製造業の個別原価計算7 「アワーレートはいくらだろうか?人件費について」で、人のアワーレートの考え方について説明しました。
では、設備のレートのどのように計算するのでしょうか?
以下に説明します。
設備のアワーレートの計算方法
設備のアワーレート、つまり設備を動かすときの1時間当たりの費用は、
設備の年間費用を1年間の実稼働時間で割って計算します。
実稼働時間は、総稼働時間に稼働率をかけて計算します。
設備で発生する費用
設備のアワーレートの考え方は、基本的には人のアワーレートと同じです。
1年間にかかる設備の費用を設備の実際の稼働時間で割って計算します。実際は、1台1台計算せず、工場全体、あるいはある現場全体で、設備の費用の総額と、実稼働時間の合計から計算します。

設備の費用
1年間にかかる設備の費用とは、設備の購入費用とランニングコスト(維持費)です。
設備の購入費用は、減価償却費です。
ランニングコストには、水道光熱費、消耗品費、修理費、保守料などです。
実際は、これらの費用は、工場全体でまとめて算出されるので、各設備でいくらかかるのかはわかりません。大抵はランニングコストは、どの設備も一定とみなします。そして他の製造費用(旅費交通費、通信費など)と一緒に間接製造費用とします。

間接製造費用
実稼働時間とは、設備が動いて製品をつくっている時間で、稼働時間に稼働率をかけて計算します。
この場合、私は段取時間も稼働している時間に含めます。(理由は、段取時間も見積に入れているからです。)
この実稼働時間の間は設備が動き製品をつくっているので、お客様からお金をもらっています。
つまり「稼いでいる」時間です。
設備にかかる費用を、この実際に稼いでいる時間で割ることで、1時間当たり費用が出ます。
減価償却費はどのように考えたら良いのか?
減価償却費の詳細は、ブログ製造業の個別原価計算8 「減価償却費とアワーレートの関係」に詳しく述べました。
実際には決算書の減価償却費をそのまま使用するのが最も簡単です。ただし、上記のブログでも述べたように減価償却費は実際の設備の劣化と合っていないので、場合によっては補正が必要です。
減価償却費の考え方
減価償却費の意味は、購入した設備の劣化を費用としたものです。しかし、実際の減価償却費は、耐用年数や償却方法が税法で決められているため、実際の設備の劣化と合っていません。
定率法の場合、設備を購入した当初は過大に減価償却費が計上されます。
法定耐用年数を過ぎると設備が使われていても減価償却費はゼロになります。
そして、その設備が使えなくなり更新すると、新たに大きな減価償却費が計上され、アワーレートが高くなります。
これに対して、対処方法として以下の3つの方法があります。
- 個々の設備の実際の耐用年数と購入費用から、正しい償却費を計算し、会社全体で集計して設備の費用とする
- 決算書の減価償却費をそのまま使用する
- 各年の決算書の減価償却費の変動を調べ、さらに今後の設備投資計画を調べて、自社の減価償却費の変化を明らかにします。そこから自社の減価償却費を決めて、どの年もその値を元にアワーレートを決めます。
1のように本来の設備の劣化を費用に変えて、工場全体で集計すればよいのですが、設備の数が多いと大変な手間がかかります。そこで実際は2か3の方法を取ります。
減価償却が終わっている場合は要注意
法定耐用年数が過ぎれば、残っている設備の費用はランニングコストのみです。そのため設備のアワーレートが低くなります。
この場合は、注意が必要です。
現在の設備がまだ何十年も使えればよいのですが、償却がほとんど終わっている場合、近い将来更新が必要になります。その時、減価償却費が大きく増加し、アワーレートも高くなってしまいます。しかしそれまで低いアワーレートで受注していた製品を、設備を更新したからと言って急に単価を上げることはできません。
高額な設備があって、その設備を更新すると減価償却費が大きく増加し、工場全体のアワーレートに大きな影響がある場合は、その設備の更新による減価償却費の増加を踏まえて、予めアワーレートを高く設定しておきます。
高い設備と安い設備でアワーレートは同じで良いか?
どの作業を誰が行ったか、細かく把握しなければアワーレートは同じにします。
設備の費用は、過去の費用
同じ加工をするのに、ランニングコストが高い設備と低い設備があれば、ランニングコストの低い設備を使用した方が得です。
では、購入時の価格の高い設備と低い設備があった場合は、どうでしょうか?
