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「なぜ中小企業の商品開発は失敗するのか?」 ~ランチェスター戦略から考える商品開発~

なぜ中小企業の新製品開発は失敗するのか?

 

部品加工だけでなく自社商品を持ちたいと、商品開発を行い展示会で発表、さらに地元の新聞にも掲載されました。しかしその後販売は苦戦、思うように売上は上がりません。あるいは社長のアイデアで新商品を考案し、支援機関に相談に行きましたが、ダメ出しばかりされた、こういった話は珍しくありません。なぜ中小企業の新製品開発のうまくいかないのでしょうか?

一方、中小企業の新たな取組の例として、今までない寝具のエアーウィーブや調理器具バーミキュラなどがマスコミに取り上げられています。これらの成功事例は前者とどこが違うのでしょうか?中小企業の新製品開発を「ランチェスター戦略」から検証し、どうしたら中小企業の新製品開発が成功するのか考えました。
 

軍事戦略だった! ランチェスターの法則

 

「ランチェスターの法則」とはイギリスの航空技術者フレデリック・ウィリアム・ランチェスターが確立した軍事戦略です。これには第一法則と第二法則があります。
 

【ランチェスター第一法則(一騎打ちの法則)】

ランチェスターの第1法則で支配される戦い

  1. 敵の兵力を目視できる狭い地域での「局地戦」
  2. 「接近戦」
  3. 1人が1人しか狙い撃ちできない「一騎打ち戦」

 

図1 ランチェスター第一法則

図1 ランチェスター第一法則

武器効率が同じ場合
A軍100名 B軍70名
【第一会戦】
損失 A軍20名 B軍20名
残存兵力 A軍80名 B軍50名

【第二会戦】
損失 A軍20名 B軍20名
残存勢力 A軍60名 B軍30名

このような戦闘で有利になるには

  1. 兵力数を多くする
  2. 武器効率を高める

しかし兵力数の差が大きく開かなければ、戦術、戦闘での指揮采配により、兵力差を逆転できます。
 

【ランチェスター第二法則 (確率戦の法則)】

ランチェスターの第2法則は、敵が視野に入らない広大な地域での「広域戦」や近代兵器を使用する「確率戦」に適用
 

この第2法則に支配される戦い

  1. 敵が視野に入らない「広域戦」
  2. 1人が複数の敵を倒せる近代兵器での「確率戦」
  3. 「遠隔戦」
図2 ランチェスター第二法則

図2  ランチェスター第二法則

武器効率が同じ場合
A軍100名 B軍70名
【第一会戦】
損失 A軍10名 B軍16名
残存兵力 A軍90名 B軍54名

【第二会戦】
損失 A軍10名 B軍20名
残存勢力 A軍80名 B軍34名

【第三会戦】
損失 A軍8名 B軍34名(全滅)

第二法則では、戦いを重ねるごとに兵力差が開き、3回でB軍は全滅します。従って兵力が少ない弱者は第一法則で戦い、兵力が多い強者は第2法則で戦うことが必須です。
 

常に敵の3倍の戦力で攻撃する現代アメリカ軍

第二次世界大戦は、機関銃などの強力な火力、航空機同士の戦いなど第二法則が支配する戦争でした。1942年にアメリカ海軍省はコロンビア大学などと共同でランチェスターの法則を数理モデルにした「ランチェスター戦略モデル式」を開発し、実際の戦略に活用しました。そして常に敵の3倍の戦力で攻撃することで確実に勝利しました。これはオペレーションズ・リサーチとして現在のアメリカ軍の戦略の基礎となっています。
 

ランチェスター戦略を経営に応用したのは日本独自の取組

 

ランチェスター戦略は経営コンサルタントの田岡信夫氏がランチェスターの法則を経営戦略に応用した日本独自の経営戦略です。1970年代以降、松下幸之助氏をはじめとして多くの企業がランチェスター戦略を経営に取り入れました。一方経営学など学術分野の評価は低く、ランチェスター経営を知らない経営学者、経営者も少なくありません。
 

ランチェスター戦略の特徴1 弱者と強者

ランチェスター戦略では市場シェアが26%以上を強者、19%以下を弱者とし、強者と弱者は全く異なる戦略を取るべきとしています。

強者とは市場地位が1位に限ります。それ以外は2位であっても弱者です。市場シェアは、地域・商品・流通(販路)・顧客などの単位で考えます。従って大企業でも特定の市場や地域では弱者になってしまうことがあります。弱者・強者にはそれぞれ代表的な戦い方「5大戦法」があります。
 

弱者の戦略~正面から強者と戦わない~

【基本戦略】 差別化

差別化とは武器効率を高めることです。ランチェスター戦略では、武器効率は営業担当者の能力や商品力です。またランチェスター戦略では戦力とは営業担当者の数です。弱者は戦力が強者より劣るため正面から強者と戦えば勝ち目はありません。そこで同じ戦力なら勝てるよう
に営業力や商品力を高めます。商品力で差別化できない場合アフターサービスの強化も有効です。
 

【弱者の五大戦略】
図3 弱者の戦略

図3 弱者の戦略

  1. 局地戦
  2. エリアが広ければ弱者は少ない営業力が分散し、強者との差が開きます。しかし地域を限定して狭いエリアに営業担当者を集中すれば、そのエリアにかぎっては強者と戦力の差がなくなります。こうして弱者は強者に対して局地戦を挑み、個別に強者からシェアを奪っていきます。
     

  3. 一騎打ち
  4. 局地戦で強者の営業担当の数と拮抗すれば、強者と弱者の営業担当者の力の差は大きくありません。こうした一騎打ちではランチェスターの第一法則が適用されるので、数の差の影響は少なく弱者の勝算が高くなります。ただし様々な商品があると営業担当者の力が分散するので、商品・サービスを絞り、エリアを絞って強者と一騎打ちになるようにします。
     

  5. 接近戦
  6. 広い範囲での販売活動は広告宣伝の効果が大きく、豊富な資金力の強者に有利です。また多数の顧客に広く販売する場合、知名度やブランド力も重要で、その点でも強者に有利です。逆に営業担当者が顧客と直接対面する一対一の接近戦ではランチェスターの第一法則が適用され、知名度やブランド力の差は大きくありません。頻繁に会って顧客と親密な関係を築けば弱者でも強者に勝つことができます。そこで弱者は地域を絞って頻繁に顧客を訪問する、はがき、電話、手紙などの手段で個々の顧客に頻繁に接触して深い関係を築きます。
     

  7. 一点集中
  8. 営業担当者の総数で劣る弱者でも1点に集中すれば、その点に限れば営業担当者の数で強者を上回ることができます。そのためには地域を限定する、市場を細分化し狭い市場に絞る、重点的に販売する商品を1点に決める、など一点集中戦略を取ります。
     

