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【製造業の値上げ交渉】23. 少し高くても受注3 高い価格を受け入れてもらうには?

値上げをお願いすると「値上げするなら他に出す」と言われます。

実際は安くても品質管理に問題があったりして、出すのをためらう仕入先だったりします。

あるいは他に出すところが本当はないかもしれません。私の経験でも指値では発注できないこともありました。

この指値については製造業の値上げ交渉22 少し高くても受注2 指値とコストダウンを参照願います。

一方取引先にとって値上げを受け入れることは、他の仕入先よりも高い価格を受け入れることにもなります。
 

他社よりも少し高い価格

なぜなら多くの仕入先があれば、そのサプライチェーンの中では値上げした金額よりも安くつくる仕入先があるからです。

再び相見積を取って、安いところに発注すれば値上げしなくてすみます。

つまり他の仕入先よりも少し高い自社と「取引した方がよい」という理由が必要です。

この取引先の価格が厳しい原因は、厳しい原管理と指値にあります。
 

指値とは?

各メーカーとも価格競争は厳しく、原価を抑えなければなりません。そのため開発段階から目標原価を管理する原価企画を行います。製品の目標原価を部品単位に展開し、個々の部品の目標価格を決めます。これを指値として仕入先に提示します。

この指値は仕入先にとって厳しい価格です。指値でつくれる根拠は取引先にあるのでしょうか。
 

指値の根拠

まだつくったことのない部品の指値は、大抵は過去の類似部品の実績や製品の目標原価から計算されます。
(参考 私が過去に行った原価企画では、類似部品の価格を調べてこれを参考に新たに製作する部品の価格をおよそ見積っていました。)

この場合、具体的な製造時間や製造工程を考慮せずに指値を決めていれば、金額に具体的な根拠はありません。

また例え製造工程や製造時間から予測原価を概算したとしても、仕入先のアワーレートや管理費、利益はわかりません。

そのため指値が仕入先の原価とは乖離します。
 

原価の7~8割は設計で決まる

実際は原価の7~8割は設計で決まると言われています。

ある機能を実現する製品の原価は、設計が決まればおよそ決まります。

その結果、原価が高ければ、図面や仕様を見直して、安くつくれる図面や仕様にしなければなりません。そのためにはつくる側と発注する側の双方がアイデアを出し合う必要があります。

図 目標価格の割り付けと目標価格のオーバー

図 目標価格の割り付けと目標価格のオーバー

しかし発注先を選定する部署(例えば 購買)は、図面や仕様を変える権限がありません。

それでも安く調達しようとすれば、その図面や仕様でかかる原価よりも低い価格で発注することになります。これは下請法の「買いたたき」になります。
 

適正価格は企業によって違う

実は原価はどの仕入先も同じではありません。会社の規模やつくり方によって変わるからです。私の経験でも、同じ図面や仕様でも見積価格は仕入先によって違っていました。傾向として規模の大きい会社は原価が高く、規模の小さな会社は原価が低くなります。

図 適正価格の違い

図 適正価格の違い

規模の違いによる原価の違い

規模の大きなA社は、設備が新しく減価償却費も多額です。生産管理や品質管理など間接部門の規模が大きく、その分間接人員の人件費も多くなります。工場の経費も高く、原価に占める間接費用が高くなっています。

対して規模の小さなB社は、大半の設備は償却が終わっています。設備の費用はゼロです。生産管理や品質管理の専任者はおらず、社長以下全員が生産活動に従事しています。規模が小さいため工場の経費も多くありません。

両社を比較すると、A社は、設備の費用や賃金が高いためアワーレートが高くなります。間接費用も大きいため、その分原価も高くなります。

B社は、設備の費用や賃金が低くアワーレートは低くなります。間接費用も小さく、原価は低くなります。

その結果、同じ製品でも見積金額は違います。

これについては【製造業の値上げ交渉】7. この製品、いくらが正しいのだろうか?を参照願います。
 

品質が問われる部品、どちらに出したいですか?

では、ある部品をA社かB社のどちらに出したらよいでしょうか?

これは部品によります。

A社は品質管理や工程管理がしっかりしているので、数が多いものも品質が安定しています。技術的に難しいものも治具や加工方法を工夫して製造します。

B社は昔ながらの職人的なものづくりのため、数が多いものは品質に不安があります。統計的手法を駆使した品質管理や工程能力の把握は困難です。もし不良品が混入すれば、自社で見つけることができず取引先に流出する可能性があります。

従って不良品が流出すれば重大な問題が起きる部品は少々高くてもA社に発注します。もし市場で問題が起きれば、多額の損失が発生し部品単価の違いは吹き飛んでしまいます。

そうなればその仕入先を選定した購買の責任も問われます。

図 企業による原価の違い

図 企業による原価の違い

ポイントはヒューマンエラーの管理

先日、個人的にある部品(小さなカラー)が必要になったため、個人が依頼できる部品発注サイトを使って発注しました。

出来上がった部品は、寸法はOKでしたが、1箇所 面取りが図面指示と異なっていました。図面指示は、C0.1~0.3でしたが、現物はピン角(面取りなし)でした。自分が使う分には問題ないので検収を上げました。

しかしこの部品を企業に納品した場合、これは不良品です。

1個だけつくる場合、その品質は作業者のスキルや注意力に依存します。作業者がどれだけ注意を払って作業するかが重要です。たかが面取りと思われるかもしれません。

しかしたった1箇所の面取りで機械が壊れることもあるのです。

もし企業がこの会社に発注すれば、こうした作業者のミスは、自社の受入検査や現場の担当者が目を光らせて見つけなければなりません。それでも少し安い会社に発注したいでしょうか。
 

適正価格を説明

例えば、ある部品の適正価格は、
A社700円
C社600円
でした。

取引先は、価格のみを比較し、A社に「700円は高い」と言います。A社は「C社と比較されても…」と思いつつ、自社の価格が「適正」と主張しません。

この100円高い理由は、品質管理や工程管理の体制、最新の設備の投資によるものです。それは安定した品質をもたらします。

そうであればA社はそれを取引先に説明しなければ取引先に伝わりません。

それでも取引先が600円で調達したければ、C社に発注すればよいのです。その結果、不良品が発生しても、それは取引先の選択した結果です。
 

買いたたきは下請法違反

問題は、取引先が600円で、A社に発注しようとする場合です。

600円ではA社は、利益がゼロ、販管費もカバーできない金額です。

これは仕入先に不当に低い価格を強要することになります。しかし取引先はC社の600円の見積を見ているので、600円は不当に低い価格とは思いません。

図 買いたたきに気づかない構造

図 買いたたきに気づかない構造

適正価格をていねいに説明

A社は製造工程と各工程の費用を示し、700円が適正な価格であることを説明します。これは暗に無理に700円を要求すれば「買いたたき」になることを示唆します。

原価の根拠を丁寧に説明し、見積は適切で水増しはないことをわかってもらいます。
 

駆け引きしない方が建設的な話し合いができる

価格交渉では、値下げ要求分を見越して、見積を水増しするなど様々な駆け引きがあります。しかし駆け引きをすれば、交渉はお互いの腹の探り合いになってしまいます。

ものづくりは多数の部品が集まって製品になります。ひとつひとつの部品を製造する仕入先の工夫やアイデアも欠かせません。それにはお互いがアイデアを出し合い、協力しなければなりません。

図 建設的な話し合い

図 建設的な話し合い

そのためには仕入先は原価の理由を説明して、見積金額は適正価格であり水増しはないことを理解してもらいます。その上でもっと安く調達したければ、図面や仕様の変更も含めて安くつくる方法を取引先と協議して、よりよいものづくりを目指すのが望ましい姿です。
 

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経営コラム ものづくりの未来と経営

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【製造業の値上げ交渉】21. 少し高くても受注するには1 内製も含めた他の選択肢

【製造業の値上げ交渉】20. 値上げのチャンスとは? で、値上げできる機会とそれの活用について説明しました。

値上げが成功するかどうかは取引先に他の選択肢があるかどうかです。

他の選択肢があれば、取引先は強気で交渉します。

つまり交渉での最大の力は「選択できること」です。
 

競合の情報が重要

 

取引先は今の仕入先以外に選択肢がなければ、仕入先の価格交渉は有利です。従って他の選択肢、つまり競合の情報が欲しいところです。

では、自社の競合はどこでしょうか?

競合の価格はいくらでしょうか?

これは簡単には分かりませんが、購買の担当者との会話や同業者からの情報などで競合となっている会社の情報を集めます。
 

値上げ交渉では転注の可能性

値上げ交渉の場合、取引先が値上げを受け入れられなければ、他社に転注しなければなりません。しかし、

  • 転注できる仕入先がない
  • 転注すれば品質リスクがある
  • 転注品の評価や検証が必要

であれば、転注するより値上げを受け入れます。

例えば下図のように仕入先が受注金額988円の製品を、88円値上げを要請しました。この値上げ金額は、材料費、外注費、人件費などの経費の上昇分から計算した適正な値上金額です。

しかし取引先は88円の値上げは受け入れがたいため、他の仕入先に見積を取ったところ、ある仕入先は材料費以外は従来と同等として、1021円の見積でした。

ただしこの仕入先に転注すれば、初品確認、初期流動確認など転注に伴う費用が取引先内部で発生します。(ただしこういった内部費用は取引先自身も把握していないことが多いです。)

図 競合と転注

低すぎる価格の問題

 

新規の引合では、取引先から希望価格(指値)が出されることもあります。

この指値は低すぎることが多く、指値では赤字になってしまいます。
 

なぜ赤字価格で受注するのか?

ところが指値で受注する競合があると購買から聞かされます。

なぜでしょうか?

