「思想の対立か、パラダイムの転換か?」~脚光を浴びるベーシックインカム~

近年話題になっているベーシックインカム、右派、左派を巻き込み様々な議論が起きています。このベーシックインカムとはどのようなものでしょうか。ベーシックインカムは社会のパラダイム転換となるのでしょうか。ベーシックインカムについて考えます。
 

ベーシッインカムとは?

ベーシックインカムの定義

ベーシックインカムとは、収入や労働条件にかかわりなくすべての人々に一定の現金を給付する制度です。これは以下の条件を満たすものと考えられています。
 

  • 全ての国民に給付 (一定の要件を満たした外国人労働者も対象)
  • 個人単位で給付 (世帯単位ではない)
  • 無条件で給付 (所得制限を設けない)
  • 現金で給付 (フードスタンプなど現物給付でない)
  • 生涯にわたり定期的に給付 (安定的に給付)

 

ベーシックインカムに似たものとして「負の所得税」があります。負の所得税とは一定以下の収入に対して、税金を納める代わりに収入に応じて一定の現金が給付される仕組みです。これは経済学者ミルトン・フリードマンらが提唱しました。生活保護などの社会保証プログラムは収入が増えると援助を受ける資格がなくなるため、労働への意欲を妨げます。そこでこれを防ぐ方法として考えられました。ただし負の所得税は収入があることが前提で、無条件に給付するベーシックインカムとはこの点で異なります。
 

古山明男氏は経済を商品経済、贈与経済、公共経済の三つの要素で考えました。
 

  • 商品経済 お金で売買する

例 労働して賃金を得る、食料品を買う

  • 贈与経済 見返りを求めず与える

家族でひとつの家計を営む、親族間や地域での慶弔金、政府による生活保護

  • 公共経済 みんなから集めて必要なことに使う

道路の建設と維持、医療保険制度、無償義務教育
 

一見すると私たちは商品経済中心で生きているように見えますが、家庭や地域、社会の中では贈与経済も循環しています。社会全体で豊かさを分かち合うことで贈与経済の規模を拡大し、経済成長につなげることができます。
 

歴史的背景

ベーシックインカムの起源と言われているのが、イギリスの思想家トマス・モアが1516年にラテン語で書いた「ユートピア」という本です。そこに書かれた架空の楽園「ユートピア」では、人々は財産を共有し質素な生活を送っていました。モアはユートピアの中で「罪人に厳しい刑罰を科すよりも現金を給付する方が犯罪の抑止になる」と主張しました。
 

その後ベーシックインカムは、18世紀の思想家トマス・ペイン、19世紀にはフランス、オランダの社会主義者たちに提唱されました。第一次世界大戦後、イギリスの思想家たちによってベーシックインカムの第二の波が起きました。その後1960年代にはアメリカでも構造的失業への懸念から「負の所得税」が検討されました。貧困層に対して安定した収入が必要という考えは、1968年に暗殺されたマーチン・ルーサー・キング牧師も演説で主張しています。
 

そして1986年に「ベーシックインカム欧州ネットワーク (BIEN)」の発足とともにベーシックインカムに対する第四の波が起き、現在に至っています。今日ではベーシックインカムに対して、経済学者のハーバート・サイモン、ジョセフ・スティグリッツ、シリコンバレーの起業家イーロン・マスク(テスラ・モーターズ創業者)、クリス・ヒューズ(フェイスブック共同創業者)、エリック・シュミット(グーグル元CEO)などもベーシックインカムを支持しています。
 

日本では2009年に民主党が最低保証年金というベーシックインカムに近い構想を打ち立てました。また民主党政権が実施した「子供手当」は子供がいる家庭に無条件に給付するという意味でベーシックインカムに近いものです。また2009年に田中康夫氏率いる新党日本がベーシックインカムを提唱しました。2012年には大阪維新の会がベーシックインカムを政策提言に盛り込みました。民間では2008年に元ライブドアCEO堀江貴文氏が現在の社会保証制度の非効率性を批判しベーシックインカムを提唱しました。
 

ベーシックインカムの論者

ベーシックインカムについては、様々な人たちがそれぞれの立場で意見を述べています。しかもそれらが混然となってとても分かりにくくなっています。ベーシックインカムが提唱された思想的背景には、ヨーロッパの思想にある社会的正義があります。根底には「社会の富は共有財産であり、自分たちの所得と富は過去の世代の業績と努力によるもの」という考えがあります。
 

例えば思想家のトマス・ペインは「土地配分の正義」において、土地は万人の共有財産と考えました。土地が価値をもたらすのは土地そのものでなく、土地に改良を加えたことによって生まれる価値と考え、土地を利用するものは社会に対して土地代を払う義務を負うべきと考えました。同様に現代の富豪の巨額の資産も個人の努力だけでないと「社会的正義」の思想では考えます。
 

例えばビル・ゲイツの莫大な資産は、彼の力だけでなく多くのマイクロソフトの社員の労働や努力の結果です。ところがマイクロソフトが生み出す価値の多くが彼のものになっているのは、彼に有利なルールの結果です。個人の努力の結果よりも、特定の金儲けの仕方を優遇する人工的なルールによって得た賜物です。
 

