェットの構想に悶々としていた藤野氏は、ある日床に就いた時新型ビジネスジェット機の姿が鮮明に浮かびました。その姿が消える前にあわてて書き残そうとした藤野氏は、壁にあったカレンダーを引きちぎり無心で心に浮かんだジェット機を書きました。その機体はエンジンを翼の上に取り付けていました。従来翼の上にエンジンを置くことはタブーとされてきました。翼の上の空気の流れとエンジンからの空気の流れが干渉して抵抗が大きくなるからです。

一方従来のようにエンジンを胴体に取付ければ、エンジンを支える強度部材が胴体を貫通するため室内が狭くなり、エンジンの振動も客室に響きます。「本当に抵抗は大きくなるのか」藤野氏は、何度もシミュレーションを繰り返し、翼の上のある1点、そこにエンジンを置いた時だけ、干渉がなくなりむしろ抵抗が少なくなる点を発見しました。
 

図2 MH02 (wikipediaより)

図2 MH02 (wikipediaより)

このように聞くと、藤野氏という優れた技術者の独創的なアイデアと思えます。しかし実はその前にホンダは、MH02(通称 シビックジェット)という機体を試作していました。決してスマートとは言えない機体でしたが、こうした積み重ねの上に藤野氏の独創がありました。

今日では情報通信技術の発達により社会はめまぐるしく変化し、従来主流だったものが短期間に時代遅れになっています。フィルムカメラはわずか数年で急速にデジタルカメラに置き換わり、フィルム界の巨人コダックですら倒産しました。そのデジタルカメラもスマートフォンのカメラ機能の発達により短期間に市場を失い、今では写真を趣味とする人のみのものとなってしまいました。

このような時代においては、従来のように決まった公式にあてはめて正解を出すのでなく、答えのない中で最適な解を見つける能力が求められています。そしてそのような心は人類が太古の昔から持っていたものでした。
 

変化を求める心

 

人類大移動

実は13万5千年前、急激な気候変動により人類の祖先は絶滅の危機に瀕していました。当時人類の数は激減し、今ならレッドリストに入るくらいでした。この時、人類を救ったのが好奇心でした。現状に満足せず、ひとつのところにじっとしていられない「落ち着きのない」私たちの祖先は、今いる居住地を離れ、世界各地にさまよいました。

そして人類が誕生してから数十万年前までアフリカに留まっていた人類は、5万年前までにヨーロッパ全域に広がりました。そして1万2千年前までに地球の隅々にまで広がりました。南アメリカの南端に住む先住民族は、この人類の大移動に乗ってアフリカからヨーロッパ大陸、北アメリカを通り、南アメリカに達した「最高に落ち着きのない」人たちの子孫です。こうして私たちの祖先は、未開の地を探検することで生存に適した新たな地域に広がり、種を存続させることができました。

このリスクを取る能力は個人差があります。それは脳の報酬系にはたらく神経伝達物質ドーパミンの違いによります。ドーパミン受容体遺伝子D4 (略してDRD4)はドーパミンに作用する神経伝達物質で、このDRD4にはいくつか変種があります。そして特定の変種を持っている人は、報酬系のドーパミンに対する反応が弱くなってしまいます。このような人は満足することが少ないため、常にリスクを取って変化を求める傾向にあります。
 

柔軟的思考には報酬が必要

そして独創性や柔軟的思考には、脳の報酬系に対する反応が不可欠です。つまり何かをすることで心が満たされる「楽しい」と思う必要があります。140万年前、人類の祖先ホモ・エレクトスがつくった左右対称の手斧は最古の芸術作品です。狩りや伐採の道具である手斧はきれいな左右対称の必要はありません。140万年前、この手斧の持ち主は現代の彫刻家同様にきれいな対称形にすることに喜びを感じて黙々と作業(創作)に励んだと思われます。