同じような設備、同じような時間で製造する場合、それでも低い価格で受注するのは、いくつかの理由が考えられます。

適正価格が低い

企業の規模が小さく、間接費や販管費が低い場合です。

取引先の求める品質管理、納期管理、トレーサビリティ管理などを行うと、間接部門の人数が増え、間接費が高くなります。営業や管理部門の人も必要であれば、販管費も高くなります。

しかし競合が数人の会社で、全員現場で作業すれば間接費や販管費は少なくて済みます。必要な利益が得られる適正価格も低くなり、指値でも利益が出ます。
(この適正価格の違いについては【製造業の値上げ交渉】7. この製品、いくらが正しいのだろうか?を参照願います。)
 

受注が少ないため赤字でも受注

現在、競合は受注が少なく、工場の稼働を維持するため、たとえ赤字でも受注しようとしている場合です。

受注不足で売上が少なければ工場の経費や人件費など固定費が回収できません。そこで今は少しでも固定費を回収するため、赤字の案件でも積極的に受注します。

この場合、売上が増えて固定費が回収できれば、このような儲からない案件はもう受注しません。

もし競合が赤字でも受注しようとして受注した場合、この実績金額は、本来であればどこも受注しようとしない赤字金額です。
 

廃業した会社の案件

中には赤字受注が続き、事業を断念する会社もあります。

そうなると取引先はこの製品をつくってくれる他の仕入先を探します。

知人の経営者に聞きましたが、こうして他から回ってきた案件を取引先から打診された場合、打診された価格の2~3倍の金額でなければ受けられないそうです。

つまり廃業された会社は、値上げできずに赤字を我慢した結果、他社が受けている価格に比べて大幅に低い価格でつくっていたのです。
 

安値受注競争を避けるには?

 

価格だけで発注すれば、自社よりも低い見積を出す競合が大抵はあります。そこと競えば安値受注競争になってしまいます。
 

本当に価格だけで決まるのでしょうか?

取引先は本当に最安値の仕入先に発注したいのでしょうか?

ものづくりは価格だけではありません。

購買の仕事は、QCDを総合して最適な部材を調達することです。

そのためには価格だけでなく品質や供給能力も含めて選定しなければなりません。

価格は低いが品質や供給能力に問題がある仕入先に発注すればどうなるのか、経験豊富な購買はわかっています。(ただ価格交渉の場では、価格だけにフォーカスし、そのようなことは決して言いませんが)。
 

そのために必要なこと

 

そのためには自社は取引先からどのように評価されているのか、自社の強みは何なのか、理解しておく必要があります。
 

SWOT分析では不足

その場合、一般的なSWOT分析では不足する点があります。

SWOT分析は、自社の内部環境(強み、弱み)、外部環境(機会、脅威)を分析するフレームワークです。しかしこのフレームワークには「取引先から見た強みと弱み」がありません。

図 SWOT分析

取引先から見て、

  • 自社はどの点で評価されているのか

競合に対して、

  • 優れている点と劣っている点

を調べます。

これは結構難しいです。
 

技術の洗い出し

例えば「技術力」は

  • 取引先が求める技術
  • 自社の持っている技術
  • 競合が持っている技術

これらを洗い出します。

しかし技術という定性的なものを見えるような形にするのは大変です。

実際は

取引先が求める技術 →取引先から出た図面・仕様

自社の持っている技術 →受注した図面・仕様、断った、あるいは受注できなかった図面・仕様

自社の持っていない技術 →断った、あるいは受注できなかった図面・仕様

競合が持っている技術 →自社が断った、あるいは受注できなかった図面・仕様で競合が受注したもの

これらを洗い出して俯瞰すれば、見えてくる場合もあります。
 

品質の洗い出し

取引先が行うまとめるサプライヤーの評価には、仕入先の不良件数や内容がまとめられ、仕入先のランキングがつくられています。

自分の経験(品証部)では、技術的に難易度が高い部品をつくっている仕入先は不良も多かったです。

対して簡単な部品をつくっている仕入先は不良件数が少なかったです。

しかし不良件数が少ないからと言って、簡単な部品をつくっている仕入先の品質が高いわけではありません。
 

不良件数よりも不良発生後の対処が重要

不良件数が多いことよりも、不良が出た後の対処が問題になりました。

代品の供給や原因分析、再発防止の取組などが仕入先の評価になりました。

不良が出た後の対処が遅く、対策が不十分で不良が再発した仕入先は低い評価でした。

図 不良と品質


 

品質の評価は定性的

こういった評価は定性的です。何かデータが出てきて、仕入先を順にランキングして決められるものではありません。

価格が高い原因をPR

 

リコールや自主回収などメーカーは不良品を販売すれば、多額の費用をかけて対処しなければなりません。

そのため品質に対する要求は厳しくなっています。

それに応えるには仕入先は、品質管理、工程管理、納期管理などの体制を整備しなければなりません。間接部門の人員も多くなっています。

その結果、コストは上がり、自社の適正価格は高くなります。

価格だけで比較すれば、数人の会社で全員作業者の会社の方が低くなります。

そこで取引先の要望に応えて上記のような取り組みをしてきた場合、それを簡単な文書にまとめて取引先にPRすることをお勧めします。

言われないことは、取引先はわかりません。

特に購買は価格だけ見ているからです。
 

なぜ品質が高いのか、自身もわからない

私の経験ですが、ある仕入先は品質が高く、不良はめったに出ませんでした。しかし工場に行って工程管理や品質管理を監査しても他の仕入先と大きな違いはありませんでした。

違いは人にありました。

この会社では「不良品かもしれない」と思うと、取引先の品質管理部署に必ず連絡してきました。

「気になる傷があるのですが、これは納品してよいか見て欲しい」と品物を送って来ました。

このようなことは他の仕入先ではありませんでした。

こうした品質に対する姿勢、不安があれば必ず確認するという姿勢が高い品質の原因だったのです。

しかしこれは仕入先自身も気づいていません。このように強みをみつけるのはなかなか難しいようです。
 

内製部門が競合

 

特殊な設備や工程があるため、競合となる仕入先がない場合があります。

ところが取引先が内製できました。

つまり取引先の内製加工部門が競合だったのです。

これは双方で誤解があります。
 

内製加工の原価は低くなる

取引先は仕入先の見積と内製加工部門の価格を比較します。そして内製加工した方が安くなります。仕入先に
「内製すれば○○円、○○円より高ければ内製する」
と言います。

なぜそうなるのでしょうか?

原因は見積条件が違うためです。

図 内製と外製の比較

内製加工品は社内で取引されるため、外注品のような販管費や利益が含まれません。

(社内販売価格と社外販売価格の違いは【製造業の値上げ交渉】14. なぜ取引先は販管費が高い、利益が多いと言うのだろうか?を参照願います。)

従って見積の基準が違うため、同じ時間、同じ人件費で製造しても外注加工の方が高くなるのです。

なぜなら内製すれば、内製品の価格は製造原価だけです。しかし外注加工品は仕入先の販管費や利益が製造原価にプラスされます。

ただし実際は、仕入先の人件費や工場の経費が取引先よりも低いことが多く、外注化すれば原価が下がることも多いのです。そのため取引先、仕入先のどちらも外注化すれば安くなると誤解します。

しかし理論的には製造原価が同じであれば、外注すれば高くなるのです。
 

内製しない理由

本当に安くつくりたければ、取引先は内製すべきです。

なぜ内製しないのでしょうか?

図 内製による固定費の増加

理由は、内製には人や設備が必要だからです。現在の人や設備で製造できなければ、増員や設備投資が必要です。その結果、固定費が増えます。

人は、派遣社員を活用すれば使えば変動費にできます。しかし設備が足らなければ設備投資を行わなければなりません。その分固定費が増えます。設備が高価であれば資金も必要です。さらに減価償却費が増えて利益が減少します。

しかも設備は一旦導入すれば償却が終わるまではずっと稼働しなければ設備投資を回収できません。製品や技術の変化の激しい今日、償却が終わるまでその製品を生産する保証はありません。

従って取引先は、設備投資や増員が必要な製品は外注化できれば外注化しようとします。

これは言い換えれば、設備投資の必要な部品を外注化することは、設備投資のリスクを外部に移転することです。
 

内製化の課題を理解して交渉

つまり取引先は内製すれば安くても内製するとは限りません。

そこでこのような場合、まずは適正な原価計算を行い、自社の適正価格を計算します。

そして取引先と価格交渉します。

取引先が自社の内製価格を出して「社内なら○○円でできる」と言う場合、自社の適正価格を主張します。

そして、自社に発注しなければ、取引先は設備投資をしてまで内製するのか、それとも「だったら内製する」と言う言葉が本当かどうか、その可能性を見極めます。
 

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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【製造業の値上げ交渉】20. 値上げのチャンスとは?

材料費、人件費、エネルギー費など様々な費用が上昇し、値上げは避けられません。しかし規模の劣る中小企業が取引先と値上げ交渉するのは困難さが伴います。

そこで国は中小企業を支援すべく様々な施策を打ち出しています。

この国の取組については【製造業の値上げ交渉】】19. 下請法や国のガイドラインを値上げ交渉に活かす方法で説明しました。

2024年には国は仕入先からの適正な値上げを認めないのは「下請法違反」という見解を示しています。

そのため取引先も仕入先からの値上げを認めざるを得ない状況にはなってきています。
 

値上げのチャンスとは?

 

それでも値上げはなかなか大変です。ところが値上げを認めてもらえる絶好の機会があります。それは

  1. 特急・短納期
  2. 発注先の仕様変更・設計変更
  3. 他社ができないもの

 

なぜ値上げのチャンスなのか?

それはこのような時は、価格が高くても価格以外の事情が優先されるからです。

ところがこのような機会を活かしきれない企業もあります。

こういった機会があってもそれを活かして値上げしなければ、利益は変わりません。

ではどうすればいいのでしょうか?
 