ベーシックインカムに対しては、思想的、政治的、経済学的な立場から様々な意見があります。これを大別すると、新自由主義者(ネオリベラリスト)、自由主義者(リバタリアン)、共同体主義者(コミュタリアン)です。
 

【新自由主義者 (ネオリベラリスト) 】
経済学的見地から社会の資源配分は、市場に委ねるべきで、政府は極力介在しない「小さな政府」であるべきという考えです。この思想は経済学のシカゴ学派などの流れを汲んでいます。現在の福祉事業は「誰にどのようなサービスをするか」政府が細かく決めていています。
 

これに対してベーシックインカムは支給された資金の配分を個人が市場を通じて自由に行うため、経済活動の面で今までのやり方より合理性が高いことからベーシックインカムを支持しています。
 

【自由主義者 (リバタリアン) 】
リバタリアンが目指すのは、究極は国家の消失です。彼らは、政府はできる限り小さくあるべきと考え、政府の干渉を一切排除した世界を目指しています。そこに至るまでの次善の策としてベーシックインカムを推奨しています。ベーシックインカムは、現在の福祉政策に比べ政府の干渉がなく、自由を手にすることができ、自分の判断で自分の人生を送ることができるからです。
 

リバタリアンの中でも、右派リバタリアンはベーシックインカムによって既存の福祉制度は撤廃できると主張しています。2016年のアメリカ大統領選挙でリバタリアン党ゲイリー・ジョンソン元ニューメキシコ州知事は、ベーシックインカムによって既存の福祉制度を撤廃すれば官僚機構のコストを節約できると主張しました。
 

これに対して左派リバタリアンは、社会全体に少額の分け前を与えることが社会正義の実現につながると考えています。
 

【共同体主義者 (コミュタリアン) 】
社会での平等が最重要の価値と考えて、格差の解消が最重要な課題です。ベーシックインカムは、格差の解消や平等性の観点で支持しています。これに対して、マルクス経済学の立場からは、ベーシックインカムには基本的には賛成しつつも、国家が現金を給付することで個人に対する国家権力が強まる点を懸念しています。
 

むしろ生産や労働が企業という私的な存在で行われ、労働が賃労働となっていることが問題であり、本来の労働運動を進めて、労働を私的労働や賃労働から脱するべきと主張しています。
 

図1 ベーシックインカムをめぐる思想的対立

図1 ベーシックインカムをめぐる思想的対立


 

現代社会での変化

近年ベーシックインカムが見直されてきた背景には経済や社会が大きく変化し、仕事、つまり労働環境が大きく変化したためです。これに対して今までの社会福祉政策は適切に対応できず様々な問題が起きています。
 

高度成長から低成長へ

先進国で製造業が衰退し雇用の中心はサービス業に変化しました。例えば1979年にはアメリカ国内では1960万人が製造業に従事していました。それが2017年には人口は1979年当時より1億人近く多いのにもかかわらず、製造業の雇用は1250万人に減少しました。アメリカの雇用の1/4を担っていた製造業は現在10%に減少しました。こういった現象は先進国に共通してみられ、かつて製造業8割、サービス業2割だった比率が、サービス業8割、製造業2割になっています。
 

これに伴い、雇用の中心が正社員から非正規雇用に移り、企業が社員の生活の安定を守り失業のリスクを回避するという社会モデルが機能しなくなりました。雇用の比較的安定した製造業は正社員として長期間雇用し、社員は生活の安定と各種社会保険のサービスを享受しました。日本ではさらに終身雇用、年功序列賃金の企業が多く、生活はより安定していました。そのため日本では根強い正社員信仰があります。
 

しかしサービスは製造業のように作り置きすることができず、必要な時に必要なだけ提供しなければならないため、雇用は必然的に不安定になりました。少ない正社員に多くの非正規雇用という構成になり、多くの非正規社員の雇用は不安定で高い失業リスクにさらされています。しかし現在の社会保証は長期雇用の正社員を前提に作られているため、非正規雇用者が失業すると十分な社会保証が受けられず、苦しい状況に追い込まれます。
 

19世紀はじめイギリス ノッティンガムの労働者は当時普及し始めた自動織機に対して、よりよい雇用と賃金を求めて織機を破壊した「ラッダイト運動」を行いました。しかし労働者の危惧に反して雇用は増え続け「ラッダイトの虚説」と呼ばれるようになりました。技術の進歩に伴い雇用は増え続け、世の中にある仕事は一定量と考えるのは誤りとする「労働塊の誤謬」は、経済学者などから広く信じられてきました。しかし今日急速なコンピューターの進歩により労働の多くは、コンピューターの方が正確で効率的になってきました。従って「労働塊の誤謬」が崩れつつあると警鐘をならす人もいます。
 

フェイスブックAIリサーチ(FAIR)は、様々な交渉に対応できるチャットボットを開発しました。AI(人工知能)を活用し最初は単純な定型交渉から学習し、徐々に交渉能力を高めました。現在は、価値の低い提案に偽りの関心を示したり、交渉が進んでから妥協するなど高度な交渉テクニックも習得しています。同様にAIチャットボットなども大きく進化し、現在は話している相手がチャットボットだと気づかないほど自然な英語の文章をつくることができます。
 