  9. 隠密行動

強者は、2位以下の競合の動きを常に監視し、自社の驚異となる優れた製品や安価な製品が出現すれば、それを阻止しようとします。具体的には類似の商品をいち早く開発し、競合よりも安く市場に投入するミート戦術 (後述) をとります。そこで弱者は、強者に発見されないように新製品はひそかに開発し、局地戦で展開していきます。局地戦で繰り返し勝利して強者と対等に戦えるまでは隠密行動を取ります。時には強者の目をそらすために、わざと目的とは違う行動を取り相手の注意とそちらに向ける陽動作戦を取ることもあります。
 

強者の戦略~常に2位以上をマークする~

【基本戦略】 ミート戦略

強者は弱者を監視し、弱者が新たな製品を開発し差別化をしたら、直ちに同じ製品を開発し対抗します。これがミート戦略です。家電で国内1位のかつての松下電器はこのミート戦略を徹底し、「マネシタ電器」と呼ばれました。同社の創業者 松下幸之助氏は臆することなく「しっかりとマネしとるか」と社員を督励していました。
 

【強者の五大戦略】
図4 強者の戦略

図4 強者の戦略

  1. 広域戦
  2. 弱者が局地戦で攻めてくる場合、強者は局地戦にならないように広いエリアでの広域戦に持ち込みます。商圏を広い範囲に拡大し、局地戦に持ち込まれないように幅広い商品構成で弱者がかなわないようにします。
     

  3. 確率戦
  4. テレビCMなどマスメディアを使った広告宣伝は、ランチェスター第二法則が適用されます。投入金額が多いほど高い効果が得られます。一般消費者向けの製品は、営業担当者が顧客一人一人に直接販売する商品は少なく、広く広告宣伝を行って商品やブランドを知ってもらい店頭で購入してもらう製品です。このような商品の販売促進は広告宣伝に依存する確率戦となるため強者に向いています。
     

  5. 遠隔戦
  6. 1人1人が顧客と接する接近戦では数の優位が得られにくいため、強者は一対一の接近戦は避け、マスメディア広告や販売代理店を活用した全国展開など遠隔戦に持ち込んで資金力や戦力を活用します。
     

  7. 総合戦
  8. 弱者が単一の製品に営業力を集中して一点突破するのに対し、強者は製品の量、バリエーション、広告宣伝、販売力、サービス網など総合力を駆使して、広い範囲に展開することで弱者のマネできない戦術で挑みます。
     

  9. 誘導作戦

弱者は局地戦に持ち込むことを強者に読まれないように隠密行動を取ります。時には陽動作戦を展開します。強者は弱者の動きを冷静に観察し、陽動作戦には乗らず、強者の得意な広域戦に弱者を誘導します。例えば、1種類の製品で一点突破を試みる弱者に対し、弱者に対抗する製品だけでなく、その派生製品を展開して広く展開します。あるいは弱者の得意な製品シリーズと別の分野の製品ラインを展開し弱者をこれに対抗させます。
 

市場占有率(マーケットシェア)で全て決まる

ランチェスター戦略を発案した田岡氏は、アメリカのオペレーションズ・リサーチの戦略モデル式を市場シェアに置き換えて、目標とする市場占有率を図5のように導きました。

占拠率7つのシンボル目標値

図5 占拠率7つのシンボル目標値

  1. 市場占有率が41.7%以上
  2. 市場占有率が41.7%を超えればプライスリーダーとなりトップの地位は安定します。収益性は高く、その収益を次期商品の開発に投入できます。
     

  3. 市場占有率が19.3%以下
  4. なおかつ市場シェア2位の場合、まずは3位以下を攻撃して市場シェアを奪うのが定石です。そうして3位以下との差が十分に開いた後、1位の企業を攻撃します。
     

  5. 市場シェア10.9%以下
  6. これは市場にようやく足がかりができた状態です。この場合、上位企業を追いかけていたずらに商品ラインや商圏を広げても戦力が分散してしまいます。まだ自らの力が不十分なことを理解して、現在のエリア、商品の中で占有率を高めるようにします。
     

  7. 市場シェアが2.8%以下

市場において存在感がなく限界企業と呼ばれます。一倉定氏によれば「やがてはこの世から消え去る運命にある」、その理由は

  • 景気の変動に弱い
  • 不況になると流通業者は在庫調整のために仕入れを減らしますが、その場合限界企業から減らします。そして景気が回復し仕入れ量を増やす際は、まず大手の仕入れ先に声をかけ、限界企業に声をかけるのは最後です。こうして大手と限界企業との差はじりじりと開いていきます。

  • 市場での知名度が低い
  • 知名度が高ければ顧客は指名して買いますが、顧客が知らない製品は価格を下げなければ買ってくれません。

  • 突然の環境変化に弱い

震災、海外での紛争など外的な要因で突然原料不足が生じた時、実績の多い企業から優先して供給し、実績の少ない限界企業への供給は後回しになります。
限界企業にはこのような不利な点があるため、限界企業は地域、商品、顧客を限定して、その限られた領域で何としてでも高いシェアを取るようにしなければなりません。
 

質を無視するランチェスター戦略の問題

ランチェスター戦略の元となったランチェスターの法則は、戦闘という複雑な事象を単純化して、数理モデル化しました。現実の戦闘で双方の武器効率が同じあることはなく、また現実の戦闘場面では指揮官の判断や個々の戦闘員の行動も結果に影響します。同様にランチェスター戦略でも勝敗を営業担当者の数に因るものとしますが、現実には優秀な営業担当者とそうでない営業担当者では結果に違いが出ます。この点を指摘して「ランチェスター戦略は現実的でない」という批判もあります。

そこでランチェスター戦略は量的要因の分析と対策に使い、質的要因は別に考えます。実際は質の違いによる結果の影響は、量の違いほど大きく影響しません。オペレーションズ・リサーチ導入したアメリカ軍は、第二次世界大戦で日本軍の守る島を常に3倍の兵力で攻略しました。多くの島で日本軍は敢闘し、アメリカ軍は大きな損害を受けましたが、結果的には3倍の戦力投入は少ない被害で戦闘を進めることができました。

同様に新商品、新市場開拓は、まずランチェスター戦略に基づき、量的要因で確実に勝てる戦略を立てます。質的要因はその後ゆっくりと考えます。
 

事業を戦争に例えるのはどうか、という反論

市場が成熟し、容赦ない競争が影を潜めた今日、企業間競争に戦争の概念を持ち込むことに違和感があるもしれません。しかし現実には、市場が誰もいない空白地帯であることはめったにありません。ある企業が新製品を開発して市場に参入すれば、その市場に以前からいた企業から見れば、それは「よそ者からの攻撃」と受け取られます。既存企業は、市場シェアを維持するために新参者を全力で排除しようとします。

