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企業の組織と日本の共同体文化の問題 その2~欧米型の組織論と共同体文化の衝突~

「企業の組織と日本の共同体文化の問題 その1」~組織の種類と特徴、組織の問題とは?~ で、組織の種類と特徴について述べました。

ところがこの組織と、古来からの日本の共同体文化は相反するものがあります。これが日本の組織の問題の根源です。

それはどのようなものでしょうか?

山本七平氏の「指導者の条件」を参考に、組織論と日本の共同体文化の衝突について述べます。
 

組織文化と日本人の共同体文化

価値観

企業は「何らかの事業目的のために集まって活動する集団」です。

そして事業の目的、目的の遂行に必要な価値観やビジョン、そして行動原則が大抵の企業にはあります。

こういった概念は経営理念、社是、ミッション、基本となる価値観、行動原則などに明文化されます。

図1 事業目的遂行のための価値観

図1 事業目的遂行のための価値観


 

非公式組織

一方組織には階層構造の公式なメンバーのつながりだけでなく、メンバー相互の非公式なつながり (社会的ネットワーク)もあります。この社会的ネットワークは、組織以外の活動によって自然発生的に生まれ、この社会的ネットワークによって組織のメンバーの行動が変わります。

図2 リーダーとメンバーの非公式ネットワーク

図2 リーダーとメンバーの非公式ネットワーク


 

【結束型ネットワーク】

例えば図2 グループAは、リーダーとメンバー相互に親密な関係が構築され、高い信頼が生まれています。こうしたネットワークの密度が高い状態は、メンバー間の親密さが高まり、情報の共有や互いの協力が得られやすくなっています。

一方グループ内のつながりが強すぎて外部に対して閉鎖的になったり、見方や考え方が偏るリスクがあります。

一方グループBは、メンバー相互の関係が希薄で集団としてのまとまりを欠きます。知識の共有や互いの協力が得られにくい状態です。

グループCは、一部のメンバー間のつながりが強くなっています。集団としてのまとまりを欠く一方、つながりの強いメンバー同士がリーダーに従わず独自に行動するリスクがあります。
 

【橋渡し型ネットワーク】

結束型ネットワークに対し、公式的なつながりのないメンバー同士が非公式なつながりを持つのが橋渡し型ネットワークです。

例えば趣味の活動や社内のプロジェクト活動などの行事を通じて非公式な関係が構築されます。そして組織の枠を超えて情報が伝達されます。結束型ネットワークの強いつながりに比べて、弱いつながりですが公式なルートでは得られない情報が手に入ります。そのため、他の部門の活動を自部門に取り入れるなど思わぬ効果を生むことがあります。

図3 橋渡し型ネットワーク

図3 橋渡し型ネットワーク


 

伝統的共同体

日本の組織のルーツは、農村社会の共同体です。

山本氏によれば、日本の農村社会、その後の荘園制度や武士団などの集団は、純粋な血縁集団や地縁社会ではありませんでした。擬制の血縁原則であり、機能集団でした。そのため、例え地位があっても共同体の中での役割を果たさず機能していない人は特権が認められませんでした。

例えば鎌倉時代 北条氏の百箇条の家訓に荘園内部の経営原則が記されています。そこには「自分の父親と同年代のものはすべて父親と同様に敬い、自分と同年代のものはすべて兄弟として扱う」と記されています。共同体の中で擬制の血縁集団を構成し、それを秩序原則としたのです。

この共同体は、階級がなく各人の能力に応じて地位が上下する機能集団でした。日本の共同体は、この機能原則の集団のため、

「共同体の中である役割を果たしているという精神的な満足がないと日本人は働かない。

つまり純粋な経済原則だけでは働かない」と山本氏は指摘します。
 

そして戦後、農村共同体が崩壊した際、農村共同体に代わって企業が共同体の役割を果たしました。近代にはどの国も農村共同体が崩壊し、農村共同体が雇用契約に置き換わり契約社会へと発展しました。

ところが日本は、契約社会が発展する前に企業が農村共同体に置き換わったという世界でも珍しい例でした。

それが可能だったのは、日本社会が元来地縁社会や血縁社会でなく、機能原則しかない社会だったからです。機能原則しかない社会なので下の者が上に者に反抗する下克上が起きるのです。

このような経緯から日本においては、会社は構成員が所属する社会であり共同体です。従って雇用は必然的に終身雇用になります。そして解雇は共同体からの退出すなわち「勘当」です。定年や出向を含めて退職すれば社員は大きなショックを受けます。この点で解雇が「雇用契約の解除」を意味する欧米と根本的に異なります。
 

世間

伝統的な農村社会では、共同体は擬制の血縁集団であり疑似的な家族でした。共同体の中では価値観は共有され、互いの信頼関係が保たれていました。これが日本人の考える「世間」です。
 

日本人はこの

世間を意識する時、相手への思いやりや礼儀をわきまえます。

対して他の共同体は世間の外です。

かつて他の農村社会とは、水利権を主張して激しく争い、戦いになることもありました。この世間の外に対し、日本人は概してわがままで冷酷です。アジアからの実習生に対し、労働法規を無視して過酷な仕事をさせていた経営者がいました。彼にとって実習生はよそ者であり、世間の外だったのです。
 

やり過ごし

官僚制の元、指示命令は一元化され、上司の指示は部下によって確実に実行されます。

ところが現実の組織では、上司の指示がすべて確実に実行されているわけではありません。上司の指示を部下が放置する「やり過ごし」が起きています。

東京大学教授 高橋伸夫氏は、このやり過ごしをゴミ箱モデルで説明しました。ゴミ箱は組織に問題が投げ込まれる場です。例えば定例会議などです。このゴミ箱に問題が入った時

  • 参加者のエネルギーが十分あれば参加者は問題解決に取り組む
  • 参加者が集まっていないときに問題が投げ込まれれば、問題は見過される
  • 問題に対して参加者のエネルギーが不十分な時、問題は無視される (やり過ごす)

往々にして企業の開発部門や、個人ても能力がある社員には、処理能力を超える業務が入ってきます。全部は対処できません。そこで上記の原則に従って、組織やメンバーは問題をやり過ごして対処します。
 

日本型共同体組織の欠点

日本の組織は、擬制の血縁集団がベースになっています。そのため意思決定は全員一致が原則です。かつて農村社会や武家社会では、リーダーが指示してもメンバーの合意がなければ指示は実行されませんでした。

こういった組織を山本氏は「一揆」と呼びました。一揆ではメンバーの利害が最も重要です。かつて一向一揆では、領民である寺社の僧侶が領主の守護を追い払い、何十年も僧侶が自治を行いました。実は戦国大名も一揆連合で、ピラミッド組織ではありませんでした。リーダーの大名が命令しても、メンバーの家臣が談合し、時には主君の大名の命令をはねつけることもあったのです。

現在の日本企業もこの一揆の構造です。何かを意思決定する場合、管理職を中心にとことん議論し全員の同意を取りつけます。同意を得るまでに時間はかかりますが、同意が得られれば全員が協力してスピーディに実行されます。一方全員が同意して決めたことなので、

決定は誰の責任でもありません。

強いていえば責任は全員に分散されます。
 

こういった一揆に基づく集団主義の特徴は
各集団が我先に自己主張をするため、

攻撃する状況では大きな成果が出ます。

かつの電卓戦争では次々に新しい技術が生まれ各社競って新製品を開発しました。そのような状況では、目的は明確で各社とも一致団結して新製品を短期間に矢継ぎ早に市場に投入しました。

ところが形成が悪くなって撤退しなければならなくなると、

こういった集団は

撤退が苦手です。

軍隊の場合、撤退する際は少数の部隊を殿(しんがり)としておいて起き、殿が戦っている間に主力が撤退します。ところがこういった「一揆」集団は「自分たちだけがワリを食うのは嫌だ」と誰も殿をやろうとしません。

企業においても早く不採算部門を閉鎖すれば損失を抑えることができるのに、閉鎖が決定できず、ずるずると損失を出してしまいます。あげくに倒産することすらあります。
 

リーダーシップと共同体文化

 
集団を統率するリーダーによって、集団は変わります。このリーダーの姿勢「リーダーシップ」は経営組織論の中で述べられています。一方日本の集団の場合、リーダーシップも日本独自のものになっています。

それはどのようなものでしょうか?

まずは経営組織論のリーダーシップについて以下に述べます。

リーダーシップとは?

リーダーシップとは、指導者としての能力・力量・統率力を指します。これは

「自己の理念や価値観に基づいて、魅力ある目標を設定し、またその実現体制を構築し、人々の意欲を高め成長させながら、課題や障害を解決する行動」

と定義されます。

リーダーシップの中でリーダーの資質や人格は古くから注目されました。リーダーが先天的に持つ資質や才能は、リーダーシップの質に影響します。

これに対し経営ではマネジメントという言葉もあります。ではリーダーシップとマネジメントはどのように違うのでしょうか。

リーダーシップとマネジメントの違いを表1に示します。

表1 リーダーシップとマネジメントの違い

リーダーシップ マネジメント
課題 変化の推進 複雑性への対処
実現への取組 進路を設定
人々の連携を図る
モチベーションとインスピレーションの喚起
計画立案と予算の策定
組織編成と人員配置
コントロールと問題解決

これを比較するとマネジメントは技術的要素が大きく、これは習得可能なものです。対してリーダーシップには能力的要素が大きく、個人の資質や才能が大きく影響します。
 

コンティジェンシー理論

状況に応じてリーダーシップのスタイルを変化させるという考え方です。フィドラーは、リーダーのタイプを大きく二つに分けています。

人間関係志向リーダー

 苦手タイプともうまくやっていく

職務(タスク)志向リーダー

 苦手にタイプとうまくやっていくことよりも職務を優先

図4 リーダーシップのスタイルトワーク

図4 リーダーシップのスタイルトワーク


 

フィドラーは組織が置かれた状況によってどちらのリーダーがより成果をあげるのか調査しました。環境について以下の3つを取り上げました。

  1. リーダーが支持されているか
  2. 仕事が構造化されているか
  3. リーダーに権限が与えられているか

その結果、環境がリーダーに

  • とても良い(1.支持されており、2.構造化されており、3.権限がある)場合
  • とても悪い(1.支持されておらず、2.構造化もされておらず、3.権限もない)場合

「職務(タスク)志向」のリーダーが高い成果を上げました
 

  • その中間の良いとも悪いともいえない環境に置かれた場合

「人間関係志向」のリーダーが高い成果を上げました。
 

つまり

どのような状況でも通用する唯一最善なリーダーはいない

ことが証明されました。

一方このリーダーシップ論は、欧米の組織の組織論が前提です。一揆をベースとする日本の共同体組織では、リーダーはメンバーの意向を無視して、独自に意思決定することは困難です。
 

ポリティクス

ポリティクスとは、経営組織論において、正式なルートや指示命令以外で組織内部に影響力を行使することです。影響力を行使する方法は以下の2種類があります。

【正式な手段】

  • 権限に基づく指示命令や合理的な説得

【ポリティクス】

  • 将来の利益提供や過去の貸しを主張
  • 不利な結果をほのめかすなど交換条件の提示
  • 上位の権威者からの非公式な支持
  • 情報の漏洩や隠ぺい
  • 会議の議題や参加者を自分に有利に替える
図5 影響力を行使する

図5 影響力を行使する

メンバーがポリティクスを行使する目的は

  1. 組織に有益な取組が上司の誤った判断で中止されるため
  2. 個人的な評価を高めるため
  3. 自部門の利益を守るために他部門のプロジェクトを中止させる

などです。

こうしたポリティクスが生じるのは、公式な調整では調整がうまくいかなかったり、メンバーが自分の利益のために有利に導こうとしたりするからです。特に成果主義や「業績の低い下位10%の社員は退職させるアップオアアウト」などの制度を取っている組織では、メンバーは自身の存続をかけて様々な働きかけをします。

一方日本企業には「根回し」という文化があります。これも非公式な影響力の行使となるためポリティクスと言えます。

一揆を基本とする組織では会議は全員一致が原則なので、会議の場で反対意見が出ると結論は保留されます。関係者は早く結論を出して業務を進めなければなりません。そのために会議の前に反対意見のある部門のリーダー、時には出席者全員と個別に事前打合せして、予め合意を取りつけておきます。
 

コンフリクト

コンフリクトは、複数の組織や部門の利害の対立です。

コンフリクトには

  • 職務上の調整の困難さから生じる職務コンフリクト
  • 人間慣例の衝突「反りが合わない」関係性コンフリクト

の2種類があります。
 

コンフリクトの原因は

  • 当事者間が相互依存関係にあるため、お互いが有利に事を運ぼうとする
  • 資源の希少性から優先権を得ようとする
  • 役割や責任にあいまいさがあるため、お互いに押し付けあう

などがあります。

コンフリクトには業務上避けられないものもあります。

例えばメーカーの営業、製造、品証は自部門の最適解が他部門の最適解にならないことがあり、コンフリクトが生じます。

顧客から注文の入っている製品が納期に間に合いそうもない場合

【営業】「製造」には無理をしても納期に間に合わせてほしい 

【製造】 現在の工程では間に合わない。「品証」が許可すれば一部検査を省略して間に合わせることができる

【品証】 検査を省略すれば不良品を納める可能性があるため許可できない

こうして3者の喧々諤々の議論になります。

なお、この例では品証は品質の最後の砦として検査省略は許可してはいけません。
 

日本型組織におけるリーダーシップ

日本企業の場合、組織の本質は共同体です。

共同体では一揆、つまり

メンバーの同意がなければ組織は動きません。

組織を束ねるには、メンバーの意見を取りまとめて合意に導くような調整型で世話人型のリーダーが必要です。

しかも共同体の中での上下関係は、必ずしも地位の上下でありません。組織上は顧問や相談役の年配者が純然たる影響力を持っていることもあります。このような閉ざされた共同体をマネジメントするには、共同体の人間関係や文化をよく知っている必要があります。これは外部の人間には容易ではありません。経営が思わしくない時、他社から経営者を招聘して立て直そうとしてもうまくいかない原因がここにあります。
 

かつての自然発生的な村落共同体の場合、一番の目的は共同体の存続です。そして稲作のようにこれまで培ってきたことを今後も滞りなく行うには、人の和を重視します。メンバーは共同体の構成員としての自覚があるため、細かな規則や契約は必要ありません。このような共同体では、欧米のような強いリーダーシップはむしろ有害です。

共同体の存続が最大の目標なので、欧米の組織のようなリーダーの指示の元、目的に応じて組織を解体・再編する、目標を達成したらリーダーは交代し次の目的に合致する組織に再編する、このような発想はありません。

本来、組織が成果を上げるには、明確な目標を設定しそれをメンバーに周知しなければなりません。ところが日本では政治家でも明確な目標を提示するリーダーは限られています。その一因は、日本の組織には有能な参謀(スタッフ)がいないことと、リーダーがそれを使いこなしていないことです。

政治学者モスカによれば、リーダーは攻略型と政略型の2種類があります。

政略型がリーダーになると、指揮権を行使し組織をまとめる力が弱いため、リーダーシップを発揮できません。

一方攻略型のリーダーは、リーダー単独では有効な政策がないため目標が設定でず、リーダーシップを発揮できません。

例えば、創生期のホンダの本田宗一郎と藤沢武夫のような、攻略型のリーダーが政略型のリーダーを参謀として使いこなす組織が理想と言えるでしょう。

このような日本の組織、社会には様々な不条理(問題)があります。
 

集団の中の序列

この日本の組織、社会の不条理な点について、2022年7月戦史・紛争史研究家の山崎雅弘氏と思想家の内田樹氏が対談しました。

山崎氏は「日本の組織は、支配層や上層部の利益が全体の利益になると思わせ、自分たちに都合のいいように人々を従わせている。その結果、SNSの発言を見ても、職場環境や雇用問題について、会社に雇われている側なのに経営者の目線で語る人が少なくない」と言います。
 

これについて内田氏は学校教育の問題を取り上げました。

「何をしたいのか?」より「何をすればほめてもらえるのか」を考えるように教育されている。学校は、先生の出した問題に対し、子どもが答えを書き先生が採点する。その採点が子供の評価となる。そのため子どもたちは「よい点をもらうことが自己実現の方法」と信じている。

しかし相手が問題を出して、自分が答えて、それを採点されるのは、典型的な権力関係です。もし自分が相手より優位に立ちたい場合は、先に相手に質問しなければなりません。武道ではこれを「後手に回る」と言います。そして「後手に回れば必ず敗ける」と内田氏は言います。

山崎氏
なぜ日本の組織は「非効率」で「非倫理的」なのか、それは社会の価値観が反映されている。海外では雇用主と従業員は対等と考え、自分の権利が政府や雇用主に侵害されれば誰もが「自分の権利をちゃんと保障しろ」と主張する。

内田氏
感染症内科の岩田健太郎先生は、エボラ出血熱のときシエラレオネで医療チームに参加しました。「国境なき医師団」とかWHOとか、世界中から来ている混成チームでは、まず問われるのが「おまえは何できるんだ?」だそうです。隔離病室を作れる、感染症の手順を知っている…、自己申告に従って役割分担をする。

日本で最初に聞かれるのは「おまえは何者だ」、医師か看護師か聞かれ、出身大学・医局・卒後年数を聞かれる。つまり誰に対しては敬語を使うのか、上下関係をまず確認する。

コロナによるクラスターが発生した「ダイヤモンド・プリンセス号」に岩田先生が入った時に優先されたのは「誰が一番偉いのか」、あの場では橋本岳という当時の厚生労働副大臣。でも政治家なので感染症のことは知らない。

そこで岩田先生は「やり方が間違っているから、やり直しなさい」と専門家としてアドバイスしましたが、これは「下の人間が上の人間に指示を出す」と捉えられ、これは日本では禁忌なので「出て行け」と言われる。(朱記は筆者)

 

これからの組織を考える

このように組織論における組織の役割と、日本型共同体とは乖離があります。

では、これからはどのような組織が必要なのでしょうか?
 

共同体の解体と帰属意識の希薄化

日本型共同体が成立するためには、共同体の構成員がずっと組織内部にいる必要があります。

構成員にとって共同体からの退出は勘当です。これは構成員のアイデンティティの喪失にもなります。これまで終身雇用が維持できていた時代、構成員は共同体の一員という意識が維持されていました。

しかしバブル崩壊後、非正規雇用の増大や高齢社員のリストラの結果、構成員の「共同体の一員」という意識は解体されつつあります。しかも現在、組織には様々な人がいます。組織に対してそれぞれ異なった意識を持っています。

  1. 正社員として雇用され共同体の構成員の自覚を持っている (多くは中高年)
  2. 共同体を信じていない。しかし追い出されれば経済的に困窮するため、指示には無条件に従う(多くは若者)
  3. 派遣社員として長期間組織で働いているが共同体の一員とは思っていない

 

それぞれの立場によって以下のように行動します。

1.は一揆のメンバーで共同体の価値観に従い行動します。その点でストレスは少ないです。

2.は共同体を信じておらず、押し付けられた価値観を受け入れられません。しかし一揆に反抗すれば不利になることが分かっているため、指示には無条件で従います。その一方で過剰な仕事をやり過ごすことができず、時には体調を崩してしまいます。

3.の派遣社員は価値観を共有できず疎外感を感じています。指示命令には無条件に従うが、それ以上のことはしません。
 

権限と圧力

組織のメンバーがこういった価値観を持つ中で、達成困難な目標が上から与えられればどうなるでしょうか。

2.3.の構成員にとってそれは単なる指示命令でなく、一揆からの無言の圧力となってきます。
 

終身雇用が困難に

今日テレワークが広まり、中にはオフィスを持たない会社もあります。そういった会社は、社員の「共同体の一員としての意識」は希薄化します。

一方、若年人材は不足し、しかも国から70歳まで雇用延長を求められています。そこで企業は中高年を戦力として活用する必要に迫られています。

経営環境は変化し、業務内容も変わってきます。しかし人の能力は簡単には変わりません。特に中高年の場合、訓練により新たな能力を獲得するのは容易ではありません。そうなると中高年の教育訓練の費用対効果は低く、場合によっては既存社員を訓練するよりも専門人材を新たに雇用した方が安上がりです。
 

例えば機械設計は、ドラフターから二次元CAD、二次元CADから三次元CADへ変わりました。中高年の設計者が二次元CADや三次元CADに対応するのは再訓練で可能です。しかし設計者にグラフィックデザインやホームページ制作を教育するのであれば、教育するより外部の専門人材に依頼した方が安上がりです。

もし自社の事業環境が変化して機械設計の業務がゼロになり、グラフィックデザインとホームページ制作の仕事だけになれば中高年の設計者の仕事はなくなってしまいます。このように将来業務内容や必要なスキルが変化すれば、1社が同じ人間を50年雇用し続けるのは困難です。

このように考えると、今後も企業が日本型の共同体であり続けるのは難しくなってきます。

かといって社会、文化が全く異なる欧米型の組織も日本社会にはなじみません。

これからの組織

今後はこれまでの

共同体意識の共有はない

前提で21世紀型の組織をつくる必要があるでしょう。

そのためには以下の課題を解決する必要があります。

  • 一揆に変わる意思決定の仕組み、そしてメンバーが決定に従う仕組み
  • 共同体意識がない時の組織への貢献意欲を引き出す方法
  • 多様な人たちを取りまとめ、成果を上げるリーダー
  • テレワークなどでメンバーの関係性が希薄になっても組織運営や企画・発想できる仕組み
  • 50年間を雇用し続けられない場合、副業などによる生活の安定
  • 中高年の共同体意識の変革、教育訓練を継続する意識

今後は

新しい21世紀型組織を持った企業が従来の共同体文化の企業と静かに入れ替わっていく

かもしれません。
 

参考文献

「はじめての経営組織論」高尾義明 著 有斐閣ストゥディア
「指導者の条件」山本七平 著 文藝春秋
 

 

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企業の組織と日本の共同体文化の問題 その1~組織の種類と特徴、組織の問題とは?~

頻発する企業不祥事や法令違反、時には社会問題になり、企業には多大な損害が生じます。そこで多くの企業がコンプライアンス遵守に取組んでいます。それでも不祥事は後を絶ちません。

なぜでしょうか?

図1 なくならない不祥事

図1 なくならない不祥事

コンプライアンスの遵守と強化とは、管理と統制の強化です。これは企業の建前の部分です。

一方企業は、組織体であり、また同時に人の集団でもあります。そこには

日本社会特有の共同体文化

があります。

この日本の共同体文化は、社員の行動にどのように影響し、それにより組織はどのように変質したのでしょうか?

山本七平氏(以降 山本氏)の「指導者の条件」にある日本の共同体文化と、経営組織論を対比して、

組織とは何か、

そして

日本の組織の問題点

について考えました。
 

組織とは何か?その目的は?

企業組織の目的、形態、特徴を探求したのが経営組織論です。

経営組織論では、組織とはどのようなもので、その目的や特徴について述べています。

では組織とは何でしょうか?
 

組織とは?

「組織と管理」の著者で組織経営論の大家 チェスター・バーナードによれば
組織とは、「意識的に調整された2人、またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」です。

この「意識的な調整」とは組織のメンバーがリーダーの指示の元、お互いの行動を調整して目的を達成しようとすることです。

また「組織はシステム」です。お互いが役割分担して、相互に影響しあいながら目的を達成します。

言い換えれば、システムは仕組みのことです。この仕組みに人やモノは含まれません。

システムがちゃんと機能すれば、誰に代わっても(能力が同じであれば)組織の能力は変わらないという考えです。
 

この組織の3要素としてバーナードは

  • 共通目的 同じ目的意識で取り組む
  • コミュニケーション
  • 貢献意欲 助け合いつつ組織に貢献したいという気持ち

を挙げています。

このどれか一つが欠けても組織は健全に機能しなくなります。

経営組織論では組織をこのようにシステムと考えます。

実際の組織は、人の集まりであり、つまり共同体です。

共同体はどういった人で構成されるかによって大きく変わります。
 

組織の目的

ではなぜ組織が生まれたのでしょうか?

経営組織論から離れ「なぜ人は集団をつくるのか」を考えてみます。

人が集団になるのは、集団の方が都合がよいからです。古代の狩猟採取社会では、一人で狩りをするより、何人が協力した方が大きな獲物が捕れます。

その後、定住して農業を営むようになると、農作業はお互いの協力がなければ成り立ちません。

つまり集団の目的は、狩猟や農業など活動の効率化です。

もう一つの側面は安全です。部族間の紛争など太古から集団同士の争いはありました。単独では襲われても集団ならば簡単には襲われません。安全のために人は集団化しました。その一方、集団化すれば武力は強くなります。その結果、他の部族を襲うこともありました。
 

企業経営では組織の共通目的は事業です。個々の企業の事業内容は定款に書かれています。もし定款にない事業を行う場合は定款を変更します。

あるいは組織の目的や目指す姿が経営理念やミッションとして明文化されていることもあります。一方定款や経営理念として明文化されていなくても、組織には固有の共通目的があります。

それは何でしょうか?

企業の目的は

「組織の存続」

です。

定款に書かれた事業が本当に組織の目的であれば、その事業が困難になれば組織を解散するはずです。しかし多くの企業は新たな事業に移行して存続しようと努力します。つまり目的は事業でないのです。
 

なぜ組織化するのか?分業について

人が集団になるのは、活動の効率化や安全のためです。

人が組織化するのは、もう一つの目的があります。それが分業です。

分業して役割分担すれば、個々のメンバーは専門的な能力をより高めることができます。古代社会でも大工、機織り職人、猟師などひとつの仕事に特化することで、人は専門能力を高めました。
 

分業のメリットは

  • 専門的な仕事に専念できる
  • 専念することで短期間に習熟できる
  • 専念することで効率化、低コスト化を実現

です。
 

一方デメリットもあります。

  • 分業した業務同士の調整が必要
  • 専門以外のことが分かなくなる
  • 仕事が単純化しモチベーションが下がる

などです。
 

分業化することで業務間の調整が必要になります。それには管理者が必要です。

では実際の組織にはどのようなものがあるのでしょうか?
 

組織の種類と特徴

組織の種類と特徴について経営組織論から説明します。
 

フラット型組織

図2のように一人のリーダーの指揮下にメンバーが並列でいる組織です。

各メンバーはリーダーから直接指示を受けます。メンバー相互の調整はリーダーが行います。小さい会社の多くはフラット型組織です。

フラット型組織には以下の特徴があります。

【利点】

  • メンバーはリーダーから直接指示を受けるため、指示の伝達が早い
  • リーダーは各メンバーを直接管理するため、きめ細かくスピーディに管理できる
  • リーダーがメンバー間の調整を直接行うため、メンバーの仕事の最適な割当が可能

 

【欠点】

  • メンバーが多くなるとリーダーの管理が不十分になる
  • 統制の幅(スパンオブコントロール)の問題
  • メンバーの業務が分業化・専門化すると、専門性の不足するリーダーは管理が不十分になる

図2 フラット型組織

図2 フラット型組織


 

ピラミッド型組織 (ライン組織)

メンバーが多くなると、フラット型組織ではリーダーがメンバーを十分に管理できなくなり、業務の効率が低下します。

そこで組織を階層化し、部下を直接管理する複数のリーダーを上位のリーダーが管理するビラミット型組織へ移行します。

ピラミッド型組織の階層化には、

  • メンバーの増加による管理の階層化 垂直的分化
  • 業務の分化(専門化)による階層化 水平的分化

の2種類があります。
 

実際には企業は、係(グループ)→課→部 という階層構造を取ります。水平的分化、つまり部門化(専門化)の例は

  • 機能に基づく部門化(専門化)
  • 製品・サービスに基づく部門化
  • 顧客別の部門化
  • 地域別の部門化

があります。

あるいは

  • 製造部門は「機能に基づく部門化」
  • 製造部門の中で設計は「製品・サービスに基づく部門化」
  • 営業は「顧客別の部門化」あるいは「地域別の部門化」

など、部によって異なる要素で分けることもあります。

図3 ピラミッド型組織

図3 ピラミッド型組織

代表的なピラミッド型組織は軍隊です。軍隊は指示命令の徹底が必須です。ピラミッド型組織はトップの指示が一元化されて末端にまで伝わります。

一方軍隊には様々な専門能力が必要です。そのため組織を機能別にも分け、専門能力の育成と管理を行います。

図4は日本陸軍の歩兵師団の組織です。1師団には歩兵連隊3個、砲兵部隊の他に、輸送中隊、偵察中隊、通信中隊、工兵中隊、衛生中隊などがあります。

 図4 日本陸軍の歩兵師団の組織

図4 日本陸軍の歩兵師団の組織


 

ピラミッド型組織の特徴
【利点】

  • 適切な人数の部下を管理するため、リーダーはメンバーの適切な管理と・統制が可能
  • 管理を階層化することで、トップの方針・命令を確実に末端に伝えられる
  • 末端のメンバーの情報は階層を通じてトップに確実に伝えられる
  • 組織を機能別、製品別、顧客別、地域別に分けることで、それぞれの業務に特化して遂行が可能

 

【欠点】

  • 各部門を機能別、製品別、顧客別、地域別に分けるために、部門間で利害が対立した場合、調整はトップが行わなければならない
  • 各部門が自部門の業績の最適化を目指すため部分最適に陥る
  • メンバーは専門的な業務に特化するため、他の業務への対応力が低下
  • 現場の情報がトップに伝えわるまでに何人ものリーダーを経るため伝達に時間がかかり、情報が正確に伝わらない
  • 部門間にまたがる業務や、どの部門にも該当しない業務が適切に遂行されない

 

「職能別組織」や「機能別組織」は、ピラミッド型組織を職能別、機能別に階層化したものです。

例えば多くの企業は開発、製造、販売などの機能別に組織を構成します。(実際の部門は、開発、設計、製造、生産管理、資材、品質保証、営業など)

実際は製品開発、製造・販売に対し、開発、営業、製造ではそれぞれの利害が異なります。そこで対立が生じた場合は、調整は組織のトップの役割です。(日本の企業では、部門間の対立は部門間の話し合いで調整されます。)

こうしたピラミッド型組織は中央集権的な組織です。そのため製品の種類や事業の多角化が進むと、トップの負担が増加し意思決定のスピードが低下します。
 

ライン・アンド・スタッフ組織

ピラミッド型組織では、人員を階層的に管理して適正な管理と命令の一元化を図っています。一方各部門にそれぞれ専任者を置くよりも、会社全体で共通の専任者が担当した方が効率の良い業務があります。

例えば、労務管理や人事など総務、経理、ISO事務局や標準化などです。経営企画など経営者により近い業務も各部門から切り離した方がより広い視点で業務を遂行できます。

そこでこれらの部門をピラミッド型の組織(ライン)から切り離し本社直轄の部門とします。これをスタッフ部門と呼び、こういった組織をライン・アンド・スタッフ組織と言います。特に後述の事業部制をとった場合、各事業部に総務や経理を設けると、各事業部間で重複する業務が多く非効率です。またスタッフ部門の業務は収益を生まないため、事業部として独立させるのは不自然です。そのため事業部とは別に本社直轄の組織とします。
 

あるいは新規事業のプロジェクトチームなども、開発の初期段階では事業化の見通しが立っていないため、事業部でなくスタッフ部門の中に設けます。そうすれば収益性は問われずに一定の予算枠の中で研究開発を行うことができます。そして事業化の目途が立てば、プロジェクトチームごと事業部門に移管します。

図5 ライン・アンド・スタッフ組織

図5 ライン・アンド・スタッフ組織


 

【利点】

  • 専任者が会社全体で業務を行うため、効率が高い
  • 人事、経理などを会社全体でひとつの部署が行うため、やり方が統一される

 