AIの開発には多額の費用がかかりますが、開発できればその機能はコストゼロで大量にコピーできます。そうなるとコストの点で人間はAIにかないません。今後はこういったAIが単純な交渉やコールセンターでの顧客サービスに使われれば多くの雇用が失われます。
 

先進国が抱える根本的な経済課題は、先進国はすでに社会資本が充実してしまったために投資が減少し国内市場が成長しないことです。高度成長期までは人口増加もあって街や道路など様々な社会インフラに大きな投資が必要でした。また新しい製品や事業が立ち上がれば、工場や人に多くの投資がされました。
 

しかし成熟期に入った先進国ではこういった投資が減少し、需要不足に陥りました。日本はバブル経済とバブル崩壊でこの現象が一気に起きました。そのため最近までこの需要不足による低成長は日本固有の問題と思われていました。ところが2000年代に入ると他の先進国も、日本と同様に深刻な需要不足と低成長に直面し「日本化」しました。
 

古山氏によれば、アベノミクスがいくら大規模な金融緩和を行っても実体経済に比べてはるかに大きな金融市場が緩和したマネーを吸収してしまうため、いくらマネーを供給してもインフレすら起こせないと述べています。そのためアベノミクスは民間での需要不足を政府支出が補っているにすぎないと言います。円安で輸出企業が好業績を上げても国内市場は需要不足なので企業の利益は国内の投資には回りません。
 

安倍政権が提唱したトリクルダウンは、富裕層の富が国内へ再投資され、国内市場に還元されなければ起きません。しかし金融市場に吸収され国内に投資されないため、雇用と賃金は変わらず、円安による原料高から輸入品は高くなり実感なき景気回復になりました。
 

社会保障制度の弱体化

近年各国で社会保証制度の見直しが行われ、社会的な弱者である貧困層は一層苦しい状況追い込まれています。
 

例えばアメリカは1990年代の自由主義改革により医療の現物給付を減らし、自己負担率を増加しました。その結果、保険外診療の比率が高まりました。多くの人は民間の医療保険に加入しますが、医療保険がカバーする範囲は限定され、一度大きな病気で医者にかかると借金漬けになってしまいます。2005年の統計でアメリカの204万人の個人破産者のうち、半数は医療費の負担が原因でした。高齢者用の公的医療保険(メディケア)にも制約があり、慢性的な糖尿病は薬が全額自己負担になる州もあります。
 

一方貧困者への支援は、例えばバウチャー(引換券)など現物給付は、多くの行政コストがかかる反面、必要な人々に必要なものが届いていないという問題があります。インドの「公共配給システム(PDS)」は、1ルピーの食料を配給するために3.65ルピーの行政コストがかかっています。アメリカの「補助的栄養支援プログラム(SNAP)」フードスタンプ制度は換金が禁止されています。そのためフードスタンプの配布と不正利用の監視のため巨大な行政機構が必要で、そのために多額のコストがかかっています。
 

このような現物給付による支援は「困窮者が何を必要としているか」は、本人よりも政府の方がよく理解しているというパターナリスティックな(父権的干渉主義)前提に立っています。なぜなら貧しい人に現金を給付するとアルコールやギャンブルなど好ましくないものに浪費すると決めつけているからです。しかし現物給付は人間の自由を拡大できず、本人が収入を得るために必要な投資に使えません。さらに現物給付は受給者に「施しを受けている」という恥辱感を与え、卑屈な心理を植え付けます。
 

現代社会の課題

経済成長の終焉

成熟社会は貨幣によって満たすことができる欲求が飽和して、先進国では市場の伸びが鈍化しています。成熟社会において人々の価値観や欲求は「お金で買えないもの」、「豊かな人間関係」、「社会的な承認」、「自然との共生」などに向かいます。こういった活動は金銭的な価値を生みにくく経済活動になじみくい活動です。
 

また成熟社会の特徴として、自国内で需要を掘り起こし生産を拡大できないため、生産能力が過剰になり労働力が余る点があります。そのため慢性的な失業問題に悩まされます。さらに新興国が台頭してきて先進国の少ない生産物の需要を新興国が生産し奪っていきます。生産拠点のグローバル化は労働市場のグローバル化を招き、先進国の労働者の賃金は、新興国の労働者の賃金との競争にさらされています。先進国の労働者はこうした低賃金の圧力にさらされ、しかもある日生産拠点が海外に移管されてしまいます。そして国内産業が空洞化します。
 

これに対して近年の先進国のイノベーションはITの分野に集中し、イノベーションが大きな雇用を生みません。かつて航空機が発達し、航空輸送が事業化した時、機体メーカー、空港、航空会社など巨大な産業がいくつも出現しました。冷蔵庫やエアコンの普及、ビデオの商品化なども、多くの商品が行き渡るためには巨大な工場をいくつも必要とし、何万人もの雇用が生まれました。
 