値上げの機会を活かす1 特急・短納期

 
取引先がとても短い納期で依頼することがあります。

このような超短納期でつくるためには、今ある製品を止めて割り込ませたり、残業や休日出勤で対応したりしなければなりません。できればやりたくない仕事です。

図 短納期でつくるためのコストアップ


 

取引先の事情

こうした場合、取引先には超短納期で手配しなければならない事情があります。例えば

(1) 試作・開発品

開発日程に間に合わせるために、どうしても○日までのこの部品が欲しい
試験・評価中に問題が見つかった。至急対策品をつくって確認したい。

(2) 生産中のトラブル

新機種を立上げ中に問題が発生。至急対策品をつくらないと生産が止まってしまう。
(この対策品は、製品の部品、製造設備の部品、治具や金型の部品など様々)

(3) 市場クレーム

商品が市場で問題を起こした。至急対策品を評価して切り替えなければならない。
あるいは至急対策品に切り替えないと生産が止まったままになっている
 

超短納期では部品コストよりも損失金額がはるかに大きい

特急・短納期を依頼する背景にはこういったことがあります。いずれにしてもこの問題の損失金額は大きく、早く解決しないと損失は膨らむ一方です。

従って最も重要なのは、必要な納期に「良品を確実に入れてもらうこと」です。価格は二の次です。

【私の経験】

週末に問題が分かり、どうしても答えが月曜日までに必要になりました。評価チームは土曜日に出勤することになりました。ところが評価に使う部品の形状に問題があり、修正が必要でした。

金曜日の夜、購買の担当者と一緒に仕入先に行って修正してもらい、形状を確認して土曜日の評価に間に合わせました。

金曜日中に修正できなければ、評価チームが土曜日に出勤しても無駄になってしまいます。さらに評価結果が1日遅れれば工場の生産が1日止まってしまいます。生産を1日止めれば損失金額は何百万円にもなりました。
(これが自動車メーカーでは1日で何億円にもあります。)
 

必要なのは価格よりも…

このような場合、超特急で依頼したものの価格が普段の2倍であっても問題ではありません。問題なのは急いでつくったものが不良品の場合です。

実際、超特急でつくったものを組込みテストした結果、いいデータが取れなかったことがありました。そこで部品を調べたら、寸法が図面公差から外れた不良品でした。仕入先に作り直してもらい、再度評価しました。これで数日時間を失いました。

超特急で1個だけつくる場合、その工程は普段とは違う工程です。うっかりミスしやすいのです。

せっかく急いでつくったのに、不良品であれば、評価にかけた時間が無駄になり、再度作り直すために、時間もかかります。損失はさらに膨らみます。

 図 不良品の場合

図 不良品の場合

だったら高くてもちゃんとしたものをつくってくれるところに頼みたいと思います。
 

購買は背景を知らない場合

超特急で間に合わせるため、仕入先は他の仕事を止めて人手をかけてつくります。当然高くなります。

ところが後日仕入先から請求書が来ると、購買の担当者から私に

「こんなに高い請求書が来たけど、これは合っているのか」

と問い合わせされることがありました。

通常の納期であればあり得ない高い値段でした。

しかし上記の背景を考えれば、納期通りに良品を入れれば、金額は問題なかったのでした。
 

最初に値段を言う

そこで超特急・短納期で受注する際は

「最初に価格を言っておく」

ことです。

図 最初に価格を言う

図 最初に価格を言う

取引先が抱えている問題や損失の大きさを考えれば、部品が少々高くても問題ありません。しかもその納期でつくってくれるところは他にないのです。

しかし価格を言わなければ取引先はこれまでと同じ価格だと思います。そこで最初に値段を言えば後でもめることはありません。

今は下請法があるため価格を明記しなければ取引先は発注できません。従って最初の交渉が重要です。

そこで事前に特急・短納期は、何割増しと決めておきます。そして価格が合わなければ、受注する前に交渉します。特急でつくるのは現場にも負担がかかりますし、他の製品の生産にも影響します。

それでも儲かるような価格にします。

もし低い価格を強要される場合、他の仕入先にやってもらえばいいのです。

しかし中には、取引先の依頼を聞くと「なんとか間に合わせたい」と考え、材料手配やどうやってつくるかを真っ先に考えてしまう仕入先もあります。そして値段の交渉をしないでつくってしまいます。
 

高くなる理由は必要

高い値段をつけた時、

「なぜ通常納期に比べて、これだけ高くなるのか」

取引先から聞かれるかもしれません。その時に理由が言えなければ、取引先の購買も納得しません。理由は、

1個だけつくるために段取時間やプログラム作成時間、準備時間が余分にかかる、

作業者を2人投入など、

取引先が納得すればなんでもよいです。
 

発注先の仕様変更・設計変更

仕様変更や設計変更で価格が上がる要素があれば、値上げのチャンスです。
 

適度な値上げ

新規に受注する場合、厳しい指値や相見積の競争で受注までに適正価格よりも値下げしたかもしれません。そこで設計変更の機会に少しでも利益を戻したいところです。

そこで上げすぎと思われない程度に値上げをします。その際、「どうしたこの値段になったのか」取引先に聞かれた場合、説明できるようにします。
 

交渉力は選定

価格交渉の最大の力は「選定」です。

取引先は新規に発注する際は相見積を行い、購買は選定という力を駆使して仕入先を競争させ価格を引き下げます。

しかし仕様変更や設計変更が出た時点では、仕入先の選定は終わっています。値上げ金額が高いからといって、仕入先を変えるのは大きなエネルギーが必要です。しかも値上げを認めざるを得ない理由があります。

新規に受注する場合は、相見積で価格を比較されますが、設計変更の値上げは比較する対象がありません。そこで取引先が納得する理由を述べて、上げすぎと思われない程度に値上げすれば、値上げは通る可能性があります。
 

他社ができないもの

 

価格交渉で発注先が最も交渉力を発揮できるのは、最初の選定の段階です。
 

どこでもできるものは発注側の力が強い

その製品をつくれる仕入先は数多くあり、どの仕入先も供給能力が十分あれば、発注側の力は強くなります。相見積で価格を競わせ、最も安いところに発注できます。

そういった仕入先が少なければ価格競争は弱くなります。もし1社しかできなければ仕入先の価格で発注するしかありません。そこが断れば調達できなくなるからです。

これは技術的にできることに加えて、品質と供給能力も必要です。品質が良くなければ不良品のリスクがあります。供給能力が不十分であれば生産に支障をきたします。
 

ヒントは創意工夫

私の経験では、「他社でできないもの」は長年研究開発した高度な技術でなくてもありました。取引先が困っている課題を一緒に考え工夫して解決すれば、それが他社ができないものになりました。

例えば以下のようなものはつくり方がわからず、仕入先にもアイデアを出してもらって何とか実現しました。

  • 薄い金属と薄いゴムを強固に接合
  • 細いピンと細いパイプの接合
  • うまくクランプできない形状を切削加工

 

新たな製品を開発する際は、様々な課題が出ます。そこでいろいろとアイデアを出して、テストも行い、解決に協力してくれる仕入先はとてもありがたかったです。

図 他社ができないもの

図 他社ができないもの


 

大事なところは見せない

大切なことは、創意工夫した「キモ」の部分は取引先に見せないことです。取引先に見せれば、それは他の取引先に伝わります。他社ができないものでなくなってしまいます。
 

2社購買が必要な取引先も

自然災害の多い日本は、1社しかできない部品があると、その1社が災害に遭えば部品の供給が止まってしまいます。

そこで1社が災害に遭っても生産が継続できるように、2社発注の体制を進めている取引先もあります。つまり取引先にとっては「他社ができないもの」があるのは都合が悪いのです。

かといって創意工夫した内容を全く見せなければ、取引先から信頼されなくなってしまいます。そこである程度まで見せて、その技術の肝心の「キモ」となる点は隠します。

このノウハウをどこまで見せて、どこまで秘匿するかは、発注先と仕入先の価格交渉の力関係を決める大切な要素です。
(現実には工夫してうまくできたことは嬉々として取引先に話してしまう経営者もいますが…)
 

一方このような値上のチャンスがいつもあるとは限りません。普段は「値上げするなら他に出す」と脅されます。では取引先は他に選択肢があるのでしょうか?

これについては【製造業の値上げ交渉】21. 少し高くても受注するには1 内製も含めた他の選択肢を参照願います。

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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【製造業の値上げ交渉】11. なぜ社員に任せたら値上げ交渉が進まないのだろうか?

 
値上げ交渉の基本的な手順について【製造業の値上げ交渉】10. 値上げ交渉は初めて、どう進めていけばよいのだろうか?で説明しました。

これを理解して、社員に値上げ交渉を指示したところ、中々進みません。なぜでしょうか?
 

誰が交渉を行うのか?

 
理由として、本音はやりたくないという場合があります。

営業の仕事は「注文を取ってくる」ことです。しかし値上げをすれば、注文を取るどころか失注するかもしれません。値上げ交渉は、これまでの営業の仕事とは真逆の仕事なのです。
 

時代の変化に対応できないマインド

 
時代が変わり営業活動も変わっています。
 

かつての営業活動

 
製造業はかつて右肩上がりが長く続きました。この時に重要なのは「受注を増やすこと」です。受注が増えれば、売上が増えて固定費の比率が下がります。利益も増えます。受注増加に伴い設備投資が必要な場合も設備投資の回収は容易です。

その時、一番の問題は失注です。価格が低く利益が少なくても、失注しなければ売上は増えます。しかも営業は売上で評価されるので、利益が少なくても売上が大きければ高く評価されます。

これまでこういった環境で仕事をしてきた人にとって、今は正反対です。
 

今の営業活動

 
今は売上の大幅な増加は望めません。しかも費用は年々上がっています。利益は減少し、このままでは設備の更新も困難になります。このような環境では優先すべきは売上よりも利益です。例え売上が大きくても利益がなければ会社が成り立ちません。

その一方、受注が全くなければ固定費が回収できず赤字になってしまいます。その場合は価格が低く赤字の製品でも受注しなければなりません。

つまり受注残高に応じてアクセルとブレーキを踏み分けなければなりません。

しかも様々な費用が上がっているため、以前の感覚で「これぐらいなら利益が出るだろう」という価格では赤字になってしまいます。

ある会社でベテランの営業Aさんは、製造原価の10%を「販管費+利益」として見積もりしていました。しかしこの会社の販管費は製造原価の30%もありました。つまり見積の段階ですでに赤字でした。
 

値上げ交渉は経営者の仕事

 
社員の意識がこのような場合、値上げ交渉は難しくなります。値上げ交渉は「失注するかどうか」ギリギリの駆け引きが必要だからです。

「失注するかもしれないが、思い切って値上げしなければ会社が立ち行かなくなってしまう」

この判断は経営者でなければできません。値上げ交渉の資料作成や準備は社員に任せても、取引先との交渉は最初は経営者が行います。利益が年々減少していれば値上げは最優先事項です。

まず経営者が覚悟を持って粘り強く取引先と交渉します。そして結果が出れば社員に引き継ぐことも可能です。
 

値下げ交渉はナンバー2以下

 
逆に取引先からの値下げ要求などは、経営者でなく営業部長などナンバー2以下が行います。そうすれば取引先から不利な条件を要求されて困った時、
「私の一存では決められないので、社に戻って社長と相談します」
と回答を保留し、時間を稼ぐことができます。

しかし経営者は最終決定権者なので、回答を保留できません。最終決定権者とナンバー2では、この違いがあります。

私の経験でも、価格交渉や不良品の損失補填などお金が絡む交渉では、必ず経営者に来てもらいました。経営者が来ればその場で結論が出るからです。特に中小企業は、経営者に来てもらわないと決まらないことが多かったです。

こうして値上げ資料を持って交渉に行くと、値上げの根拠を聞かれることがあります。これはどのようすればよいでしょうか?

