品質とコストの改善 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 数人の会社から使える原価計算システム「利益まっくす」 Mon, 26 Feb 2024 01:52:50 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.5.3 https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/04/riekimax_logo.png 品質とコストの改善 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 32 32 複雑化する社会やシステムとヒューマンエラー その2 ~複雑化するシステムの問題を食い止める組織とは~ https://ilink-corp.co.jp/8828.html https://ilink-corp.co.jp/8828.html#respond Fri, 01 Sep 2023 01:30:37 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8828 No related posts. ]]> その1はこちらで参照いただけます。併せてご覧ください。
複雑化する社会やシステムとヒューマンエラー その1 ~複雑化するシステムの問題を食い止める組織とは~
 
現代は様々なシステムが複雑化し、さらにシステムの中でそれぞれの機能が密接に結合しています。そのため、些細な失敗が失敗の連鎖を生み、思いがけない事故が起きることを、「複雑化する社会やシステムとヒューマンエラー その1」で述べました。

この問題に対し、どのように対処すればよいのでしょうか?
 

問題を早期に発見する

密結合のシステムは、小さな問題が連鎖を生み短時間に重大な結果を引き起こします。

それを防ぐためには、問題を早期に発見します。

操作の見える化

最新型の航空機、例えばエアバスA330の操縦桿はジョイスティックです。

対して、アメリカのボーイング737のコックピットには、今でも中央に巨大な操縦桿があります。機首を下げるには操縦桿を前に倒し、機首を上げるには操縦桿を手前に引くという昔ながらの操作です。機長と副操縦士の操縦桿は連動しているので、副操縦士が操縦桿を引けば機長にもすぐに分かります。
 

2009年エールフランス447便のエアバスA330が大西洋に墜落しました。その5年後にはエアアジア8501便がジャワ海に墜落しました。原因は旋回失速でした。つまり旋回中に機首を上げすぎたためでした。機種を上げすぎた時には、機首を下げれば失速しないのですが、混乱した副操縦士は機首をさらに上げてしまったのです。しかも機長はこの致命的なミスに気付きませんでした。
 
操作が機長に見えないことが、問題の発見を遅らせたのです。この問題は最新の自動車にもあります。

シフトレバーの位置はどこ?

映画スタートレックの主演俳優アントン・イェルメンは、愛車ジープ・グランドチェルキーから降りた後、勝手に下がってきた車と塀の間に挟まれて亡くなりました。この車は、シフトレバーを動かしてギヤを選ぶと、その後シフトレバーは元の位置に戻ります。そのため、今ギヤがどこに入っているのかシフトレバーを見ても分かりません。イェルメンはシフトをパーキングにしたつもりでしたが、ニュートラルだったのです。実際、パーキングのつもりがニュートラルやリバースに入っていたという苦情が寄せられていました。

「どのように操作したのか一目でわかる」

単純なことですが、そうでないことがヒューマンエラーを誘発し、重大な結果をもたらしたのです。

図1 分かりにくいシフトレバーは事故の元

図1 分かりにくいシフトレバーは事故の元


 

多すぎる警告の危険

間違った操作、機器の故障、人が気づかない危険を防ぐために、多くの機械は警告を発します。しかし警告が多すぎても混乱します。

ボーイングでは、飛行に有害な影響を及ぼす可能性のある、下記の4項目のうち、高レベル警報を作動させるのはどれとどれでしょうか?

  1. エンジン火災
  2. 着陸降下を開始しているのに着陸装置が出ていない
  3. 空気力学的な失速が差し迫っている
  4. エンジン停止

 

答えは「3. 空気力学的な失速が差し迫っている」です。
 

ボーイングのコックピットでは失速のみ、赤い警告灯が点灯し、赤文字のメッセージがスクリーンに表示されます。操縦桿が激しく振動し、警報音が鳴り響きます。

尚、失速以外の状況では警報音が鳴り響くことはありません。

これは警報システム(に限らずあらゆるシステム)を

必要以上に複雑にして人々を圧倒するな

ということです。

かつて航空機の複雑化が進むと、人の不注意を補うため、あちこちに警告灯や警報装置がつけられました。その結果、コックピット内は頻繁に警告灯が点灯し、警報が鳴り響いていはました。この警告灯や警報がかえってパイロットの注意力や正しい判断の障害となってしまいました。

今は警報が階層化され、日常のフライトではめったに警報は作動せず、あまり重要でない警報にパイロットが圧倒されることはなくなりました。
 

十分な高さはどれくらいか

海抜約60mの山腹にある宮古市重茂姉吉(おもえあねよし)地区には、130年以上前に建立された石碑があります。

「津波は、ここまで来る。ここから下には、家を作ってはならない」

2011年3月11日の東日本大震災では、1896年三陸沖地震の後に建てられた石碑の100m手前で津波は止まりました。
 

一方、地震による津波のため福島第一原子力発電所は発電機が浸水、全電源を喪失しメルトダウンを起こしました。福島第一原発の防波堤10mに対し、女川原発の防波堤の高さは14mあり、13mの津波を防ぐことができました。

では、防波堤の高さは何メートルにすればよいのでしょうか。
 

確率90%に入るのは50%以下

最善のケースと最悪のケースの間の合理的な範囲を考えれば、防波堤を襲う最も高い波は99%の確率で7mから10mに含まれます。

しかし心理学者のドン・ムーアとウリエル・ハランの研究によれば

90%の信頼区間は10回のうち9回はその範囲に入るはずなのに、実際には

真値が含まれる確率は50%以下

であると、予測の研究から述べています。

解決策① 主観的確率区間推定法

そこでムーアとハラン、キャリー・モアウェッジは、主観的確率区間推定法(SPIES : Subjective Probability Interval Estimates) で、両端だけを考えるのでなく、起こりうる複数の結果の確率を予測すべきと提言します。

主観的確率区間推定法とは、データから得られた情報に加えて、事前に持つ確率的知識を加味して、パラメータの値の区間を推定する方法です。従来の統計学では、データから得られた情報のみに基づいて、区間推定を行います。しかし、この方法では、データが限られている場合や、データの質が低い場合、正確な区間推定が難しい場合があります。
主観的確率区間推定法では、データから得られた情報に加えて、事前に持つ確率的知識を加味することで、より正確な区間推定を行うことができます。主観的確率区間推定法には、以下の2つの方法があります。

ベイズ統計学に基づく方法
ベイズ統計学では、事前に持つ確率的知識を事前分布として表現します。そして、データから得られた情報に基づいて、事前分布を更新し、推定結果を導きます。

事前分布を用いない方法
事前分布を用いない方法では、データから得られた情報のみに基づいて、区間推定を行います。しかし、この方法では、事前に持つ確率的知識を加味できないため、正確な区間推定が難しい場合があります。

主観的確率区間推定法は、従来の統計学よりも正確な区間推定を行うことができるため、さまざまな分野で活用されています。主観的確率区間推定法のメリットとデメリットは、
メリット
・従来の統計学よりも正確な区間推定が可能
・事前に持つ確率的知識を加味できる

デメリット
・事前分布の設定が難しい
・計算が複雑になる可能性がある

主観的確率区間推定法は、事前分布の設定が難しいというデメリットがあります。しかし、事前分布を適切に設定することで、より正確な区間推定を行うことができます。

まず全ての起り得る結果を網羅するように区間を設定し、

次にそれぞれの区間の確率を推定し書き出していきます。

これらの推定確率を元に、以下の表のように信頼区間を推定します。

区間(プロジェクトの長さ) 推定確率
1か月未満 0%
1~2か月 5%
2~3か月 35%
3~4か月 35%
4~5か月 15%
5~6か月 5%
6~7か月 3%
7~8か月 2%
8か月以上 0%

 

例えば、90%の信頼区間を求める場合は、上から合計確率が5%になる信頼区間を切り捨てます。同様に下から合計確率が5%になる信頼区間も切り捨てます。残ったものが90%の信頼区間になります。SPIESを用いた結果、ある研究では、従来型の90%区間に真値が含まれる確率が30%だったのに対し、SPIESで算出した区間の的中率は74%でした。
 
つまり従来の客観的確率で99%とされていたものは、もっと低いかもしれないのです。逆に客観的確率ではめったに起こらない高さの津波は、もっと高い確率かもしれないのです。

なぜ正確な予測が困難なのか?「意地悪な環境」の難しさ

津波のような自然災害は、社会インフラのコストに影響するため多くの専門家が高度なモデルを使って推定します。しかし津波のようなめったに起こらないことは学習ができません。これを心理学者は「意地悪な環境」と言います。実際に起きなければ、予測や決定がどれだけ正確だったか確認できません。しかも自然災害の予測は、わずかなミスも許されません。
 

これに対して、気象予想の専門家は常にフィードバックを受けています。日々予想の正しさを確認しています。これを心理学者は「親切な環境」といいます。結果について頻繁にフィードバックが得られるため、正しい決定のためのパターン認識能力が身につく環境です。

これに対し、「意地悪な環境」では専門家でさえ、自分の決定が正しいかどうか、確認できません。つまり専門知識を身につける機会が限られています。ある実験で、出入国審査官がパスポートの写真を見て別人を通す確率わ調べました。結果は7回に1回、これは実験に参加した学生と変わりませんでした。
 

解決策② 選択を構造化

家を買うとき、様々な家を見るとそれぞれ特徴があります。どの家が「最適な選択」でしょうか。ある家のとても素敵なベランダに心惹かれて、他の欠点は無視してしまうかもしれません。

「ペアワイズ(2因子間網羅)」を使えば、ある特徴に引っ張られることなく、総合的な評価ができます。
 

ペアワイズとは、組み合わせテストの技法の一つで、2つの因子のすべてのペアについて、取り得る値の組み合わせを網羅する手法です。ソフトウェアの不具合の多くは1つまたは2つの因子の組み合わせによって発生する、という経験則に基づいて、すべての因子・水準の組み合わせを網羅するよりも何桁も少ない回数で組み合わせテストを構成することができます。

ペアワイズ法は、以下の2つのステップでテストケースを作成します。
1. テスト対象とする因子と、その因子の水準を特定する。
2. すべての因子のペアについて、それぞれの水準の組み合わせを網羅するテストケースを作成する。
例えば、テスト対象とする因子が「色」と「サイズ」で、色の水準が「赤」と「青」、サイズの水準が「小」と「大」の場合、ペアワイズ法では以下の4つのテストケースを作成します。

色:赤、サイズ:小
色:赤、サイズ:大
色:青、サイズ:小
色:青、サイズ:大

ペアワイズ法は、以下のメリットがあります。
・少ないテストケースで効率的にテストを進めることができる。
・ソフトウェアの不具合の大部分を検出できる。

デメリットとしては、以下の点が挙げられます。
・因子間に明確な関係がない場合に、必要なテストケースが不足する可能性がある。
・因子の数が多い場合に、テストケースの数が多くなる。

ペアワイズ法は、ソフトウェアの不具合の多くを効率的に検出できる有効なテスト技法です。しかし、因子の数や因子間の関係を考慮して、適切に活用することが重要です。

家を選択する場合、リストからランダムに選んだ2つの項目を次々に表示し、自分にとって大切な方をクリックします。この選択を数十回行い、各項目につき0~100までのスコアを算出します。これに対し重みづけをして総合的に評価します。

シアトルに住むリサとその夫は家を買うときにこのペアワイズを使用しました。結果、気に入った家の評価が意外と低く、平均的な不満の少ない家が見つかりました。この手法のおかげで費用面的な細部にとらわれずに済みました。(表2)

表3 家を買うときに行ったペアワイズ

基準 重み 家D 家J 家T
間取り(3ベッドルーム+ゲストルーム) 89 1 1 1
動線の良さ 79 0.5 1 0.5
開放感 73 0 1 1
プレハブを増築できるか 67 1 1 1
戸外や自然環境との一体感 62 1 1 0.5
家の雰囲気 62 1 -1 0.5
大規模な改修が不要 61 1 -0.5 1
お得感 53 0 0 0.5
親しみやすい土地柄 65 0 -1 0.5
近隣地域の質 57 -1 -1 0
近隣住民の雰囲気 54 -1 0 0
加重和(722点満点中) 269.5 155.5 450.5
合計スコア(722を100%とした割合) 37.3% 21.5% 62.0%

※注 2人はプロセスを簡素化するために、評価がとても低かった基準を省いた
 

頭の中に12もの項目を一度に入れておくのは難しいですが、このツールがあればすべてを組み込んだ全体像をつかむことができます。
 

図2 家は大きな買い物

図2 家は大きな買い物


 

解決策③ 死亡前死因分析

プロジェクトが失敗すると、何が問題だったのか、なぜ失敗したのかを検討するための教訓セッションが行われます。医療でいう、死亡後死因分析のようなものです。ゲーリー・クラインは以下のように考えました。

これを事前に考えてみてはどうだろう? プロジェクトを開始する前に、こう宣言するのだ。「今、水晶玉を覗いてみたら、プロジェクトが失敗していました。大失敗です。さてみなさん、少し時間をとって、なぜプロジェクトが失敗したのかを考え、その理由をすべて書き出してください。」

これは心理学者が「先見の後知恵」と呼ぶもので、つまり出来事がすでに起こったと想像することで頭に浮かぶ後知恵です。この先見の後知恵を用いると、特定の結果が起こる理由を見抜く能力が高まります。
 

例 卒業を控えた60人に今後母校の成功を脅かす最大のリスクを書いてもらいました。学生には2種類の質問をしました。
 

(#1) 少し時間を取って、今後2年間に当校の存続や成功にとって最大の脅威となるかもしれない要因や動向、出来事を考えてください。頭に浮かんだことをすべて書き出してください。

(#2) 今は2年後だと想像してください。当校は大苦戦していて、最近の卒業生であるあなたは悪いニュースをしょっちゅう見聞きしています。実際、大学はビジネスモデルの閉鎖さえ検討しているほどです。では少し時間を取って、この結果をもたらした要因、動向、出来事を想像してください。頭に浮かんだことをすべて書き出してください。
 

表 質問の回答

バージョン#1の質問の回答 バージョン#2の質問の回答
学生の実地研修が足りない。他大学の学生に比べて実地スキルを学ぶ機会が少ない アカデミックなことに力を入れすぎて、実践的なスキルや就職支援などに手が回らない
他校のプログラムとの差別化が図れず、毎年卒業生がよい仕事に就けない 学生のカンニングなど学術スキャンダルによって、大学の評判が傷つく
<教室での講義と実際の職業経験とを結びつけていない/td>

多くの卒業生が就いてきた新卒向けの仕事が、人工知能に取って代わられる
他校に比べて卒業生を採用する企業が少ない。就職準備のサポートが不十分 自然災害による公社の損壊。法律改正により海外留学生のビザ取得が困難に
他校との競争や、全般的な経済不安 他校の実地研修が拡充する。オンライン教育により対面での授業が時代遅れになる。経済学部の応用プログラムにビジネススクールの優秀な学生が奪われる

 

バージョン#1の回答と、バージョン#2の回答には明らかな違いがあります。バージョン#1の結果を想像しなかった場合に比べて、バージョン#2ではより多くの理由を思いつき、しかもそれらはより具体的で正確でした。
 

解決策④ 予測能力・直観力を磨く

【2秒早く予測】
アイスホッケー選手ウェイン・グレツキーは、1981~1982年のシーズンで92得点というNHL記録を打ち出し、NHL史上最高のプレイヤーと呼ばれました。ウェインは身長180cm、体重77kgとNHL選出しては小柄でしたが、他の選手よりも2秒早くリンク上の展開が読めました。

ウェインは「パックがある場所へ滑るのでなく、パックが向かうはずの場所に滑り込む」と述べています。

チームメイト グラントファーは「彼は試合の動きが読めるんだ。他の選手はそんなこと考えもしない。不可能だと思っているからね。なのに彼はそれをやってのけるのさ。同僚選手に向けてでなく、スペースへとパスを出す。誰かがそこを滑るはずだし、その位置からなら得点できるとわかっている。だからパックをそこへ送り出すわけだ」と話しています。
 