今日ではIT技術は急速に進歩し、誰もがスマートフォンを手にし、インターネットにアクセスしています。しかし街中の地下鉄、タクシー、映画館などは100年前と変わっていません。「欲しいのは空飛ぶ車だったのに手に入れたのは140字だった」IT投資家でトランプ大統領顧問ピーター・ティール氏の言葉です。
 

先進国では、サービス業が雇用の中心になり労働者の雇用条件は悪化しています。アメリカでは、かつてはティーンエイジャーの小遣い稼ぎだったファーストフード店の仕事は、今では労働者の年齢が高くなりました。2013年にはファーストフード店の労働者の40%以上が25歳以上になりました。彼らの時給は12ドル未満、フルタイムで働いても一家を支える収入にならないため、複数の仕事を掛け持ちしています。しかも技術の進歩は、ファーストフード店の仕事は単純でつまらないものに変えました。仕事は、常にアラームに追われボタンを押すだけの作業です。しかも勤務直前まで自分のシフトがわかりません。彼らの多くは休みなく働いても貧困線を下回っています。
 

ウーバーは、ギグエコノミーとして注目を浴びました。しかしウーバーの運転手はちゃんとした仕事をしていると世間からみなされず、運転手も価値ある存在だと思われていないと感じています。価格は運営側の都合で一方的に下げられることがあり、値下げの負担はドライバーに押し付けてきます。ウーバーなどギグエコノミーの企業は、運転手、買い物代行者や配達スタッフなどサービス提供者を自社で雇用せず、契約業者としてサービス単位で買っています。そのため最低賃金を守る必要がなく、ドライバーは失業保険や社会保険も入れません。ウーバーのドライバーは「単なる下働きだよ。人間扱いしている感じがないんだよ」と語っています。企業が社員に向けて「あなたはパートナーです」というとき、「パートナー」という言葉の裏に「搾取」という言葉が隠されているかもしれません。
 

多くの先進国で平均所得は増加しているのですが、それでも中央値は横ばいです。理由は貧困層が増えているからです。イギリスでは「専門職に従事する中流層、特に南東部の中間層の暮らし向きは極めて良い。しかし所得水準がこれより下の人々は実質所得が伸び悩んでいるため借金頼みの生活だ。さらにその下には最低賃金で働く人々がいて、彼らは税金を免除されないと暮らしていけない。そして最底辺にいる人たちは仕事がなく、彼らは親や祖父母の代から職がない」ガーディアン誌のラリー・エリオットは述べています。
 

社会学者のエリオット・ショアは「働き過ぎのアメリカ人」の中で「競争が激しく労働者の権利保護が希薄な社会では、雇用主は多くの労働者に仕事を分配するよりも、少ない人間を長時間働かせる方を選ぶ。人を増やせば有給休暇を与えなければならないから。」と述べています。日本企業でも経費削減のため正社員の人数を減らした結果、正社員の労働時間は長くなり、非正規社員が増加しました。しかも彼らは自分たちが望むほど十分な時間働くことができません。
 

こうした不利な条件に対し50年前ならば、労働者は労働組合に所属し組合が代表して給料や福利厚生を要求しました。しかしサービス業が主体となり、サービス業は小規模な企業が多いため、労働組合の組織率は製造業よりも低くなっています。サービス業の労働者は孤立化し、極めて低い所得の中で他に取るべき選択肢がありません。サービス業の多くは他社と差別化が困難で激しい競争にさらされ、生き残るために社員の労働環境はさらに悪化しています。正社員の労働時間は長くなり、業務は多様化し、さらに非正規社員の管理も加わります。こうした過酷な労働環境でも一度辞めると再び正社員に戻ることができないため辞めることができません。
 

この労働に対する態度はアメリカ人とヨーロッパ人では大きく異なります。かつてイギリスの貴族は、使用人や奴隷を使い自らは働かないという文化がありました。対してアメリカ人は自力で家と農場を建て、西部を開拓して(それまでそこで暮らしていた文明を破壊して)、土地を我が物にしました。アメリカ人にとって労働とは、経済的な必要性だけでなく、社会的義務であり、よい人生の基盤でもあります。労働とは、誰でも無一文から始めて、財産と安心を築くことができるというアメリカンドリームの一部です。
 

このように神聖視される労働ですが、現代社会では労働に従事する人の数は半数にも満たないのです。日本では全人口の中で職に就いている人の割合は45.7%、職についていない人の方が上回っています。この職についていない人の内訳は、家事、老人、子供などです。これがドイツでは、正規雇用者2,650万人に対して、年金生活者2,000万人、失業者500万人、生活保護や第二種失業保険受給者が200万人と、働いていない人の方が圧倒的に多くなっています。彼らはたとえ働いていなくても、消費市場の構成員として重要な役割を果たしています。これは言い方を変えれば「私たちが食べているから、働いている人に職がある」のです。
 