これについては【製造業の値上げ交渉】12. 取引先から値上の根拠を求められた。どうすればいいのだろうか?を参照願います。

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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【製造業の値上げ交渉】10. 値上げ交渉は初めて、どう進めていけばよいのだろうか?

 
いろいろな費用が高くなっています。

これによりどのくらい原価が上昇するのか?

人件費、電気代などの上昇で原価がどれだけ上がるのか・

これについて、

【製造業の値上げ交渉】4. 人件費が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?

【製造業の値上げ交渉】5. 電気代が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?

【製造業の値上げ交渉】8. 取引先から検査追加の要望があった。いくら高くなるのだろうか?

【製造業の値上げ交渉】9. 運賃が上昇すれば、いくら高くなるのだろうか?

で説明しました。

必要な値上げ金額が分かれば値上げ交渉しなければなりません。しかし「これまでコストダウンの話ばかりで、値上げの話はしたことがない」といった方もいます。デフレが続いた日本は、製品の価格を上げられないため、「いかにしてコストを下げるか」一辺倒でした。値上げは考えられないという時代が長く続きました。

では、値上げ交渉はどのようにすればいいのでしょうか。
 

値上げ交渉の手順

 
一般的な値上げ交渉の進め方を以下に示します。

  1. 事前準備① 国が発行する資料の理解
  2. 事前準備② 現状把握
  3. 方針決定 交渉する製品、値上げ金額、妥協点を決定
  4. 事前連絡 取引先に値上げが必要なことを伝える
  5. 値上げ資料作成 製品毎の値上げ金額、その明細、根拠の詳しい資料の作成
  6. 交渉準備 説明の練習、取引先からの要求に対する反論の準備
  7. 交渉
  8. 交渉後のフォロー

図1 値上げ交渉の進め方

図1 値上げ交渉の進め方


これは一般的な進め方の例です。取引先との関係によって進め方は変わるので注意してください。
 

1.事前準備①

 
まず値上げ交渉に必要な知識をインプットします。国が提供する以下の資料を読んで、交渉の基本や発注先が守るべき内容を理解します。

  1. 価格交渉ハンドブック
  2. 下請適正取引等推進のためのガイドライン (19のガイドラインのうち、自社に関係するもの)
  3. 下請代金支払遅延防止法(下請法)

この国の支援策の詳細は【製造業の値上げ交渉】19. 下請法や国のガイドラインを値上げ交渉に活かす方法を参照願います。

国は中小企業の価格転嫁(値上げ)に対し様々な支援をしています。中小企業庁は発注先企業の価格転嫁の状況を調べ、価格転嫁に消極的な企業は実名を公表しています。もし下請法に抵触すれば、公正取引委員会がその会社に調査に入ることもあります。

値上げ交渉の中でガイドラインや下請法に抵触するようなことがあれば、中小企業庁や公正取引委員会に報告することをお薦めします。こうした行動の積み重ねが、発注先企業の姿勢を変え、公正かつ適正な取引が広まることにつながります。
 

2.事前準備②

 
値上げ交渉の前に、どの製品をどれくらい値上げしなければならないか調べます。そのためには製品の適正価格を知る必要があります。これは製造原価、販管費をカバーし、必要な利益が得られる金額です。この金額で受注できれば、毎期の利益が確保できます。

図2に架空の企業A社 A1製品の製造原価と販管費、目標利益を示します。

図2 A1製品の製造原価と販管費、目標利益

主要な製品だけで良いので、受注価格と利益(赤字額)を調べます。それぞれの製品の年間受注量から、製品毎の年間売上と年間利益を計算します。調べると思っていたより違っていることがあります。例えば「大きな売上を占めていた大手企業からの受注は赤字だった。意外と売上の低い中小企業の受注は利益が大きかった」。

図3にA社 A1製品とA2製品の製造原価、販管費と受注金額、年間受注量を示します。

図3 製造原価、販管費と受注金額、年間受注量


A1製品は受注金額820円で88円の赤字です。年間生産量は2万個あるため、年間での赤字額の合計は176万円あります。

対してA2製品は受注金額1,800円で170円の赤字です。年間生産量は1,000個のため、年間での赤字額の合計は17万円です。

この場合、会社全体の利益を改善するにはA1製品の値上げの方が効果が高いです。
 

3.方針決定

 
どの製品をどれくらい値上げするのか、値上げの方針を立てます。例えば、

  1. 初めて値上げ交渉する場合、失敗しても経営に影響の少ない売上の低い製品から行う。
  2. 赤字が累積し早急な改善が必要な場合、年間での赤字合計の大きな製品から取り組む。

次に値上げ金額を決めます。値上げの目標は必要な利益が出る金額です。

しかし必要な利益の出る金額が現在の受注金額から大きく乖離している場合、無理にその金額を要求すれば失注する可能性があります。

その場合は値上金額は失注しない程度の金額に抑えます。ただし必要な利益が出る金額を適正価格として顧客に示し、「そこまでの値上げはお願いできないので、今回はここまで上げさせてください」とします。

できれば値上げ交渉を行う製品をリストアップして、値上げがうまくいけば年間の利益がどれだけ改善されるかシミュレーションします。そうすれば「どれだけ頑張れば、会社の業績がどのように変わるのか」が見えてきます。
 

4.事前連絡

 
ある日突然、値上げした見積を持って来て「値上げをお願いします」と言われれば取引先もびっくりします。そこで事前に取引先に

  • ○○が上がって、どうにも採算が合わない
  • 現状の価格を維持するためにいろいろと努力したがどうにもならない
  • こうなれば値上げをお願いせざるを得ない
  • 対象製品と値上げ金額を精査しているので、〇日頃には資料を持参する

と伝えます。

取引先もこの話を受けて、上司に報告したり、課内で値上げ情報を共有します。仕入先が値上げすれば取引先の原価も上がります。それに応じて取引先も値上げや自社の取引先との値上げ交渉を考えなければなりません。
 

5.値上げ資料作成

 
取引先に提出する値上げ資料を作成します。どのくらい詳細な資料が必要かは取引先によります。最近は「何が原因で、何パーセント原価が上昇したのか」詳細な資料を求められることもあります。取引先(担当者)はその資料を精査し、値上げ金額が適正かどうかを上司や関係部署に説明しなければならないためです。

重要なのは「値上げ資料は適切な原価が計算され、値上げの根拠も明確になっている」ことです。そして取引先に「この金額が適正だ」と思ってもらうことです。そのために値上げ資料はできるだけ分かりやすく具体的な数値で説明します。

この値上げ資料の作成は【製造業の値上げ交渉】6. 値上金額は見積書にどのように入れればいいのだろうか?を参照願います。

図4 値上げ資料の例


おそらくこういった状況では他の仕入先も値上げを要請しているかもしれません。

その結果、取引先は多くの値上げ案件を精査しなければなりません。そのため値上げ資料は取引先の担当者が容易に理解ができて、そのまま上司や他部署に回すことができるものにします。

上司や他部署(例えば原価管理部門)は不明な点があれば、担当者に聞きます。担当者が分からなければ、仕入先に聞かなければなりません。こういったやり取りが複数の仕入先で発生すれば、担当者はこれに忙殺されます。そしてこういった案件は後回しになってしまいます。
 

6.交渉準備

 
交渉本番の前に「値上げ資料をどのように取引先に説明し、値上げを納得してもらうのか」プランを立てます。さらに取引先から「どのような反論や要求が出るか」を想定し、それに対する回答を考えておきます。

できれば社内で誰かに取引先役になってもらい、実際の交渉のロールプレイ(リハーサル)を行います。取引先の担当者は日々多くの仕入先と交渉を行っています。交渉の専門家から研修を受けている場合もあります。そういった相手と交渉するのですから、こちらが交渉に不慣れな場合、最初から交渉力に差があります。それを少しでも埋めるためにロールプレイは有効です。

中には取引先の事情により価格が上げられない製品もあります。その場合、代案としてコストダウン方法があれば用意します。

他にも取引先が本当に転注するかどうか、事前の情報収集も重要です。

例えばもっと規模の小さい〇社が低い価格で受注することもあります。値上げをお願いすると「値上げするなら〇社に転注する」と言われます。実際は規模の小さな〇社は、品質管理、納期対応や安定供給に問題があるかもしれません。しかしそのようなことは取引先は言いません。そこで交渉を有利にするためには、競合も含めた情報を事前に収集しておきます。今では企業の住所は簡単にわかります。競合の〇社を外から見るだけでもいろいろなことが分かります。

また交渉結果を予測し妥結点を考えておくことも重要です。具体的には
(1) 100%認められた
・適正価格で値上げを要求 → 大成功
・適正価格より低い金額で値上げ → 次回値上げの予告

(2) 認められたが100%でない 
・妥結する
・交渉を継続する
・断る

(3) 全く認められなかった
・妥結する
・交渉を継続する
・断る
     
取引先の対応により、どうするのか方針を予め決めておけば、交渉をスムーズに行うことができます。これは製品によって変わることもあります。


図5 A1製品の値上げ交渉の妥結点


 

