中小企業が使える経営戦略手法は?

経営戦略とは?

経営戦略の必要性

中小企業に経営戦略が必要かどうかについては様々な意見があります。しかし製造業の経営において経営戦略の知識は必要です。

理由は中小企業の取引先の多くが大企業だからです。
 

今日では、それまで安定していた市場が、突然別の業界から強力なライバルが出現して、根こそぎ市場を奪われることがあります。例えば、フィルムカメラは、2000年に入ると急速にデジカメにとって代わられました。そのデジカメも2010年代に入ると市場をスマートフォンに奪われ、デジカメ市場は年率30%以上という猛烈なスピードで縮小しました。

図1 中小企業と取引の経営戦略の影響
図1 中小企業と取引の経営戦略の影響
 

従って、中小企業にとって、取引先の市場、競争環境や社会環境の変化、そして取引先の経営戦略の情報を収集することは、自社の経営を安定させるためには不可欠です。その上で、自社が長期的に発展する経営戦略を立てる必要があります。
 

一方、大企業の経営と中小企業の経営では、企業規模や市場への影響力が大きく違います。したがって大企業の経営戦略と中小企業の経営戦略では異なるはずです。しかし世の中に出ている経営戦略の本や情報はほとんどが大企業の経営に関するものです。しかも大半が現状の結果に対して、後から原因を述べているものです。その点では、大学での経営学も同様です。
 

では、これらの経営戦略論や経営理論は、現実の経営において役立つものでしょうか。つまり自社の経営戦略を考える、あるいは取引先の将来を考えるときに、これらの理論に照らし合わせれば、予測できるのでしょうか?
 

この経営戦略につい本経営コラムでは、中国企業の価格戦争を取り上げ、価格戦争は中国企業が欧米企業とは異なる環境の中で生き残るために選択したものでした。アメリカ発祥の多くの経営戦略論は、アメリカ企業が生き残るために生まれたものです。対して中国企業が生き残るためには価格戦争のような新たな経営戦略が生まれました。
 

では、日本の中小企業が生き残るためにはどのような経営戦略があるのか?

巷の経営戦略手法を総括し、中小企業経営における戦略について考えました。
 

経営戦略とは何か

それでは経営戦略とは何でしょうか?
経営戦略については、第12回「戦略とは何か?戦略と戦術について考える」で詳しく述べました。その中で経営戦略を以下の図に示すように、企業の長期的な目指す姿「ゴール」への道筋とします。そしてゴールを実現するために時間をかけて会社を変革する活動が個別戦略です。これに対して、成果を得るための短期(1年以内)での活動は、戦術に分類します。これは企業における中期計画、年度計画に該当します。
 

戦略について述べている書籍の中には、長期的な活動でなく、個別の利益を上げる、あるいは効率を上げる活動を戦略としているものもありますが、ここではそれらは戦略からは除外して考えます。
 

図2 経営戦略と戦術の関係
図2 経営戦略と戦術の関係

 

経営戦略の歴史と発展

経営戦略論の発展は、アメリカでの経営環境の変化と、経営戦略を事業としたコンサルティングファームの発展と密接な関係があります。
 

アメリカの黄金期の経営戦略

1950はアメリカの黄金期でした。ヨーロッパは第二次世界大戦の痛手から立ち直っておらず、日本をはじめとしたアジア諸国はまだ貧しく工業化の途上か、農業国でした。こうして発展したアメリカ企業も市場が飽和すると成長が頭打ちになってきました。
 

① アンゾフ 多角化

こうして既存事業の成長の行き詰まりから、アメリカ企業は多角化に取り組みます。この多角化の戦略に指針を提示したのがアンゾフの多角化戦略です。1957年イゴール・アンゾフは、四つの成長戦略「市場浸透」「市場開拓」「製品開発」「多角化」を発表し、これらをマトリックスに表しました。製品化、市場か、どの方面から多角化するのかの指針となりました。
 

図3
 アンゾフの4つの成長戦略
図3 アンゾフの4つの成長戦略
 

② 多角化の弊害から、事業を整理する戦略

一方で無秩序な多角化は、シナジー(相乗効果)が得られず、多角化した事業の収益が低いため、全体の収益性の低下をもたらしました。ボストンコンサルティンググループ (BCG)のブルース・ヘンダーソンは、フレームワークとしてプロダクトポートフォリオ (PPM)というフレームワークを開発し、それぞれの事業分野を評価し、不採算事業の整理に活用しました。これは大ヒットし、外部コンサルティングという市場が拡大しました。
 