賃金労働の対価が減少する傍らで、必要とされるサービスはまだあります。ただ先進国ではそれが十分な対価を生み出せなくなっています。これに対してベーシックインカム推進派のドイツの起業家ゲッツ・W・ヴェルナーは「私たちは収入、つまり貨幣によって生活できるわけでなく、他人が消費可能な商品やサービスを生産してくれることによって生活できる」と述べています。それは彼が旧東ドイツを見ていたからです。そこでは人々はお金を持っていても、他者のために働く人がいなかつたために、店に商品がなく空っぽでした。そこでベーシックインカムを給付すれば、人々が今までは対価が合わなかった(他者のための)仕事を行うことができ、より豊かな社会が実現するとヴェルナーは考えています。
 

格差社会とセーフティネットの機能不全

イギリスは、失業者支援を福祉から就労支援に舵を切る「ワークフェア」を進めています。これら先進国の多くが、就業支援に多額の税金を投入していますが、実効性の高い職業訓練はできていません。その原因は職業訓練施設の目的が就労者の自立より、国からの補助金の受給になってしまっているためです。こういった非効率な福祉政策に対して、堀江貴文氏は「社会の富を増やすのでなく、社会全体の富を食いつぶしている負の労働があるのではないか」と述べています。「20万円/月の賃金の労働を作り出すのに、社会全体で30万円/月のコストをかけるなら、相手に直接20万円渡せば、10万円節約できる」という論理です。そもそも職業訓練の問題は、正社員の仕事が十分になければ職業訓練を行っても本人が希望する正社員の仕事に就けないことです。
 

また最低賃金が失業を促進しているという意見があります。特に地方ではもっと低くても働きたい人がいても、高すぎる最低賃金が雇用の妨げになっているという考えです。実際震災前の東北地方で、時給400円で事務員を募集したら応募が殺到したこともありました。時給400円で働きたい人がいても最低賃金規制のため時給700円にせざるを得ません。時給700円の場合、それだけの生産性がなければ雇用できません。時給700円で雇用すれば、1人の粗利は1,000円必要です。
 

そのためには1時間当たり2000円の売上がなければなりませんが、地方ではそれだけの売上がないことも多いのです。経済が右肩上がりでは、売上が増えて忙しくなるため、人が必要になります。売上が増えて粗利も増えるから人を雇う余裕ができます。人口が減少し売上も下降している地方では、現在の最低賃金では人を雇いたくても雇えず、雇用は減る一方です。
 

一方最低賃金ではフルタイムで働いても貯えができません。その状況で突発的な問題が発生する福祉支援がない限り生活が立て直せなくなります。つまり貧困がレジリエンスを蝕んでいます。
 

このレジリエンスとは人生で経験するショック(本人が選択したわけでない過酷な出来事)やハザード(結婚や出産、死などコストとリスクがもたらすライフサイクル上の出来事)に対処して、そこから自ら立ち直る力のことです。予見できるようなリスクは、数値化することができ、これは保険で対処できます。しかし(本人が選択したわけではない過酷な出来事のような) 不確実性は予見できないため保険で対処することができません。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)によれば、アメリカ家庭のおよそ半分は、こういった非常事態に見舞われて400ドルのお金が必要になった時、借金をするか財産を売らなければ400ドルのお金が用意できません。
 

例えば、アメリカ人ジェイリーンは貯金をする余裕がなく110ドルの貯えがありませんでした。ある日タイヤがだめになり、タイヤを買うための110ドルのお金がなく出勤できませんでした。彼女は解雇されました。彼女は収入を失い、家賃を払えなくなって路上生活をするようになりました。
 

グローバル経済が進んだ今日、世界のどこかで下される決定によって、ある日突然職を失うこともあります。こういった自分ではコントロールできない決定によって最も弱い立場の者が直接的な打撃を被ります。このような悪いことが起きた時のリスクとコストが、現代では労働者や一般市民に押し付けられるようになりました。そして社会階層が固定化し、低賃金労働がまかり通っているため、持続不可能な重い債務を負っている人も多くいます。そのような人たちはショックやハザードへの対処能力が低く、そこから立ち直ることが難しくなっています。
 

さらにアメリカでは、福祉政策から黒人を意図的に排除する人種差別があります。レーガン政権は、福祉政策を手当たり次第に受給し福祉を食い物にする「福祉の女王」がいると宣伝しました。これを受けてクリントン政権は福祉改革を行い、受給資格を州ごとに決めることができるようにしました。その結果、黒人の人口の多い州は、支出を抑えるために受給資格を厳格化しました。白人が大多数を占めるバーモント州では貧困家庭の78%が福祉給付を受けているのに対し、元奴隷州のルイジアナ州ではたった4%とワシントンDCのシンクタンク「アーバン・インスティテュート」は発表しています。
 

福祉から漏れる人たちがいるのは、受給するかどうかが行政担当者の恣意性と裁量で決まるからです。生活保護の捕捉率は、イギリス90%、ドイツ45%に対し日本は18%と低く、また受給する際に行政担当から個人の尊厳を傷つける言葉の数々を投げつけられることもあります。
 