7.交渉

 
以上の準備を行い交渉本番に臨みます。

交渉では、相手の立場を尊重した上で「適正価格」を主張して、値上げに理解を求めます。最後に「○○までに回答をいただけないでしょうか」と期限を切ります。

期限を切っておけば期限を過ぎて回答がなければ催促できます。もしそれでも回答を引き延ばすようであれば、これは国が定めたガイドラインに抵触しています。
 

8.交渉後のフォロー

 
値上げを認めてもらえた場合も再度訪問してお礼を言います。

値上げが認められず受注を断る場合も、再度訪問し、

  • 取引先の希望価格とどれだけ乖離があったのか、
  • どこに会社に転注したのか、
  • そこは価格や品質に問題はないのか、

といった情報を収集します。

その上で「今後は取引先の希望価格に沿えるようにコストダウンに努力すること」を伝え、関係が悪化しないようにします。
 

適正価格で受注できる顧客かどうか

 
取引先の目的は目標価格での部品・資材の調達です。

現実には様々なものの値段が上がっているので、目標価格の調達は難しくなっているかもしれません。本来は、目標コストを実現するためには図面や仕様から見直して、より低コストでつくれるようにしなければなりません。

しかし取引先が図面や仕様を変えずに目標価格の調達に固執すれば、その価格は自社の適正価格から乖離します。その価格を受け入れれば経営が立ち行かなくなります。

一方間接費や販管費が上昇し、自社が高コストになっている場合もあります。これについては【製造業の値上げ交渉】7. この製品、いくらが正しいのだろうか?を参照願います。

値上げ交渉の結果、適正価格での受注が困難な場合、

  • 間接費、販管費の削減など自社の費用構造を変えて顧客の希望価格で受注できるようにする
  • 今の顧客との取引を減らして、自社の適正価格で受注できる他の顧客を開拓する

これらの取組が必要です。
 

交渉の注意点

利益が出ないため困っているため値上げ交渉を行うわけです。ですから経営者が取引先と交渉に行くときは、会社のライトバンがお勧めです。取引先は意外なところを見ていることがあるからです。
 

このように値上げ交渉の手順を理解して、社員(幹部)に値上げ交渉を指示しました。ところがなかなか進みません。なぜでしょうか?

これについては【製造業の値上げ交渉】】11. なぜ社員に任せたら値上げ交渉が進まないのだろうか?を参照願います。

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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原材料、人件費、光熱費などいろいろなものが値上がりしています。

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製造業の値上げ交渉のポイントをまんがで解説

そこで

値上げ交渉はどのようにすればいいのか

取引先から値上げの根拠を求められたらどうすればいいのか

製造業の値上げ交渉に必要な準備と交渉のポイントをまんがで解説しました。

まんがでわかる製造業の値上げ交渉のポイント

内容

  • 値上げの手順
  • どんな資料を出せばいいのか
  • 原価はどうやって出すのか
  • 値上げが高すぎると言われた場合
  • 適正価格とは?

 

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    値上と価格交渉のポイント


     

    書籍「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」

    これまで中小企業の方たちが実務で使える個別原価の計算方法をわかりやすく解説した参考書がなかなかありませんでした。そこで弊社独自の決算書から個別原価を計算する手法を用いて、中小企業の社員や経営者が、自分たちで「簡単に」個別製品の原価を計算する手引書として、冊子「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」を製作しました。

    ご購入方法

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    中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書 【実践編】

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    書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社

    書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」
    日頃、経営者や工場管理者が疑問に思っている「現場のお金」について、できるだけ分かりやすく書きました。製造原価や見積の考え方、コストダウンや設備投資の回収などのお金の話ですが、会計の知識がなくてもすらすら読める本です。

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    【新刊】9月11日発売 書籍「中小製造業の『原価計算と値上げ交渉への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社

    書籍「中小製造業の『原価計算と値上げ交渉への疑問』にすべて答えます!」
    仕入先企業からはわからない発注先企業の事情を理解して、どのように値上げ交渉をするのか、自らの経験を踏まえてわかりやすくまとめました。値上げ金額や原価計算についてもできるだけわかりやすく書きました。

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    製造業の個別原価計算についての他のコラムはこちらから参照願います。

     

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    毎月第3日曜日 9:30~12:00

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    ◆経営コラム 経営コラム 製造業の経営革新 ~30年先を見通す経営~◆

    ものづくり企業の「30年先の経営」を考えるヒントとして、企業経営、技術の進歩、イノベーションなどのテーマを定期的に更新しています。

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    セミナー「製造業の値上計算セミナー」

    鋼材など原材料、電気、ガスなど光熱費、運賃など増加する一方です。度重なる最低賃金の改定で人件費も上昇しています。

    電気代、人件費、運賃の増加で原価はいくら上がったのか?

    原材料、電気、ガスなど光熱費、運賃など増加は利益をマイナスさせ、値上げしなければ深刻な赤字になってしまいます。ではこれにより

    「原価はいくら上がったのでしょうか?」

    これが分からなければ

    「いくら値上げしなければならないのか」

    分かりません。

    しかしこれまで個別原価の仕組みがなかった企業もあります。

    そこで本セミナーは弊社独自の中小企業が手間をかけずにできる簡便な方法で、原材料、光熱費、運賃、人件費の上昇により原価がどれだけ増加するのか、計算方法を具体的に説明します。

    「発注先のどう考えているのか?」値上交渉の進め方

    どうやって値上げを交渉すればいいのでしょうか?

    経済産業省は、原材料の上昇などを取引先が価格に転嫁することを認めるように大企業に要請しています。トップのトヨタ自動車も今年は原料価格の高騰による下請けの値上げを認める方針を打ち出しています。

    このような追い風の中、何とかして値上げを実現し利益を回復させたいところです。

    しかしどのように交渉すればよいのか?

    発注先の立場、適切な価格と思われる金額や値上げ資料の作成など、値上げ交渉のポイントについて説明します。

    個別原価が簡単に分かる低価格のシステム「利益まっくす」

    適正な値上げ金額が分かるためには個別原価を知る必要があります。

    弊社が開発した中小企業向けの個別原価計算システム「利益まっくす」は、面倒な初期設定は弊社が行うため、

    導入したその日から個別原価が計算でき、値上げ金額を知る

    ことができます。

    原価について不明な点は

    メール等でいつでも弊社に聞くことができます。

    導入した企業にはすでに値上げに成功した会社もあります。

    セミナー最後に利益まっくすの特徴を簡単に説明します。(終了後、デモ機の操作体験もできます。)

    利益まっくすの詳細はこちらから参照いただけます。
     

    セミナースケジュール

     

    【名古屋開催】

    日時:2024年12月4日(水)14:00~16:00

    場所:名古屋 ウィンクあいち 1005会議室

      愛知県名古屋市中村区名駅4丁目4-38(名古屋駅から徒歩5分)

    定員 : 8名
     

    【東京開催】

    日時:2025年2月6日(木)14:00~16:00

    場所 : 東京 セミナールームAivic西新宿

      東京都新宿区西新宿8-19-1(西新宿駅(丸ノ内線) 徒歩3分) 

    定員 : 8名
     

    【大阪開催】

    日時:2025年2月19日(水)14:00~16:00

    場所 : 大阪 THE貸会議室☆淀屋橋

      大阪市中央区道修町3丁目3−10 日宝道修町ビル 6階 603号室
      (淀屋橋駅(御堂筋線) 徒歩1分) 

    定員 : 8名
     

    【受講料】(各会場とも)

     11,000円

    お申込み方法 : 一番下のお申し込みフォームよりお申し込みください。

    後日受講証をメールでお送りします。受講料は受講証に記載された口座にお振込みをお願いします。

    領収書は、当日会場でお渡しします。

    セミナー参加者特典

    値上げ費用の明細を計算するエクセル進呈

    セミナー後1か月以内に利益まっくすをお申込みいただくと、【値上計算エクセル】サービス 55,000円(税込)が無料になります。
    (個々の製品の電気代、人件費、消耗品費の金額と、値上げ金額がわかります。)

    お申込み

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      中小・小規模企業の個別原価計算の手法

      利益まっくすの考え方と事例を解説した
       「中小・小規模企業のための個別原価計算の手引書」

      中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書 【基礎編】

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      中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書 【実践編】

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        Win-Winか、説得か、ビジネスでの価格交渉術

        中小企業の価格交渉の必要性

        従来の価格交渉

        • 発注先の確保が重要課題

        かつて私は設計を18年間やっていました。
        最初の頃は出来上がった図面から見積を取り、価格を決定していました。その価格が適正かどうかは、ベテランの購買担当者の経験(直観)に依存していました。
        価格交渉は、見積に対して「いくら下げるかどうか」でした。
         
        それではまずいということで、途中から設計段階で全体の目標コストと、それを部品1点1点に展開し、コストを管理する原価企画を行いました。
        しかし部品のコストは大きく下がりませんでした。なぜなら、例え目標コストを提示しても、その価格で必要な量を供給できる企業が限られていたからです。
         
        市場の拡大局面では部品の安定調達が最大の課題でした。
         

        現在の交渉環境

        • 部品メーカー間の競争激化

        2000年以降、この環境が大きく変化しました。
         
        大手企業の海外への工場移転、家電などの競争激化により、国内のものづくりの市場は縮小しました。
        自動車など一部の業界では、まだ活況ですが、下請けへの発注が減少している業界は少なくありません。主要取引先が海外へ移転して仕事がなくなり、他の業界へ果敢に売り込みをかけている企業も多くあります。
         
        近年は海外の中小企業も力をつけてきて、海外調達も増えてきました。このように部品メーカー間の競争は激しくなっています。
         

        • 購入品のコストダウンに注力

        近年、部品の外部委託が進み、大手企業の自社製造部門が製品原価に占める割合は減少しており、多くの部品は下請けの中小企業でつくられています。
         
        利益を増やすためには、カイゼンで自社のわずかな工数を削減するより、部品の購入価格を下げた方が効果的です。また購買などの間接部門から経営者まで、現場経験のないものづくりの知識のない人が多くなりました。
         
        部品の適正価格がいくらか分からず、関心は対前年比で製造原価がいくら下がったかです。そして購買担当者に「全体で何パーセントコストダウン」などの目標を与え管理に熱を上げています。
         

        従来は、下請け企業はどんぶりで出した見積に対して、「~円まけろ!」という要求と交渉すれば良かったのでした。
        今は、「いくらで発注します。それがいやなら他へ出します。」という厳しい条件になりました。
        そして厳しい価格を受けざるを得なくなり、赤字受注が増え、会社の体力が低下し、最終的に廃業を選択する企業もあります。
         

        • 交渉の余地がないのか

        では価格交渉の余地はないのでしょうか。

        その価格を受けなければ、仕事はなくなるのでしょうか。
         
        実は多くの購買担当者は適正価格がわかりません。ノルマとして目標のパーセントのコストダウンを行っているだけです。

        では断ったら購買に他の選択肢はあるのでしょうか?
         