従って、新商品開発とは、市場という領地を確保するため血みどろの戦いを続けている戦国武将たちの中に、開発したばかりの商品という頼りない武器で参戦することです。しかも戦いに参加する側が相手の情報をほとんど持っていないことが多いのです。極端な場合は、新しい発明と自信満々の製品でしたが実はすでに世の中に出ていたこともあります。そうならないように少なくとも競合製品の価格、メーカー、企業規模、特徴はつかんでおきます。

経営コンサルタントの一倉定氏は「死に物狂いで戦っているのだ」という経営者に「戦っているのなら敵の情報を集めているはずだから、それを拝見したい」というと多くの経営者は黙ってしまうと語っています。「ライバル企業の経営情報を信用調査会社から集める」、「ライバル企業の営業担当がどのくらい訪問しているのか顧客から聞いてくる」、このような活動を地道に行っている企業は限られています。(余談ですが一倉定氏は、自社の営業車に会社名やロゴを入れるのは、敵に自社の行動を知らせるため、メリットよりもデメリットが大きいと言っています。)

ランチェスター戦略を理解すれば、十分な市場シェアを確保できない分野に参入をすることが危険なことが分かります。新市場への参入は既存企業に対する攻撃であり、既存企業はシェアを守るために激しく反撃してくると考えなければなりません。
 

なぜ中小企業の新製品開発は失敗するのか?

 

失敗の事例を述べる前に、新製品に必要な要素を再度確認すると、新たな製品やサービスを開発する場合、最低でも以下の条件は満たしておく必要があります。

  1. 対象市場と商品の価値
  2. 「この商品は誰のどんな問題を解決するのか」明確になっていなければなりません。それが商品の価値になります。それが今まで解決されていない問題であれば「革新的な商品」になります。そして「誰の」から市場が明確になります。また市場規模、将来性(市場の伸び)もわかります。
     

  3. 競合
  4. この場合、直接同種の商品を提供している企業だけでなく、今までその商品の代わりに購入されていた商品も競合になります。例えば、コンビニ・コーヒーの競合は、その店舗で販売されている缶コーヒーやコーヒー飲料だけでなく、町の喫茶店や自動販売機も競合です。
     

  5. 優位性
  6. 競合に対してどんな点が優位か、顧客の視点で明らかになっている必要があります。製造業が企画した製品には、つくる側の論理で他社と比較した優位性が延々と説明していますが、顧客の視点では優位性が感じられないものもあります。
     

  7. リスク

どんな新商品や新事業にもリスクは必ずあります。その場ですぐにリスクを3つ言えるくらいにしておきます。
 

以下に中小企業の新製品開発失敗の原因について述べます。
 

ありきたりの一般消費者向け製品に手を出す

鍋、食器などキッチン用品、清掃用品など日用雑貨、園芸用品など一般消費者向けの商品を中小企業が開発して、市場シェアを押さえるのは容易ではありません。これらの商品は顧客が小売店の店頭で購入します。新商品を顧客に買ってもらうためには大量の広告宣伝が不可欠だからです。そして顧客が店頭で購入する場合、商品の認知度とブランド力が大きな影響を持ちます。既存商品よりも改良した新商品も知名度もブランド力もない中小企業の製品は、小売店も良い場所に陳列せず、顧客も手に取らないため売上が伸びません。

「それでもバーミキュラのように中小企業の中には一般消費者向けの商品で成功している企業もあるではないか」というかもしれません。しかしこの場合は鍋のジャンルの中でもさらに細分化した無水調理というジャンルを自ら作り出しています。これは今までにないもののため市場で認知してもらうのに大変な労力がかかります。

図6 市場シェアを獲得するには労力がかかる

図6 市場シェアを獲得するには労力がかかる

そこで今までない製品ではなく、今ある商品に少し改良を加えた場合はどうでしょうか。そのような商品の中には、自らの生活体験に基づくアイデアを盛り込んだ日用品が多くあります。一倉氏はこれを「王様のアイデア」と呼んでいます。このような日用品、家庭雑貨は、資本も技術もあまり必要ないため、誰でも容易に参入できます。そのため過当競争になりやすく低収益の業界です。売れるとなれば競合は特許侵害もかまわず参入します。裁判になっても結果が出るまで何年もかかるので、その間に逃げ切ろうというわけです。
 

大きなマーケットに参入して限界生産者に留まる

 一般消費者向けなどの市場が自社の企業規模に比べて大きすぎれば、事業が安定するために必要な30%以上のシェアの売上、販売数量が非常に大きくなります。それを達成するために必要な生産体制、広告宣伝、必要な資金も非常に大きくなり、中小企業にとっては社運を賭けたプロジェクトになってしまいます。そこまで投資ができず、細々と売っている状態では限界生産者に留まります。利益は出ず、景気の悪化や消費者の嗜好の変化の影響を真っ先に受け市場から退出させられてしまいます。

また鍋や食器のような日用品には既存企業が必ずあります。新規参入する商品が本当に良い商品で、既存顧客の大半が新商品に移行するようであれば既存企業にとって死活問題になります。当然ですが全力で反撃してきます。具体的には同じような性能の商品を開発し、ライバルよりも価格を下げてシェアを守ろうとします。

また新商品が新しいジャンルや市場を切り開いた場合、その市場が大きければ必ず大手が参入、そうなると新商品で参入した中小企業は、強者と真っ向から戦わなくてはならなくなってきます。
 

販売増加に対応できない不十分な生産体制

新商品を発売して顧客から好評だった場合、売上は急激に増加します。それに合わせて十分な供給体制がなければ、顧客は他社の類似の商品を購入してしまい市場シェアを確保できません。
 

そこで市場のピークの需要に対して、どのくらいの生産能力(供給能力)が必要かを事前に検討します。前掲の一倉定氏によればその目安は現在の年商の3倍です。新商品を発売して売上が20~30%伸びていくと、瞬間的には2倍くらいの売上になります。さらに翌年の売上増加を考慮すれば年商の3倍くらい必要なります。ただし3倍の供給能力を全て自社で賄う必要はなく、不足する分は外注でカバーすれば十分です。そうしておかないと注文に応えきれず、売り損ないと機会損失が生じます。
 