【自分と会社が一体という感覚】
シリコンバレーの投資家 元ネットスケープ・コミュニケーションズのベン・ホロウィッツは、ラウドクラウドのCEO時代、データを見るのではなく自社についての知識を頭の中に詰め込んでいました。

製品、顧客、従業員、課題や脅威などの情報が頭の中をうまく流れるようにしていました。ホロウィッツは自分が会社と一体だという感覚で仕事を行っていました。

そのため、難題が持ち上がっても打つべき手が瞬時に頭に浮かびました。

ホロウィッツはこの感覚を持った人材をタイプ1の人材と呼びました。企業への投資はタイプ1の人材がいるかどうかで決めていました。

一方、企業にとってはタイプ1とは違うタイプ2の人材も必要であり、細かい点に注意を払って実行役を果たすと考えていました。ただしタイプ2の人材は想定内の話しかできません。

CEOが完全な情報をもとに判断を下すことはあり得ないため、これまでの経験から複雑で巨大な情報のかたまりを脳内で咀嚼し、解決策を即座に判断できます。また、見過しがちな変化やチャンスに注意を払うことができます。
 

【とにかく行動】
ボストンのトーマス・メニーノ市長は、支持率は72%で、2009年5期目の再選を果たしました。

メニーノ市長はひっきりなしに街に出て、世論調査はせず、コンサルタントにも頼らない方針でした。泥臭い仕事を自分でこなし、「熟考より行動」を重んじていました。その積み重ねでメニーノ市長は自分の判断がどんな影響を及ぼすのかをほぼ瞬時に見通すことができました。

彼は、1万時間を超える時間をかけてボストンについての予測脳を築きました。
 

解決策⑤ 小さなミスから学習する

システムが小さなエラーやミス、その他警告サインという形で私たちに投げかける情報から、学習することを欠かさないようにします。

小さな過ちやニアミスから学習する方法をアノマライジングと呼びます。
 

【ステップ1】

  • アノマリー(計画したことと実際に展開する状況との乖離)の収集
  • 危険なニアミスの報告の収集
  • うまくいっていない物事を発見
  • 例えば航空会社は航行中の航空機からも直接データを収集

 

【ステップ2】

  • 指摘された問題に対処

 

【ステップ3】

  • 問題を掘り下げ、根本原因を特定し対処
    例 同じ病棟で投薬ミスが繰り返し起こっていた
  • 調査の結果、看護師たちが立ったまま投薬の準備をする間、何かと邪魔が入って投薬準備がしょっちゅう中断されていた
  • 対策として投薬準備室を設けた
  • 問題が解明したらヒヤリハットの事例は組織全体で共有

 

【ステップ4】

  • 警告サインを受けて講じた解決策がちゃんと機能しているか検証
    例 航空会社での手順ミスが発生した
  • コックピットにパイロットがもう一人乗り込んでクルーの仕事を見守る
  • チェックリスト項目の見逃しや手順の混同がないか確認して対策の有効性を検証

 

検証を行うことで、解決策が問題を悪化させる事態を防ぐことができます。
組織の中で「報告者が責められるようなことがあれば、システムに生じたまちがいや事故を指摘する人など誰もいなくなる」というような「あやまちを魔女狩りにする」のでなく、学習機会とみなす文化が必要になります。

UCSFの医師ボブ・ワクター氏は、「組織の安全性を測るものさしは、ファインプレーをした人がCEOに表彰されるかどうかではない」

「たとえ勘違いでも声をあげた人が表彰されるかどうかなのだ」

と述べています。

図3 小さなミスを収集して学習するサイクル

図3 小さなミスを収集して学習するサイクル


 

失敗を引き起こす権力

ウィスコンシン大学で、以下のような研究が行われました。

まず、面識のない3人の参加者に学内の様々な問題を議論させます。その後、3人の中からランダムに選んだ1人を評価者に指名し、他の2人について議論の貢献度に応じて点数をつけてもらいます。評価者は選ばれたのがただの偶然であることを知っている状態です。
 

次に、議論の30分後にチョコレートチップクッキーを差し入れます。

チョコレートチップクッキーは全員分のおかわりがなく、2枚目のクッキーをもらえるのは評価者に選ばれた人だけです。この、「評価をする」というわずかな権力意識が、評価者自身に「自分は2枚目を食べる権利がある」と思わせました。

しかも食べ方も汚く、「脱抑制摂食行動」の兆候が見られました。動物のような食べ方で、他の参加者に比べて口を大きく開けて食べたり、クッキーのかけらを顔やテーブルにこぼしていました。
 

① 権力意識が現場の直感を阻害する

【他人の意見を聞かない】

前記の研究から、ささやかな権力意識を手にするだけで人は腐敗することが分かります。そして他人の意見を曲解したり却下したりします。「議論で他人の発言を遮る」、「自分の順番でないときに発言する」、「専門家であろうとなかろうと他人の助言を聞き入れない」などの行動を起こす可能性が高くなりました。

権力を持っている状態は、脳に損傷がある状態と少し似ているといえるでしょう。

「権力者は脳の前頭葉眼窩部に損傷を受けた患者とそっくりの言動をとることが多い」

この領域の活動が低下すると、衝動的で無神経な行動をとりがちになります。複雑系では、失敗の前に

失敗が近いことを示す手がかり

が現れます。その多くは役職者より現場の人の前に現れます。しかし彼らは「上司はどうせ聞いてくれない」と思います。声を上げることはありません。
 

【予兆を妨げる上司】
ウィスコンシン大学のジム・ディタートは従業員の素直な意見を促すために企業が行っている取組を調査しました。その結果「ベストプラクティス」とは程遠い現状が浮き彫りになりました。

「オープン・ドア・ポリシー」は、効果が上がっていませんでした。上司との会話においても、問題の責任は部下にあり、それは乗り越えがたいハードルでした。

ウィスコンシン大学のディタートとパリスは「匿名で意見を言える仕組みにすれば、その背後に『この組織で思っていることを素直に言うのは危険だ』というメッセージが言外隠されている」と指摘しました。
 

② 開かれていないリーダーシップ

リーダーは何より「人がいかにヒエラルキーに忖度しているか」このことを理解することがとても重要です。前述のディタートは以下のように述べています。

ほとんどの人が意識していなくても、上役のご機嫌を損ねていないだろうか、人間関係を損ねていないだろうか、といつも気にしている。だから上司は、ただ和やかな雰囲気をつくり、オープン・ドア・ポリシーを唱えるだけではだめなんだ。誰かがやってきて声を上げるのを待つんじゃない。自分から行かなくては。会議で誰も反対しないからといって、全員が合意していると思ってはいけない。多様な意見を促そう。部下が意見を言える場を頻繁に設けよう。そうするうちに、声を上げることが特別なことではなくなり、いつものありふれたことになる。

 

「声を上げるよう積極的に促さないのは、抑えつけているのと同じだ。ネガティブなことをしないというのでは全く不十分なんだ」

しかし、メンバーが声を上げやすいように様々な取組をした結果、根拠のない懸念や的外れの意見まで殺到したらどうしたら良いでしょうか。寄せられるアイデアにはよくないものもあります。ただ文句を言いたいだけの不満分子かもしれません。

素直な意見を促すとき、よいアイデアだけが出てくることはありません。一部の意味のないアイデアで時間を無駄にするかもしれません。そのコストと、とても重要なことを見過すコストをてんびんにかけなければなりません。どちらを大切にするべきか、判断するのはリーダーです。

システムが線形系であれば声を上げることがあまり重要でないかもしれません。失敗は明白で人目に付きやすく、些細なエラーでメルトダウンを引き起こすことはめったにありません。

しかし複雑系では何が起こっているかを把握するのは、一個人の能力では限界があります。その上システムが密に結合していれば、間違いの代償はとても高つきます。

複雑系のデンジャーゾーンでは、少数意見を無視できないのです。
 

レジリエンスを高める

十分な対策をしても大規模な災害を防ぎきれないもしれません。

レジリエンス・エンジニアリング、認知システム工学のE・ホルナゲルは、大規模な災害が起き、それは防ぎきれないという前提で「被害を最小限に食い止め、早期の復旧を目指すべき」という考え方を提唱しました。(レジリエンスとは弾性力、回復力を意味し、物理学、生態学、心理学で用いられます。)

東日本大震災では、巨大な津波が防潮堤を乗り越えて人命や財産を奪いました。レジリエンス・エンジニアリングでは、ハードウェアだけで津波を100%防ぐのでなく、例え津波が乗り越えても被害を最小限に抑え、そして被害から早期の復旧ができることを目指します。

これは強固なハードウェアに頼るのでなく、社会システムを構築し、人や組織が臨機応変に柔軟に対応することで問題に対処するという考え方です。そのためには事前に様々な場面を想定し、臨機応変な対応ができるような訓練が必要です。

つまり、これまでシステムやルールを守り安全を確保する「第1種の安全」に対して

2被害をできるだけ抑えて、機能の維持と回復に向かう取組は「第2種の安全」と呼べるでしょう。
 

表 第1種の安全と、第2種の安全の比較

Safety-Ⅰ Safety-Ⅱ
安全の定義 悪い方向へ向かう物事ができるだけ少ないこと できるだけ多くのことが正しい方向へ向かうこと
安全管理の原則 何かが起こった時に、反応し、応答する 事前対策的、発展や事象を予期するように努める
事故の説明 事故は失敗や機能不全が原因で起こる 結果によらず、物事は同じ方法で起こる
ヒューマンファクターの見方 責任 資源

 

参考文献

「巨大システム失敗の本質」クリス・クリアフィールド、アンドラーシュ・ティルシック 著 東洋経済新報社
「科学技術の失敗から学ぶということ」寿楽浩太 著 オーム社
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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現代は様々なシステムが複雑化し、さらにシステムの中でそれぞれの機能が密接に結合しています。

そのため、些細な失敗が失敗の連鎖を生み、思いがけない事故になってしまいます。
 

小さな失敗と思いがけない事故

 

スリーマイル島原子力発電所事故

1979年3月28日アメリカ ペンシルベニア州のスリーマイル島にある原子力発電所で事故が起き、炉心溶融(メルトダウン)という重大な結果になりました。

きっかけは保全のために、2次冷却水系のイオン交換樹脂を交換したことでした。この作業中、弁を制御する圧力空気の経路に少量の水が混入しました。

これが原因で主給水ポンプ、復水ポンプが停止し、発電用タービンが緊急停止しました。

その結果、一次冷却系の圧力が上昇しました。そのため原子炉は自動的に核反応を停止(制御棒を炉心に全部挿入)しました。

しか原子炉内では崩壊熱の発生は続き、一次冷却系の圧力は上昇しました。そのためパイロット・オペレーション・リリーフバルブ(PORV)が自動的に作動し、一次冷却系の圧力を下げました。
 

ところがPORVは故障していました。PROVをオフするように信号が送られましたが、信号がオフになってもPORVの弁が開いたままでした。ところがPORVの弁の開閉を検知するセンサーはないため、計器盤が表示するPORVへの信号のオフから、誰もがPORVの弁は閉じていると思いました。

実際は、原子炉内の冷却水は高温になり、圧力容器内の水は激しく沸騰し気化していました。

これにより気化した蒸気の泡が水位計に流入しました。そのため、水位計は十分な水位を示すという間違った表示をしました。

こうしたことが重なり、オペレーターは炉内で起こっていることを正しく理解できませんでした。

こうした誤った情報から、オペレーターは炉内の冷却水が過剰気味と考えました。

そして緊急給水ポンプを停止してしまいました。PORVから蒸気の放出は続き、ついに原子炉内の炉心コア頂部が露出しました。そして水素の発生と燃料棒被覆の溶解が起きました。
 

午前6時にシフト交代がありました。交代したチームはPORV近辺の温度異常に気付きました。すぐにPORVのバックアップバルブを閉じましたが、この時すでに120,000Lの一次系冷却水が放出されてしまいました。

結局、炉心溶融(メルトダウン)により、燃料の45%、62トンが溶融ました。このうち20トンは原子炉圧力容器の底に溜まってしまいました。給水回復による急激な冷却によって、炉心溶解がさらに深刻化しましたた。

実際には、最初の配管トラブルと蒸気発生器への給水ポンプの停止から、原子炉内の圧力上昇、PORVの弁の固着とPORVの誤表示までは、わずか13秒の間でした。

その後10分以内に炉心の損傷が始まっていました。

この事故は、操作員のミスと、あとから振り返って初めてわかる「あとになってわかる過失」が重なったために起きた事故でした。
 

中華航空機事故

1994年(平成6年)4月26日に台湾発名古屋空港行きの中華航空140便(エアバスA300)が名古屋空港への着陸進入中に墜落し、乗員乗客271人中264人が死亡しました。この事故は、日本では日本航空123便墜落事故(死者520人)に次ぐ惨事でした。

事故の原因は、名古屋空港への着陸進入時に、副操縦士が誤って着陸やり直しスイッチ(ゴー・レバー)を押してしまったためでした。

副操縦士が知らない間に着陸やり直しの自動操縦モードになっていたのです。そうとは知らない副操縦士は、着陸のため操縦桿を押して機首を下げようとしました。しかし自動操縦モードは着陸やり直しになっているため機首を上げました。副操縦士がいくら操縦桿を押しても機種が下がらないため、機長は着陸は無理だと判断しました。そして着陸をやり直すため機首を上げようとした時、機体は突然急上昇しました。その結果失速し、墜落しました。
 

ボーイングに代表されるアメリカ製航空機は自動操縦装置について、「思いがけない事態が生じた際は、いつでも手動操縦に切り替えることができる」という考え方でした。事故機の副操縦士は、ボーイングの操縦経験が長く、このアメリカ製航空機の考え方に馴染んでいました。

それに対しエアバス社は、「人はミスを犯すものであり、それをコンピューター制御によって防ぎ、正しい操縦を行うことで安全性を高める」という考え方でした。かつてパイロットのミスによる航空機事故が何度も起きたため、エアバス社はこういう考え方になりました。

現代の航空機は、コンピューター制御と人の操作の領域が複雑に重なり合っています。その重なり方もボーイングとエアバス社で異なっています。

しかし航空機の操縦は、時には一瞬の遅れやミスが許されない場合もあります。その時、複雑な重なりは、致命的な事故になりかねません。

 

ひとつのミスが許されない「酸素容器の取り扱い」

1996年5月バリュージェット航空592便の機内で火災が発生、機は墜落しました。

原因は貨物室内にあった酸素発生装置が誤って作動し、貨物室内に酸素が放出され、この酸素が貨物室の火災を引き起こしたためでした。

この酸素発生装置は、バリュージェット航空の下請け整備会社セイバーテック社がアタランタへ飛ぶ592便の貨物に入れたものでした。しかし、酸素発生装置は輸送のための適切な処理がされていなかったのです。

【酸素発生装置の取り扱いルール】
航空機は非常事態の場合、乗客に酸素マスクを提供します。そのため、酸素発生装置(バルブのついた酸素ボンベ)を航空機は積んでいます。これは使用期限が来れば新しいものと交換します。交換した酸素発生装置の取り扱いは「期限切れ」「使用済みでない」の場合は安全キャップをつけなければならないルールでした。しかし、セイバーテック社の整備工は酸素発生装置の使用期限を区別していませんでした。

使用済みと期限切れの関係は表1のようになっていました。

表1 酸素発生装置の処理

使用期限 使用の可否 安全キャップ
期限切れ 使用済み 不要
使用済みでない 必要
期限切れでない 使用済み 不要
使用済みでない 必要

 

もし整備工がバリュージェット航空の作業命令書を読んで、

MD-80型機の分厚い整備用マニュアルの第35-22-01章「h」行から調べていたとしたら、

「酸素発生装置の保管または廃棄」に関する説明にたどり着いていたはずです。

そして、もしも丁寧に選択肢を検討してマニュアルをめくっていたなら、

「すべての使用可能/使用不可な(使用済みでない)酸素発生装置(容器)は、高温や損傷の危険にさらされない場所に保管すること」

を学んでいたはずです。
 

また、もしも括弧でくくられた「(使用済みでない)」の意味をじっくり考えていたのなら、

「(使用済みでない)」容器が「使用不可」な容器であることを察していたはずです。

しかもセイバーテック社は出荷用のキャップを持っていませんでした。

本来であれば、これらの酸素容器を安全な場所に移し、マニュアルに説明された手順に従って「起動されるべき(バルブを作動して酸素を解放)」だったのです。

ジャーナリスト兼パイロットのウィリアム・ランゲビーシュはこの事故に関して「アトランティック」誌に以上のように書いていました。
 

安全は、個人の注意力や能力、個々の装置の問題だけではなく、人や設備、運営を含めたシステムの問題も考慮しなくてはいけません。そのシステムが複雑で入り組んでいることが問題なのです。

