Posts Tagged ‘人材育成’

ゆとり世代の特徴と誤解その1 ~ゆとり教育の背景~

今の若者はダメか?

 

人手不足が激しくなる中、せっかく就職した企業を数か月で辞めてしまう若者がいます。電話に出ない、言われたことしかやらない、メール1本で休むなど、今までの常識では考えられない行動が目につき、多くの先輩や上司は、彼らを理解できないでいます。その原因を「ゆとり教育」にあるという意見もあります。

では、ゆとり世代は、ダメなのでしょうか?今の若者を生み出した社会背景と企業の求めるものの変化から、その原因と対策を考えます。
 

人は環境に応じて合理的な行動を取る

人は、与えられた環境に応じて、最も合理的な選択をします。個人で考えれば個々の考え方の違いから、必ずしも合理的な選択をするとは限りませんが、多数の人々の行動を平均すると合理的な選択をしていることが分かります。

そう考えると、今の若者の特徴は、今の社会環境や教育環境に合わせて、彼らなりに合理的な選択した結果です。ただし、合理的ではあっても長期的には必ずしも正しいとは限りません。時には、自らの将来に不利な選択をすることもあります。

環境に合わせて最適な選択をした結果、今の若者があるならば、若者たちを変えるためにはその環境を変える必要があります。会社も同様で、社員の行動を変えるためには、教育だけでなく職場環境を変える必要があります。そのためには、今の環境を正しく分析する必要があります。
 
図1 環境の変化
図1 環境の変化
 

懐古にはバイアスがかかっている

今の環境を分析する際にありがちな過ちは、過去を思い出す時にバイアスを掛けてしまうことです。つまり記憶を呼び起こす時に、都合の良いことだけ思い出し、都合の悪いことは忘れてしまうことです。

例えば「ALWAYS 三丁目の夕日」で昭和の光景を懐かしく思った方も多いと思います。中には「あの頃の方がよかった。人と人とのつながりが深く、人々のモラルも高かった。」という方もいます。
 
2006年、衆議院で大前委員は、
「今の日本の国のモラルの低下というのは実に深刻なものがございますので、私は、戦前というのはいろいろ批判されますけれども、モラルという面では非常に水準が高かったと言われております(中略)。ですから、戦前のことをある程度参考にして、迷った時は原点に返れと言いますから、過去のそういうものを、いい点を取って現在の教育に生かしていただきたいと思います」
 
本当に戦前のモラルは高かったのでしょうか。
 
昭和15年の読売新聞には、ハイカーの乗車マナーの悪さが書かれています。そこには、集団をなしたハイカーが、始発駅の列車や乗換駅で窓から乗り込み荷物を投げ込んで席を確保したり、その荷物を別のハイカーがホームに投出して座りこんで口論となったりしたことが書かれています。

別の新聞には、進行中の列車の窓に飛びついて窓から乗り込む若者や、席の奪い合いから殴り合いの喧嘩となったことが書かれています。

戦後でも、路上喫煙どころか、たばこの吸い殻を道端や駅の線路に投げ捨てる、ホームに痰を吐く(そのために痰つぼなんてものがホームにありました)、ゴミは道端に捨てるなどは当たり前にありました。

旅行先でホテルの備品を盗む、公衆トイレでトイレットペーパーを盗むなど、盗むということが“悪いこと”という認識が希薄な人もいました。
 
日本人は世間体を気にする面が強く、知人などには礼儀正しいのですが、赤の他人に対しては傍若無人に振る舞うため、マナーやエチケットは今の方がはるかに良くなっています。

また凶悪犯罪についても図のように戦後一貫して減り続けています。私の母親は昭和13年生まれですが、彼女が20代の頃、夜遅くなると一人で外を歩くのは危なくてできなかったと言っています。(名古屋という地方の大都市のせいかもしれませんが) 少なくとも十代の女の子が深夜まで街中をうろついている現代の方が安全といえます。(個人的に事件に遭うのは別です。)

実際、凶悪犯罪の総数と人口当たりの犯罪件数は戦後減少し続けました。
 
図2 凶悪犯罪の推移
図2 凶悪犯罪の推移
 

つまり人間は過去を思い出す時、

過去の良かったところだけを強調し、都合の悪いことは忘れる性質

があります。現実の昭和の世界を改めて目の当りにしたら、それでもあの頃に戻りたいと思うでしょうか。
 

日本企業の人材は優秀だったのか?

 

まじめで仕事熱心というイメージのある我々日本人、しかし必ずしもそうでない面もあります。そして先輩や上司が若者たちの悪いお手本となってしまっていることもあります。

そこで今の日本のサラリーマン (今風の言葉でいえば、ビジネスパーソン) の特徴を考えてみます。
 

本当は日本人のモチベーションは高くなかった

アメリカの人事コンサルティング会社ケネクサの調査によると、28ヵ国の社員100名以上の企業の社員に、従業員エンゲージメント(組織の成功に貢献しようとするモチベーションの高さ、組織の目標を達成するための重要なタスク遂行のために自分で努力しようとする意思の大きさ)を調査しました。

 この「従業員エンゲージメント指数」は、上位はインド77%、デンマーク67%、メキシコ63%、他の主要国では、アメリカ59%、中国57%、ブラジル55%、ロシア48%でした。そして日本31%で最下位でした。
 
図3従業員のやる気
図3 従業員のやる気
 

長時間労働、サービス残業など自らの意思で長く働いているからといって、モチベーションが高いとは言い切れないのです。私の経験でそう感じます。サラリーマン時代、多くの同僚のモチベーションは高くありませんでした。
 
従来のマネジメントは、社員はやる気、熱意があるのが当然として組織運営を考えていました。しかし現実には日本企業の社員はむしろやる気、モチベーションのない社員の方が多いようです。となれば、このような社員が成果を出せるような組織運営、仕組みを考えることが必要になってきます。
 

決断できない組織

特にリーダー、管理職と職制が上がるほどに、リスクを取らない傾向があります。結論を先延ばしにして、決断しなくなります。私が組織の中で非常に大きな改善・改革活動を行った時、当時50歳以上の管理職はほとんど反対、もしくは否定的な態度でした。それは変えることで混乱や問題が生じ自分に責任がかかることを避けたためでした。ところが取組から2年が経過し、成果が出始めると彼らの大半が賛同し協力的になりました。
 
この原因はリスクに立ち向かう社員に対して、十分なサポートがなく、しかも失敗は担当者の責任になるためです。多くの企業は、社員がリスクを取ってチャレンジし大きな成果を上げたり、改革を遂行してもその報償は多くはありません。その反面、間違いや失敗には昇進の可能性が閉ざされるという厳しいペナルティがあります。これが社員が少しでも違うことをしたがらない原因となっています。
 

結果でなくプロセスを重視する弊害

仕事は個人でなくチームで行うものという考えもあり、多くの人が自分の仕事が終わっても帰らずに残っています。なぜなら仕事が遅れているとき、遅くまで残業をしていないと非難されるからです。つまり日程に間に合うかどうかより「失敗に終わったが、やれるだけのことはやった」という言い訳のためです。その背景には、結果よりも、頑張ること自体を奨励する文化があります。遅れていれば、マネジャーが自ら作業を手伝うことも美徳とされます。
 

全ての上司はいずれ無能化する

ピーターの法則は、南カリフォルニア大学教授の教育学者ローレンス・J・ピーターにより提唱されたもので、

  1. 能力主義の階層社会では、人間は能力の極限まで出世する。したがって、有能な平(ひら)構成員は、無能な中間管理職になる。
  2. 時が経つにつれて、人間はみな出世していく。無能な平構成員は、そのまま平構成員の地位に落ち着く。また、有能な平構成員は無能な中間管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は、無能な人間で埋め尽くされる。
  3. その組織の仕事は、まだ出世の余地のある人間によって遂行される。

というものです。
 
今の職務では有能な人間が昇進して、上位の職務に就いたとき、上位の職務は新たな能力を必要とします。しかし昇進した人間は新たな職務に必要な能力があるとは限りません。つまり昇進した職務に対して無能な状態になります。

もし新たな職務に必要な能力を持っていれば、さらに上の職制に昇進します。そこで必要な能力を持っていなければ、昇進はそこで止まります。こうしてすべての社員は、自分の職務に対して無能な状態で昇進が止まり落ち着きます。
 