認知度を高める費用、時間を見込んでいない

新商品が今までにない商品の場合、顧客はその良さがわからないため販売は非常に難しくなります。大手であれば大量の広告宣伝費を投じて顧客にその良さを認知してもらうことができます。中小企業でも一般消費者向けの商品に取組む場合、大手と同じ手法を取ることもあります。
 

寝具のエアウィーヴは、(株)中部化学機械製作所が始めた新規事業ですが、今までにないマットレスでしかも知名度のない中小企業の製品の為、大量の広告宣伝を行っても、それが消費者に浸透し売上が1億円に達するまで3年を要しました。それまでは多額の広告宣伝費のため赤字で、事前に相当の資金がなければ不可能でした。
 

エアウィーヴのような資金がなく、商品の良さが消費者に簡単に伝わらないものは、どのようにして広く顧客に知ってもらうかを考えておく必要があります。場合によっては、この点で開発を断念することもあります。
 

自社商品を持っていない企業の多くは、この販売力を軽視する傾向があります。実際、販売力は商品力よりも重要です。商品力が多少劣っていても販売力が強ければ売れるからです。あるいは販売を商社、卸などに任せる場合があります。しかし商社や卸は多様な商材を扱っており、自社の商品はその中の一つにすぎません。代理店契約をすれば彼らが新商品を熱心に売ってくれるというわけではありません。代理店の販売網を活用できますが、販売は自ら行う意思が必要です。例えば代理店の顧客リストを借りて自社でDMを発送したり、代理店と同行営業するなど自ら動く必要があります。
 

自社の文化と異なる事業に手を出す

部品加工でも少品種大量生産と多品種少量生産では、受発注から生産管理、品質管理などの業務が異なり、また企業文化も異なります。少品種大量生産の会社が多品種少量生産に取り組んでも、自社の業務のやり方や人の考え方が合わないため最初はとても苦労します。 

同様に新商品開発も一般消費者向けの商品をやってきた企業が産業用製品へ、あるいは逆の場合、企業文化が異なるためハードルが高くなります。同様に流通業者が開発する自社商品、需要が通年安定している業界の企業が季節変動の激しい業界へ参入などもハードルが高い取り組みです。
 

小売・流通事業者へのマージンを考えず値段を決める

一般消費者向けの商品では、小売店との間に問屋など流通事業者が入ります。その場合、小売店、流通事業者のマージン(手数料)を考えなければなりません。それまで下請けとしてやってきた企業には、こういった販売にかかる経費を過少に見積もる傾向があります。例え、インターネットで直販する商品でも、市場での評価が高まれば問屋や小売店が扱いたいというかもしれません。

しかしせっかく向こうが売る気になってくれてもマージンがあまりに低ければ扱ってくれません。あるいは海外に販売する場合は通関手数料や輸出に関わる経費も販売価格に見込んでおく必要があります。海外への情報発信も容易になった今日、思わぬ顧客が海外に現れることもあります。
 

どうすれば新商品開発が成功するだろうか?

 

このような失敗を考慮して、逆にどうすれば中小企業の製品開発が成功するのか、成功に必要な条件を考えてみます。
 

十分なマーケットシェアが取れるように市場を細分化する

参入しようとする市場を調査し、競合企業と商品の特徴、販売方法、販売要員の数、市場シェアを調べます。そしてその市場の10%を押さえようとした場合、今の自社の規模で十分に可能か検討します。それが難しければ断念します。10%を抑えることができなければ、1位に必要な30%以上のシェアは不可能だからです。10%が困難であれば地域、顧客、製品を細分化して、市場を狭くして再度検討します。
 

十分な供給体制を準備する

新商品は最初は少量つくった市場に投入して反応を見ます。それで大丈夫と判断すれば大量に投入します。その際、市場の反応が良く、販売量が伸びた場合、欠品を起こさないように十分な供給能力(売上の3倍を目標)を確保します。といっても多額の設備投資はリスクが大きいので、自社の能力を超えた分は外注をうまく活用し、設備投資はできる限り抑えます。
 

今までにない製品は認知のためのコストを見込む

今までにない商品は顧客が認知するまでの時間と、認知してもらうための広告宣伝の費用を見込んでおきます。また広告宣伝の方法も考えておきます。さらに小売店や問屋などを経由する場合は、その分の費用を見込みます。こうして毎月一定の広告宣伝費を投じて、小売店や問屋にマージンを払い、自社も営業経費を毎月かけて、それでも十分な利益が出る事業かどうか検討します。加えて発売までにかかった開発費、販売が軌道に乗るまでの赤字分を含めて、想定した年数でどれだけの利益が出る事業か検討します。

一方自社商品がBtoB商品であれば、マス広告は自社製品を競合にも知らせることになります。むしろDMや電話、直接訪問などの接近戦に徹し、競合に情報が漏れないようにします。
 

競合の反撃を予想する

よそ者の侵入に対し既存企業は全力で反撃に出ます。それを予想して対処する方法を計画します。例えば従来品より優れた新製品を開発して市場に参入すると、既存企業は従来商品を大幅に値下げして対抗します。あるいはこちらの商品の弱点を顧客にPRしたり誹謗中傷を行ってきます。競合の価格が下がると当初想定した性能と比較した価格のメリットが弱くなります。それに対して値下げで対抗するのか、製品の良さをPRし高い価格を維持するのか対策を考えます。
 

自社の文化と合っているか再確認する

これから取り組む商品に対して、市場、顧客、販売方法、販売業者、その他業界の特徴を調べて未知のものがないか調査します。もし未知のものがあれば、それは自社で対応できるものか検討します。

こうして商品、市場、顧客、販売店、競合を調査し、業界がそれまで自社が関わってきた企業文化と合っているかどうか確認します。合っていない部分が少なければ、そこをどうやって合わせるか検討します。合っている部分が少ない、自社と合わない文化が多ければ、自社には向いていない事業の可能性があり、場合によってはそこで参入を断念します。
 

参考文献

「ランチェスター戦略がマンガで3時間でわかる本」 田岡 佳子 著 明日香出版社
「ランチェスター思考 競争戦略の基礎」 福田秀人 著 東洋経済新報社
「一倉定の社長学 市場戦略・市場戦争篇」 一倉定 著 日本経営合理化協会
「一倉定の社長学 新事業・新商品開発篇」 一倉定 著 日本経営合理化協会

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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「家電から自動車へ、中国企業の競争戦略」 ~戦略的市場攻略と異質競争の徹底~

2017年には、年間販売台数2,888万台と世界最大の自動車市場となった中国、生産台数も2017年は2,901万台と世界一です。では、中国の自動車メーカーはどのようなメーカーがあり、彼らはどのような戦略で事業を拡大してきたのでしょうか。
 