正解に至る道筋がわかっていても、そこに至る道筋に

様々な分岐や選択肢があれば、正解にたどり着けるとは限らないのです。

さらに現代の事故の原因には、システム内での相互作用があります。
 

複雑さを増すシステムと密結合の危険

 

複雑さを増す現代のシステム

イェール大学チャールズ・ペロー氏は、航空機事故から原子力発電所や化学工場の事故を調査し、思いがけない相互作用が発生し小さな失敗が予期せぬ方法で組み合わさって大きな事故を起こすことに気が付きました。

このシステムの脆弱性を以下の二つの変数で表しました。
 

(1)線形系と複雑系
線形系の例 自動車工場の組立ラインなど製品が順に流れて作業を行うものなど

  • シーケンシャルに進む
  • 不具合が起きてもどこで発生したかすぐ分かる
  • 影響が及ぶ範囲も明確であることが多い

 

複雑系の例 原子力発電所

  • 入り組んだ網に近く、構成要素が相互に影響し合う
  • サブシステムが多くの構成要素と結びついている場合が多い
  • 一見無関係な要素が間接的につながっているため、何か問題がおきるとあちこちに影響する
  • 問題を直接見ることができず、情報は断片的にしか入らない(これは双眼鏡で遠くを見て、足元を見ずに断崖絶壁の近くを歩いているようなもの)

 

(2)システム内のゆるみの大きさ(結合の強さ)
2番目はシステム内での構成要素の相互の結合の強さです。構成要素間にスラック(緩み)やバッファー(緩衝)がほとんどないものを密結合、スラックやバッファーがある程度あるものを疎結合と呼びます。
 

密結合と疎結合

構成要素間にスラック(緩み)やバッファー(緩衝)がほとんどないため、ひとつの構成要素の不具合が他に影響を及ぼしやすい。この状況を密結合といいます。
 

【密結合の例 原子力発電所】
ものごとを正しく行うだけでは不十分です。正確な量のインプットを決まった順序で、決まった期間内に行わなければいけません。失敗してもやり直すことはできず、代用品や代替品がうまくいくことはありません。

つまり、ものごとを正しく行う方法は一つしかない状態です。

いろいろなことがあっという間に起こり、問題を解決する間システムを停止させておくことはできません。

原子力発電所の核分裂反応の制御がまさにそうです。

核分裂反応は特定の条件がそろう必要があります。正しいプロセスからわずかに逸脱しても問題が起きます。問題が起きてもシステムを一時停止できません。核分裂反応は連鎖し独自のペースで進行し続けます。もし中断できても崩壊熱はその後も発生し続けます。そして過熱した原子炉には直ちに冷却水を注入しなければなりません。タイミングが遅れれば炉心融解に至りかねません。
 

【疎結合の例 航空機製造工場】

尾翼と胴体は別々に製造されます。片方に問題起きても、二つの部分を結合する前であれば修正できます。しかもどちらを先に製造しても構いません。何か問題が起これば、その部分の製造を中断すればよく、後から作業を再開できます。

これを図にまとめると以下のように表せます。

図1 密結合と複雑な相互作用

図1 密結合と複雑な相互作用(「巨大システム失敗の本質」より著者作図)


 

郵便局や大学は疎に(緩く)結合しています。物事を正確な順番で行う必要はなく、問題を修復する時間も十分にあります。

ただ郵便局に比べて大学は入り組んだ官僚制機構です。非常に多くの部門と、部署、役職、規則、そし研究者や教員、学生、事務員などて様々な動機を持った人がいます。そのため相互の関係は複雑で予測不能な状態で結びついています。

ただし大学の場合は疎結合です。時間をかけて柔軟に問題に対応することができます。しかもある学部の問題は他の学部に影響することは稀です。社会学部のスキャンダルは医学部に影響を及ぼしません。

この結びつきの「固い」と「弱い」の違いを表2に示します。
 

表2 「固い」結びつきと「弱い」結びつきの比較

固い結びつき 弱い結びつき
作業過程における遅延は不可能 作業過程における遅延が可能
手順の順序は変えられない 手順の順序は変えられる
目標を達成する方法は1つだけ 代替的な方法がある
資材、装置、従事者における「たるみ」は少しだけしか許されない 資材、装置、従事者における「たるみ」は許容可能
以上の緩和策や予備手段はあらかじめ周到に組み込まれている 緩和策や予備手段はケースバイケースで用意できる
資材、装置、従事者の代替は限られているか、あらかじめ用意しておくしかない 資材、装置、従事者の代替もケースバイケースで対応できる

 

危険なのはマトリックスの右上

ペロー氏は、システムがメルトダウンを引き起こすのは、複雑系と密結合の組み合わせと言います。

複雑系では小さなエラーは避けられません。そしていったん歯車が狂い始めるとシステムは不可解な兆候を見せます。手を尽くしても問題を正しく診断するのは容易でありません。時には間違った問題を解決しようとしてしまいます。そして事態をさらに悪化させます。この時、密に結合されていれば、倒れ始めたドミノを止められません。失敗は制御不能になってしまいます。

図2 潜在的な危険の大きい技術の破局性と代替可能性

図2 潜在的な危険の大きい技術の破局性と代替可能性(「巨大システム失敗の本質」より著者作図)


 

ペロー氏はこの種のメルトダウンを

「ノーマルアクシデント(起こるべくして起こる事故)」

と名付けました。

ここでノーマルとは、頻繁に起こるという意味でなく、当たり前で避けがたいという意味です。

ペロー氏によればこのノーマルアクシデントは
「安全を期すためにどんなに力を尽くしても、(複雑な相互作用のせいで)複数の失敗の思いがけない相互作用が、(密結合のせいで)失敗の連鎖を招いてしまうような状況」
と定義しました。

こうした事故は

起こってはいけないことが起こったのではなく、

こういった複雑なシステムでは頻度は非常に低いが「起こるものである」

とペロー氏は主張しています。
 

金融 コンピューターによる高速取引プログラム

金融での複雑性と密結合
2012年8月1日、ニューヨーク証券取引所で製薬会社ノバルティスの株が乱高下しました。その結果、10分間で1日分の取引が行われました。しかも同様の不可解な動きがGMやペプシなど主要銘柄でも起きました。

原因は、大手証券取引仲介業者ナイト・キャピタルのシステムが誤発注したためでした。ナイト・キャピタルはまるで市場を相手に「手札を全部さらしてポーカーをしている」かのようでした。ナイト・キャピタルは、毎分1500万ドル強の損失が発生し、損失合計は5億ドルにも上りました。

密結合ではひとつのミスが命取り

2011年11月に個人投資家流動性プログラム(RLP)という新制度が導入されました。それに対応するため、ナイト・キャピタル社はプログラムを改修しました。RLPに対応するためのフラグを、以前は使用していたけど今は使用していない「パワーペグ注文」というフラグを使いました。すでにパワーペグ注文のコードは無効にしてありました。プログラマーはRLPに対応したプログラムを8台のサーバーに導入しました。ところが1台のサーバーはプログラムを入れ忘れました。
 

8月1日新しいプログラムが稼働すると、新しいプログラムをインストールしなかったサーバーは、RLPに対応したフラグを古いパワーペグコードと受け取り、パワーペグコードで決定した価格で注文を毎秒数百件の速度で出し続けました。しかもこの異常な注文は、システム画面に表示されず、誰も気づきませんでした。

ナイト・キャピタル社は、このたった1日のトラブルで破産しました。
 

こんなことは、原子力発電所や証券取引ぐらいで、自分たちには関係ないと思うかもしれません。

ところがシステムの複雑性と密結合は、今や私たちの身近なところにもあるのです。

複雑性と密結合の増す製品

ATMをハッキング
ホワイトハッカーで、セキュリティの専門家バーナビー・ジャックは、2010年ハッカーの年次国際会議でATMのハッキングをデモンストレーションしました。

車を止める
ハッカーのチャーリー・ミラーとクリス・バラセクは、「ワイヤード誌」の依頼でジープ・チェロキーのハッキングをデモンストレーションしました。チェロキーのエンターテイメントシステムに、モバイルネットワークから侵入し、車載コンピューターにアクセスしました。そして走行中の車のエンジンを停止させました。記事掲載から3日後、クライスラーはセキュリティの脆弱性を認め、140万台をリコールしました。

今ではこれまでオフラインだった自動車やATMがオンラインでつながっています。そのためセキュリティ上の脆弱性が増しました。加えてIoTでこれらの機器の上位システムともつながっています。今後、自動車、家電製品、工場内の設備など多くの機器もネットワークにつながり、相互に影響しあうようになっていきます。しかも私たちは途中過程を見ることができません。

システムの複雑性と密結合が強化され、思わぬ結果が起きる可能性は高くなっているのです。

一方、巨大な組織は、多くのメンバーが複雑に役割分担しています。こういった複雑な組織でも問題は起きます。

 

よい人がみんなで起こす悲劇

1986年1月、スペースシャトル『チャレンジャー号』は、打ち上げ73秒後に空中分解しました。低温のため補助ロケットの接合部分を密閉する部品(Oリング)から燃料が漏れ爆発しました。Oリングメーカー サイコオール社の技術者ボイジョリーは低温での危険性を指摘し、打ち上げ延期を主張していました。

しかしNASAの責任者は、『チャレンジャー号』の打ち上げが何度も延期されたこともあり、「気温12度? 春まで待てと言うのか!」と声を荒げました。
 

この事故についてアメリカの組織社会学D・ヴォーンは、関係者への聞き取りや関係文書の収集・調査を行いました。その結果、Oリングのリスクはサイコオール社だけでなくNASAでも共有されていることがわかりました。このようなリスクがあるのにも関わらず、正式な実験や安全審査の手続きを経て、打ち上げは決定されました。

つまり、この事故の真の原因は、はたから見ればルールや常識に外れたことでも、当事者たちはおかしいと思わず、当たり前のように振る舞っていたことでした。

しかもNASAのような専門的な業務は、高度に専門分化しています。担当者は自分たちの業務に長い経験を持つため、部外者には問題点分かりません。D・ヴォーンはこれを「構造的な秘密性」と呼びました。
 

これまでNASAは、NASAという組織の規則や慣習に従い、プロジェクトがうまくいくように取り組んできました。そのため、ボイジョリーのような部外者が直感で中止を訴えても、それは仕事の円滑な遂行を妨げるだけだとNASAは考えました。D・ヴォーンはこれを「逸脱の常態化」と呼びました。

これによる事故を防ぐには定期的に「外部の目」を入れます。今回の事例では、NASAやサイコオール社の別の部署の技術者に意見を出してもらうことです。同じ組織でも別の部署や異なる業務をしていれば「逸脱の常態化」に気づくことができます。
 

平穏無事に潜む危険

イギリスの心理学者・安全研究者 J・リーズンは、多くの組織で生産性と安全性のせめぎあいから、安全性が削られていると考えました。しかし大事故が起こるまでは平穏無事な状態です。そののため、小さなトラブルや軽微な事故が起こっても抜本的な解決はされないままでした。

図3 リーズンによる安全性の関係

図3 リーズンによる安全性の関係

こうした潜在的な危険を封じ込めるため企業は安全対策を重ねます。これは防護壁を何重にも張り巡らせている状態でか。これを「深層防護」と呼びます。リーズンは一見すると安全な深層防護の「平穏無事に潜む危険」が大事故を引き起こすと主張しました。様々な安全対策やルールによる深層防護壁も、実はヒューマンエラーやルール無視があれば穴が開いた状態です。これは図5のスイスチーズにたとえられます。

図4 防護と損害の相互関係

図4 防護と損害の相互関係

大事故が起きると「以前から問題があった」「いつか事故が起きると思っていた」という証言が出ます。その一方で7年間無事故など、それまでは安全に問題はありませんでした。これは防護壁が穴の開いたチーズであることを示しています。

図5 防護壁は穴の開いたチーズ

図5 防護壁は穴の開いたチーズ

リーズンは、「高度な深層防護はシステムをより複雑にし、その管理者や運転者にとって、システムが不透明なものになってしまう」ことを指摘しました。

その原因は、組織の文化に起因します。

組織全体で安全を高めようとする組織文化を「安全文化」と呼びます。これは次の4つの要素からなります。

  • 報告する文化
    組織の中で安全に対する情報を積極的に共有する
  • 公正な文化
    するべきこと、やっていいこと、してはいけないこと、この3つの境界線が明確で、これらを行った場合の顕彰や処分に対し構成員は納得している
  • 柔軟な文化
    時と共に変化する要求や、危機の際の突然の要求にも、必要な役割や権限をすぐに調整できる
  • 学習する文化
    現状に満足せず、経験や情報を活かして、ときには手直しもいとわない姿勢

 

では、この安全文化は具体的にはどのように取り組めばよいのでしょうか、これについては次の経営コラムでご案内します。

参考文献

「巨大システム失敗の本質」クリス・クリアフィールド、アンドラーシュ・ティルシック 著 東洋経済新報社
「科学技術の失敗から学ぶということ」寿楽浩太 著 オーム社
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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なぜ人は忘れるのか、記憶のメカニズムと特徴 https://ilink-corp.co.jp/7823.html https://ilink-corp.co.jp/7823.html#respond Wed, 25 May 2022 03:08:01 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=7823 No related posts. ]]> 日常の様々な活動は、まず対象を認識し、それに対してどのような行動をとるのか頭で考え、そして行動します。その際、一度認識したことを頭にとどめておくのが記憶です。

ところが人の記憶はコンピュータのメモリと異なり、忘れたり変質します。これが時には大きな事故や不良を引き起こします。

では記憶はどのようなメカニズムで行われ、どのような特徴があるのでしょうか。記憶について考えます。
 

記憶の種類と特徴

記憶のメカニズム

記憶は保持時間の長さによって感覚記憶、短期記憶、長期記憶の3種類に分類されます。1968年アトキンソンとシフリンは「感覚情報が感覚記憶において瞬間的に保持され,その中の一部が短期記憶で短時間貯蔵されます。短記憶で保持された情報のー部は長期記憶に送られ、長期記憶に貯蔵された情報は必要に応じて検索され,取り出される」としました。

図1にアトキンソンの2貯蔵庫モデルを簡略化したものを示します。

図1 記憶のプロセスモデル

図1 記憶のプロセスモデル


 

聴覚や視覚など感覚器官が受けた刺激は、各器官からの感覚記憶としてしばらく保持されます。例えば聴覚に刺激を受ければ音声、視覚が刺激を受ければ視像として保持されます。

この刺激は数分の1秒から数秒は保持されますが、私たちはその内容に気付きません。感覚記憶の情報の中から注意(意識を向けた情報)のみが短期記憶へ送られます。
 

意識を向けた情報は短期記憶に送られ、それに対して私たちは判断します。短期記憶の保持時間は短く、長くても10~15秒程度です。私たちの日常活動の大半は短期記憶で行われます。判断が終われば記憶は次々と消えていき、後からは思い出せません。

短期記憶にある情報のうち繰り返し使われる情報は長期記憶に保管されます。長期記憶の保持期間は長く、一生忘れないものもあります。
 

例えば、車を運転する時、視覚に次々と様々な景色が入ってきます。これらは感覚記憶で順に保持されますが、本人はその情報を意識しません。ただ信号機の色は必要な情報なので注意を振り向けます。前方の信号機の色を見て、走行するか停止するか判断します。この信号機の色は短期記憶で保持されます。次々と信号機を通過するため、短期記憶は順次消失し、これまで通過した交差点の信号機の色はもう思い出せません。この目的地までの道のりは何回も行くと記憶します。これは長期記憶に保存され長期間保持されます。
 