専門スキルが育たない

「日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?」の著者ロッシェル・カップ氏は、日本企業の頻繁なローテーションを批判しています。頻繁なローテーションにより専門的なスキルが身に付かず、顧客もローテーションの度にスキルの低い社員を相手にしなければならなくなります。
 

 アメリカでは、マネジャーから委託される仕事を社員は、自分の専門知識を活かして自分で判断し責任を持って遂行します。部下はマネジャーからtake the ball run with itボールを受け取って走る(仕事に主導権を持って対処する)ことを期待されています。対して日本では上司は部下に細かく指導し、途中経過も細かく報告させます。そのため専門的なスキルが低くても一定レベルの仕事ができる反面、上司は部下の仕事に細かく干渉するという弊害もあります。
 

従来型の組織は、大量生産時代の遺物

このように追っていくと、

  • 専門的なスキルが育たず
  • 管理職にリスクを取る勇気や決断力がなく
  • やる気や意欲に乏しく
  • マネジメント能力が欠落した

のが現在の日本企業の組織と言えます。
 
決してすべてがそうとはいいませんが、少なくとも私がかつて所属した組織は、私自身も含めてその要素はありました。

それでも今まで成功してきたのは、画一的な製品を大量生産する事業では上記のような能力はさほど必要とされなかったからです。今までやってきたことの延長線上で特に新しいことをやらなくても、うまくいっていればリスクを取る勇気や決断力がなくても問題ありません。仕事もルーチンワーク的に流れていくのであれば管理者に優れたマネジメント能力がなくても部下が淡々と仕事をこなせば問題ありません。むしろ部下がやる気に燃えて様々な変革に取り組むと、衝突や軋轢が起きて、組織の輪が乱れます。また上司の既得権益が脅かされることもあります。

しかし、今までの画一的な大量生産のビジネスが成り立たなくなってきた今日、このような組織の問題点がはっきりと見えるようになってきました。それは新入社員など若手からも見えています。
 

若者を取り巻く社会の問題

 

企業神話の崩壊と格差の拡大

若者を取り巻く環境で大きな変化は、企業が彼らの生活を保証できなくなったことです。新卒一括採用を主体とした日本の雇用慣行は、一度転職すると同じ規模の企業に就職することは困難です。彼らはこれを貴重な「新卒カード」と呼んでいます。つまり最初の新卒採用の時点で安定した正社員の職に就かなければ、一生フリーターの可能性もあります。これは就職氷河期の世代が、新卒採用の機会を逃してフリーターを続けていることも知っています。
 
図4は、正規雇用者と非正規雇用者の数を示したものです。非正規雇用者の割合は増え続け、特に女性は半数以上が非正規雇用者です。

図4  正規雇用者と非正規雇用者の数

図4 正規雇用者と非正規雇用者の数
 

備考:政府広報オンラインより
1.総務省「労働力調査特別調査」より作成。1985年から2000年までは「労働力調査特別集計」(2月分の単月調査)、2005年以降は「労働力調査(詳細集計)」(年平均)による。
2.雇用形態の区分は勤め先での呼称による。
3.2000年2月以前の分類は「嘱託・その他」、2005年以降は、分類を「契約社員・嘱託」と「その他」に分割。
4.2011年の< >内の実数・割合は、岩手県、宮城県及び福島県について総務省が補完的に推計した値を用いている。

 
またせっかく正社員になっても、中高年になった時点でリストラの名目で退職させられることもあります。若者たちは勤務先は自分たちの生活の安定を保証してくれないと思っています。
 

学力低下ではない、低学力者の高学歴化

ある企業の人事部の方の話です。現場から「分数計算もできないような子を採用しないでくれ」と言われたそうです。学校推薦制度、AO入試など、正規の入学試験を経ないで入学する学生も増え、高校、大学を卒業してもかつての若者に比べて、学力の劣る子が増えてきました。さらに後述するように「ゆとり教育」世代の場合、「だからゆとり教育はダメなんだ」ということになります。

またある国立大学の先生に聞いたところ、工学部では高校で習得している筈の基礎的な物理の知識がないため、大学の1年生はまず高校の物理のおさらいから始めるそうです。そうしないと専門課程に進んだ時、専門分野の勉強についていけなくなるそうです。

現実には、私が接する範囲では学生たちは自分たちの時代よりまじめでよく勉強しています。同じカリキュラムを受けていてそんなに成績に差がつくことは考えられません。
 

図5を見れば原因が分かります。基礎的な学習能力の高い子の割合は、時代によって変わりません。変わったのは子供たちの数です。子供たちの数に合わせて大学や高校の定員を絞らなかったために、自分の学力ではかつては入れなかった学校に入れるようになったのです。

かつては国立大学に入る学生であれば当然できたはずの物理の知識を持っていないレベルの子も国立大学に入るようになったため、このような事態になったと推測します。(この点は、私の推論であり、異論のある方はぜひ情報を提供願います。)
 

図5  高等教育の入学者数

図5 高等教育の入学者数
 

もうひとつは、学歴志向、ホワイトカラー志向が強まり、大学への進学が増えたことで、高校卒業者のレベルが低下しているのではないかと考えます。かつては経済的な事情や勉強があまり好きでない子は、それなりに頭の良い子も就職しました。現在そういった子は奨学金を借りて進学し、高卒で就職する子のレベルが下がってきたのかもしれません。また大企業では、現場の作業者は派遣社員などが主流になり、高卒枠の採用が減少したことも影響しています。その結果、高校を卒業して就職するのは、他に選択肢がないためにやむなく選択するものになりつつあります。(ただし職業系の高校は除きます)
 

単純労働の減少

製造業の海外移転などにより、大手企業の技能系の求人は減少しています。またものづくりの自動化、機械化が進み、かつてのような単純労働は減少しています。まだ中小企業には単純労働は多くありますが、今日ではその仕事は外国人労働者や派遣社員、外国人技能研修性が担っています。

30年前私が最初に入った大企業の製造ラインの作業者は、正社員か期間従業員でした。長いベルトコンベアのラインに正社員がずらっと入り、組立作業を行っていました。私も複数のライン作業を経験しましたが、一人の担当する作業は本当に単純な作業でした。作業はすぐ覚えましたが、日々退屈でいつも時計を見ては早く終わらないかなあと思っていました。当時はこういった単純作業でも大手メーカーの正社員として定年まで勤めることができました。

こういった単純労働が減少し、正社員の仕事は派遣社員や外国人研修生の仕事の管理や、より高度な工程や設備の管理、生産管理や問題の対策などです。つまりより高いスキルの人材が求められるようになってきました。
 
図6  在留外国人の数
図6 在留外国人の数
 

最大の社会問題はフロンティアの欠如

今の社会は、格差の拡大や終身雇用制の崩壊などにより若者が安心して働ける環境ではなくなっています。彼ら自身も定年まで今の会社で働くとは思っておらず、どこかで転職する、あるいは転職せざるを得なくなることを想定しています。このような環境下で高いモチベーションを持つのは容易ではありません。

しかし若者たちにとって、未来に希望を持てない原因は、格差に加えてフロンティアの欠如にあると考えます。特に昭和の時代に子供時代を過ごした自分から今の時代を見ると、今の子供達には、将来への希望が少ないことに驚きます。
 
新たな技術、新たな市場、それが切り開かれると多くの企業がそこに多くのエネルギーを注ぎ、市場が一気に活性化します。

かつて、1980年代の二輪車ブームを振り返ると、多くの新技術や新たな取り組みがありました。水冷エンジン、リンク式サスペンション、アンチノーズダイブシステム、2サイクルエンジンの復活、アルミフレーム、ラジアルタイヤなどです。このような進歩が続くと製品のサイクルは速くなり、市場は活性化します。

2000年代では、スマートフォンの登場により、ライフスタイルが大きく変わりました。しかし特にハードウェアにおいては、大きな革新が見られません。新たなフロンティアがなくなってきていると感じています。
 