【欠点】

  • 各部門の業務と場所的にも業務的にも切り離されるため、各部門の求めるものと異なる業務を行う可能性がある
  • 収益をもたらさない業務は費用対効果があいまいで、業務が肥大化する

 

軍隊の場合スタッフは参謀部です。欧米の軍隊は、優秀なスタッフを参謀部に集めて優れた作戦を複数立案します。司令官はそのうちのどの作戦かを選択します。現場はその作戦をひたすら忠実に実行します。スタッフに優秀な人材がいれば、現場の人間は優秀である必要はないという考え方です。

ところが同じ軍隊でも日本の軍隊はこれを嫌います。自分に関係がないことでも全部知っていなければ気が済まないのです。山本氏はフィリピンの戦場にいましたが、中国戦線の命令の写しがフィリピンにも来ていました。そのためある司令部が敵に奪われると陸軍全部の作戦が分かってしまいました。

こういった特徴は今の企業でもあります。日本では、入社したての新入社員でも会社の前途を憂い心配します。

これが欧米企業では、会社の前途はスタッフが考えればいい問題で、新入社員は自分には関係ないと考えます。新入社員は自分の担当したラインの仕事だけ専念すればよいと思います。
 

事業部制組織

製品の種類が増えたり事業が多角化すると、ピラミッド型組織では部門間の調整業務が増大します。トップの負担が増えて意思決定のスピードが低下します。

そこで事業毎に事業部をつくり、事業部毎に開発、製造、販売などの機能を持たせます。これにより部門間の利害関係は事業部内で調整できるようになりトップの負担は減少し、意思決定のスピードが早くなります。売上と費用を事業部毎に集計することで、各事業の収益性・採算性も明確になります。

この事業部制は1920年にアメリカのデュポン、続いてゼネラルモータースが導入しました。日本では1933年に松下電器産業が導入しました。現在でも異なる事業や特徴が異なる製品を持つ企業の多くは事業部制を取っています。

実際は、製造は製品毎の事業部でも、販売はひとつの事業部にする場合もあります。どこを事業部として分けて、どこを共通部門にするかは企業により違いがあります。
 

【利点】

  • 事業部毎に収支が明確になり、事業の収益性を適切に評価できる
  • 事業毎に適切な組織にすることができ、組織構成を最適化できる
  • 事業部のトップに責任と権限が委譲されるため、意思決定のスピードが早くなる
  • トップの調整業務・負担が減少する

 

【欠点】

  • 各事業部に販売、開発、製造の部門があるため、部門が重複し効率性が低下
  • 事業部毎に独自のやり方が生まれる
  • 事業部の収益性を追求した結果他の事業部と利害が対立する場合、部分最適に陥る

 

マトリックス組織

事業部制の課題として、事業部毎に製造、開発、販売の機能があるため、事業部独自のやり方が生まれるなど、会社全体では業務が非効率になる点があります。そこで会社全体で製造、開発、販売などを統括するリーダーを決めて、事業部を横断して管理する方法が生まれました。これがマトリックス組織です。

マトリックス組織では、各部門の業務は統括リーダーによって最適化されます。その一方、組織のメンバーは事業部と統括リーダーの二人の上司から指示を受けるため、命令の一元化が保たれません。その結果、混乱が生じやすく、マトリックス組織を採用している企業は多くありません。

一方、ピラミッド組織(あるいは事業部制)の企業でも、各部門からメンバーを集めてプロジェクトチームを作ることがあります。この場合、プロジェクト業務はプロジェクトリーダーの指示で遂行しますが、それ以外の業務はこれまでのラインのリーダーの指示で遂行します。これもある意味マトリックス組織と言えます。

図6 マトリックス組織

図6 マトリックス組織


 

カンパニー制

カンパニー制は、事業部制の独立採算を進めて、人事、経理などスタッフ部門の機能もすべてカンパニー内に持ち、人材、資金調達などもカンパニー内で意思決定できるようにしたものです。その点で後述の分社化に近いのですが、対外的にはひとつの会社である点が分社化と異なります。

各カンパニーが一つの疑似的な会社として、事業運営、投資や資金調達、人材採用を意思決定できます。そのためカンパニーのリーダーは、事業部のリーダーよりも意思決定の裁量範囲が広く、意思決定のスピードも早くできます。このカンパニー制は、ソニー、トヨタ自動車、みずほ銀行など企業が採用しています。

一方で、NEC、富士ゼロックスなどは一度導入したカンパニー制を廃止しました。

図7 カンパニー制

図7 カンパニー制


 

カンパニー制の特徴

【利点】

  • 投資、資金調達、人材など事業部ではスタッフ部門の業務もカンパニー内で意思決定できるため、意思決定のスピードが早く、経営環境の変化に応じて柔軟に対応できる
  • カンパニー毎にバランスシートをつくることで損益だけでなく、資産にまで踏み込んで事業を評価できる
  • カンパニー内ですべて調達できるため完全独立採算となり、収益性や責任が事業部制よりも明確になる
  • カンパニーのリーダーはカンパニーを経営することで経営的視点を持つことができる

 

【欠点】

  • 各カンパニーに人事や経理などがあるため、会社全体で見れば重複する部門が増え、間接費用が増加する
  • 事業部制よりも各カンパニーの独立性が強くなるため、カンパニー間での情報交換、技術やノウハウの共有が弱くなる
  • 短期的には収益を生まない事業をスタッフ部門として事業部から切り離すことができないため、短期的な利益追求に陥る可能性がある

 

分社化

カンパニー制をさら発展させ、事業毎に完全に別会社にして、本社機能は持ち株会社(ホールディングカンパニー)とする方法です。各子会社は、人材、資金を独自に意思決定し、経営状況を評価できます。分社化は1997年純粋持株会社が解禁されたことから広まりました。かつては赤字を子会社に移転して本社の決算をよく見せることも行われていました。しかし現在は、業績は子会社も含めた連結決算で評価されるため、そのような手法はなくなりました。この分社化の特徴を以下に示します。

図8 分社化

図8 分社化


 

【利点】

  • 事業毎に独立した会社のため、経営資源の配分の最適化、意思決定の迅速化が可能になる
  • カンパニー制と異なり、財務諸表を外部に提出するため、公正な業績評価が可能
  • 事業買収や売却が容易になり、環境の変化に応じた事業再編がスピードアップ
  • 子会社毎に賃金水準を変えることができるので、事業に応じた人件費の最適化が可能

 

【欠点】

  • 連結財務諸表の作成や子会社の会計監査など管理業務が増大
  • 子会社間の移動は、出向や転籍になり人事交流が進まなくなる
  • 事業間の交流やコミュニケーションが減少
  • 子会社毎に独自の企業文化が生まれ、グループの求心力が低下

株式会社を設立する際の最低資本金が引き下げられたことで、会社の設立が容易になりました。そのため、中小企業でも事業によって複数の会社を設立し、分社化している企業も多くあります。
 

官僚制

官僚制組織とも言われるため、組織形態の一つのように見えますが、組織としてはピラミッド型組織です。

官僚制 (bureaucracy)はピラミッド型の階層型のシステムで以下の特徴があります。

  • 規則に基づく運営
  • トップダウンの指揮命令系統と命令の一元化
  • 組織への貢献度に応じた昇進や報償
  • 分業による専門分野への分化

 

こういった特徴は行政機関だけでなく、企業や他の団体にも広く見られます。組織が大きくなると、トップの指示が末端にまで浸透するには階層型の組織が必要です。中国では秦の時代からすでに官僚制度がありました。

近代の官僚制はドイツの社会学者マックス・ヴェーバーにより研究されました。ヴェーバーによれば官僚制の元では、メンバーは合理的な規則と役割を体系的に割り当てられて行動します。

そして以下の原則に従います。

  • 権限の原則
  • 階層の原則
  • 専門性の原則
  • 文書主義

 

ヴェーバーは、
「官僚制は合理的な機能を有し、優れた機械のような優れた点がある」
と主張しました。

ただし個人の自由が抑圧される点や組織が巨大になると統制が困難になるなど、

官僚制のマイナス面も指摘しています。

このマイナス面については、アメリカの社会学者ロバート・キング・マートンが

「官僚制の逆機能」

について指摘しました。

この官僚制の逆機能とは

  • 規則万能(例: 規則に無いから出来ないという杓子定規の対応)
  • 責任回避・自己保身(事なかれ主義
  • 秘密主義
  • 前例主義による保守的傾向
  • 画一的傾向
  • 権威主義的傾向(例: 役所窓口などでの冷淡で横柄な対応)
  • 繁文縟礼(はんぶんじょくれい)(例: 膨大な処理済文書の保管を専門とする部署が存在すること)
  • セクショナリズム(例: 縦割り政治、専門外管轄外の業務を避けようとするなどの閉鎖的傾向)

などです。
 

一般にはこれらは官僚主義と呼ばれています。

その特徴は

  • 先例がないからできない
  • 規則にないため判断を避ける
  • 些細な書類の不備で拒絶する
  • 書類の作成自体が目的化する
  • 自分の部署以外の仕事はやらない

などですが、これらは民間企業にも見られ「大企業病」と呼ばれています。
 

官僚制の文書主義や権限の原則は、欧米の企業組織の骨格です。欧米では、これらはち密に体系化されています。その代表的なものがISOなどのマネジメントシステムです。ISOは、規格の最初に「責任と権限を明確にする」ことを要求しています。

この責任と権限の明確化は、契約を基本とする欧米社会の文化です。

山本氏は

「欧米人は契約がないと何もできない。

宗教も神と人間の契約、つまり個人が神と契約を結ぶ。」

と述べています。

かつての欧米人の考えには「他人も同じ宗教を信仰し神と契約を結んでいるから信頼できる」というものがありました。そして「自分たちの信仰する神と契約を結んでいない異教徒は何をするのかわからず信頼できない」というものでした。(今は違っていますが)。
 

ところが日本人は

契約という概念を非常に嫌います。

取引の際、契約を持ち出すと「私が信頼できないのか」とかみつかれます。日本社会は契約の概念が希薄なため、日本では官僚制においても文書化は十分ではありません。

ここまで経営組織論に基づき様々な組織の形態と特徴について述べました。

このように組織は、様々な形態とそれぞれ特徴があります。
 

ところがこの組織と、日本の古来からの共同体文化は、相反するものがあります。

これが企業不祥事など日本の組織の問題の根源にあるのです。

それはどのようなものでしょうか?

これについては、次の経営コラムでお伝えします。

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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「組織に存在する『空気』とは何か?その2」~誤った意思決定と同調圧力の原因を考える~

多くの人は、当たり前のように「空気を読み」、指示されなくても「空気」に従い行います。

時には、これが企業不祥事やパワハラの一因になります。

この空気の正体は何でしょうか。

「組織に存在する『空気』とは何か?その1」~空気による支配と誤った意思決定を考える~ では、空気が支配する前提と組織における同調圧力、そして空気に水を差す行為について、述べました。

ここでは、空気をもたらす文化的背景と、空気の弊害、空気を打破する方法について考えました。
 

空気を生み出す背景

空気をつくりだす我々日本人の文化の根底には、どのようなものがあるのでしょうか?

その背景は何でしょうか?
 

日本社会と日本教

「空気の研究」の著者 山本七平氏は「無宗教の日本では、その集団内のみ通じる日本教のようなものがある」と述べています。その根底には「人間は、自分がこうすれば相手もこうするものだ」という信仰があります。キリスト教徒が神に従うとすれば、日本人は「世間」「人さま」に従うのです。

これは日本人に普遍的なもので、日本教ともいえます。ただしこの世間は自分が所属する集団内に限定されます。

この日本教は、農村集団や工業社会で都合がよいものでした。しかし軍隊のように戦争に勝つことが目的の組織では勝利よりも組織内の人間関係の方が重視され、面子や前例主義がはびこるというデメリットがあります。それでも日本は、海に囲まれ他国から侵略されることが少ないため、こうした組織運営でもやっていけました。
 

これが中東や西欧のような国同士が地続きでつながり、絶えず争い、滅ぼしたり滅ぼされたりする日常の世界では、そうはいきません。意思決定は「自らの集団と構成員の存続をかけたもの」だからです。かつての中東や西欧で、国の意思決定をその場の「空気」で決めていれば、とっくに滅ぼされています。

また日本は国土の17%しか農地がなく、降雨量は豊富ですが地形が急峻なため、ため池などで水を貯め、水路を張り巡らさなければ稲作ができません。こういったことから江戸時代まで田は各自のものでなく、村の共同所有物でした。こういった共同体では、村人相互の協力がなければ社会が成り立ちません。秩序を乱せば村八分にされますが、農村社会で村八分にされれば餓死してしまいます。

この村落は疑似家族ともいえる強力なコミュニティです。逆に他者には冷淡でした。よそ者を排除する文化が今も残る地方もあります。ある地域では、そこに移住して3代を経っても「よそから来た人」と呼ばれます。
 

こういった閉鎖的な集団の特徴として、集団の中だけで通じる言葉があります。集団固有の言葉を理解できて初めて仲間として受け入れられるのです。今でも企業では、他では通じない我が社固有の社語があります。この社語を使いこなせて初めて仲間と認められます。
 

平等と横並び文化

江戸時代以前は、身分制度はなく人々は平等でした。しかしそれでは統治するのに不便なため、徳川幕府は士農工商の制度を制定しで身分を固定しました。

実は徳川幕府が統治する範囲は全国の1/4に過ぎず、他は各藩が統治していました。各藩は独自の軍隊を持ち徴税を行いました。このように幕府の地位は不安定なため、徳川幕府は、身分制度で権力を武士に集中する一方、富は商人に集中させ、幕府に抵抗する各藩には富と権力が一緒にならないようにしました。

幕府内部でも特定の家臣に権力が集中しないように、地位の高い老中は石高が低く(富が少なく)、その選出は譜代大名から月番制で行われました。一方地位は低いが実務力が必要な与力、同心などは、石高が高く(富が多く)なっていました。彼らも月番制でお互いがお互いをチェックする仕組みになっていました。
 

このように徳川幕府は「名誉価値」「権力価値」「富価値」の3つに力を分散し、日本型デモクラシーと呼べるようなシステムで統治しました。このような仕組みは、海外からの侵略がなく、「国を挙げて生きるか死ぬかという決断の必要がない時代」はうまくいったのです。
 

空気をつくるもの

空気=ムード

と考えれば、このムードをつくるのはマスコミです。

マスコミが取り上げる言葉が空気をつくります。そして言葉は、現実を固定化します。

例えば「満州は日本の生命線」と言えば、満州から撤退できなくなります。言葉は異論を封じ、他の選択肢を排除してしまいます。

日露戦争の時、日本海海戦、旅順陥落の結果を受けて外務大臣の小村寿太郎は渡米しロシアとの講和条約に臨みました。当時新聞は日本は「戦争に勝った」と報道しました。先の日清戦争で清から多額の賠償金を認めさせた経験もあり、ロシアからも賠償金が取れるような報道をしました。
 

現実は、日露戦争は局地的な勝利でしかなく、ロシアは負けたと思っていませんでした。必要ならば、さらに大軍を派遣できました。対して、日本はそもそも戦争に必要な資材を外国から買うための外貨が少なく、高橋是清がロックフェラー財団に日本の国債を引き受けてもらいやっと外貨を確保できました。それもすでに尽きてしまい、前線では大砲の弾も底をついていたのです。その中でのロシアとの和平交渉は、かなりタフなものでした。賠償金など望むべくもなかったのです。

しかし誤った報道の戦勝ムードで盛り上がった国民は、賠償金が取れないと分かったため、暴動が起きました。

図4 日比谷の決起集会(Wikipediaより)

図4 日比谷の決起集会(Wikipediaより)

集団だと狂暴化する日本人

多くの日本人は、欧米人のように神との関係における「絶対的正義」を持ちません。そのため倫理規範が、その場の状況に応じて変わります(状況倫理) 。加えて社会全体に共通する社会正義もないため、閉ざされた集団では欧米と比べいじめや強い暴力が起きやすいのです。これは日本陸海軍の新兵への暴力や運動部のしごきなどにみられます。最近でも入国管理局で不法滞在者に対し、人権を無視した行為が話題になりました。

日本の集団が人権を無視したいじめや暴力に陥るのは、下記の3点が当てはまる場合です。

  • 集団が隔離され、共同体の前提(空気)が管理されていない
  • リーダーからお墨付きを得た
  • 共同体間で共有されるべき社会的正義がない

軍隊は、この3点がすべて当てはまります。アメリカや韓国の軍隊でも新兵は容赦なくいじめや暴力にさらされますが、日本軍の暴力は凄惨でした。

山口盈文氏は、昭和19年14歳で満蒙開拓少年義勇軍として満州に渡りました。そこで日本軍に徴用され、日本軍に加わりました。そこで見たのは、仲間内でのひどいリンチでした。ある兵士は木につるされ、さんざんリンチを受けたため死んでしまいました。
山口氏のいた八路軍では、同僚に対するリンチはありませんでした。氏の著作「僕は八路軍の少年兵だった」には、山口氏の見た日本軍と八路軍の対比が書かれています。
 

組織における空気の問題

不祥事が頻発する

終身雇用と年功序列賃金制度のため転職が容易でなく、同質な集団の日本企業には、空気がもたらす強い同調圧力があります。経営者が無理な目標を設定しても「できない」とは言えません。そしてつじつまを合わせるために、法規制を違反したりデータを改ざんしたりします。こうして組織は自ら不祥事を起こしてしまいます。

図5 起きてしまう不祥事

事業部に高い目標を立てさせ、達成できないと「チャレンジ!」と強要され、粉飾決算に走った東芝、経営層がライバルを下回る燃費を認めずデータを改ざんした三菱自動車、不正なソフトウェアを組み込んだフォルクスワーゲン、45分車検を達成するため、法令に背いて点検項目を省略したトヨタの販売店など、快挙にいとまがありません。
 

空気が誤った意思決定を導く

空気で意思決定する問題は、

うまくいかなかった時の代替案がない

ことです。

順調な時は良いのですが、一度うまくいかなくなると、どうしていいのか分からなくなります。

高山の頂上や崖から飛び降り、急斜面を滑走するエキストリームスキーヤー、彼らは命知らずの無謀な連中に見えます。しかし彼らは崖から飛び降りる時も

  • 「うまくいった場合どうするか」プランAと、
  • 「思った通りに行かず失敗した場合どうするか」プランB

を必ず持っています。

新型コロナウイルス感染症では、ニュージーランド政府は感染のステージに応じて、段階的にどのように対策をするのか事前に決めていました。一方日本では緊急事態宣言以上の感染防止策を検討されず、必要な法整備も不十分でした。
 

空気による決定は無責任

リーダーには、空気をつかって自分に有利な決定に導くタイプもいます。議論の中で「あれもダメ」「これもダメ」と反対して、議論の空気を自分に有利な方向に誘導するのです。
そして現実の一部を隠蔽し、ある種の前提を掲げて、自分に都合の良い結論に誘導します。しかし

決定を下したのは空気であり、責任者はいません。

そして健全な法に従った方法はわきに押しやられてしまいます。これが企業不祥事となります。多くは組織的に行われるため、誰かが「こんなことをすれば大変なことになる」と思っても、それを言えない空気ができています。
 

情報不足が空気をつくる

正しい意思決定には、現場からの十分な情報が不可欠です。ところがかつて日本のリーダー達は、現場の情報をないがしろにしていました。そのため情報不足から誤った意思決定を行いました。
 

日本陸軍は、伝統的にソ連を仮想敵国としていました。戦術の研究や兵士の訓練で想定していたのは満州やモンゴルの平原でした。その陸軍が新兵教育の訓練教程での敵をソ連からアメリカに変更したのは、開戦から2年近く経った1943年8月でした。それまで陸軍は南方のジャングルでの戦闘を想定した教育を全く行っていませんでした。
 

陸軍士官としてフィリピンの戦場にいた山本七平氏の陣地の前に大陸から派遣された1個師団が上陸しました。砲兵隊の指揮官が山本氏に「馬を徴用したいがどこかにいないか」と聞きました。フィリピンでは暑さに弱い馬は飼われてなく、農耕に使われるのは水牛だけでした。水牛は定期的に水に浸けないと暑さで死んでしまうため砲車を引くのは無理でした。砲兵たちは熱帯のフィリピンで人力で砲車を牽くしかありませんでした。

日本は、占領したフィリピン統治でも失敗しました。厳格なカトリック教徒の多いフィリピンでは、人前で怒鳴ったり殴つたりすることは彼らの自尊心をひどく傷つけます。こうしてもともとは反米だったフィリピン人を反日にしてしまいました。彼らは抗日ゲリラを陰で支援しました。
 

日本軍のリーダーには、現場をあまり見なかったリーダーが多かったようです。戦後、山本氏が会った連隊長は、自分の部隊で日夜リンチが行われていたことを全く知りませんでした。あれだけ凄惨なリンチが毎夜行われていたのだから、兵舎を回っていれば顔を腫らした兵隊などが見つかるはずでした。連隊長は部隊内を歩き回って自分の目で見ようとはしなかったのです。

本部で作戦を立ててい高級参謀も現場をわかっていませんでした。フィリピンではある師団は、米軍の上陸直前に急に作戦が変更され移動命令を受けました。せっかく構築した陣地を捨て、パレテ峠への移動を命じられた師団は、移動中に空から米軍の攻撃を受けて大損害を出しました。
 

連合軍総司令官のアイゼンハワー大将は、総司令官にもかかわらず現場をこまめに見て回りました。そして兵士に規定通りキャンディーやタバコが支給されているかまで気を配りました。指揮官は、自分に任された組織の実情を常に把握していなければならないと考えていました。階級社会の欧米では、支配階級たるリーダーは、配下の部下や組織を適切に管理して、最大の成果を上げなければならないという考えが浸透していました。

しかし平等社会だった日本では、そういった支配階級の意識を持った人材がいない上に、こうしたリーダーとしての教育も不十分でした。
 

責任感の欠如と組織の存続が目的になる

空気で物事を決定すれば責任をとる者はいません。失敗しても責任を問われません。そのため日本軍は強い組織に欠かせない信賞必罰がありませんでした。これは勝つことが最大の使命である軍隊にとって致命的でした。

第二次大戦のソ連軍では厳しい信賞必罰が常識でした。スターリンから全権を委任されていた司令官ゲオルギー・ジューコフは、ある師団の前進速度が不十分だったため、師団長を即解任し懲罰大隊へ送りました。
 

しかし日本軍はリーダーが作戦に失敗しても降格がありませんでした。そして海軍兵学校の卒業序列(ハンモックナンバーと呼ばれ除隊するまでついて回る)に従って昇進しました。最後の海軍大将となった井上成美氏は戦闘では失敗ばかりでした。逆にガダルカナル戦で駆逐艦隊を指揮して米軍と渡り合い、アメリカ軍からも恐れられていた田中頼三少将は、ガダルカナル戦の途中で後方へ移動させられました。日本軍では、アメリカ軍も一目置く勇気と決断力のあるリーダーは、同僚の昇進など内部事情で第一線を離れ、勉強はできるが指揮能力の低いリーダーが部隊を指揮していたのです。
 

昭和19年陸軍は、米軍のフィリピン攻略を前に兵力の大幅な増強を計画しました。そして台湾から多数の兵士を送りました。しかし彼らの乗った輸送船の多くがアメリカ軍の潜水艦に沈められ、犠牲者は10万人にも上りました。

この輸送船でフィリピンに渡った山本七平氏は、立つこともできない天井の低い船室に、畳1枚のスペースに5名が押し込まれた状況について、人間に対しここまで過酷な仕打ちはないとまで語っていました。その多くがアメリカの潜水艦に沈められ、山本氏はこれを自動殺人装置と呼びました。

実はこれを計画した陸軍自身「3割着けば成功」と考えていました。7割は喪失する前提でした。たとえ無事についたても、銃も弾薬もなく、できるのは米軍の空襲や砲撃の中でジャングルの中を逃げまどうだけでした。そして多くの兵士が餓死しました。

すでに陸軍は現実感を失い、効果も考えず、ただ決まったことを行っているにすぎませんでした。

 

日本の組織に存在する空気の弊害

日本の終身雇用や年功序列賃金制度は、内部に強固な空気を醸成します。しかも新卒一括採用のため転職は容易でなく、多くの社員は不満があっても組織にとどまります。こうした組織は空気に逆らうことを許さない「出る杭は打たれる」集団になってしまいます。

図6 出る杭は打たれる日本の社会

図6 出る杭は打たれる日本の社会

こういった集団は保守的で変化には逆らう傾向があります。これまでのバブル崩壊や、リーマンショックのような変化に対し、金融円滑化法、雇用調整助成金、政府金融(日本政策金融公庫、商工組合中央金庫)、信用保証協会など国は多くの救済措置を提供しました。これにより倒産を減らして社会の混乱を防いだ一方、非効率な企業を延命し変化を抑えてきました。

しかし、こういった従来の日本型福祉社会は限界に達しようとしているかもしれません。変化を抑圧しても社会の潜在的な変化はなくなっていないからです。むしろ変化を抑えたことでバブル崩壊のような破局的な悲劇が発生してしまうかもしれません。
 

「ブラックスワン」の著者ナシム・ニコラス・タレブはこういった日本人の習性を「小さなボラリティ(変動)を避けようとして大きな破滅を招く」と評しました。さらに

「日本人は小さな失敗を厳しく罰するので、人々は小さくてよく起こる失敗を減らし、大きくて稀な失敗を無視する」

と述べています。
 

空気を打破する方法

空気を打破する方法として鈴木博毅氏は以下の4つの方法を提唱しています。

  1. 空気の相対化
  2. 劇場の破壊
  3. 思考の自由
  4. 根本主義

 

「空気の相対化」とは、隠れた前提を見抜くことです。空気がもたらす前提には、組織を主導するものにとって都合の悪いことが隠れていることがあります。「大和を敵に拿捕されないために3,700人の命を犠牲にする」、「命令できない特攻を作戦化する」、こういった前提を具現化すれば、正しい結論が見えてきます。

「劇場の破壊」とは、閉鎖された組織、空間を破壊することです。閉鎖された空間で醸成された空気は、強い同調圧力になります。その空間を開放し、課題を公開します。そして外部からの自由闊達な議論を行います。あるいは自分がこういった閉鎖的な集団から抜けます。

「思考の自由」とは、思考を束縛するしがらみを断ち切ることです。過去の延長線上でなく自由に考えます。

インテルの元CEOアンディグローブは、半導体メモリー事業が不振に陥った時「僕らがお払い箱になって、取締役会が新しいCEOを連れてきたら、そいつは何をするだろう」と考えメモリー事業からの撤退を決断しました。

「根本主義」とは、最も譲れないことは何か、その1点にフォーカスすることです。そうすることである種の前提や前例からの縛りから考えを解き放つことができます。
 

【この状況で何ができるかを考え、空気を打破した美濃部少佐】
大戦中、海軍の美濃部少佐は芙蓉部隊を指揮して沖縄の米軍へ夜間攻撃を続けました。そして特攻を拒否し続けました。彼は水上偵察機の乗組員が高い夜間飛行能力を持っていることに着目し、終戦まで特攻でなく、夜間に通常攻撃をすることを主張しました。『特攻拒否の異色集団彗星夜襲隊』渡辺洋二著には以下のように書かれています。
 

<以下一部引用>
航空参謀「次期沖縄作戦には、教育部隊を閉鎖して練習機を含め全員特攻編成とします。訓練に使用しうる燃料は一人あて月15時間しかないのです。」
美濃部「フィリピンでは敵は300機の直衛戦闘機を配備しました。こんども同じでしょう。劣速の練習機まで駆り出しても、十重二十重のグラマンの防御陣を突破することは不可能です。特攻のかけ声ばかりでは勝てるとは思えません」
航空参謀「必死尽忠の士が空をおおって進撃するとき、何者がこれをさえぎるか!第一線の少壮士官がなにを言うか!」
中略
美濃部「ここに居合わす方々は指揮官、幕僚であって、みずから突入する人がいません。必死尽忠と言葉は勇ましいことをおっしゃるが、敵の弾幕をどれだけくぐったというのです?失礼ながら私は、回数だけでも皆さんの誰よりも多く突入してきました。今の戦局にあなた方指揮官みずからが死を賭しておいでなのか?」
「飛行機の不足を特攻戦法の理由の一つにあげておられるが、先の機動部隊来襲のおり、分散擬装を怠って列線に並べたまま、いたずらに焼かれた部隊が多いではないですか。また、燃料不足で訓練が思うにまかせず、搭乗員の練度低下を理由の一つにしておいでだが、指導上の創意工夫が足りないのではないですか。私のところでは、飛行時間200時間の零戦操縦員も、みな夜間洋上進撃が可能です。全員が死を覚悟で教育し、教育されれば、敵戦闘機群のなかにあえなく落とされるようなことなく、敵に肉薄し死出の旅路を飾れます」
中略
美濃部「劣速の練習機が昼間に何千機進撃しようと、グラマンにかかってはバッタのごとく落とされます。2,000機の練習機を特攻に駆り出す前に赤トンボまで出して成算があるというのなら、ここにいらっしゃる方々が、それに乗って攻撃してみるといいでしょう。私が零戦一機で全部、撃ち落としてみせます!」

この会話に空気を打破し現実の問題を解決する思考方法のヒントがあるのではないでしょうか。
 

【空気よりカネ勘定】
空気の作り出す前提の多くには、一部の者にとって不都合な現実があります。それを美辞麗句で覆うことで現実を見えなくするのです。見たくない現実を直視し、誤った判断を避けるためには、感情に惑わされず冷静にカネ勘定・損得判断をすることです。

  • 敵になんの打撃も与えることなく、3,700人の命と戦艦を失うことの損得
  • 敵戦闘機の大群に、未熟なパイロットの乗った旧式機の特攻を出すことの損得
  • 原発の事故の発生確率と被害金額、原発の発電コストと使用済み燃料の処理コストと将来の廃炉費用

こういった問題の発生確率と、生じる損失を経済的に評価するのがリスクマネジメントです。つまりリスクをコントロールする手法です。
 

【感情を切り離さなければ正しい判断はできない】
こうした冷静な意思決定を阻害するのは感情です。今までにかかった費用、努力(いわゆる埋没費用(サンクコスト))に固執してしまいます。

先の戦争は310万人(軍人・軍属が230万人、民間人が80万人)の方が亡くなりました。その9割は1944年以降の戦争末期でした。1944年2月米軍のフィリピン上陸を前に近衛文麿は天皇に早期終戦を主張(近衛奏上文)しました。しかし天皇は「もう一度戦果を上げてからではないと難しい」と拒否しました。すでに戦況を好転できる材料はありませんでした。しかし無条件降伏以外アメリカとの講和はなく、無条件降伏を受け入れる感情的な素地は、まだ国民や軍にはありませんでした。

1945年8月9日に広島に原爆が投下され、ソ連が参戦した後に開かれた御前会議でも、陸軍は本土決戦を主張していました。この時点で重臣の賛否は半々でした。本来「戦争は外交の一手段」なのですが、戦争終結のシナリオがないまま始めてしまった戦争に対し、現実感を喪失した当時のリーダーに損得判断は不可能でした。
 

空気が固定化されると他の選択肢は見えなってしまいます。そうなると問題解決力が低下します。

そして現実を無視して、前提通りに進めようとする強硬派が幅を利かせます。

その背後で問題は進行し肥大していきます。問題はある時破綻し大きな悲劇になります。ようやく前提が間違っていたことに強硬派は気づきますが、もうどうすることもできません。冷静な解決策を失って「やぶれかぶれ」になります。赤とんぼで特攻を行うと言った海軍首脳、本土決戦を主張した陸軍がそうでした。
 