感覚記憶

聴覚、視覚など感覚器官が音や光などの刺激を受けた時、それを一時的に保管するのが感覚記憶です。例えば音など聴覚の刺激はエコーイック・メモリと呼ばれる感覚記憶に保存され、光など視覚の刺激はアイコニック・メモリと呼ばれる感覚記憶に保蔵されます。
 

感覚記憶は、視覚、聴覚以外にも味覚や嗅覚,皮膚感覚など各感覚器官に存在します。保持時間はエコーイック・メモリで1秒前後、アイコニック・メモリで0.5秒前後です。感覚記憶は、感覚知覚の情報処理との境界があいまいなため記憶に含めないこともあります。
 

短期記憶(ワーキングメモリ)

感覚記憶に入る多くの情報の中から、注意を向けたものだけが短期記憶に保存されます。一方近年は短期記憶をワーキング・メモリリ(作動記憶)と呼ぶこともあります。

従来の記憶モデルは,感覚記憶から取り出された情報は長期記憶に送られる前に短期記憶に短時問保持されると考えられていました。しかし短期記憶には感覚記憶によって外の世界からはぃってきた情報だけでなく、長期記憶に保管されている情報を引き出すこともあります。
 

そこで短期記憶に代わるより広い概念としてワーキング・メモリが提唱されました。このワーキング・メモリは図2に示すように中央実行部と音声ループ、視空間スケッチパッドの3つの部分から構成されています。

図2 ワーキング・メモリの構造

図2 ワーキング・メモリの構造


 

音声ループは言語的音声を扱い、視空問スケッチパッドは視覚的な空間イメージを保管します。これらの情報を利用して中央実行部が複雑な認知処理を行います。

短期記憶の記憶容量は少なく、成人で数字の7桁±2桁と言われています。これは数字も文字も変わらず、アメリカの認知心理学者ジョージ・ミラーはマジカルナンバー・セブンと呼んでいます。しかし実際には数字を7桁も覚えられない人もいます。2001年にミズーリ大学のネルソン・コーワン氏は「4±1」が正しいマジカルナンバーと発表しました。
 

① ワーキング・メモリの成熟は高次の思考と関係

2013年オスロ大学のノルウェーのクリスチャン・タムネスらは8~22歳を対象にワーキング・メモリの成熟について調査し、その結果、脳の特定部位の変化がワーキング・メモリの向上に関係していることが判明しました。

短期記憶が発達すると前頭頭頂ネットワークが成熟します。短期記憶は高次の思考(前頭葉)を扱う能力と密接なかかわりがあり、その能力は幼少期から成人にかけて年齢とともに向上します。脳領域のネットワークが発達するに従い短期記憶の容量も増えていきます。
 

人の脳は4つの領域に分けられ、脳の上部に位置する頭頂葉は知覚情報と言語の統合を担い、短期記憶に欠かせない領域です。前頭葉は脳の前部に位置し、思考、計画、論理的思考など高次の認知機能を司っています。

前頭葉のすぐ前にある前頭前皮質は複合思考を担い、複雑な行動の計画や意思決定などに関係しています。

図3 脳の構造 (Wikipediaより)

図3 脳の構造 (Wikipediaより)


 

② 短期記憶から長期記憶に移動するのではない

アトキンソンとシフリンの二重貯蔵モデル以来、認知した内容は一旦短期記憶に保存され、それから長期記憶に向かうと考えられていました。しかし短期記憶の容量は7桁(5桁)しかありません。短期記憶に保存された情報だけを長期記憶に保存すれば長期記憶の情報量は非常に小さなものになってしまいます。むしろ短期記憶は「今意識されていること」と考えます。
 

感覚器官が受け取った情報の中から、いくつかの情報はそのまま長期記憶に保存されると考えます。ただし感覚器官から直接長期記憶に保存された情報は、意識していないと思い出すこと(検索すること)ができません。しかし何度もリハーサルを行って長期記憶から取り出せば、取り出しやすくなります。
 

③ リーディングスパンテスト

リーディングスパンテスト(RST : reading span test)は、数字や単語を記憶する一般的な記憶テストと異なり、文を幾つか読んでもらってその中の 1 単語を記憶するテストです。図4の表にその例を示しました。

図4 リーディングスパンテスト(例)

図4 リーディングスパンテスト(例)


 

このテストでは文を読むことに注意しながら、下線が引かれている言葉を記憶しなければならないため、会話や本を読みながら内容を記憶することに近いテストです。RSTの評価は他の記憶テストよりも読解力との相関が高いことがわかっています。RSTのスコアが高い人は、文章を読解中に記憶すべきものとそうでないものに、注意をうまく配分しています。
 

こうした注意の配分はワーキング・メモリを制御している中央実行系によるものと考えられています。タスク処理能力の高い人とそうでない人の違いは、この中央実行系の違いによりRSTで評価できます。  

④ サブリミナル効果

サブリミナル効果は、視覚、聴覚、触覚の潜在意識に刺激を与えることで得られる効果のことで、心理学や軍事などで研究されてきました。

有名なのは1957年アメリカのジェームズ・ヴァイカリーが、映画の上映中知覚できない短い時間「コカコーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」という映像を入れると、コカコーラの売上が57%、ポップコーンの売上が18%アップしたと発表したことです。しかしその後の実験では同様の効果は認められず、後年ヴァイカリーは実験をでっち上げたと語っています。

現在サブリミナル手法は、アメリカ、日本など各国で禁止されています。
 

長期記憶

一旦長期記憶に保管された情報は、永久的に保持されるものもあり、その容量も無限大と考えられます。短期記憶がいつでも取り出せる活性化した状態の記憶に対して、長期記憶は毎回思い出す必要のある非活性状態の記憶です。
 

① 長期記憶の仕組み

感覚記憶から受け取った情報は、電気信号として短期記憶、そして長期記憶に送られます。長期記憶をつかさどる脳の海馬では脳の神経細胞(ニューロン)同士の接合部「シナプス」で神経細胞同士のつながりが強くなります。信号の伝達効率が高くなり、これにより記憶が保存されます。

これは時間とともに強化され「長期増強 (LTP Long-term potentiation」と呼ばれます。

一方加齢により神経細胞同士のつながりが弱くなると情報を取り出しにくくなります。短期記憶の情報を長期記憶に保存する方法がリハーサルです。
 

② リハーサル

試験勉強で忘れないようにするため何度も口に出したり書いたりすることです。このリハーサルには、維持リハーサルと精緻化リハーサルがあります。
 

維持リハーサルは意識から消えないように情報を短期記憶にとどめておくだけで長期記憶には移動しません。長期記憶に保存するためには、繰り返すだけでなく,情報を能動的に分析し,すでに貯蔵されている情報に関連付けたり、イメージ化する必要があります。これを精緻化リハーサルと呼びます。単語のような単純な情報を繰り返し音読しても、それは維持リハーサルなので短期記憶にとどめ置かれ、リハーサルの効果が薄れると忘れてしまいます。
 

リハーサルで短期記憶から長期記憶へ移行する際、リハーサルの回数が多く、注意の大きい情報(印象が強烈な情報)ほど、脳はより重要な情報と判断し、長期記憶に定着する確率が高くなります。

生存するために脳が脅威と感じる経験や生命に関わる情報は短期間に吟味され長期記憶へ移行します。これは人類が環境の変化に適応するために、脳が情報の取捨選択を暗黙の裡に行っているからです。テスト勉強などで記憶しなければならない時、短期間に何度も繰り返して脳に重要な情報と思わせると早く記憶します。
 

③ 符号化と想起

記憶には、符号化 (記銘) ・保持・想起の3つの過程があります。

【記銘(符号化)】

感覚刺激を認知や記憶のための意味のあるものに変換する作業です。例えばレストランで店員から聞かれた場合、聴覚からの情報は「オノミモノハナニニシマスカ」ですが、これを符号化すると「お飲み物・は・何・に・しますか?」となります。そしてそれぞれの意味を理解し記憶します。従って意味の分かる母国語の記憶は容易ですが、意味の分からない外国語は記憶が困難です。
 

この符号化には意図して行う顕在的な符号化と、意図しないで行う潜在的な (偶発的) 符号化があります。私たちの日常生活では、意図して記憶する顕在的な符号化より、意図しないで記憶する潜在的な符号化の方が多いといえます。ただし再生が確実なのは意図して記憶した情報で、詳細かつ正確に記憶しています。また記憶の仕方によっても差があります。

例えば単語を文字として記憶した場合、音声も併せて記憶した場合、意味も含めて記憶した場合の3つでは、意味も含めて記憶した場合が最もよく記憶されました。意味も分からずひたすら暗記する方法は効率がよくありません。 
 

【保持(貯蔵)】

脳は符号化された意味情報を保持します。この符号化の際、知識は人それぞれ異なるため、情報が切り捨てられたり、付け加えられたりします。その結果、同じ情報を与えられても保持される情報が人により異なります。
 

【想起(検索)】

保持されている記憶が呼び起こすことで、想起の仕方は以下の3つがあります。

  • 再生 : 保持されている記憶がそのままの形で再現
  • 再認 : 以前経験したため、「経験した」として認識
  • 再構成 : 保持されている記憶をいくつか組み合わせて再現

 

「名前がなかなか思い出せない」というのは、記憶しているが想起ができない状態です。あるいは思い出す状況によっては元の記憶と相反する記憶を学習する消去学習を行うこともあります。刑事裁判で自白の信ぴょう性が問われることがありますが、これは取り調べ中に消去学習が行われることがあるからです。

また記憶した時の味やにおいで思い出すこともあります。これは情報が符号化される状況と、その情報を検索する状況が一致していると、検索の効率が高くなるためです。これは符号化特性原理と呼ばれます。
 

④ チャンク化

容量の少ない短期記憶に多くの情報を保存する方法がチャンク化です。例えば12桁の数字を記憶する場合、345264571074を一度に記憶するのは大変です。そこでこの数字を4桁の数字の組合せで記憶します。3452 6457 1074個とすると理解しやすく、記憶しやすくなります。この4桁の数字がチャンクです。

数字以外にもメニューなどの名詞もチャンク化できます。英単語もいくつかのグループに分けて記憶すれば、バラバラに記憶するよりも効率がよくなります。あるいは覚えたいことを階層状に図式化するのもよい方法です。   (メモリーツリー)
 

⑤ 長期記憶と短期記憶を持っているのは人だけでない

すべての動物に長期記憶と短期記憶があり、過去のことを忘れてしまう逆向性健忘症を起こします。また哺乳類だけでなく虫や魚も長期記憶があり、長期記憶はゆっくりと形成されます。記憶をゆっくりと形成することで、それを経験として役立てる際に都合がよいことがわかっています。
 

⑥ 患者H.M

患者HM氏は、26歳の時、難治性てんかんの治療のため、脳の両側の内側側頭葉の一部分を切除しました。その結果、短期記憶は正常でしたが、短期記憶の情報を長期記憶に転送できなくなり、長期記憶ができなくなりました。新しく運動を学習することはできましたが、新たな運動をしたことを思い出せませんでした。

このことから短期記憶、長期記憶は脳の異なる場所に形成されることがわかり記憶についての研究が大きく進みました。
 

人はどうやって思い出すのか

① プライミング効果

プライミング効果とは、以前に経験・取得した情報が、後から得た情報に無意識に影響を与えることで、プライムには「入れ知恵をする」という意味があります。あらかじめある事柄を見聞きしておくと、関連した別の事柄が想起しやすくなります。例えば見知らぬ人でも毎日通勤電車でみかけていると、混雑している街中でもその人物を容易に見つけられます。
 

② 忘れない方法 外化

外化は、頭の中にある情報を頭の外に出すことです。具体的には、口に出したり、書いたりします。これによって以下のような効果があります。

  • 短期記憶の負担が軽くなり、その分他の処理作業に認知資源を振り分けられる
  • 外化された内容を再度人力することで、頭の中での処理プロセスを確認できる
  • 思考を他の人と共有でき、これにより課題解決の質が高まって、処理速度が速くなる

 

【外化の方法1 口に出す】

考えや行為を口に出すことで、行為に意識を集中できるようになります。これは指差と合わせて指差呼称として現場で広く行われています。

【外化の方法2 からだを動かしてみる】

手や腕など体の一部を動かすことで意識を集中する方法です。例として指差確認があります。また漢字の書き順を確認する時などは、空間に指で字を書く空書を行います。

【外化の方法3 書く】

授業をノートに取るなど古くから行われている方法で、課題解決など思考場面で認知機能の補完としてよく使われます。しかし時間がかかるため現場ではチェックリストの記入など使われる場面が限られています。
 

③ 系列位置効果(serial position effect)

順番に情報が提示されると時、その順番により記憶のしやすさが異なります。
 

【初頭効果】

最初に提示されたものが記憶されやすいことです。はじめに提示された項目は、 それより後の項目が提示されている中
に余分にリハーサルを受けることができます。そのため、符号化がより進みます。被験者が声を出して読み上げると、はじめに提示した内容はリハーサル回数が多く再生率が高いことが実験でわかりました。

【新近性効果】

新近性効果とは、終わりに提示される項目は再生するタイミングに近いため記憶されやすいことです。従来は短期記憶の効果によるものと考えられていました。しかし再生までの時間を長くしても新近性効果が現れることがあり、これは検索のされやすさに違いがあるためと考えられています。
 

様々な長期記憶

長期記憶には、言葉で表現できる言語的な情報(言語的な記述・事実・意味)「宣言的記憶(陳述記憶)」と、言語と無関係に無意識的な行動や思考の記憶「非宣言的記憶(非陳述記憶)」があります。

図5 長期記憶の区分

図5 長期記憶の区分


 

前者はイメージや言葉としてその内容を頭に浮かべる(想起する)ことができ、言葉で述べること(陳述する)ができ、事実や経験に関わるものです。非宣言的記憶は言葉によらない記憶で、代表的なのが手続き記憶です。これは技能や動作など「体で覚えている」記憶です。
 

① 宣言的記憶 (または陳述記憶)

【意味記憶】

「意味記憶」は知識に相当し、一般的な知識や教養など普遍的な事実に関するものや用語の定義や客観的な知見などです。「リンゴ」といえば皮が赤い冬の果物ですが、「リンゴ」という言葉は意味記憶です。勉強で得られる知識の大半は意味記憶です。

意味記憶に関わる脳の部位は側頭葉で、例えば側頭葉前方部が局所的に萎縮すると、単語、物品、人物などの意味理解が選択的に障害される意味認知症が生じると報告されています。

【エピソード記憶】

自分の経験や思い出など、身の回りで起きた出来事に関する記憶が「エピソード記憶」です。例えば、「いつどこで誰と何を食べ、美味しかった、楽しかった」という記憶です。

記憶の特徴として、意味記憶よりもエピソード記憶のほうが、長期記憶に移行しやすい点があります。また意味記憶と比較し、エピソード記憶の方が再生しやすい特徴もあります。そこでイメージで記憶すると長期記憶に保持されやすくなります。イメージすることは、想像のなかで体験することで、エピソード記憶とつながるため、取り出しやすくなります。
 

② 非宣言的記憶

非宣言的記憶とは意識上に内容を想起できない記憶で、言葉で表現することが困難な記憶です。非宣言的記憶には「手続き記憶」、「プライミング」、「古典的条件付け」、「非連合学習」などが含まれます。これらの記憶は人が動作を正確かつ効率的に行うのに役立ちます。
 

【手続記憶】

手続き的記憶は代表的な非宣言的記憶で、体で覚える記憶です。これには技能や習慣などが含まれます。

手続記憶は同じ経験を反復することで形成され、一旦形成されると自動的に機能し、長期間保持されます。自転車の乗り方などはわかりやすい一例です。練習するまでは乗れなかったのに、一度乗れるようになると長い間乗らなくても再び乗ることが出来ます。他に、水泳、スキーや柔道などのスポーツにおける体の動き、楽器の演奏、身近な所では箸や鉛筆の使い方などがあります。
 