教育環境の問題

先に挙げたように若者たちの学力の低下は、様々に言われています。その原因として「ゆとり教育」が挙げられています。

ゆとり教育の誤解

ゆとり教育とは、従来の詰込み型の知識量偏重の方針を是正し、学習時間を減らして思考力を重視した1980年度以降から施行された学習指導要領に沿った教育のことです。特に2002年度から施行された「生きる力」を重視する教育のみをゆとり教育と指す人もいます。

図7 ゆとり教育の目指すもの
図7 ゆとり教育の目指すもの
 

当時、校内暴力やいじめなどの背景に知識偏重の「詰め込み教育」が問題視され、その原因として、ゆとりの無さ、社会性や倫理観の欠如などを挙げ、これからは全人的な「生きる力」の育成が重要と考えられました。

しかし、OECDの学習到達度調査 (PISA) などで日本が順位を落としたため、各方面から批判が起き、2013年に今までとは逆に、内容を増加させた「脱ゆとり教育」の学習指導要領案が施行されました。
 
下の表は、ゆとり教育がダメと判断された2006年のPISAの結果です。
 
表1 2006年PISA読解力、数学的リテラシーの結果

表1 2006年PISA読解力、数学的リテラシーの結果
 

前回の2002年に比べて順位が下がったことで問題になりました。そして「脱ゆとり教育」の結果、2015年のPISAの結果は、日本は読解力が8位、数学が5位に、科学的リテラシーでは、日本はシンガポールに次いで2位になりました。

しかし2006年の結果をよく見ると、世界での企業間競争や学術研究の順位とPISAの結果にあまり関係がないことに気がつきます。PISAの結果は、子供学力の一面を試験で評価しただけであり、PISAが高ければ、優れた研究開発ができるとは限らないのです。

事実、最近PISAの結果が向上したのは、それに合わせて要領よく回答をする試験テクニックが向上したためと言われています。
 

  • 競争の激化した受験産業が議論をリード
  • ゆとり教育が始まると、学習塾などの受験産業や私立学校は、マスコミに「ゆとり教育」に対する危機感を訴え、日本の教育がダメだと煽りました。スポンサーとなっているテレビ番組内で「小学校では円周率をおよそ3として教えている」と訴えました。その原因は少子化に伴い競争が激化していることもありました。

  • 円周率は3の誤解
  • 「ゆとり教育」において小数点の算数の学習内容が削減され、小数点による乗法や除法を習っていない段階で幾何学の学ぶようになったため、円の周の長さや面積の手計算には円周率の概数として3.14ではなく3を授業で使用せざるを得なくなりました。

    その後1999年秋に学習塾大手の日能研が『ウッソー!?円の面積を求める公式 半径×半径×3!?』、『円周率を3.14ではなく、「およそ3」として円の求積計算を行います』というキャンペーンを大々的に行い、マスコミもこれをおおいに取り上げ、ゆとり教育の象徴として社会に広く認識されてしまいました。

    実際には、学習指導要領は「…円周率としては3.14を用いるが、目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮する必要がある。」という表現は変わっていなかったのです。

    むしろ現実には、子供たちの学習時間が二極化し、勉強している子はしっかり勉強しているが、勉強していない子は宿題も満足にやっていないという二極化が進んでいます。

 

極度のストレス環境

それでは、ゆとり教育により子供たちはのびのびと学校生活を送っているのでしょうか。

むしろ近年の学校は子供たちにとって極度のストレス環境となっています。ひとつはいじめの問題です。子供達や先生にかかるストレスのはけ口が他の子へのいじめとなっています。さらにいじめが起きると学校が批判されるため、いじめはあってはならないことになり、さらに隠蔽されます。

私が聞いたところでも、いじめはあるし、それも表に出て来ません。さらに現代のいじめは、いじめる側といじめられる側が理由なく簡単に入れ替わることです。いじめられないためには、目を付けられないように目立たずに息をひそめて過ごさなければなりません。これは非常にストレスのかかる状況です。
 

もうひとつ、子供たちの特徴として自己評価の低さが挙げられます。自己評価を高めるためには、自分自身が達成感を感じるか、他人に認められる必要があります。しかし今の子供たちは、そのような機会がなく、勉強はできて当たり前、できないのはダメの烙印を押され、達成感を得ることができません。
 
かつて家業が農業や商店などでは、いやでも家の手伝いをさせられるので、結果として達成感を得られました。手伝いを命じた親も、手伝いは当たり前と思っていたので感謝はしなくても、仕事がはかどったことは「認めて」くれました。これは子供自己評価を高めるのに役立ちました。
 

教育のサービス業化

神戸女学院大学名誉教授で作家でもある内田樹氏は、著書「下流指向」の中で、学校で子供たちは、消費者として行動していると述べています。その消費行動とは、授業を黙って聞くという苦痛の対価として、単位、又は成績を得るという考え方です。消費者である子供たちは先生と対等と考えています。そして学校はサービス業と化しています。
 
サービスの受益者であれば、コストパフォーマンスが高い方が得です。学校では、できる限り苦痛が少なく、良い成績が得られるのが得です。80点で優がもらえるのであれば、さらに2時間勉強して100点取っても、ムダな行為です。

モンスターペアレントの存在も、消費者として考えれば、理解できます。お客様ですから、先生に対して不満があれば、自分たちの権利として主張する訳です。そこに学校と学習塾の違いはありません。おそらくモンスターペアレントは学校の先生も塾の講師と同じような対応を求めているのでしょう。
 
ここに、教育の価値として子供たちの人間形成の場という概念はありません。また先生に対し、師という概念も欠落しています。しかし教育の難しいのは、教育の価値は教育を受けている本人はもちろん両親も分からないことです。人間形成の成果は、子供たちのその一生を全うした時に初めてわかるからです。もういい中年になった時、ようやく学校の先生の教えの意味が分かることも珍しくありません。人間形成としての勉強は、「なぜ勉強しなければならないか」その答えは簡単ではありません。
 

ふるいをかけられない

推薦入試やAO入試により、かつてのように成績で厳密に区切られていたランクがあいまいになってきています。従来は、大学入学の段階で、社会に出る際のヒエラルキーはある程度決まっていました。しかし今日では、そのヒエラルキーがあいまいになり、また就職ではリクナビなどで誰でも大手企業に応募できるようになり、ふるいを掛けられていない状態で社会に出てきます。

ある子に就活の際に、面接をうまくやれば大手企業に就職できると思っているのか、聞いたところ、学生の時はそう思っていたそうです。そう思えば、ランクの低い大学の子でも大手企業にどんどん応募し、不採用の山を築くことも理解できます。

一方で就活サービス会社は、面接のテクニックやエントリーシートの書き方などのセミナーや研修を大々的に行っています。若者が誤解し、就活に努力すれはするほど、彼らから利益を上げられる構図になっています。
 

孵化したばかりで社会に放出

以上の観点から、若者たちは、

  • ストレスの多い学校生活で、極力目立たず、じっとして学生生活を過ごし
  • 絶対的な自分の実力を知ることなく
  • 自己評価は低く、自信のある子も裏付けのない空虚な自信で
  • 一生勤めるとは決して思っていない企業に

入ってきます。
 
これは姿かたちは大人で、ある程度の知識や理論は身に着けていても、社会的な面では全くの子供が会社に入ってきたようなものです。言い換えれば、孵化したばかりの雛のようなものです。

そのような状態の若者達を、今まで同じように処遇してしまうことが、今企業が若手社員に対して悩んでいる問題の本質なのです。
図8 中身は孵化したての状態

図8 中身は孵化したての状態
 

若者の問題点

では具体的にどのような問題があるのでしょうか。

指示待ち

言われたことしかやらないという特徴があります。担当エリア以外は掃除しない、自分の席でなければ電話が鳴っても取らない、会議が終わっても机の配置を元に戻さないなどです。担当エリアの隣の担当者が休んでいるので、そこも掃除しておかなくてはいけないことは少し考えればわかることでも、自らやろうとはしません。
 

コミュニケーション能力の低下

ゆとり世代の特徴として、電話が苦手な点があります。もちろん生まれた時から携帯電話があり、学生時代には自分の携帯電話を持っていた世代です。しかし、携帯電話にかかって来る電話は、何らかの形で自分の知っている人で、見ず知らずの人からかかってくることは滅多にありません。しかも誰からかかって来たか、出る前にわかるため知らない番号であれば出ない子もいます。また電話よりもメールやSNSを多用するため、電話すら滅多にかけない子たちもいます。