そうならないようにするためには、この空気の打破をしなければいけません。それは正しい理論とデータから論理的に結論を導くことです。この

「厳粛な事実」

には精神論の入る余地はありません。

本来ものづくりに関わる技術者は、こういった考え方は持っています。正しい論理に従えば、赤とんぼがグラマンから撃墜されるのは逃れられないし、戦艦大和は沖縄にたどり着けません。その事実を認めたうえで、最善の方法を模索すれば、美濃部少佐のように特攻以外の方法も出てきます。これが思考停止の呪縛から逃れ、知性を回復させる方法です。
 

ただし空気や水は過去から現在までの結果です。未来を切り開こうとする時、空気も水もないかもしれません。革新的な企業は、空気も水も気に留めず「そんなことは無理だ」と言われたことを実行してきました。

空気を破り水の呪縛を解き放つために、山本氏は

「『これより先に行くな』というタブーを打ち破り未来へと大胆に進むことが大切」

と述べています。
 

参考文献

「『空気』の研究」 山本七平 著 文藝春秋
「『超』入門 空気の研究」 鈴木博毅 著 ダイヤモンド社
「『空気』の構造」 池田信夫 著 白水社
「慮人日記」小松真一 著 ちくま学芸文庫
「下級将校の見た帝国陸軍」 山本七平 著 朝日新聞社
「日本人と組織」 山本七平 著 角川ワンテーマ
「特攻拒否の異色集団彗星夜襲隊」 渡辺洋二著 光人社NF文庫

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「組織に存在する『空気』とは何か?その1」~空気による支配と誤った意思決定を考える~

「空気を読む」を辞書で引くと

「『その場の雰囲気を察すること、暗黙のうちに要求されていることを把握して履行すること』などを意味する表現」

とあります。(実用日本語表現辞典より)
 私たちの多くは、この「空気を読む」ということを当たり前のように行い、空気を読まない人はネガティブな意味で「KY」と呼ばれます。

我々は指示されないことでも「空気」に従い進んで行ってしまいます。時にはこれが企業不祥事やパワハラの一因にもなります。

この空気の正体は、何でしょうか。

そして

空気はなぜ存在するのか、

どうしたら空気を打破できるのか

考えました。
 

戦前から日本を支配した空気

1945年4月沖縄に上陸した米軍を攻撃すべく、戦艦大和は片道分の燃料しか積まずに出撃しました。当時、戦艦といえども航空機の援護なしでは、アメリカ軍の艦載機の攻撃に耐えることはできませんでした。つまり、この作戦は100%失敗する作戦でした。大和を擁する第二艦隊司令官 伊藤整一中将は、この作戦に強く反対しました。しかし最終的に彼が命令に従った根拠は「空気」でした。

図1 米軍機の攻撃を受ける戦艦大和 (Wikipediaより)

図1 米軍機の攻撃を受ける戦艦大和 (Wikipediaより)

1944年10月関行男大尉率いる24名の最初の神風特別攻撃隊が、レイテ沖のアメリカの護衛空母群を攻撃し、空母「セント・ロー」は沈没しました。この特攻作戦を主導した大西瀧治郎中将は、終戦後、特攻作戦の責任を取って割腹自殺しました。この特攻作戦は大西中将が発案したように戦史に書かれています。しかし、当時の海軍は、すでに軍令部の主導で人間魚雷「回天」、人間爆弾「桜花」など体当りを前提とした特攻兵器を開発していました。

「体当り攻撃」は海軍の既定路線だった

のです。しかし海軍は、100%生還の見込みのない自殺攻撃の命令を出すことはできませんでした。特攻は、あくまで隊員の志願でなければいけませんでした。そして

隊員たちが「志願」したのも空気

でした。この空気について「空気の研究」の著者 山本七平氏は

「『空気』とはまことに多くの絶対権をもった妖怪である。(中略)こうなると統計も資料も分析も、またそれに類する科学的手段や論理的論証も、一切は無駄であって、そういうものをいかに精緻に組み立てておいても、いざというときは、それらが一切消しとんで、すべてが『空気』に決定されるかも知れぬ。」

と述べています。
そして

「もし日本が、再び破滅へと突入していくなら、それを突入させていくものは戦艦大和の場合の如く『空気』であり、破滅の後にもし名目的責任者がその理由を問われたら、同じように『あのときは、ああせざるを得なかった』と答えるであろう」

と語りました。
 

図2 山本七平氏(Wikipediaより)

図2 在りし日の山本七平氏(Wikipediaより)


 

空気とは何か

それでは、「空気」とは一体何なのでしょうか。

この空気は、「『超』入門 空気の研究」の著者 鈴木博毅氏によれば、

「空気はある種の前提」

です。この前提が
「この境界からはみ出すな」
という強い圧力をかけて「場の空気」をつくります。では「場の空気」とは何でしょうか。

場の空気とはWikipediaによれば、

「日本における、その場の様子や社会的雰囲気を表す言葉。とくにコミュニケーションの場において、対人関係や社会集団の状況における情緒的関係や力関係、利害関係など言語では明示的に表現されていない(もしくは表現が忌避されている)関係性の諸要素のことなどを示す日本語の慣用句である。近年の日本社会においては、いわゆる「KY語」と称する俗語が流行語となって以来、様々な意味を込めて用いられるようになっている。」
(Wikipediaより)

「場の空気」は具体的な言葉になっていない場合も多く、戦艦大和の場合
「このまま日本が敗戦すれば、大和はアメリカに接収され、自沈させられる。そんな恥をさらすことはできない」
という前提でした。論理的、経済的に考えれば、効果のない作戦で3700名の命を失うより、自沈した方が損失は軽微なのですが。(しかもこの作戦で大和以外に、軽巡洋艦矢作と駆逐艦5隻も失いました。)

こうした暗黙の前提は、

人々の現実への理解や行動を規制し、他の選択肢を奪います。

そして空気が組織を支配すると、組織のメンバーは、命じられていなくても「空気 = 前提」に従い行動します。しかもこの前提は絶対化されているため、反論は許されません。
 

それを象徴する言葉が

「やるしかない」「他に道はない」

です。もしリーダーがこう言い始めたら危険な兆候かもしれません。なぜなら、こうして前提は、他の選択肢を排除し、不都合な真実を隠蔽してしまうからです。
 

鴻上 尚史氏の著作「不死身の特攻兵」で、陸軍の飛行兵 佐々木友次氏は、特攻に9回出撃して9回生還しました。なぜ特攻に出撃して生きて帰ってきたのでしょうか?
 
飛行機が爆弾を抱いて船に体当たりしても、爆弾の速度は低く、爆弾は甲板を貫通できないため、致命傷を与えることはできないのです。途中で爆弾を切り離して落下させた方が爆弾の速度が速くなり相手に大きなダメージを与えることができます。つまり通常の急降下爆撃の方が効果は高かったのです。

そこで佐々木氏の上官 岩本隊長は、密に爆弾を切り離す装置を特攻機に追加し、佐々木氏をはじめとした部下に、特攻で出撃しても爆弾を切り離して急降下爆撃を行い、帰ってくるように指導しました。しかし残念ながら岩本隊長は、移動中に敵の戦闘機に襲われ戦死してしまいました。

新たな上官の下、佐々木氏は特攻に出撃しました。そして爆弾を投下し敵の船に命中させ、大打撃を与えた後、機体は不時着しました。佐々木氏が帰ってきたとき、送り出した上官にとって

これは、前提から外れた不都合なこと

でした。佐々木にはすでに戦死の公報も出ていました。

上官にとっては、敵に打撃を与え戦果を挙げることは、問題ではなかったのです。特攻に行った者が死んでいないことが問題でした。

上官は、佐々木氏に対し厳しい叱責をしました。

「きさま、それほど命が惜しいのか、腰抜けめ!」
中略
「明日にでも出撃したら絶対に帰ってくるな。必ず死んで来い」

「不死身の特攻兵」で、上官の言葉はこのように書かれています。
 

このように「前提」は、集団にとって都合の悪いことを隠し、前提に従わない者に対し、嫌がらせをはじめとした徹底的な攻撃・圧力を加えます。これが

空気がもたらす同調圧力です。

山本氏は、これを「臨在感的把握」と呼びました。臨在感について前述の鈴木博毅氏は「臨在感は、因果関係の推察が、恐れや救済などの感情と結びついたものだ」と述べています。つまり、日本人は問題が起きた時、

感情に強く影響されて過剰に反応する

のです。こういった反応は欧米にも見られますが、日本人は顕著に表れます。
 

例えば、BSE問題(牛海綿状脳症)が起きた時もそうでした。ヨーロッパで発症した人は、発症した牛の脳を食べた人でした。発症した牛の肉を食べて発症した事例は、一切ありませんでした。

しかし日本では「牛肉が怖い」という空気が生まれました。感染した牛が見つかる度にマスコミは大々的に報道し、人々は牛肉の消費を控えました。2001年に農林水産省は、食用牛の全頭検査まで導入しました。
 

この臨在感を掌握すれば、日本の大衆の意思をコントロールできてしまいます。戦前、読売、毎日など大手の新聞は、日中戦争の記事を勇ましく書き、国民は熱狂しました。毎日新聞の記者は、ある兵士の中国での百人斬りの記事を掲載しました。実は記事は、記者が勝手に創作したものでした。しかし記事に名前を載せられた兵士は、戦後、戦犯として処刑されました。

バブル崩壊後、マスコミは、銀行の過剰融資や証券会社の損失補填を非難しました。この空気は、国が銀行へ公的資金を投入する判断の遅れにつながり、失われた20年の一因にもなりました。本来は、いち早く公的資金を投入し、企業への資金供給の円滑化を図るべきでした。しかし、バブルを引き起こした金融機関に対する公的資金の投入は、それを許さない空気になっていました。
 

空気のプラス面とマイナス面

一方、この空気は、プラスの面もあります。
 

【プラス面】

  • 決定に時間がかかるが、空気で決定すれば反論は封じられ、集団で行動する
  • 日本企業は決定までは時間がかかりますが、方針が決定すれば、全員が協力して迅速に取り組みます。対してアメリカのGMは、トップが方針を決定しても、エンジン部門、シャーシー部門がそれぞれの主張を繰り返すため、開発がなかなか進みません。 

  • 意思決定がボトムアップで行われる
  • ボトムアップなので、空気に従ってメンバー全員が一致して行動します。

 

【マイナス面】

  • 思考停止状態になり、他の選択肢が考えられなくなる
  • 真実を歪曲する
  • もともと相対的な事象を絶対化することは、ある意味まやかしです。嘘が生まれ、現実が見えなくなります。例えば国は「原発は絶対安全」と言います。しかしどんなプラントでもリスクはゼロではありえません。「絶対安全」なものは世の中には存在しないのです。それを絶対安全と言ってしまったため、小さなリスクや問題も公表できなくなってしまいました。

  • タテマエで物事が進む
  • 山本七平氏が部隊に配属されて驚いたのは、タテマエと実態の乖離でした。1師団3個連隊、1個連隊3個大隊のはずの師団構成は、1個連隊が欠(つまり2個連隊しかない)、しかも1個連隊の中でも1個大隊が欠でした。つまりタテマエの上では師団(3個連隊、9個大隊)であっても、実際は(2個連隊、4個大隊)と、タテマエの半分以下、戦力は大幅に低かったのです。困ったのは、タテマエ上は1個師団なので、作戦はそれを前提に立てられてしまうことでした。

  • 誤った意思決定
  • 「可能か不可能か」「是か非か」の区別がなくなる。その結果、たとえ不可能なことでも、「やるべき」「やるしかない」と邁進する。

  • 強い同調圧力、異論は許さない
  • かつてのような工業製品を大量生産する組織は、空気による支配は都合がよいものでした。高度成長期は、これまでの延長線上で技術も進歩していきました。自社もライバル企業も同じ方向を向き、より良い製品を、より安く、ひたすらつくれば良かったのです。

 

結論を支配

前提を変えれば結果が変わります。

「世界を変えた14の密約」ジャック・ペレッティ著によれば、生命保険会社にいた統計家ルイ・ダブリンは、1945年初めてBMI(Body Mass Index)別名「ボディマス指数」を作成しました。このBMIは、体重と身長から計算され、肥満度を表します。現在、BMIは国際的な指標として用いられています。実はこのBMIは、ダブリンが25歳前後の人たちのデータから

理想的な体重を、全員に勝手に当てはめたもの

でした。

その結果、アメリカ人の半数は「太りすぎ」か「肥満」になりました。これにより多くの人の生命保険料は高くなりました。これにより生命保険会社に多額の保険料をもたらしたのです。しかも

たった1枚の数表だけで
 図3 肥満大国のアメリカ人

図3 肥満大国のアメリカ人

しかもBMIはアメリカ人の間に肥満パニックを起こしました。そして巨大なダイエット産業をも創出しました。
 

慶應義塾大学の清水勝彦教授は著書「その前提が間違いです」で

「『前提』こそが結論を支配する」

と述べました。

例えばケンブリッジ大学のハジュン・チャン氏は、トリクルダウン理論について以下のように述べています。

「理論的には、トリクルダウンはそれほどバカバカしい考え方ではありません。ですが、現実的には裏付けがないんです。アメリカでもイギリスでも国家歳入における投資の割合は減り続けています。経済成長も下がっています。だから証拠がないんですよ。」

しかし各国の政府は、トリクルダウン理論を何ら検証せずに、富裕層を豊かにする政策を実施しました。その結果、貧困層が増加し、貧富の差は急拡大しました。
 

空気といじめ、パワハラの関係

日本社会には、欧米社会のような神を絶対的な基準とした「絶対的な正義、あるいは倫理観」がありません。同じ行為でも、その場の状況によって、許されたり、許されなかったりします。山本氏は、これを「状況倫理」と呼びました。

例えば、お腹が空いて死にそうな人がパンを盗んで食べた場合、欧米では、そのような状況でも、窃盗の罪は同じです。神の許しがない限り、その人は一生罪を背負って生きなければなりません。対して日本は、この場合多くの人が罪を許します。そして当人も罪の意識が消えていきます。つまり状況に応じて「情」で判断するのです。

これが時には悪い方に作用します。これがパワハラ、セクハラ原因になるからです。

例えば、指導者が指導のためと称して行う暴力や暴言です。どんな感情を持っていても、暴力や暴言を行ったことに変わりはありません。しかし、こういった指導者は、これを正しいことと思っています。こういった人達に共通するのは

自分と異なる存在、他者への理解が浅い点

です。そして日本人の多くにこの傾向があります。そして「自分にとって良いことは、相手にとっても良いこと」と考えて行動します。山本氏の著作には、寒い冬に「かわいそうだから」とひよこにお湯を飲ませ、死なせてしまった人の話が書かれています。人間にとってお湯は良いものですが、ひよこには有害だったのです。
 

空気に水を差す行為

この空気が真実を歪曲して、その場のムードで行動する人たちに対し、現実を突き付けるのが

「水を差す」

行為です。山本氏は

「ある一言が『水を差す』と、一瞬にしてその場の『空気』が崩壊するわけだが、その場合の『水』は通常、最も具体的な目前の障害を意味し、それを口にすることによって、即座に人々を現実にもどすことを意味している。」(「空気の研究」より引用)

と述べました。つまり「水」は現実を土台にした前提です。

しかし、水を差しても空気が消えないことがあります。なぜなら、空気の背後には、本当の動機が隠れているからです。この隠れた動機を言葉にして、表に出さければ空気は消えません。
 

なぜ戦艦大和は、100%見込みのない作戦に行かなければならなかったのでしょうか。本当の動機は

大和が残ったまま敗戦となり、敵に拿捕されるのは絶対に避けたい

ということでした。しかし、そのため3,700人の命を犠牲にするとは言えません。これが空気の正体でした。
 

隠れた動機があるかぎり、真実で空気に水を差しても、精神論で反撃されます。戦時中、B29に向かって、竹やりを突き立てて落とすマネをする訓練をしていました。「竹やりでB29を落とせるわけがない」と空気に水を差しても「何を言うか、この非国民」と言われてしまいます。「尊い努力」という言葉が、「竹やりでB29を落とせるわけがない」という現実を凌駕するのです。

空気に水を差す人に対し、非国民という言葉を投げつけて、B29に対し無力な自分たちという現実を覆い隠しました。そして空気に水を差す相手には「けしからんやつ」といじめたり、仲間外れにしました。このように集団の中で、ひとり空気に水を差せば、いじめに遭います。それに耐えるには、強い信念と忍耐が必要です。多くの人にとっては、おかしいと思っても空気に従った方が楽なのです。
 

この空気をつくり出す日本人の根底にあるものは、何でしょうか?

そして、これを打破するにはどうしたらよいでしょうか・

続きは、「組織に存在する『空気』とは何か?その1」で述べます。
(その2は、2023年3月25日頃投稿予定です。)

参考文献

「『空気』の研究」 山本七平 著 文藝春秋
「『超』入門 空気の研究」 鈴木博毅 著 ダイヤモンド社
「『空気』の構造」 池田信夫 著 白水社
「慮人日記」小松真一 著 ちくま学芸文庫
「下級将校の見た帝国陸軍」 山本七平 著 朝日新聞社
「日本人と組織」 山本七平 著 角川ワンテーマ
「特攻拒否の異色集団彗星夜襲隊」 渡辺洋二著 光人社NF文庫

 
 

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なぜ指導したことができないのか? 〜「教えはず」と「分かったつもり」の原因を探る〜

工場で新人に作業を教える場合、手順書やマニュアルを使って説明し、さらに「やって見せて」指導します。

その後、作業の要点を説明し、実際に作業者にやってもらい観察します。

その結果、不十分な点もしっかり指導しました。もう大丈夫と思ったら不良が出ました。調べると指導した通りにやっていませんでした。
 

あれほど丁寧に指導し、わからない時のために手順書も渡したのに、

なぜ教えたとおりにやらないのでしょうか?

多くの現場でこういった問題が起きています。教えた通りにできないのは

レベルが低いからでしょうか?

その結果、大量不良や悲惨な事故も起きています。
 

「なぜ教えて通りにできないのか?その原因は何なのか?」

「教えはず」と「分かったつもり」についてその原因を掘り下げます。
 

「分かったつもり」で生じる問題

 

自分たちの扱っているものの危険を知らなかった

自分たちが行う作業の注意すべき点や作業に潜む危険が分かっていない。

そして作業ミスや不注意が大事故を起こします。
 

1999 年9月30日城県那珂郡東海村の株式会社ジェー・シー・オー(住友金属鉱山の子会社。以下「JCO」)の核燃料加工施設で、高濃度ウラン燃料の製造中に臨界事故(核分裂連鎖反応 : これは原子炉内部と同じ状態です。)が発生しました。この事故で作業員3名が重度の被曝をし、内 2 名が死亡しました。これは日本の原子力産業が起こした初の臨界事故で、最初の死亡事故でした。
 

同工場は高速増殖実験炉「常陽」で使用するウラン235濃度18.8%の高濃縮ウランを製造していました。その製造工程は、国(科学技術庁)の認可を受けた方法で行うことが義務づけられていました。このウラン溶液は一定量を超えると臨界反応を起こす恐れがありました。そこで溶解塔で硝酸とウラン溶液を混合した後、専用容器に小分けして再溶解し、均質化する方法が採られました。

しかしJCOは作業効率を上げるために、ステンレス製のバケツで混合した後、細⻑い貯塔に移して均質化し、容器に小分けしていました。これは違反行為ですが、貯塔が細⻑いため一度に入れても臨界を起こす可能性はい方法でした。

ところが事故当日、作業を効率化するため、ステンレス製のバケツで混合し、沈殿槽に投入したのです。この沈殿槽は貯塔と異なりずんぐりした形状でした。そのため構造的に中性子が容器から出にくく、しかも外側に冷却水が入った二重構造になっていました。中性子は水の層で反射するため、中性子の反応が連鎖して核分裂反応が起きてしまいました。
 

この事故については、専門家が調査を行い、事故報告書が作成されました。この報告書の中でマニュアルの勝手な変更や、作業変更に対するずさんな管理が挙げられていました。

しかし、そもそも作業員は自分たちが扱っている原料が一定量を超えれば臨界を起こす極めて危険なものだったことが分かっていたのでしょうか?そして臨界とはどのようなもので、どうすれば臨界を起こすのかわかっていたのでしょうか?

そのことを理解していれば、上司の許可なく勝手に作業方法を変えなかったかもしれません。
 

図1 ウラン溶液の製造工程

図1 ウラン溶液の製造工程


 

一方こういったこの事故を防ぐためには、正しい知識を持っていれば十分でしょうか?
 

分かっていないのに分かったつもりになっている

1946 年アメリカの核研究施設ロスアラモス研究所で物理学者のルイス・スローティーンは、プルトニウムの性質を調べる実験をしていました。

半球状のベリリウムの間にプルトニウム塊を置いて、二つのベリリウムの距離を縮めていき、反応を調べていました。この実験では二つのベリリウムが接近しすぎると、プルトニウムから出た中性子線がベリリウムに反射し、さらに中性子線が出て連鎖反応が起きてしまいます。
 

スローティーンは核分裂反応に詳しい物理学者でした。にもかかわらず彼が採った方法は、二つのベリリウムがくっつかないように、間にマイナスドライバーを入れておくというものでした。

そして不幸なことにマイナスドライバーが手から滑り落ち、二つのベリリウムはくっついてしまいました。実験室の8人は大量の中性子線を浴び、スローティーンは9日後に亡くなりました。

他にもっと安全な方法はあったのに、なぜスローティーンはこの方法を採ったのでしょうか?
スローティーンはこの実験の仕組みを本当はわかっていなかったのに

「分かったつもりになっていた」

のではないでしょうか?
 

説明深度の錯覚

認知心理学者フランク・カイルは被験者に次の質問をしました。

  1. あなたはファスナーの仕組みをどれだけ理解しているか、7段階評価で答えてください。
  2. ファスナーがどのような仕組みで動くのか、できるだけ詳細に説明してください。
  3. 大抵の人は2番目の質問に答えられませんでした。そこで再度

  4. あなたはファスナーの仕組みをどれだけ理解しているか、7段階評価で答えてください。

この質問を聞かれると、最初の時より7段階評価は低くなりました。
 

フランク・カイルはファスナーだけでなく、ピアノの鍵盤、水洗トイレ、シリンダー錠など様々なものについて調べました。その結果、大抵の人は説明できるほどの知識を持っていないことが分かりました。にもかかわらず「分かっている」と思い込む「説明深度の錯覚」が起きていました。

つまり「わかっていない」のに「わかっている」と思い込んでいるのです。

 

分かっていないことの悲劇

今日では様々な単純労働を外国人の技能実習生が支えています。彼らの労働災害は年間500 件に上り、日本人労働者と比べ比率が高く、痛ましい死亡事故も起きています。

  • 技能実習生Aは、解体用機械のアタッチメントの上で溶接作業をしていたところ、解体用機械のブームが上昇し、梁との間に挟まれた。(H28年11月)
  • 技能実習生Cは、労働者Dと2人でプレス加工作業をしていたところ、Cが金型内に頭を入れていた時にDがプレスを起動させ、Cが挟まれた。(H29年4月)

彼らは本当に危険があることが分かっていても、このような作業をしたのでしょうか?
 

理解するとは?

 

理解は概念の変換作用

私たちは相手に何かを説明する時に、伝えたい内容を言葉で相手に伝えます。私たちは、相手はその言葉を聞いて、伝えたい内容を理解すると思っています。実際はこちらの意図とは違う内容に受け取ったり、こちらが言っていないことを聞いたと思ったりします。なぜこのようなことが起きるのでしょうか?

それはコミュニケーションの過程でいくつもの変換過程を経ているからです。
図2にコミュニケーションの過程で生じる変換プロセスを示します。
 

図2 コミュニケーションのプロセス

図2 コミュニケーションのプロセス


 

話し手が「相手に伝えたいこと」は「ある概念」です。例えば作業の力加減や感情です。これらは言葉では完全に表すことができません。しかし相手に伝えるには、この概念を言葉に変換(言語化)しなければなりません。そしてこの変換の過程で内容が変わってしまいます。

例えば作業手順を相手に伝える場合、作業内容を手順ごとに分解して、相手に伝えやすい形にします。(記号化) これをメッセージとして言語化して、話したり文書にしたりして相手に伝えます。この伝達過程でも、話し方や話す場の雰囲気などによって伝える内容が変化します。

相手は受け取った言語情報をメッセージとして理解します。このメッセージを解読し、自分の頭の中で概念を復元します。こうして相手の頭の中で復元した概念が、話し手の頭の中の概念と同じであれば、正しく伝わったのです。

このように考えると、完全なコミュニケーションがどれだけ大変なのかわかります。
 

このようにコミュニケーションの過程では、伝える側、受け取る側の双方に変換プロセスがあります。変換プロセスの結果は、それぞれの考え方、技量、経験、知識によって大きく変わってしまいます。

またメッセージは、伝える際の環境や伝え方にも影響されます。厳粛な雰囲気の教会で聞く牧師さんの説教は、参加者は重々しく受け止めます。しかし全く同じ話でも、にぎやかな宴会の最中であれば誰も聞いていません。
 

理解は身体性を伴う

体を動かすような作業を伝える場合、言葉だけでは相手は正しく理解できません。正しく理解するには、説明を聞いた後で実際に体を動かしてやってみなければなりません。そして「説明通りにできたかどうか」確認します。自分ではわからない場合、他の人に正しくできたかどうか見てもらいます。そして「どこができていなかったか」フィードバックしてもらいます。
 

共通の背景を獲得するには時間がかかる

相手の言葉を理解するには、考え方、技量、経験、知識が影響します。外国人との会話で相手の言ったことを十分に理解するには外国語の理解だけでは不十分です。言葉は理解できても言葉の意味する内容が分からなければ理解できないからです。それには相手と同じ経験が必要なこともあります。

例えばオーストラリアの人から「朝食にはベジマイトが欠かせない」と言われても、ベジマイト自体を知らなければどんな味かわかりません。あるいはベジマイトは知っていても食べたことがなければ、おいしいかどうかわかりません。(私は食べたことがありますがダメでした) 。

どうやらベジマイトをおいしいと感じるには子供の頃から食べてきた経験が必要なようです。同様に納豆も大人になって初めて食べた人には苦手な人も多いようです。
 

図3 ベジマイト(Wikipediaより)

図3 ベジマイト(Wikipediaより)


 

同様にスポーツも、始めたばかりの初心者は指導者のアドバイスが理解できないのです。

例えば、クロールを初めて習った時、指導者が
「息継ぎは体全体を傾けて素早く息を吸えば簡単にできる」
「手は入水したらひじを立てて、素早く水をキャッチする」
と言ったとしても、言葉は理解できても、その言葉が示す動きはわからないのです。

このように「理解」するためには、背景にある知識や経験、身体の使い方や時には文化への理解が必要なのです。
 

人は物事を単純化する

私たちが日常直面する多くの事柄は、様々な要素が重なっています。そのため単純ではありません。例えば、その日の夕飯のメニューを決めようとしても、家族のその日の予定、冷蔵庫の食材、前日の献立、家族の嗜好など様々な要素があります。かといってそのすべてを考慮して最適な答えを出そうとすれば、大変な労力と時間がかかります。

そこで私たちは重要でない要素は削ぎ落して単純化して判断します。例えば「昨日はハンバーグだったから、今日は魚」と決定します。
 

同様に経験したことを記憶する際も、情報を削ぎ落して単純化して記憶します。単純化することで記憶しやすく、思い出す(検索する)のも容易になるからです。しかし単純化のプロセスは人によって異なります。そのため同じ事柄を経験しても、自分と他人が記憶している内容が違っていても不思議ではありません。単純化の過程が違っているからです。
 

因果関係と物語

人は、相手の話を聞く時、最初の言葉を聞いたら、次に来る言葉を推測して聞いています。相手の先を読んでいるから、会話のスピードが速くても理解できるのです。そして話を聞きながら、次に来る言葉を予測するには、聞き手と話し手の間に共通する背景知識(あるいは文脈)が必要です。

共通する背景知識、文脈が全くなければ、言葉を聞いても次に来る内容を推測できないため、理解は難しくなります。
 

例えば以下の会話は、お互いが会話の文脈が分かっているから、成立します。

⺟親 : これはなあに、
子供 : うさぎさん、
⺟親 : そう、ぴょんぴょんしてるね

ひとつひとつの文は、単体では意味がわかりません。読み手は文脈に従って意味を解釈し、一貫性のある内容としてとらえています。つまり会話の中からお互いが意味のある物語をつくっているのです。
 

会話では聞いた言葉から相手の次の言葉を推測しながら聞くことで、言葉同士の因果関係が見えてきます。この因果関係がひとつの物語になります。

意味のない言葉の羅列は記憶できませんが、物語は容易に記憶できるのです。

逆にいくら指導者が熱心に説明しても、わからない言葉や背景知識が不十分で聞き手の中で物語ができなければ記憶に残らないのです。
 

思い込みが正しい理解の邪魔をする

この物語(文脈)は、私たちが目の前で起きていることを理解する時も必要です。その人の物語にないことは、目の前で起きていても気づかないのです。もしその兆候が顕著に表れても、現実にそれが起きるまではわからないのです。
 

1941 年 12 月 8 日、日本がアメリカ オアフ島の真珠湾を攻撃しました。その際、攻撃の兆候を知らせる情報はアメリカに集まっていました。
「日本海軍が急に暗号を変えた」
「機動部隊の行方が 11 月から分からなくなっている」
これらの情報を総合すれば、日本が近いうちに大規模な軍事行動を起こすことは明らかでした。

しかしアメリカには、

日本の機動部隊が遠路太平洋を航海して真珠湾を攻撃する物語

はありませんでした。従って攻撃目標が真珠湾であることを示す情報があっても気づきませんでした。
 

このように人は自らの物語にないことは無視します。そのため多くの人はバックアッププランを持ちません。例えば新規事業や設備投資が失敗した場合、どのようにリカバリーするのか

失敗することは物語にないため考えられないのです。しかし現実には必ずうまくいくとは限りません。

うまくいかなかった時の対処方法を事前に考えておくことはとても重要です。

 

エキストリーム・スキーヤーのケビン・アンドリュースはこのように語っています。
山頂からのクリフ・ジャンプをする場合、A案、B案の二つを必ず用意する。A案は成功した場合、B案は失敗した場合

B案がないと、生きて帰れないからね

 

今までの教え方

 

マニュアルを読めばできる

多くの人は新人に仕事の手順を書いたマニュアルを渡せば、それを読んで仕事はちゃんとできると考えます。しかしマニュアルは作業内容を文書や図で示したものにすぎず、必要なことがすべて書かれているわけではありません。

作業者はマニュアルの「文章」から「どのように行動すべきか」という概念を頭の中でつくります。しかしマニュアルの文章を理解しても、文章を正しい行動に変換するには作業の背景の知識が必要です。この知識が不足すれば、マニュアルを読んでも誤った理解や行動になってしまいます。
 

教えたことを相手は理解する

そこでマニュアルを読むだけでなく、口頭で要点を伝え、実際にやっている姿を見て誤りがあればそれを訂正すれば正しい作業を習得できると指導者は考えます。

確かに直接指導すれば、誤った行動は修正されます。ただし指導内容を十分理解するためには、指導者と同じレベルの背景の知識が必要です。知識が少なければ教えたことを十分に理解できません。さらに理解が不十分だと、知識は断片的で相互に関連していません。つまりしっかりとした物語ができないため、短期間に忘れてしまいます。
 

自分と同じように考える、自分と同じように気づく

指導を受けて、実際に作業を行っている時、ミスやトラブルが起きることがあります。「指導者は丁寧に指導したから相手は、ミスやトラブルに気づいてくれる」と期待します。しかし「何が正しくて、何がダメなのか」指導を受けても、その背景にある知識が十分になければ、教えられたことから少しでも違っていればもう判断できません。
「こんなのは見ればダメなことがわかるだろう」
と指導した側は言いますが、それを作業を始めたばかりの人に期待しても無理があります。
 

図4 指導者と同じように気づくのは…

図4 指導者と同じように気づくのは…


 

相手に自発的に考えさせれば訓練効果は高まる

高いモチベーションを持って取り組んでもらうには、一方的に指導するティーチングでなく、質問を投げかけて相手に自発的に考えてもらうコーチングを行うべきという考え方があります。しかし自発的に考えるためには、その仕事に対して一定の背景知識を持ち、作業における物語を理解する必要があるのです。
 

教えられる側の闇と教える側の認識

初めてその職場に入った人は、その職場での仕事に関する情報が極めて少ない状態です。その状態で仕事のやり方を教えても、教えられたことを十分に理解できません。しかもマニュアルはその仕事に関して限られた情報しかないため、マニュアルに書いてないことはその都度自分で考えたり人から聞かなくてはなりません。
 

これは図5に示すような自分の仕事しか見えない視野の狭い状態です。こうしたわからないことが多く不安を感じて仕事をしている中で「やってはいけないミス」「気をつけなければならないポイント」がいくつもあります。

仕事を始めてある程度の期間が過ぎると、様々なことが見えてきます。視界が広がり、やってはいけないことや注意すべき点に関する情報が、関連性をもって把握できるようになります。情報が単独でなく相互に関連することで、物語ができて理解も深まります。

熟練者は、やってはいけないことや注意すべき点以外の様々な情報をもっています。相互の情報は関連付けられ、全体がひとつの物語を形成します。この状態になれば、その仕事に関して重要なことや重要でないことがわかり、現場で起きたことに対して適切に判断できます。
 

図5 初心者の闇

図5 初心者の闇


 

理解するために必要なこと

このように指導する側は、指導したことで適切な作業が行われることを期待します。しかし実際は、教えたことは完全には伝わらず、しかも相手は十分に理解していないため様々な問題が起きています。これを防ぐためには、どのような工夫が必要でしょうか?
 