図4 BCGのポートフォリオマトリックス
図4 BCGのポートフォリオマトリックス
 

③ SWOT分析

SWOT分析は、外部環境や内部環境を強み、弱み、機会、脅威の4つの分野に分析し、自社の経営資源に適した経営戦略を策定する方法です。1920年代、ハーバードビジネススクールにより開発され、1960年代から70年代にはスタンフォード大学のアルバート・ハンフリーがフォーチュン500の企業のデータの分析・研究に活用されました。
 

SWOT分析は、本来は戦略が決まった後に活用する戦略を分析するツールです。なぜなら戦略によって同じ外部環境でも機会になったり、脅威になったりするからです。SWOT分析はこの点に注意が必要です。
 

図5 SWOT分析
図5 SWOT分析
 

④ ハーバード学派とシカゴ学派の論争

1950年代のアメリカでは、政府が積極的に介入し企業に独占をさせないことを主張するハーバード学派と、むしろ政府の介入は自由な競争を妨げると反対するシカゴ学派の論争がありました。

当初はハーバード学派が優勢で、独占的と判断された企業には反トラスト法が適用され、独占企業を分割して強制的に競争を促進しました。この時、産業構造と産業の成長性の関連付けた理論がS-C-Pパラダイムでした。

これに対し、シカゴ学派は少ない企業が集中したのは優れた企業が競争に勝ち残った結果であり、むしろ政府の規制や介入が独占を招くと反対しました。そして1980年代に入ると、シカゴ学派が勝利し、レーガン政権が規制緩和を積極的に促進しました。
 

図6 S-C-Pパラダイム
図6 S-C-Pパラダイム
 

⑤ ハーバード学派 マイケルポーター

窮地に立ったハーバード学派は、同学派のマイケルポーターがS-C-Pパラダイムを個々の企業活動の分析に応用しました。そして企業が利益を拡大するためには、不完全競争状態の産業を見つけて参入するか、イノベーションを起こして不完全競争状態をつくり、独占化を進める必要があると考えました。そしてファイブ・フォース・モデルという分析ツールを開発しました。
 

図7 ポーターのファイブ・フォース・モデル
図7 ポーターのファイブ・フォース・モデル
 

そして参入可能な業界を見つけた企業が、競争に優位に立ち独占状態を作り出すための戦略が3つの競争戦略です。
 

図8 ポーターの3つの競争戦略
図8 ポーターの3つの競争戦略
 

一方、ファイブフォース分析は、大きな変化を前提としない静的な分析です。変化の穏やかな市場やある時点での環境分析には効果的ですが、市場の変化が激しい業界には限界がありました。

また3つの競争戦略について、実際には企業が「コストリーダーシップ戦略」と「差別化戦略」を同時に取る場合もあります。あるいは最初は「コストリーダーシップ戦略」を取り、のちに「差別化戦略」を取る場合もあります。
 

長引く不況と自信の喪失

繁栄を誇ったアメリカ経済でしたが、1970年代の石油ショックにより不況とインフレが同時に発生するスタグフレーションに見舞われました。さらに1980年代に入ると日本企業からの低価格で高品質な製品の輸出攻勢にさらされます。自信を失ったアメリカ企業は積極的に日本企業から学び、JITやTQCなどの日本的経営が導入されました。
 

① ベストプラクティス

同時にベストプラクティスという考え方が広まりました。他社でうまくいっている方法、つまりベストプラクティスを自社に導入して、自社の業績を高めようという考え方です。これには株主の圧力やプロ経営者の台頭の影響もありました。優れた経営者は、会社や業界が異なっても企業の業績を上げることができるという考え方です。

業績の思わしくない企業に、外部からプロ経営者が招聘されると、まず経営計画が発表され、株価が上昇します。しかし招聘された経営者は、その会社や業界に対し十分な知識がないため、外部のコンサルタントを活用し、新しい戦略やベストプラクティスを導入し、経営計画を立てます。JITやTQCなどもこうしたベストプラクティスの一例です。
 

しかし企業文化や組織・人員の全く異なる企業に同じ経営手法や仕組みを導入して、うまくいくのでしょうか?