しかし会社にかかって来る電話は、見知らぬ他人からがほとんどです。それが彼らにはプレッシャーになっています。その結果、お客様への大事な要件もメールだけで済ませてしまいます。これは30~40代でも、電話すれば一瞬で終わる要件を、メールで何度もやり取りする人たちがいます。

上司からの酒の席の誘いを断ったり、プロジェクトの打上げに出ないこともあります。彼らの特徴として「一人でいることを好む」があります。もともと集まってワイワイ騒ぐのが好きでなく、しかも長時間拘束される飲み会は、避けます。さらに酔っぱらった上司に絡まれるのも嫌がります。従って今までのような一緒に何度も酒を飲んでお互い本音で言えるような関係をつくるという手法は通用しません。

対面での会話が苦手であると営業では非常に不利になります。商談では相手の言葉や表情から相手の考えを読み取り、提案やクロージングを掛けていかなければならないからです。また「人はみな違う」という概念がなく、自分の立場でしか考えられない面もあります。
 

成長志向と根拠のない自信

新入社員の時から「転職できるスキルを磨くこと」が目標になっている人もいます。リストラや倒産が相次ぎ、新入社員の半分以上に、身内に早期退職やリストラにあった人がいる時代です。自分もずっとこの会社にいるとは思っていません。そのため、もしものために転職に有利なスキルを身に着けることが目標になっています。

新入社員ができると言った場合、本当にできるのか、できないと言えないだけなのか、注意が必要です。根拠のない自信を持っている場合があります。インターネットの発達により知識は手に入ります。手に入った知識だけでできるような気になってしまいます。実際は、知識だけでは不十分で経験しなければわからないノウハウがあります。またプライドが邪魔をしてできないと言えない、あるいはできないと言ったら評価を下げられるという不安からできないと言えない場合があります。できるというので任せたところ、なかなか進まない。それでも助けてと言えず、締め切りを迎えてただオロオロします。
 

昇進を避け、リーダーになりたがらない

リーダーになるのを避ける、昇進を嫌がるという傾向は、ゆとり世代に限らず、それ以前の世代にも見られる傾向です。これは合理的な選択で考えれば、以下のように言えます。
 

昇進して管理職になることのメリット

  • 立場が上がる
  • 仕事において自分で決定できる範囲が広がる
  • 部下ができる

 

管理職になることのデメリット

  • 残業がつかなくなり、実質的に年収が低下する
  • 残業がつかないために、労働時間が長くなる
  • 責任が増え、部下の失敗も自分の責任になる
  • 部下の指導に時間を取られ、自分で作業する時間がなくなる

 

こうしてみると、メリットよりデメリットの方が大きくなります。その上、お手本となる今の管理職がいつも大変そうで疲れた顔をしていれば、管理職になりたいと思う人はいないのではないでしょうか。
 

リスクを取ろうとせず積極性がない

若者たちが育ってきた学校の環境をみれば、リスクを取って積極的に取り組めば、いじめの対象になりかねないという危険があり、そのような行動は若者たちにはないことが分かります。

さらに会社に入れば、積極的に行動して成功して得られるメリットと、失敗した時のデメリットがうすうす分かります。そうなれば頭のいい子であれば、リスクを取らず消極的になることを選びます。
 

仕事の優先順位付けができない

複数の仕事を与えると、自分で優先順位を判断することができず、パニックになってしまいます。さらに修羅場をくぐっていないため、仕事が1個所でもうまくいかないとあせってパニックになってしまいます。そのまま締め切りを迎えて上司が慌ててしまうということが起きます。
 

メンタルが弱い

もともと自己評価が低い若者たちは、ちょっとした失敗で心に大きなダメージを受けます。しかも会社に入って、やらなければならないことは、今までに経験したことのないことです。またそれまで彼らが常識としてきた世界、つまり学生同士の付き合いと、ビジネス上の人と人との関係は多くの点で異なります。それにより、トラブルが頻発します。それを注意されると、とたん心が折れて、会社に来ることができなくなってしまいます。

図9 若年無業者数の推移

図9 若年無業者数の推移
 

注意) 退職は連鎖する
若い社員がいる組織では、若い社員の不満が高まると、不満は彼らの話題となり、増幅していきます。飲み会などで、「こんなひどい会社はない。こんな会社辞めてやる」などと管を巻いているうちは、まだよいのですが、そのうちの一人が退職すると残された方も「自分も辞めた方がいいのかな」と負のスパイラルに陥ります。

私の経験でも多かれ少なかれ、会社に入って3年も過ぎれば、誰もが転職願望を持っていると思います。つまり、社員は会社に残りたいと思っている、でなく、辞めたいと思っている社員をどうつなぎとめておくかと考えた方が自然です。
 
図10 離職率の推移 (大卒)

図10 離職率の推移 (大卒)
 

図11 離職率の推移 (高卒)

図11 離職率の推移 (高卒)
 

若者の問題の原因

このように考えていくと、まず今までの企業の社員は自分たちが思っているほど優秀なのかという疑問が出てきます。つまり変化する経営環境に対して、現在の仕事のやり方や業務のマネジメントに問題が起きつつあるのです。

対して、今の若者は学校や社会の環境から、本人の資質とは別に今のような特徴を備えて、孵化したばかりの雛のような状態で会社に入ってきます。

その結果、従来のやり方で今の環境・文化に合わなくなっている企業と、社会人として必要な自己肯定感や人間関係のつくり方を持たずに入って来た若者の間で衝突が起き、早期離職やメンタルを壊すことが起きているのではないでしょうか。

この問題を「だから今どきの若い者は…」といった批判や、「厳しく鍛えないとだめだ」というスパルタ根性論では解決しません。ではどのようにしたら良いのか、それは今後の課題です。
 

本コラムは2017年6月18日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

こちらにご登録いただきますと、更新情報のメルマガをお送りします。
(登録いただいたメールアドレスは、メルマガ以外には使用しませんので、ご安心ください。)

経営コラムのバックナンバーはこちらをご参照ください。
 

中小企業でもできる簡単な原価計算のやり方

 
製造原価、アワーレートを決算書から計算する独自の手法です。中小企業も簡単に個々の製品の原価が計算できます。以下の書籍、セミナーで紹介しています。

書籍「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」

中小企業の現場の実務に沿ったわかりやすい個別製品の原価の手引書です。

基本的な計算方法を解説した【基礎編】と、自動化、外段取化の原価や見えない損失の計算など現場の課題を原価で解説した【実践編】があります。

ご購入方法

中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書 【基礎編】

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【基礎編】
価格 ¥2,000 + 消費税(¥200)+送料

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【実践編】
価格 ¥3,000 + 消費税(¥300)+送料
 

ご購入及び詳細はこちらをご参照願います。
 

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」
普段疑問に思っている間接費・販管費やアワーレートなど原価と見積について、分かりやすく書きました。会計の知識がなくてもすらすら読める本です。原価管理や経理の方にもお勧めします。

こちら(アマゾン)から購入できます。
 
 

 

セミナー

原価計算と見積、価格交渉のセミナーを行っています。

会場開催はこちらからお願いします。

オンライン開催はこちらからお願いします。
 

 

簡単、低価格の原価計算システム

 

数人の会社から使える個別原価計算システム「利益まっくす」

「この製品は、本当はいくらでできているだろうか?」

多くの経営者の疑問です。「利益まっくす」は中小企業が簡単に個別原価を計算できるて価格のシステムです。

設備・現場のアワーレートの違いが容易に計算できます。
間接部門や工場の間接費用も適切に分配されます。

クラウド型でインストール不要、1ライセンスで複数のPCで使えます。

利益まっくすは長年製造業をコンサルティングしてきた当社が製造業の収益改善のために開発したシステムです。

ご関心のある方はこちらからお願いします。詳しい資料を無料でお送りします。

 


ゆとり世代の特徴と若者のモチベーション高める方法 (報酬の効果について)

今時の若者の特徴と育成について、
モノづくり通信第2号「人材育成特集」
では、最近の若者世代を「失われた20年世代」と呼び、その特徴をまとめました。
 

失われた20年世代の特徴

 

