値上げ交渉の基本的な手順について【製造業の値上げ交渉】10. 値上げ交渉は初めて、どう進めていけばよいのだろうか?で説明しました。
これを理解して、社員に値上げ交渉を指示したところ、中々進みません。なぜでしょうか?
誰が交渉を行うのか?
理由として、本音はやりたくないという場合があります。
営業の仕事は「注文を取ってくる」ことです。しかし値上げをすれば、注文を取るどころか失注するかもしれません。値上げ交渉は、これまでの営業の仕事とは真逆の仕事なのです。
時代の変化に対応できないマインド
時代が変わり営業活動も変わっています。
かつての営業活動
製造業はかつて右肩上がりが長く続きました。この時に重要なのは「受注を増やすこと」です。受注が増えれば、売上が増えて固定費の比率が下がります。利益も増えます。受注増加に伴い設備投資が必要な場合も設備投資の回収は容易です。
その時、一番の問題は失注です。価格が低く利益が少なくても、失注しなければ売上は増えます。しかも営業は売上で評価されるので、利益が少なくても売上が大きければ高く評価されます。
これまでこういった環境で仕事をしてきた人にとって、今は正反対です。
今の営業活動
今は売上の大幅な増加は望めません。しかも費用は年々上がっています。利益は減少し、このままでは設備の更新も困難になります。このような環境では優先すべきは売上よりも利益です。例え売上が大きくても利益がなければ会社が成り立ちません。
その一方、受注が全くなければ固定費が回収できず赤字になってしまいます。その場合は価格が低く赤字の製品でも受注しなければなりません。
つまり受注残高に応じてアクセルとブレーキを踏み分けなければなりません。
しかも様々な費用が上がっているため、以前の感覚で「これぐらいなら利益が出るだろう」という価格では赤字になってしまいます。
ある会社でベテランの営業Aさんは、製造原価の10%を「販管費+利益」として見積もりしていました。しかしこの会社の販管費は製造原価の30%もありました。つまり見積の段階ですでに赤字でした。
値上げ交渉は経営者の仕事
社員の意識がこのような場合、値上げ交渉は難しくなります。値上げ交渉は「失注するかどうか」ギリギリの駆け引きが必要だからです。
「失注するかもしれないが、思い切って値上げしなければ会社が立ち行かなくなってしまう」
この判断は経営者でなければできません。値上げ交渉の資料作成や準備は社員に任せても、取引先との交渉は最初は経営者が行います。利益が年々減少していれば値上げは最優先事項です。
まず経営者が覚悟を持って粘り強く取引先と交渉します。そして結果が出れば社員に引き継ぐことも可能です。
値下げ交渉はナンバー2以下
逆に取引先からの値下げ要求などは、経営者でなく営業部長などナンバー2以下が行います。そうすれば取引先から不利な条件を要求されて困った時、
「私の一存では決められないので、社に戻って社長と相談します」
と回答を保留し、時間を稼ぐことができます。
しかし経営者は最終決定権者なので、回答を保留できません。最終決定権者とナンバー2では、この違いがあります。
私の経験でも、価格交渉や不良品の損失補填などお金が絡む交渉では、必ず経営者に来てもらいました。経営者が来ればその場で結論が出るからです。特に中小企業は、経営者に来てもらわないと決まらないことが多かったです。
こうして値上げ資料を持って交渉に行くと、値上げの根拠を聞かれることがあります。これはどのようすればよいでしょうか?
これについては【製造業の値上げ交渉】12. 取引先から値上の根拠を求められた。どうすればいいのだろうか?を参照願います。
経営コラム【製造業の値上げ交渉】【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。
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