手続記憶は海馬や側頭葉ではなく、小脳や大脳基底核が関与していると考えられています。大脳基底核は体の筋肉を動かしたり止めたりするといった大雑把な動きの記憶に関与します。小脳は筋肉の動きを細かく調節し、バランスを保ちつつ動くための情報の記憶に関与します。手続き記憶の獲得には前頭葉の前補足運動野が、記憶に基づく運動の実行には補足運動野が役割を担っています。

アルツハイマー患者は、エピソード記憶を保持することができなくなりますが、手続記憶はかなり長い間保たれています。これは「宣言的記憶」と「手続き記憶」で記憶のメカニズムや関与する脳の部位が異なるからです。認知症がかなり進行して昔の出来事は覚えていなくても、昔覚えた楽器の演奏はできます。
 

③ 階層的ネットワークモデル

コリンズとキリアンは1969年に意味記憶のモデルとして階層的ネットワークモデルを提唱しました。想起する際は、ノード間のリンクをたどって情報の検索が行われ、経由するリンクが多くなれば検索する時間を要すると仮定しました。またコリンズとロフタフは1975年に関連する意味の系列に沿ったネットワークモデルを提唱しました。1つの概念同士が対応していて、意味が関連する概念同士がリンクで結ばれています。このモデルはさらに意味のネットワークに加えて語彙のネットワークがあります。

図6 コリンズとロフタスのネットワークモデル

図6 コリンズとロフタスのネットワークモデル


 

図7 意味ネットワークと語彙ネットワーク

図7 意味ネットワークと語彙ネットワーク


 
  

④ 潜在記憶と顕在記憶

潜在記憶は、無意識にできる動作や反射的に思い出す記憶など、内容を特に意識していない記憶のことで、非陳述記憶、非宣言的記憶とも呼ばれています。

その中で、「家から最寄り駅までの道」のように意識せずに繰り返されてきた動作の記憶を「手続記憶」、自分の意思と関係なく思い出す記憶を「プライミング効果」「古典的条件付け」と呼びます。潜在記憶で行われる行動は、意識を行動にほとんど向けていないため、行動しながら他に注意を向けることができます。運転中の同乗者との会話などはその一例です。
 

長期記憶の中で自発的に思い出せ、言葉やイメージで表現可能な記憶を顕在記憶といいます。顕在記憶には個人の経験に基づく「エピソード記憶」と、一般的な知識として覚えた「意味記憶」があります。テストの時の勉強内容や旅行の思い出といった本人の意思によって思い出され、言葉やイメージで他者に伝えることができる記憶は顕在記憶です。

顕在記憶は、例えばテスト勉強のように意識的に記憶されるため、内容にゆがみが生じていることがあります。一方、潜在記憶は無意識に記憶されますが、潜在記憶も同様にゆがみがあります。加齢により顕在記憶は低下しますが、潜在記憶はあまり変化しません。
 

忘却の記憶の変容

忘却

① エビングハウスの研究

心理学者エビングハウスは、自らを被験者として13項目の無意味なつづりのリストを完全に記憶できるまで学習し、その記憶時間を測定しました。その後19分から31日後までの間、時間間隔をおいて再度学習し、学習に要した時間を測定し、最初の時間との差を節約率として計算しました。その結果、24時間後には節約率は34%で、つまり66%は忘れることがわかりました。

しかしその後別の研究者が追試したところ、これほど急激な減少は確認されず、エビングハウスの実験は記憶するリストに問題があったとされています。
 

② 干渉

忘却の原因として記憶すべきことが似ているために生じる記憶の干渉があります。この干渉には順向抑制と逆行抑制の2種類があります。順向抑制は先に記憶した内容が後から学習する内容の記憶を抑制することです。

先行学習したグループとそうでないグループに対し、同じ内容を学習すると先行学習したグループの方が、記憶が劣っていました。これは先行学習の内容が後の学習内容と干渉したためで、学習内容が似ているほど干渉が強く生じました。逆行抑制とは、順向抑制と逆に後から学習した内容のため、先に学習した内容の記憶が阻害されることです。学習した後、別の内容を学習したグループと何も学習しなかったグループを比較すると、別の内容を学習したグループの方が記憶が劣っていました。
 

③ 睡眠の効果

1924年ジェンキンスとダレンバックは2人の被験者に意味のないつづりを記憶させ、その後睡眠をとった場合と起きていた場合の記憶の保持量を比較しました。その結果、睡眠をとった方が記憶を高く保持していました。これは干渉が減ることに加えて、記憶の固定化が促進されるためです。

ジャンボーンは被験者にタイピングの学習を行い、その後睡眠を取るとタイピングの成績が向上することを発見しました。睡眠は記憶に加えて運動能力の固定化も促進する効果があります。スポーツをする場合、早く上達するには練習後に昼寝をしたり、午後の練習後は食事、入浴の後はすぐに寝た方がよいようです。
 

④ もう一つの忘却のタイブ

「思い出すことを忘れる」ことです。聞かれれば必ず答えられるのに、自発的に記憶の検索が行われないため「思い出さない」ことです。これについては思い出す手掛りをタイミングよく与えればよく、思い出す手掛りのことを「リマインダー」といいます。

リマインダーにはふたつあり、思い出す内容に関する「メッセージ」と思い出すきっかけを与える「シグナル」です。覚えておくべきことをノートに書き込むメモがメッセージ、忘れないように必要なタイミングで鳴らすベルがシグナルです。
 

⑤ 忘れられない男

トルジョーク出身の新聞記者ソロモン・ヴェニアミノヴィチ・シェレシェフスキーは、一語一句正確に記憶することができ、またいつでもそれを思い出すことができました。彼は編集長の勧めでモスクワの心理学者アレクサンドル・ロマノヴィッチ・ルリヤを訪れました。
ルリヤは彼に様々な記憶力テストを行ったところ、彼はどれも完璧に記憶しました。彼は音に色や形を感じたり、文字に色や明暗を感じることができました。五感が強く連結された共感覚を持ち、記憶すべきことを視覚像化して頭の中に定着させました。「記憶術師シィー」として舞台に出て世間の話題となりましたが、長続きせずその後職を転々としました。晩年は膨大な記憶量のため心が混乱するなどの弊害に苦しみ「忘れる」人間に戻りたいと願っていました。
 

⑥ 驚異的な記憶力 サヴァン症候群

1887年医師ジョン・ランドン・ダウンは、書籍を1回読んだだけですべて記憶する驚異的な記憶力を持った自閉症の男性を発見しました。学習能力は通常で、彼はサヴァン症候群と名付けられました。サヴァン症候群の原因はまだわかっていませんが、自閉症に関連した器質が原因と考えられています。記憶能力の他にカレンダ一計算、数学・数字能力、音楽、美術などに並外れた能力が報告されています。
 

⑦ 脳トレの効果は

2015年オスロ大学のモニカ・ラーバグは、ワーキング・メモリのトレーニングが有効かどうかを調べるメタ分析を実施しました。このテーマで行われた過去のあらゆる研究を調査し、結果を統計的に分析しました。その結果、どのワーキング・メモリのトレーニングも有意なワーキング・メモリの向上は確認できませんでした。脳トレを続ければ優れたゲーマーにはなっても認知能力が大きく向上することはなさそうです。
 

記憶の変容

① フラッシュバルブ記憶(Flashbulb memory )

フラッシュバルブ記憶とは、感情が強く喚起される重大な出来事を知ったとき、周りの状況についての鮮明で長期間保持される記憶のことです。「写真のフラッシュを焚いた時のように」鮮明な記憶で1977年ブラウン氏が論文でフラッシュバルブ記憶と呼びました。

例えば2001年のアメリカ同時多発テロや東日本大震災、阪神淡路大震災の時に、自分が何をしていたのか、明に覚えていることです。フラッシュバルブ記憶は大脳皮質下にあるベイペッツの情動回路の中を、情動を伴う記憶が循環するためです。フラッシュバルブ記憶は当事者にはビデオテープのように鮮明な記憶ですが、内容は必ずしも正確ではなく、思い込みから生じた誤りもあります。
 

② つくられた証言 マクマーティン保育園裁判

1983年にカリフォルニア州のジュディ・ジョンソンは、息子の肛門が腫れていたため、保育園で性的虐待があったと思い警察に訴えました。彼女は保育園の保育士で園長の孫のレイモンド・バッキーを告発しました。
警察は調査のため他の保護者に質問状を送り、また検事は国際児童研究所のキー・マクファーレンに調査を依頼しました。その結果、マクファーレンは360人以上の子どもに虐待があったと発表し、これをKABCテレビのリポーター ウェイン・サッツがセンセーショナルに報道したため、アメリカ中の子供を預けて働く母親の間でパニックが起きました。

子供たちの証言を裏付ける物的証拠はなく、調査を行ったキー・マクファーレンはセラピストの資格がありませんでした。さらに報じたレポーターのサッツと恋人同士だったことが発覚し、事件の信ぴょう性が疑われました。7年に及ぶ裁判の結果、レイモンド・バッキーは不起訴となりました。
 

③ 精神分析について

フロイトの確立した精神分析療法は、患者に催眠による暗示をかけて過去の経験を想い出すことで治療します。フロイトは、自我を脅かすつらい体験をすると、それを抑圧し無意識に押し込み、神経症を発症すると考えました。そしてそれを具体的に意識し自覚することで神経症を治癒していました。
 

しかし人は通常は夢で見たことや想像したことと、実際に経験したことを区別できますが、催眠状態ではこの機能が弱くなり、夢や創造したことと本当にあったことの区別がつかなくなります。

また幼児期の記憶は不確かで、心理学者のロフタスは被験者の大学生に「幼児期にショッピングモールで迷子になった」という偽りのエピソードを被験者の幼児期に実際にあったこととして聞かせたところ、被験者はそれが本当にあったと信じました。従って幼児期に虐待があったかどうかは、セラピストなどが幼児本人から聞き出したとしても事実とは限らないのです。
 

 

④ デジャビュ

デジャビュ (既視感) は、実際は体験したことがないのに、すでにどこかで体験したように感じる現象です。
 

原因は、ある経験をしたときに過去の類似の経験が自動的に想起されるからです。この想起された過去の体験と現在が似ているほど強いデジャビュになります。

もうひとつの原因は過去の光景を何度も想起する過程で細部が失われて抽象化し、印象の強い部分のみが典型的な光景として記憶されているからです。そのため今見ている光景がこの体験と強く一致するようになります。実際よくある典型的な写真を見せたところ行ったことがないのに行ったことがあるように誤解しました。

図9 典型性と類似性に基づくデジャビュのモデル

図9 典型性と類似性に基づくデジャビュのモデル


 

軽視されがちな記憶の問題によるヒューマンエラー

以上のような人の記憶の特徴を考えると、日常作業の大半を記憶に頼って行うことはヒューマンエラーのリスクがあることがわかります。そこでその対策としてできることを以下に述べます。
 

① 短期記憶に頼る危険

今どの作業を行っているのか、多くの現場ではモニターがありません。途中で作業を中断した場合、どこまで進んだかは作業者の記憶に頼っています。一方その記憶は短期記憶のため容易に消去や変容します。そこで記憶に頼らない方法にします。
 

現場でのコミュニケーションは口頭で行われます。相手は聞いた内容を記憶し、作業に反映させますが、ここで記憶が欠落したり変容したりします。

伝達内容は口頭だけでなく、メールや紙媒体を併用します。

 

② 記憶を助ける

記憶する場合、効率よく記憶するため以下の取組を行います。
 

【リハーサル】

複数回復唱します。複数回行うことで、リハーサル効果が生じ記憶の保持時間が長くなります。加えて複数回行うことで確認回数も増えます。

【精緻化】

認知すべき内容、記憶すべき内容を具体的に意味づけします。特に数字や記号の場合、数字や記号の意味を伝えて、単なる記号以上のものにします。

【チャンク化】

数字であれば、4桁のグループに分けます。記録や読み上げも4桁ごとに行います。他の情報も3~4個のかたまりにチャンク化し、記憶します。
 

③ 長期記憶は変容する

長期記憶に保管された内容も時間の経過とともに、内容の欠落や変容が起きます。特に作業指示は、指導者から作業者に伝達する過程で内容が変質します。さらに指導を受けた作業者の記憶が欠落や変容を起こします。

これを防ぐためには

作業手順書を整備し、文書により伝達

します。さらに指導者は作業者の作業を定期的に確認して、指導した内容が適切に実行されているか確認します。
 

④ たまに行う作業

普段は行わずたまに行う作業は、作業する者は長期記憶から作業内容を検索し、思い出しながら作業を行います。作業中はこの思い出すことに認知資源が多く使われ、作業自体への注意がおろそかになります。さらに思い出す過程の中で、作業内容が変容することもあります。

そこでたまに行う作業こそ、

作業手順を記載したチェックリストを用意し、チェックリストに基づいて作業すること

で、作業自体に意識を集中することができます。これにより不注意によるミスを防ぎ、チェックリストに基づいて行うことで確実に作業ができます。
 

参考文献

「記憶・思考・脳」 横山詔一 渡邊正孝 著 新曜社
「認知心理学」 仲真紀子 編著 ミネルヴァ書房
「認知心理学」 海保博之 編 朝倉書店
「記憶」 前野隆司 著 ビジネス社
「脳とワーキングメモリ」 芋坂直行 編著 京都大学出版会
「記憶と情動の脳科学」 ジェームズ・L・マッガウ 著 ブルーバックス
「対話で学ぶ認知心理学」 塩見邦雄 著 ナカニシヤ出版
 

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ものづくりにおけるヒューマンエラーの原因と対策 https://ilink-corp.co.jp/3868.html https://ilink-corp.co.jp/3868.html#respond Fri, 03 Aug 2018 06:58:23 +0000 http://ilink-corp.co.jp/?p=3868 No related posts. ]]> 不良・事故の原因

 

手順を守ったかどうか

 

ものづくりにおいて人間のウッカリミスやヒューマンエラーは、時に重大な事故や多額の損失を引き起こしています。問題が起きるたびに、原因の是正や再発防止に取組み、次は全く別の原因で発生します。こうして対策はモグラたたきになってしまい、終わりません。
 

不良や事故の原因は、図に示すように4つに分類できます。
 

不良(事故)の発生原因

 
図1 不良(事故)の発生原因
 
 

  1. 決められた手順を守っても起こる不良(事故)
  2.  
    不良(事故)には、決められた手順を守って確実に作業したのにも関わらず、起きてしまうものがあります。
     

    【原因1製品設計の不良】
     
    元々、製品の設計に問題があれば、求められる結果(精度や機能など)が実現できません。この場合は後工程がどれだけ努力しても、製品設計を変更しない限り、不良は解決しません。
     
     

    【原因2工程設計の不良】
     
    製品設計に問題はなくても、製造方法や作業方法、つまり工程設計に問題がある場合です。
    例えば「コストダウンのために本来研削加工をすべきところを切削加工で仕上げた」、「プレスでなければ出せない精度だが、ロットが少ないため金型を製作するとコストが高くなる。そのため板金加工で製造した」などです。
     

    製品設計は、工程設計と密接に関係しています。製品を開発する際は、製品設計と工程設計は密にコミュニケーションを取って、その製品に最適な工程設計をする必要があります。
     
    コミュニケーションに問題があり、工程能力を超えた部品を設計したり、目標とする機能を実現するには不十分な設計るのに、部品精度を上げることで解決しようとすることがあります。そして、工程設計に負担をかけます。
     
    往々にしてこのような問題の解決は莫大な時間と労力がかかっています。
     

  3. 決められた手順を守らなかったために起こる不良

 
故意に守らなかった場合と、守ろうとしていたのだけれど、うっかりして守らなかった場合があります。
 
 

【原因3 故意に守らなかった】
 

故意に手順を守らなかった場合も、ヒューマンエラーに分類されることがあります。しかしこの場合は、当事者がルールを守ろうとしない限り問題は解決しません。
 
多くの場合、ルールを守りたくない、あるいは守れない理由があります。
そこで、当事者から理由を聞き取って調査します。
 

例えばルールを守らず、安全スイッチを無効にして作業している機械は、安全スイッチが効いていると、
 

  • 著しく作業性が悪い
  • 安全カバーを閉めなければならないために内部が確認できない

 
などの理由が判明します。
 
この場合は、安全スイッチが効いていても作業性が悪化しないように作業の仕方を改善したり、安全カバーを閉めても内部が確認できるように窓やカメラモニターを取り付けて対処します。
 

【原因4 手順を守ろうとしたのに守っていなかった】
 

当人は守ろうと努力をしていて、しかもほとんどは的確に作業しています。
にもかかわらず、ごくたまに発生するミスが大きな問題を起こします。
 
このような本人の意思に反して、うっかり行ってしまうミスを、ここではヒューマンエラーと呼びます。
 

人はミスをする生き物

 
ヒューマンエラーを完全になくすのが難しいのは、人は本来ミスをする生き物だからです。
 
偉大な発見や発明の多くは、ミスや失敗から生まれています。従って全て悪と決めつけることもできません。かといってヒューマンエラーを許容していては、一つのミスが大きな事故や損失をもたらしてしまいます。
 
図 人はミスをする生き物?
人はミスをする生き物?
 