このような芸術活動は、その結果自体が脳に対する報酬、つまり楽しさです。これに金銭的な報酬を加えると「創作」の喜びは半減します。無報酬だからこそ楽しいのであって、140万年前でも、誰かが手斧を完全に対象にしたら「マンモスの肉1塊」の報酬を与えたら、彼の創作意欲は半減したでしょう。

一方1950年代のコンピューター学者は、コンピューターが複雑な論理的問題を解決できればそれは知能を持つと考えました。そしてこの汎用問題解決プログラムを人工知能と呼びました。確かにコンピューターは「AはBである」「BはCである」ゆえに「AはCである」といった論理演算を高速で行うことができます。

しかし現実の問題の解決には、「欲しい」「いらない」といった欲望や報酬に関するものが必要です。つまり現実の問題は意思決定を含むため、「Aさんはアップルパイが好きだ」「アップルパイが300円で売っている」ゆえに「Aさんはアップルパイを買う」とはならないのです。こういった現実問題を解くには欲望や報酬も含めた柔軟的思考が必要です。しかし何十億個ものトランジスタを並べた今日のコンピューターでも柔軟的思考は実現していません。
 

報酬系と意思決定

人の意志決定に脳の報酬系はとても大きな影響があります。我々の日常「1,000円の予算でランチセットに食後のコーヒーを頼むか、1,200円のコーヒーデザート付きの定食にするか」といった意思決定を日常行っています。その際には、余分に200円かかる「痛み」とデザートとコーヒーという「喜び」をはかりにかけているわけです。

35歳で脳に腫瘍が見つかり切除した「患者EVR」と呼ばれる人物がいました。手術の後心理テストを行いましたが、IQは120前後あり問題ありませんでした。しかし手術の後、彼は物事を一切決められなくなりました。実は手術により脳の報酬系の機能を一部切除したため、満足を感じられなくなっていたのです。しかし心理テストは分析能力を主にテストするため、異常は見られませんでした。しかし、あいまいな状況で意思決定を行うには、論理的には結論が出ず、様々な条件を懸案してほどほどのところで妥協する(満足する)という感情の働きが欠かせないのです。

論理的に正解がなく、あいまいな条件の中で意思決定を行うには、脳の報酬系の働きが欠かせないことが分かりました。そしてそのような意思決定は欲望と報酬系のある人しかできません。欲望のないコンピューターに、アップルパイとシフォンケーキのどちらが良いか、決めることはできないのです。
 

脳の報酬系と前頭前野

 

休んでいない脳

よく私たちは脳全体の10%程度しか使っていないと言われます。しかし実際は休んでいる間も脳全体がくまなく活動しています。近年脳イメージング技術の発達により、休んでいる時、脳がどのように活動しているのか明らかになってきました。その結果休んでいる時の脳は盛んに活動し、しかも今まで関係がないと思われていた脳の各部の構造体が互いに交信してネットワークを構成していました。これをデフォルト・ネットワークと呼びます。このデフォルト・ネットワークを構成する構造体は、連合野と呼ばれる領域にあり、ここには感覚系、運動系、そしてそれらと無関係に精神プロセスに関するものがあります。

図3 fMRIスキャンが示す大規模脳ネットワーク (Wikipediaより)

図3 fMRIスキャンが示す大規模脳ネットワーク (Wikipediaより)

従って私たちは考えるだけでなく、見たり聞いたりといった五感で受け止めたことや、運動などの刺激と、頭で考えたことがネットワークを形成し、そのつながりの中からひらめきを生み出されるのです。そして大脳に存在するニューロンの3/4が連合野に含まれています。

この連合野は舞台裏(無意識)で働いていて、いろいろな思考があちこちをさまよっています。特にぼーっとして何かに集中していない時に活発に働きます。ですから藤野氏のように寝ようと思ったときに理想の飛行機の姿がくっきりと浮かび上がるのです。同様に入浴や食事、散歩なども連合野の働きが活発になりひらめきが生まれやすくなります。
 