  • 物心ついたときにはバブルが崩壊し、日本経済の低迷期に育ったため、世の中が良くなっていく実感を持っていない
  • 物質的には比較的恵まれた環境に育ち、地位や金銭への執着が少ない
  • 安定した生活、夢や希望、社会的貢献を求める傾向が強い
  • 正義感が強く、組織や権力による理不尽な強制は拒否する傾向が高い
  • 従って、それまでの世代のように、慣例や上司の権限で本人の納得のいかない業務を強制しても、容易に従わない

という特徴があります。
 
こういった特徴を持った彼らを育成するためにモノづくり通信第2号では【能力不足】【育成不十分】【やる気不足】の3つの観点から、13の処方箋を提示しました。
 

ゆとり教育世代と若者を取り巻く環境の悪化

 
モノづくり通信第2号を発行した5年前と比較しても若者を取り巻く状況は厳しくなっています。

企業は成果を上げるために、成果報酬制度など結果を第一に求めるようになってきています。

しかし、そのことがむしろ若者の意欲を低下させている可能性があります。

ダニエル・ピンク氏は著書「モチベーション3.0」において、報酬が自発性や創造性を奪うことを述べています。

そこで若者を取り巻く環境と彼らの不安や苦悩を明らかにし、その処方箋としてピンク氏のモチベーション3.0はどのように効果を発揮するかを考えます。
 

ゆとり教育について

 
そもそもゆとり教育とは何でしょうか。

「ゆとり教育」という言葉だけは、様々な場面で使われていますが、それがどのようなものかは、正確に伝えられていない気がします。

1990年代に起きた校内暴力、いじめ、登校拒否が社会問題となり、1996年中央教育審議会では、子どもたちの生活の問題点として、ゆとりのなさ、社会性の不足を指摘しました。

これからの教育の方向として、「生きる力」の育成が必要とし、今までの「詰込み型の教育」を反省し、「ゆとり」を重視して、自ら考え、自発的な力を養うための改革を提言しました。

具体的には授業の量を減らし、総合教育を導入しました。これが「ゆとり教育」です。
 

一方、その後日本の子供の学力が海外に比べて低下しているという報告があり、その原因にゆとり教育が挙げられました。

2009年からは授業内容を増加させた学習指導要領が施行されました。

この改定された教育の事を「脱ゆとり教育」と称しています。
 

ゆとり教育は画期的だった

そう考えるとゆとり教育は、教育の本質を転換した画期的な取り組みでした。

なぜなら日本の学校教育は、自ら考えることを求めず、上からの命令に従順に従うことを目的としていたからです。

それは明治政府の教育の目的は、軍隊の整備にあったからです。

明治に入り富国強兵策を取った日本政府は、近代的な軍隊の整備に迫られます。

しかし当時の農村の若者は

「方言がひどく言葉が通じない」

「集団行動がとれない」

など軍隊として組織化するには問題がありました。

徴兵制度により欧米に対抗できる軍備を整えるために、学校教育制度が至急整備されました。

学校では指示を聞き、確実に行うことが第一に求められました。
 

サービスとしての教育と、その対価

 
その教育が今大きく変質しています。

内田樹の「下流指向」によれば、子供たちにとって今日の教育は、

「自らが何かを犠牲にして、それを代償として受けるサービス」

となっています。

例えば、レストランでは、お金を払い、対価として食事というサービスを受け取ります。

お金を払うという「痛み」と引き換えに「食事」という快楽を得ています。

そして学校では、子供たちは

「おとなしく教室に座っている」

ことの対価として、

「良い成績」

としいう報酬を受け取っているのです。

これは子供だけの責任ではなく、日本の社会や子供たちの両親が、

「教育もサービスとみなすようになった」

ことが問題です。

そう考えると、昨今の学生の行動が理解できます。
 

教育もコスパが重要

教育もサービスですから、学生は高いコスパ(コストパフォーマンス)を求めます。

つまり、授業時間が短いため苦痛の時間が少ない授業で、なおかつ良い成績がもらえる授業です。

従って学生がレポートをコピペするのは、コスパを高めようとすればとても理にかなった方法です。

なぜ彼らはこのように考えるのでしょうか
 

それは

「学んでいることの価値」を

「学んでいる子ども自身が分かっていない」

のが教育の特徴だからです。

子どもどころか

「サイン、コサイン、タンジェントを女の子に教えて何になる?」

と発言した鹿児島県の伊藤祐一郎知事のように大人でもわかっていない、あるいは答えられない人がいます。
 

価値の分らないものに子どもたちは

「苦痛という対価を払いながら、成績という報酬を得ている」

のが現代の教育ならば、子どもたちは試験以外で学ぶ努力をするでしょうか。

こうして学ぶ努力を放棄した子どもたちは

「自ら下流へ向かう流れに乗ってしまう」

と内田氏は述べています。
 

就職予備校としての大学

学ぶことの価値がわからない子どもたちが唯一価値を認めているのが、大企業や官公庁への就職です。

となると大学に求められるのは、学問をするための高等教育機関でなく就職のための予備校です。

大学生活のゴールが良い会社への就職ならば、大学生活は就職のための準備活動がメインになります。

多くの若者は大学3年生から就活のため、セミナーなどでエントリーシートの書き方や面接の受け方を学んでいます。

大学もそういった学生に良い環境、サービスを提供することで、学生が良い会社に就職できるようにします。
 

会社説明会の様子

会社説明会の様子


 

若者たちの特徴

 

こういった教育環境で育った若者たちはどのような特徴があるのでしょうか。

生れた時からネットがある世界

今の若者たちは、生まれた時から携帯電話やインターネットがある世代です。

若者にとって、いつでも誰かと連絡を取ることができ、情報はタダで手に入るのが当たり前という感覚です。
 

皮肉なことに豊富な情報量は若者を内向的にしました。

世界中のあらゆる情報が手に入れば、わざわざ出かけて行って、実際に見たいという欲望は希薄になります。
 

コピペ文化

かつて情報はとても貴重でした。

新聞や雑誌の情報は、捨ててしまえば二度と手に入りません。

大事な雑誌はいつまでも持っていたり、新聞記事を切り抜いてスクラップブックに貼ったりしたものです。

今では、いつでも無料で手に入ります。
(すべてとは限りませんが…)
 

無料で手に入るものは無断で使用しても、彼らは罪を感じません。

彼らは、ネットにあるものは公共の知識=自分の知識と考え、それをコピペしてレポートを作成しても問題とは思いません。
 

新村社会とSNS疲れ

LINEやツイッターなどSNSで、いつでもどこでも、人とコミュニケーションができるようになりました。

若者たちは孤独でないはずですが、かえってコミュニケーションに失敗すると、仲間外れにされるという新たな村社会になっています。

このような仲間のコミュニティでうまく生きていくために、若者の中にはコミュニティが求めるキャラを自ら演じている子もいます。

場の空気に敏感に反応し、返答を返す技術も必要です。
 

若者のグループのメールの平均登録人数は、114.2人(10~20代)で、1日のメールの送受信は30~40代の約2倍です。

仕事のコミュニケーションで頻繁にメールを使用する30代のビジネスマンの2倍のメールをプライベートで取り交わしています。

この常に人とのコミュニケーションの緊張を強いられる状態を

「ケータイはポケットにむき出しの刃物を入れている気分」

と表現した若者もいます。
 

行動範囲の狭さ

国立市在住の大学生が、今度旅行に行くことに決めました。

行先は「お台場!」

電車で1時間もかからない距離です。

そこに行くことが旅行になるほど彼女の行動範囲は狭いのです。
 

Odaiba night

Odaiba night


 

なぜこれほど行動範囲が狭いのでしょうか?

ひとつには、モノが豊かで遠くまで移動しなくても、欲しいものが手に入るからかもしれません。

私が若い頃、1980年代は通販も今程発達しておらず、インターネットもありませんでした。

テレビや雑誌で見たものを手に入れようと思えば、それを扱っているお店まで行かなければなりませんでした。

地方に住んでいる場合、普段は近くのお店で買っていても、休日には欲しいものを手に入れるために大都市に出かけていきました。
 

今では、大抵のものがどこでも手に入ります。

地方でもちょっとした都市にはイオンがあり、都会と同じようなものが手に入ります。

お店になければ、アマゾンで買うこともできます。

欲しいものを手に入れるために、わざわざ遠くに出かけていく必要はありません。
 

節約し続けても、節約疲れはない

大学を卒業して無事就職した若者がお金持ちになるためには、どうしたら良いでしょうか?

