独創的なアイデアを生み出すための発想法 その1
情報通信技術が発達し、社会や事業環境が非常に早く変化する今日では、新製品や新事業だけでなく日常業務においても今までない発想やひらめきが必要とされます。アイデア豊かな人、問題解決力の高い人はどんどん新しいアイデアや考えを生み出します。
それを見ていると
「自分にはできない」
「私はスティーブ・ジョブズではない」
と思ってしまいます。
しかし独創的なアイデアは才能のある限られただけが持つ能力でしょうか。
実は発想法は才能でなく、技術です。
技術ですから正しい方法を学べば、誰でも新しい発想を生み出すことができます。そして新しい発想を生み出し続けていると、独創的なアイデアが生まれるようになります。
では、発想の技術とは何でしょうか?
アイデア発想法
発想法について、古典的な名著があります。
アイデアのつくり方
「アイデアのつくり方」は、アメリカの広告業界の実業家ジェームズ・ウェブ・ヤングが著した書籍です。1940年に初版が出版され、数十年間売れ続けている知的発想法のロングセラーです。
彼は発想の技術を、アイデア生産の5つの段階として示しました。
- データ集め
- データの咀嚼
- データの組み合わせ
- ユーレカ(発見した!)の瞬間
- アイデアのチェック
1. データ集め
アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせでしかありません。
新しい組合せを導く才能とは、物事の関連性をみつけ出す才能です。そのためにはまずアイデアの材料をたくさん集めなければなりません。
このアイデアの原料の収集は、徹底的に行う必要がありますが、多くの人はこの最初の収集段階を徹底的にやっていません。限られた材料の中からアイデアを出そうとするから、アイデアが出なくて苦しみます。この集めるべき資料には以下の2種類です。
● 特殊資料 その製品に関連する人や消費者の詳細な情報
● 一般資料 関連する幅広い情報
多くのアイデアは「特殊資料」と「一般資料」の組合せの中から生まれます。従ってどちらも十分な量を収集する必要があります。
こうして集めた情報を整理します。ヤング氏のお薦めの方法は、3インチ×5インチの白いカードに項目ごとに情報を記入する方法です。今ならポストイットを使っても良いでしょう。
2. データの咀嚼
それぞれの情報を並べたり組合せたりして、自分の中でこれらの情報を多面的に見ます。その過程で部分的なひらめきが訪れたら、どんな突飛なものでも書き留めておきます。
3. 心の外に放り出す
アイデアの孵化段階です。意識の上では放り出しても、無意識の中では多数のアイデアの組合せを行っています。ひらめきにはこの時間が必要です。
4. ユーレカ(発見した!)の瞬間(アイデアの誕生)
そして突如、ひらめきが訪れます。それは入浴中や就寝前など心身ともにリラックスしている時です。
この時、せっかく訪れたひらめきを忘れないようにメモします。
5. アイデアのチェック
生れたばかりアイデアは、まだ粗削りな概念です。現実世界でこのアイデアを役に立つものにするには、このアイデアに肉付けをしてを具体化し、実際の事業や製品に展開する必要があります。
しかし多くの組織やチームでは、保守的でリスクを嫌う人がよってたかって生まれたばかりのアイデアの問題点を指摘し、アイデアを葬り去ろうとします。
あなたは生まれたばかりのアイデアの赤ちゃんを、葬り去ろうとする大人たちから守らなければなりません。
発想における潜在意識の活用
このひらめきに脳の潜在意識が大きな役割を果たします。
脳の情報処理能力は、顕在意識が毎秒130ビット、潜在意識は毎秒1,000万ビットと言われています。つまり潜在意識の情報処理能力は、顕在意識の7.7万倍になります。
アイデア(発明)とは、特殊資料と一般資料の組合せです。ひらめきは、特殊資料と一般資料の情報の限りない組合せの中から生まれます。そのため脳には非常に高度な情報処理能力が求められ、それは潜在意識の方が優れています。従って「潜在意識をいかにうまく活用するか」がポイントです。
潜在意識の活用のイメージは、シャトルシェフのような真空断熱調理器を使って煮込み料理をつくるようなものです。
まず最初に下ごしらえをした具材を鍋に入れて火にかけます。味をつけて沸騰したら真空断熱調理器に鍋を入れます。ふたをして放置すると鍋の中は長時間70~80度の温度になります。時間が経てば具材はやわらかく味がよくしみたおでんやシチューなど煮込み料理が完成します。
同様にアイデアを出す場合は、以下のプロセスで行われます。
- ① 適切な質問
- ② 必要な知識や情報を集める
- ③ 火にかける
- ④ 離れる
- ⑤ ひらめき
- ⑥ 大切なこと
適切な質問で、潜在意識に明確な任務を与えます。これにより潜在意識が働き始めます。
火なし料理では、料理の材料を集めます。さらに皮をむいたり切ったりする場合もあります。同様に材料となる
情報を集めます。さらに集めた情報を加工したり整理したりします。これは料理では皮をむいたり切ったりすることに相当します。
知識や情報を集め、整理した上で
「今の問題点はどんなことで、何が障害となって解決できないのか」
「何ができればその問題は解決するのか」
を考えます。
これを
「もう考えられない、これ以上の解決策はない」
というところまで自分を追い込んで考えつくします。
これは鍋の中で材料を煮込むことに相当します。
こうして煮込んだ鍋を真空断熱調理器に入れます。
つまり問題からいったん離れることです。
そして問題を意識から除外して他の活動に取り組みます。
そしてできる限りリラックスした状態をつくります。あるいは気分転換にスポーツをしたり、ゆったり入浴したりします。
突如、ひらめきが訪れます。
大切なことは
「必ず解決策がある」
「自分は解決できる」
と心から信じることです。
自分自身が半信半疑であったり、あるいは他人にはできると言っていても、本心では無理だと思っていれば潜在意識は働きません。その点で潜在意識は正直です。ごまかしがききません。
偉大なイノベーターにみられる特徴
一方画期的なアイデアを生み出した偉大なイノベーターには、発想の技術に加えてもうひとつ大きな特徴がありました。
適切な質問
「なぜこれだとうまくいかないのか?」
「これをうまくいかせるにはどうしたらいいか?」
適切な質問は、目標に向かう牽引力となって創造性を刺激します。
しかし今までのやり方をあたり前だと思っていると、この質問が出てきません。
アップルの創設者 スティーブ・ジョブズが果たした大きな役割は、
「解決策を見つけること」でなく、
「問題を見つけること」でした。
図1 スティーブ・ジョブズ(Wikipediaより)
アップルのiPhoneのイノベーションとは何だったのでしょうか。
iPhoneのコンセプトは、
「iPodに通信機能を付け、インターネットや電話ができるようにする」
でした。
そこから以下の思考が生まれました。
- インターネット検索はキー入力が必要 → ガラケーのようにキー入力をする?