 

  • コンピューター化、多重化でミスゼロに
  •  

    実は、ヒューマンエラーを完全になくすことは、可能です。
     
    人がヒューマンエラーの原因ですから、コンピューターにより自動化・無人化し、人による作業を極力排除し、さらにシステムを多重化すればミスを完全になくす事ができます。
     

    仮に1個所でエラーが発生しても、システムは多重化されているため正常に動作します。こうすればミスのない仕組みも不可能ではありません。
    非常にコストのかかる方法ですが、宇宙開発のようにコストをかけてでも確実に実行することが求められる分野では行われている方法です。
     

    • 大量生産では、システム化とポカヨケ
    •  
      現実には、ミスの発生する頻度とミスが起きた時の損失費用から、経済的に見合ったヒューマンエラー対策が行われます。同じものを大量につくる大量生産では、コストをかけてもヒューマンエラーを防止する価値は十分あります。
       
      この中でポカヨケは、比較的低コストでヒューマンエラーを防止する良い方法です。
       

    • 多品種少量生産ではヒューマンエラー対策

     
    多品種少量生産では、製品の形状が毎回全く変わってしまうこともあります。この場合、毎回新しいポカヨケを設計しなければならず費用対効果を考えると現実的でありません。
     
    その場合、コストをあまりかけずに効果のある対策が必要です。これをヒューマンエラー対策と呼びます。
     

    ポカヨケとヒューマンエラー対策

    図 ポカヨケとヒューマンエラー対策
     
     

    ヒューマンエラー対策は、ポカヨケのように完全にヒューマンエラーを防ぐことはできません。しかし、今までの何もしない状態よりは、発生確率を下げる事ができます。しかもポカヨケよりコストがかからず、様々な製品に対応できます。
     

    例えば、複数の部品をピッキングする場合、
     

    【ポカヨケやシステム化】

    • ピッキングする部品をランプが点灯して知らせる。
    • 部品をピッキングする際にバーコードやRFIDで照合する。

     

    製品が頻繁に変わる場合は、製品に合わせた仕組みの構築が必要になります。

     

    【ヒューマンエラー対策】

    • 間違いやすい品番の表示に色を付け、手順書の部品の表記も同じ色にする。
    • 品番の表示だけでなく、品名や使用部位も表記する。
    • 間違いやすい似通った部品は隣り合って置かない。

     

    こうすることでコストがあまりかからず発生確率を下げることができます。費用対効果を考慮して、最適なやり方、仕組みを構築します。
     

    • 毎回新しい作業では

    毎回全く新しい製品の場合、作業者には高い能力が求められます。このような場合、不良を減らすのに作業者の能力向上が必要です。
     

    従って、1度に数個しか流れない製品でAさんはミスなく行うが、Bさんはミスが多発する場合、原因は、ヒューマンエラーなのか、Bさんの能力の問題なのか、この点を見極める必要があります。
     

    ヒューマンエラーの分類

     

    ヒューマンエラー対策のためには、その発生原因を理解する必要があります。人が作業を行う場合には、認知→判断→行動のプロセスを経ます。
    このそれぞれにヒューマンエラーが起こることがあります。
     

    図 ヒューマンエラーの分類
    図 ヒューマンエラーの分類
     

     以下に個々のヒューマンエラーの原因と対策を述べます。
     
     

    認知

    認知段階でのヒューマンエラーには、無知・理解してない場合と、事実を誤って認識する場合があります。
     

    【1】無知・理解してない
     
    原因として、伝えることの難しさがあります。
    口頭では、伝えた内容を相手が
     

    • 正確に聞き取っていない
    • 正確に理解していない

     
    このような場合は少なくありません。
     

    図 掲示板の活用
    図 的確に伝えることは難しい
     
     

    これは伝える立場、聞く立場それぞれの感情や考えが入り、バイアスがかかってしまうためです。また言葉だけでの伝達は、伝えられる情報には限りがあります。
     

    十分に伝わっていないとき、聞き手も何がわからないかわかりません。
    そのため、質問もできません。
     

    【対策】

    • 確実に相手に伝わるように文書や掲示板など伝える方法を改善する
    • 相手に伝わっているか確認する(確認会話)
    • 分らない時に気軽に聞ける環境に改善する

    などがあります。
     

    【2】誤認識
     

    • 誤って認識してしまう原因は、
    • 忘れる
    • 記憶が変質するという記憶の問題
    • 差が小さくて見落としてしまう
    • 周りの情報が多すぎて誤認識する

    などがあります。

     

    【対策】

    作業途中の状況を記憶に頼らないように、

    • メモやホワイトボード、パソコンやタッチパネルなどの他のものに記録する
    • 見間違いや見落としが少なくなるように対象物の表記を大きくする
    • 周りの余分な情報を減らして惑わされないようにする

    などがあります。
     

    判断

     
    情報は正しく認識したが、誤った判断をする原因は、

    • 判断プロセスが複雑
    • 認知的不協和のためやり方が感覚と異なる
    • 思い込みや先入観により直感による判断が間違う
    • 複雑な作業を同時に行う

    などがあります。
     

    【対策】

    • 複数の作業を同時に行わない
    • 判断は必ず二択にする
    • 動作の方向と習慣を一致させる
    • 思い込みや先入観を事前に排除する

    などがあります。
     

    行動

     
    行動によるヒューマンエラーは、

    • スリップ
    • 故意
    • できない

    の3つのパターンがあります。
     
     

    【1】スリップ

    本人は正しい動作をしようと思っているにもかかわらず、間違った動作をしてしまうことです。
    原因は、

    • 集中力が低下
    • 心離れなど一瞬不注意となる
    • 似ているために間違う
    • 重要なことや目立つことに注意を奪われミスする
    • 習慣化した動作が顔を出す

    などがあります。
     

    【対策】

    • 集中力が低下しないようにわざと手間をかけさせる
    • 心離れが起きるタイミングで注意喚起する
    • 違いを大きくする
    • 大事なことが最後になるようにする
    • 指差呼称を行う

    などです。

     
    色分けしてわかりやすく
    図 色分けをしてわかりやすく

     
     

    【2】できない

    本人はできると思っているのに、できない場合です。原因は、

    • 実力・能力を過大評価している
    • リスクを取り過ぎている

    などがあります。
     
    【対策】
     
    作業には、ミスが起きても問題が発生しないように安全マージンが取ってあります。

    • 実力を測定して安全マージンを確認する
    • 安全マージンの必要性を教育する

    などがあります。

     

    【3】故意

    自ら不適切な行為を選択する場合です。現実には様々な理由により、本人は望んでいなくても自ら不適切な行為を行うことがあります。
    原因は、

    • 権威による圧力を受けて本当のことが言えない
    • 急いでしまう
    • 手順が不合理
    • 作業の意味を理解していないため問題ないと自ら判断する

    などがあります。
     

    【対策】

    • 適切な判断をするように圧力をかけない
    • 合理的な手順に変更する
    • 急がせない
    • 作業の本当の意味を理解させる

    などがあります。

     
     

    ヒューマンエラーを事前に防ぐ仕組み

     
    ヒューマンエラーを防ぐために以下のような取組があります。
     

    フールプルーフ

     
    操作や取り扱いを誤っても事故にならない、あるいは、間違った操作や危険な取り扱いができない構造や操作体系に、設計しておくことです。
     

    その前提には「人は間違える」「分かっている人だけが使うわけではない」があり、その場合も事故が起きたり、作業者を危険な目に合わせたり、設備が故障しないように設計します。
     

    例として、ギアがパーキングに入っていないと始動しない自動車や左右のボタンを同時に押さないと起動しないプレス機などがあります。
     

    フェイルセーフ

     
    部品の破損や操作ミスをした場合、異常は出るが、できるかぎり安全な状態になるように設計することです。故障や誤操作は起きるという前提で、そうなった時に、自動的に安全な状態に導くように制御や動作、構造を設計しておきます。
     

    例えば、倒れると自動的に消化する石油ストーブや停電・故障すると遮断機が降りて停止する踏切などがフェイルセーフの設計の例です。
     

    フェイルソフト

     
    事故や故障が発生したとき、問題の個所を部分的に停止したり切り離したりして、機能が不十分ながらも運転を継続できるように設計することです。
     
    故障が起きることを前提にして、問題の個所を止めたり、切り離したりして他の機能への影響が波及しにくい構造にして、機能を落としても運転を継続するような仕組みや考え方です。
     

    例えば、旅客機はエンジンに火災が発生した場合、そのエンジンへの燃料の供給を遮断して、残ったエンジンの運転を続けて飛行を続けることができます。
     

    フォールトトレランス

     
    一部が故障・停止しても予備の装置に切り替えて、正常に運転できるように設計することです。
     
    事故や故障が起きることを前提として、重要な機能は複数の機器を用意したり、1個所が交渉しても他へは波及しないようにして、事故や故障が起きてもシステム全体の性能や機能を落とさずに運転を継続できる仕組みや考え方です。
     

    例えば、電源装置を2組用意して、1つの電源が故障しても使用し続けることができるコンピューターや、停電しても自動的に発電機に切り替わって電力を供給するビルなどが、フォールトトレランスな設計の例です。
     

    一方、どんなトラブルでも稼働し続けるようなシステムは、費用が膨大になり、経済的に合いません。そこで継続できる機能や持続時間を限定する(病院やビルの非常用発電機の燃料は数日分のみ備蓄する。)、あるいは機能や性能の低下を許容します。
     

    FMEA (Failure Mode and Effects Analysis:故障モードと影響解析)

     
    製品や工程の設計段階で、事前に発生する可能性のある故障を予測し、その影響を事前に評価します。そしてその影響の大きさに応じて事前に対策を行い、問題の未然防止を図る方法です。図10は、設計FMEAの例です。
     

     

    FTA (Fault Tree Analysis:故障の木解析)

     
    信頼性や安全性に関し発生する問題や現象を抽出し、それを引き起こす要因を順に展開し、その因果関係をツリー状の図に表し、発生経路や発生要因、発生確率を解析し、対策する方法です。
     
    FMEAが、全体の構成要素から個別の故障モードに展開して、発生する問題を挙げて、それが全体に及ぼす影響を分析するのに対し、FTAは、発生すると重大な影響がある事故や故障を最初に抽出し、その発生要因を展開していく方法です。
     

    FTAは、発生した問題をその要因に展開する必要があり、それには問題発生メカニズムに対する豊富な知識と問題解決力が必要です。このスキルが不足していると課題解決に使えるFT図が作成できません。
     

    実際には原因を解明しただけでは不十分で、解決するための具体的な取組も必要です。そのためにはFTAのスキルだけでなく、様々な問題と発生原因意の知識、それを解決する技法や予防策に対する知識が必要です。
     
    またこのFT図をつくることで、FMEAにおける故障モード予測に活かせる知識も得られます。
     

    DR デザインレビュー(Design Review)

     
    設計の成果物、結果に対して、目的とする機能や性能を達成するか、コストは適正か、また安全性、信頼性、操作性が適正か、生産性、保全性、廃棄での問題、法規制に対する適合など様々な項目を審査し、問題点を抽出し、対策することで問題の発生を未然に防止することです。
     

    DRは、設計審査の訳ですが、単に設計だけにとどまらず、商品企画から製品設計を経て生産準備、販売サービスに至る各段階まで含みます。
     

    DRと設計検証/設計の妥当性確認の関係

     
    設計検証とは、設計の各段階において、その時点での設計結果が設計に要求されていることを満足しているかどうか確認することです。
    妥当性確認とは、最終的に設計の結果として得られた製品や工程が、要求されている内容も含めて顧客のニーズを満たすかどうか、確認することです。
     

    図 DR,設計検証と妥当性確認

    図 DR,設計検証と妥当性確認
     

     

    設計検証は、製作する製品の仕様が、最初の要求仕様を確実に満たしているかどうか、設計の各段階で確認することです。
     

    一方顧客の求めることは、仕様に明記されているもの以外に様々なものがあります。そのため顧客の使用状況を想定し、仕様に明記されている内容以外にも製品は問題ないかどうか確かめる必要があります。
    これが妥当性確認で、実機試作品による試験や製品の据付・試運転などにより妥当性確認を行います。
     
    ここでDRは、設計から据付までの各段階で設計検証や設計の妥当性確認の結果を確認し、次の段階に進んで良いかどうか判定するものです。
     
     

    チェックリスト  ( check list)

     
    何かをするときに「必要になるモノ」や「必要になる行動」を一覧表にしたもので、確認項目と「〇」「×」、「ㇾ」などの判定があります。漏れなく確認する事ができるので、漏れなく安全に作業を開始したり、必要なものを確実に集めたり、必要な項目を確実に終了したりする場合などに用いられます。
     
     
    チェックリストに従って確認すれば漏れなく行う事ができるのにもかかわらず、
     

    • チェックリストの項目を実際に確認せずにレ点を記入する
    • チェックリストがあっても使わない

    など運用上の問題により、チェックリストがあっても事故や不良の発生が後を絶ちません。
     
     

    図 ヒューマンエラー発見のためのチェックリスト
    図 ヒューマンエラー発見のためのチェックリスト
     
     

    ヒューマンエラー対策事例

     

    ヒューマンエラー対策で重要なポイントは、以下の3点です。

    • 人が行う作業は全て間違える
    • 人が行う検査は全て見落とす
    • 人が覚えることは全て忘れる

     

    100%良品が必要であれば、完全にミスをしない作業、又は人の作業+確認作業が必要です。しかし、現実には確認作業は、必ず見落としがあります。そのため、さらにチェック機構が必要になり、全ての製品を100%良品保証するためには、かなりコストがかかります。
     

    つまり現実には、ある程度のミスを許容して、ものづくりをしているのが現実です。しかし、ミスがプロジェクトに重大な影響を与える場合は、多額の費用をかけても確実な作業を作り込むことも必要です。
     

    現実的なヒューマンエラー対策は、費用対効果を考慮して、一定のリスクを許容することです。ヒューマンエラー対策にコストをかけすぎ費用対効果が合わなくなれば、収益性が低下し事業の存続ができなくなります。かといって、タカタの例のように想定外のミスにより甚大な被害を顧客に与え、巨額の損害賠償を請求されれば、事業の存続が不可能になります。
     

    従ってヒューマンエラー対策は、その前段階としてリスクマネジメントが必要です。

     

    人間のウッカリミス、ヒューマンエラーについてもっと詳しく知りたい方は、こちらをご参照願います。

    ヒューマンエラーを起こさないものづくりのために

     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

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    ]]> https://ilink-corp.co.jp/3868.html/feed 0 そのカイゼンはお金を生み出しますか? 中小企業の現場改善の難しさ https://ilink-corp.co.jp/2258.html https://ilink-corp.co.jp/2258.html#respond Tue, 09 Jun 2015 22:59:28 +0000 http://ilink-corp.co.jp/?p=2258 No related posts. ]]> こんな話があったとします。

    売上が低下、利益が出なくなり、経営が悪化した中小企業に現場改善のエキスパートがきました。

    現場のあちこちにあるムダを発見し、改善策を指示しました。

    生産時間は短縮、生産性は20%向上し、改善チームは引き上げていきました。

    しかし生産量は変わらず、経営に影響はありませんでした。

     