自由奔放な脳と厳格な脳

一方脳は右脳と左脳で異なる思考をします。左脳は論理的に整合の取れた連想を行い、右脳は直感に基づいて漠然とした風変わりな連想を行います。よく芸術家は右脳が活発に働くと言われています。このように脳は、右脳と左脳で独立した認知システムとなっていて、それを脳梁の上にある前帯状回と呼ばれるものが繋いでいます。例えば、左脳が論理的に考えても答えが見つからない場合、前帯状回が介入して、右脳の働きを強めます。そして右脳により柔軟的思考が行われ、アイデアが生まれます。

これは言い換えると、厳格でルールに基づいて思考する左脳と、脈絡がなく自由奔放に思考する右脳があり、それを前帯状回がコントロールしています。日常は左脳の論理的な思考で判断していますが、論理的な思考で解決できない状況に陥ると、前帯状回が介入して右脳のはたらきを強めます。そして人類は、右脳の柔軟な思考、リスクを冒してチャレンジする思考により新たなフロンティアを開拓して生き延びることができたのです。
 

自動操縦モード

このように私たちの意思決定には、論理的な決定と柔軟であいまいな中での決定があります。一方今日では我々が1日に受け取る情報量が非常に多くなっています。数十年前には一人で1日に受け取る情報量は3万語以下でした。今日では10万語以上と3倍になっています。ランチに行くのにも、今までは近くのA店とB店とC店の3択だったものが、今ではグルメサイトを検索して、20以上のお店から価格とメニューを比較しています。

このような多くの情報に対して、私たちは毎回厳密で論理的な判断を行っていません。今までに経験した決まったパターンに従って「自動操縦モード」で選択します。

心理学者のエレン・ランガーは、被験者がコピーを取ろうとする時、実験スタッフに「先にコピーを取らせてもらうように」お願いした時の反応を調べました。実験の結果、お願いの最後に「急いでいる」という理由を言うと94%の被験者が頼みを聞き入れました。ところが理由を「コピーを取りたい」という理由でも93%の人が頼みを聞き入れました。つまり理由を言われたら譲るという自動操縦モードになっていたのです。
 

このように私たちは、日常生活の様々な場面で判断する際、重要でない大半の判断はすでに決められた台本に従って自動的に判断していました。しかも台本の中身をチェックすることなく。この自動操縦モードは、専門家の判断にも見られます。専門家は幅広い知識を持っていて、それを駆使して様々な問題に対し判断を下します。その時これらの問題に対して判断するのは論理的な連想の左脳です。そして専門家はなまじ豊富な専門知識があるため、常に左脳で判断するため柔軟な思考に欠けることがあります。その結果、視野狭窄に陥り誤った判断に陥ってしまいます。(専門家の誤謬)
 

「アメリカ医学会ジャーナル」が数万件の入院例のデータを調べたところ、急患患者の30日後の死亡率は、主任の医師が不在の時は1/3に下がっていました。これは主任の医師の誤診が多いことを示し、その理由は普段見慣れない症状があってもそれまでの経験に基づいて判断してしまうためでした。つまり誤診されたくなかったら「経験の浅い医師」に診てもらうことです。
 

図4 診察は経験の浅い医師に

図4 診察は経験の浅い医師に

これに対して、対立する意見は別の視点で考えるきっかけになり視野狭窄に陥るのを避けることができます。心理学者のセルジュ・モスコヴィッシは青色と緑色のスライドの色を判定する実験を行い、参加者の何人かにわざと間違った色を答えさせました。そして、再びテストを行ったところ、被験者は先の間違った回答の影響を受けていたことが分かりました。つまり人は他人の間違った回答に対して納得していなくてもその影響を受けているのです。従って対立する意見により自分の凝り固まった考えが揺らぐ効果があることが分かりました。