        これは自ら情報を収集しないとわかりません。ひょっとすると「この価格で他に発注する会社」はないかもしれません。
         

        • 中小企業にも必要なタフネゴシエーター

        従来、依頼された仕事を優れた品質で行っていれば、利益が出ていたかもしれません。
        しかし今後は顧客の要求する価格で受注し続けると、事業が継続できなくなります。
         
        自社の利益を守るために、強力な交渉力を持つ必要があります。
        つまり厳しい環境を乗り切るために、中小企業もタフネゴシエーターにならなければなりません。
         
        日露戦争では、日本海海戦に勝利した日本は、アメリカの仲介でロシアと和平交渉を行いました。しかし局地的な戦闘で勝利したものの、国内の弾薬は在庫が尽きていました。武器を購入しようにも外貨がなく、信用の低い日本の国債はどこも引き受けてくれないような状況でした。(そのために高橋是清がアメリカやカナダの富豪にお願いしに行ったほどでした。)戦争継続が事実上不可能な中での大国ロシアとの和平交渉は極めて厳しく、この交渉をまとめ上げた、この時の外務大臣 小村寿太郎はまさにタフネゴシエーターでした。
        図1 日露和平交渉を行ったタフネゴシエーター 小村寿太郎(Wikipediaより)
        図1 日露和平交渉を行ったタフネゴシエーター 小村寿太郎(Wikipediaより)
         

        交渉の分類

         
        「交渉」は、その時の状況や目的に応じて、「二重考慮モデル」というフレームワークを使い、「交渉相手との重要度」と「交渉成果の重要度」という軸から4つに分類できます。
         
        図2 交渉の分類
        図2 交渉の分類
         

        1. 現状維持、無活動
        2. 【重要な取引ではないため、敢えて交渉に臨まない】

          現状維持・無活動型とは、交渉に関わるエネルギーに比べ、得られるメリットが少ない、結果がそれほど重要でないなどの理由のため、交渉しない方が良いと判断する場合です。
          又は、交渉相手に誠実さがなく、道徳心に欠け、論理的な交渉ができない場合も、建設的な交渉にはならないため、交渉しないことを選択すべきです。
           

        3. 利益重視、闘争型交渉
        4. 【当該交渉による利益を重視し、闘争で利を勝ち取る】
           

        5. 関係重視、譲歩・従順型交渉
        6. 【相手との関係性を重視し、譲歩によって合意を得る】

          (2)と(3)は対照的なケースですが、重視しているポイントと、さほど重視していないポイントがはっきりとしている点では同じです。どちらも重視している点に偏りがちな傾向があります。
           

        7. 戦略的関係、問題解決型交渉に持ち込む!
        8. 【双方の問題を解決し、Win-Winの成果を追求する】

          関係性と利益の両立を目指す交渉です。安易に考えれば(2)と(3)になってしまうような場面でも、粘り強くWin-Winとなるような条件を探らなければなりません。時には新たな解決方法を創造しなければならないこともあります。

         

        古典的な交渉術とB to Bでの有効性

         

        交渉術とは、説得術

        今まで交渉とは、上記(2)の利益重視、闘争型交渉であり、主な活動は相手に対する説得でした。お互いの主張がぶつかり合い、どちらかが譲歩するまで続けられます。
         
        例えば、国家間の争いごとの外交交渉は、時として戦争にもなります。

        「戦争は、武器を使ってやる外交であり、外交は、武器を使わないでやる戦争である」と塩野七生氏は語っています。
         
        図3 ポツダム会談(Wikipediaより)
        図3 ポツダム会談(Wikipediaより)
         
         外交交渉とは、利害のぶつかる2国間での話し合いであり、(2)の利益重視、闘争型交渉です。相手を従わせるには、時として戦争という武力手段に訴えることもあります。そのため、外交交渉を有利に進めるためには強い軍事力が欠かせません。
         

        • 世の中に出回る説得の技術

        ビジネスで相手を従わせるにはどのような方法があるのでしょうか?
         
        相手を説得するのは、心理的な技術による戦いです。相手の技術が高ければ不利になりますし、低ければ丸め込むことができます。そしてこの技術は、自ら学び実践することで磨き上げられます。

        事前に訓練しなければ、海千山千の交渉の達人を相手に、対等に交渉することはできません。
         

        アメリカの国防総省やIBM、メリルリンチなどを指導するスーパーネゴシエーターのジム・キャンプは、「NO!という言葉を上手に使いこなす」ことで、交渉において望む結果が得られると言います。

        「NO」を正しく用いることで、交渉相手は自分から勝手に譲歩するようになるからです。
         

        • 相手をねじ伏せる説得の技術
        1. 先に話しかけて、会話の主導権を握る
        2. 挨拶や会話の最初は自分から切り出し、主導権を取ります。
          グレン・ワイズフェルド博士の分析では、言葉かけは必ず強い人間から弱い人間という方向でした。ほめ言葉の91%、指示の85%、非難の84%は、強い人間から弱い人間に流れていました。
           

        3. 相手の発言に割り込み、会話の主導権を握る
        4. 相手の発言の最中、「ちょっといいですか」とか「すみません。○○とはどういう意味ですか。」と割り込んでいきます。エチケット違反ですが、割り込んでいくことで自分の立場が上であることを誇示します。
           

        5. 自分の椅子だけ高くする
        6. 目線の高さは力関係を表します。裁判官、昔の王、学校の先生が一段高いところにいるのは、相手に対してパワーを示すのに役立っています。
           
          会話力、表現力、自社の競争力などが同じ場合、どちらが勝つかは運やその日の気分、意気込みによってがらりと変わります。そのため椅子の高さが心理的な有利さとなり、結果が変わります。
          高さ調整式の椅子であれば、椅子を高くして交渉に臨みます。さらに背筋を伸ばすだけでも目線の高さは変わります。
           
          図4 裁判官も高いところに
          図4 裁判官も高いところに
           

        7. あいづちを打たずに居心地を悪くさせる
        8. じっと相手の目を見つめているのに、全くあいづちをしないで話を聞くことは、相手を心理的に追い詰めます。「なぜ、この人はあいづちをしてくれないのだろう」と不安になり、相手の話に自信を失わせ、気持ちを動揺させます。
           
          国家存亡のかった外交交渉では、ブラフ(はったり)、ウソなどあらゆる手段が取られます。まさに外交とは、武器を使わない戦争とも言えます。

         

        イエスかノーかの二分法

         
        「まずは、20%コスト削減をお願いします。」

        「20%は無理です。」

        「いえ、20%です。20%を受け入れるか、降りるかです。」
         
        二分法は、このように問題をイエスかノーかに単純化して、判断を迫る交渉のテクニックです。担当者は非常に強いプレッシャーを受け、提案を受け入れるか否かを判断しなければなりません。

        多くの提案は100%満足できるものではないのですが、二分法で迫られると、意識がそこに集中してしまい、他の選択肢を考えられなくなります。
         

        • 郵政民営化を争点にした小泉劇場

        2005年の衆議院選挙は、小泉首相が郵政民営化の是非を問う選挙でした。自民党でも反対する議員には、小泉首相が対立候補(刺客)を送り込むという徹底さでした。
         
        この方法は、問題を単純化してしまい、郵政民営化の中身はほとんど争点になりませんでした。
         
        図5 郵政民営化という二分法(Wikipediaより)
        図5 郵政民営化という二分法(Wikipediaより)
         

        • 二分法への対処

        このように二分法で迫られると、他の代替案をだすことができなくなります。
        そこで交渉相手から二分法で迫られたら

        「それはどういう意味ですか?」

        「あなたの提案の中でわからないところがあるので教えて欲しいのですが」

        と質問して切り返します。
         
        すくに結論を出さずに

        「自分としてもこの重要な問題にはすぐに答えを出すことができません」

        と言って逃げます。
         

        駆け引きの技術

        • 交渉における駆け引き

        多くの交渉では、少しでも有利な条件になるように様々な駆け引きが行われます。譲歩は少しずつ行い、さらに譲歩する際には相手に見返りを求めます。

        海外では、わざと相手に揺さぶりをかけて、相手が驚いて譲歩するようであれば、駆け引きが通用する相手と判断して、更に揺さぶりをかけてきます。
         

        1. ブラフ
        2. 「ブラフ」とは「ハッタリ」の意味です。
           
          お客さんの予算を「10万円ぐらい」と予想します。

          相手の予算額の1.3倍ぐらい上乗せし、「13万円でいかがですか」とふっかけます。
           
          マーケティング・コンサルタントの佐藤昌弘氏の経験によれば、予算に対して、1.3倍までは検討の範疇に入り、1.7倍を超えると完全に対象外になるそうです。1.3倍までは、心理的に許容できる金額と言えるかもしれません。
           
          図7 はったりを見破られ……
          図7 はったりを見破られ……
           

        3. アンカリング(最初に提案する)
        4. 最初にこちらから有利な条件を提示して、それを元に交渉を展開するのがアンカリングというテクニックです。
           
          1000円のものを安く買う時に、最初に買い手が500円しか予算がないと強く主張すると、売り手は500円から如何にして1,000円に近づけるか考えます。つまり500円にアンカリングされたわけです。
           

        5. オプション販売
        6. 高い買い物では、相対的に安いオプションに対する抵抗は下がります。
           
          例えば、4,000万円の住宅を購入した時に、

          「せっかくですから床暖房も入れたらいかがですか?」

          と勧められると、価格は気になりますが特に交渉することなく、

          「あっ、お願いします」となってしまいます。
           

        7. 高価格品を最初に見ると…
        8. 高給な時計や宝飾品のお店で入口にある素敵な商品がお値打ちな価格で展示されていました。ちょっと気になって入ってみると、中にはより魅力的な商品が沢山あります。奥は、最高級の高価な商品がありますがとても手が出ません。
           
          そして順にお手頃な品を見ていくと、入り口よりも高価ですが、最高級品よりもはるかに安く、無理をすれば手が届きそうなものが、30%オフになっています。

          「これなら手が届く」

           こうして入口にあった商品の何倍もの価格のものを買って帰ります。

         
        一時期キャンピングカーがブームになった時、キャンピングカーショーに行ったことがあります。キッチンや二段ベッドのついた豪華なキャンピングカーは500~800万円もします。そこでシンプルなキャンピングカーが400万円でありました。
         
        「安い」と感じます。
        しかし400万円と言えば、結構な高級車が買える値段です。感覚が変わってしまったことを経験しました。
         
        図8 400万は安い?
        図8 400万は安い?
         

