「今までのやり方が通じない!」現代若者考 ~若者を取り巻く社会環境とのやる気を引き出す方法~

ゆとり教育世代に代表される現代の若者

いつの時代でも若者に対して「今の若者はダメ」という意見はありました。それでも企業は、その時代の若者を採用し、育成し、世代交代していきました。年長者から見れば、いつの時代でも若者は「否定されるべき存在」でした。
 

ところが現代の若者の中には、従来のような世代間の相違だけでは理解できない人がいます。
「今までのような指導方法が通用しない」
「少しきつく注意すると心身に不調をきたし休職してしまう」
このようなことが日常的に発生し、その対処にベテラン社員が振り回されます。
 

その一方、雇用延長制度により退職を引き延ばしてきた団塊の世代が本格的にリタイヤを始めました。企業は不足する人材を確保するために積極的に採用に取り組み、人材獲得競争が激しくなっています。しかし、せっかく採用した人材が戦力にならなかったり、辞めてしまったりするのは大変な痛手です。
 

では若者の退職を防ぎ、早期に戦力化するにはどうしたら良いでしょうか。現在の若者の特徴と育成について考えました。
 

若者を取り巻く社会的背景

若者世代の特徴とやる気を高める方法については、
経営コラム「ゆとり世代の特徴とモチベーションを上げる方法」で、現代の若者の置かれている状況と、ダニエルピンクの著作「モチベーション3.0」より管理しないことがモチベーションを高めることを紹介しました。
 

また経営コラム「ゆとり世代の特徴と誤解」は、昔の日本人もモチベーションは高くなく、今の若者の評価にバイアスがかかっていることを述べました。さらに学力低下と教育の問題について取り上げました。
 

今回は、若者を取り巻く社会環境と、彼らを戦力するための処方箋、さらに欧米の人材マネジメントについて述べました。
 

社会環境と就職

現在の若者を考えるとき、彼らを取り巻く就職環境の影響はとても大きいと言えます。例えば就職氷河期世代はバブル崩壊により、正社員になる機会を失い、雇用の不安定な派遣社員のままキャリアを重ね、40代になっても非正規のままのため、それが低所得や非婚化の原因になっています。
これはバブル崩壊、企業が採用を大幅に絞ったことと、そのタイミングで一般人材派遣が解禁になり、当時の若者の多くが人材派遣のような雇用の不安定な立場に立たされたためと言われています。逆に今はアベノミクスにより企業業績が回復したため、就職環境が好転したと考えている若者もいます。
 

本当にバブル崩壊以降、新卒採用を絞ったために、就職が困難になったのでしょうか。
「『若者はかわいそう』論のウソ」の著者 海老原嗣生氏は、「『若者はかわいそう論』は社会の変動の一端のみをとらえた扇情的な主張だ」と述べています。
それに多くのジャーナリズムが同調したことも一因でした。
 

では、若者の就職環境が厳しくなった本当の要因は何なのでしょうか。
海老原氏は、以下の3つの大きな地殻変動があったと主張します。

  1. 1985年から1995年の間に起きた為替レートの急激な変化
  2. 1985年から連綿と続く大学進学率の上昇
  3. 1980年以降、急低下を始めた出生率

 

① 工場の海外移転とブルーカラーの雇用の減少

1985年のプラザ合意により発生した急激な円高は、輸出割合の高い企業に大きなダメージを与えました。これは円高不況と呼ばれ、製造業は国内工場が輸出競争力を失い、多くの企業は工場を海外へ移転しました。
 
図1 円-ドルレートの推移
図1 円-ドルレートの推移

 

この工場の海外移転により大幅に減少したのは、工場で働くブルーカラーの求人でした。実はバブル崩壊後も内需は堅調で、飲食、販売、サービス業の雇用は増加していました。そのため大卒のホワイトカラーの求人は、それほど大きくは減ってはいませんでした。そして1985年から25年間の間に第三次産業従事者の比率は、60.4%から72.5%へと上昇し、今では従業者の4人中3人が第三次産業の従事者です。これがブルーカラーの雇用減少の受け皿となりました。
 