脳は無意識があげた様々な考えのうち、非現実的なアイデアを取り除くフィルターがあります。つまりばかばかしいと思うアイデアは、頭の中に顕在化する前に排除しています。つまりそれとなく浮かんでいても気づかないのです。
 

疲れた方がアイデアが浮かぶ

 

自由奔放な脳を解き放つ

近年集団行動が苦手な子供たちが注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断されることがあります。ところがADHDの子供とエリート学者養成課程の子供に極めて共通していることが分かりました。

ADHDは報酬系のドーパミン受容体が正常でなく脳の報酬回路が弱まっています。そのため何を達成しても良い気分が続かず、すぐ他のことに気持ちが向かってしまいます。そのため学習で決まった課題をこなすことが困難な反面、本当に興味を持てるようなことに直面すると取りつかれたように集中します。そう考えるとADHDは太古の昔、私たちの祖先がフロンティアを開拓する力の源泉ともいえます。

図5 脳の構造

図5 脳の構造

一方私たちは日常生活で、欲望のままに自由に行動すれば非難されたり逮捕されたりします。お腹が空いたからと言って、コンビニ棚からおにぎりを取ってお金も払わずに口に入れれば犯罪です。そのような社会規範に反する考えを抑制する認知フィルターが前頭前野の側面にある脳の指揮系統 外側前頭前野です。脳卒中などで外側前頭前野を損傷すると、欲望に対する抑制が働かず、レストランで通りがかりの隣のテーブルの食べ物を平気で食べてしまいます。

また子供の脳は、運動や感覚といった機能が最初に発達し、前頭葉が発達するのは後になります。そのため幼児は外側前頭前野が未発達です。初対面の人にいきなり失礼なことを言って親をハラハラさせます。
 

一方で外側前頭前野は脳の柔軟な思考を妨げます。例えば外側前頭前野の働きを電磁エネルギーで弱めると、柔軟的思考の能力が高くなります。詩人のアーシュラ・K・ル・グウィンは「創造的な大人とは生き延びた子供のことである」と語っています。

この外側前頭前野はドラッグやアルコールによっても働きが弱くなります。職場の飲み会でアルハラやセクハラが起きるのも、普段は意識していない欲望がアルコールにより外側前頭前野という番人が弱くなったために開放されてしまうからです。
 

また外側前頭前野は脳が疲れてくると働きが弱まります。つまり脳が疲れた時の方がよいアイデアが出るのです。2011年ミシガン州立大学で、朝方と夜型の学生に対して、それぞれ朝と夕方に同じような分析的な能力が必要な問題と独創的な能力が必要な問題を出しました。その結果、自分にとって調子の良い時間帯では、分析的な能力が必要な問題の成績が良く、調子の悪い時間帯では創造的な能力が必要な問題の結果が良いという結果になりました。疲労している方が柔軟的思考能力が高まるのです。

従って想像力の高い人には外側前頭前野の働きが弱い人が多く、これはモラルや理性が低いことでもあります。実際、創造的な仕事をする音楽家や研究者には奇行が知られています。
 

2016年に69歳で亡くなったデイヴィッド・ボウイは、1970年代10代の頃は、コカインを常習し12~15才のファンの女の子の多くと性的関係を持ちその数は1,000人を超えると言われています。

また交流を発明し、エジソンと競ったニコラ・テスラは、幼少期は強い強迫観念に囚われ、成人以後は異常な潔癖症でした。また「宇宙人と交信している」などの奇怪な言動が多くありました。

図6 ニコラ・テスラ(wikipediaより)

図6 ニコラ・テスラ(wikipediaより)


 

一方多くの人はそこまで外側前頭前野の働きは弱くなく、法と社会常識の範囲内で平和に過ごしています。逆にこの法と社会常識の範囲内に思考を狭めてしまうため、無意識下にアイデアが浮かんでも、脳の認知フィルターがそれを排除してしまいます。そしてありきたりなアイデアしか浮かばなくなってしまいます。アイデアを出すためには外側前頭前野の働きを弱めて自分の持つ創造性を活性化させる必要があります。しかもアルコールやドラッグに頼ることなく。
 