一生懸命働いて、昇進すれば、給料が上がってお金持ちになるでしょうか?

定年まで勤めても部長クラスに昇進できるのは、今ではわずかです。

もし昇進しても、会社の経営が悪化すれば真っ先にリストラの対象になります。

サラリーマンが豊かになるためには、給料が増えないのであれば、お金を使わないことです。

こうして多くの若者たちは派手な消費を行わず、貯蓄に励みます。
 

閉ざされた未来と失敗が許されない社会

 

教育は投資から投機に

発展途上国では、教育は効率の良い「投資」です。

貧しい家庭は、リスクを分散するために子供をたくさん産みます。

子供がたくさんいれば、一人ぐらい頭の良い子がいます。

両親は、その子にお金を集中して上の学校に行かせます。

その子が公務員や学校の先生になってくれれば、安定した給料を一家にもたらし、家族を支えてくれます。

かけたお金の何十倍ものお金が返ってきます。
 

日本では、大学の学費は高く、卒業しても安定した仕事に就けるとは限りません。

入った会社がブラック企業であったり、仕事が自分に合わなくて会社を辞めたりすると、残るは非正規の仕事しかありません。

一度非正規のフリーターになれば、例え有名な大学を出ていても正社員になるのは容易ではありません。

教育はリスクが高いわりにリターンの少ない「投機」になってしまいました。
 

失敗の許されない新卒一括採用 落ちればフリーター

就職氷河期に正社員になることができず、現在もフリーターを続けている赤城智弘氏は、自らの苦境を

「希望は戦争」

とまで語っています。
 

もし日本で戦争が起きれば、日本は流動化し、正社員も公務員もフリーターも同じ危険にさらされます。

「今のままフリーターとして死ぬよりは、戦争が起きて、戦争の犠牲者として死にたい」

赤城氏は語っています。
 

若者たちを取り巻く環境が彼らに対し過酷なのは、彼らの置かれている状況が、彼らの自己責任になっていることです。

就職氷河期でも努力して、大手企業や官公庁に就職した若者はいます。

大人たちは、それと比較してフリーターをしている人たちに

「努力が足らない」

と叱咤します。

本当に彼らは努力が足らなかったのでしょうか。
 

実は議論がすり替えられています。

彼らが苦境に陥っているは

「努力の問題ではなく」

「一度失敗したら二度と這い上がれない仕組み」

だからです。
 

現在の社会制度は、100%完全なキャリヤパス、つまり受験を乗り切って大学を卒業し、新卒で就職してずっと会社でも働き続ける人だけが対象になっています。

医療、年金、福祉もそのような人を対象に設計されています。

企業の採用も、基本的には新卒一括採用がメインです。
 

しかし多くの若者たちは、大学を中退したり、最初の会社を辞めたりします。

その結果二度と這い上がれない「下層市民の生活」に陥ってしまいます。

中高年も同様で、会社の業績が悪化すると中高年はリストラされ、年収1/3の非正規の仕事しかなくなります。
 

この搾取される若者たちを元フリーターの作家  雨宮処凛氏は、

「プロレタリアート」

と呼んでいます。

雨宮氏自身、フリーター時代食べるのにも困り、ティッシュに醤油をかけて飢えをしのいだ経験があります。
 

若者たちは、自分たちを取り巻くこのような環境を理解しています。

そして少しでも良い生活を得るために、安定した大企業に入り、そこで一生を終えることを望みます。

そんな彼らに「失敗しても良いからチャレンジしろ」と言ったら、どんな反応をするでしょうか。
 

産業構造の変化が原因

正社員の採用抑制、非正規社員の増加は、産業構造の変化にも原因があります。

機械化、IT化により、今まで人が行っていた仕事がコンピューターや機械に置き換えられました。

今残っている仕事は、

  • 単純労働であるが、機械に置き換えるにはコストがかかり過ぎる仕事
  • 機械やコンピューターではできない仕事

の2つです。
 

若者がリスクを取らない原因 社会環境

 

実は別の意味で今の環境は、若者たちにとって厳しいかもしれません。

なぜなら、

  • 今のところ不自由がないため、上昇志向が生まれにくい
  • これから豊かになっていくという実感はない
  • 未来への明るい展望もない

決して良くはないが、では現状から脱却するために努力するインセンティブも生まれにくい状況だからです。
 

バブル崩壊以前、戦後から高度成長期は、

「貧しかったが、豊かになるという実感」

がありました。衣食住が満ち足りても、

「科学技術の進歩で良い製品が出てきて、まだ豊かになる実感」

がありました。

そして実際に給料も上がり、工業製品は安くなり、豊かな生活を送ることができるようになりました。

希望があれば、人はチャレンジする意欲が湧きます。
 

若者たちがリスクを取らないのは、その方が経済的な合理性にかなっているからです。

人はリスクを取る際、得られる成果より、失うものの大きさの方を強く意識するからです。
 

おおらかで希望があった年配の人達の時代

「俺たちの頃は、失敗を恐れず果敢にチャレンジしたものだ」

以前は仕事に失敗しても職を失うことはほとんどありませんでした。

多くの企業では、プロジェクトの失敗を許容する余裕がありました。

上司も部下を育てるために、失敗しても大目に見て次にチャレンジさせました。
 

今や数少ない正社員は、多くの企画やマネジメントに追われています。

しかも成果主義の浸透と、失敗を許さない環境により、新しいことにチャレンジできなくなってきました。
 

やりがい、自分らしさと仕事の管理

このような現状に対し、ゆとり教育世代は、自らの意思で考え、自主性を重んじる教育を受けてきました。

彼らに対して年配者の

「理由はともかく、俺たちはこうしてきたから、お前もそうしろ!」

という指導は、相性が良くありません。

彼らに合った環境や指導をしないと、自らの意思で考え、自主性を重んじる教育を受けてきた彼らは

「この仕事は自分のやりたい仕事ではなかった」

と辞めてしまいます。
 

では、ゆとり教育世代のモチベーションを高めるにはどうしたらよいでしょうか。
 

モチベーションについてのダニエル・ピンクの考察

 

ダニエル・ピンクは、著書モチベーション3.0でモチベーションを以下の3段階に分けました。
 

【モチベーション1.0 】 
空腹、睡眠、性欲などの生理的欲求

【モチベーション2.0 】
金銭的報酬

これにはうまく行ったときの報奨というアメと、規則に従わない場合、失敗した時の罰則のようなムチを含みます。

 成果報酬制度もこの分類に該当します。

これは

「仕事とは本質的には楽しくないものだ」

「人は報酬でやる気を出させて、しかし、ちゃんとやっていないか監視しておかないと、サボる」

という考えに基づいています。
 

【モチベーション3.0 】
モチベーションの新たな潮流

創造的な仕事に対する報酬の影響を調査した結果、報酬を目的としなくても、人はレベルの高い仕事を意欲的に行うことが分かりました。
 

報酬はモチベーションを高めるのか

インターネットで情報が無料で手に入る今日では、報酬に対する考え方も変わってきました。

マイクロソフトの百科事典MSNエンカルタをご存知でしょうか。

プロのライターや編集者が編纂し、CDとダウンロード版があります。
(このサービスは2009年終了しました。)
 

対してフリー百科事典ウィキペディアは、サービス開始から8年で270の言語、1300万を超える項目が載っています。

その執筆者は一銭も報酬を受け取っていません。

皆さんはどちらを利用していますか?
 