福祉給付は、福祉受給者が就労すると福祉給付が減らされるため、就労への意欲が削がれ貧困から脱出できない「貧困のワナ」と、例え就労できて定期的な収入が得られると福祉給付が打ち切られ、その後何らかの理由で再び失業した時になかなか福祉給付が受けられない「不安定のワナ」という問題があります。つまり一度福祉給付を受けるとその状態から抜け出せず長期間受給し続けることになります。そして失業期間が長くなると社会的な落伍者として心理的なダメージも大きく、社会復帰がさらに難しくなります。
 

ベーシックインカムの効果

ベーシックインカムは、これまでの福祉政策と異なり、以下の長所があります。
 

  • シンプルである
  • 制度がわかりやすく、受給漏れを起こさない

  • 運用コストが低い 
  • 資力調査や査定が不要、生活保護の職員は14,000人 (300万円/人として420億円)

  • 恣意性と裁量が入らない
  • 働くことへのインセンティブが失われない 
  • 生活保護は収入が得られると減額されるため、働く意欲が削がれる。また就労して生活保護がなくなると、再度失業した時に生活保護を受けるのが困難なので現状に留まろうとする。

  • 個人の尊厳を傷つけない

このベーシックインカムの効果は以下の4つがあります。
 

貧困対策とセーフティネットの充実

最大の効果は確実な貧困対策を低コストで実現することです。従来の貧困対策は、受給者の資力調査や就労状態の調査に手間とコストがあり、行政の恣意性と裁量が作用し、福祉が必要な人に十分に行き渡りませんでした。むしろすべての国民に無条件に給付することで、きわめて低い行政コストで効率的な貧困対策が行えます。さらに現物給付のように使途に制限がなく、自主性と自立性を保つことができます。
 

また発展途上国での実験結果から、ベーシックインカムによって経済的自立が得られると人々が自らの意見を持ち、民主主義が発展するという効果もあります。経済的資源があるからこそ、権利が価値を持つようになります。アメリカ合衆国憲法の起草者の一人アレキサンダー・ハミルトンは1788年に「人の生計の手立てを支配することは、その人の意思を支配することに等しい」と述べています。
 
 

消費市場の拡大

ベーシックインカムによって総需要が拡大し経済成長が実現します。ベーシックインカムは低所得層の購買力を高めますが、低所得層は富裕層よりもお金を消費に回す傾向が強いため、消費が拡大します。他の景気刺激策で富裕層の消費を高めても、地元の製品やサービスの需要は増えず、高額な輸入品にお金を使うため経済成長とともに国際収支の赤字が増加する「国際収支の天井」という問題が起きます。しかし低所得者層の支出の大半は地元での商品やサービスの購入なのでこのような問題は起きません。
 

またベーシックインカムは、景気の安定化装置となります。景気が良く雇用が多い時は、高収入の職に就く人も多く、ベーシックインカムを減額します。景気が悪化して雇用が減少した時は、ベーシックインカムを増額して収入の不足を補えば消費を活性化し景気を回復させることができます。
 

労働市場の流動化

ベーシックインカムによって最低限の収入があれば、多くの人はブラック企業で過酷な労働条件で働くくらいなら辞めることを選択します。特に専門的なスキルを必要とする職業に対して、単純労働で服従を強いる企業は誰も働かなくなります。
 

日本では根強い正社員信仰により辞められないことが職場での様々な問題の原因にもなっています。また失業しても何とか生活できれば、関心のある短期間のプロジェクトに参画したり、海外企業で働いたり、パートタイムで働いたりといった流動的な働き方ができるようになります。一方ベーシックインカムが企業の都合で解雇できる口実になることを心配する人たちもいます。
 

起業の活性化

日本では起業することは安定した正社員の地位を捨てることになります。起業に失敗すれば収入を得る方法がなくなり、正社員にも戻れないため大きなリスクがあります。ベーシックインカムがあれば起業に失敗しても生活に必要な最低限の収入はあるため、再起が容易になり、起業しやすくなります。そのためにはベーシックインカムを借金の担保にしないルールが必要です。
 

実は歴史的な大発見をした人達の多くは、経済的な制約を受けない人達でした。チャールズ・ダーウィンは裕福な一家の出身で「生活費を稼ぐ必要がなく、余暇時間がたっぷりありました」、ルネ・デカルトも生計のため学問をする必要がありませんでした。
 

一方こういった人々は労働統計では無業になります。しかし誰が大きな業績を上げるのかはわかりません。ゴッホは生きている間に売れた絵は1枚でした。ベーシックインカムがあれば、生計を得ることに時間を取られず自分の興味があることに時間を費やすことができます。そして十分な才能と努力があれば社会に大きな貢献ができる。これは夢追い人を増やすことになりますが、たとえ業績を上げられなかったとしても社会と経済に害はありません。同様にスポーツや芸能活動に一生打ち込むことも可能になります。
 

デメリット

ベーシックインカムのデメリットとして、ある国がベーシックインカムを導入すると充実した福祉制度を目的に移民や難民が押し寄せるという危惧あります。これは経済学者ジョージ・ボージャスが充実した社会福祉は「福祉磁石」の傾向があると論文で発表しました。実際は移民が惹かれるのは、活発な経済活動があって就職の機会があることです。
 