例えばアイデア出しの場で、「おバカ棒」という方法があります。これを握って提案する時は、決して馬鹿にしてはいけないというルールでアイデア出しを行います。これは前頭前野の働きを弱める効果があり、初期段階のアイデア出しでは大きな効果があります。
 

何もしない時間

前述のように考え続けて脳が疲れた時、前頭前野の働きは弱くなり、柔軟な思考能力が高まります。この脳が疲れた状態で何もせず、心を解き放つとひらめきが生まれます。例えば以下のような状態です。

  • トイレや入浴、就寝時
  • 散歩
  • 車の運転
  • 飲酒やドラッグ

ただし飲酒はそのまま飲み続けると大抵はひらめきを忘れてしまいます。
 

あるいはいろいろなアイデアを持っている人との会話は、会話から入って来る情報が脳のネットワークに新たなつながりをもたらし、ひらめきが生まれます。実際、組織の中で良いアイデアを持っている人の多くが、組織の構造的なすきま、つまりチームとチームのはざまにいる人たちです。彼らは双方のチームから豊富な情報を得ていて、両方の情報を結びつけることでひらめきが生まれます。
 

スティーブ・ジョブズはピクサーを買収した際、本社の中央にアトリウムを設け、そこに会議室、メールボックス、カフェテリア、トイレを設置しました。ジョブズは、毎日組織の様々な人たちが顔を合わさずにはいられない環境をつくり、アイデアを生まれるようにしました。このように様々な専門分野の情報、矛盾する情報や多くの人の意見に触れることが、ひらめきには必要です。
 

「想像力は天賦の際ではない。アイデアの”取引”によってうまれるものだ」
社会学者ロナルド・S・バート

 

柔軟的思考

 

こうした柔軟的思考をもったイノベーターには他にも特徴があります。
 

イノベーターの特徴

そのひとつが、決して満足しない高い要求と、強い探求心です。買ってきた製品に少しでも不満があれば、怒鳴り散らして「くそだ!」と蹴飛ばすことです。そして、さらにその後で「なぜ○○なんだ?」と問いかけることです。
 

アップルでiPodプロジェクトメンバーのフィル・シラーは以下のように語っています。
「私たちは本当にウォークマンにうんざりしていたので、何かをつくらずにはいられなかった」それは彼の音楽に対する情熱と、当時主流だったウォークマンという製品への不満でした。そしてiPodを開発する際に1980年代ヒューレット・パッカードのワークステーションにあったスクロールホイールを使用しました。これはiPod発売当時「売り」となりました。

図7 初代iPod  (wikipediaより)

図7 初代iPod (wikipediaより)


 

情報収集の力

このように脳の無意識は休んでいる時も答えを探し求めて活動しています。そこからひらめきを生み出すには、非常に多くの情報と情報のつながりが必要です。そしてある情報のつながりがひらめきになります。ホンダジェットの藤野氏は、以前翼の上にエンジンを置いた飛行機の論文を読んでいました。しかしその時は特に強い関心を持ちませんでした。しかし潜在意識にあったその情報が、「どうしたら良い飛行機がつくれるのか?」という心の中の問いかけに対してホンダジェットと結びついて閃いたのです。
 

つまり必要なのは多くの情報量です。そのためには様々なことに興味を持つ必要があります。情報を求めていると、飛んでいる電波にスイッチを合わせるように必要な情報が入ってきます。さらに情報収集と合わせて、いろいろな人の意見が発想を刺激します。

多くの人と会話することが効果的なのは、違う意見を聞くことで潜在意識にある考えが顕在化するからです。そのためには多くの全く違う人と、弱い絆でつながっているのが望ましいです。そこから様々な情報が入ってきて、無意識下の膨大なネットワークを構築します。
 