リナックスを始めとするオープンソースソフトウェアの多くは、プログラマーがボランティアで作成しています。

リナックスは大企業のサーバ、データセンター、クラウドの分野で導入が急速に進み、2014年に導入率は79%に増加しました。

対するウィンドウズの導入率は36%に減少しました。

リナックスのセキュリティが他よりも優れていると回答した企業は78%にのぼりました。
(Linux FoundationのEnterprise End User Councilが実施したアンケート調査の結果より)
 

報酬の隠されたコスト

マーク・レッパーとデイヴィッド・グリーン、二人の心理学者が、1978年に報酬の効果について調査しました。

幼稚園の子供たちにうまく絵が書けたら、よくできましたという賞状を与えたところ、子供たちは絵を描くことに興味を持たなくなってしまった。

高校生に数学の問題集1ページを解く毎にお金を与えたところ、短時間には一生懸命取り組んだ。しかし数学そのものへの興味を失ってしまった。

デザイナーが仕事に情熱を燃やしていても、そこで製品がヒットすれば、多額の報酬を約束すると短期的には非常なパフォーマンスを発揮する。

しかし長期的には仕事に対する興味を失ってしまう。
 

「人は、他人の意欲をかき立て利益を上げるために報酬を用いるが、自発的な動機がなくなるという代償を支払うことになる。」
 

倫理に反する行動を助長

外的な数値だけを目標とし、それに報酬をリンクさせると、目標を達成するために不正行為などの「近道」が増えます。

粉飾決算による不正な利益創出、アスリートの禁止薬物の使用など、結果だけを追い求め、そこに金銭的報酬が絡むと、倫理に反する行動が横行するようになります。

そのような場合は、罰金を取れば不正はなくなるのでしょうか。
 

報酬の依存性

 

スタンフォード大学のナットソンは、報酬の期待感の生理的プロセスを研究した結果、報酬の期待感が高まる時、脳の側坐核という部分からドーパミンが分泌されることを発見しました。

このドーパミンが側坐核から分泌される現象は、アルコール依存症や薬物中毒症と全く同じでした。
 

報酬が得られると一時、気分が高揚します。

しかし、長くは続きません。

何度も報酬を得ていると、同じ金額では物足りなくなります。
 

つまり報酬は、一度を手にすると、また欲しくなるという依存性があり、しかも、同じ金額では物足りなくなってくるという、麻薬やアルコールと同様の中毒性もあります。
 

創造的で非ルーチンな仕事への報酬とは

それでもどうしても報酬が必要な場合は、

  • 思いがけない報酬(事前には知らせない)
  • すべて終わった後で与える

必要があります。

それでも次回、報酬の可能性があることを匂わせると、報酬を期待するようになります。

良い報酬に必要なことは、以下の2点です。

1.具体的であること

褒めること、みんなで認めること、みんなからの感謝などプラスのフィードバックなどは賞品や報酬よりずっと害は少ないものです。

2.有効な情報を与えること

具体的なフィードバック、色遣いが良かった、あの時にこう提言したことはチームの雰囲気を変えたなど。
 

時間報酬

弁護士は、どうして幸せそうでないのかとピンク氏は問います。

それは、弁護士は時間報酬のため、より多くクライアントに請求するためには、より時間をかける必要があるからです。

つまり問題を解決するというアウトプットより、どれだけ時間をかけたかというインプットが重視されます。

そして短時間でよい解決策を見つける事より、より時間をかけることが望まれます。

これは取り組む人間の創造性を著しく阻害します。
 

このように、アメとムチの致命的な欠陥は、以下の7点です。

  1. 内発的動機を失わせる
  2. 成果が上がらない
  3. 創造性を蝕む
  4. 好ましい言動への意欲がなくなる
  5. ごまかしや近道
  6. 依存性
  7. 短絡的思考

 

モチベーション3.0の実現

 

では、モチベーション3.0を実現するために、どうすれば良いのでしょうか。

  • 自律性
  • マスタリー 熟達
  • 目的 ゴール
  • 自律性 好きなようにさせる

社員を規則で縛ったり、仕事の内容を決めてしまったりすることは、モチベーションを下げる要素となります。
 

勤務時間の制限を除く

アメリカのIT企業 メディウス社は、ROW(results-only work environment) 、つまり完全結果指向の職場環境を採用しています。

ROWは、出退勤の時間も、出勤場所も一切自由な勤務体系です。しかも目標の達成と報酬は結びついていません。]

どれだけ働くか、どこまで成果を出すかすら、社員個人の裁量に任されているのです。

CEOのジェフ・ガンサーは、
「マネジメントとは、社員が最高に仕事をできる環境を作りだすこと」
と言っています。
 

フェデックスデー

新興ソフトウェア企業アトラシアンでは、木曜日の午後2時から、全社員が通常業務と全く関係ない業務に取り組みます。

そして金曜日の午後4時に、各自結果を披露して乾杯します。

この活動から、多くの新たなサービスが生まれました。

その後、同社は特定の日でなく、常時、勤務時間の20%は、会社のテーマとは関係ない事業に取り組んでも良いという20%ルールに発展しました。
 

マスタリー(熟達)に至る三つの法則

 

  1. マインドセット 価値あることを上達させたいという欲求
  2. 苦痛
  3.  

  4. 斬近線である くるたのしい(玄田有史)苦しいけど楽しい

 

1. マインドセット

《達成目標と学習目標》

英語のテストで90点を取るという達成目標を与えられた子供と、英語を話せるようになるという学習目標を与えられた子供では、明らかに学習態度が異なります。

スタンフォード大学の心理学教授ドゥエックは、中学生に科学の法則を学んでもらい、半数の生徒に達成目標、残り半数の生徒に学習目標を与えました。

そして生徒たちに新しい問題を解くために、今学んで知識を応用するように指示しました。

その結果、学習目標を与えられたグループは、達成目標を与えられたグループより、時間をかけて課題に取り組み、複数の解決策を試行しました。
 

2. 苦痛

マスタリーに至るためには、忍耐力と情熱が必要です。

心理学者のアンダーソン・エリクソンは、研究の結果、エキスパートと呼ばれる人々の天賦の際と思われていた資質が、少なくとも10年間の厳しい訓練の結果にあることが判明しました。

つまり運動能力やIQのテスト結果よりも、「根性」が、その選手の将来の成績を予測する効果的な材料になります。

バスケットボールの殿堂入りを果たしたジュリアス・アービングは以下のように語っています。

「プロフェッショナルとは、自分が心から愛することをするということだ。たとえどんなに気乗りしない日があっても」
 

3. 斬近線(プラトー)

訓練を継続することで、目指すスキル・技術に近づいていきます。

しかし決して目指す技術に至りません。

近づけば近づく程、目指す姿とのわずかな違いに気づきます。

そのわずかな違いは、簡単には埋まりません。

だからこそ到達しようとする価値があるのかもしれません。

どうしても得られないからこそ、それは、達人にとっては魅力的なゴールです。
 

目的 ゴール

 

《正しい目標を持つ》

エドワード・デシ、リチャード・ライアン、クリストファー・ニェミェツは、ロチェスター大学の卒業生の人生目標とその後の人生を追跡調査しました。

  • 外発的抱負:金持ちになりたい、有名になりたいという「利益指向型の目標」
  • 内発的抱負:他の人の人生に手を貸し、自らも学び成長したい「目的指向型の目標」

それぞれの目標を持った若者の卒業してからの1~2年後を調査しました。
 

《その結果》

目的指向型の目標を持ち、それを成し遂げつつあると感じている者は、学生時代より大きな満足感と幸福感を感じていました。

それに対して、利益指向型の目標を持った者は、富や賞賛を得て目標を達成していたのにも関わらず学生時代より幸せになっていませんでした。

むしろ不安、落ち込みなどネガティブな要素が強まっていました。

つまり金銭や賞賛などを欲しいと思い手に入れても、幸せになるのではなく、かえって不満が増していました。
 

モチベーション3.0を取り入れる

 