中国企業の特徴と競争戦略について考えます。
 

中国自動車メーカーとその特徴

中国の自動車メーカーはその成り立ちと規模から3つのグループに分けられます。
 

  • 第一グループ
  • 国有自動車メーカーを母体としてビッグスリー 年間生産台数200万台以上
    上海汽車、東風汽車、第一汽車

  • 第二グループ
  • 年間生産台数 100~200万台の中位グループ
    長安汽車、北京汽車、広州汽車

  • 第三グループ
  • 年間生産台数100万台以下の地方メーカー
    奇瑞汽車、吉利汽車、長城汽車、比亜迪汽車(BYD)

 

図1 中国企業と外資との関係

図1 中国企業と外資との関係

 

第一グループ

上海汽車 (SAIC MOTOR)

地方政府が所有する国有企業で中国最大の自動車完成車メーカーで2017年度の販売台数は691万台、中国での市場シェアは23%です。提携先はVW、GM、ボルボです。販売台数は、上海VWが206万台、上海GMが199万台です。従来は自社ブランドの販売は消極的でしたが、近年は「栄威」などの販売台数が52.2万台と大幅に伸び、自主ブランドの比率が高まっています。2017年の輸出は17万台で中国自動車メーカーのトップでした。
 

図2  2016年中国国有六大自動車集団の販売台数順位

図2 2016年中国国有六大自動車集団の販売台数順位


 

東風汽車(ドンファンモーター)

1969年に湖北省十堰で建設された「第二汽車製造廠」を前身とした国有企業で、現在はプジョー・シトロエン、ルノー、日産、ホンダと合弁しています。販売台数は2016年は428万台で市場シェアは14.5%です。一方自社ブランドの販売は振るわず課題となっています。
 

第一汽車(ファーストオート)

東風汽車、長安汽車と並び、中央政府傘下の三大国有自動車企業の一つで中国自動車業界の老舗です。販売台数は2016年は315万台で、内訳は一汽VWが190万台、一汽トヨタが66万台です。一方自社ブランドの販売は振るいません。計画経済時代の官僚主義的な面が強く残っています。
 

第二グループ

長安汽車(チョウアンオート)

前身は150年の歴史を持つ中国最大の兵器工場で1953年に自動車の製造に参入し「長江」というブランドのジープの生産を開始しました。販売台数は2016年は305万台で、フォード、マツダ、プジョー・シトロエン、スズキと提携しています。一方自社ブランドにも力を入れ、112万台を販売しました。EVに力を入れ2020年には24万台/年を生産する計画です。
 

北京汽車(ペキンオート)

1958年に北京で設立された歴史のあるメーカーで、現代とダイムラーと提携し、2016年の販売台数は285万台です。EVの販売に力を入れ2017年のEVの販売台数は10万台、EVのシェアは24%です。また燃料電池車の開発にも取り組んでいます。
 

図3  2017年中国市場新エネルギー車販売上位メーカー
(出所:第一電動汽車網)

図3 2017年中国市場新エネルギー車販売上位メーカー
(出所:第一電動汽車網)


 

広州汽車(グアンジョウオート)

1997年6月に広州の自動車関連企業がまとめられ、2005年に広州市で今日の形の企業として設立された地方政府傘下の大手企業です。提携先はホンダ、トヨタ、三菱、フィアット・クライスラー、日野です。2016年の販売台数は185万台で市場シェアは7%です。EV、プライグインハイブリッドや自社ブランドにも力を入れています。
 

第三グループ

吉利汽車 (Geely Automobile)

浙江省出身の李書福氏が1980年代に金属加工業として創業し、1990年代にオートバイ生産に参入し、1990年代半ばには20万台規模のメーカーに成長しました。1998年に自動車の生産に参入しましたが、外資とは提携せず、最初はダイハツ シャレードのコピーを生産していましたが自社ブランドの成長とともに規模を拡大し、2016年の販売台数は80万代、それが2017年には130万台と急成長を遂げています。当初は天津トヨタからエンジンを購入していましたが、安価な地場メーカーに切り替えるなど価格競争力を重視しています。
 

奇瑞汽車 (Chery Automobile)

安徽省の投資会社が出資して、スペインSEATの工場設備を買い取って設立された自動車メーカーで、一時期上海汽車集団に属していましたが2004年に独立しました。2017年の販売台数は67万台です。
 

中国最大の自動車メーカーは上海汽車ですが、その台数のほとんどが外資との合弁です。そのため、メーカー別の生産台数のランキングでは、上海汽車の生産台数はフォルクスワーゲンとGMにカウントされます。中国の第一グループ、第二グループのメーカーは自社ブランドの割合が少なく、自社ブランドの構築や製品開発力に弱い点があります。表1に中国メーカーの生産台数とブランドの内訳を示しました。
 

一方第三グループは自社ブランド主体であり、中国市場が大きいため、国内で7位以下でもある程度の規模があります。図4に外資ブランドの生産台数を除外した自社ブランドの生産台数の大きさ順に並べたものを示します。またマツダ、スバル、三菱など生産台数の少ない日本メーカーを比較のために入れました。こうしてみると、外資ブランドを除けば、中国メーカーの実力は日本の規模の小さい自動車メーカーと同等と考えられます。
 

表1 2017年中国メーカーのブランド別の販売台数

メーカー 台数 ブランド 台数
上海汽車 691 VW 206
GM 404
自社他 81
東風汽車 412 ニッサン 111
ホンダ 72
PSA 37
ルノー 7
自社他 181
第一汽車 334 VW 190
トヨタ 66
自社他 78
長安汽車 287 フォード 82
マツダ 19
自社他 186
北京汽車 251 現代 80
ダイムラー 41
自社 130
広州汽車 200 ホンダ 70
トヨタ 45
三菱 10
自社他 75
吉利控股 130
長城汽車 107
華晨汽車 74
奇瑞汽車 67

 

図4  2017年中国メーカーの自社ブランド(商用車を含む)
の販売台数

図4 2017年中国メーカーの自社ブランド(商用車を含む)
の販売台数


 

自動車産業の特徴

政府の保護

自動車産業は車体、エンジン、タイヤなど幅広い製品から構成され、そのすそ野は非常に広く、1国の経済に非常に大きな影響を与えます。そのため、各国とも自国の自動車産業を育成するために外資の参入規制など保護政策を取っています。日本も1950年代は海外メーカーの輸入に対し規制をかけ、当時は競争力のなかった国内メーカーを保護していました。
 

中国も同様に外資単独での進出は認めず、進出は出資比率50%の合弁が条件です。また外国からの輸入には規制がかけられています。同様の保護政策は他の国も同様で、比較的市場規模の大きいロシアやブラジルなども海外メーカーに対して関税の引き上げや一定量の国産化の要求を行っています。そのため海外進出を図る中国メーカーは完成車輸出からノックダウン生産へと転換を図っています。
 