背景知識の学習

新しくその職場に来た人は、その会社や工場の仕事に関する背景知識がありません。その状態で、作業の手順だけを教えても相手は十分に理解できません。その結果、習得に時間がかかり、作業中に発生する問題や異常に気付きません。
 

そこで

作業手順の指導と併せて、必要な背景知識を伝えます。

仕事の手順だけでなく、仕事がうまくいったときの姿、成功イメージを伝えます。さらに今から教える内容の全体像を伝えます。

さらにその仕事に関係する情報、顧客の要求、製品であれば市場での使われ方も伝えます。

そして、その仕事の前後工程や、関係する人や部門も伝えます。こうして自分が全体のどの位置にいて、これから行う仕事がどのような意味を持つのか、仕事の背景知識を伝えます。
 

相手が消化できる量

しかし人が一度に理解できる量は限りがあります。なぜなら指導を受けた内容をそれぞれ同士を相互に関連付けて、物語をつくらなければならないからです。しかし短時間に大量の内容を教えれば、受けた側は物語を構築できません。単なる断片的な知識の羅列となってしまいます。そしてすぐに忘れてしまいます。

そのため

一度に教える量は、相手が吸収できる量にとどめます。

そうなると一度に必要な情報を全て伝えられないので、何回かに分けて段階的に伝えます。こうすれば呑み込みの早い一部の人だけは習得できるけど、他の人はしっかりと習得できないということはなくなります。
 

図6 食べきれない量を渡されても…

図6 食べきれない量を渡されても…


 

もし指導者の説明が⻑々と続いてとても時間がかかる場合は、一度に習得させようとする分量が多いためです。1日で内容を全て盛り込もうとするため、説明は長くなって聞いている方は全てを理解できなくなります。この場合、1回の説明は相手が一度に吸収できる量にとどめます。そして、1度説明した後、実際に作業を行って指導内容を頭の中で体系化させます。それから次の内容を説明します。
 

TWI教え方の4段階

TWIとは、Training(訓練)Within Industry(企業内の)for supervisors(監督者のための)の頭文字をとったもので、チャールズ・R・アレンがヨハン・フリードリヒ・ヘルバルトの4 段階教授法と職業分析を適用したOJT(On-the-Job Training)を元に開発しました。

第二次世界大戦当時、米国で広められ、日本には第二次世界大戦後,占領軍によりもたらされました。その後、労働省(現在の厚生労働省)によって広まりました。

現在は日本産業訓練協会(日産訓)や都道府県職業能力開発協会などで行われており、トヨタ自動車も取り入れています。
 

TWIでは仕事の教え方を4段階に分けます。

  1. 習う準備をさせる
  2. 気楽にさせ、作業の説明を行い、その知識を確認し、覚えたい気持ちにさせる

  3. 作業を説明する
  4. 主なステップを言って聞かせ、やって見せ、急所を強調する

  5. やらせてみる
  6. やらせてみて、間違いを直す。その作業をわかったと分かるまで確かめる

  7. 教えたあとをみる

教えた後を確認し、質問するように仕向け、独り立ちさせる。

このように段階的に教えることで、指導を受ける側が指導内容を十分に咀嚼することができ、教えたあとは正しくできているか確認することで確実にできるようにします。このTWIのプロセスは、背景知識の習得スピードに合わせた指導ともいえます。
 

最初は見るべきところも教える

十分な背景知識がなければ、現物を見てもどこに問題があるのか気づきません。経験を重ねて仕事に対する知識や理解が深くなり、背景知識が十分になれば、現物を見て問題点を見つけることができます。しかしそれまでは「どこを見るべきか、どんなものが出たら不良なのか」見るべきポイントと見るべき内容を伝えます。「こんなものは見ればわかる」は新人には通用しません。
 

背景知識の進化に合わせて何度も指導

仕事ができるようになれば背景知識が増えています。背景知識が増えれば、今まで気づかなかったことも気づくようになります。この段階で、よりレベルの高い内容を指導します。 例えば、それまでは問題を発見したら手を止めて報告するようにしていました。しかし問題の原因と対策を指導し、問題を発見したら原因を究明して対策案を考えます。

こうして相手の背景知識の進化に合わせて何度か指導することで、観察力が高まり、気づきの幅が広がります。これはスポーツで技量が向上すれば、より高度な練習を行うことに通じます。
 

図7 徐々に高度な練習を…

図7 徐々に高度な練習を…


 

フィードバックと評価

人は自分のことはわからないものです。指導を受けた結果、自分一人で仕事ができるようになれば、その結果、自分が今どのくらいのレベルなのかを本人に伝えます。なぜなら人は自分のことを過大評価するからです。適切な評価がなければ「自分は仕事ができる」と思い込んでそれ以上進歩しなくなります。

特に自信過剰なタイプは、十分にできていなくても「自分はできている」と思い込んでいます。指導者はその人の能力や成果をできる限り定量的、かつ客観的に評価します。そしてデータと共に本人に知らせます。
 

こうしたフィードバックがさらに成⻑を促します。例えば、仕事の優先順位をつけられるようになるためには、与えられた仕事のTo Doリストとスケジュール表をつくらせます。そしてTo Doリストに従って仕事をスケジュール表に記入し優先順位を決めさせます。指導者は結果を確認し、優先順位が違っていれば修正させます。このように紙に書けば、指導者が確認することができ優先順位のつけ方を指導できます。
 

できる人は「できない人をできるように」できない

身体的な作業や技能は、

本人ができない時は、できる時のことが全く想像できません。

一方できるようになれば、できなかった時のことは忘れてしまいます。つまり

できる人は、できない人に「どうすればできるようになるのか」指導するのは難しいです。

むしろ新人教育では、新人が間違えたり、習得に苦労した点を集め、「どうやって新人ができるようになったのか」ヒアリングして、「できるようになる方法」を調査した方が、効果的な教育カリキュラムになります。
 

失敗への対応

うまくいかなかった時、失敗した時、どのように指導したらよいでしょうか?

その対応が悪ければ、その後も間違った行動をしてしまいます。
 

人のせいにする

失敗を人のせいにする理由は以下のふたつが考えられます。

  1. 自らの責任と認めれば組織内の立場が不利になるため、失敗の原因が自らにあっても頑として認めない。
  2. 本当に失敗の原因は自分にないと思っている。

 

前者の場合は、原因は担当者の責任を追及する組織の問題なので、これを解決しない限りなくなりません。一方、本来は正しい原因が分かっていても、「責任は自分にない」という主張を繰り返していると、責任が自分にある場合でも本当に自分のせいでないと思うようになってしまいます。その結果、問題の原因を正しく突き止められなくなります。従ってこういった姿勢は改める費用があります。

後者の場合、「自分は失敗しないという物語にとらわれて本当のことが見えなくなっている」あるいは「問題と原因の正しい因果関係がつかめない」のいずれかです。
どちらにしても失敗の正しい原因がつかめず、適切な対処や再発防止ができません。発生した問題とその原因を的確につかめるように教育します。
 

ケアレスミスが多い

原因のひとつは、背景知識や物語が不十分なため、注意が十分に行き届かず、ミスが起きてしまうことです。「どのようなところでミスが起きるのか」よくわかっていないため、必要なところを確認せずミスがあればそのままになってしまいます。

経験を積むまでは、確認すべきポイントを具体的に示します。

経験を積んで十分な背景知識を獲得すれば、確認すべき点もわかるようになります。

二つ目の原因は元々の作業手順が、ミスが起きやすい手順の場合です。この場合は、手順そのものを見直して、ミスが起きなく異様なやり方に変えなければなりません。
 

手を抜く

原因のひとつは作業の中で優先すべきことがわかっていないためです。ものづくりでは正しいは最も優先すべきことです。それでも手を抜いて正しい手順で行わないのは「時間を短くする」、「自分が楽になる」など他のことを優先するからです。またその結果どのような結果をもたらされるのか、なぜ正しい手順を変えてはいけないのかが分かっていないからです。従ってそのことを組織のメンバーに十分に伝えます。

あるいは与えた仕事が単純作業のため「やらされ感が強く、意欲が低下している」ためです。単純作業だから手を抜いていいということはありませんが、本人のやる気と注意力を高めるためにはあまりにも単調な単純作業は避けるようにします。
 

悪い報告が来ない

何が悪い報告なのか、悪い報告はどのようなタイミングで上げなければならないのか、これは組織により異なります。

新人には、「悪い報告とは何か」「それはいつ上司に報告するのか」具体的に伝えます。
 

組織の中で理解に必要な文脈が変わっていないか

組織は目標を決めてそれを達成するために努力します。しかし常に目標が達成できるとは限りません。目標が達成できない時、何を優先すべきか、それは組織の背景の知識や文化に依存します。

組織のリーダーが目標の難易度を無視して、何が何でも達成するように強要すれば、何かを犠牲にして目標を達成します。これが昨今の企業不祥事の原因ではないでしょうか。
 

組織の目標達成は重要です。しかし物理的に期限までに達成できない場合、

リーダーは、できないことを認めなければなりません。

それが認められなかった時、燃費の測定値を改ざんや、不正な排気ガス処理をするエンジン制御プログラム、必要な手順を省いた車検が行われるのではないでしょうか。その結果がもたらすものは、僅かな数値の向上よりもはるかに甚大な被害になるのですが。
 

重要なことは、他の何を差し置いても優先する姿勢が、組織のリーダーには必要です。

アメリカの航空⺟艦で訓練のため、艦載機が次々に発進しました。その後、格納庫の整備係はレンチが 1 本見つからないことに気が付きました。上司に報告したところ、直ちに艦⻑に情報が届き、艦⻑は以下の指示を出しました。

  • 訓練は即停止、艦載機は安全のため地上の基地に着陸
  • 全員でレンチを探す
  • 報告した整備士は表彰

こういった組織文化、背景知識の元では、不正は起きないのではないでしょうか?」
 

参考文献
「知ってるつもり 無知の科学」スティーブン・スローマン、フィリップ・ファーンバック著 早川書房
「仕事の教え方」 関根雅泰 著 日本能率協会マネジメントセンター
「教え方の教科書」 古川裕倫 著 スバル舎

 

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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組織の進化形『ティール組織』

「上司が部下の管理を行わない」
「社員がやりたいことを自由に決める」
今そんな組織が話題になっています。

フレデリック・ラルーが2014年に著書「Reinventing Organizations」で提唱した組織のことです。日本語版「ティール組織」は2018年に発刊され、7万部を超えるベストセラーになりました。

今日、単純作業は減少し、創造的な業務はますます増えています。にもかかわらず、従来の業務管理手法では社員の創造性を十分に引き出せません。

しかも新型コロナウイルスでテレワークが普及しました。上司はオフィスにいない社員の仕事を管理しなければなりません。しかし上司は部下の仕事ぶりを直接見ることができません。
ティール組織は、これらの課題を解決する次世代の組織なのでしょうか?

ティール組織について考えてみます。
 

ティール組織とは

ティールとは何を意味するのでしょうか?
 

ティールは、青緑色という意味の英単語です。ラルーは、組織の進化過程を5つに分類しました。そしてそれぞれ5つのモデルを色で分けました。その中で、最も新しい組織モデルをティール(青緑色)で表しました。

ラルーは社会や組織を研究し、人の意識が高くなれば組織は次のステージに向かうと考え、そのステージを進化型組織と名付けました。そしてラルーは実際に実現している企業を調査し、その結果を「ティール組織」で出版しました。

ではラルーの考える組織のステージとはどのようなものでしょうか?
 

ティール組織の概要

ラルーは組織のステージを色で表現しました。組織が形成される以前のステージ、家族単位での集団を無色、部族単位でのグループをマゼンタで表現しました。
 

図1 組織のステージ

図1 組織のステージ


 

レッド組織(衝動型組織)

レッド組織とは

最も古い組織です。

圧倒的な力を持ったリーダーにより、各メンバーに対する強い上下関係があります。組織内はリーダーが恐怖によってメンバーを統率・支配しており、代表的なレッド組織はマフィアやギャングなどです。

自己中心的な考え方のメンバーによって構成され、自分以外の人間を脅威と思っています。恐怖により支配しているため、リーダー自身もメンバーからの脅威に対抗しています。メンバーは圧倒的な力のあるリーダーから自分を守るために無条件に従うしかありません。

レッド組織は将来的な発展や成長を考えず、短絡的・衝動的な行動を取ります。実際の日本のやくざ組織などは、恐怖というより情と相互依存関係で成り立っています。
 

組織論の視点

組織論ではフラット型組織です。トップがすべてのメンバーを直接指示します。

意思決定が早く、小規模な組織では効率が高いですが、組織の成果はリーダーの力量に左右されます。各メンバーは常にリーダーの方を向き、メンバー間の協力は希薄です。自分に都合がよいように他のメンバーを貶めたり、リーダーへごまをすることもあります。
 

アンバー組織(順応型組織)

アンバー組織とは

権力や階級、制度などの概念が組み込まれたピラミッド型組織です。組織の中での各メンバーの役割は決まっています。

指示はトップダウンで、組織の階層を上から下へと向かい、短時間に効率よく組織が動きます。組織ルールに基づいて運営され、組織内での秩序が重んじられます。

安定して運営ができますが、変化への対応は弱いです。特定のリーダーに依存しないため再現性が高く、組織は長期的に継続できます。政府機関や宗教団体、軍隊などがアンバー組織に該当します。
 

例えば、軍隊は戦闘のため何万人もの兵士が組織的に行動します。トップの司令官の命令に従い、末端の兵士は即座に的確に行動して作戦を遂行します。軍隊では命令は絶対服従で、命令に背けば軍法会議にかけられます。変化に対する臨機応変の対応力には弱く、過去の戦争でも想定外の事態に対応できず甚大な被害を受けた例は多いです。
 

組織論では官僚型組織

組織の構成員が増えると、フラット型組織はメンバーへの管理が不足し、活動が非効率になります。メンバーを効率よく組織化し、系統的に指示命令を行うために組織を階層型にして、メンバーには階層に応じた役割を分担します。重要な意思決定は上位階層が行い、メンバーはそれに従います。

実際に業務を行う末端のメンバーからの現場の情報は、トップに伝わりにくく、時間がかかります。しかも途中階層の管理者が情報を歪曲することもあります。ピラミッド型組織では、組織の存続自体が目的化します。部門間で対立が生じ、組織の効率は低下します。
 

オレンジ組織(達成型組織)

オレンジ組織とは

ピラミッド型の階層ですが、メンバーは成果を挙げれば階層を上に上がることが(昇進)できます。能力のあるメンバーを活用し、組織の成果を高めることができます。

組織の第一の目的は成果を上げることです。目標と実績管理を徹底し、メンバーに対し常に目標を達成するための努力と高い意欲を求めます。組織の価値観は目標とその達成、メンバーに対しては評価と昇進です。
 

組織論では

組織論では同じピラミッド型組織です。目標管理と評価制度、昇進の仕組みが組織に組み込まれています。アンバー組織はオレンジ組織ほど緻密な目標管理と評価制度がなく、評価は失敗による減点方式(アンバーの例 行政機構)です。
 

グリーン組織(多元型組織)

グリーン組織とは

オレンジ組織のようにトップダウンで目標を設定するのでなく、メンバーにある程度裁量権を持たせた組織です。リーダーはメンバーの主体性を尊重し、メンバーが最大の成果を出せるようにサポートに徹します。サーバント・リーダーシップ(サーバント召使の意味)と言われます。

メンバーの多様な価値観を認めていますが、トップの強制がないため、組織が行動するにはメンバーの合意形成(コンセンサス)が必要になります。そのため意思決定プロセスが複雑で意思決定に時間がかかります。ただし、コンセンサスを取っても最終的な決定権はリーダーにあります。
 

組織論から見ると

組織は階層型ですが、ボトムアップ型のアプローチとメンバー間の合意形成の点が異なります。

多くの日本企業は根回しや会議でのコンセンサスなどメンバーの合意のプロセスがありますが、リーダーが自身の保身や業績に意識が向けばコンセンサスが歪みます。例えボトムアップで良い提案が出てもリーダーは自分に都合の良いもの、リスクの低いものしか許可しません。

ラルーは、意思決定のプロセスから組織の進化を「リーダーの指向がアンバー(昇進)、オレンジ(成績)であれば、ボトムアップやコンセンサスなどグリーン組織のプロセスがうまくいかない」と述べています。
 

ティール組織(進化型組織)

各メンバーが体の組織のように自律的かつ調和的に協働することで、組織が「一つの生命体」のように活動します。
リーダーに強い権限がなく、メンバーが多くのことを決定します。メンバーは組織の社会的使命を理解しており、メンバー間のコンセンサスよりも自らが進んで課題を解決することを優先します。そのため、意思決定に時間がかかりません。

ではこの進化したティール組織とは、どのようなものでしょうか?
 

ティール組織の特徴

最初の特徴は組織の存在目的を問い続けることです。

存在目的(Evolutionary purpose)

ティール組織のリーダーは「なんのためにこの組織は存在しているのか?」と組織の存在目的を確認し続けることが必要です。

組織が陳腐化することを防ぎ、生命体のように組織自身を変化させ続けます。これをEvolutionary purpose、つまり「進化する目的」と呼びます。それには常に耳を澄ませ、組織が将来どうなりたいのか、感じ取る(センシングする)ことが必要です。なぜこの組織は存在しているのかを、組織のメンバーひとりひとりが考え続けます。もし一人でも新しい人が入れば、組織の存在目的が変わることもあります。
 

3つの問い

  • 「あなたの組織はこの世界に何を実現したいか」
  • 「世界はあなたの組織に何を望んでいるのか?何を期待しているのか?」
  • 「あなたの組織がなかったら世界は何を失うのか?」

 

【誰も座らない椅子】
会議に「誰も座らない椅子」という空席を設けます。会議中、必要に応じて、誰かが着席して組織の声を代弁します。
この椅子は「組織の存在目的」を表す意味があり、参加者に常に目的を確認しようというメッセージを発します。
 

図2 誰も座らない椅子

図2 誰も座らない椅子


 

事例企業 FAVIの存在目的

  • 仕事の少ない北フランスの田舎町アランクールに十分な雇用を生み出すこと
  • 顧客に愛を届け、愛を受け取ること

存在目的がメンバーに浸透すれば、組織の運営は今までとどのように変わるのでしょうか?
 

自主経営(Self-management)

旧来組織のようなピラミッド構造の指示命令系統がなく、各メンバーが自分の裁量で意思決定を行うことができます。そのためには会社の情報は開示され、透明性が保たれています。ただし、メンバーが意思決定する際、2つの助言プロセスを経なければいけません。

  • その決定に対して専門性の高い人に助言をもらう
  • その決定に影響がありそうな人からも助言をもらう

そして相談されたら、真剣にアドバイスをします。

意思決定を実現するために、多くの事例ではチーム単位で活動します。チームのメンバーの目があるため、自分の利害だけで動くことはできません。各自が適切に判断するには、情報の透明性と社員への信頼が不可欠で、もし失敗したとしても励ましあう企業文化が必要になります。

経営や財務情報なども社員に全て公開し、経営者は社員を信用することが不可欠です。ティール組織には予算も計画もありません。その理由は、未来はコントロールできないからです。従来の管理と統制は、未来はコントロールできる前提で、実際に現実のコントロールを求められます。しかし現実には未来はコントロールできず、無理にコントロールを求めれば(成果を強要すれば)、メンバーは現実をゆがめてしまい、その結果企業不祥事が起きます。
 

セルフマネジメント

セルフマネジメントを成功させるには、明確な自社の存在目的や、社員の自立意識、情報の公開が必要になります。そういった環境が整備されていない中で、ティール組織はマネジャーがいないことだと間違った思い込みをし、マネジャーを廃止すると、以下の3つのパターンで終わってしまいます。

  • 混乱して終わる
  • あ、無理、となって元に戻る
  • マネジャーはいなくても全員社長の顔色をうかがっている

私たちは大組織で働くことや、ありとあらゆるものを押しつけてくる「本社の役立たず」について冗談を言うことに慣れてしまっていました。ところが今や自分たちですべてをしなくてはなりません。他人に文句を言える立場にないのです。(ビュートゾルフの看護師)

 

報酬は自分たちで決める

ゴアテックス素材で知られる会社、W.L.ゴアは、1年に1度全社員が同僚たちを格付けします。この人は私よりも多く(あるいは少なく)会社に貢献していると格付けすればプラス3からマイナス3まで評価をし、この人には私を評価できる十分な材料又は根拠があると思えば、1から5までの段階で評価をします。これをアルゴリズムで何段階かの給与ベースにグループ分けをします。
 

事例 かつてのソニー
天外氏の言うソニーの不良社員たちは「上司の承認なんかもらったことがない」人たちです。勝手にOKを取り付けてきて後から報告します。天外氏がソニーの事業本部長の時、部下は、勝手に事業本部長のハンコを押して書類を回していたこともあるそうです。

メンバーが自主的に運営するティール組織、ではリーダーの役割はどのようなものでしょうか?
 

全体性(Wholeness)

トップをはじめとして全員が自分の弱さをさらけ出します。メンバーが自分の力を最大限に発揮するには、組織はメンバーがありのままの自分自身を出せる場所でなければなりません。リーダーが率先して自らの弱みを見せることが必要になります。

  • オレンジ組織はタフネスさが求められる タフネスさの鎧を着る
  • グリーン組織ではポジティブさが求められる ポジティブさの鎧を着る

 

図3 ポジティブさが求められる

図3 ポジティブさが求められる


 

グリーンは幸せで給与も高いかもしれませんが、

ポジティブを求めすぎています。

人は良い時もあれば悪い時もあり、笑顔がコンピテンシーになれば無理に笑顔をつくってしまいます。メンバーは組織で仮面をかぶらなければいけなくなり、経営者が良い会社レースを始めると、社員は自然と笑顔を強制させられます。

ティール組織ではメンバーは鎧を脱ぐ必要があります。ネクタイとスーツを鎧とすると、リーダーはあえてだらしない恰好を見せるのも一つの方法です。その方が相手も鎧を脱ぎます。

エゴは人間のエネルギーで、そのエネルギー自体は良いも悪いもありませんが、それが自然の摂理や道理、原理原則から外れるとエゴになります。リーダーのエゴが出てきてしまうと、意思決定に違和感が出ます。権力や肩書がなければ、意思決定が組織の存在目的や原理原則からずれた時に

「これはおかしいのではないか」

とお互いに言えます。
 

組織に鏡の役割の人をつくる

リーダーであれば、チームやメンバーをコントロールしたいという自分のエゴが出てくることがあります。リーダーのエゴを「それはおかしいのではないか」「組織の理念、存在目的に照らしてそれはどうか」と、トップに進言できる人が組織には必要です。この人は組織の鏡の役割を果たします。優れた経営をしている会社には鏡の役割の人がいます。優れた経営者は無意識にそういった人(耳の痛いことをいう人)を育てています。
 

事例
フランスの金属部品メーカーFAVIが深刻な不況に陥った時、社長のゾブリストは、臨時社員を解雇するかどうか、全社員を集めて自分の悩みを話しました。
すると社員は、自らの給料を25%カットし臨時社員を残すように進言しました。1時間も立たないうちにこの問題は解決しました。
 

その他

紛争解決

紛争になった時は、以下を試して解決します。

  1. まず直接会って二人だけで解決しようとする
  2. 解決できなかった場合は、信頼できる別の同僚に調停を依頼する
  3. 調停がうまくいかない場合、同僚たちの委員会を招集し、両者の言い分に耳を傾けて合意形成の手伝いをする
  4. 最終的にはCEOが呼ばれる

株式新聞の刊行元であるモーニングスター社の仕事の進め方の二つの原則

  • 個人は決して他の人に何かを強制してはならない
  • それぞれの約束を守ること

 

目標を設定しない効果

目標数値を設定することは、自分たちが未来を予測できるという前提に立っています。
その結果、

  • 内なる動機から遠ざかった行動をするようになる
  • 新しい可能性を感じ取る能力がせばまりがちになる

といった、視野を狭くする危険性があります。

このように聞くと理想的な素晴らしい組織に感じます。でも実際に運用している組織はあるのでしょうか?
 

事例

ラルーがティール組織と考えた組織は12社で、従業員100人以上の組織を対象としています。ただしすべてがティールというわけでなく、ティールとグリーンの中間的な組織もありました。
 

AES

1982年ロジャー・サントスとデニス・バーキによって設立されたエネルギー企業で、世界中に12の発電所を持ち、従業員数は4万人です。
 
                                   

ビュートゾルフ

2006年にヨス・デ・ブロックと看護チーム10人によって設立された高齢者や病人の在宅ケアサービスを行うNPO組織で、従業員7,000人です。バックオフィスは30人、大半がコーチで間接部門はほとんどありません。7,000人の看護師は、お互いにほとんどが会ったことがありません。困った時は社内SNSで専門知識を持った誰かに質問ができます。新しい質問が投稿されると、数時間のうちに数千人の看護師が閲覧し複数の回答が書き込まれます。

効率を上げるために電話を取るなどの雑用をなくすことで、看護師は介護に専念できます。介護も標準時間を決めてできるだけ多く訪問するようにし、マニュアルをつくってマネジャーを置きます。しかし利用者からみると、毎回看護師が変わる、時間が来ると話の途中でも帰ってしまうなどの不満が発生し、看護師からももっとやってあげたいことがあってもマニュアルにないからできないなど、仕事にやりがいがないと問題になりました。

2006年代表のヨス・デ・ブロックはマニュアルを廃止し、看護師が好きなようにサービスできるようにしました。
例 利用者と一緒に遺書を書くなど

利用者のためになるのであれば、介護の利用をやめて地域コミュニティに参加することも後押ししました。その結果、利用者満足度がオランダでNO.1になりました。
 

FAVI

1957年設立のフランスの金属部品メーカーで、主力製品は自動車のトランスミッションのシフトフォークです。1983年にジャン・フランソワ・ゾブリストがCEOに就き組織改革を行いました。従業員数は500人です。

ゾブリストがCEOに就いた時は従業員80人、典型的なピラミッド組織でした。ゾブリストの就任前は一人一人の出来高を計測し、ノルマに達しない場合は給料を減らしていましたが、ゾブリストは計測とノルマを撤廃しました。その結果、生産性は上がりその日の生産が終わるまでは進んで残業するようになりました。給料をもらうためだけに働くのでなく、自分の仕事に責任を持ち、きちんと仕上げることに誇りを持つように社員が認識したためでした。そしてチームとして目標を達成するため、やる気のないメンバーがさぼらないように周りメンバーが圧力をかけるようになりました。

現在はミニファクトリーと呼ばれる15~35名の21チームが活動し、各チームは特定の顧客や製品ごとに作られ、営業、生産管理、資材、人事など全ての機能を有しています。
営業は自分のチームに仕事を与えることが最大の目標です。「○○ドルの仕事を取った」のでなく「○○人分の仕事を取った」という意識です。

チームごとの仕事量がアンバランスになるとチームの代表者が集まり、忙しいチームへ何人応援するかを決めます。そして自分チームから応援に行っても良いというポランティアを募ります。各チームが必要な金額した要求しないため、予算調整も必要なく、そのままゴーサインが出ます。
 

サン・ハイドローリックス

油圧カートリッジとマニホールドの設計、及び製造をしている企業です。アメリカ、イギリス、ドイツ、韓国に工場があり、上場企業で従業員は900人です。

常に数百のエンジニアリングプロジェクトが動いていますが、これを全体に最適化することは困難です。どのプロジェクトを優先し、どのプロジェクトを落とすかは現場が判断します。
 

ティール組織と似た言葉にホラクラシー組織があります。ホラクラシー組織とはどのような組織でしょうか?
 

ホラクラシー組織

ホラクラシー組織はブライアン・ロバートソンの書いた「HOLACRACY 役職をなくし生産性を上げるまったく新しい組織マネジメント」で提唱された組織です。この組織の特徴は、人ではなくロール(役割)が主役となります。

従来の組織は人が階層構造をしたピラミッド組織ですが、ホラクラシーはロールが階層構造などで組織化されています。役割なので、ひとつのロールに複数人が当たりサークルとなることもあれば、他のロールと様々な関係を構築することもあります。ただし、階層の上位に決定権があるわけではなく、各サークルは独立しています。

意思決定のガバナンスもガバナンス・プロセスというロールに権限移譲されていて、ガバナンスミーティングでは組織の実態に合わせてガバナンスを定期的に更新します。

ホラクラシーは、個々のロールの責務や領域がすべて明確にされています。その上にホラクラシー憲法・メンテナンスされるシステムがあり、そのガバナンスの上には憲法という上位の規定があります。

つまり「何をしてはいけないか」を事細かく明文化することで、従来の階層型組織の管理を不要にする方法で、この点でティール組織とは大きく異なります。
 

図2 ホラクラシー組織

図4 ホラクラシー組織


 

ティール組織に対し、これまでの組織の問題は何でしょうか?
 