- いいやGUIの方がはるかに使い勝手がいい → では、マウス?
- どうやって空中でマウスを振り回すのか → タッチペン?
- 画面のスクロールや拡大はどうする?
- 「なぜタッチペンだとうまくいかないのか?」
「これをうまくいかせるにはどうしたらいいか?」 → 指だ!
iPhoneの誕生
電話会社の人たちは、iPhone を電話だと思っていました。iPhoneが発売された直後、電話会社の技術主任のiPhoneに対する意見
「マイクがひどいですね」
しかしアップルはiPhoneを電話と思っていたのでしょうか。
図2 初代iPhone(Wikipediaより)
妥協はアイデアの最大の敵
ジョブズがiPhoneに至ったのは、決して妥協しなかったからです。
キーボードが必要だ。
→ 番号キーでアルファベットを入力する → ガラケー → 使いにくい
→ 電話機の大きさにキーボードを配置する → ブラックベリー → 押しにくい
図3 ブラックベリー(Wikipediaより)
小さくて使いにくくても仕方がない
iPhineが出た後も、ブラックベリーを愛好する人はいました。
ガラケーで十分という人もいました。
妥協すれば、こうした解決策を採用することもできました。
しかしスティーブ・ジョブズは決して妥協しませんでした。
妥協しない心が潜在意識に働きかけ、携帯電話とタッチスクリーンを結びつけたのでした?
偉大なるイノベーターの特徴
もうひとつのイノベーターの特徴は「こだわり」です。
かつてソニーは大きさにこだわりました。
- カセットケースサイズのウォークマン
- CDケースサイズのCDウォークマン
- パスポートサイズのハンディカム
ソニーは、一度大きさを決めたらそれを守り通しました。
決まった大きさの中で機能を実現するには、メカと電気の高度な技術が必要でした。必要が技術を生み出しました。
つまり発想法によりアイデアがひらめいても、それを実現するには多大な努力が必要なのです。
多くのイノベーターは、何度やってもうまくいかない中、決してあきらめず、完成するまで続けました。
そのエネルギー源は、現状に満足しないイノベーターの強い意思です。
あきらめない心
ダイソンは、自分のことをうまくいかないとすぐ怒る「ただの普通の人間」だと言います。そんな彼が我慢できなかったのは、
「フィルターバッグが満杯になると吸引力が落ちる掃除機」
でした。
ある日彼が車で工場の前を通った時に、ゴミを選り分ける粉体分離機が見えました。この粉体分離機は空気を渦巻き状に回転させ、その動きの中でごみや土を下に落としていました。
「この原理を掃除機に応用すれば、フィルターバッグのない掃除機ができる!」
私は紙パック式の掃除機にそんな不満を持ったことがありません。例え私が粉体分離機を見ても、サイクロン方式を思いつくことはなかったでしょう。
こうしてダイソンのサイクロン掃除機は誕生しました。
おそらく新聞や雑誌ではこのように記事を書くでしょう。そしてダイソンは偉大なイノベーターだと私たちは思います。
現実は違って、
もっと厳しいものでした。
サイクロン方式の掃除機を考えたダイソンでしたが、様々な大きさ、密度のごみを確実に選り分ける空気の流れを理論的に解く計算式がなかなかできませんでした。彼は紙の上でいつまでも悩むより、発明王エジソンと同じ道を選びました。
がむしゃらに実験する力わざで行くことにしました。
1号機も、その後の2号機もうまく行きませんでした。5年後、彼が満足のいく掃除機が完成した時、それまでにつくった失敗作は5,126個にもなりました。
「あきらめたいと思わない日はほとんどなかった。世界中から反対されているように感じると、多くの人はあきらめてしまう。だが、そこでもうすこしだけがんばらないといけない。私はよくマラソンにたとえる。もう続けられないと思える瞬間があるが、その苦しい壁を乗りきれば終わりが見えて楽になる。コーナーを曲がったところに解決策が待っているということがよくある。」
サイクロン掃除機が実現できたのは、ダイソンの妥協しないこだわりとあきらめない心でした。
「すごいアイデアを思いついて、道具小屋で何日かいじって、そうしたら完成形が出来上がる、発明とはそういうものだという誤解がある。実際ははるかに長い反復のプロセスであることが普通だ。一つのことを何度も何度も試して、小さな変数を一度に1つだけ変えてみる。まさに試行錯誤だ。」
こう彼は語っています。
一方、画期的なアイデアを思いつくには、ひとりの力だけでは限界があります。
このアイデアを生み出すためのコラボレーションについては、独創的なアイデアを生み出すための発想法 その2でお伝えします。
本コラムは2017年3月19日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
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