自動車生産の特徴

自動車は完成車メーカーにとって、原価の構成のうち、人件費は8%前後に過ぎず、原価の約80%は購入部品や素材です。つまり車体生産に関しては、人件費の安い国で生産するメリットはそれほど大きくありません。
 

一方原価の80%を占める部品の原価は部品メーカーの人件費によって決まるため、部品メーカーも含めて人件費の安い国で生産すれば、完成車の価格は安くなります。
 

生産拠点としての中国は、今までは豊富な労働力と安い人件費による低コストが魅力でした。一方生産設備は、中国製の価格は日本製の1/3程ですが、従来は性能が低く、自動車の製造に必要な大型プレス機、大型射出成形機、ロボット、ピストンリング研削盤などは日本製を使用する必要がありました。また素材も、高張力鋼板、亜鉛メッキ鋼板、ばね用鋼などの金属や、ポリカーボネートなど一部の樹脂は中国国内で良質なものの入手が困難でした。(2005年) ただし、素材に関しては現在はかなり改善されているようです。
 

サプライヤーとの関係

自動車の開発には、ランプ、メーター、シートなど様々な部品の開発も必要です。自動車メーカーは、部品メーカーに対して設計コンペなどを行い、サプライヤーを選定します。選定されたサプライヤーは自社が開発費を負担して部品を開発し、車体メーカーに納入します。ただし金型の費用は部品の価格に上乗せして車体メーカーが負担します。同様にこの部品メーカーに部品を納入する協力会社は、自社で部品の製造方法や治工具を工夫して量産体制をつくります。そして一旦サプライヤーが決まると、そのモデルの生産中は、車体メーカーは部品メーカーを変えることはありません。
 

中国の自動車メーカーはサプライヤーとの契約は通常1年で、基本的には2社以上の複数購買で、その調達価格は競争入札で決定します。また契約期間の途中でも調達比率を変えたり契約を打ち切ったりします。オートバイメーカーはもっと極端で各サプライヤーから購入する比率を1、2か月に1回変更します。これにより極めて低コストでの製造を実現しました。中国の二輪市場ではホンダはコスト面でコピーメーカーに勝てず、コピーメーカーと手を組むことになりました。
 

日本の部品メーカーは車体メーカーの採用が決まれば、発注は保証され転注のリスクもないので、安心して開発費をかけて部品を開発できます。対して中国の部品メーカーは常に転注のリスクがある半面、部品メーカー自体あまり開発投資に費用をかけません。また転注されても他の車体メーカーが買ってくれるため複数発注もそれほど問題としていません。
 

結果、中国市場では様々な車体メーカーの部品が市場にあり、それらを組み合わせれば低コストで自動車をつくることができます。さらに吉利の車は、顧客は吉利エンジンと天津トヨタのエンジンを選ぶことができます。その意味で、中国市場においては、自動車はすり合わせ製品でなく、疑似モジュラー製品と呼べるものです。
 

図5  部品メーカーの競争と開発への関与の関係

図5 部品メーカーの競争と開発への関与の関係


 

模倣問題

中国においては特許、意匠など知的財産権は軽視されています。自動車においては、当初、国有企業の間では開発の成果は無償で移転されていたことも背景にあります。また外国企業との合弁を行わない独立系の自動車メーカーは、当初は自社で開発するほどの技術力を持たないため、海外メーカーを模倣し低価格で販売することで、高価な外資系の車に手が出ない層を顧客に取り込んで発展しました。その点でこれまでの中国市場は品質は良いが高価な外資系の車か、低価格だが品質もそれなりの地場メーカーの市場しかなく、その中間の価格帯はありませんでした。
 

一方合弁メーカーも頻繁にサプライヤーを変えるために、これらのサプライヤーの高品質な部品を地場メーカーも入手することができ、模倣メーカーといえども一部には本家と同じ部品を使うこともあります。その上で、低品質や低いブランド力を補うだけの低価格を実現するために、過剰な品質を排除し、中国の顧客のニーズに合った車を作っています。
 

中国メーカーの輸出と海外進出

中国自動車メーカーの輸出は、2005年には16万台に達し、輸出台数が輸入台数を初めて上回りました。その後2年間で年々倍増し、2007年には112万台に達しました。しかしリーマンショックにより急減しましたが、その後回復し、2018年も104万台でした。
 

中国政府の政策

中国政府は1990年代末から輸出の促進と中国企業の海外進出や投資を促す「走出去」方針を打ち出し、2002年の共産党大会で国家戦略の1つに位置付けられました。その結果、輸出や海外進出に加えて、中国企業が外国企業を買収し、技術やブランド力を補完する事も行われています。2010年には吉利汽車はボルボを買収し、2017年にはイギリスの名門ロータスを傘下に持つマレーシアの自動車メーカープロトンを買収しました。
 

海外進出する中国メーカー

中国の自動車メーカーは、3つのグループに分かれ、異なった背景があります。

  • 第一グループ
  • 国有自働車メーカーを母体としてビッグスリー 年間生産台数200万台以上
    上海汽車、東風汽車、第一汽車

  • 第二グループ
  • 年間生産台数 100~200万台の中位グループ
    長安汽車、北京汽車、広州汽車

  • 第三グループ
  • 年間生産台数100万台以下の地方メーカー
    奇瑞汽車、吉利汽車、長城汽車、比亜迪汽車(BYD)

 

この中で第一グループのビッグスリーは、巨大な国内市場において十分なシェアがあり、生産規模も大きく十分な利益があります。中央政府、地方政府からの支援もあり、官僚的な体質から海外進出には消極的です。また主力商品が海外メーカーとの合弁車種のため、輸出は合弁先のメーカーとの関係から困難という課題もあります。
 

第二グループの長安汽車、北京汽車、広州汽車も中国国内に一定のシェアを確保しているため、「機会があれば進出するが、積極的には進出しない」というスタンスです。
 

第三グループの奇瑞汽車、吉利汽車、長城汽車、比亜迪汽車(BYD)は、模倣からスタートした地方メーカーが多く、外資と合弁している大手メーカーほどの技術力がなく、品質もそれほど高くありません。一方ビッグスリーなど政府の庇護下にあるメーカーに対して、第三グループの企業は、中国市場で成長しようとしても政府の規制ため容易でなく、海外に市場を求めざるを得ませんでした。一方過剰な品質を廃し、徹底した低価格は新興国のニーズに応えるものでした。
 