これに対して、企業が元々持っていた優れた能力に注目すべきという考え方が「コアコンピタンス」です。
 

② コアコンピタンス経営 

コアコンピタンスとは1990年に、プラハラードとハメルによって提唱された企業の「核となる能力・得意分野」です。かつてのように多角化に走らず、事業ノウハウや技術などの自社の得意分野にヒト、モノ、カネなどの経営資源を集中して競争力を高める経営を指します。

ソニーの小型化技術、米フェデラル・エクスプレスの物流管理システム、トヨタの生産管理方式などがコアコンピタンスの代表例として挙げられます。

これはそれまでの経営戦略論が市場や産業など外部環境と競合の分析が主体であったのに対して、企業内部に目を向けたものでした。その半面、企業内部の資源の分析は外部のコンサルタントには容易でなく、コンサルティングビジネスに影響を与えました。
 

③ リソースベーストビュー (RBV)

コアコンピタンスの考え方を実際の経営戦略に落とし込んだ方法が、バーニーが提唱したリソースベーストビュー (RBV)です。これは企業が競争優位を保てるかどうかは、企業の経営資源や内部的なケイパビリティ(経営資源を活用できる能力)であるとし、これを高める戦略です。

自社の経営資源や内部ケイパビリティを分析するツールがVRIOフレームワークで、企業の内在価値を、経済価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Inimitability)、組織(Organization)、の4つに関して分析します。
 

図9 イギリスの小売業 マークス・アンド・スペンサーポーターのRBV
図9 イギリスの小売業 マークス・アンド・スペンサーポーターのRBV
 

一方、リソースペーストビューは、企業内部の内部の経営資源を見えるようにするのが容易でなく、また環境が変化すると強みが強みでなくなるという課題がありました。

また新規事業の場合は必要な経営資源をすべて持っている方が稀です。もし自社の経営資源だけを見て、実現できることだけをやろうとすれば、ビジネスの空白地帯を見つけることはできません。実際にはいち早くビジネスの空白地帯を見つけてそこに参入し、その中で固有の技術やノウハウを身に着けて優位に立つ必要があります。

このビジネスの空白地帯に注目したのが「ブルー・オーシャン戦略」です。
 

④ ブルー・オーシャン戦略

競争優位を確保するために企業が製品やサービスを差別化しようとしても、既存市場ではすぐに競合に模倣され競争が激化し、利益が出ない状況「レッド・オーシャン」となってしまいます。そこでW.チャン.キムとレネ.モボルニュの提起するブルー・オーシャン戦略は、競争とは無縁の新しい価値市場「ブルー・オーシャン」を創造することを提唱したものです。

これは戦略キャンパスとアクションマトリックスを用いて自社と競合を分析し、競合は何に投資しているのか、顧客はどんなメリットを感じているのか分析します。そして競合が力を入れていない、しかし顧客がメリットを感じている市場を見出し、そこに新たに進出します。図はあるワイン会社の新市場開拓の例で、高級ワインとデイリーワインの間に、親しみやすい高付加価値ワインという市場を創出することで、差別化とコスト競争の優位を獲得しました。
 

図10 アクションマトリックス
図10 アクションマトリックス
 

しかし現実には、この手法が公開されれば競合も同じ市場を発見します。その結果、ブルー・オーシャンは短期間にレッド・オーシャンに変わってしまいます。特にブルー・オーシャンが発見され市場の価値が認知されるほど、短時間にレッド・オーシャンに変わってしまいます。
 

⑤ 何を捨てるか?選択と集中

経営資源の限られている企業は、どの事業分野に経営資源を集中するか、言い換えればどの事業分野を捨てるかという選択と集中が必要になります。国内では最も規模の小さい自動車メーカーのひとつ、スバルは四輪駆動技術を強みとしていました。そのためアメリカ、特に北部の雪の降る地域では、スバルの四輪駆動技術が高い評価を受けていました。しかし国内市場に合わせたコンパクトな車体は、アメリカ人には小さすぎ販売は伸びませんでした。

そこでスバルは、現在の設備で大きくできるギリギリまで、具体的には5センチ車体を拡大する決断をしました。さらに軽自動車の製造から撤退し、ダイハツからのOEM供給に切り替えました。これには販売店、OB、役員からの強い反対がありました。
「国内ディーラーの怒る顔がぱっと浮かんだ」吉永社長(当時、営業本部長)は語っています。しかし国内市場を捨てて、北米市場に合わせた車にすることでスバルは好業績を維持しています。
 