一生懸命働くことで成功する可能性があるから移民するのであり、自国より経済が停滞し仕事がない国ならば福祉制度が充実していても移民は来ません。一方セーフティネットが充実している国、自分達の既得権の意識が高く、反移民、半難民の感情が高くなる傾向があります。
 

ベーシックインカムの実験結果

ベーシックインカムは、アフリカ、インド、ブラジルなどの一部の貧困地域に社会実験がすでに行われています。
 

アフリカ

ナミビア共和国のオチベロ・オミタラ村では、2008年からナミビア政府が2年間ベーシックインカム給付試験事業を実施しました。1か月1人当たり100ナミビアドル(700円)を給付しました。貧困が著しいこの村では、学費が払えないために子供が小学校に行けず、人々は農場主の土地に勝手に入り込んで密漁を行いなんとか収入を得ていました。
 

この村ではベーシックインカムによって人々の生活は大きく変わりました。まず人々は食べ物を買い、子供は小学校に行けるようになりました。子供の栄養状態は大きく改善され、エイズ陽性の人々は診療費を払って抗エイズウィルス薬を買えるようになりました。人々が診療所に行くようになって村の診療所は経営が成り立つようになりました。またベーシックインカムを元手に食べ物、たばこ、衣類や携帯電話などを仕入れて、商売を始める人が出てきました。あるいはミシンを買って民族伝統のドレスを作って売る人も出ました。総じて人々は、ベーシックインカムを食料や学費など必要なものに使う一方、商品の仕入れやミシンなどに投資し、より現金収入を増やすことに使いました。一方懸念されていたアルコールへの消費は増加しませんでした。現金収入があることで密漁や窃盗などの犯罪は減少しました。
 

インド

インド中部マディヤ・プラデシュ州で2010年から2013年にかけてベーシックインカムの試験プロジェクトが行われ、9つの村の住民6,000人全員にベーシックインカムを給付しました。その結果、これらの村ではコミュニティや家庭で現金が極度に不足していたため起きていた様々な問題が解消され、予想を上回る好成績が得られました。
 

今まで人々は現金がないため、医療などで急な出費があると高利貸から借金しなければなりませんでした。しかし現金収入が乏しいため債務不履行になると、返済できない代わりに地主の望むときに労働力を提供させられる「債務奴隷」になります。そのため自分の畑を耕す時間が無くなり、ますます貧しくなるという悪循環が生じていました。ベーシックインカムにより人々は債務を減らしたり、より低額の融資を受けて、農具や種子、肥料を買って生産性を高める人が現れました。またそれまで村では女性は年長者の言うことに無条件で従っていましたが、ベーシックインカムにより経済的に自立したことで、自らの意見を言うようになりました。
 

イギリス

慈善団体「ブロードウェイ」は、路上生活が4年以上のホームレスに何が必要か聞いたところ、現金が必要と答えた13人に平均794ポンド(16,000円)の現金を支給しました。このうち11人は1年以内に路上生活から脱しました。13人のうち、アルコールや薬物、ギャンブルのために金を求めた者はいませんでした。彼らホームレスがこの実験に参加した理由は、自分達を施設に押し込めず、自分の人生をコントロールさせてくれるからでした。イギリスはホームレス1人に対して、医療、警察、刑務所などに年間26,000ポンド(348万円)が費やされています。
 

反対派の声

意外なことにベーシックインカム反対派の急先鋒は労働組合です。ベーシックインカムが支給されると人々が労働組合に加入しなくなることを恐れているのです。実際は基礎的な安全が確保されている方が、自分たちの利害を代表する組織に加わるようになることが明らかになっているのですが。このように今まで考えにとらわれて、思い込みが原因の反対意見も多くあります。
 

「働かざる者食うべからず」という思想

ベーシックインカムに対する反対で根強いのは「働かざる者食うべからず」という思想です。言い換えると「なぜ働いていない人も働いている自分と同じようにベーシックインカムをもらうのは気に入らない」という感情です。これに対してベーシックインカム推進論者は以下のように述べています。
 

  • 先進国では多額の費用をかけて福祉給付を行っているが、それよりベーシックインカムの方が費用が少なく効率的である。
  • 先進国では労働環境が大きく変わり、低賃金の仕事しかつけない貧困層は働いて得た収入だけでは必要最低限の生活を維持できない
  • 発展途上国では現金収入の機会が限られるため、僅かな現金がないために貧困から脱出できない

 

しかしオバマ政権の経済諮問委員長のジェーソン・ファーマンのように「ベーシックインカムにより福祉予算が削られ、不平等が悪化する」など根強い反対意見があります。またベーシックインカムがあればアルコールやギャンブルに使うのではないかと決めつける人達もいます。これは「貧しい人は愚かで合理的な判断ができない」と決めつけているからです。実際は貧しい人達がアルコールやギャンブルに逃避するのはお金がないことが原因で心が荒廃するためです。
 

財源

「ベーシックインカムには賛成だが、財源がないから無理ではないか」という意見もあります。日本の財源については古山明男氏、波頭亮氏など多くの人が試算しています。財源の検討例として古山氏は、以下のように述べています。
 