ところが、飲食、販売、サービス業は、対人折衝が不可欠です。そのため人と接することが苦手で、対人折衝能力が低い若者にとって就業は困難になり、これがニートやフリーターの増加の原因となりました。
 

② 少子化と大学定員数の増加

二番目に大学行政の失敗があります。1971年~1974年の第二次ベビーブームは、そのピークの1973年には出生数が210万人に達しました。彼らが18歳になる1989年から1992年に合わせて、相次いで大学が新設され、既存の大学は定員を増やしました。しかし出生数はその後急激に減少し、1980年代後半には140万人、2000年代には110万人と第二次ベビーブームの半分近くにまで減少しました。
 

本来ならば文部科学省 (文科省) は、出生数の低下から将来を予測し早めに大学の定員を絞らなければなりませんでした。実際は逆に定員を増やす取り組みを行っていました。
その結果、大学の新設や学部の増設が続き、1997年から2002年までの間に大学は100校増加しました。大学生の数は1985年の184万人から、2009年には284万人に増えました。大学進学率は、1985年の26.5%から、2009年には50.2%と約2倍になりました。かつては4人に1人が大学に進学したのが、現在は2人に1人が大学に進学しています。
 

図2 大学の数と18歳人口の変化

図2 大学の数と18歳人口の変化

 

その結果、定員割れの大学が起きる恐れがあり、そこで文科省は1997年にAO入試、一芸入試を認めました。これにより大学に入りやすくなり大学進学率は上昇し、学生不足による大学の淘汰も起きませんでした。一方大学生の質の低下は避けられませんでした。
 

それでも出生数減少に不安を抱く一部の大学は、資格取得を大学の呼び物にしました。文科省もこれに応じて、医療・介護、薬学、看護、法律(ロースクール)、教育・心理(臨床心理士)の学部の設置基準を緩和しました。一方でこれにより今までこうした資格を教えていた専門学校が経営不振に陥るのを救済するため、専門学校の大学格上げを認めました。その結果、2002年から2009年までの間に大学がさらに87校増えました。
 

③ 問題の本質は教育行政の失敗

就職氷河期の問題の本質は、大企業は正社員の採用を減らしてないが、大学生が増えすぎたため、希望の会社の入れない大学生が増えたことです。希望の会社に入れない若者の多くは、その企業の採用基準に達していない人材が多く、中にはかつては大学に進学できなかったレベルの若者もいます。実際には、大企業以外の中小企業や販売・サービス業の求人は減っていません。しかし大学を卒業したというプライドのある彼らは、そのような企業へは応募しません。
 

これは大学のキャリア教育支援にも問題があるのではないかと思います。大学のキャリア教育支援室は就活の始まる学生に、最初にリクナビ、マイナビへの登録を指導するそうです。これらのサイトは掲載だけで50~70万円、合同説明会1回50~70万円と採用にかなりの費用がかかります。当然このようなサイトに登録している企業は比較的規模が大きく採用にコストをかけている企業です。
 

しかしランクが下の方の大学で、学力も下位の大学生を採用する企業がリクナビ、マイナビにどのくらいあるでしょうか。そして大学生は自分のレベルに合った企業を探せるのでしょうか。このミスマッチが就活を困難にし、就活生の心が折れる原因になっていないでしょうか。
 

教育の変質

① 失敗しない、正解を最小の労力で得る道

近年、日本社会全体が効率性の追求という方向に向かっています。若者は、子供の頃から最小の努力で最大の結果を得ることが良いことと思っています。これを象徴するのがコスパ (コスト・パフォーマンス) という言葉です。
 

買い物も食事も遊びも価格と内容を比較して、コスパが高いか低いかが重要です。つまり頭の中では、損したか得したかで考えています。この「コスパ」で考えれば、勉強や仕事において未知のテーマや新しい取組は、得られる成果に比べ、失敗した時のデメリットが大きいため、コスパは良くありません。従って、やろうとしません。
たとえ、失敗することで多くの学びや経験が得られたり、わくわくするような充実感が味わえたとしても。
 