価格が高い設備は、減価償却費も高くなります。しかし減価償却費はすでに過去に払ったお金です。
つまり減価償却費の高い機械を使っても、新たにお金が会社から出ていくわけではありません。
従って価格の高い設備と低い設備が同じ加工を行う場合、アワーレートは同じと考えます。
アワーレートを変えると、管理者はアワーレートの低い設備を多く使うように作業者に指示することがあります。この場合、アワーレートの高低は、利益に影響ありません。むしろアワーレートの低い設備が能率も低い場合、アワーレートの低い設備を優先することで生産性の低下を招きます。
一方同じ加工をするのに、ランニングコストが高い設備と低い設備があれば、ランニングコストの低い設備を優先すれば全体の費用は下がります。そのためにはランニングコストによってアワーレートを変えます。
ただし、その場合は「どの製品をどの設備で加工したのか」記録しなければ、実績原価が正確に把握できません。このようにアワーレートを分けるとその分管理が発生します。それが大変であれば、アワーレートは分けない方が良いです。
補助的に使用する設備の費用はどのように考えるか?
間接製造費用として、直接製造費用に一定の割合で分配します。
補助的に使用する設備
現場には、ボール盤やのこ盤などたまにしか使わない設備もあります。このような補助的に使用する設備の場合、その設備の減価償却費は間接製造費用とします。つまり工場の維持管理に必要なもの、工場の付属物と考えます。このような設備は使用頻度が低く、更新期間も長いので、更新によるアワーレートの影響は少ないからです。
このような設備の中で非常に高額な設備があった場合は、その費用をどうするかは以下の2つの考え方があります。
- この工場で行う事業に不可欠なものだから、事業全体で負担すると考えて、間接費として全製品に一定割合で分担させる
- 特定の目的のために購入したものなので、その目的の製品が負担する
- 高いアワーレートで受注する
- アワーレートを下げて受注を増やし稼働率を上げる
- 翌年以降もこの状態が続くので、アワーレートを高く設定し、この稼働率で利益が出るように見積を上げる
- アワーレートが高いと、受注しにくいので、アワーレートは従来のものとし、受注を増やして稼働率を高める
多くの場合、全体の原価が上がっても事業全体で負担します。特定の製品のために導入した設備だからと、その製品にだけ負担させると、原価が高くなり過ぎてしまうからです。
稼働率がかかっているため、ヒマな年の翌年はアワーレートが高くなってしまうが?
この場合、以下のいずれかを選択します。
アワーレートが高くなる弊害
ヒマな年は稼働率が低下し、ものをつくっている時間、
つまりお金を稼いでいる時間が少なくなっています。
それでも賃金は変わっていないので、必然的にアワーレートが高くなります。アワーレートを前年の決算書から計算する場合、前年がヒマで稼働率が低いと翌年のアワーレートは高くなります。その際、今年のアワーレートをどのように設定するかは、2つの考え方があります。
多くの場合、アワーレートを上げれば見積が高くなり、ますます受注が不利になるので、(2)を選択する場合が多いようです。
しかし、受注を短納期主体にシフトし、稼働率を下げてでもすぐに対応できるような体制に変更した場合は、アワーレートはどうしても高くなります。そこで、それに見合った付加価値の高い受注を増やすように変えていくことが必要です。
稼働率を入れないで計算する場合
人の場合と同様、稼働率を入れないで計算する方法もあります。設備の稼働率がほとんど変化がないような現場では稼働率は常に一定とみなして、計算してもかまいません。稼働率を入れるのは、繁閑が変化した時、アワーレートの変化が分かるようにするためです。
設備の増設を予定しているが、アワーレートはどう変わるか?
稼働率が変わらなければ、アワーレートは変わりません
設備を増やせば費用は増加
設備を増強した場合、それに応じて仕事も増やさなければ、全体の稼働率が低下し、アワーレートが上がります。設備の増加は、その更新まで考えれば、その設備がある限り、ずっと費用が発生します。
そう考えると、設備を増やしたら受注をどんどん増やして稼がなければなりません。
その点で計測器のように付加価値を生まない設備を大きく増やすと、工場の稼ぐ力は低下します。(計測器が仕事を受注するために不可欠な要素となっていれば別ですが)
ます。
ランニングコストの違う設備は、アワーレートは変わるのか?
大きく違う場合は、アワーレートを変えた方がより正確に原価が出せます。ただし、アワーレートを分けた場合は「どの製品をどの設備で製造したのか」記録しないと、実績原価を正確に出せません。
ランニングコストの違いの管理
現場に様々な設備があり、ランニングコストもそれぞれ異なる場合、それぞれ分けてアワーレートを出した方が正確になります。ただし、アワーレートを分ける場合、その後の実績時間の集計も分ける必要があります。つまり見積原価と実績原価は同じ条件で出せる必要があります。
例えば、加工機はモーターが回るだけなので電力消費はそれほど大きくありませんが、熱処理炉は加熱のために大量に電気を消費します。工場のランニングコストの中で光熱費が大きな割合を占めている場合、加工と熱処理は、光熱費を分けた方が正確になります。
逆に使用量に差はあるが、絶対的な金額がそれほど大きくない場合、手間をかけて分けてもそれほど効果はありません。
こういった製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。
他にも製造業の値上げ金額の計算と値上げ交渉のポイントについては下記リンクを参照願います。
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