ベーシックインカムは、医療扶助や介護扶助などの現物給付を残せば8万円/月人と推定します。8万円は国民年金や厚生年金の基礎部分よりも若干多く十分な金額です。
これに必要な財源は122兆円で、充当できる財源は、

  • 国民年金・基礎年金が22.2兆円、
  • 生活保護が1.2兆円、
  • 雇用保険の失業保険費1.5兆円
  • 厚生年金32.4兆円

計57.3兆円、そこであと64.7兆円が必要です。
 

日本は国民所得に対する税金や社会保険料の負担割合、国民負担率は42%で、ヨーロッパの先進国の60%に対しまだ低い値です。そこで国民負担率を60%に引き上げれば、国民所得431兆円に対して76.7兆円の歳入増となり十分に賄うことができます。さらに消費税を15%まで引き上げればさらに財源を確保できます。
 

もうひとつの方法は資産に対する課税です。土地などの固定資産は1.4%課税されていますが、金融資産は課税されていません。日本は資産100万ドル以上の富裕層が245万人いて、これはアメリカに次いで世界で2番目に多い数です。つまり日本には大金持ちは少ないけれどそこそこのお金持ちは世界でも多い国です。
 

国民の金融資産は2017年には1832兆円あり、これに1.4%課税をすれば25.6兆円の税収増が得られます。
 

官僚の抵抗

ベーシックインカムの導入に関して強い抵抗が予想されるのが官僚です。官僚機構は組織を肥大化させ、仕事を細分化し複雑化させる傾向があります。実際省庁間の連携がなく、何のためにそんなにこだわっているのかと思うほど、些細にルールや仕様を決めて、効率性や社会的コストは無視されています。ベーシックインカムの導入は官僚の仕事を激減し、官僚がコントロールできる範囲を大幅に狭めるため、激しい抵抗が予想されます。
 

ベーシックインカム・プラスアルファ

古山明男氏は、ベーシックインカムをマイナス金利マネー(ゲゼルマネー)で給付することを提唱しました。
ゲゼルマネーは1900年代の初頭にドイツのシルビオ・ゲゼルが提唱したもので、毎月1%ずつ価値が下がるお金です。これは紙幣に12個のスタンプを押す個所があり、毎月スタンプを貼らないと使えません。このスタンプ代はマイナスの金利として作用します。ドイツのシュヴァーネンキルヘンやオーストリアのヴェルグルなどの町で自由通貨として発行され、人々はスタンプ代を支払わないようにできるだけ早くお金を使ったため、驚異的なスピードでお金が循環し、失業に悩まされていた町が瞬く間に活況を呈しました。
 

今までのお金は利息を生み「増価」します。そのため長く持っているほど価値が高まるため、何も生産しなくとも「富」が「富」を生み、金持ちはますます金持ちになります。逆にマイナス金利の減価マネーは持っている目減りするため、持っているよりも手放した良くなるお金、持っているより貸したくなるお金です。
 

そこで古山明男氏は、ベーシックインカムを電子通貨で発行し、この電子通貨にマイナス金利を付けた電子式減価マネーとすることを提唱しました。そのためには、国が電子式減価マネーを発行する銀行を設立し、国民全員が同銀行の口座を開設します。ベーシックインカムはその口座に電子式減価マネーで振り込みます。電子式減価マネーは1日0.1%とかなり大きな減価を想定しています。そのためもらって人はできるだけ早く使った方が得です。
 

もし普通のお金と交換したい場合は、手数料を払います。もちろん通貨ですから、電子式減価マネーの支払いを誰も拒むことはできません。もし電子式減価マネーが実現すれば、過去の実験からわかるようにものすごいスピードでお金が循環し、景気は急速に回復します。もし景気が過熱したと判断すれば、マイナス金利を減らせばよく、今までの間接的な政策よりも強力に需要をコントロールできます。これは先進国の課題「需要不足」を解決できる可能性を秘めているかもしれません。一方お金が利益を生む従来の価値観は根強く、強欲な金融経済論者は激しく抵抗すると予想されます。
 

いずれにしてもベーシックインカムは従来の社会経済システム、社会保障、税制と全く異なるラディカルな考え方です。ベーシックインカム推進論者のT・フィッツパトリックも部分的な導入から初めて完全な導入までには20年はかかると考えています。
 

図2 ベーシックインカム改革の移行過程 (フィッツパトリック)

図2 ベーシックインカム改革の移行過程 (フィッツパトリック)


 

参考文献

「じゅうぶん豊かで貧しい社会」 ロバート・スキデルイキー 著 筑摩書房
「ベーシックインカム」 原田泰 著 中公新書
「ベーシックインカムは究極の社会保障か」 萱野稔人 著 堀之内出版
「みんなにお金を配ったら」 アニー・ローリー 著 みすず書房
「グローバルベーシックインカム入門」 岡野内正 訳 明石書房
「AIとBIはいかに人間を変えるのか」 波頭亮 著 幻冬舎
「ベーシックインカムへの道」 ガイ・スタンディング 著 プレジデント社
「ベーシックインカムのある暮らし」 古山明男 著 ライフサポート社

 

 

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