        バーター取引(交換条件)

         
        交渉は、一方的にこちらの主張を重ねて相手に譲歩を迫ってもうまく行きません。多くの場合、こちらが譲歩することで、相手の譲歩を引き出し、交渉をまとめます。あるいは、双方が譲歩できる条件を出して交換条件とします。
         
        これをバーター取引と言います。
         
        バーター取引は、芸能界では、事務所が売れっ子タレントを出演させる代わりに、これから売り出す新人の出番を求めたりして、盛んにおこなわれています。
         
        このバーター取引が成立するためには、交換する条件が等価であることが必要です。本来違うものを交換条件にしてしまうと後日問題が起きます。
         
        その背景として、とりあえず合意しておけば後で問題が起きても何とかなるだろうという甘い考えも影響しています。

        かつてのような企業間の取引が、取引というよりパートナーシップであった時代は、うまく行ったかもしれませんが、今日ではお互いがすべきことを全て書面で残しておく必要があります。実際改めて文書にすると、このバーター取引が危険なものであることが分かります。
         
        本来は、お互いが譲歩することでどちらの利益にもなるような条件を交換します。そう考えると交換できる条件は意外と少ないものです。
         

        代表的な交渉戦術

         

        • グッド・コップ、バッド・コップ

        グッド・コップ、バッド・コップ(Good Guy – Bad Guy Routine、もしくは、Good Cop Bad Cop)は、2人でチームを組み、敵対的な態度を示す役と同情的な態度を示す役を演じ、交渉相手を揺さぶる戦術です。
         
        相手がバッド・コップ役に敵意を抱き、グッド・コップ役に好意を抱くように仕向けます。バッド・コップ役は徹底して厳しい態度を取り、強圧的な言葉で責めるのに対し、グッド・コップ役は交渉相手をかばい、バッド・コップに反対します。
         
        相手はグッド・コップ役を味方と勘違いし、グッド・コップ役の条件が、実際以上に魅力的に見えてしまい、グッド・コップの提案を受け入れます。
         

        • ドア・イン・ザ・フェイス

        人間は、相手から出された要求を断るとき、何となく罪悪感を感じます。
         
        ドア・イン・ザ・フェイス(Door in the Face)はこれを利用し、最初に相手が承諾しないと思われる厳しい条件を提示し、相手に拒否させます。

        次に、少し譲歩した条件を提示して、相手に合意を求めます。これは、予想外の条件を出して相手の心理を揺さぶり、要求条件に対する冷静な判断力を奪うことが目的です。
         
        最初に提示された予想外の条件に惑わされず、何が相手の本当の要求かを冷静に判断することが重要です。
         

        • フットインザドア

        フット・イン・ザ・ドア(Foot in the Door)は、ドア・イン・ザ・フェイスと逆の心理を利用した戦術です。
         
        最初に相手が取るに足らないと思うような要求を提示し、小さなイエスを引き出します。そして徐々に大きな要求にエスカレートさせます。要求が徐々に引き上げられ、最後の段階で初めて「しまった」と気づきます。
         
        最初の要求が小さいと思わず受け入れてしまいますが、次から次に大きい要求を受けても、最初にイエスと言ってしまっているため途中からは断りづらくなります。
         
        相手の要求が大きいか小さいかではなく、要求の内容を考えて応じるべきかどうかを冷静に判断します。途中で気がついた場合は、冷静に「以降の要求は一切応じない」と宣言します。
         
        図9 フットインザドア
        図9 フットインザドア
         

        • ニブリング

        ニブリング(Nibbling おねだり)とは、いったん合意に到達した直後を狙って、相手に追加条件を提示し、相手にのませてしまうものです。 
        交渉が合意に達したときには、気が緩み油断しやすく、できるだけ合意を維持したいという心理を利用しています。

        この戦術を用いる際は、相手の不意をついたり、相手を意図的に褒めた後。追加条件を出し、自分が出した要求が取るに足らないことをさりげなく強調して合意を引き出そうとします。
         
        この戦術を受けないためには、交渉相手の前では合意に到達したと思ってもまだ交渉中であり、緊張感を維持して相手に対応するようにします。

        そして合意後の追加条件は、基本的には受け入れないとし、交渉の条件はすべて交渉の中で決めるのを基本原則とします。
         
        図10 スターリンが多用(Wikipediaより)
        図10 スターリンが多用(Wikipediaより)
         

        • タイム・プレッシャー

        「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。帰りのご予定は?」。
        海外などで相手と交渉する場合、よくある雑談です。しかし、この雑談の中に、タイム・プレッシャー(Time Pressure)を与えるための質問が潜んでいることがあります。
         
        タイム・プレッシャー戦術とは、会話から相手のデッドライン(時間的制約)を探り出し、締め切りの効果を利用した戦術です。
         
        デッドラインを利用して、空港の出発便の2時間前ぎりぎりになって、本格的な条件交渉を始めたりします。あるいは合意したと思っていた条件を急に変更することもあります。デッドラインが気になって冷静な判断ができず、安易に合意してしまいます。
         
        これを避けるためには、不要な情報を明かさないようにし、デッドラインは目標と考え、延長戦の選択肢を準備しておきます。
         

        ハーバード流交渉術

        今から30数年前、ハーバード大学のロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー、ブルース・パットンが「ハーバード流交渉術 必ず『望む結果』を引き出せる!」を著しました。
         
        当時、交渉は勝つか負けるかであり、長引く訴訟、ストライキ、各地の政治的対立が起きていました。

        ハーバード流交渉術の利益に基づくアプローチは、Win-Win交渉術として支持を集めました。
         

        人と問題を切り離す

        「相手の心をコントロールする」
         
         交渉においては、「問題」と「人の関係」が一体化してしまい、感情的になり解決を難しくしています。相互の認識の確認し、お互いに話の聞ける環境を作ることが重要です。
         
         認識へ対処するには、相手の事実認識に対し誠実に向き合います。感情へ対処するには、相手の立場になり、相手の立場からメリットを考えます。

        意思疎通へ対処するには、どのような認識を持っているのか、どのような感情を抱いているのか、把握するためにきちんと聞きます。
         

        利益に着目する

        自分の利益を主張するときは強い態度でも構いません。ただし「間違っていたらご指摘ください」と断り、相手の言い分にも耳を傾けます。
         

        互いに利益のある選択肢を考える

        お互いに利益のある選択肢を考える際に、以下の4つの要因が阻害となることがあります。
         

        1. アイデアの切り捨て
        2. 交渉の場ではユニークなアイデアが出にくく、相手の問題点を探そうとする批判意識が働いてしまいます。
           

        3. 単独の答えを探してしまう
        4. 多くの人は、交渉でアイデアを出そうという発想でなく、条件の差を埋めることに囚われ、選択肢を広げるべきとは考えていません。

          一つの回答に辿り着こうとすると、多くの可能性の中から一番良いものを選べなくなります。
           

        5. パイの大きさが固定だという思い込み
        6. 交渉の対象になっているものを奪い合うしかないと、双方が思い込んでしまいます。
           

        7. 相手の問題は相手が解決すべきだという考え
        8. お互い自分の利益にしか関心がなく、交渉では相手側の言い分を認めたくないと考えてしまいがちです。

         
         交渉の成否は、自分の望んでいる結果(意思決定)を相手側に認めさせるかどうかにかかっています。
         
        できるだけ、相手がそのような決断をしやすいように配慮します。そのためには交渉者の立場を考えて行動します。交渉相手の視点で問題を眺め、意思決定者を見極め、背後にいる人を説得するための材料を渡します。
         

        客観的基準に基づく解決にこだわる

         解決策を考える際に、双方が納得できる客観的な基準に基づくようにします。
         
        つまり利益やメリットを議論する際にお互いが何をものさしにして議論するのか、明らかにしておくことです。

        そしてそのものさしは、客観的で双方が納得できるものでなくてはなりません。
         
        交渉に入る前に、この基準について突っ込んだ議論を行い、合意を得ておくことが重要です。
         

        BATNAを用意する

        BATNAとは、Best Alternative To a Negotiated Agreementの略で、「交渉に合意することに次ぐ、最善の選択肢」という意味です。
         
        つまり「交渉が決裂したときに、自分が取れる最善の選択肢」のことです。
         
        たとえば受託開発の引き合いがあった場合、BATNAとしては、以下のようなものが考えられます。

        • 他の案件を探す
        • 自主サービスの開発を行なう
        • 状況によっては、業態転換する、廃業する

         
        このBATNAを決めておくことで、交渉に合意するかどうか、冷静な判断ができます。BATNAよりも少しでも条件が良ければ、交渉はWinとなり成果があったことになります。
         
        条件がBATNAより悪ければ、交渉を打ち切り、BATNAを採用します。その結果、感情的にならず冷静に交渉をまとめることができます。
         

        • 交渉結果5つのオプション

        図11に交渉結果の5つのオプションを示します。
         
        図11 交渉結果のオプション
        図11 交渉結果のオプション
         
        交渉の結果としてあるべき姿は、Win-WInのシチュエーションです。逆に最も避けたいのは結論を先延ばしにしたり、お互いが妥協して交渉を終える状況です。
         
        妥協というのは一見良いように見えますが、お互いにとってより大きな価値を生むWin-Winシチュエーションを逃してしまっているという状況なので、Lose-Loseという位置づけになります。
         
        また、相手を完全に打ち負かしてしまうWin-Loseという状況は一時的にはプラスになりますが、相手との長期的な関係を考えると避けたい結果です。
         

        • ハーバード流交渉術の問題

        この利益に基づくアプローチは従来のハード型戦略へのアンチテーゼとして、「Win-Win交渉術」として絶大な支持を集めました。
         
        ハーバード流交渉術は、交渉において一定の立場に固執するのではなく、問題を深く掘り下げ、根底にあるお互いの利益に基づいて落としどころを探っていくことを提示しました。
         