こうして第三グループのメーカーは新興国市場、特に世界の強豪自動車メーカーが見落とした市場に焦点を当てて輸出を開始しました。
 

中国自動車メーカーの立地戦略

立正大学教授 苑志佳氏によると、中国自動車メーカーは、市場を4つのタイプに分けて戦略を立てていると述べています。
 

【サボテン市場】 (北欧市場)
〈丈夫で鑑賞性が高いが触ると針に刺される〉

  • 参入ハードルが高いのに市場の潜在発展力が小さい
  • 法的規制が厳しく安全や環境基準も厳しいので今の中国企業にはハードルが高すぎる

 

【フグ市場】 (アメリカ、ヨーロッパ、日本)
〈絶品の食材だが、処理を誤ると毒を食べてしまう〉

  • 参入のハードルは高いが、市場の潜在力もかなり高い
  • 将来攻略したいが、現時点での参入はかなり困難を伴う

 

【竹の子市場】 (アフリカ、南米、東南アジアの途上国)
〈素材はおいしいが旬が短い〉

  • 参入ハードルは低いが、市場規模も小さい

 

【ジャガイモ市場】 (ブラジル、ロシア、インドなどBRICs)
〈安価でカロリーが取れる〉

  • 参入ハードルが低く、市場の潜在的成長性が高い
  • 中国市場に類似しており、まずここを攻略する

 

表3 中国自動車メーカーの海外進出

長城汽車 吉利汽車
2006年 ロシア 2004年 ガーナ
2006年 ベネズエラ 2005年 マレーシア
2008年 インドネシア 2006年 ウクライナ
2008年 ウクライナ 2006年 メキシコ
2009年 ベトナム 2006年 ロシア
2010年 フィリピン 2012年 ウルグアイ
2011年 セネガル 2013年 エジプト
2011年 マレーシア
2012年 ブルガリア
2012年 イラン
奇瑞汽車 力帆汽車
2003年 イラン 2002年 ベトナム
2004年 ガーナ 2007年 ロシア
2004年 ロシア 2010年 エチオピア
2005年 ウクライナ 2010年 アゼルバイジャン
2005年 エジプト 2010年 ウルグアイ
2006年 インドネシア 2010年 イラク
2007年 アルゼンチン
2008年 マレーシア
2009年 ウルグアイ
2010年 ブラジル
江淮汽車
2011年 ブラジル

 

そして最初は輸出から始めて市場が拡大すれば、ノックダウン生産に移行し、台数が増え、輸入規制などを受けるようになれば現地進出に切り替える戦略です。しかし現在海外進出に踏み切った中国企業の多くは、ノックダウン生産や委託生産方式が多く、本格的な現地生産のようなリスクを取らない戦略です。そして現地生産を行う場合は、より大きな市場を攻略するための足掛かりとして行っています。例えば、奇瑞汽車はアルゼンチン企業Socma者と合弁でウルグアイに合弁事業を立ち上げましたが、それはブラジル、アルゼンチンなど巨大な南米市場への足掛かりとするためでした。
 

異質競争を徹底する中国企業

中国企業が海外進出する場合、自社の技術力や商品力を競合と比較・検討して、競合が有利となるような場を避けて、別の場で競争する異質戦略を徹底しています。自動車の場合、現時点では先進国市場で日本や欧米の自動車メーカーと競争すれば勝ち目はないと認識しています。そして先進国の自動車メーカーが苦手とする、あるいはマークしていない新興国市場を攻略しています。
 

そのような市場は、中国市場の顧客のニーズに合わせた商品、つまり乗り心地や燃費などの性能ではかなわないが、見た目が良く、そこそこ使えて、圧倒的に価格が低いという特徴を生かして、先進国メーカーの自動車を買えない層を取り込んでいます。
 

家電製品では、こうして見た目が良い二流品を生産している間に、自社の生産技術や製品の要素技術が進歩し、見た目が良い1.5流品になりました。しかも先進国の製品は価格に見合った付加価値を加えることができず、性能は良いが価格も高く、しかも使わない機能ばかりの製品になってしまいました。そうして価格の違いと製品の価値の違いの差が逆転した時、日本製品は先進国市場ですら、シェアを失いました。
 

これは、最初は競合になりえない性能の低い製品が、次第に性能を高めて、対してより上のクラスの製品の性能が顧客のニーズを追い越してしまい、価格に見合った価値を提供できなくなり、敗者となってしまう状態です。これは上のクラスのメーカーがより良い製品を作ろうとすればするほど、敗因となってしまうイノベーションのジレンマです。
 

日本企業の戦略

中国企業の戦略的な提携1 ホンダ

1990年代ホンダは中国で上海汽車、チャイタイグループ、嘉陵工業、広州摩托の4社と提携し、合弁企業を立ち上げました。しかし母体が国有企業の合弁企業は、意思決定にスピードが欠け、価格面でもコピーメーカーに勝てずシェアは徐々に低下しました。見かねたホンダは、ホンダのCG125のコピー車を生産している海南新大洲摩托車と提携しました。同社はオリジナルブランド「SUNDIRO」も持ち、合わせて60万台/年を生産していました。このSUNDIROの価格はホンダの半額でした。
 

自社の知的財産を侵害する敵の海南新大洲と組むことで、ホンダは、安くつくることに関して、妥協を許さない徹底したシステムを学びました。海南新大洲は、モデル毎の販売台数を毎日集計し、その台数を元に毎回数量や納期をサプライヤーに提示するなど、徹底的に安く購入する仕組みを作り上げていました。部品のつくり方も品質にこだわるホンダでは考えつかないようなつくり方をしていました。
 

工作機械も中国製のレベルが上がったため、新大洲本田の新工場は、工作機械は中国製、射出成形機は台湾製です。サプライヤーとの交渉は新大洲のやり方を導入し、その中でホンダの品質の考え方や作業標準を導入しました。部品は、新大洲のサプライヤーの中からホンダ基準をクリアした部品だけを受け入れ、性能面や品質面でホンダ基準をクリアできない部品は純正品に置き換えました。そして新大洲の製品にホンダブランドをつけること認めました。新大洲の工場は、160万台/年の生産能力と日本品質の工場に変わりました。
 

2002年にはスクーター「Today」を製造し、日本に輸入、94,800円で販売し大ヒットしました。
 

中国企業の戦略的な提携2 ダイキン

ダイキンは、インバータ型が主流の日本のエアコン市場でシェア1位です。このインバータ技術は30年以上も前に開発された技術ですが、海外、特に家庭用エアコンでは価格が高いため、ハイエンド市場で一部出回っている程度でした。つまり日本のガラパゴス市場で育った技術・製品でした。
 