その一方で、若者の起業志向は高まっています。ただ、「何かやりたいことがあって起業する」というより、「とにかく儲かることをしたい」、「会社に縛られたくないと」いう考えから起業を目指します。起業すれば、会社に縛られることなく、仕事や私生活を充実させることができると考えます。
 

実は借入金に連帯保証を取る日本では、一度起業に失敗すれば立ち直るのは容易ではありません。本当は自己破産しなければならない起業こそハイリスク・ハイリターンでコスパは良くありません。しかし世にあふれる起業に関する情報や起業セミナーはそのようなリスク伝えられていません。
 

② ゼロ・トレランス方針 ~人間形成に必要な寛容さを失った現場~

今学校では、「割れ窓理論」(※注) 参照)に従い、些細な違反でも厳罰に対処するゼロ・トレランス方針が取られています。このゼロ・トレランス方針は、「割れ窓理論」に基づく対処がニューヨークの犯罪率低下に効果を上げたことから、アメリカの学校に導入されたものです。
 

一方で、ゆとり教育により生徒の自主性を重んじ積極性の伸ばす指導をする傍らで、ルールから逸脱すると厳しく取り締まることを学校は行っています。これでは子供たちは許可されないことは全く手を出さなくなります。その教師も日常の多くの管理や書類に拘束され、過酷な労働環境に置かれています。
 

図3 ある中学校のゼロ・トレランス方針
図3 ある中学校のゼロ・トレランス方針

 

※注) 割れ窓理論
割れ窓理論は、アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリングが考案した「軽微な犯罪を徹底的に取り締まることで、凶悪犯罪が抑止できる」という理論です。「建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される」との考え方からこの名がつけられました。
 

割れ窓理論によれば次のような経過をたどり治安が悪化します。

  1. 建物の窓が壊れているのを放置すると、それが「誰も当該地域に対し関心を払っていない」というサインとなり、犯罪を起こしやすい環境を作り出す。
  2. ゴミのポイ捨てなどの軽犯罪が起きるようになる。
  3. 住民のモラルが低下して、地域の振興、安全確保に協力しなくなる。それがさらに環境を悪化させる。
  4. 凶悪犯罪を含めた犯罪が多発するようになる。

 

図4 割れた窓を放置すると…

図4 割れた窓を放置すると…
 

そこで治安を回復させるには、

  • 軽微な秩序違反行為でも取り締まる(ごみはきちんと分類して捨てるなど)
  • 警察職員による徒歩パトロールや交通違反の取り締まりを強化する
  • 地域社会は警察職員に協力し、秩序の維持に努力する

などを行います。
 

ニューヨーク市は、1980年代にはアメリカ有数の犯罪多発都市となっていました。1994年に検事出身のルドルフ・ジュリアーニが治安回復を公約に市長に当選するとジョージ・ケリングを顧問として、この理論を応用し治安対策を行いました。
 

これは「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策と名付けられ、具体的には、

  • 警察に予算を重点配分し、警察職員を5,000人増員して街頭パトロールを強化
  • 落書き、未成年者の喫煙、無賃乗車、万引き、花火、爆竹、騒音、違法駐車など軽犯罪の徹底的な取り締まり
  • ジェイウォーク(歩行者の交通違反)やタクシーの交通違反、飲酒運転の厳罰化
  • 路上屋台、ポルノショップの締め出し
  • ホームレスを路上から排除し、保護施設に強制収容して労働を強制する

などを行いました。
 

その結果、5年間で犯罪は、殺人が67.5%、強盗が54.2%、婦女暴行が27.4%減少し、治安が回復しました。
 

一方犯罪件数が減少した要因について別の意見もあります。「ヤバい経済学」の著者スティーヴン・レヴィットは、ニューヨークでの凶悪犯罪減少の要因は以下の4つであると言います。