従来の組織の課題

管理と統制

ピラミッド型組織による管理と統制がうまくいかなくなってきた原因は、業務の複雑性が高くなり計画通りに結果が出なくなってきたためです。複雑性には2種類あります。

  • Complicated 飛行機のように膨大な部品の集合体、複雑だが順序良く解いていけば解決可能
  • Complex スパゲティが絡まっている状態、どうなるか予測がつかない、事前に計画を練っても無駄、失敗を覚悟してやってみて、その結果から次の対処を考える

 

図5 スパゲティが絡まるように予測がつかない

図5 スパゲティが絡まるように予測がつかない


 

Complicatedであれば、メンバーを組織化し、分担して取り組めば解決が可能です。
Complexであれば、計画は無意味です。やってみて失敗しながら、解決方法を見つけていきます。

そしてティール組織の世界観は、Complexです。

  • 未来は予測できない
  • 人は計画通りには動かない

失敗しないようにリスクを避けようとすればプロジェクトは進行しません。経営者には失敗すればすぐ首になるリスクも引き受けています。そこで組織はリスクを避けて一番安全に統率できるオレンジになります。またリスクのある提案に対して判断は慎重になります。その結果、メンバーは自分で考えなくなり、意欲は低下してしまいます。

管理し、統制を取るためにオレンジ組織になるのは、従来の従業員像が以下のようなものだからです。

  • 見張らないと怠ける
  • お金のためにのみ働く
  • 組織より自分の利益を優先する
  • 重要問題に適切な判断ができるのはトップだけ
  • いつ、何を、どうするのか、自分で判断できないため命令しなければならない。
  • 管理者は彼らが失敗した場合責任を取らせなければならない

 

これに対して、ティール組織で取り上げたAESの労働者観は以下の5点です。

  • 創造的で思慮深く、信頼に足る大人で、重要な意思決定を下す能力を持っている
  • 自分の判断と行動に対する説明義務を果たし、責任を取れる
  • 失敗したってかまわない。私たちは失敗するものだから。時にはあえて
  • ユニークだ (ユニークの意味は「他に類のない」「唯一無二の」「比類ない」)
  • 自分たちの才能とスキルを使って会社と世界に貢献したい

 

アンバー組織のメンバーは自ら考えることは求められておらず、指示を忠実に実行することが求められています。

人「手」がほしいと言うたびに、「頭」までついてくるとはどういうわけなのだ?(ヘンリー・フォード)

 

ピラミッド型組織のメンバーは組織の目標達成のために考え、努力することは求められますが、それはリーダーの指示する業務の範疇に限られます。しかしComplexな世界では、リーダーが事前に計画した通りにならず、しかもメンバーは自ら判断することが許されず、組織は硬直化します。

日本型組織では実務を担当するメンバーからボトムアップの提案が出て、この提案を多くのメンバーやリーダーと合意形成(コンセンサス)して意思決定します。しかしリーダーがリスクに対し消極的だとリーダーから却下されてしまいます。
 

目標と評価

オレンジ組織では、高い目標を設定しそれを達成するために、メンバーの努力を求めます。その努力はメンバー自身が望んだものでなく、やらされ感、ネガティブなイメージがつきまといます。目標を達成すれば、さらに高い目標が課せられるため、あえて成果を低くすることもあります。

  • 受注を減らす営業
  • 生産スピードを調整する製造ライン
  • 誰も高い目標を申告しない目標管理制度

目標管理をすることで、メンバーの力を抑えてしまっています。評価者が直属の上司一人なので、自分を上司によく見せようとする動機になります。上司へのごますりにエネルギーを割き、仕事の成果が落ちます。

ティール組織では社員同士の関係がウェブ上に非常に多く生まれます。同僚たち全員に自分をよく見せることは不可能なため、自分をよく見せようという気が起こらなくなります。

オレンジ組織は、葛藤が強く、葛藤を競争のエネルギーとして使っている人や、のし上がりたい人に向いています。人として、より進化すれば、のし上がりたい気持ちがなくなります。しかし、オレンジ組織のリーダーはのし上がりたい人がなります。そのためメンバーにも「のし上がりたい気持ち」を強く求めます。その点で、選挙に出て政治家になる人はのし上がりたい人ばかりです。そのため

政治は社会の進化の一番最後

になります。
 

図6 選挙に出てのし上がりたい

図6 選挙に出てのし上がりたい 


 

責任と意欲

多くの関係者による合意形成(コンセンサス)の特徴は、決めるまでは時間がかかりますが、決まれば実行は早いです。

ジェームズ・P. ウォマックの「リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える」では、日米の自動車メーカーの開発を比較して、日本メーカーはコンセンサスが得られるまでは時間がかかるが一度決まれば全員が協力して短時間に開発する、対してアメリカのメーカーは、決定は早いが決まってからもエンジン、車体、足回りなどの各担当がそれぞれの意見を主張し開発が進まない、と書いています。

しかしComplexな世界では、誰もリスクを完全に予測できず、どんな決定にもリスクが残ります。参加者全員に平等な発言権があるため、各々が勝手な発言をして決まりません。また決定したことに対して責任の所在が曖昧です。メンバーは「決まったことなので仕方がない」と従いますが、実行した結果うまくいかなくても自分の責任ではありません。こうして組織から情熱を奪っていきます。

失敗したという結果で十分に「罰」を受けているのに、その上、降格など組織上のペナルティを与えることは、一体どのような効果があるのでしょうか。ペナルティを受ければ責任を取ったことになるのでしょうか。
 

逸話
ラグビーU20日本代表元ヘッドコーチ中竹竜二氏は、選手に「好きにやってくれ。責任は絶対に俺が取る」と発言しました。それに対し、リーダー格の選手はこう言いました。「監督は結局何もやっていないのだから、俺が責任を取ります」「俺の働き方次第で今回は勝つか負けるかなんです」
 

図7 勝つか負けるか

図7 勝つか負けるか


 

しかし、責任感は沸き上がるものの、持てと言われて持てるものではありません。感謝、思いやり、責任感、主体性など、これらが信頼関係となって構築されなければチームとしてうまくいきません。感謝などは湧き出すものであり、教育や指導で身につけたものは無理があります。のちのち陰で愚痴を言ってしまいます。

ティールでは存在目的に対して、たまたま自分がその役割を果たしているだけで、組織全体が実現すればいいという考え方で、個人が責任を負う必要はありません。

では、これからはティール組織が広まっていくのでしょうか?
 

ティール組織の可能性と課題

方法論でなく思想

「ティール組織」は、よくあるコンサルタントが方法論を書いたものではありません。未来の組織はこうなるだろうという思想を述べたものです。ラルー自身、「今はグリーンの方が幸せかもしれない、ティール組織は馬車の時代であり、砂利だらけの道を誕生したばかりの車で走るようなもの」と述べています。
 

日本での事例は限られる

嘉村賢州氏は「ティール組織」F・ラルー著の解説者で、ラルー公認のティール組織の日本の伝道者です。NPO法人「場とつながりラボhome’s vi(ホームズ・ビー)」の代表を務め、ワークショップやファシリテーション、研修事業を行っています。従業員は10人です。

嘉村氏は自社をティール組織化に取り組んでいますが、自ら「まだ実現できていない」と認めています。

嘉村氏の会社で働く人は主婦や若者が多く、給料は高くありません。請け負う業務は行政からの仕事が大半で、単価の低い仕事も多い現状です。給与を自分で上げる仕組みもありますが、実際に上げたのは一人だけです。嘉村氏はティール組織化のコンサルティングを行っており、本格的に取り組んでいるのは2社です。日本でティール組織化を実現した例は限られ、現在ティール組織化へのノウハウもまだ少ない状況です。
 

ティール組織は将来組織がこうなるだろうという思想

ラルー自身、

「どうなるかわからないカオスの中に思い切って飛び込む以外にティール組織へ移行する手段はない」

と言っています。ラルー自身はティール組織化のコンサルタントでなく、「ティール組織」は将来組織がこうなるだろうという思想を表した本です。ラルー自身「今はまだグリーンの方が幸せかもしれない」と述べています。

このようにまだ生まれたばかりの思想と言えるのがティール組織です。にもかかわらずティール組織を導入するコンサルタントもいます。
 

ティール組織の誤解

組織と書いてあるため、企業で組織変更や組織改革のように「入れ物」と誤解されます。組織が入れ物であれば、自社に取り込むことは容易かもしれません。
 

ティールな企業文化

ティール組織は、実際は「ティールな企業文化」です。そして文化は組織を構成する人や人と人との関係性、明文化されていないものが含まれます。「ティールな企業文化」は自社に

導入するのに長い年月と自社独自の取組が必要

となります。他社の成功事例をポッと持ってきてできるものではありません。

それは、ティール組織は社員が変わることが必要だからです。
 

社員の成長が不可欠

セルフマネジメントが成功するためには、社員の高い自立意識が不可欠です。自ら意思決定するため、自分の責任はなくなりません(たとえペナルティがないとしても)。また、組織や組織の存在目的にとって最適な判断ができるように社員の成長が求められます。
 

図8 社員のやる気と成長が不可欠

図8 社員のやる気と成長が不可欠


 

アメリカのアパレル小売店ザッボスのCEOトニー・シェイ は、2014年ラルーのティール組織を読んで、導入を検討しましたが、最終的にはホラクラシーを取り入れました。トニー・シェイは、「ティール組織はコミュニケーションが得意で前のめりになっている人には良いが、ザッボスは小さな声の人にもそれなりに活躍して欲しいから、ティール組織はまだ難しい」と述べています。

一方、日本でも社員の新しい働き方に取組んでいる会社もあります。
 

サイボウズの取組

ティール組織ではありませんが、ソフトウェア会社のサイボウズ株式会社の創業者 社長の青野慶久氏の目指す経営も近いものがあります。
 

カイシャ(会社)は社員や経営者を支配する「モンスター」

青野慶久氏にとってカイシャ(会社)は社員や経営者を支配する「モンスター」であり、カイシャの代表であるサラリーマン社長は、他人から批判されないように売上と利益を最大化することに努力します。

社長が社会のためでなく自分のために働くようになると、自分のために働く部長を選ぶようになります。

そのため、職場にやらされ感が満ち、仕事は楽しくなくなり、社会の役に立っている実感もなくなってしまいます。青野氏は「サイボウズは永続させる必要はない、サイボウズは自分たちの理念を実現するためにある」と述べました。

青野氏は社員の意欲を高めるために「サイボウズのモチベーション創造メソッド」に取り組みました。

「サイボウズのモチベーション創造メソッド」では、楽しく働き続けるために「やりたい」「やれる」「やるべき」の3つが重なっている状態をどう打破するかを説いています。

  • 「やりたい」は変化する、経験を積み重ねると変わる。答えは自分の中にしかない
  • 「やれる」は拡大可能、スキルの向上、人のスキルを借りる(頼む)
  • 「やるべき」自分の意思で選択し、結果を受け入れる覚悟

サイボウズは複業が自由で、各拠点に社員以外のいろいろな人が集まるハブオフィスがあります。

このティール組織の背景には、ある思想がありました。
 

ティール組織をめぐる思想

ラルーの考えにある「センシング」未来を感じ取ることは、C・オットー・シャーマーのU理論に通じるものがあります。U理論では、複雑な(Complex)問題を解決するためには、関係者は双方の利害や調整レベルの話し合いや対話からお互いが深く共感する段階になる必要があります。そうなると答えは未来の方からやってくる、感じ取る「センシング」します。

この深い理解と共感から、今まで解決できない課題を解決する考え方は、「学習する組織の提唱者」のピーター・センゲや「シンクロニシティ ~未来をつくるリーダーシップ~」の著者ジョセフ・ジャウォースキーとも共通するものがあります。

日本ではU理論の翻訳者は中土井 僚氏、由佐 美加子氏ですが、由佐 美加子氏は天外伺朗氏と共著でメンタル・モデルという本を書いています。これを下図に示します。
 

図9 ティール組織をめぐる思想

図9 ティール組織をめぐる思想


 

コロナがもたらした変化と直面する課題

ラルー氏の提唱するティール組織は将来こうなるであろうという未来の組織であり、まだ一部の企業しか実現していないのが実情です。しかし新型コロナウイルスによりテレワークが急速広まり、オレンジ組織も従来の管理手法が行き詰ってきました。
 

テレワークの広がり

オレンジ組織、中でも日本企業は成果主義と言いつつプロセスも重視しています。結果が出なくても「頑張っていれば」評価され、その評価は上司が部下の日常を見ていることと同義です。また失敗を恐れるマネジャーは部下の仕事を細かく管理するマイクロマネジメントの傾向が強いです。

しかし、コロナ禍で急速に広がったテレワークは部下の頑張りがあまり見えず、マイクロマネジメントもできません。ZOOMのカメラを常時ONにさせて社員の日常を見張る企業や、オフィス以上に頻繁にオンライン会議を行う上司「Teamsテロ」などが問題になりました。

しかし、どれも問題の解決にはなりません。自立した社員との上司と部下との信頼関係がなければ、テレワークはますます非効率化するでしょう。
 

図10 広がるテレワーク

図10 広がるテレワーク


 

一方、社員は本当にティール組織のようなものを望んでいるのでしょうか?
 

自立を望んでいるのか?

ティール組織では責任はとらされませんが、自身の失敗に変わりはありません。そのリスクを負ってでも自ら考え、行動したいと思う社員がどれだけいるでしょうか。自ら考え、意思決定するためにはトップと同等の情報を得て、自ら考えなければなりません。そして適切な意思決定ができるようになるには、組織の存在目的が明確になり、それは言葉を理解するだけでなく、メンバーひとりひとりの腹に落ちていなければいけません。

一方、組織が進化しても、組織を取り巻く社会環境が変わらなければ新しい組織は社会に適合しなくなります。
 

遅れる法整備

現在の金融資本主義は、株主至上主義であり、市場は株主の利益の最大化を求めます。株主こそ、オレンジ組織の考え方の代表です。ティール組織の企業が意思決定の失敗で株価が下がると、従来のオレンジ組織に戻せ、経営者を交代しろと力を行使します。

実際AESは、2001(平成13)年12月2日の米エネルギー大手エンロンの破綻に伴うアメリカのエネルギー企業の株価の暴落のあおりを受けて、株価が大幅に下がりました。株主は従来のオレンジ組織を強く要求し、創業者のデニス・バーキは辞任しました。利益の最大化でなく、自社の存在目的を追求するティール組織は、利益の最大化を目的とする株主至上主義には合いません。
 

日本でティール組織の企業、ダイヤモンドメディア株式会社の武井浩三は、自社の存在目的を追求する企業を応援するために、ブロックチェーンをトークン化してそれを流通させました。経営者の主体性は維持した上で、資金を調達して儲けなくても良い会社を応援することを提唱しました。例えば、債権をブロックチェーンでトークン化して、その債権をトークン取引市場に上場するILT(Initial Loan Procurement ) などは、既に行われています。

同様に労働法制も従業員が職場で働いた時間分の対価を得るという昔ながらの労働観でつくられています。それをテレワークにも持ち込むため、管理がオフィス以上に煩雑化してしまいます。もともと労働法制は、組織とメンバーの間の信頼関係を前提としていません。

今はまだ馬車の時代、砂利だらけの道を自動車が快適に走るためには、ガソリンスタンド(株式市場)、道路環境(法整備)など様々な環境を自動車に合わせて変えていく必要があります。
 

図11 まだティール組織は馬車の時代

図11 まだティール組織は馬車の時代


 

参考文献

「ティール組織」 フレデリック・ラルー 著 英知出版
「ティール組織へのいざない」嘉村賢州 天外伺朗 著 内外出版社
「会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない」青野慶久 著
PHP研究所
 

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?その3

これまで日本企業は、終身雇用、年功序列賃金に代表されるように、企業が共同体として目標に向かって邁進することで成果を上げてきました。

しかし今日事業環境は大きく変化し、これまでとは異なったやり方が求められるようになってきました。そうなると社内で経験を積んだ人材が大きな成果を上げることは限りません。

急速に進歩するITによって事業環境が大きく変化する今日、これまでと同じような組織や人材に対する考え方でよいでしょうか?

これに対し、グーグルやアマゾンに代表される新興のテクノロジー企業(以降、テクノロジー企業)は、それまでとは異なった人材採用や企業文化・組織を採っています。
 

図1 組織・人材マネジメントの変化

図1 組織・人材マネジメントの変化


 

「これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?その1 ~グーグル、アマゾンと日本企業の比較~」では、テクノロジー企業が求める傑出した人材と、採用活動について述べました。

また

「これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?その2」では、傑出した人材を活用するための組織、企業文化を日本企業と比較して述べました。

今回は、傑出した人材の育成と評価について日本企業と比較して述べます。
 

テクノロジー企業の社員のやる気と能力を高める方法

テクノロジー企業が採用を重視するのは、傑出した人材の能力は、入社後の教育で高めることが難しいからです。それでもグーグルは入社後の教育プログラムがあります。

訓練より採用

テクノロジー企業が求める傑出した人材は、ランクの高い学校を出た人材でなく、

高い創造性と意欲を持ったスマートクリエイティブ

です。彼らは様々なことに関心を持ち、

自ら課題を見つけ、学び成長する「ラーニングアニマル」

でもあります。
 

そうじゃない人材を採用後に教育訓練を重ねても、傑出した人材に変わるのは困難です。そのためテクノロジー企業は教育より採用に力を入れています。これについてラリーペイジは以下のように語っています。
 

経営者をしていて意外だったのは、プロジェクトチームにとんでもない野心を抱かせるのは、とても難しいということだ。どうやらたいていの人は型破りな発想をするような教育を受けていないらしい。現実世界の現象から出発し、何ができるか見定めようともしないで、最初から無理だと決めてかかる。

グーグルが自律的思考の持ち主を採用し、壮大な目標を設定するためにあらゆる手を尽くすのはこのためだ。

適切な人材と壮大な夢がそろえば、大抵の夢は現実になる。たとえ失敗しても、きっと重要な学びがあるはずだ。

そしてたいていの会社はこれまでやってきたことを継続し、多少の斬新的な変化を加えるだけで満足している。だが、斬新的なアプローチではいずれ時代に取り残される。とくにテクノロジーの世界では斬新的な変化ではなく、革命的な変化が起こりやすいからだ。だから将来に向けて、あえて大胆な賭けに出なければならない。

グーグルが自動運転車や気球を使ったインターネット構築といった、一見すると荒唐無稽な事業に投資するのはこうした理由からだ。

いまでは考えられないが、ぼくらがグーグル・マップを始めたときも、すべての道路の写真を含む世界地図をつくるという計画は不可能という見方が大勢を占めていた。

過去が未来の参考になるとすれば、こんにちの大胆な賭けは数年も経てばそれほど突飛な試みには思えなくなるだろう。

 

ボトムアップ

傑出した人材を厳選して採用するテクノロジー企業ですが、それでも期待する成果を出せない社員もいます。

グーグルは、仕事の成果が下位5パーセントに属する社員には、この状況を伝え自らの能力を高めることを求めます。実は、上位5%に属する社員の能力を教育によって高めるのは容易ではありません。しかし下位5パーセントに属する社員の能力を教育によって引き上げることは十分可能なのです。つまり「できない社員こそ積極的に教育している」のです。

その教育方法は、同じ課題を何度も繰り返し与えるやり方です。

反復と集中によってその社員の特定の能力を引き上げます。

(これはプロスポーツ選手の練習と同じです。)
その結果、能力が向上し高い成果を出せるようになります。講師にはその業務に対し十分な能力を持った社内の人材を充てます。講師も教えることで自らの能力を高めることができます。
 

日本企業の企業文化と社員のモチベーション

これに対し、年功序列賃金と終身雇用を前提とした日本企業は、テクノロジー企業とは異なる企業文化があります。これが社員のモチベーションにも影響します。

ぶら下がり社員

年功序列賃金の場合、勤務年数が長くなると仕事の成果よりも報酬が上回るようになります。従って例え低い評価でも転職せず会社に残った方が収入は高くなります。(むしろ年齢が高くなれば転職自体が難しい。)

そのため賃金に見合った十分な成果が出せなくても組織に残るために、表面上はやる気を見せます。有給休暇も取らずに、長時間働いて周りにやる気や努力している姿を示します。あるいは人目につくところで仕事の成果を訴え、自らの評価を高めようとします。こうして成果が低くても、

やる気や努力を示して高い賃金を維持する「ぶら下がる社員」

が増えてきます。
 

前向きでない社員

日本企業の社員のやる気を調査した結果、「自ら何かに取り組む前向きなやる気」は欧米に比べて少ないことがわかりました。日本企業の社員のモチベーションは「やった方が良い仕事、やらなければならないからやる仕事」など、どちらかといえば消極的なものが多くを占めていました。
 

成果主義と能力と主義

本来の成果主義は、仕事の成果に応じて対価を払う仕組みです。成果が多い社員は報酬が高く、成果が少ない社員は報酬も低くなります。その点で成果主義は公平な制度です。

しかし多くの日本企業の成果主義制度は、合理的な基準で成果を定量的に評価せず、やる気や努力などの情意項目を加味しています。そのため評価者の見方や感情も結果に大きく影響します。
 

この成果主義に対して能力主義というものがあります。この能力は、目的の達成に貢献する職務遂行能力(職能)です。しかし「能力」の評価は難しく、実際に評価する際は、顕在能力(営業成績等の具体的な業績)に加えて、潜在能力(周りの期待)、知識、態度(性格・意欲)、経験などを加味して総合的に評価します。

日本企業の人事考課制度の多くがこのようになっています。そしてこういった評価では、あらゆる面でバランスの取れた人材の評価が高く、例え特定の分野で突出した能力があっても潜在能力、知識、態度、経験が低ければ低い評価になります。

激変する事業環境の変化に対応するのに

正解のない問題に取り組むのにバランスの取れた秀才ばかりで良いのだろうか

という気もします。実際に企業の人事考課表を見ても、努力している、積極的に、誠実に、といった定性的な記述も多く、これは評価者の見方や考え方(さらに好き嫌い)で大きく変わってしまいます。

さらに中高年になると、加齢によって能力が低下するという先入観もあります。しかし実際は頭脳労働は加齢による能力低下は少なく、学術研究などでは高い成果を上げる高齢の研究者もいます。従って真の能力主義であれば中高年は若い社員よりも高い戦力なのです。しかし

年功序列による高い賃金が中高年の活用の場を奪う

結果になってしまっています。
 

革新的な取組のできる人材

「これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?その1 、その2」で述べたように日本企業は、比較的均質な秀才の集団です。しかし事業環境が大きく変化する今日、企業がイノベーションを起こすには飛びぬけた発想や能力を持った人材が必要です。

しかしこういった人材は、他の面の能力は極めて低いことがあります。エジソン、アインシュタイン、チャーチルなどは、学校時代は落ちこぼれや劣等生でした。他にも優れた科学者や芸術家には、異常性が高く社会に適応できない人も多くいます。

ある面で傑出した能力があっても、社会的に不適応であれば、学校教育の段階でこぼれ落ちてしまいます。そのため就職活動の市場にそもそも出てきません。
 

テクノロジー企業の評価制度

こういったテクノロジー企業はどういった評価制度なのでしょうか?
 

報酬と評価を切り離す

テクノロジー企業において傑出した人材は、一般社員の何十倍もの成果をもたらします。そのためトップレベルの成果を上げた社員にはトップレベルの報酬が支払われます。

一方、人事評価制度は、社員の能力を伸ばすために運用されます。そこで社員の能力を伸ばすための評価制度と、報酬を決定するための制度は切り離すべきなのです。

これまで多くの企業の業績管理は、規則に基づく官僚的な手続きになってしまっています。その目的は業績の改善よりも社員の管理です。そのため社員からもマネジャーからも嫌われます。

例えばジェネラル・エレクトリック(GE) やマイクロソフトは、業績下位数パーセントに属する社員は解雇されます。ランク&ヤンク(昇進と解雇)という厳しい制度です。

これは社員にとっては「誰かが昇進すれば誰かが辞めさせられる」というゼロサム構造です。

その結果、社員同士の足の引っ張り合いが起きます。
図6 社員のランク付け

図6 社員のランク付け

そこでグーグルは従来の人事考課制度を廃止してOKRを導入しました。
 

格差の大きい報酬

グーグルの報酬四つの原則

  1. 報酬は不公平に
  2. グーグルの計算では、上位5%のプログラマーは平均的なプログラマーより23,000ドル、上位0.3%のプログラマーは平均的なプログラマーより50万ドルも多くの価値を創出します。そのためそれに見合った報酬を与えます。優秀な社員に与えられるストックオプションが100万ドル、またそれ以上の1万ドルのこともあります。

  3. 報酬ではなく成果をたたえる
  4. 愛を伝え合う環境づくり
  5. 社員が1人1回175ドルまでのボーナスを社員に支給できる仕組みがあり、社員が自分たちの業務に貢献した社員にギフトを送ることができます。

  6. 思慮深い失敗に報いる
  7. 例えプロジェクトが失敗に終わっても、担当者が責任を取るなど差別的な処遇を受けることはありません。やるべきことを間違えれば、当事者がどれだけ努力しても失敗におります。大事なのは失敗を責めるのでなく、その失敗を次にどう生かすかです。

 

周りからのフィードバックを生かす

グーグルでは部下の能力向上のために、同僚や上司からの積極的なフィードバックを推奨しています。本人に対して改善してほしい点、改めてほしい行動を積極的に本人に伝えます。この成長のためのフィードバックは、人事評価とは切り離されています。
 

アマゾンでは360度評価を取り入れ、直属の上司に加え同僚や部下、仕事で関係した社内の他の部署の担当者など様々な関係者からのフィードバックが評価に加味されます。評価を依頼された側は、逆に評価を頼むこともあるために真剣に評価します。
 

グーグルは前述のように業績管理をやめてOKRに切り替えました(OKRは目標管理のことで、詳しくは後述します)。3か月毎に会社の OKRを設定します。社員は会社のOKRの方向に合うように自分のOKRを設定します。CEOをはじめとして全社員のOKRを自社のイントラネットで見ることができます。お互い何を目標としているか知ることで、スムーズなコミュニケーションと高い協力関係が得られます。

実際グーグルはOKRを導入したことで業績が改善されました。OKRは目標と成長のためのフィートバックであり、報酬の査定とは切り離されています。
 

360 度評価はアマゾンでも取り入れられています。直属の上司に加えて、同僚、部下や仕事で関係した社内の他の部署の担当者などから、360度のフィードバックが加味されます
 

1対1のミーティング

インテル、グーグル、ネットフリックス、アマゾンなどでは上司と部下との1対1のミーティングを重視しています。 アマゾンでは一週間に一回30分程度の1on1 (ワンオンワン) と呼ばれる部下との定例ミーティングを行うことが義務になっています。

このように1対1のミーティングを重視するのは、大勢の前ではなかなか人は問題を打ち明けないからです。1対1のミーティングになって初めて部下の深刻な問題を聞いたということもあります。

コミュニケーションや情報の流れを良くするには、部下とのクローズな中で1対1のミーティングが不可欠です。

図7 1対1のミーティング

図7 1対1のミーティング


 

海外から導入された評価制度

元々成果主義は欧米の手法であり、コンサル会社などが欧米でのシステムや手法を導入することで、成果主義の他にもMBO、OKR、360度評価などが日本企業に導入されています。一方欧米企業と日本企業では、企業文化が異なるため欧米の手法を導入することで想定外の問題が起きることもあります。
 

【MBO (Management By Objectives】
日本でも行われている目標管理制度で、社員は1年毎に業績目標を決め、1年後に達成度を評価します。目標設定は本人と直属の上司で行い、達成度の評価も本人と上司が行います 。目標は業務上の成果が目標になることが多く、そのため達成度は100%が求められます。しかも多くの会社ではMBOの達成度は「昇進や報酬」に影響します。
 

【OKR (Objective and Key Results) 】
OKRも目標管理制度と同様に最初に目標を設定し、期間終了後に結果を評価します。
MBOとの違いは、
・目標設定と評価が四半期ごとに行われる
・頑張っても達成度が60%とか70%にしかならない高い目標を設定する
ことです。
そうすることでこれまで以上の高い成果を引き出すことを狙います。このOKRはインテル、グーグルなどが採用しています。OKRは達成度が明確にできる必要があり、以下に示すSMARTな目標でなければなりません。

  • 具体的 (Specific)
  • 誰でもわかる、明確で具体的な目標

  • 測定可能 (Measurable)
  • 目標の達成度は数値化、定量化され誰でも判断できる

  • 達成可能 (Achievable)
  • 目標は現実的で達成可能である

  • 経営目標に関連した (Related)
  • 経営目標に関連した組織にとって達成する意味のある目標

  • 期限がある (Time-bound)
  • いつまでに達成するのか、期限が設定されている

 

目標の達成は、個人だけでなくチーム及び会社組織全体に影響が及ぶこともあります。そうなると目標の達成は個人の力だけではできないため、目標達成と報酬は切り離して考えます。
OKRを効果的に運用するには、適切な評価と改善のためのフィードバックが不可欠です。これには1対1の面談も含まれます。
 

【360 度評価】
アメリカの企業で採用されている人事評価の方法で、上司以外にも他のマネジャーや同僚などの関係者が1人の評価を行って評価の公平性を高める方法です。日本でも公平性を高めるために導入する企業が増えています。部下が上司を評価したり、他の上司が評価することで今まで得られなかった情報が得られ、より公平な評価が実現します。

日本企業で360度評価を導入している企業は20%、かつて導入していたが今はやめている企業が17.7% ( 日本の人事部人事白書2018より)
 

360 度評価のデメリットとして、上司が部下から評価されるため、部下に対し厳しい態度がとれなくなる点があります。
あるいはお互いが良い評価になるように事前に談合したり、気に入らない特定の社員に対し結託して低い評価をつけたりといった不正の問題もあります。

一方、日本では社員をスペシャリストでなくゼネラリストとして能力を評価する傾向があります。そのため360度評価で、多くの社員から低い評価がついてしまった場合、挽回は困難です。(ゼネラリストとしての多面的な能力は簡単には向上しないため)
「人としてダメ」と烙印を押されたことになり、低い評価がついた社員のモチベーションは大幅に低くなります。

このように360度評価に限らず評価制度の問題点は、例え意欲が高い社員でもネガティブな評価がつくと、自己評価が下がってしまいモチベーションも低下してしまう点です。
 

日本企業の成果主義の失敗

成果主義はバブル崩壊後多くの企業に導入され、現在も多くの企業で使われています。しかし成果の比重を少なくするなどして制度を年功的なものに戻している企業もあります。その原因を以下に挙げます。

  • 成果を定量的に測定できず、そのため情意項目が多く、恣意的になっている
  • 賃金の引き下げは容易でないため、業績を的確に賃金に反映できない
  • 閉ざされた社会では誰かに高い評価をつければ誰かが低い評価をつけられるというゼロサム構造になってしまうため、社員同士で足の引っ張り合いが起きてしまう
  • 目標に対する達成度が評価となるため100%の達成度になるように低い目標を設定する

 

従来の人事評価制度は、評価が賃金の査定と昇進の両方に影響するため、評価が低いと給与だけでなく社内の地位や立場にも影響します。しかも評価項目に定量的な項目以外に、努力や姿勢いった情意項目もあるため、例え成果が十分でも頑張っている姿も見せなければ良い評価が得られません。
 

頑張っている姿を評価することは、グーグルは

目的よりもプロセスを重視するとずる賢い社員がシステム抜け目なく利用する余地が生じる

と考えています。実際同社では査定の時期が近づくと

「いかに自分が頑張っているか」

を上司に訴求する社員がいました。
 

人事評価のコンサルタントや人事評価システムの会社は、「適切な評価をおこなうことで組織の成果を高め、社員のやる気を高める」と主張します。しかし人事評価は社員のやる気を本当に高めるでしょうか?
 