中国企業の競争戦略

今まで述べた欧米企業の競争戦略に対し、中国企業は異なる戦略を取っています。それは低価格戦略と価格戦争です。新興国や先進国の低所得者層は、価格がネックとなって最新の製品を購入することができませんでした。その点で新興国市場はブルー・オーシャンでした。

中国企業は、自国で同業者同士の熾烈な価格競争を生き残り、そこで得た圧倒的な低コストで製造する能力を強みとしています。その特徴は、極力技術はコピー、または買ってきて短期間で開発する、低価格を実現するために機能や材料は必要最低限に絞り込む、ただしデザインはしっかりと行い、顧客は所有することで満足感を得られるようにすることです。

こうして中国企業は低所得者層の市場を押さえ、次第に中間層へと浸透していきます。そして市場で競合が増えて過当競争になったときは、自ら価格戦争を仕掛けて競合を追い落とします。彼らにとって価格戦争は「正当な戦術」でした。こうして中国企業に普及品、中級品の市場を奪われた先進国メーカーは、少量の高価格品市場に追いやられます。そして低コストで大量生産する能力を失います。

そして先進国メーカーは、普及品や中級品は中国企業からOEM品を供給してもらわなければ事業が成り立たなくなります。これがパソコン、家電、その他日用品に見られた図式でした。
 

経営戦略手法の総括

経営戦略手法とその特徴を以下の表に示します。
 

表1 大企業の経営戦略手法

戦略手法 分析手法 大企業
多角化戦略
(アンゾフ)
多角化マトリックス 経営資源の制約が含まれていない
多角化戦略 M&A 株価上昇に効果大
成功例は少なく、高く買って安く売る事例も多い
競争戦略
(ポーター)
ファイブフォース分析 市場を独占するための戦略だが、
市場や環境の変化が考慮されていない
クロスSWOT SWOT分析 市場や事業分野が
多岐にわたると大変
リソース・ペースト・ビュー VRIOフレームワーク 経営資源の優位やケイパビリティは
常に変化するため、戦略が持続しない
ブルー・オーシャン 戦略キャンパス
アクションマトリックス
新市場を見つける手法として活用できる
しかし競合からすぐ真似されるリスクがある
低価格&価格競争
(中国企業)
なし 過去に多くの先進国の企業はこれに敗北したが
いまだに危機感を持っていない人もいる

 

表2 中小企業の経営戦略手法

戦略手法 分析手法 中小企業
多角化戦略
(アンゾフ)
多角化マトリックス 新規事業に取り組む際に参考になる
多角化戦略 M&A 合併後の企業文化の融合が困難
評価が難しく、思わず不良資産があることもある
競争戦略
(ポーター)
ファイブフォース分析 市場を独占する機会は限られ
使う場面は少ない
クロスSWOT SWOT分析 戦略を構築した後でないと機会と脅威が変わる
SWOT分析から戦略を構築するのは矛盾がある
リソース・ペースト・ビュー VRIOフレームワーク 優位となるものが見つからず、SWOT分析の強みのような定性的なものになってしまう
ブルー・オーシャン 戦略キャンパス
アクションマトリックス
BtoCで新しい顧客層を考えるツールになる
低価格&価格競争
(中国企業)
なし 中小企業がこの領域で戦ったら
勝ち目はないので踏み込まない

 

21世紀の経営戦略

21世紀に入り、以下の点で20世紀と大きく変化し、これが企業間競争を大きく変えました。
 

  • 資本の集中と投下が容易
  • 有望な事業には短時間で大量の資金が集まり、急速に事業が立ち上がります。
     

  • 技術・ノウハウが容易に移転
  • 情報は短時間で世界中を駆け巡り、人も活発に移動するため、技術やノウハウが容易に移転されます。
     

  • 流通のフラット化、販売チャネルの確保が容易
  • かつては流通網や販売チャネルの構築に多大な労力が必要でしたが、インターネットでの直販や宅配での流通など、自前の販売チャネルがなくても事業を立ち上げることができます。
     

  • 物流コストの低下、消費地での生産にこだわらない
  • コンテナ物流や航空便の発達により、短時間に低コストで輸送できるようになりました。かつて飲料などは輸送コストがネックとなり消費地での生産していましたが、今では世界中どこでも最適な生産地で生産できます。

 

経営戦略に対する国民性の違い

  • 欧米
  • 欧米人は、経営戦略を学問として捉え、理論的な整合を取って普遍性を追い求める傾向にあります。また理論的革新性、独自性にこだわります。そこからポーターなど独自の経営戦略論が生まれました。
     