  • 警察官の増員
  • 銃規制の強化
  • 麻薬市場の変化
  • 中絶合法化

 

麻薬の売買が儲からなくなり、マフィアやストリートギャングの勢力が衰えた、中絶合法化により貧困層のティーンエージャーの出産が減ったなどが原因と主張しています。恵まれない家庭で望まれずに生まれてきた子は、犯罪者になりやすい傾向があることから、中絶が合法化されて犯罪者予備軍が減ったという構図です。
 

一方でアメリカでは学校へのゼロ・トレランスの適用は過剰な処分を起こし問題なっています。2001年にはカリフォルニア州で15歳の少年が「学校に銃を持っていく」という内容の詩を書いたため、100日間の自宅謹慎処分を命じられました。また2007年には、10歳の少女が昼食時に家から持参したステーキナイフを使って食べ物を切り分けたことが「学校への武器の持ち込み」と判断されて逮捕され児童観察施設に送られるという事件が発生しました。
 

③ 転職して自分に合った仕事を探す

新卒採用の3人に1人が3年で辞める現在、若者の転職は多く、第二新卒という言葉もあります。終身雇用が一般的だった30年以上前は、転職は一般的でなく、再就職の窓口もハローワークぐらいしかありませんでした。しかしリクルートのような人材紹介、転職情報ビジネスが盛んになり、テレビコマーシャルなどでも「やり貝」などの言葉で盛んにPRするようになりました。そして転職が一般的になりました。企業にとっては優秀な人材を中途採用できるというメリットがある反面、新卒採用した人材の3割が退職するというデメリットもあります。
 

一方、人材の流動化が進んでも、大手企業は転職すれば給与や待遇面で不利になります。さらに日本企業は、欧米企業のように人材に高度な専門的スキルを求めるより、自社で育成する方針のため、転職すればキャリアをやり直すことになり昇進において不利になります。
 

転職は若者にとって良い選択ではないことも多いのですが、転職者が少なければ売上が上がらない転職・人材紹介会社は転職を盛んに促し、それに安易に乗ってしまう若者もいます。
社会人としての経験を積めば、自分に合った仕事なんて簡単に見つかることはなく、与えられた仕事を懸命にこなすうちに何が本当に自分に合っているのか分かってくるのですが。
 

④ 急増する新型うつ病

心身に不調を訴えて休職する若者の中に「新型うつ病」の若者が増えています。うつ病には以下の3種類があります。

  • 心因性
  • 何かつらい出来事がきっかけで発症
    一般的に体の反応は関係せず、薬はあまり効かない。心の発達の問題が関係している可能性もある。

  • 内因性
  • 体質や性格、認知の偏りなどうつ病にかかりやすい素因があり発症するうつ病
    休養と服薬がよく効く。「新型うつ病」も内因性に分類される。

  • 外因性
  • 頭のけがなどがきっかけで発症

 

新型うつ病は、逃避的な傾向を持った「抑うつ体験反応」です。抑うつ反応は、本人にとって不本意な出来事がきっかけとなって起きます。
 

図5 従来のうつ病と新型うつ病の違い
図5 従来のうつ病と新型うつ病の違い

 

本来の内因性うつ病は、まじめで几帳面な性格の人がかかることが多く、過剰な仕事や責任を負ったために心身ともに疲れ切って発症します。自分から精神科を受診しようとせず、家族に説得されてしぶしぶ来院するケースも多くあります。
 

これは心身に無理を重ねたため神経伝達物質の欠乏したためで、ほっておけば自殺の恐れもあります。きっかけとなった仕事や環境を取り除いても改善はせず、休養と服薬で心と体のエネルギーが回復すると症状は改善します。一方で比較的回復の容易な病気です。
 

ところが新型うつ病は、薬がなかなか効かず、休養の効果も表れません。心身のエネルギーが枯渇しているわけではないので、仕事などイヤなことはうつになりますが、趣味や遊びは活発に活動できます。休職中は症状が落ち着いていますが、復職が近づくと再発し、なかなか職場復帰できません。
 