本人が努力すれば評価が上がり、努力が少なければ評価が下がれば、モチベーションになります。人がSNSで記事や写真を投稿するのも、注目される記事や写真を上げれば「いいね」やフォロワー数が増えるからです。

努力すれば人事考課は上がるのでしょうか。人事考課が今まで述べたような仕事の成果だけでなく能力まで含んでいる場合、能力は短期間では上がらない(正確には同僚を超えない)と考えます。

そうであれば適切な評価は社員のやる気を引き出すでしょうか?

 

そう考えると能力と昇進(地位)と報酬(成果)は分けた方がよいかもしれません。

図8 昇進と報酬を分ける

図8 昇進と報酬を分ける

頑張っているはマチガイ

日本電産の永守会長は、テレビのインタビューで「今までのやり方に対し大反省をしている」と語っていました。新型コロナウイルスのためテレワークを推進したところ、大きな成果を出す社員がいました。会社に行かないことで時間が多く取れるようになり、今までより多くの電話を顧客にかけることができて受注が増えました。

永守会長は今までは会社での「社員の頑張りを高く評価」していましたが、今後は頑張りよりも結果を重視するような評価に変えると語っていました。
 

給料まで自分で決める会社

情報処理システムの製作・販売を行っている中国のある会社は、営業マンが自分の勤務時間や給与を自分で決めます。営業マンひとりの毎年の売上から仕入、自分の給与、経費などを引いた残りが利益になる仕組みです。給与を高く設定して目標の売上を伸ばす社員もいれば、低い給与で目標の売上を下げる社員もあります。同社では、多くの社員がこの制度に満足し定着率も高いそうです。
 

テレワークでの評価

新型コロナウイルスのため多くの企業がテレワークを導入しました。テレワークでは上司は社員の仕事ぶりを直接見ることができません。今まで評価していた「頑張っているかどうか」がわかりにくくなりました。これは今まで仕事の成果物を定量的に評価する仕組みがなかったことも原因です。
 

アメリカでは在宅勤務やテレワークを取り入れている企業は、2013年は58%でしたが2017年には62%に増加しました。常時在宅で勤務するフル在宅勤務の割合も2013年の20%に対し、2017年は23%になりました。(全米人材マネジメント協会 SHRM の調査)
 

アメリカのオートマティックという会社は57カ国に600人以上の従業員がいますが、全員がフル在宅勤務で働いています。日本でも東京のシステム開発会社ソニックガーデンは、社員のフル在宅勤務を認めていましたが、2016年にはオフィスを撤廃し全社員リモートワークに切り替えました。
 

その一方で、2013年にはアメリカのヤフーが、2017年にはIBMが在宅勤務を禁止しました。またグーグルでは社員はオフィスで顔を合わせて仕事をすべきという考えです。
 

一般的な在宅勤務の問題点は

  • 上司は部下の働きぶりがわからない、また成果に気づきにくい
  • オフィスのように部下の働きぶりを見ることができないため、仕事の過程を評価しにくい
  • 上司や同僚に簡単に相談できないため生産性が低下
  • 聞くことに時間と労力がかかるため、聞けばわかることが聞けずに生産性や仕事の質が低下する

 

他に勤務時間管理の問題や仕事とプライベート時間の区別の問題などがあります。

またフル在宅勤務になると、

  • チームメンバーとの人間関係の構築
  • 社員の育成や教育

の問題も生じてきます。
 

むしろテレワークは、これまで会社という共同体の中で仕事をしてきた社員の意識が希薄になります。そして結果よりも頑張りを認めてきた今までの評価が困難になります。

また多くの部下に指示をしたり、会議で結論を出したりすることは、上司の承認欲求を満足させましたが、テレワークではそれも希薄になります。頑張りや人間関係、社内政治といった衣がなくなり、本当の成果が評価されます。

部下の育成も丁寧な指導や細かなフォローはできず、部下自身も自立することが必要です。そういった点でテレワークを推進するには、今までの企業文化を大きく変える必要があります。
 

若者たちの承認欲求を高める

現在の若者は

「会社のため」や「組織のため」

という意識は希薄です。

しかし自分がやっていることを認められたいという気持ちは強く持っています。

その点SNSを見ても若者は強い承認欲求わ持っています。職場でも努力してやる気を見せます。そこで彼らに

「自分が認められるために何をしなければいけないのか」

目標を適切に設定することが重要です。
 

「自分のため」を指導する

青山学院大学の原監督は選手に対し、主語を「チームの為に」と言わずに「君にとって」として指導しています。

「こういう練習をして、こういう選手になった方が社会人になってからもマラソンを続けるという意味では、君にとって良いはずだ。チームにとってじゃない。君にとって良いんだ」

こう話して本人も納得すれば、彼らは頑張ります。
 

日本ハムファイターズの栗山監督は「僕はもうチームの優勝を目標に掲げるのをやめた」と語っています。「選手個人の最高の成長をゴールに考えている」とそうすると選手たちも「ああ、監督は俺のことをちゃんと考えてくれているな」と理解して頑張るようになります。その結果がチームの優勝だと栗山監督は考えています。
 

健全な野心を持たせる

Adobe の共同経営者ウォーノック氏はインタビューで次のように語っています。

「プログラマーというのはたいてい市場をあっと言わせるのを楽しみに働いているんですよ。こいつはすごい!100万人もの人間が俺の書いたコードを使うぞ!って」
(世界を動かす巨人たちより)
 

その意味では過去に偉大な業績をあげた人たちには野心家が少なくありません。そしてこういった健全な野心が良質な努力となり偉大な業績を生み出します。「認められたい」という若者の気持ちをうまく努力に繋げば優れた業績を実現できます。

近年の日本の若いアスリート達が世界でトップクラスの成績を収めています。彼らは、スポーツの世界で自分の努力が適切に認められれば、他の楽しみは一切顧みず惜しみない努力を長年継続します。

そこで優れた指導者は、彼らのそういった面をうまく引き出して、自然と努力するスタイルを作り上げています。

はたして企業はこういった若者たちの努力を仕事に結びつけることができているでしょうか?

ひょっとするとヒントはテクノロジー企業の取組にあるのかもしれません。

 
 

参考文献

「私たちの働き方とマネジメント」 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ 著 日本経済新聞出版社

「ワーク・ルールズ!」 ラズロ・ボック 著 東洋経済新報社

「アマゾンの絶対思考」 星健一 著 扶桑社

「ネットフリックスの最強の人事戦略」 パティ・マッコード 著 光文社

「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」 アンドリュー・S・クローブ 著 日経BP社

「ホンネで動かす組織論」太田肇 著 ちくま新書

「外向きサラリーマンのすすめ」 太田肇 著 朝日新聞社

「選別主義を超えて」 太田肇 著 中公新書

「虚妄の成果主義」 高橋伸夫 著 日経BP社

「できる社員は『やり過ごす』」 高橋伸夫 著 文芸春秋
 

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これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?その2

これまで日本企業は、終身雇用、年功序列賃金に代表されるように、企業が共同体として目標に向かって邁進することで成果を上げてきました。

しかし今日事業環境は大きく変化し、これまでとは異なったやり方が求められるようになってきました。そうなると社内で経験を積んだ人材が大きな成果を上げることは限りません。

急速に進歩するITによって事業環境が大きく変化する今日、これまでと同じような組織や人材に対する考え方でよいでしょうか?

これに対し、グーグルやアマゾンに代表される新興のテクノロジー企業(以降、テクノロジー企業)は、それまでとは異なった人材採用や企業文化・組織を採っています。
 

図1 組織・人材マネジメントの変化

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「これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?その1 ~グーグル、アマゾンと日本企業の比較~」では、テクノロジー企業が求める傑出した人材と、採用活動について述べました。

今回は、傑出した人材を活用するための組織、企業文化を日本企業と比較して述べます。
 

テクノロジー企業の企業文化

こうしたテクノロジー企業は、特徴のある企業文化があります。
 

ミッションと企業理念

ミッション、経営理念については様々な解釈がありますが、ここでは次のように考えます。

  • 経営理念
  • 企業のあるべき姿、社会に対する存在価値、それを実現するための経営姿勢、行動基準
  •  
  • ミッション
  • 企業の果たすべき使命、存在意義

 

テクノロジー企業の社員は、ミッションや経営理念に忠実に行動することが求められます。それが自社の強い企業文化を形成しているのです。
 

【グーグル のミッション】
「世界中の情報を整理し世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」

 

しかし実は非公式の行動規範に

「邪悪になるな (Don’t Be Evil)」

というのがあり、これが彼らの行動や意思決定に大きな影響を与えました。

(ただし現在は「Do the right thing.(正しいことをしよう)」に変わった模様です。)

そしてグーグルの企業文化は、ミッションと合わせて、以下の特徴があります。

  • ミッション
  • 透明性
  • 発言権

 

この企業文化が同社の行動、経営判断、価値観を形作っています。
 

2010年グーグルは中国市場から撤退しました。当時中国では政府によって検索結果への検閲が避けられない状況になっていました。
グーグルは、

  • 中国の法規を守って検索結果の検閲を受け入れるか
  • 撤退するか

の判断を迫られました。

長い時間の議論の末、検索の透明性という価値観に照らして、巨大な中国市場を断念し撤退を選択しました。

これは企業文化が戦略を決定した例です。

 

またある時、ある機能を追加すれば広告収入が大きく増えることがわかりました。その機能を搭載するかどうかを会議で議論した時、あるエンジニアは

「これはやるべきでない!邪悪になるぞ!」

と叫び、採用は中止されました。
 

【アマゾンの基本理念】
「地球上で最もお客様を大切にする企業であること、お客様がオンラインで求めるあらゆるものを探して発掘し、出来る限り低価格でご提供するよう努めること」

 

この基本理念に基づき、アマゾンの社員は常にお客様での立場で考えるという文化があります。
 

例えば、新しいサービスを考えるときも

  • 「どんなお客様がいるのか」
  • 「なぜ必要としているのか」
  • 「課題や改善点は明確か」
  • 「これを導入することでお客様にどのようなメリットがあるのか」

といった視点から議論を行います。
 

アマゾンジャパンでは自社のミスで間違って安い値段で売ってしまった場合は、赤字でもその値段で販売しました。顧客が不快な思いをしないで最高の顧客体験が実現することを最優先にしています。
 

ライバルは無視

テクノロジー企業にとって行動の方針、価値判断の基準は「自社のミッション」です。
多くは顧客に対するサービスです。徹底した顧客志向で、ライバル企業の動向は気にしません。

ライバル企業の製品を見て

「どこが勝って、どこが負けている」と一喜一憂

していては、製品は凡庸なものになってしまい、イノベーションを生み出すことはできません。

つまり技術進歩の早い世界では

ランチェスター戦略の『1位は、2位以下をマークする戦略』

では勝てないのです。
 

透明性と信頼

グーグルの企業文化「透明性」は、「すべての情報を社員で共有する」文化です。他社ではCEOしか知らない経営上の重要な情報もグーグルでは全社員に公開されます。すべての情報を社員で共有するとは

  • 「外部に漏れても問題がない情報」だけでなく
  • 「法律や規制で禁じられているわずかな事柄を除いた全ての情報」という意味

なのです。
 

しかし重要な情報を社員にまで公開すれば漏洩するリスクがあります。実はグーグルは情報漏洩の問題が毎年起きています。そして情報を漏洩した社員は、故意か否かに関わらずいかなる理由でも解雇されます。

こうした情報漏洩の問題が起きても、グーグルは社員を信じ情報の公開を継続しています。

何より全ての情報をオープンにすれば、

自分たちが経営者から信頼されている

と社員は感じます。そして

社員に十分な情報を与えれば、正しい判断を行い仕事の効率は上がる

からです。
 

対等な発言権と議論

グーグルでは、発言は

「誰のアイデア」 ではなく

「まともなアイデア」

が重視されます。

もし経営者のアイデアが「まともなアイデア」でなく、社員の考えたアイデアが「まともなアイデア」であれば、社員のアイデアが採用されます。

こういった文化があるため、社員は自分のアイデアがより良いと思えばそれを強く主張します。こういった議論においては経営者と社員の立場は平等です。

高い地位と報酬を得て自分の経験を基に高圧的な判断を下す者

をグーグルは

HiPPO=カバ (Higher-Paid Persons Opinion)

と呼び、HiPPOの言うことは聞かなくて良いことになっています。
 

グーグルは自社の透明性を維持するために

  • 「素直に話す人が生き延びる文化」
  • つまり「社員が安心して意見を言える文化」

をとても重視します。

日本のことわざ「出る杭は打たれる」は言い換えれば

「服従しろ」という圧力

です。こういった圧力があると

社員は問題があっても情報を上げなくなります。

その方が大きな問題なのです。

アメリカですら、業績を損なうおそれのある問題を、黙っていたことがある社員の数は、全体の70%に上るという調査結果もあるのです。
 

常に創業の精神

アマゾンは常に創業の精神で日々業務を行うことを社員に求めています。これを

「毎日が常に1日目 (Every day is still Day One) 」

 
と表現しています。
 

これは創業者ジェフベゾスが アマゾンを創業した日を指し、誰も成功しないと思われていたインターネット専門の書店というアグレッシブなチャレンジを示しています。

図2 ジェフ・ペゾス(Wikipediaより)

図2 ジェフ・ペゾス(Wikipediaより)

対して

Day2は停滞

 
とペゾスは考えます。

  • 他人任せが増える
  • 市場調査や顧客満足度調査だけで安心する
  • 技術のトレンドに鈍感になる
  • 決断が遅くなる
  • などはDay2の兆候です。

    この停滞が続けばアマゾンはやがて死に至るとベゾスは考えています。
     

    アマゾン のイノベーションは

    • 常に普通という基準を作り変える
    • 常にお客様の期待を上回る
    • 常に長期性に重点を置く

     
    です。それを実現するには、ただ頑張るだけでなく、それをうまく動かすメカニズムが不可欠です。システマチックに仕事を行い、その結果をデータ化し判断することが社員に求められます。
     

    日本企業の企業文化

    これに対して、日本企業の企業文化にはどのようなものがあるでしょうか?

    外からは見えにくい企業文化

    日本企業の企業文化は、企業理念や社是といった明文化したものでは十分に理解できません。

    なぜなら社員の暗黙の価値観や行動指針から企業文化ができているからです。一方で企業文化は、社員の考え方や行動に大きく影響し、同じ会社の社員同士はとても似ていて高い同質性があります。
     

    反論の出ない会議

    この同質性の高い組織は、会議で異なる意見があっても参加者は反論しません。自分が同意できない案でも、その場の「空気」で賛成します。

    そもそも重要な意思決定は、主催する側が事前に関係者に説明を行って同意を取り付ける「根回し」をしてから会議に臨みます。会議の前に検討・議論は終わっており、会議は

    合意を取り付け、責任を共有するためのセレモニー

    になってしまっています。
     

    ホンネとタテマエ

    明文化された理念やミッション以外に、社員同士の暗黙知による企業文化があります。そのため

    • タテマエとしての理念ミッション
    • 社員の暗黙知、つまりホンネ

    のダブルスタンダードがあります。

    共同体が閉ざされていて、しかも強力な企業文化があると、タテマエよりもホンネが強くなってしまいます。これが倫理観の欠如や法規制違反を引き起こします。
     

    テクノロジー企業の組織と仕事の仕方

    ではこうしたテクノロジー企業の組織や仕事の仕方にはどのような特徴があるのでしょうか?

    データ志向

    グーグルは意思決定の会議でコンサルタント会社が使うビジュアル効果を凝らしたスライドは

    「パワーポイントの死」

    と呼び、忌み嫌われます。

    なぜなら、こうしたスライドは理解をゆがめ、データに基づく意思決定の妨げになるからです。

    使うデータも重要なデータのみに絞り込みます。財務データでもEBITDA (営業利益+減価償却費の簡易キャッシュフロー) など難しいデータは必要なく、主に売上と現金です。

    グーグル元CEOエリック・シュミットは日頃から「売上で解決できない問題はない」という格言を好んで引用します。
     

    アマゾンでも会議でパワーポイントが禁止されています。グラフも作成者の主観が入り客観的な判断の妨げになるため好まれません。使用する場合は棒グラフのみです。社内の文書の大半は1ページ、年度予算や大きなプロジェクト提案でも6ページです。
     

    このようにテクノロジー企業の多くは、直感や個人の考えでなくデータに基づく判断を重視して意思決定を行います。

    直感や個人の考えの危険の例には、

    目の前で起きていることにとらわれて誤って意思決定を行う「サンプル・バイアス」があります。

     

    第二次世界大戦中、コロンビア大学の統計学者エイブラハム・ウォールドは、爆撃機の損失を最小限に抑える方法を検討しました。他の研究者は、戻ってきた爆撃機の損傷個所を調べて損傷が多かった場所を強化するように提案しました。

    対してウォールドは損傷を受けていない場所を強化するように提案しました。

    帰還した爆撃機に空いた穴は、損傷を受けても帰還できる場所を表しています。帰還した爆撃機に空いていない穴は、そこが損傷すると帰還できなかったからです。図3では、コックピット、エンジン、尾翼の付け根がそれにあたります。

    図3 サンプル・バイアス(wikipediaより)

    図3 サンプル・バイアス(wikipediaより)


     

    管理職の権限を奪う

    グーグルではマネジャーが部下を細かく管理するのは、部下の創造的な仕事の弊害になると考えます。そのため、できる限りマネジャーの権限を奪い、マネジャーから部下への権限委譲を行っています。

    透明性を大切にする企業文化のグーグルは、全社員に平等に情報が与えられるため、マネジャーでなくても的確な判断ができます。それでも管理しようとするようなマネジャーは、自分が部下の業績に不安を持ち、部下を管理して部下の仕事に介入することで安心しようとしているだけです。
     

    マネジャーの関与を減らすべきという点は、インテルのアンドリュークローブも言っています。スタッフ・ミーティングでは、監督者は参加者に意見を出させて議論が軌道に乗れば、

    監督者は発言を控え、部下を問題研究と対応の矢面に立たせるべき

    と主張します。監督者の重要な役割は会議の進行とテーマへの深耕の程度を調整することです。それ以上は部下に任せます。

    図4 ミーティングでの監督者の役割(High Output Management より)

    図4 ミーティングでの監督者の役割(High Output Management より)


     

    当事者同士の話し合い

    透明性を大切にする企業文化のグーグルでは、社員の不満は当事者同士で直接話し合うようにします。 

    同僚に対する不満を書いたメールを上司に送ったところ、上司は直ちにそのメールを、不満を書かれた当人に送りました。そのためメールを書いた本人は、直接その人と会って話し合いをしなければなりませんでした。

    社員同士で欠点をあげつらい、人のミスや問題行動を周りに言うことは社内での駆け引きを助長し、透明性を損ないます。

    そのためグーグルでは人の問題は直接当人に言うという文化です。
     

    ネットフリックスも同様に社員に問題があれば直接当人に言わなければなりません。これは気が進まないことですが、会社の文化になっているので社員はやむなく行っているようです。
     

    とことん議論する

    地位の違いで発言権が変わらなければ、時として議論は激しいものになります。

    ネットフリックスでは非常に激しい議論に陥った時、舞台に2脚の椅子を向かい合わせに並べ、議論をしていた二人を座らせました。そして、それぞれ相手の立場で議論をさせました。相手の立場に立ち、相手の考えが正しいことを主張することで、議論の内容を冷静に判断できます。そして難しい問題に対しても多面的に考えられます。
     

    こうした難しい問題に対し、専門家が必ずしも正しい答えを持っているとは限りません。なぜなら専門家は現状の制約に縛られすぎて視野が狭くなっていることがあるからです。

    ネットフリックスでは難しい問題を検討する際は3,4人のグループに分かれて議論します。その時、専門家は各グループに分散し1箇所に固まらないようにします。小さなグループに分かれて議論することで、

    大きなグループで議論する際に陥る集団思考

    を避けることができます。また専門家を分散することで専門家の罠も避けることができます。
     

    それでも議論が激しくなってどちらも引かなくなった場合は、まず「どちらも正しい」と宣言します。両方の意見を認めることで双方の立場を尊重します。その上で決定権のある者が結論を下します。
     

    グーグルではすべての会議にオーナーを置きます。オーナーはその会議での意思決定に責任を持ち、会議が終われば結論を出さなければなりません。こういった会議では全員の意見が一致することはあり得ず、誰かが意思決定をしなければなりません。

    「全員同意見ということは誰かがものを考えていないということだ」

    とパットン将軍は語っています。
     

    組織に縛られない

    リリースした製品に問題があれば、普通の会社なら会議を開き、解決策を検討し、対応を決定します。それから品質保証のテストを行い、対策が実施されるまでに2週間かかることもあります。
     

    グーグルのラリーペイジはある週末、自社の検索エンジンで不適切な広告表示を見つけました。彼は問題のページを印刷し不適切な広告表示にマーカーを引いて「この広告はむかつく」と書き、掲示板に張り出して帰りました。翌週の月曜日一人のエンジニアがラリーにメールを送りました。

    彼はラリーの掲示を見て、その週末に数人の社員と原因を分析し、解決策を考えました。解決策のプロトタイプを作成し、そのリンクを書いたメールを月曜日にラリーに送りました。

    これがグーグル・アドワーズのエンジンの基礎となりました。

    実は彼は広告担当ではなく、この問題に取り組む必要はありませんでした。 このようにグーグルでは誰でも担当外の仕事でもできるように誰もがすべてのプログラムのソースコードにアクセスできます。
     

    アマゾンでは仕事は時には部門をまたいでクロスファンクショナルな仕事になります。新たなイノベーションやプロジェクトを立ち上げる際には部門を超えて連携しなければならないこともあるからです。

    社員は仕事に対してOwnership (仕事に対する当事者意識) を求められます。「それは私の仕事ではありません」は禁句です。
     

    部下の育成

    ある社員がプロジェクトの資料を上司へ持って行きました。上司は添削する代わりに「私が見直す必要はあるかい」と尋ねました。彼は「少し待って下さい」と言って席に戻り修正しました。

    次に原稿を持っていくと上司は「私が見直す必要はあるかい」と尋ねました。彼はもう一度席に戻って修正しました。

    4度目に上司に持って行った時、彼は上司に言いました。「いえ見直しの必要はありません。このままお客さんに見ていただけます。」

    上司は「すばらしい、よくやったね」そう答えると原稿を見ることなく顧客に送りました。

    おそらく日本企業の上司であれば細かくチェックするのではないでしょうか。

    しかしどちらの部下がより成長するでしょうか。

     

    開発費を節約

    多くのテクノロジー企業は豊富な資金力を持っています。しかし意外なことに開発初期の予算は多くありません。

    それは創造性を高めるには制約が必要だと考えているからです。

    グーグルは、開発リソースはコアビジネスに70%、成功の兆しが見え始めた成長分野に20%、残りの10%は失敗のリスクは高いが成功すれば大きなリターンが見込める分野に分配するという70 : 20 : 10ルールに基づきリソースを配分します。リソースの投入が10%であれば、もし成功の見込みがなければすぐにやめることができます。

    また10%では当初の開発には不十分でネ開発の制約になります。この制約があるから社員は工夫してなんとかします。
     

    創業者のラリーペイジ自身、開発初期は手作業で取り組んでいます。

    図5 ラリーペイジ(Wikipediaより)

    図5 ラリーペイジ(Wikipediaより)

    2002年に世界中のあらゆる本の内容を検索できるようにしようと考えました。すべての本をスキャンするのにどのくらいの時間がかかるか調べるために彼は自分で三脚にカメラをセットし、アシスタントにページをめくらせて、1枚1枚写真を取りました。そして本を一冊丸ごとデジタル化するのにかかる時間を測り、すべての本をデジタル化するのにどのくらい期間と費用がかかり、このプロジェクトが実行可能かどうかを調べました。
     

    アマゾンも新しいプロジェクトの開始当初は予算を抑えます。ふんだんな予算があれば「自分たちで手を動かし知恵を絞るよりも外部に委託する安易な方法を選ぶ」と考えているからです。外部に委託してしまうと、そのプロセスの課題や別の可能性についてメンバーが考えなくなってしまいます。
     

    日本企業の組織と仕事のやり方

    役職によって変わる発言の重み

    ピラミッド型の組織構造の場合、情報はピラミッドの頂点は多く、底辺に向かうにつれて与えられる情報は少なくなります。そのため部下と上司で情報の格差があるため、議論が対等になりません。上司と部下の権限の差 (権威勾配)、経験や年齢の差もあり、議論で部下が意見を控える傾向があります。

    会議では「誰が言ったか」で意見の重みが変わってしまいます。

     

    マイクロマネジメントと部下の成長

    日本企業の管理者の特徴としてマイクロマネジメントの問題があります。日本企業の管理職は、仕事の目的や進め方の方針などの情報を十分に部下に与えず、やり方や結果を細かくコントロールする傾向があります。こうしたマイクロマネジメントの上司の部下は、

    自ら考えようとせず、指示待ちの部下になってしまいます。

     

    グーグルはマイクロマネジメントをミスマネジメントと呼び、マイクロマネジメントに陥る原因が、管理者のチームメンバーに対する信頼の不足と考えます。

    部下を信頼できない上司は不安になり、

    部下の行動を管理 (監視) することで安心を得ようとするからです。

     

    中高年に厳しい年功制

    年功制は、年齢が上がると報酬も上がります。そしてある時点で仕事の成果に対して報酬が上回ります。その時役職に昇進していれば別ですが、そうでない場合は、若年社員と仕事の成果は変わらないのに賃金は高い人材になってしまいます。会社にとって高コストの原因となり、真っ先にコスト削減の対象となってしまいます。その点で実は年功制は中高年には厳しい制度です。
     

    参考文献

    「私たちの働き方とマネジメント」 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ 著 日本経済新聞出版社

    「ワーク・ルールズ!」 ラズロ・ボック 著 東洋経済新報社

    「アマゾンの絶対思考」 星健一 著 扶桑社

    「ネットフリックスの最強の人事戦略」 パティ・マッコード 著 光文社

    「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」 アンドリュー・S・クローブ 著 日経BP社

    「ホンネで動かす組織論」太田肇 著 ちくま新書

    「外向きサラリーマンのすすめ」 太田肇 著 朝日新聞社

    「選別主義を超えて」 太田肇 著 中公新書

    「虚妄の成果主義」 高橋伸夫 著 日経BP社

    「できる社員は『やり過ごす』」 高橋伸夫 著 文芸春秋
     

    本コラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。

     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

    人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

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    これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?~グーグル、アマゾンと日本企業の比較~

    多くの日本企業が世界のトップシェアを占有した1980年代、終身雇用と年功序列賃金は日本企業の強さとして世界から注目されました。

    終身雇用と年功序列賃金は企業が拡大成長している時は安定したシステムでした。しかしバブル崩壊後、企業がそれまでの成長が維持できなくなると、ポストの不足、人件費の上昇などの問題が生じました。

    そこで一部の企業は成果主義を導入しましたが、この成果主義も多くの問題がありました。

    日本企業と大きく異なるグーグル、アマゾンの人材の考え方

    一方、2000年以降、グーグルやアマゾンなど情報技術(IT)をベースに新たな製品やサービスをグローバルで提供し急拡大する企業が出てきました。(ここでは、これらの企業をテクノロジー企業と呼ぶことにします。) テクノロジー企業は、従来の企業とは人材に対する考え方が異なり、組織、賃金、評価の仕組みも異なっています。

    日本企業を取り巻く事業環境の変化

    今日では多くの事業分野においてIT技術の進歩により事業環境が大きく変わってきています。インターネットが新聞、雑誌にとってかわり、音楽はCDからダウンロード販売に変わりました。新たな企業が今までにない製品やサービスを提供し、既存の企業に取って代わりました。このような事業環境の中で生き残るには、企業は環境の変化をいち早くとらえて自ら変化しなければなりません。

    従来の方法では育成が困難に

    また人も変わってきています。若者たちは、今までとは異なる価値観、考え方を持っていて、従来の方法では育成がうまくいかなくなっています。さらに少子高齢化のため外国人を技術職や管理職に登用している中小企業もあります。

    彼らが十分に力を発揮し、変化に迅速に対応する会社にするにはどのようにすればよいでしょうか?

    海外のテクノロジー企業の取り組みと、これまでの日本企業を比較して考えます。
     

    テクノロジー企業と日本企業はどんな点が違うのだろうか?

    テクノロジー企業はどんなビジネスなのだろうか?

    利益より規模(スケール)

    グーグル、アマゾンなどのテクノロジー企業は、高度なIT技術をベースに革新的な製品やサービスを開発し、それを圧倒的な低価格や無料で提供し市場を席巻しています。グーグルの検索エンジン、アマゾンの通販システムは、検索や通販の入り口として多くの人が利用するプラットフォームの役割を果たすため、プラットフォームビジネスと呼ばれています。

    その特徴は、利益よりも規模(スケール)を重視することです。最初は利益が出なくても誰もが使うプラットフォームを構築できれば、それを使って後から広告などで収益を生むことができます。
     

    失敗を恐れず新製品をリリースし、ダメなら即撤退

    一方技術の進歩は非常に早く、製品が他社に劣っていたり開発スピードが遅ければ、グーグルやアマゾンでも他社に市場を奪われてしまいます。

    グーグルのSNSグーグル+(プラス)は、フェイスブックなどのライバルのSNSに勝てず2019年に撤退しました。グーグルのマイクロブログサービスGoogle Jaikuはツイッターに敗れて2012年に撤退しました。

    アマゾンも2014年に携帯電話「ファイアフォン」、2019年にAmazon Dashボタンから撤退しました。他にもアマゾン・オークションズなどのすでに終了したサービスや撤退した事業は多くあります。
     

    図1 アマゾン ファイアフォン(Wikipediaより)

    図1 アマゾン ファイアフォン(Wikipediaより)

    図2  Amazon Dashボタン(Wikipediaより)

    図2 Amazon Dashボタン(Wikipediaより)

    このように彼らは失敗を恐れず、次々と新しい製品やサービスをリリースします。そしてうまくいかないと分かれば直ちに撤退します。こうして常に新たなビジネスチャンスを常に探しています。
     

    正しい決定よりも、スピードを重視

    このアマゾンの企業文化は、創業者のジェフ・ペゾスの

    「Every Day is still Day One (毎日が常に1日目)」

    というメッセージに表されています。このDay Oneは創業した日のことです。社員には創業した日のつもりで行動することを求めています。

    このDay One に対してDay 2は停滞です。

    Day 2の状態にあればアマゾンはゆっくりと衰退しいずれ死に至るとペゾスは諫めています。

    市場調査を信用しない

    またペゾスは

    「顧客は欲しいものをわかっていないから、顧客が満足したからといって納得してはいけいない」

    「市場調査や顧客満足度調査をうのみにしてはいけない」

    と語っています。なぜなら

    「素晴らしい顧客体験は市場調査には表れない」

    からです。

    そのためには決断が遅くなっていないか常に目を光らせます。もし必要な情報が集まるまで決断を待っているようであれば、それはDay 2の始まりと言っています。
     

    軍艦の従来企業と航空機のテクノロジー企業

    このスピード感は既存の企業とは異質のものです。

    従来の事業、例えば製造業の製品開発は設計から試作、評価など発売までに何年もかかります。さらに量産に専用設備が必要になれば設備投資も必要です。もし発売しても売れなければ大きな損失が発生します。そのため新たな製品や事業に取り組む際はとても慎重です。

    これは従来の企業は海図を元に市場をゆっくりと攻略する軍艦です。重厚な装備(多くの部門や人材)を持ち簡単には沈みません。しかし動きはゆっくりで向きを変えるには時間がかかります。そこで海図や羅針盤で慎重に行き先を決めて進みます。

    対するテクノロジー企業は飛行機です。高速で瞬時に目的地を変更し、機動的に行動します。スピードが落ちれば墜落するため、高出力のエンジン(卓越した人材)を積み、余分な装備(人材)は積まず軽量化に徹しています。

    従来の企業とテクノロジー企業とでは、組織や文化、人材に求める能力などが大きく違います。
     

    日本企業との比較

    かつてはアメリカも定年まで同じ会社に勤める人は多かった

    日本企業は定年までひとつの会社に勤める終身雇用制が一般的ですが、これは日本固有のものではありません。アメリカでも大企業に勤める社員の多くは、かつては定年まで同じ会社に勤めました。これをThe Organization Man(組織人)と呼び、デュポン、IBMなどの大企業は社員の多くは自分の会社に誇りと愛着を持っていました。
     

    自己が組織と同一化

    終身雇用では社員は成人してからの時間の大半を会社で過ごします。その結果、社員は会社という共同体の一員として同じ価値観や考え方を持つようになります。そして自己が組織と同一化します。○○マンや○○人(○○に社名が入る)という言い方がありますが、これは自己と組織の同一化を示しています。

    終身雇用制のため、かつての日本は転職市場が小さく、転職は容易でありませんでした。(今でも中高年の転職は厳しいものがありますが) 何らかの事情で会社を辞めた場合は、賃金や生活環境の面で非常に不利になります。加えて共同体の一員というアイデンティティを失います。
     

    転職の機会を奪う年功序列賃金

    年功序列賃金は、社員が若い時は賃金を低く抑え、中高年になって家族が増え多くの収入が必要になると賃金を手厚くする仕組みです。賃金は「仕事の成果に対して支払われる」のではなく、「共同体の一員として生活を保証するため」に支払われています。

    家族が増え支出が増える中高年の収入を手厚くすることで、社員は住宅や自動車などの高額商品を購入でき、住宅や自動車市場は活性化しました。
     

    賃金が高く「使えない」人材

    しかしバブル崩壊とその後の景気低迷により、企業は新卒の採用を控えました。そして過剰な中高年と少ない若年者といういびつな年齢構成になり、企業の人件費は上昇しました。

    IT技術の進歩とともに仕事の内容が大きく変化しました。例えば工作機械はNC工作機械に、設計は手書きからCADに変わりました。新しい仕事に適応するには新たなスキルが必要です。しかし中高年は定年までの年数が長くなく、企業も本人も新しいスキルの習得には消極的でした。

    こうして賃金が高く「使えない」人材が企業に増えました。会社の業績が悪化すると真っ先に彼らが人件費削減の対象となりました。しかし解雇の制約が厳しい日本では解雇でなく「リストラ」 (解雇せず、自己都合による退職の強要) が行われました。

    注) 「リストラ」は、本来は事業再構築(restruturing リストラクチャリング)の略称で、事業全体を見直し、不採算事業を整理し、採算性の高い事業を伸ばす経営改善の手法です。しかし日本では「事業再構築=人員整理」の場合が多く、「リストラ=人員整理」となってしまいました。
     

    企業は人材にどんな能力を求めるのだろうか?