今の若者を取り巻く状況と、ダニエル・ピンクの考察を合わせて考えると、成果主義、報奨制度が、若者のモチベーションを高める方向と異なることが分かります。
 

では、どのような方法が考えられるでしょうか
 

不安感を取り除く リスクを排除

まず若者たちを取り巻く環境、彼らの社会観を理解します。

その上で、彼らが行動をためらっているリスク要因を徹底的に排除します。

具体的には、

  • 失敗に対する懲罰制度の全廃
  • 成果主義の全廃

などです。

「そんなことをしたら、怠けるのではないか」と思われるかもしれません。

もし報奨と懲罰を取り除いたら怠けるようであれば、仕事自体が創造性のない単純労働になっているかもしれません。

その場合、仕事に自律性、判断の自由度、創意工夫の要素を盛り込み、創造的な労働に変える必要があります。

単純労働を創造的な労働に変えるためには、懲罰と報酬は障害でしかなりません。
 

目的、理由、目標を明示

若者たちのやる気を引き出すためには、今取り組んでいる仕事の目的、理由、目標を明確にすることです。

  • 何のためにその仕事を行うのか
  • なぜそれをやらなければならないのか
  • その目標は何か

これを明確に指示します。

そしてやり方は、彼らに考えさせます。

とはいえど、最初からやり方を考えられるわけではないので、段階的に考えさせるようにします。

そのためには、基礎的な仕事の知識と能力が必要です。
 

基礎的な能力の向上

社員として中途採用しても、基礎的な仕事の知識と能力を身につけていない若者も多くいます。

前に勤めていた企業が、彼らを酷使する単純労働力としてとして扱って入れば、必要な職業能力の訓練を行っていません。

そのような若者は、当たり前のことも知らないため、自ら考え行動する人材にするために、まず基本的な職業能力の訓練を行います。
 

熟達への道 結果の見える化

このような職業能力の訓練から、段階的に創造的な仕事に取組ませます。

その際に、自らの成長が自覚できるような仕掛けをつくります。

徐々にスキルが上がっているのに、本人が自覚できないと、途中で嫌になって辞めてしまいます。

そのため身につけた能力を図や数値で見えるようにすることは大変有効です。
 

若者たちが資格取得に熱心なのは、身につけた能力が資格という形で見えるからです。

例えば、社内資格制度により、スキルアップする毎に段階的に資格が身に着くような制度をつくります。
 

自律性 自ら考え、行動させる

自ら考え行動し、失敗することでリーダーシップが身に着きます。

重要なのは、失敗することです。

でも仕事で失敗させるのは勇気がいります。

そんな時、お勧めなのは大会などのイベントに参加することです。

ロボットコンテストやコマ大戦などのイベントに、若手社員でチームを組んで出場します。

費用は会社が負担します。

若者の中には、明確な目標があり、順位がはっきりするような活動では、がぜん頑張るタイプがいます。

チームで取り組むことで、リーダーはチームをまとめるリーダーシップも身につける事ができます。
 

報酬は逆効果

このような活動や、仕事でがんばった社員に対し、金銭で報いることはむしろ逆効果になります。

金銭でなく、認めること、承認が最大の報酬です。

会社が目標を達成した場合、売上や利益が目標に達した場合、全員を集めてねぎらうことで、社員は達成感を感じます。そこで報奨金を出す必要はありません。

あるいは個人の社員が頑張った場合は、別室に呼び出してねぎらう、一緒に昼食を取るなども効果的です。
 

よく経営者の方に

「目標達成したら、報酬を出してください。ただしお金は必要ありません。お昼ごはんに饅頭かケーキを1つ出すだけで十分です。」

とお話しします。

社員全員にケーキをあげても、そんなにお金はかかりません。

それでも全員が社長から認められたと感じます。
 

しかしお金を渡すと、次にもっと成果が出た時、さらに金額を上げないと、社員は認められたと感じなくなります。

金銭は常に上げ続けないと、満足度が下がるという性質があります。
 

ユニークな取組で社員のモチベーションを高めているUTグループ(株)

 

UTグループ(株)は、数々のユニークな取組で社員のモチベーションを高めている人材派遣企業です。

主に半導体工場の人材派遣や業務請負を手がけています。

創業は1995年、現在1万人以上の技術職社員が、全国500以上の工場で働いています。

売上高364億円、  経常利益21億円、2003年にJASDAQにじょうじょうしました。
 

社長の若山陽一氏は

「派遣する社員の待遇をいかに良くするか」

を常に考え、ユニークな取組を行ってきました。
 

登録する人材は、「無期雇用」の正社員。社会保険も100%加入する。

社員に技能教育を行い、技能アップに応じて昇給する職能給制度の導入
 

製造業、中でも半導体製造の分野に特化

  • スタッフだけでなく、マネージャーも一緒に派遣する「チーム派遣」マネジメント能力向上のため、社員の派遣先をローテーションする
  • 社員が自ら、現場のマネージャーや執行役員に立候補できる「エントリー制度」
  • 社員持ち株会で社員に自社株を持たせる
  • 派遣されたチーム同士で、改善成果を競う「FCグランプリ」これにより社員に成功体験を積ませる

このようなユニークな取組により、社員のモチベーションは上がりました。

また研修など教育制度の充実により、スキルも向上し、何より社員が辞めないため、継続的にスキルを上げる事ができました。

その結果、高い専門技術を持った請負チームが顧客に認められ、部門を丸ごと請け負うようになりました。

当然、単価は高く、それが高い利益率になっています。
 

若者にやる気と責任感を持たせることは可能か

 

今の若者のマインドと行動は、決して彼ら個人の問題ではありません。

今の社会環境とそれまでの教育が、彼らをそのように行動させているのです。

従って彼らにやる気と責任感を持たせることは、十分可能です。

やる気と責任感が出るような環境を与えれば良いのです。

もし、やる気と責任感が個人の性格的なものであれば、変えることは容易ではありません。

人の性格は簡単には変わりませんから。
 

ただし、彼らにやる気と責任感を持たせるための答えは、決して一つではありません。

若者のタイプや育った環境によっても変わるからです。

しかし面倒でも、そのような環境を整え、彼らを成長させない限り、組織の未来はありません。

今、組織を支えている人材もいずれ年を取り、引退する時が来ますから。
 

参考文献

  • モチベーション3.0 ダニエル・ピンク 講談社
  • 若者のホンネ 香山リカ 朝日新聞出版
  • 「新ぶら下がり社員」症候群 吉田実 東洋経済新報社
  • 近頃の若者はなぜダメなのか 原田曜平 光文社新書
  • なぜ日本は若者に冷酷なのか 山田昌弘 東洋経済新報社
  • 未来から選ばれる働き方 神田昌典、若山陽一 PHPビジネス新書

 

本コラムは2016年5月15日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

こちらにご登録いただきますと、更新情報のメルマガをお送りします。
(登録いただいたメールアドレスは、メルマガ以外には使用しませんので、ご安心ください。)

経営コラムのバックナンバーはこちらをご参照ください。
 

中小企業でもできる簡単な原価計算のやり方

 
製造原価、アワーレートを決算書から計算する独自の手法です。中小企業も簡単に個々の製品の原価が計算できます。以下の書籍、セミナーで紹介しています。

書籍「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」

中小企業の現場の実務に沿ったわかりやすい個別製品の原価の手引書です。

基本的な計算方法を解説した【基礎編】と、自動化、外段取化の原価や見えない損失の計算など現場の課題を原価で解説した【実践編】があります。

ご購入方法

中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書 【基礎編】

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【基礎編】
価格 ¥2,000 + 消費税(¥200)+送料

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【実践編】
価格 ¥3,000 + 消費税(¥300)+送料
 

ご購入及び詳細はこちらをご参照願います。
 

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」
普段疑問に思っている間接費・販管費やアワーレートなど原価と見積について、分かりやすく書きました。会計の知識がなくてもすらすら読める本です。原価管理や経理の方にもお勧めします。

こちら(アマゾン)から購入できます。
 
 

 

セミナー

原価計算と見積、価格交渉のセミナーを行っています。

会場開催はこちらからお願いします。

オンライン開催はこちらからお願いします。
 

 

簡単、低価格の原価計算システム

 

数人の会社から使える個別原価計算システム「利益まっくす」

「この製品は、本当はいくらでできているだろうか?」

多くの経営者の疑問です。「利益まっくす」は中小企業が簡単に個別原価を計算できるて価格のシステムです。

設備・現場のアワーレートの違いが容易に計算できます。
間接部門や工場の間接費用も適切に分配されます。

クラウド型でインストール不要、1ライセンスで複数のPCで使えます。

利益まっくすは長年製造業をコンサルティングしてきた当社が製造業の収益改善のために開発したシステムです。

ご関心のある方はこちらからお願いします。詳しい資料を無料でお送りします。

 


Newer Entries »
メニュー 外部リンク