⑤ なぜ新型うつが増えたのか

バブル崩壊後、日本経済は低迷し、企業倒産やリストラにより自殺者は増加し、1998年には3万人を超えました。しかしうつ病患者の増加は、やや遅れて1999年より増加しています。その原因として精神科医の冨高振一郎氏によれば、1999年にうつ病の新薬SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)の発売が原因であると言います。
 

このSSRIは従来の抗うつ薬より副作用の少ない画期的な薬ですが、価格も従来よりもはるかに高い薬です。実は多くの国でSSRIが発売された後、5,6年でうつ病患者が2倍に増加しています。
そして気分が落ち込んだ人が目をやると、うつ病と思うような情報が巷に多くあります。叱られたり失敗したりして気分が落ち込んでいるときに、ふと目にしたポスターから「うつかもしれない」と思って精神科を受診した若者に対し、医師はどのような対応を取るでしょうか。
 
図6 自殺者数の推移

図6 自殺者数の推移
 

⑥ 大人の発達障害

最近は自閉症など発達障害に関する情報も増え、わが子が発達障害ではないかと不安に感じる親も増えています。この発達障害には以下のようなものがあります。
 

図7 それぞれの障害の特性
図7 それぞれの障害の特性

 

【自閉症】
3歳位までに現れ、1他人との社会的関係の形成の困難さ、2言葉の発達の遅れ、3興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害であり、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
 

【高機能自閉症】
自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないもの。中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
 

【学習障害】
全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す状態を指すものである。
原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。
 

【注意欠陥/多動性障害(ADHD)】
年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。
7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
 

【アスペルガー症候群】
知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである。なお、高機能自閉症やアスペルガー症候群は、広汎性発達障害に分類される。
(文部科学省のホームページより)
 

このような発達障害の情報は、対人関係や学業で悩んでいる人に対して原因を提示することで気持ちを明るくする効果があります。一方このような情報の氾濫がささいな対人関係のトラブルにも「自分は発達障害出来ないか」という疑念を招き、自らにレッテルを張ってしまうことになります。
 

⑦ 1920年以降増えた摂食障害

女性のダイエットは日本、欧米など先進国にとどまらず世界的に広まっています。しかし中世の西洋の肖像画などは、ふくよかな女性が描かれ、スレンダーな女性が美しいという価値観はありませんでした。スレンダーな女性が望まれるようになったのは1920年代以降です。
 

その原因は、「ダイエットの歴史」を著した海野弘氏によれば女性美の理想が「若さ」や「少女のエロティシズム」に求められようになったためです。それに伴い服装も腕や足を露出するものが増え、体形の違いが一層明確に分かるようになりました。つまり西洋の女性は重いコルセットから解放された反面、ダイエットという「見えないコルセット」を身にまとうようになったと海野氏は述べています。
 

1966年ロンドンのモデル レスリー・ホーンビー 通称「ツイッギー」が人気を集め、ミニスカートがブームになりました。この「ツイッギー」ブームは欧米や日本で摂食障害が増加させました。
 

BBCニュースによれば、かつて南太平洋のフィジーは、男女ともたくましい筋肉質な体が望ましいとされていました。1995年からテレビ放映が始まり「ビバリーヒルズ青春白書」などアメリカのテレビドラマが放映されると、3年余りでそれまでほとんど見られなかった摂食障害の患者が急増しました。
 

拒食症などの摂食障害に陥った女性の中には、カーペンターズのヴォーカリスト カレン・カーペンターのように命を落とす女性もいました。ブラジルのスーパーモデル アナ・カロリナ・レストンも摂食障害で命を落とし、その死をきっかけに、やせすぎのモデルに対する批判が起きるようになりました。
 