     

    グーグル、アマゾンなどのテクノロジー企業は人材に非常に高い能力を求め、採用も非常に厳しいことで有名です。アマゾンジャパンは10年間に1,000人を超える面接を行い、採用したのは50人でした。

    グーグルは数千人の応募者から絞り込んだ10人あまりにさらに面接を繰り返し、時には30回以上面接した後、採用を断念することもあります。

    なぜテクノロジー企業はそこまで社員の能力にこだわるのでしょうか。
     

    テクノロジー企業が求める傑出した人材とは?

    その理由は彼らが優秀な人材でなく、「傑出した人材」を求めているからです。

    DVDレンタルのネットフリックスは、ドットコムバブルがはじけた2001年、業況が悪化し倒産の危機に見舞われました。そのため社員の1/3を解雇せざるを得ませんでした。ところが社員を解雇した直後、DVDプレーヤーの価格が下がりDVDレンタルの市場が急拡大しました。仕事は2倍に増えましたが、2/3の残った優秀な社員は2倍の業務をこなし、以前よりも効率は大幅に向上しました。この体験からネットフリックスは優れた能力を持った人材(ハイパフォーマー)を採用に力を入れるようになりました。
     

    スマートクリエイティブとは今までにない製品・サービスを生み出せる人

    テクノロジー企業が求める人材は、一般的に言われる「優秀な人材」ではなく「傑出した人材」、つまりとびきり優秀な人材です。グーグルではこれを

    「スマートクリエイティブ」

    と呼んでいます。グーグルは技術をベースに製品を開発しているため、優れた製品を生み出すには優れた技術が不可欠です。そのためには高い技術力を持った人材が必要です。そして世界のトップシェアを維持するには、世界トップレベルの技術力を持った人材が必要です。

    高い創造性が求められる

    また優れた製品を生み出すためには、技術力だけでなく新しいものを創造する力も必要です。

    テクノロジー企業同士の競争は激しく、他社にない優れた製品を創造できればば高い価値を生みますが、他社にもあるような凡庸な製品では生き残ることもできません。これには製品やサービスをリリースするタイミングも重要です。いくら優れた製品でもリリースまでに何年もかかっていては、ライバルに先を越されてしまいます。

    「高い技術力を持ち、今までにない製品やサービスを考え出し、それを短期間で実現しライバルに先んじて市場に投入することができる人材」

    が彼らの求める傑出した人材です。
     

    傑出した人材が会社にもたらす利益は12倍

    傑出した人材を求め続けるグーグルは、社員がもたらす成果はべき乗則に従うと考えています。本来、人の思考力、読解力、発想力などの分布は、対象とする母集団の数が非常に多ければ正規分布になります。しかしグーグルが社員の成果を分析した結果、ごく一部の社員が非常に大きな利益を生み出していることがわかりました。

    なぜそうなるのでしょうか?

    ひとつのサービス・製品が非常に高いインパクトがある

    テクノロジー企業の製品やサービスは世界中に広く提供され非常に大きな影響力を持ちます。その結果、たったひとつの優れた機能でも非常に大きな収益を会社にもたらします。

    例えばフェイスブックのユーザー数は約24億人(2019年時点)、フェイスブックが開発した新たなサービスをユーザーの半分が利用すれば、その利用者は12億人です。このサービスに広告を表示し、その結果一人当たり100円/月の収益を生み出せば、1か月に1200億円の収益をもたらします。こういったサービスは傑出した社員がいれば数名のチームで開発できます。その費用はわずかな金額で費用対効果が非常に高く、経済学でいうところのレバレッジ (てこの作用) が非常に大きいのです。

    h6>傑出した社員のレバレッジは極めて大きい

    例えば、優秀な社員と、傑出した社員の開発した製品の出来栄えに3倍の差がありました。そして製品の性能が2倍になると獲得する市場が8倍になるとします。その結果

    • 優秀な社員が開発した製品 : 性能は1、獲得する市場は 1
    • 傑出した社員が開発した製品 : 性能は3、獲得する市場は 12

     

    つまり会社にもたらす収益は12倍になります。このようにレバレッジが極めて大きいため傑出した人材がもたらす価値は非常に大きくなります。
     

    図3 人材の能力と成果

    図3 人材の能力と成果

    才能はべき乗則に従う

    ミュージシャンなどアーティストもべき乗則に従う世界です。一握りの優れたミュージシャンが市場を広く占有し、他の多くのミュージシャンはその他の市場を分け合っています。米津玄師のようにボカロから出発して、幅広く曲が売れるミュージシャンがいる一方で、CDを発売してもほとんど売れずダウンロード販売も少ないプロのミュージシャンもいます。

    ミュージシャンの場合はある一時期に優れた創作を行い、それ以降は輝きを失ってしまうこともあります。(一発屋ともいわれます) ITでもゲームソフトはこれが当てはまります。

    何が成功するかわからないから、数を打つ

    テクノロジー企業もグーグルやアマゾンのようにリリースした製品が短期間で撤退することは珍しくありません。成功する可能性のある事業に次々に取り組み、ダメと分かれば直ちに撤退します。

    製造業は試作するにも多額の費用と多くのメンバーが必要ですが、テクノロジー企業はプロトタイプの開発に費用は多くかからず開発は容易です。この製品が成功するかどうかは、製品の出来栄えに大きく依存し、それは開発を担当する社員の能力によります。
     

    個の力の影響力が大きいテクノロジー企業

    なぜならテクノロジー企業の製品は、一人一人の役割が大きく特定の個人の力が関与する部分が大きいからです。自動車のような複雑な製品は、一人の技術者が傑出した力を持っていてもチーム全体の力が弱ければ優れた成果を上げることはできません。しかしテクノロジー企業では一人の技術者でカバーできる範囲が広く、アルゴリズムは創造的な要素が高いため人材の能力が大きく影響します。

    従来の工業製品の開発が8人乗りの競技ボートとすれば、テクノロジー企業の開発はカヌースラロームです。8人乗りのボートは8人が同じタイミングでオールを入れて漕がなければなりません。一人だけ速いピッチで漕いでもスピードは上がりません。一方スラロームは、一人乗りで急流やポールなどの障害を避けて、瞬間的に素早く判断していかなければならず、個人の力が問われます。
     

    図4 ボート競技 (エイト)(Wikipediaより)

    図4 ボート競技 (エイト)(Wikipediaより)


    図5 カヌースラローム(Wikipediaより)

    図5 カヌースラローム(Wikipediaより)

    システム的な思考能力と創造力が求められる

    このように考えると従来の企業の考える技術とテクノロジー企業の考える技術は大きな違いがあります。テクノロジー企業の技術は問題を解決する「システムを考える技術」であり、そのシステムを実現し問題を解決する「アルゴリズムの構築」です。

    この点は自動車や半導体など物理的な製品の開発と異なります。物理的な製品の開発は、基礎となる幅広い知識と様々な試験や実験の経験から、具体的な解決方法を考えます。それを実験で検証します。ひとつひとつの実験の結果が出るまでに時間がかかり、実験もチームで行います。

    問題解決に必要な創造力

    対してテクノロジー企業では、コンピューター工学や情報処理の知識は必要ですが、それだけでなく問題を解決する創造力が強く求められます。

    例えば、正しい検索結果という目的を達成するには、現在の検索エンジンの問題と目指すべき検索エンジンの姿を明らかにしなければなりません。その上でWEBから収集できるデータから、どういう考え方で分析すれば、目的にあった検索結果が出せるのか、考えます。これは問題解決です。考え方が分かれば、それを実現するアルゴリズムを創造します。この問題解決の積み重ねが優れた検索エンジンにつながります。そして問題解決の様々な手法(テクニック)が技術に相当します。
     

    社内政治に長けた「悪党」は排除される

    このような傑出した人材(スマートクリエイティブ)が集まり、世界トップレベルの仕事を行う組織は、彼らがその能力を十分に発揮できる組織が必要です。それにマイナスなのが

    「事実を偽り自分に都合の良い情報を周りに流す」社内政治に長けた人間です。

    グーグルは彼らのことを「悪党」と呼んでいます。こういった気質の人間は入社後に改めることはできません。大切なのはこのような人間は組織に入れないことです。もし悪党を入れてしまい、組織の中で悪党が一定の割合に達すると

    「悪党のように行動しなければこの会社では成功できない」

    という気風ができてしまいます。
     

    多くの人とアイデアを交換し合うコミュニケーション能力も必要

    たとえ傑出した人材でも一人だけでは素晴らしい仕事をできません。創造的な仕事はいろいろな人間とアイデアを公開し刺激し合うことが必要だからです。そのためには他人と気軽に意見交換できるコミュニケーション能力が必要です。
     

    とてつもなく大きな目標を立てろ!

    革新的な製品を生み出すには、大きな目標が必要です。大きな目標は例え到達できなくても大きな成果を生み出します。対して小さな目標からは小さな成果しか生まれません。そして大きな目標を掲げるには、目標を掲げる本人に前向きな考え方がなければなりません。消極的、ネガティブな考え方から大きな目標は生まれません。例えば、グーグルの開発している新しいネットワークプロトコルは25年後に必要になる「惑星間のインターネット!」のためのものです。
     

    求めるのはグローバルクラスの傑出した人材

    このような傑出した人材は、難易度の高い大学の卒業生やMBAなどの資格では測ることができません。またそれまでの実績や経歴もあてになりません。そこでグーグルは、多くの面接や難解な試験を行って、グローバルクラスの傑出した人材を選別しているのです。

    グローバルクラスの人材とはどのような人なのでしょうか?

    例えば台湾のIT担当大臣 唐鳳(オードリー・タン)氏はグローバルクラスの人材の代表かもしれません。

    唐鳳氏は8歳からプログラミングを始めましたが、学校にはなじめずに14歳で中学を中退しました。15歳で起業し、ソフトウェアFusionSearchを約800万個販売しました。16歳で台湾の液晶ディスプレイメーカーBenQの顧問になり、またプログラミング言語Perl 6の開発や様々なオープンソースコミュニティに貢献しました。35歳で台湾最年少のIT大臣に抜てきされ、今回のコロナ危機ではボランティアを動員して数日間で「マスクの在庫マップ」を完成させるなど、そのアイデアと実行力は際立っています。2019年には『フォーリン・ポリシー』誌のグローバル思想家100人に選出されるなど世界から注目されています。
     

    図6 唐鳳(オードリー・タン)氏

    図6 唐鳳(オードリー・タン)氏

    和を重視する日本企業

    こうしたテクノロジー企業に対し、終身雇用の日本企業では、社員にとっての「会社」は自分自身が所属する共同体の中で最も重要なものです。会社という共同体は人の入れ替わりも少なく、共同体における社員自身の立場(ポジション)は非常に重要です。共同体での自分のポジションを維持するには、他のメンバーとの関係性が重要ですが、この関係性は職制や社内での経歴、個人的な交友関係が合わさった複雑なパワーバランスから成り立っています。

    この安定した関係性を維持するために重視されるのが相互の「和」です。この和には組織の安定も含まれます。時には、法規やコンプライアンスよりも組織の安定、組織の和が重視されます。そして和を乱すものは非難・排斥されます。
     

    強い横並び意識

    年功序列賃金制度は、これまで社員の能力や成果に差があっても賃金に大きな差をつけませんでした。みかけは平等な処遇に見えるため、社員に強い横並び意識が生まれます。同期に入社した誰もが昇進の夢を持って働きます。実際は、企業によっては早い段階から幹部候補の選別を行っているのですが。

    足の引っ張り合いで「傑出した人材」が居ずらい組織

    この「和を重視する文化」と「強い横並び意識」の組織では、傑出した人材は横並び意識を破壊し和を乱します。そのため共同体から浮いてしまいます。出る杭は打たれることになります。
     

    「傑出した人材」よりも強いチームワークが必要な製造業

    製品開発はチームで行い、お互いに協力して結果を出します。例え一人の設計者が素晴らしい製品を設計しても、それを製品化するには製造や調達、試験評価など関係する様々な人たちが、協力してアイデアを出さなければ実現できません。一人のスーパースターだけでは成り立たないのです。
     

    専門スキルも社内で育成し、外部で学んだスキルは低くみられる

    年功序列賃金、職能制度の日本企業は、仕事のスキル、職務能力は企業での職務経験によって高められます。他の企業で様々なスキルを習得していた人が入社しても、そのスキルは低く評価され、社内での経験が一定以上なければ重要な仕事を任されません。

    スキルに普遍性がない

    なぜなら業務に必要なスキルが企業ごと大きくに異なり普遍性がないからです。特に職制が上がると管理業務の比率が高くなります。他部門との折衝など社内での調整業務が増えます。

    こういった社内の調整業務は、その共同体の文化、メンバーの考え方の理解や円滑な人間関係が不可欠です。例え高い能力を持った管理者が転職してきても、他部門の人はおいそれと動いてくれません。特に中高年になると大半の社員が実務より管理・間接業務になるため、その傾向が強くなります。

    そして共同体において、この調整能力が自分のために使われると、それは自分のための「社内政治」になり、

    グーグルの忌み嫌う「悪党」に変わります。
     

    優秀な人ほど現場を離れる

    また優れた能力があっても職位が上がると管理業務の比率が増えて現場から離れていきます。しかし実務で優れた能力の人材が管理能力が高いとは限らりません。管理職に登用された後、管理者としての能力が不十分であれば、評価が下がり活躍の機会を失います。

    そして技術、開発、研究の現場では、経験豊富なスペシャリストは順次管理職となって現場を離れていきます。現場から経験豊富なスペシャリストが減っていき、過去の経験や知識が継承されなくなります。
     

    創造性を高めるにはどんな組織が良いのだろうか?

    これから日本企業も創造性の高い仕事が必要になった時、どのような人材、組織にすればよいのでしょうか。

    参考にテクノロジ―企業の取組を述べます。

    独創性を生み出すにはカオスが必要

    今までにないものを生み出すには一人の優れた人間の発想だけではできません。様々な見方や考え方、バックグラウンドを持つ人材が自分たちの意見を積極的にぶつけて新しい発想を生み出す必要があります。こうして生まれた数々のアイデアのプロトタイプを作って評価し優れたアイデアが生き残ります。それも市場の洗礼を受けて消えてしまうかもしれません。

    テクノロジー企業はこうしたアイデアが無数に生み出せるように会社の中にあえてカオスな部分を作っています。

    例えばアメリカ企業の一般的なオフィスは個室や壁で仕切られたキュービクルですが、グーグルのオフィスは仕切りのないぎゅうぎゅう詰めのレイアウトです。チームごとに人と人とを狭い空間に押し込めてエネルギーと交流を最大化するようにしています。
     

    図7 生産性は高いが対話がない

    図7 生産性は高いが対話がない


    図8 対話は多いが気が散る

    図8 対話は多いが気が散る

    組織のはざまの社員から独創的なアイディアが生まれる

    独創的なアイデアをもたらす社員は、開発や販売の中心にいる人物でなく、それらの組織と組織をつなぐ立場の社員ということもあります。こういった組織と組織のすきまの立場にいる人は、様々な部署から異なる情報が入ってくるため、今までにない見方や考えが生まれやすくなっています。
     

    図9 構造の隙間がアイデアを生む

    図9 構造の隙間がアイデアを生む

    会話がなければアイデアは生まれない!

    イノベーションは会議室の企画会議からではなく、社員同士の何気ない会話から起きています。グーグルアドセンスは異なるプロジェクトメンバーの社員同士がビリヤードをしている中から生まれました。こうした

    「社員同士の対話が自然に起きる」

    ようにグーグルでは仕事中に無料のスナックやドリンクを提供しています。

    アップルのスティーブジョブズがピクサー社を買収した際、本社の中央にアトリウムを設け、そこに会議室、メールボックス、カフェテリア、トイレをまとめて設置しました。当初、トイレもそこ1個所だけにするとジョブズは言いましたが、それは社員の反対に遭い止めました。ジョブズは

    「毎日社員がそこに行き、会話を交わさずにはいられない環境」

    を作ろうとしたのでした。
     

    学ぶこと・努力することに貪欲(アニマル)であれ!

    ありきたりな目標に満足せず飛び切り高い目標を設定し、その実現に向かって自ら努力する人材を「ラーニングアニマル」と呼びます。

    技術進歩の早いテクノロジー企業では、自分が持っている知識や技術は直に古くなってしまいます。常に最先端でいるためには絶え間ない努力が不可欠です。ではスマートクリエイティブはどうやってそのような能力を獲得するでしょうか?彼らは新しい技術を学ぶために会社が研修の機会を与えてくれるのをじっと待っていません。自ら新しい技術を調べて独学で習得していきます。それは卓越した能力を持つハッカーと同じです。

    ラーニングアニマルは自ら知識と能力を求めて努力し続ける人です。そして最先端の知識と技術を身につければ、必ず「それを革新的な製品やサービスに試したい」と彼らは思うようになります。そういった場が与えられなければ、彼らはそういったチャンスのある企業へ移ってしまいます。傑出した人材、ラーニングアニマルを採用した後は、彼らが

    「存分に力を発揮できるような機会を与える」必要があります。
     

    テクノロジー企業はどうやって傑出した人材を採用しているのか?

     

    テクノロジー企業は前述したように採用を最も重視しています。それは誤検出、つまり

    「採用すべきでない人材を採用してしまう間違い」を防ぐためです。
     

    採用の失敗は教育でカバーできない

    当初はテクノロジー企業でも採用した後教育をすれば社員のパフォーマンスは上がると考えていました。しかし教育の効果を測定すると、期待したほどパフォーマンスは向上していませんでした。テクノロジー企業の求める創造性、技術の傑出した能力は教育では十分に得られなかったのです。

    そこで採用後に教育するよりも、高いパフォーマンスを持った傑出した人材を採用することに力を入れることにしました。そして例え人材が不足しポストが空いても、能力を妥協して採用することはありません。逆にポストがなくても、傑出した能力の人材がいれば採用します。
     

    グーグルはこの採用のモデルを学術界に求めています。大学の教授は解雇できないのでその採用は専門委員会で多大な時間をかけて慎重に検討します。グーグルも採用には時間を厭わず慎重に行います。そのための採用のルールを決め、縁故や情実で採用することはありません。
     

    「知識」より「知力」だ!

    テクノロジー企業が求める傑出した人材を採用するのに、大学のランクやMBAなどの資格はあてになりません。彼らが求めている傑出した能力は

    「知識よりも知力」だからです。

    ランクの高い大学の卒業生が傑出した知力を持っているとは限りません。この高い知力を求めるのは、今日では技術の進歩が指数関数だからです。このような技術の進歩に追従して新たな製品やサービスを生み出すには、社員にも指数関数的な発想力が必要です。しかし本来人間は一次関数的でしか物事を見ることができません。指数関数的な発想力には高い知力が必要です。

    決して安定を求めず、変化に富んだ不安定な状況を理解し、スピーディに決断し行動できる人材です。
     

    経験の時にはマイナス

    このような知力を発揮する際に、時には経験はマイナスに作用します。強い成功体験があると人は次も同じ手法で解決しようとするからです。しかし変化の激しい今日では、同じ手法で次回も成功すると限りません。そのためグーグルでは過去に大きな実績を上げたかどうかは重視せず、

    「経験がなくても能力だけで採用する」こともあります。
     

    採用のシステム化するテクノロジー企業

    グーグルでは、採用についての一連の評価をシステム化し、誰でも同じ評価で判定されるようにしています。その中には、技術力、知力、誠実さに加えて、「おもしろい人物かどうか」「ずっと一緒にいたいと思うかどうか」も採用の判断基準にしています。LAXテストとは、ロスアンゼルス国際空港(LAX)で6時間足止めを食らったときに楽しく過ごせるかどうかを評価するテストです。

    別の会社では誠実さを評価するために面接者の印象を社内のアシスタント(受付)に聞いています。ある面接者は面接官には知的で申し分のない受け答えでしたが、アシスタントに横柄な態度をとったために不採用になりました。

    社員の多様性も重視

    高い知力と技術力を持ち、知的好奇心を刺激する会話でLAXテストに合格しました。人柄も誠実で問題ありませんでした。しかし面接官がその応募者を好きかどうかは別です。好みや感性が違うかもしれないし、政治や宗教についての考え方が違うかもしれません。しかしグーグルでは、こういった違いは組織に多様性をもたらし創造性を高めるとして歓迎します。

    「お気に入りだけで固めた同質化した組織」にならないようにしています。

    グーグルの採用システムでは、こうしたチェック項目と評価結果をデータにして、面接官の判断でなく客観的なデータに基づいて採用の可否が決定されます。この基準は最高の人材を採用するために非常に高く設定されています。そして重要なことは

    「自分より優れた人材であること」

    です。多くの企業では、上司が部下となる人材を採用する際、自分より優れた人材は将来の自分の地位を脅かすために採用されません。それでは最高の人材を採用することができません。そのために誰もが納得できる客観的なデータを用いて判定します。また面接には上司だけでなく、部下や同僚となる社員も参加させ、上司からの判断が偏るのを防止します。
     

    以下にグーグルの「採用のおきて」を引用します。

    ・ 自分より優秀な人物を採用せよ。学ぶもののない、あるいは手ごわいと感じない人物は採用してはならない。
    ・ プロダクトと企業文化に付加価値をもたらしそうな人物を採用せよ。両方に貢献が見込めない人物を採用してはならない。
    ・ 仕事を成し遂げる人物を採用せよ。問題について考えるだけの人物を採用してはならない。
    ・ 熱意があり、自発的で、情熱的な人物を採用せよ。仕事が欲しいだけの人物を採用してはならない。
    ・ 周囲に刺激を与え、協力できる人物を採用せよ。一人で仕事をしたがる人物を採用してはならない。
    ・ チームや会社とともに成長しそうな人物を採用せよ。スキルセットや興味の幅が狭い人物は採用してはならない。
    ・ 多彩で。ユニークな才能を持っている人物を採用せよ。仕事しか能がない人物を採用してはならない。
    ・ 倫理観があり、率直に意思を伝える人物を採用せよ。駆け引きをしたり、他人を操ろうとする人物を採用してはならない。
    ・ 最高の候補者を見つけた場合のみ採用せよ。一切に妥協は許されない。

     

    数千人を数十人に絞り込む

    それでもグーグルでは毎年数千人もの応募者があります。そこから書類審査で面接する候補者を数十名に絞り込みます。どのように絞り込むかは不明ですが、これまで述べたように大学のランクではあてにならないので、それまでの活動、実績などから絞り込むものと推測します。

    もうひとつの方法は傑出した人材に探してもらうことです。傑出した人材は傑出した人材を何人かは知っているものです。あるいはソフトウェアエンジニアの場合、彼らのコミュニティにそうした人材に関する情報があることもあります。テクノロジー企業では、管理職などはこうしてほかの企業から人材を引き抜くこともあります。
     

    報酬でなく仕事の内容で引き付ける

    グーグルは、傑出した人材を採用するために最初から多額の報酬は提示しません。報酬でなく仕事の内容に関心を持ち、グーグルで働きたいという候補者を採用したいと考えています。ただし入社後の成績が素晴らしければ、それに対しては十分な報酬を支払います。
     

    ゼロから育成する日本企業

    これに対してこれまでの日本企業は、新卒を一括採用し大学に専門的な知識や能力の獲得を求めていません。入社試験を行っても基礎的な学力の試験で、地頭が良いかどうかを調べる程度です。むしろ自社の企業文化に合うかどうかを評価します。

    入社後は最初は現場に配属し基本的な作業や業務を経験させ、そののち様々な部門を経験させて総合的な能力を身に着けさせます。その過程で共同体の一員として企業文化を身に着け、自社固有の考え方、判断力、調整力を身に着けます。

    大企業も新人の育成が不十分になってきた

    今日では、現場にホワイトカラーの新人を預かる余力がなく、配属先も新人をゆっくりと勉強させる余裕がなくなってきました。新人でも配属後すぐに戦力となることが求められます。その結果、かつて先輩たちが現場で実践する中で手にしたスキルを持たずに仕事に取り組んでいます。しかも新人ができる仕事は限られるため、与えられる仕事の幅も広くありません。

    製品の製造方法がわからない設計者、サプライヤーの実情を知らない調達、製品が客先でどのように使われているのかわからない営業など、そうして自分のできる業務のみ経験を重ねていきます。

    大手メーカーでも協力会社に仕様を渡して発注するだけの設計者もいます。
     

    育成してもダメな場合

    育成プログラムと水準に達しない社員

    テクノロジー企業は、専門スキルよりも知力を重視していても採用した人材を教育しないわけではありません。自社の文化に早く慣れてチームのメンバーと早く成果を上げられるようにするために様々な育成プログラムが組まれています。

    しかし採用した社員が会社の求める成果を出せない場合もあります。グーグルは、このような社員に対し、成果が不十分なことを知らせ、スキルを高めるように教育します。そのための教育プログラムも用意されています。
     

    グーグルをクビになったことが、プラスのキャリアになる

    一方ネットフリックスは、そのような社員に現実を知らせると自ら退社していきます。しかし人材の流動性の高いアメリカでは、ネットフリックスが求める能力が不十分でも、他社が求める能力は高い人材も多くいます。そうした人材は他の企業に写れば大いに活躍できることもあります。

    実際、グーグルやネットフリックスを退社(解雇)された人間が、アップルやマイクロソフトで活躍していることは珍しくありません。
     

    評価の低い社員を無理に雇用するのは不幸

    アメリカでは評価が低い社員は、無理に留めおかず早期に解雇された方が、本人も早く自分に合った別の企業を探すことができます。低い評価の社員を無理に雇用し続けても、将来彼が中高年になった時、もし会社の業績が悪化すれば、彼は真っ先に解雇されてしまいます。本人からすれば「なぜもっと早く言ってくれなかったんだ」となります。

    日本ではリストラは「アイデンティティの喪失」

    一方日本では、社員は共同体の構成員です。解雇(リストラ)は社員自身のアイデンティティの喪失になります。また日本企業では、社員の能力はそれぞれの専門分野のスペシャリストでなく、様々な業務をこなせるゼネラリストです。そのためリストラで能力不足の烙印を押されることは、人間としての価値まで否定されることにもなります。
     

    スキルと賃金が比例しない日本企業

    日本企業は、採用した社員は時間をかけて育成し、入社後 10年くらいまでは給与や待遇の格差はほとんどありません。(実際はこの段階で社員の選抜を始まっていて、優秀な社員にはふさわしい仕事を与えてさらに実力を高めるようにしていますが。) つまり日本企業では仕事の報酬は、成果に応じた金銭でなく、より重要な仕事が報酬です。そして入社して10年以上経過すると徐々に上の役職に移行し、40前後で実務から離れて管理職になります。

    一方実務者と管理者では必要なスキルが異なり、実務者としては優秀な人が管理職としては不適格ということもあります。また40代50代は技術者であれば、まだ十分に力を発揮できる年齢ですが、昇格により実務から離れると技術者の仕事ができなくなります。
     

    賃金に見合った仕事がなければ、社内で失業

    日本では社員を解雇することが容易でなく、その一方年功序列賃金のため年齢が高くなると賃金も高くなります。中高年になると高い賃金に見合った成果が求められますが、若い社員の何倍もの成果が出せるわけではありません。それはもともと年功序列賃金が成果でなく、生活の保障のための賃金制度だからです。

    その結果、中高年になると、一部の社員はその高い賃金に見合った仕事がないため、社内失業になります。高度成長期は中高年の層が薄く会社も成長していたため、そのような人材を抱える余裕が企業にありました。しかし低成長で中高年の層の厚い今日では企業にその余裕がありません。

    つまり年功序列賃金は「中高年に非常に厳しいシステム」なのです。
     

    まとめ ~生存環境の全く異なるテクノロジー企業と日本企業~

     

    このようにテクノロジー企業と日本企業では、その生存環境が大きく異なります。テクノロジー企業が傑出した人材を求めるのは彼らにとって自然な選択です。この傑出した人材とは、一般的に考えられているランクの高い大学卒業者でなく、高い知力と想像力を備えたグローバルクラスのスマートクリエイティブ、ハイパフォーマーです。

    一方従来の企業の生存環境は、テクノロジー企業と異なり、もっと時間軸の長い変化のゆっくりとしたものです。しかし今日ではこうした既存事業にも激しい変化が押し寄せるようになり、これらの企業も変化に対応することが求められてきました。

    一方終身雇用、年功序列賃金の日本企業は、一つの共同体として非常に同質な人材の集まりでした。しかしこの仕組みはすでに維持するのが困難になり中高年のリストラが相次いでいます。一方従来の事業にも大きな変化が押し寄せ、日本企業も変化に対応できる、新たな事業を生み出せる人材が必要になってきました。
     