    別の例です。

    同様に現場改善のエキスパートが、工程を見直したところ、0.5人の省人化が実現しました。

    これにより年間200万円の費用が削減される予定でした。

    しかし、結果的に何も変わりませんでした。

     

    これらは、中小企業の改善の難しさを示しています。

    最初の例では、改善策により生産時間は短縮するはずでした。

    しかし現場は、品種切り替えやトラブルなど、正規の生産以外の時間がかなりあり、一日の適正な生産量が管理されていませんでした。

    その結果、作業方法を改善しても、作業スピードがいつの間にか、以前のスピードに戻っていました。

    後の例では、0.5人の省人化では、人間を半分にすることはできないため、作業者を減らすことができませんでした。

    手が空いた分、作業者にゆとりができただけでした。

     

    多くの改善の本には、改善の考え方ややり方は書いてありますが、改善の成果をどうやって経営に生かすかは、書いてありません。

    利益を増やし経営を良くするには、二つの方法しかありません。

    • 売上を増やす
    • 経費を減らす

    いずれかです。

    kaizennokouka

    生産性を高めた分、売上を増やすことができれば良いのですが、それには受注を増やす必要があります。

    一方、経費を減らすためには、リストラで人を減らすか、残業を減らさなければなりません。
    これが、作業者が何十人もいる現場であれば、現場改善で省人化できれば、余った作業者を別の仕事に就けることも容易です。

    現場管理者は、作業の効率を上げる事に専念すれば良いです。

     

    ところが中小企業の場合、もともと人が少ないので、現場改善で省人化できたとしても、簡単に人を減らすことができません。

    また他の仕事に就けようとしても、作業者が他の仕事をするスキルがなかったりします。

     

    従って、中小企業が現場改善で成果を出すためには、最初から成果をどのようにお金に変えるか、考えておく必要があります。

    例えば、受注をこなすために残業や休日出勤をしているのであれば、改善で生産性が向上した分、残業や休日出勤を減らします。

    そのためには、残業や休日出勤を現場任せにせず管理者や経営者がしっかりと管理する必要があります。

    作業者の中には、定時で帰るよりも残業してお金を稼ぐ方を好む人もいます。

    また企業によっては、定時で帰るのを「余裕がある」と非難する企業文化があることもあります。

    残業の可否を作業者自身に判断させていると、いつまでたっても残業がなくなりません。

     

    ところが受注が減少し、定時で生産が間に合っている場合は、改善してもそれ以上経費は減りません。

     

    あるいは、後の例では、0.5人省人化した分、0.5人分の仕事を与えて、その結果生産性が上がるようにしなければなりません。

    ところが品種がよく変わる場合、ちょうど0.5人分の仕事を毎回与えるのは大変です。

    以前、トヨタ系の某社のラインを見学した時、組み立てラインで作業者が次工程の手待ちの時、別の部品にボルトをセットしていました。

    少しでも空いている時間に、作業をして付加価値を高めようという姿勢に驚きました。

    よくあるのは、機械加工現場で機械が自動で加工している時間に、作業者が完成品の検査やバリ取りを行う例です。

    これも必要な作業に組み込み、対象者全員に徹底する必要があります。

    作業者の自主的な活動に任せると、行う作業者と行わない作業者ができます。

     

    作業スピードを改善して確実に効果が出るのは、コンベアでのライン作業のようにコンベアや設備が一定の生産スピードを生み出している場合です。

    この場合、作業改善して生産性が向上した分、コンベアのスピードを上げれば実際の生産時間が短縮されます。

    私の経験でもアンドンを設置して、ラインの移動を、時間を決めて強制的に行ったところ、生産性は1年で30%以上向上しました。

    しかも日当たり生産台数も生産性の向上に応じて増加しました。

    対して、1人の作業者が各工程を巡回しながら、全行程を完成させる1人巡回セル生産を導入したことがありました。

    しかし作業ペースが作業者任せの為、スピードは上がりませんでした。

    作業スピードは、作業者のレベルにもより、優秀な作業者の現場では、ペースが決められていなくても本当にすごいスピードで生産している現場もあります。

    それでも多くの自動車メーカーがコンベアラインで自動車を組み立てていることからも、コンベアによるペース調整機能は有効です。

    実際、某自動車メーカーのライン作業を経験した方に聞きましたが、同じ製品を流していても、午前と午後でコンベアのスピードが微妙に変わり、できるかできないかギリギリのペースで流れていたそうです。

    従って現場のどこか1個所に、強制的に作業ペースを生み出すような設備を入れれば、改善の効果を生産量の増加に結び付けることができます。

     

    このような現場改善は生産量が右肩上がりに増加しているときは、効果がすぐに出ます。

    生産量の増加に対し、増員しなければならないところが、現在の戦力でできるからです。

    ところが売上が下降している中で現場改善を行っても、収益の改善に結び付けるのは容易ではありません。

     

    この場合、経営を良くするためには、現場改善と受注増加を行う必要があります。

    現場改善で現場に余力をつくり、その余力に新たな受注を入れて、売上を増やします。

    今まで残業している場合、残業していても新たな受注ができれば人件費は変わらず、売上は増えます。

     

    実は売り上げを増やすもう一つの方法があります。

    それは値上げです。

    そんなことができるかと思われるかもしれません。

    実は、指値をされている場合でも、受注価格を引き上げることは可能です。
    その方法については、別の機会にご紹介します。

     

    ものづくり改善 段取り時間短縮については、こちらから参照いただけます。

    ものづくり改善 リードタイム短縮については、こちらから参照いただけます。

    ものづくり改善 5Sについては、こちらから参照いただけます。

    ものづくり改善 品質改善については、こちらから参照いただけます。

     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

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    https://ilink-corp.co.jp/2258.html/feed 0
    歴史の必然だった! 品質管理を日本にもたらしたデミング氏と日本の出会い https://ilink-corp.co.jp/1719.html https://ilink-corp.co.jp/1719.html#respond Thu, 15 Jan 2015 13:01:57 +0000 http://ilink-corp.co.jp/?p=1719 No related posts. ]]>

    日本でものづくりに関わる人の間で、最も有名なアメリカ人にW・エドワーズ・デミング氏がいます。

    例えデミング氏は知らなくても、「デミング賞」は聞いたことがあると思います。

    「デミング賞」は毎年品質管理の進歩に功績のあった企業や団体に贈られるもので、日本科学技術連盟により運営されるデミング賞委員会が選考を行っています。

    「デミング賞」を取ったといえば、誰もが一目置くような賞です。

    このデミング氏は、1950年から日本の経営者に品質管理の考え方や統計的手法を伝え、その後の日本製品の飛躍的な品質の向上に大きな貢献をしました。

     

    ところがデミング氏はアメリカでは全く無名の人でした。

    その後1970年代後半、日本企業が続々と世界市場に台頭し始め、逆にアメリカ企業が経営不振に陥りました。

    「どうして日本の製造業はあんなに強いのか。」

    アメリカの企業が、日本に視察に行くと、工場のあちこちにPDCAと書かれ「デミング・サイクル」と呼ばれていました。

    そしてアメリカで無名の統計学者が、日本では品質管理の神様として尊敬されていることを知りました。

    これに目をつけたNBCテレビのプロデューサーがデミング氏を探し出し、特番を放映しました。

    そして既に80歳のデミング氏は、車椅子で全米を講演に回りました。

    その結果アメリカにも統計的手法が広まり、シックスシグマといった統計をベースにした経営手法がアメリカで生れ、GEやモトローラの復活に貢献しました。

     

    このデミング氏と日本との出会いは、デミング氏が日本の国勢調査の能力向上を助けるために、アメリカ政府の国勢調査局のメンバーとして来日したことが始まりです。

    このデミング氏について、デビッド・シルバースタム著 「覇者の驕り」の一節に生き生きと描かれています。

    そこには日本があの時代、どのような環境にあり、どうして戦後世界屈指の工業国になったのかが、著者の冷静な目で描かれています。

    一部を「覇者の驕り」から引用しながら書きます。

     

    アメリカの物理学者ウォルター・シューハートは1920年代ベル研究所で品質管理の為の統計利用を創出しました。

    そして第二次大戦中、アメリカ陸軍省はその技術を広めるためにスタンフォード大学内にシンクタンクを設立し、その一員にデミング氏がいました。

    陸軍省は軍需産業の業者にシューハートの規格を応用させました。

    しかし戦後の豊かなアメリカでは、経営者は工場から遠ざかり、品質に対する関心は薄れていました。

    世界一の工業国を脅かす国はなく、シャカリキになって品質を上げる必要はありませんでした。

    むしろいかに生産量を上げるかが、経営者の最大の関心でした。

    そのような状況にデミング氏は失望していました。

     

    一方日本の工業製品は戦前から戦後にかけて、粗悪品の代名詞のようなものでした。

    日本の技術者は、戦時中撃ち落とされた米軍機を調査し、アメリカの工業力のすごさを身に染みていました。

    例えば鉄板のカバーは、当時日本では金づちで叩いて必要な形状にしていました。

    アメリではプレス機を用いて、一瞬の間に正確な形状の部品を製作していました。

    さらに戦後、日本に入ってきたアメリカ製の工作機械や自動車を見て、その技術力の高さを実感していました。

    日本の経営者の前にアメリカは巨大な壁のように立ちはだかっていました。

    「どうしたらアメリカに追いつけるだろうか」

    そのような時にデミング氏が現れたのです。

     

    すでに勉強熱心な一部の日本の技術者は、戦前シューハートの本を自分達で翻訳し、手書きで書き写して統計的手法の勉強をしていました。

    デミング氏は本国ではなおざりにされていた統計的手法を一部の日本人が大切に持っていたことに感動します。

    以下、「覇者の驕り」から引用

    1950年、デミングは数人の日本人の友人に、日本で品質管理の講義をしてくれと依頼された。

    彼は引き受けはしたものの、一抹の不安は拭いきれなかった。

    彼は、アメリカで起きたのと同じようなことが日本でも繰り返されるのではないかという恐れにも似た予感に悩まされた。

    そこでデミングは、主催者の一人、石川一郎に、もし講義をする相手が現場の技術者だけならやっても価値がない、産業界の経営トップも講義に出席しないことには意味をなさないのだと話した。

    中略

    45人の日本のトップ経営者に対し、著名なアメリカ人による品質管理の講演会があるのでぜひ聞きにくるよう電報を打っていたのである。

    電報を受けた人々にしてみれば、恩師である石川からの案内は、ほとんど命令同然だった。

    45人が全員出席し、デミングは自分の使命が再開したのを感じた。

    1950年デミング氏の講演

    1950年デミング氏の講演

    こうした人々はみんな追い詰められており、デミングに頼る以外に、他に行き場がなかった。

    彼らの希望をつないでおくためにデミングは、自分の言うとおりにやれば、5年以内には西洋に十分対抗できるようになると話した。

    中略

    デミングの最初の講義のあと、2、3か月して、その講義に社長が出席していたという電線会社は、生産性が30%上がったと報告、そして、数か月のうちに、他の企業も似たような生産性向上の成果を報告してきた。

    デミングの評判は、神託として確立された。

    それ以来、品質管理活動は独り立ちして発展できる勢いを持った。

    デミングのところには、取りつかれたような、学習意欲に燃えた経営トップたちが足を運ぶようになった。

    中略

    それまで無視されることに慣れていたデミングは、ここで始めて恐るべき何かに触れたという気がした。

    されはまるで何か生のままの、力強い人間の力が、自らの存在を主張しようとしているのを見守るようだった。

    これは成功する、と彼は思った。

    彼にはそれが分かった。

    だれも、この人たちを止めることはできない。

    彼らはこんなに一生懸命成功しようとしているのだ。

    彼らはこれより他に優先すべきことを何も持っていなかった。

    彼らはいかなる犠牲をも覚悟していた。

    最初のうちは間違いを犯すかもしれないが、そのうちに正しい方法を身につけるだろう。

    そうなれば彼らを止めるものは何もない。

    目標を持った集団――――

    この国のだれもが、上から下まで同じ目的をもっているという事実

    ――――がデミングを圧倒した。

    日本の労働者たちは、まさに、経営者たちが夢にまで見る理想的なタイプだった。

    善良で、持久力があり、勤勉、そしてかつ純真であった。

    しかも数学的技能を必要とするデミング方式にはぴったりだった。

    ごく普通の労働者でさえ、驚くほど基礎数学に長けていた。

    引用ここまで

     

    デビッド・シルバースタムは、日本とデミング氏の出会いをこのように生き生きと描いています。

    今我々が当たり前のように使っているQC7つ道具や、推定や検定、分散分析などの統計的手法も、この出会いがなければなかったのかもしれません。

    アメリカに追いつく方法を渇望していた日本と、自らの統計を実践する企業に出会えなかったデミング氏、

    まさに求める者同士が出会ったのは、歴史の偶然なのか、

    それとも何かに導かれたのでしょうか。

     

    もしこの出会いがなかったら、日本の発展はもう少し遅れたかもしれません。

     

    ではアメリカが品質管理をしっかりやれば日本に負けなかったのでしょうか。

    今日本では、品質が良いことが金科玉条のように言われています。

    その日本が、品質が日本ほど良くない中国製品との戦いで苦しんでいます。

    そして今では、全く違う製品に一気に市場を奪われるようなことが起きています。

    例えば、図のようにコンパクトデジカメの市場は、スマートフォンに奪われ、2012年から急速に減少しました。

    shipments_of_digital_cameras

    現在は、戦略に失敗すれば勝てないのです。

     

    そのためには、日ごろから経営環境の変化に注意して、将来の戦略を立てる必要があります。

    これは大企業だけでなく、中小企業にも当てはまります。

    多くの中小企業の取引先は、大企業であり、取引先の戦略の成否は自社の命運を左右するからです。

     

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    イプシロン打ち上げの快挙、日本製品の高品質は、マネジメントシステムの成果? https://ilink-corp.co.jp/684.html https://ilink-corp.co.jp/684.html#respond Wed, 18 Sep 2013 23:51:01 +0000 http://ilink-corp.co.jp/?p=684 No related posts. ]]> 9月14日(土)14時、日本の独自技術である固体燃料ロケット

    イプシロンの打ち上げに成功し、多くの日本人がこの快挙を喜びました。

    イプシロン打ち上げ

    世界最高の固体燃料ロケット イプシロン

     

    実は日本はこの固体燃料ロケットの分野では、世界のトップレベルを行っています。

    このイプシロンロケットの詳細については、以下のリンクが参考になります。

    イプシロンロケットが拓く新しい世界

     

    このイプシロン、打ち上げ費用を削減するために新たに

    「モバイル管制」システムを開発し、

    なんと数人とノートパソコン1台で打ち上げができてしまいます。

    その結果、従来のM-5ロケットでは42日かかっていた

    打ち上げ準備の期間がわずか7日間に短縮され、

    打ち上げ費用は75億円から38億円と1/2にする事ができました。

    この快挙は、リーダー森田教授の将来を見渡した的確なビジョンと、

    それを実現する関係者の地道な努力の結果ではないかと思います。

     

    森田教授へのインタビューは以下のリンクにあり、

    ロケット技術のすごさと大変さがとてもよくわかります。

    未来を切り開く次世代ロケットイプシロン

     

    一方で、ビジネスの世界では海外で新しい経営手法が広まると、

    書籍などで日本にも紹介され、

    これこそが企業業績を大きく改善する画期的な手法として紹介されてきました。

     

    これらの経営手法について、以前も引用した

    「ヤバい経営学」フリーク・ヴァーミューレン著 東洋経済

    では、その効果について、以下のように述べています。

     

    …具体的には、目標管理、ゼロベース予算、トレーニンググループ(Tグルーブ)、

    Y理論、Z理論、多角化、マトリックス組織、社員参加型経営、歩き回る経営、

    多能工化、QCサークル、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)、

    TQM(総合的品質管理)、チーム経営、シックスシグマ、ISO9000といったものだ。

     