そしてイタリアやスペイン、イスラエルなどの国では、超痩身のモデルがショーや広告に出演することが禁じられました。フランスでもやせすぎのファッションモデルを規制する法案が提出されました。モデルはBMI指数が18以上、身長1.75メートルに対して約55キログラムの体重を示す診断書の提出が義務付けられ、違反者は最大7万5,000ユーロ(約960万円)の罰金が科され、関係したスタッフも最大6カ月服役する法案です。
 

ちなみにツイッギーのBMIは14.5、現代の基準から見てもやせすぎでした。体格は個人差があるためツイッギーの体形は自然体で合ったかもしれませんが、彼女とは違う体形の女性がツイッギーになろうとするのは無理があります。
 

⑧ 無菌室で育った人材

今まで述べた社会環境で育ち教育を受けてきた若者は、

  • おとなしく人とぶつかることを避け
  • コスパを重視し最小の努力で良い成績を取ることに努め
  • 失敗するようなことは避け
  • 成功の達成感を知らないため自己肯定感が低く
  • それでいて壁にぶつかっていないために自信過剰な
  • 他人とぶつかった経験が少ない

このような傾向があります。
 

対人関係においても理解のない教師や理不尽な大人に接することがなく、対人関係のストレスに非常に弱いままです。さらに交友関係が同学年の友達に限定されています。そしてそのグループの中でメンバーと違うことをすると、仲間外れやいじめにあう恐れがあるため常に同調行動をとります。
 

人とぶつかり傷つくような心の筋トレをしていないため「これ以上は引かれるけどここまでは大丈夫だろう」というさじ加減が分かりません。そして傷つくことを極度に恐れます。
勉強も本気で取り組んでいないため自分の実力が自覚できてなく、「自分の実力はこんなものじゃない」という根拠のない自信を持っています。
 

これは社会生活で必要な人間的な幅の広さと寛容さ、対人関係の耐性、したたかさを欠いた無菌室で育った人材といえます。しかも彼らに対し、新型うつ、転職、起業など様々な逃げ場があります。
 

処方箋

若者のやる気を高め、退職を防ぐ方法

このような若者のやる気を高め、退職を防ぐにはどのような方法があるでしょうか。以下に4つの方法を示します。
 

① 目標設定と仕事の意味付け

「自ら考えて行動する」というゆとり教育を受けてきた若者は、言われたことに盲目的に従うことを嫌います。そのため仕事の指示も従来のように、作業内容をただ指示するだけなく、「何のために行うのか」仕事の持つ意味や必要性を伝えます。そして本人の能力に応じた適切な難易度の目標を与えます。そして本人に長期のキャリヤプランと育成目標を示します。このようにして自分の仕事とキャリヤアップの関係を示さないとモチベーションが低下し、退職の原因になります。
 

② 達成感と自己評価の向上

学校教育で達成感を感じてこなかったため、職場で達成感を感じさせ自己評価を高めます。こうすることで自身が生まれ失敗にも折れない心を育てます。
例えば、スキル表を作成し、ひとつの仕事をできるようになったらスキル表に丸を付けます。丸が増えれば本人も成長を実感できます。さらに業務に必要な能力を細かく区分し、仕事をいくつか覚えて本人の区分が上がれば、朝礼やミーティングで職場仲間に対して報告し、全員から拍手をします。細かな達成感の積み重ねが本人の自己評価を高め、そして積極性を持つようになります。
 

③ 手取り足取り

営業部門の新人Aさんの指導を任されたペテン社員のBさんが業務日誌の書き方を教え、「今日の分を書いてください」といったところAさんは「無理です」と言いました。
「一通り教えたし、わからなくなったら前日のを見ながら書けばいいんだよ」といっても
「不安です」といって取り掛かろうとしないので
「じゃあ一緒にやろうか」といって、手取り足取り書き方を指導しました。
従来であれば、自分なりに考えて間違いだらけでも書いたかもしれませんが、今は失敗を恐れて自分から考えようとしないため、最初は手取り足取り教え、一歩が踏み出せるようにします。
 