  • 日本
  • 経営を理論的、体系的にとらえる点が弱く、優れた経営者の「○○式経営」というのが多い。経営学も個々の企業のケーススタディ的なのが多く、日本式経営のような経営戦略を体系的にまとめたものは少ない。

    日本企業のイノベーションや技術開発も、もともと欧米からの技術導入が出発点でした。ただ新しい技術やノウハウを導入するだけでなく、これを高い熱意で実用化、製品化しました。そこからさらに独創的な製品や技術へ意欲を持った技術者もいましたが、和を重んじ同調圧力の強い組織や、リスクを嫌う上司・企業文化が弊害となり、組織的に新しい製品を生み出すことは限られていました。

    そのため、日本が生み出したVHSビデオや青色LEDなどの革新的な製品の多くは、組織からはみ出したアウトロー的技術者が開発したものでした。
     

  • 韓国、中国
  • 新しい技術やノウハウは、自ら時間と手間をかけて開発するよりも、買ってでもいいから早く手に入れようとします。場合によっては盗用も厭いません。一方新しい技術を製品化する意欲は非常に高く、極めて短期間に製品化し、多少不完全であっても他社に先んじて市場へ投入します。さらにコストを下げて市場を押さえるためには大胆にリスクを取って巨額の投資を行います。

 

中小企業の経営戦略

経営戦略への賛否

経営戦略については、様々な批判や意見があります。
 

「現実に社会では、戦略は実際のところ非常に単純なものだ。大まかな方向性を決めて、死に物狂いで実践する。
…だが、戦略を複雑にしてしまってはいけない。考えれば考えるほど、データや詳細な計画を掘り下げれば下げるほど、何をしたらよいのか、身動きが取れなくなってしまう。それでは戦略ではない。単に苦痛でしかない。」

ジャック・ウェルチ (元GE CEO)

 

実際、正しい戦略を構築するのは容易ではありません。なぜなら、顧客のニーズですら正確に把握するのは困難だからです。化粧品会社のグループインタビューで「どんな化粧品が欲しいですか」と聞いても、「安くて良いもの」という結論になってしまいます。実際、マーケティング調査で架空の製品の話をしても、よくわからないということになりがちです。

ヤフーがポータルサイトの変更に際し、1対1やグループインタビューわ行い、顧客のニーズを調査しました。顧客のニーズは

「世界情勢のニュースが必要で芸能ニュースはいらない」

でした。しかし実際には世界ニュースをクリックしている人はほとんどおらず、芸能ニュースにクリックが集中していました。
 

経営戦略に必要なこと

経営戦略が長期的に自社の目指す姿、ゴールへの道のりとすれば、経営戦略の立案には何よりもまず、自社の目指す姿を明確にしなければなりません。つまり、○○年後に「我社はどうなっていたいのか?」です。
 

これを考えるには、わが社の顧客を具体的、かつ明確に絞り込む必要があります。

  1. ○という顧客に
  2. ○という製品やサービスを提供する
  3. ○な会社

 

これが具体的になれば、それを実現するための道のり、つまり経営戦略を立てることができます。逆にこの3つがあいまいだと、経営戦略手法を用いても、あるいは分析ツールを用いてもあいまいな戦略しか出てこないのではないでしょうか。
 

そして戦略を考える際には常識を疑って考え抜く癖をつける必要があります。

宅急便を生み出したヤマト運輸の小倉元社長は、百貨店の小口配送業務をやっていた時、なぜ儲からないのか考えました。そして百貨店の配送業務は、ピークの荷物量が7~8倍と繁閑ギャップが大きいため、閑散期の固定費負担が大きい点に着目しました。そこで個人の荷物を相手にすることで荷物の量の変動を減らし、単価を高くすれば儲かるのではないかと考えました。
 

参考文献

「戦略学」 菊澤研宗 著 ダイヤモンド社

「ストーリーとしての競争戦略」 楠建 著 東洋経済新報社

「ハーバード戦略教室」 シンシア・モンゴメリー 著 文藝春秋

「戦略の原点」 清水勝彦 著 日経BP社

「ゼロからの経営戦略」 沼上幹 著 ミネルヴァ書房

「戦略集中講義」 リチャード・コッチ 著 英治出版

「なぜ新しい戦略はいつも行き詰まるのか?」 清水勝彦 著 東洋経済新報社
 

本コラムは2018年8月26日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

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