    カリフォルニア大学バークレイ校のバリー・ストー教授とリサ・エブスタイン教授は、

    こういう経営手法を導入した企業のその後を、綿密な統計分析で調査した。

    二人はフォーチュン500社のうち、100社のデータを集めた。

    具体的には、導入している経営手法(TQMなど)、組織構造、

    企業の評判(『フォーチュン誌』の「最も尊敬される企業」ランキング)、

    企業業績、そして経営者の報酬といったものだ。

     

    そして、二人はこんな発見をした。

    流行りの経営手法を導入した会社は、

    導入していない会社と比べて業績が良いわけではない。

    経営手法と企業の業績に相関関係がもしある場合でも、

    それはマイナスの関係だった。

     

    つまり、流行りの経営手法は何の役にも立たないのだ。

    引用ここまで

     

    著者が引用している経営手法の中には、BPRやシックスシグマのように

    十数年前に日本に紹介され、以前私も勉強したものもありました。

    しかし当時シックスシグマを導入して大きな成果を上げて、

    様々な書籍で紹介されたモトローラは、携帯電話のデジタル化の

    波に乗り遅れ、当時の勢いはなくなってしまいました。

     

    これに対して日本の企業の多くは、

    このような流行りの経営手法の導入にお金をかけることなく、

    地道に設備投資や製造工程の改善に取組んできました。

     

    唯一の例外を除いて

    その例外とは、ISO9000です。

    ISO9000は新しい品質マネジメントシステムとして

    今から20年ほど前に日本に急速に導入されました。

    まず日本の大手企業が導入し、それに伴い、その取引先も導入しました。

    その結果、日本製品の品質は向上したのでしょうか。

     

    以下、再び同書からの引用です。

    ペンシルバニア大学のマリー・ベンナー教授とハーバード・ビジネススクールの

    マイク・トシュマン教授は、ISO9000導入企業のイノベーションに何が起きているか調査した。

    二人は、1980~1999年の写真産業98社と塗料産業17社についてデータを集めた。

    そこから、対象企業のすべての特許と関連文書を調べた。

    そして、イノベーションが企業にとって既存分野(現状の延長線上や派生研究)なのか、

    新規分野(成長のための全く新しい研究)なのか分類した。

    すると二人は明確なパターンを発見した。

    企業がISO9000を導入すると、既存分野の発明が急激に増えていた。

    その反面、新しい革新的なイノベーションが犠牲になっていた。

    ISO9000のせいで「同じような」特許ばかり増えると、

    全く新しい技術や製品の発明が出てこなくなるのだ。

    なぜこういうことが起こるのだろう。

    それは、ISO9000は、会社が「物事を進める最適な方法」からの逸脱を最小限にするからだ。

    引用ここまで

     

    ISO9000は、業務の中で品質に影響する様々なポイントで

    チェックや検証を行い、その記録を残すことを求めます。

    その結果をフィードバックし、改善することで、品質が向上する仕組みを構築します。

    これ自体はとても良いことですが、こういった管理システムを導入することで、

    開発におけるイノベーションを阻害することが、上記の調査から明らかになっています。

    何より、中小企業にとってこれらの管理システムの運用の負担が

    社員に大きくかかる点が最大の問題です。

     

    私自身、最近中小企業の方からISO9000の導入について相談されることがあります。

    相談された企業に、ISO9000のメリットとデメリット、そして費用を

    正直に伝えると、多くの企業が「認証取得は必要ない」と判断されます。

    それは、中小企業において品質はシステムに頼るより、

    各自が地道な努力をする事の方が重要であると認識しているからではないかと思います。

     

    品質管理を日本にもたらしたデミング氏についての記事は、こちらから参照いただけます。

     

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    検査で品質は向上する? ~全数検査の落とし穴 https://ilink-corp.co.jp/568.html https://ilink-corp.co.jp/568.html#respond Tue, 03 Sep 2013 13:32:07 +0000 http://ilink-corp.co.jp/?p=568 No related posts. ]]> 多くの中小企業のモノづくりでは、大企業のように機械による

    自動化ができず、手作業による部分も少なくなくありません。

    その場合、作業者のミス、つまりヒューマンエラーによる不良が

    発生することがあります。

     

    例えば、組立ミスによる誤組立や、異品納入など、

    又機械加工でも加工条件の設定ミスによる寸法不良が起きることがあります。

    その結果、不良品が顧客にまで流出すると大きな問題となり、

    原因と対策が必要になります。

    しかしヒューマンエラーが原因の場合、根本的な対策が難しく、

    全数検査で流出防止を図ることもあります。

     

    この全数検査は流出防止として有効でしょうか。

     

    実は不良の発生確率が低いと検出率は低下します。

    これは「人は捜し物がなさそうなら早めにあきらめる」

    ようにプログラムされているからです。

     

    例えば、2002年にアメリカ国内の空港検査員5万人に

    ついて銃を見過ごす確率を調査しました。

    その結果、見過ごす確率は25%、4丁に1丁は見過ごされていました。

    このときの発生確率は1PPM(100万の1)しかなく、650万人の乗客に対し、

    検査員が見つけた銃は598丁でした。

     

    空港での検査

    空港での検査

     

    見過ごす確率は25%、4丁に1丁は見逃していました。

    つまり全数検査は、流出防止策としてはリスクの高い方法です。

    ではどうしたら良いでしょうか。

     

    以下の方法があります。

    ・ポカヨケを構築し、不良を作れない工夫をする。

    ・完全なポカヨケができなくても、ミスが起きにくいようにチェックリストの整備、製品を入れる箱の色分けや部品の識別方法などを工夫する。

    ・作業手順の標準化と手順書の作成を推進する。

    ・自動検査装置を導入し、検査を自動化する。

    ・数値管理できるものは、管理幅を狭め、品質を向上する。

     

    プレスや樹脂成形など加工時間が短い製品は、

    全数検査を行なうと加工時間より検査時間の方が

    長くなってしまいます。

    問題点を対策し、全数検査を早急に廃止しないと

    製造コストが大幅に上がったままになります。

     

    私の経験でも、プレス工場でプレス機が停止しているので

    確認したところ、作業者は別の製品の全数検査を行なっていました。

    この製品は金型に問題があり、寸法が公差を外れるため全数検査を

    行なっていました。

    その検査に時間がかかり、作業者は自分の担当している

    プレス機を止めて検査していたのです。

    この場合、早急に金型を修正し、寸法を安定させ

    全数検査を廃止しないと、製造コストがかさむ一方でした。

     

    工程能力は、本来は測定を数値化して、標準偏差から

    工程能力指数Cpkを求めます。

    一方通止めゲージ等で検査を行ない結果が数値化できない

    場合もあります。

    正規分布と管理幅

    管理幅を狭くして品質を向上

     

    その場合、ゲージの管理幅を要求される公差域よりも狭くし、

    そこですべて合格になるように加工機の精度を高めます。

    もし不良になった場合は、公差域ちょうどのゲージで検査し、

    合格であれば納品します。

    公差域を厳しくしたゲージが、工程能力、

    及び改善活動の目標となるわけです。

    このような製造能力を高める活動は、すぐには成果が

    出にくいものですが、ムダな全数検査を廃止するためには

    必要になります。

     

    見落としなど誤認識によるヒューマンエラーについては、こちらから参照いただけます。(別サイト)

     

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    段取り時間短縮 その2 https://ilink-corp.co.jp/551.html https://ilink-corp.co.jp/551.html#respond Mon, 22 Jul 2013 19:16:39 +0000 http://ilink-corp.co.jp/?p=551 No related posts. ]]> 前回は、段取り替え時間短縮の取組を機械加工工場をモデルにお話ししました。

    今回は、樹脂の射出成型を例に取り、その取組のヒントをご紹介します。

    プラスチック成形品の成型条件

    段取り替え時間の短縮に成型条件の安定化が重要です。

     

    段取り替え時間の短縮の5ステップは、

    ステップ0 現状の段取り替え時間を測定します。

    ステップ1 段取り替え作業を分析します。

    ステップ2 内段取りと外段取りに分けます。

    ステップ4 内段取りで行なわれている作業を外段取りで行なうようにします。

    ステップ5 段取り作業自体を簡単にします。

    でした。

     

    実際には、当初は、ムダ取りから始めるケースが多いです。

    例えば、成型機では、次の生産用の金型の置き場が整理されてなく、作業者が現場を歩き回って探している事があります。

    金型に識別のラベルを貼り、すぐに分かるようにします。

    また金型の置き場を、製品の種類毎や発注先毎にするなどのルールを決めてすぐに探せるようにします。

    また必要な工具がキャビネットなどにしまわれていて、取り出すのに時間がかかる場合があります。

    ある企業では外部から5Sの指導を受けた際に、整理整頓を励行するため、工具を工具キャビネットの中にしまうように指示を受けました。

    しかし使用頻度が高い工具を遠くのキャビネットにしまうと、歩行距離が長くなり取り出す手間も増えたため、次第に守られなくなりました。

    必要な工具を厳選して、作業する場所の近くに引っかけたり、置き場を設けると共に適切に表示して、すぐに取り出せるようにします。

     

    次に内段取りの外段取り化に取組みます。

    成型機などでは、金型の予備加熱にかかる時間が最も多くかかります。

    予備加熱装置を購入して、予備加熱を外段取り化すれば段取り替え時間は大幅に削減されます。

    一方これは費用もかかります。

    そこで次に段取り替え時間の短縮に効果があるのは、金型交換後の試し打ち時間の短縮です。

    製品の大きさや形状が変われば、金型温度や材料の射出圧力などの成型条件が変わります。

    オペレーターは、試し打ちをしてできあがった製品を測定したり、外観を見て、成型条件を調整します。

    この調整のやり方はオペレーターによって様々なやり方があり、試し打ち時間も異なります。

     

    この調整方法を標準化すれば、試し打ち時間のばらつきを減らすことができ、生産に入ったときの品質を安定させることができます。

    特に近年は、カケ、ソリ、キズ、バリなどの形状だけでなく、異物やウェルト、シルバーといった外観不良も厳しくなっている場合があります。

    さらに一度不良を出すと全数検査が必要になってしまうときもあります。

    一度全数検査になると、それを抜き取り検査に戻すのが容易でありません。

     

    ある工場では、成型品質が安定しないため調査したところ、オペレーターによっては、できるだけ早く段取り替え作業を済ませたいという気持ちから、金型の昇温が不十分と感じつつも、圧力を高めにして生産を開始していました。

    ところが生産を開始すると、金型の温度がさらに上昇するため、当初の圧力では高すぎてしまい品質がばらつきます。

    それをさらに温度や圧力を調整するため、生産中の品質が不安定になっていました。

    そこで生産開始する際の温度を決めておくと品質が安定しました。

    成型機のように温度と圧力のようないくつものパラメーターを変えて調整する設備では、調整方法を作業者に任せておくと、作業者毎のやり方が発生してしまいます。

    そして基準があいまいとなり、製品を出来映えを見ながら、あちこちのパラメーターを変えてしまい、製品の品質が安定しなくなります。

     

    そこで調整する順序と、判断基準を明確にします。

    さらに製品毎に調整結果を記録し、リピート生産の際は同じ調整値で行なうようにします。

    私の経験でも、成形品の形状や外観不良が起きたときに、成型条件を見直すことは非常に多かったです。

    従ってこの部分を改善することで、段取り替え時間の短縮だけでなく、製品品質の安定させることもできます。

    このような取組は、樹脂成型だけでなく同様の設備を使用している現場に取り入れることができます。

    ぜひ改善のヒントにして頂ければと思います。

     

    段取り時間短縮 その1については、こちらから参照いただけます。

     

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    段取り時間短縮 その1 https://ilink-corp.co.jp/532.html https://ilink-corp.co.jp/532.html#respond Sat, 13 Jul 2013 08:07:09 +0000 http://ilink-corp.co.jp/?p=532 No related posts. ]]> 多品種少量生産の生産現場では、直接生産している時間よりも、段取り替えの時間の方が長い場合があります。

    その場合、生産性の改善やコストダウンには、段取り替え時間の短縮が効果的です。

    この段取り替え時間が長いために、できるだけ段取り替え時間の影響を少なくするために生産ロットを大きくしてしまう場合があります。

    顧客の発注単位以上に生産ロットを大きくすると、その分在庫が増えてしまいます。

    あるいは、1ヶ月の発注の1,000個でも、発注単位は250個で、毎週納入する場合生産ロットが250個であれば、生産した分は全部納入することができます。

    ところが生産ロットが1,000個であれば750個はすぐに納入することができず、現場に保管されます。

    これが現場のスペースを圧迫し、生産性を低下させる場合があります。

     

    このように段取り替え時間が長いことはデメリットが多く、段取り替え時間の短縮は大きな効果を発揮します。

    この段取り替え時間の短縮は、以下のステップで行ないます。

     

    ステップ1 現状の段取り替え時間を測定します。

    ステップ2 段取り替え作業を分析します

    ビデオ撮影で作業を記録し、個々の作業を分解します。

    ステップ3 内段取りと外段取りに分けます。

    内段取り 機械を止めて行なう段取り替え作業

    外段取り 機械を止めずに加工しながらできる段取り替え作業

    ステップ4 内段取りで行なわれている作業を外段取りで行なうようにします。

    ステップ5 段取り作業自体を簡単にします。

     

    例えば工作機械などの加工機械では、実際に取組むポイントとして、

    ・加工治具の取り付けのワンタッチ化やボルトレス化

    ・刃物のパーマネントセット化

    ・ワーク毎の加工条件の一覧表や、条件出しの目印

    ・汎用計測器から、通止めゲージへの変更

    ・工具を機械のそばに置いたり、現場の配置を見直すことで、歩行距離の短縮

    ・複数での作業

    などがあります。

     

    これらの改善により、当初75分かかっていた段取り替え時間が、6分にまで短縮した例もあります。

    1日1回段取り替えが合った場合、大幅な生産性の向上が実現できます。

    段取り替え時間短縮, コストダウン

    段取り替え時間短縮はコストダウンの重要な要因です。

     

    以下に工作機械を例に具体的な取組方法を紹介します。
     

    ステップ1 現状時間測定

    段取り替えの目標時間が決めてなく、作業者は何分で段取り替えを終了するのが適正か知らない場合があります。

    そこで、まずは特定の製品でも良いので、段取り替え時間を測定し、目標値を決めます。
     

    ステップ2 段取り替え作業の分析

    段取り替え時間がばらつく原因として、段取り替え作業のやり方が作業者毎にばらばらな場合があります。

    段取り替え作業の早い作業者の作業をビデオ撮影し、どのような順序でどうやって作業しているか、作業者全員で見て分析します。

    早い作業者のやり方を標準化することで、段取り替え作業の時間短縮を図ります。

    金型の交換、工作機械のクランプ治具やバイスの交換、加工条件の調整などは、作業者毎に作業の順序ややり方に違いが出やすい箇所です。
     

    ステップ3 内段取りと外段取りに分けます。

    ステップ2でビデオで分析する際に、内段取りと外段取りに分けます。
     

    ステップ4 内段取りと外段取り化

    内段取りと外段取りにできないか、考えます。

    例えば多品種少量生産では、工具交換の時間が段取り替え時間の大半を占めることがあります。

    工具の数の分だけをツールホルダを用意して、工具をつけたままにすれば(パーマネントセット)大幅な時間短縮ができます。

    一方そこまでツールホルダを購入できない場合は、繰り返し生産する製品については工具だけでも製品の種類毎にまとめて保管すれば、工具を探す時間が短縮できます。

    あるいは工具をホルダにセット作業を、前の製品の生産中に行なうようにすれば(外段取り化)、段取り替えによる停止時間は大幅に短縮します。
     

    ステップ5 段取り作業の改善

    調整時間の短縮

    バイスやクランプ治具を交換した際、適正な位置にすぐに置けるように、位置決めブロックや位置決めピン、けがきなどを追加し、位置調整時間を短縮します。

    測定の際は、ノギスやマイクロメーターのような汎用計測器でなく、それぞれの製品専用に通止めゲージを製作すれば、計測時間の短縮と計測ミスの防止が図れます。

     

    段取り時間短縮 その2については、こちらから参照いただけます。

     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

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