④ 注意と指導

実力に比べ自信過剰でプライドが高い若者の場合は、人前で叱らないようにします。叱るという行為は叱る方と叱られる方の間に信頼関係が不可欠です。叱るというより一方的に怒鳴るような指導でも、かつての若者は耐えてきましたが、今日の若者にそのような行為をすれば、相互に信頼関係を築く前であればパワハラと受け取られます。
 

そこで叱るのではなく、注意にとどめます。しかも人前でなく二人きりの時に行います。その際、何が問題だったの、二度と起きないようにするにはどうすればよいかをていねいに伝えます。原因を個人的な問題や資質や能力でなく、やり方に結論づけます。
 
図8 部下を叱る

図8 部下を叱る

 

指示命令から自発的な管理への転換

① 欧米型のマネジメント

部下は会社の指示に無条件に従うのが日本型のマネジメントですが、今の若者を無理にこれに当てはめると反発やモチベーション低下の原因となります。
 

これに対して欧米のマネージャーは部下ひとりひとりに対し、個別合意を取り付けることに多大な努力を払っています。
「本人がいちばん望んでいることは何か」、
「将来はどうしたいのか」、
「その中で仕事の位置づけをどうするのか」、
これらを部下との話し合いの中で一つ一つ合意していきます。
 

これは日本人のマネージャーにとってはとても面倒に感じるかもしれません。しかし彼らにとっては合意を取り付けるまでは大変ですが、一度合意を取り付けてしまえば、その後は部下が自分から考えて行動するためとても楽になります。そしていちいち個別の仕事に対し細かく指示する必要はありません。マネージャーはチームワークを支援したり仕事ぶりを評価し、部下を助けることが主な仕事です。問題が起きそうになれば部下から報告してきてそれを一緒になって解決します。
 

その一方欧米流マネジメントは、個別合意した内容については必ず実行することが求められ、実行できなかった場合はマイナス評価や降格、場合によっては退職もありえます。自分のやりたいことを主張した以上、必ずその達成のコミットメント (約束) が求められます。このコミットメントは、欧米の文化では日本語の「約束」よりも「もっと重い固い決意で必ず達成すべきもの」です。これにくらべ日本の経営者や政治家の言うコミットメントは達成できなくても何ら責任を負わず欧米のコミットメントとは違う意味のようです。
 

② アメリカ流部下のマネジメント

日本で仕事をする場合、上司への「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」は業務の基本とされ、ビジネス書や社内研修でも密にコミュニケーションを取ることの大切さについて、よく耳にするものです。また、仕事を進めるにあたり、部下は上司からの指示を仰ぎながら業務を進めることが一般的であり、上司は進捗状況を詳細に知りたがります。そのため日本では業務プロセスがメンバーや上司との共同作業になります。
 

一方、アメリカでは各ポジションにそれぞれの仕事の専門家が担当者になります。上司は各担当者に役割や目標を伝え、仕事は担当者に任せます。担当者は上司よりもその仕事のやりを熟知しているので、上司は口出しをせず、報告を待ちます。そのため日本人上司とアメリカ人部下が一緒に働く場合、アメリカ人部下は「上司に信用されてない」、「仕事を任せてもらえない」と感じてしまいます。
 

それに対し日本人上司はアメリカ人部下に対して、「何をやっているんだろう」、「仕事はいつ仕上がるのだろう」と気を揉んでその結果、「思っていたものとは違うものが出てきた」ということが起きます。
 

参考文献

「『ゆるく生きたい』若者たち」 榎本博明 著 廣済堂出版
「モチベーションの新法則」 榎本博明 著 日本経済新聞出版社
「『過剰反応』社会の悪夢」 榎本博明 著 角川新書
「世界で一番やる気がないのは日本人」 可兒鈴次郎 著 講談社+α文庫
「『若者はかわいそう』論のウソ」 海老原嗣生 著 扶桑社新書
「思春期ポストモダン」 斎藤環 著 幻冬舎

 
 

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