        また、価格にこだわって敵対的な交渉を続けるよりも、価格以外のアフターサービスやその商品が顧客の目的に合っているかどうか、使用条件や使用環境とのコーディネートなど価格以外の価値に目を向けさせ、敵対的な交渉を双方にメリットのあるものに変えることができました。
         
        また相手との長期的な関係を構築できるメリットもハーバード交渉術では述べています。
         
        あくまで強引な値引きを求める攻撃的な交渉は、見知らぬ相手との一度きりの交渉ではうまく行くかもしれません。しかし一度コテンパンにやられた人間は二度と同じ人間と交渉しようとは思いません。
         
        このモデルによって交渉人は「相手の取り分が増えれば、自分の取り分が減る」という観念からも解放されました。
         
        このハーバード流交渉術は多くの研究がされましたが、その基本的な枠組みは、双方の利害、選択肢、置かれた状況、関係は不変であるという暗黙の前提に依っていました。
         

        • 戦場の霧

        戦場の霧(せんじょうのきり、英: fog of war)とは、プロシアの軍人・軍事学者のクラウゼヴィッツによって定義された言葉で、作戦・戦闘において指揮官から見た不確定要素を言います。
         
        実際の戦場は、相手の位置がわからない中で部隊を進めていきます。突然あらぬ方向から攻撃を受けたり、時として味方の攻撃(同士討ち)すらあります。限られた情報の中で相手の居場所や戦力を判断し、部隊の対処を決めなければなりません。
         
        図12 戦場では限定的な情報しかなく
        図12 戦場では限定的な情報しかなく
         

        同様に実際の交渉は、大学での学術研究のように結果がわかった中での分析でなく、相手の考え、出方が分からない中で行わなければなりません。全体を俯瞰できる図はなく、相手の求めている利益も分かりません。

        さらに時間の経過と共に交渉のプロセスは刻々と変化しています。
         

        • 利益の霧

        交渉を始めるまで、自分の利害がどのようなものかわからないことも多いのです。
        交渉が予想外の展開を見せた時、予想とは異なる利益を検討しなければなりません。
         
        家を買う場合、家の価値は買う人により変わります。
        最初は良いと思っていた家が、子供の教育環境を考慮した結果、良くない家になるかもしれません。

        見晴らしのよい高台は、年を取った時には、街へ買い物に行くときに重労働になるかもしれません。

        さらにローンと現金、保証付きと保証なし、これらが複雑に組合せた案件を客観的に評価できるでしょうか?
         
        図13 様々な条件が組み合わさり
        図13 様々な条件が組み合わさり
         
        つまり、どちらが自分にとって利益が高いかは、それぞれの事情、考え方により変わります。
         
        利益は流動的なものであり、交渉をうまく行うためには、状況により変わる利益に対し、柔軟に対応しなければなりません。

        そして柔軟であろうとするほど、交渉戦略や意思決定は複雑になります。

        「カオスを味方につけろ」

        「ただし、自分の道は見失うな」
         

        • BATNAのあいまいさ

        利益があいまいであれば、BATNAは分かりにくくなります。
         
        今交渉している案件は、魅力がそれほどないのか、交渉を決裂してBATNAを採用するのか、それともBATNAはもっと魅力がないのか、これは交渉の進展により変わります。
         

        • 何を望んでいるのか

        経験豊富な不動産の営業は、顧客が本当は何を望んでいるのか、自分が分かっていないことをよく知っています。
         
        ある営業の女性は、顧客の要望に真摯に耳を傾けた後、まるで違う物件を見せます。一件目を見せる時、彼女は家の中を歩きながら、顧客がどんな反応を示すか、注意深く見守ります。顧客が本当に望んでいるものが何かを見極めるためです。
         
        不動産にはこんな格言があります。

        「買い手はウソをつく」

        「ただし、わざとウソをつくのではない。みんな自分の本当の気持ちを分かっていないのだ。」
         

        交渉とはカオス

        このように考えると、実戦での望ましい交渉は、徹底的に相手に譲歩させるハード型交渉ではなく、ハーバード流のWin-Win型交渉でもありません。
         
        先の見えない中で、双方が満足する結果をカオスの中から探し当てるようなプロセスです。
         

        事前調査の重要性

        ビジネスにおいて、交渉の事前準備の本質は、交渉にならないような状況をつくることです。
         
        例えば価格交渉では、価格交渉にならないような状況にしてしまうことです。

        アップルのMacBookを買い来る顧客は、アップルのディスカウントが低いと言って交渉しません。アップルは「もっと安いパソコンをお求めでしたら、他のメーカーをご検討ください。」と言うでしょう。
         
        痛くない注射針の開発で有名となった岡野工業は、金型が数千万円から1億円するそうです。しかも値引きには応じません。
         
        現実には、そのような状況は作ることができず、交渉を行うことになります。

        しかし交渉にはタイミングが重要です。そこで以下の3点を判断します。
         
        ● 交渉をすべきか
        ● タイミングは今か
        ● 全てをかけるべきか
         
        そして、交渉を取り巻く条件、背景を整理します。
         
        ✧ 最も重要なことは何か
        ✧ 妥協できる点は何か
        ✧ 自らのBATNAは
        ✧ 相手の希望価格はどう推測するか
        ✧ 顧客の他の選択肢は何か
         
        価格交渉において、重要なことは価格以外の条件を洗い出すことです。ともすれば営業担当は価格にばかり目が行きがちですが、顧客にとっては判断要因の1つにすぎません。
         
        しかし価格以外の要因も売り手が積極的に訴えなければ、顧客は気付きません。
         
        高級リゾートクラブや高級ブランドバッグの宣伝は、製品の機能はほとんど訴えていません。高級感、リッチさなどのイメージを伝えています。
         
        これは主に顧客の感情に訴えています。

        商品の購入を決定するのは、感情です。

        高級品では、顧客の感情が動くのは機能や原価ではありません。
         
        顧客は何を重視しているのか。それを明確にしてリストアップすることが事前準備の中では重要です。購買の決定要因が価格だけであれば、実は価格交渉の余地はほとんどありません。

        自社よりも安いところがあれば、自動的にそちらに決まります。交渉できるということは、顧客は価格以外に評価している点があるということです。
         

        決定するのは感情

        相手にイエスと言ってもらうためには相手に良い感情を持ってもらう必要があります。
         
        B to Bでは長期的な取引が多く、一時の交渉で強引に相手にイエスと言わせても、その後の継続的な取引に支障となります。
         
        交渉の場で己の感情に支配されないために、交渉の場では普段より自らの感情が高ぶっていることに注意します。

        それは、我々は物事をありのままにみるのではなく、見たいように見ることも原因です。
         
        今事実と思っていることは、自らがそうあって欲しいということを思っているだけかもしれません。

        そして相手は、この事実を別の意味として捉えているかもしれません。
         
        従って、自らの感情にゆだねるのではなく、冷静に相手の感情を推し量ります。そして相手の感情がこちらの望む気持ちになるにはどのような提案、解決策を提示すれば良いのか考えます。

        欲しい結果を求めるのではなく、相手の感情をコントロールすることに力を注ぎます。
         
        それには粘り強さと楽観的な見方が必要です。そして交渉の場面で変化する状況、あいまいさ、不確実性、リスクに動じず、適切に対処するようにします。
         

        イエスのタイミング

        交渉が佳境に入ると、いつイエスを言うかを考えなければなりません。
         
        相手も十分交渉し納得がいった段階にも関わらず、さらに譲歩を引き出そうとして交渉を続けると、結果的にすべてを失うこともあります。
         

        • 交渉における創造力

        交渉において創造力が必要な場面は、状況が変化し、予定していた解決策が使えなかったり、お互いの主張が平行線をたどり、新たな解決策が必要な場合です。
         
        このような場面では、用意した方法にこだわらず、臨機応変な対応が求められます。
         
        重要なのは、こちらの考えよりもまず相手に注意を払うことです。アクティブリスニングの上をいくような注意深い観察と聞き取ります。
         
        その結果、相手を変えるべきタイミング、自分が変わるべきタイミングがつかめるようになります。
         
        そして自らが取る主体的な行動は、質問することです。積極的に質問し、状況を打開できるようなアイデアを生み出すヒントを探します。この時に、事前にしっかりと計画が立てられていると、見えていない点が容易にわかります。
         
        「計画に価値はない」

        「計画立案がすべてだ」

        ノルマンディー上陸作戦の最高司令官アイゼンハワーの言葉です。

        しっかりとした計画を立案することで、目的が明確化し、潜在的な障害が明らかになります。それにより可能性が見えてきます。
         
        実際の交渉では、不確実性の霧、未知の要素、状況変化により、予測通りにはなりません。冷静に観察し、柔軟に対応します。
         

        • アメリカ海兵隊の基本原則

        「先を考えようとするほども計画の有効性は低くなる。

        だから先を考えるときほど、ち密になり過ぎないように注意すべきだ。

        先を考える目的は、有効な計画を立てることより、将来取りうる行動の基礎を整えておくことにある。事象が目前に迫り、実際に有効な行動を取れる状況になった時、すでに状況評価やアプローチの仕方が定まっているようにすることだ。」
         

        • ボスニアのナンバープレート

        1995年に停戦合意した旧ユーゴスラビアのボスニアとセルビアにはまだ憎悪の渦が渦巻いていました。狙撃兵はセルビアのキリル文字がついたナンバープレートを見ると発砲しました。ボスニア政府は、セルビアのキリル文字を採用する気は全くなく、セルビア政府もアルファベットを使うボスニア方式を受け入れる気はありませんでした。交渉は暗礁に乗り上げていました。
         
        アメリカの外交官リチャード・ホルブルックはどちらも譲歩しない案を考え出しました。二つのアルファベットに共通する10文字だけを使用するのです。
        図14 キリル文字、ホルブルック氏の解決策
        図14 キリル文字、ホルブルック氏の解決策
         

        本コラムは2016年10月16日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
         

         

        経営コラム ものづくりの未来と経営

        人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

        ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

        未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

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