    図10 組織・人材マネジメントの変化

    図10 組織・人材マネジメントの変化

    今回は、人材の能力と採用、解雇にについて、テクノロジー企業と日本企業を対比して述べました。次回は、企業文化、組織、評価制度について考えます。
     

    参考文献

    「私たちの働き方とマネジメント」 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ 著 日本経済新聞出版社

    「ワーク・ルールズ!」 ラズロ・ボック 著 東洋経済新報社

    「amazonの絶対思考」 星健一 著 扶桑社

    「NETFLIXの最強の人事戦略」 パティ・マッコード 著 光文社

    「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」 アンドリュー・S・クローブ 著 日経BP社

    「ホンネで動かす組織論」太田肇 著 ちくま新書

    「外向きサラリーマンのすすめ」 太田肇 著 朝日新聞社

    「選別主義を超えて」 太田肇 著 中公新書

    「虚妄の成果主義」 高橋伸夫 著 日経BP社

    「できる社員は『やり過ごす』」 高橋伸夫 著 文芸春秋

     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

    人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

    ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

    未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

    経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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    「組織が社員をダメにする?組織文化の問題」 ~AI時代に必要な人材と彼らを生かす組織~

    今後、AIが様々な業務に活用されるようになると、定型化された業務はAIに置き換えられ、人はAIが苦手とする業務を行うことが求められます。オフィスではデータ入力やデータ処理、簡単な文書校正などはAIに置き換えられ、人の仕事は企画や立案、相手との交渉や調整になっていきます。このような変化に現在の人や組織は対応できるのでしょうか?AI時代の組織と人について考えます。
     

    これまでの組織研究

    組織の構成や特徴と、その経営に与える影響は、これまで経営学の中で研究されてきました。一方企業経営は、多様な企業、多様な経営者の活動です。そのため経営学という学問は、多くの人から誤解されてきました。
     

    「経営をしたことのない学者に真の経営がわからない」
    「経営学のケーススタディは我社には当てはまらない」
    これは学問としての経営学と現実の経営を混同したために起きた誤解です。
     

    経営学について

    経営学は、「経営の真理法則を科学的に探究する」社会科学の学問です。科学の目的は真理を探究ですが、その法則は普遍的でなければなりません。1社に当てはまっても他の企業に当てはまらなければ法則とは言えません。
     

    そのために経営学は経営理論を構築し、理論を元に仮説を立てます。そして多くのデータを収集・分析し、経営法則が正しいかどうかを確認します。その際、企業固有の特徴は多数のデータの中で埋没します。そのため経営理論が自社に当てはまらないことはあります。またデータ分析の結果得られた知見は過去に起きたことに対しての知見です。これから起きることはデータがないため分析できません。
     

    そして分析の結果、経営法則が正しければ論文を発表します。経営学者は、この論文の数で評価されます。この論文は学術誌に掲載される必要があり、バーバード・ビジネス・レビューのような実務家向けの雑誌に掲載され学術業績になりません。
     

    図1 ファイブフォースモデル

    図1 ファイブフォースモデル


     

    またマイケル・ポーター氏のファイブフォース分析のような実務者向けのツールをつくることも経営学者は熱心ではありません。つまり経営学者の関心は真理の追究で、研究成果が実際の経営に生かせるかは関心がないのです。
     

    物理学のような自然科学であれば、研究者が発見した物理法則は普遍性があります。どの企業が活用しても同じ結果か得られます。しかし経営学では個々の企業の規模、業界、構成員、企業文化が異なるため、経営学の経営法則が自社に当てはまるとは限りません。
     

    官僚制組織

    企業規模が拡大し、メンバーが個々の役割を分担して業務を遂行するようになると、集団として統率が取れた行動をするために組織が必要になります。
    バーナードは組織に必要な要素を以下の4つとしました。

    • 共通目的
    • 協働意欲
    • コミュニケーション
    • 意識的な調整努力

     

    この組織の基本形をマックスウェーバーは官僚制(ビューロクラシー)組織と名付けました。これは次の特徴があります。

    1. 職務担当者の機能が規則によって規制されている持続的な組織体である
    2. 組織における職務は規定された権限の範囲内で行われる。この権限は分業化された機能を遂行するための責任権限を含み、その内容と行使は明確に規定されている。
    3. 上位の職位が下位の職位に命令するという階層と階層的権限体系が存在する。
    4. 職務の執行は文書によって行われ、文書に記録される
    5. 職務活動を遂行するためには専門的な訓練が必要である。
    6. 職務上の活動は職員の当該活動への専従化を必要とする

     

    ウェーバーはこのような組織体は
    「完全な発達を遂げた官僚制機構の他の組織に対する優位性は、ちょうど機械が非機械的な生産方法より優れているのと同じである。正確さ、スピード、明確さ、書類についての知識、一貫性、慎重さ、統一性、厳格な従属、摩擦の排除、物的・人的費用の節減、これらは官僚制的管理において最高度に達する。」
    そして近代のあらゆる企業に取って卓越した組織体であると述べました。
     

    このような官僚制的組織の活動をシステムとしたのがISOマネジメントシステムとも言えます。
     

    官僚制組織のメリットは以下が挙げられます。

    1. 組織の成員の行動は方針、規則、手続きによって整合が取れている
    2. 職務が明確に規定されるので職務間の重複やコンフリクトがない
    3. 権威の階層(監督)があるので行動は予測できる
    4. 採用・使用真は専門的技能に基づいている
    5. 組織の成員はそれぞれの職務に専門化されているので、職務の専門的技能・知識を発展させられる。
    6. 人よりも役職が強調されるので組織の継続性が確保される

     

    一方、社会学者のマートンは官僚制組織のデメリット(逆機能)について以下のように述べています。

    1. 訓練された無能
    2. 変化した状況においても規則に従うことしかできず状況対応できない「訓練された無能」となる

    3. 最低許容行動
    4. 規則が処罰を免れるための最低水準の行動を規定するため、不確実な状況や特別の努力を必要とする場合でも規則に従っておけば非難されない

    5. 顧客の不満足
    6. 顧客のニーズや状況が異なっても規則に従った定型業務しか行わず顧客の不満が増大する

    7. 目標置換
    8. 本来は目的を達成するための手段や方法を規定する規則自体が目的になってしまう。例えば特定の規則に従った結果が報償されるとその特定の規則が目的化する、規則や手続きに従わないと非難されるという恐怖、組織全体の目標よりも部門目標を優先、等により目的が変質する。

    9. 個人的成長の否定
    10. 効率追求のための過度の分業と専門化は個人の成長を妨げる

    11. 革新の阻害
    12. 効率のみを追求すると革新へ資源を提供せず、組織の目標達成よりも組織内部のパワー・地位の分配に注力する。

     

    図2 官僚制の逆機能J,G,マーチ、H,A.サイモン(1993)「オーガニゼーション図第2販」
 

    図2 官僚制の逆機能J,G,マーチ、H,A.サイモン(1993)「オーガニゼーション図第2販」

     

    現代の企業組織の基本は官僚制組織であるため、上記のデメリットは何らかの形で現在の組織にも存在しています。
     

    職能別組織

    企業の規模が拡大するにつれて、構成員の業務は細分化され、各部門の業務を調整する必要が出てきます。そのため組織を階層化し、構成員へのコミュニケーションの円滑化を図ります。こうして業務別の組織を細分化したものが職能別組織です。総務部、生産管理部、営業部、製造部などのように業務に応じて組織化することです。
     

    図3 職能別組織

    図3 職能別組織


     
    職能別組織のメリットは、分業化することで専門的経験により技術やノウハウの蓄積が容易でかつ早くなり、各々活動の効率が高まることです。
     

    逆にデメリットは以下が挙げられます。

    • 権限がトップに集中するため、トップは日常の管理活動に時間を取られ戦略の構築などの経営活動に時間が取れなくなる。
    • トップに権力が集中するため、後継者育成のための訓練の機会が限られる。
    • 集権的な管理によりリーダーは受け身となり挑戦意欲が低下する。その結果自分の業務に専従し、全社的な視点が欠落し、変革に抵抗するようになる。
    • 業績評価は会社全体で行うため、各部門の業績を適正に評価するのが困難。

     

    このような職能別組織のデメリットは、職能別組織形態をとる中小企業でも見られます。
     

    AI時代に求められる人材

    なぜソニーにiPodができなかったのか?

    これからはAIやITが人の能力を補い、人の能力は向上し今まで以上に大きな成果が出せるようになります。例えば、多数のデータの相関分析は、かつては地道にデータをグラフに書き、個々のデータから電卓で相関係数を求めました。今はエクセルに入力すれば瞬時にできます。
     

    しかし、そもそも分析の方針が間違っていて、データが適切でなければ正しい結果が得られません。これからは「どれだけやったか」よりも「何を、どうやるのか」が重要です。つまり適切な目的や方法の選択、結果の適正な判断能力が求められます。
     

    図4 どれだけやったかよりも、どうやるかが重要
    コンピュータ化、自動化以前は効率が低いため、方法の違いは大きな差にならない。労働量を投入して、効率を高めることが重要。
     

    図4 どれだけやったかよりも、どうやるかが重要
    AI、自動化により、効率は大幅に向上。最初にどの方法を選択するかで結果は大きく変わる。

    図4 どれだけやったかよりも、どうやるかが重要
     

    アップルがiPodを発売したとき、ソニーにはiPodをつくる技術は全てありました。
    なぜソニーはiPodをつくらなかったのでしょうか?
     

    それはiPod (アップル) の核心となる質問がソニーになかったからです。それは
    「音楽はデジタルなのに、なぜ聞きたい曲を瞬時に手に入れられないのか?」
    という質問です。
     

    図5 初代iPod

    図5 初代iPod


     

    それまで音楽はCDなどのメディアを買うものでした。しかしCDのデジタルデータはネットからダウンロードもできます。1999年にはP2Pの音楽共有ソフトNapsterが公開されました。しかしアメリカレコード協会から訴えられ、同年サービスを停止しました。
     

    スティーブ・ジョブズは、「欲しい曲を瞬時に手に入れる」を実現するために、レコード会社と粘り強く交渉し、iTunesを使ってCDアルバムの曲をバラ売りさせました。今まで2000円以上払って、アルバムを買わなければ手に入らなかった曲が、iTunesから200円以下で手に入れることができるようになりました。iPodが他社の音楽プレイヤーのようにCDをコピーするだけなら、このようなヒットにはならなかったでしょう。
     

    問題をつくる能力

    AIが進歩しても、この問題をつくることはまだ当面の間、人間しかできません。そしてイノベーションは、現状に満足しない人間の「なぜ?」から生まれました。
     

    「なぜ、毎日毎日書類を書き写さなければならないのか」チェスターカールソン ゼロックスの創始者
    「なぜ、掃除機の紙パックはすぐにつまるのか」ジェームズダイソン
    「なぜ、カビのまわりでは細菌が繁殖しないのか」アレキサンダー・フレミング ペニシリンの発見
    「なぜ焼入れした後に研磨しなければならないのか」焼入れ材の切削加工で研磨レス
     

    一方「なぜ?」がイノベーションを生み出すためには、子供のように単純に「なぜ?」と問うだけでは不十分です。強い好奇心を持って自ら問題を深く掘り下げ、解決するという強い意志が必要です。スティーブ・ジョブズが強い意志でレコード会社にCDアルバムの曲をバラ売りさせることができたのは、それまでもディズニー相手にタフな交渉を重ねた経験があったからでした。
     

    イノベーションを創出するには、時には様々な手を使ってでも目的を達成するという強い意志が必要です。さらに組織の中でそれを実現するには、協力してくれる仲間も必要です。AI時代に企業間競争を勝ち抜くにはこういったイノベーターの育成とイノベーションを実現する体制が必要です。
    (ここでイノベーションという語の本来の意味は、よく言われる技術革新でなく「新結合」です。今までにない事業と事業の組合せができれば、全く新しい価値が生まれます。例えば、AKB48は、アイドル+オタクで新たな市場を作り出しました。)
     

    日本の組織と組織文化の問題

    「なぜ?」から今までにない組合せ、製品やサービスを実現すれば、自社独自の価値を生み出します。その社員の生み出す価値は、定型業務を行う社員よりはるかに大きなものです。しかし前述のように組織(官僚制)には、人を規則に従い、定型業務しかやらない人間にする傾向があります。さらに日本企業の組織には以下の問題があります。
     

    高度成長時代の組織

    日本社会はかつてムラを単位とした共同体社会でした。農作業は村全体で協力が必要なため、時には自分の利益を犠牲にしても村のために働くことが求められました。もし村八分にあい共同体のメンバーから外されれば、その村では生きていけませんでした。
     

    そのような強い結びつきの共同体意識は、企業にも引き継がれました。これにより企業は社員から利害や打算を超えた忠誠心や貢献を得ることができました。製造業では、大量生産だけでなく多品種少量生産でも、現場で必要なのは勤勉性と協調性です。カイゼンも従来の仕事のやり方の延長線上で「より良い方法」を求めるものです。
     

    決して今までのやり方を否定する革新的な方法を作業者に求めていません。日本の共同体意識は高度成長期において、ある程度レベルの高い同質の人材を企業に供給し、企業の成長に貢献しました。
     

    さらに新卒一括採用と終身雇用は、社員同士に大きな格差がつかず、その中から徐々に差がついて一部の人間が上位の職制に昇格するシステムでした。その評価には人事部が大きな権限を持ち、評価項目には協調性や忠誠心などの情意項目も重視され、組織への高い忠誠心が醸成されました。
     

    その一方、アメリカの経営コンサルタント会社が28カ国の従業員の「エンゲージメント」(仕事に対する熱意)を調査したところ、日本人のエンゲージメントは最低でした。このデータから、他国に比べても長時間労働で休みも取らず働く日本人は、自らの意志で積極的にそうしているのではないということになります。
     

    図6 従業員のエンゲージメント
2012/2013 KENXA Work Trends Reportより

    図6 従業員のエンゲージメント
    2012/2013 KENXA Work Trends Reportより


     

    年功序列型賃金と年功による昇格システムは、成長拡大する企業であれば維持できますが、成長がこれ以上望めない企業ではシステムとして維持が困難です。またこのシステムは、若い社員に対して仕事に不釣り合いな低賃金を強いる代わりに、キャリアを積んで子育て期に入ったときに、仕事以上の高給を約束するシステムです。従って、一つの会社に一生務められることを信用していない今の若者にとって、低い報酬で労働を強制する組織と感じます。
     

    同質化の弊害1 集団無責任

    共同体意識は社員を内向きにし、外部(社会)からの視点がなくなります。そのような意識が高くなると、上司や会社から達成困難な成果を求められた時に、組織(あるいは自分が所属しているグループ)の体面を守るためにコンプライアンスが無視されます。企業不祥事が発生した時に「仕方がなかった」という社員には、個人の責任という意識は希薄です。東芝の不正会計問題では、代々のパソコン事業部の役員は不適切な取引計上による売上の水増しを知りつつ、後任に引き継いでいました。この時、事業部の体面が重視され、個々の役員に自らの責任に対する意識はありませんでした。
     

    人の社会的結合の総量は一定なため、仲間どうしの結合が強くなれば、会社としての一体化は弱くなります。こうして会社の中に小さな結束集団がいくつもでき、組織がタコツボ化します。従ってタコツボ化を排除するためには、仲間どうしの結合を弱くしなければなりません。
     

    大がかりな組織変更や人事異動で人を大きく移動させるのもひとつの方法です。逆に東日本大震災以降、企業の中で社員の団結を高めるために「絆」をスローガンに掲げるところがありますが、見方を変えればコンプライアンス違反の組織文化を助長する行為です。
     

    図7 社会関係資本3つの型
(エキストリーム・チームより)

    図7 社会関係資本3つの型
    (エキストリーム・チームより)


     

    「社会的手抜き」とは、集団で共同作業を行った方が一人で作業を行う時より一人当たりの作業量が低下する現象で、作業以外にもブレインストーミングのような会議でもおきます。その要因には、以下のようなものが考えられます。

    • 自分だけが評価される可能性が低い
    • 努力の量にかかわらず報酬が変わらない
    • 自分だけ努力するのは馬鹿らしいという心理
    • 他者の存在によって緊張感の低下や注意力が散漫になるなどが起きる

     

    フランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマンは綱引き、荷車を引く、石臼を回すなどで実験した結果、1人の時の力の量を100%とした場合、2人の場合は93%、3人では85%、4人では77%、5人では70%、6人では63%、7人では、56%、8人では49%と低下しました。(リンゲルマン効果)
     

    この共同体組織は、無責任さや自分たちの集団の利益を優先する体質に加えてお互いの足を引っ張り合う特徴もあります。つまり「出る杭は打たれる」文化です。企業における年功序列の仕組みは、誰かが昇進すれば、誰かが昇進できなくなるゼロサム構造です。そのため、管理職になると自分が昇進するために同僚の足を引っ張ったり、ライバルの事業部の成果が出ないように暗に足を引っ張ったりします。
     

    実際、日本企業の社員は、職場の同僚が困っていても助けないし、ノウハウを教えようとしない傾向があります。この傾向は「相手のメリットになる事が自分のデメリットになる」という構造を解消しない限り、なくすことは困難です。
     

    同質化の弊害2 圧力

    共同体としての企業は閉じた社会で途中退職しない限り、その社会から抜けられません。その意味でムラに近いものがあり、ムラのルール、文化に従わなければ有形・無形のペナルティを受けることがあります。この見えない圧力を先読みすることが「空気を読む」ことです。そしてこの見えない圧力が様々な不祥事を引き起こしています。
     

    2009年6月14日村木厚子厚生労働省 局長は、郵便不正事件で逮捕されました。そして2010年9月10日無罪判決が出ました。捜査の過程で検察側は検察が想定した「主犯 村木局長」というストーリーに合わせるため、証拠として押収したフロッピーディスクの日付(プロパティ)を改竄しました。この主任検事の証拠改竄という前代未聞の事件は、主任検事とその上司の元特捜部長の逮捕という結果になりました。
     

    なぜ検事が証拠を改竄するという「あってはならないこと」が起きたのでしょうか。この検事は上司から「最低でも村木を挙げよ」という強いプレッシャーをかけられ、自らの検察のストーリーと異なる証拠が発見されたとき、真実よりも組織の体面を重んじたのでした。当時検事が語った「被疑者が言ってもいないことを調書に書くのはよくあっても、物理的な証拠が改竄するのは考えられない」、この段階で検察の内部のモラルは正しいと言えるのでしょうか。
     

    村木氏は間違いが起きた時に軌道修正しにくい組織の特徴は

    • 権力や権限がある
    • 正義のため、公のために仕事をしているとプライドがある
    • 機密情報や個人情報を扱うなど情報開示が少ないため、外からのチェックが入りにくい

    この3つを挙げています。
     

    そして財務省、防衛相、検察、警察などはその典型であり、マスコミや教師、医者などの先生と呼ばれる人たちも危険と指摘しています。こうした組織は性格上「建前は守らなければならない」、「失敗や間違い許されない」という意識になりがちで失敗や間違いを認めることができず、無理を重ねます。
     

    逆に失敗や間違いを認めれば、大きな問題になる前に被害を最小にすることができます。このような失敗や間違いを認めることができない組織は、企業の中にもあるのではないでしょうか。
     

    生産性低下の原因

    海外に比べて日本のホワイトカラーの生産性が低い原因の一つは、管理職の職務と成果があいまいなためです。自らが優先して取り組まなければならない業務やミッションがあいまいなため、目先の雑用や会議に時間を費やし、付加価値を生み出していません。特に大部屋形式のオフィスでは、管理職のところに部下が次々と来て決済や相談するため、自らの業務に集中できません。この重要な業務は大抵頭を酷使するため集中力も必要です。それに対して雑用は頭を使わずにでき「仕事をした」気分になります。
     

    それぞれの職務において重視すべきこと、達成すべきことが明確でないため、仕事の配分が適切にできない社員もいます。特に完璧主義者の場合、雑用も一生懸命取り組んで、その結果重要な仕事が間に合わなくなります。これも共同体組織の中で「頼まれたこと」が断れない状況が原因です。
     

    図8 やり過ごしを許容するA社の評価基準

    図8 やり過ごしを許容するA社の評価基準


     

    成果主義と分化

    同支社大学政策学部教授 太田肇氏は、これらの問題を解決するためには日本企業に「分化」が必要だと述べています。分化とは「個人や組織が集団、あるいは他人から、物理的制度的、もしくは認識的に分けられること」を指し、職場での仕事の分担を明確にしたり、給料や昇進に差をつける弱い文化や、企業飛び出して独立する強い文化などがあります。
     

    具体的にはメンバーが担当する仕事とその成果を明確にし、担当した仕事はプロフェッショナルとして責任を持って遂行することで、フリーランスに近い意識で仕事をすることです。この分化のメリットを以下に述べます。
     

    やる気の天井が取れる
    • 仕事の分担を明確にし、裁量権を与えることで、本人の努力・能力により成果がでれば、達成感、自己効力感が得られます。
    • 試作モデルを制作しているA社では、社内独立制度を導入し製造の社員を雇用から独立自営に切り替えました。これにより彼らの個人所得は1.4倍になり、生産性は単価の下落を考慮しても3倍に上がりました。制度導入後は中高年も新しい機械の操作を積極的に習得するようになりました。生産に影響のない雑用をできるだけ減らすようになったことも影響しています。
    異質なチームワークが生まれる
    • それぞれの得意分野の異なる専門的な人材がチームを組むことで、各自の能力を生かして今までよりも高い成果を出せます。メンバー同士がプロフェッショナルとして認め合い、チームの目的の達成のために協力することで、均一なチームよりも高いパフォーマンスを発揮します。
    無責任型不祥事がなくなる
    • プロフェッショナルとして、複数の企業を渡り歩くようになると、組織のために起こす無責任型不祥事がなくなります。そのようなことをすれば自分のキャリアにキズが付くからです。ソニー生命やプルデンシャル生命では保険営業の担当を個人事業主として独立させています。また福島県三春町では「個人担当・個人責任制」を取り仕入れ、仕事の分担表を全戸に配布しました。

     

    一方で分化することで、組織のメンバーがバラバラになり統一された行動が取れなくなるのではないかという心配があります。ところが太田氏はむしろ分化することで新たなつながりが生まれ、人間関係が改善されると言います。
     

    自律
    • 自分の意志で行動できるようになることで、むしろ他人とつながりを持とうとする傾向が出できます。一人一人の分担が明確になり必要な権限が与えられれば「やらされ感」がなくなり、仲間を助けようという余裕が生まれます。
    人間関係の改善
    • 閉鎖的な集団を解消し、濃密すぎる人間関係を薄めることでむしろ人間関係が改善されます。
    功利的な動機と他人への貢献
    • チームでまとまって行うと「社会的手抜き」により全体の成果が低くなります。
    • 一方個人が分化していれば、結果は一目瞭然なので手抜きが起きなくなります。また他人を助けることで見える形で貢献すれば、相手からも感謝されるので積極的に応援するようになります。また見える形にすることで功利的なメリットがなくても、他人へ貢献したいという意欲が生まれます。

     

    欧米の組織と組織文化の問題

    太田氏によれば日本組織の問題点は、分化が不十分な点にあります。それでは各自の職務が明確に分化し雇用者との間に契約を取り交わしている欧米の組織には、このような問題はないのでしょうか?ハーバード・ビジネス・レビュー編集部の「組織能力の経営論」よりアメリカの組織の問題点を述べます。
     

    成果主義の功罪

    欧米の企業でも過剰な成果主義は負の側面をもたらしています。その結果、自分や会社の成果を出したいと思うあまり、倫理、法的な境界線を踏み越えたりするケースが出ています。これは利己的な理由でそうなる場合もありますし、社内での圧力から起きる場合もあります。
     

    フォルクスワーゲンは世界最大の自動車メーカーになるために経営トップは強気な売上目標を立て、中間管理職はその期待に無条件に応えなければなりませんでした。ディーゼルエンジンの技術者は、廃棄物と燃費の相反する現象を技術的に解決できず、不正なソフトウェアという手段を取ってしまいました。
     

    その結果、不正に関与した技術者数名、CEOを含む経営陣の多数が解雇、及び辞職しました。この結果を招いたのは「横暴」とも言われたフォルクスワーゲンの厳しい企業文化にありました。
     

    防衛的思考

    コンサルタントは専門職として高い教育を受け、会社の業績向上には強い意欲を持つ人たちです。コンサルタントは、クライアントが業績を改善するために以前と違った方法でどのように仕事を進めていくのかを指導する立場にあります。そのため自らの組織の変革にも協力的であると考えられました。
     

    あるコンサルタント会社が自社のチームの業績を高めるために変革を起こそうとするとコンサルタント自身が最大の障害となりました。あるプロジェクトの成果を高めるためのヒアリングをしたところ、コンサルタントたちは自分たちのことは棚に上げ、成果が出ないのはクライアントに一方的に非があると主張しました。
     

    こういったコンサルタントの自己防衛思考的な言動は、高い学歴が災いして失敗や失意に陥る経験が不足していたためでした。成功への高い意欲は失敗への大きな不安や達成できない時の恥や罪の意識の裏返しだったのです。
     

    情報の歪曲

    売上数十億ドル(数千億円)のある企業は、ある製品の損失累計が1億ドル(100億円以上)に上り、この製品から撤退すべきと判断しました。実は6年前に5人の社員がこの製品の重大な問題に気付いていました。工場主任の3人は、日々直面する生産トラブルの解決に多額の費用がかかっていることを知っていました。2人のマーケティング担当者は、この費用を価格に転嫁すれば市場競争力は失われることを知っていました。
     

    では、なぜこの情報がトップ伝わるのに6年もかかったのでしょうか。実は彼らは悪い情報を上司に伝えていました。しかしこの会社は悪い情報は歓迎しないため、彼らの上司は自分たちの上司ががっかりしないように長い資料を作成しました。その資料を受け取ったミドルマネジャーは報告書に改善策を入れ、明るい材料を付け加えるように指示しました。
     

    さらにミドルマネジャーたちは情報を小出しにし、さらに資料の中身を大幅に割愛して、自分たちに直接火の粉がかからないようにしました。経営陣には断片的な情報しか入らず、問題の深刻さは伝わらなかったため、経営陣はこの製品を継続することを表明しました。現場のマネジャーは、このような悲惨な事態になっているのになぜ経営陣が続けようとするのか理解できませんでした。そのため資料を作成することに消極的になり、警鐘を鳴らすことも控えました。
     

    組織文化

    組織が活性化するかどうかは、公式な組織形態だけでなく、集団が持つ非公式な組織、組織文化によるものも少なくありません。組織文化は創業者の考えや理念、パーソナリティによってつくられ、仕事のやり方を通じて社員間に共有されていきます。その過程で組織文化が合わない社員は去り、組織文化はさらに強化されます。
     

    DVDレンタルから現在は動画のストリーミング配信を行っているネットフリックスは、自社の企業文化を記した通称「カルチャーデッキ」を新入社員に読ませています。そこには社員に自由と裁量権を与える代わりに高い水準のパフォーマンスを求めることが記されています。かつて経営が苦境に陥った時、社員の3割を解雇せざるを得ませんでした。しかし残った社員だけの方が事業の効率が高まり高い成果を出すことができました。そのことからネットフリックスは社員により卓越したパフォーマンスを求める文化になりました。
     

    ある研究ではチーム内での1年間のメールの数を調べてメンバーの結びつきの強さと売上の関係を調べました。その結果、結びつきが薄いチームは結びつきが強いチームに比べて業績が悪い反面、結びつきが強すぎても業績が低下することが分かりました。人間関係の絆が強すぎると行動に時間がかかり、チームの成績よりもお互いの関係の方が重要になるためでした。
     

    さらに緊密な絆は、仲間が不適切な行動、倫理的に間違った行動をしている時、かばい合いを生む可能性があります。実際、集団に対する高い忠誠心があると、不都合な真実や非道徳的な行動をさらしたがらなくなることが研究で指摘されています。さらに過剰な人間関係の重視は「身内」と「部外者」を分け、他人を排除するようになります。
     

    アリババのジャック・マーは、いくつかの事業を失敗した後、アリババを創業し、現在は社員数3万8千人という巨大なEC企業を達成しました。強い野心を持つジャック・マーは同じような起業家精神を持った人材を採用してきました。社内では長時間熱心な議論を戦わせることが奨励され怒鳴り合いも辞しません。
     

    過去にアリババにいた人物はアリババについて「アリババにいるのは文明人ではない。ルールに沿っておしとやかに試合をする選手たちではない。望むことを何でも追いかける、極端で過激な人たちだ。会議が終わって出てくるときは誰もが叫びすぎて顔が真っ赤になっている。それがこの会社での会議のやり方だ。声を張り上げて強烈にやり合う。」と述べています。
     

    これから必要な組織とは

    これからAI時代にどのような組織が必要となるでしょうか。その切り口を以下に述べます。
     

    年功序列の破綻

    適切な評価に賃金まで入れると、若い人に相対的に低い賃金を押し付ける年功序列賃金は、ひとつの企業に定年まで雇用されること信じていない若者たちには受け入れられません。さらに年功序列と新卒一括採用は、最初に入った会社に留まることが収入や待遇面で有利となるため、なかなかやめられずパワハラ、セクハラの温床にもなっています。また年功序列は賃金だけでなく、仕事の裁量権にも及び、若い人、キャリアが浅い人は限られた仕事しかやらせてもらえません。
     

    しかしAI時代、年功を積んだ社員が「問題を考えられる」「適切な目的や方法の選択できる」とは限りません。能力を持った社員により付加価値の高い仕事をするためには、年功以外の新たな組織形態が必要です。そのひとつが分化かもしれません。
     

    分化の実現

    分化の意図するところが、プロフェッショナルとして自立した職業人の集団であれば、組織の中で業務内容を分化しただけで十分だろうかという疑問があります。組織に属して賃金や立場が保証された立場と、独立したフリーランスでは意識に大きな違いがあるからです。
     

    一方、仕事の分化が進むと、それを統括する管理者の業務は増加します。これまでの組織は部下が仕事だけでなくそれに派生する雑用や調整業務も行うため、管理能力の不十分な管理者でもチームは成果を出すことができました。しかし各メンバーが専門職として分化した場合、各メンバーを効率よく業務ができるようにマネジメントしなければ十分な成果を出せません。管理者には真のマネジャーとしての管理力が問われるようになります。
     

    プロフェッショナルということ

    自立したプロフェッショナルを組織してチームにする場合、従来の共同体の組織のように共通の認識や暗黙の了解、例えばあうんの呼吸で仕事を進めることができなくなります。そして組織文化もこれまでとは大きります。
    また社員にも相応のプロフェッショナル意識が求められます。業務の時間管理や仕事の成果に対して、品質や納期の管理が求められます。
     

    一方で現在の労働法は、高度成長時代の働いた時間だけ成果が出て、それに対して報酬を支払う考え方です。AI時代に入り、時間をかければ成果が出るわけではありません。今後は社員の報酬を決めるのに時間に変わる別の指標が必要となります。一方で労働者は雇用主に対して立場が弱く、必要な部分は法で守られる必要があります。それらを両立する新たな仕組みがこれから必要になるでしょう。
     

    参考文献

    「経営管理」 野中郁次郎 著 日本経済新聞出版社
    「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」 入山章栄 著 日経BP社
    「日本型組織の病を考える」 村木厚子著 角川新書
    「なぜ日本企業は勝てなくなったのか 個を活かす『分化』の組織論~」 太田肇 著 新潮社
    「組織能力の経営論」ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 ダイヤモンド社
    「エキストリーム・チームズ」ロバート・ブルス・ジョー 著 すばる舎

     

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