副業の効果

その点で、近年話題となっている副業は、本業に影響を与えない程度の軽い負荷であれば、今までとは違うネットワークが手に入り、今までとは異なる情報が入手できるメリットがあります。例えば

  • 情報のインプットが増える
  • 様々な異なる意見を聞く
  • 討論で反対意見を聞く

このようなことが副業で行われれば、脳の情報処理量が増え、本業にもプラスの効果が見込まれます。また2か所で働くことで脳を酷使することになり、脳が疲れてひらめきが生まれやすくなります。
 

組織のアイデアフィルター

 

アイデアの絞り込む

もしアイデアを出すことが目的であれば、今まで述べたことを深めていけば、斬新なアイデアを出せるようになると考えます。しかし現実には組織の中でアイデアを選択し、事業や製品にしなければなりません。このアイデアの絞り込みが難しい作業です。
 

スティーブ・ジョブズは
「本当に難しいのはよいアイデアをつぶすことだ」
と語っています。そして革新的なアイデアは欠点も多くあります。そして他にも欠点の少ないアイデアもあります。その中で、本当に核となるアイデアを残して、他の「良いアイデアを捨てる」ことが必要です。
 

集団での意思決定の問題

このどのアイデアを残して、どのアイデアを捨てるかは、意思決定にかかわる人間の考え方と意志、そして企業文化によります。
 

ソニー創業者の井深大氏は、カラーテレビの開発で他社に後れを取りました。ブラウン管の方式を他社が採用していたシャドーマスクはやりたくないと、パラマウントが所有していたクロマトロン方式を導入しました。クロマトロン方式のカラーテレビは、画像は明るく鮮明でしたが品質は安定せず、販売価格19万8千円のカラーテレビの製造原価が40万円以上になってしまいました。毎月赤字を出し続けるクロマトロン方式に対して、ソニーの宮岡氏は3本の電子銃を水平に並べるトリニトロン方式の原理を発見しました。

井深氏は、まだ海のものとも山のものともわからないトリニトロン方式に対して、「これは筋の良い技術」と判断し、開発を決定、その結果トリニトロン方式のソニーのテレビは世界中で高い評価を受け、最盛期は世界のテレビの40%を生産し、ソニーを世界最大のテレビメーカーにしました。この井深氏のいう「筋の良い技術」とは井深氏の勘(感性)でした。井深氏は「筋の悪い技術でも腕ずくでやれば解決できるが、腕ずくでやると後から問題が出てくる」と言っています。これは今まで数々の技術開発を行ってきた井深氏の経験から磨かれた感性によるものでした。

図8 SONY WEGA  (wikipediaより)

図8 SONY WEGA (wikipediaより)

実際私の経験でも製品開発を20年近く行っていると、どの程度冒険するとどのくらい開発が大変かある程度予想できるようになりました。経験の浅い頃は新機種を開発する際にあれもこれも欲張って新しいことを取り入れて、開発に時間がかかり品質が安定するまで非常に苦労しました。しかし経験を積むと、どの部分が商品として重要なのでリスクを取って技術的に冒険して、どの部分はそれほど重要の機能でないので技術的な冒険は避け、既存の安定した技術を使うのか判断できるようになりました。

一方、井深氏のような創業者でなく、大勢の関係者が集まって長所、短所を比較しながら意思決定を行った場合、尖った判断は難しくなります。そうなると「トリニトロン」のような製品を出すことは容易ではありません。
 

参考文献

「柔軟的思考」 レナード・ムロディナウ 著 河出書房新社
「アイデア・ハンター」 アンディ・ボイトン、ビル・フィッシャー 著 日本経済新聞出版社
「井深大の世界」 井深大 著 毎日新聞社
「大空に賭けた男たち」 杉本貴司 著 日本経済新聞出版社
 

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