1994年にダイキンはインバータ型エアコンで中国の家庭用エアコン市場に参入しましたが、低価格なノン・インバータ型エアコンが主流の中国では苦戦していました。そこでダイキンは単独での攻略を断念し、中国企業と中国政府に協力する事にしました。
 

当時中国の家庭用電力消費の大半はエアコンでした。急増する電力需要とそれに伴う原油など資源の輸入の急増が課題であった当時の中国では、エアコンの消費電力削減は大きな課題でした。中国政府は省エネ推進策を打ち出し、高効率型エアコンの普及を推進、低効率なノンインバータ型エアコンの販売停止や高効率機種への販売補助金支給などの政策を打ちました。しかしインバータ技術は当時日本独自の技術で、中国企業である格力などにはありませんでした。ダイキンは、省エネにはインバータ技術が有用であることを中国政府に働きかけました。
 

そして2008年に中国最大のエアコンメーカー 格力と業務提携し、2009年には合弁会社を設立しました。そして格力の部品調達力・生産力のスケールメリットを活かし、低価格なインバータ型エアコンの製造ノウハウを獲得し、大幅なコスト削減を実現しました。
 

これにより2008年度6%程度だった中国のインバーターエアコンの普及率は、2013年には60%にまで膨らみました。ダイキンは1%未満のシェアだった中国の家庭用エアコン市場で10%以上のシェアを獲得しました(2012年)。ダイキンの2013年度の中国事業は2875億円(その8割は業務用)と、ダイキンの空調事業の18%を占め、利益率も20%と空調事業全体(約9%)を大きく上回っています。中国の一部の消費者の間には、「格力製のエアコンでも中には『ダイキンが入っている』」と言われ、評価されています。
 

ダイキンの2014年度の日本向け160万台のうち、90万台を滋賀工場、45万台を格力に委託生産し、25万台を蘇州工場で生産する計画です。2013年度は滋賀工場が95万台、格力への委託が75万台で格力への委託が減少したのは円安により一部製品の生産を国内に変えたためでした。
 

これに対して以下のような意見が日本のマスコミや産業界からありました。

「ダイキンが取った選択でいくつかの疑問が存在する。まず、なぜダイキンは単独で展開する道を選ばなかったのか。中国政府が省エネ化を推進したことでインバータ型エアコンが普及することは見えており、インバータ技術を持たない格力電器等の中国勢に変わってトップシェアをとるチャンスがあったはずである。
 2つ目の疑問は、なぜ格力電器との提携でコア技術であるインバータ技術を提供してしまったのか、である。成熟した技術とはいえ、インバータ技術はダイキンにとってコア技術である。そのコア技術を格力に提供してしまったことで技術を流出させてしまった、という懸念はある。」(ITメディアより)

 

これについては中国企業との提携はダイキン内部でもかなり議論があったようです。しかし現実に世界のエアコン市場は年間7.7億台、その23%を格力、17%を美的が抑えています。(2015年) 格力だけで年間1.7億台を生産しています。対して日本の国内市場は900万台しかなく、それをダイキン、パナソニック、富士通ゼネラル、東芝、日立、三菱電機の6社で分け合っています。もしダイキンがやらなければ、他のメーカーが格力や美的にインバータ技術を供与するかもしれません。その方が、ダイキンにとっては、はるかに脅威でした。
 

図6 世界のエアコンメーカーのシェア

図6 世界のエアコンメーカーのシェア


 

中国自動車市場は、まだ早朝期

2018年11月4日から8日まで、中国の深圳と湖南省株洲市を訪問しました。
 

図7 深圳の街並み

図7 深圳の街並み


 

本格的な大衆車の普及はこれから

深圳、株洲市を訪問して感じたのは、高級車が日本以上に多いことでした。これは日本でいえば、まだ車が庶民にとって高価な時代と考えられます。つまり、大衆車市場はこれからです。2,888万台という数に圧倒されますが、日本の車の所有台数は1,000万台、人口比で考えれば10人に1台です。中国が日本並みになれば、車の数は1.3億台、年間販売台数5,000万台になります。
 

一方それだけの車を走らせる道路や駐車場のキャパがなく、車の所有や乗り入れが規制されているため、日本のようにモータリゼーションが急速に進展するかどうか不明です。もし日本のように大衆車の普及段階に入れば第三グループの低コストな車が大きなシェアを取ることも考えられます。
 

図8 EVタクシー

図8 EVタクシー


 

しかし中国自動車市場は急ブレーキ

ここに至って好調な中国自動車市場は急減速し、2018年9月から10月は2か月連続で2桁のマイナス成長を記録しています。これには米中貿易摩擦に端を発した中国株価の低迷や景気の減速が影響し販売店の在庫水準も警戒水準50%を超えて10月には60%以上に達しました。
 

この影響で外資と提携せずブランド力の弱い第三グループのメーカーが苦境に陥っています。この苦境から脱するためにEVへの注力を高めたり、政府へ補助金や減税などの購入支援の要請も行っています。今後は、工場の稼働率を維持し在庫を減らすために大幅な値引き販売に走る可能性もあります。
 

このように自社ブランドが苦戦する原因は、大衆車市場が十分に形成されておらず、自動車の購入は富裕層であり、価格よりもブランド価値に重きをおくためと考えられます。さらに都市部ではナンバーの取得の制約が多く、所得に多額の費用が掛かるため、中国ブランドの価格と外資メーカーの価格の差が問題にならない点もあります。そして株価の低迷や景気減速による富裕層の所得の減少が自動車販売に直結したためと考えられます。
 

一方、かつて中国では、家電などではこういった環境の変化に際し、中堅メーカーが価格戦争を仕掛け、中小メーカーを淘汰し、寡占化した歴史があります。こうして美的やハイアールは中国のトップ企業に上り詰め、世界へと飛躍していきました。独自商品が弱い第一、第二グループの自動車メーカーは海外販売に制約があり、また巨大な国内市場があるために、海外へ打って出る必然性がありません。一定の規模がなければ生き残れない自動車業界では、第三グループの中から独自商品を持ち、新興国市場やBRICS市場で力をつけた企業が、第二、第三の格力や美的にならないとも限りません。
 

技術はいずれコモディティ化する

優れた日本の技術とマスコミではよく報道されます。しかし技術は必ず流出し、自社だけで秘匿することはできません。特許を取れば技術内容は公開され、競合は特許の明細書を読み、その特許に抵触せず、その技術を凌駕する方法を考えます。また技術は製造設備や素材メーカー、顧客など様々なルートを通じても伝搬します。
 

第一画期的な発明の歴史を振り返ると、そのような発明は同時期に同じ発明をした人が何人もいます。つまり「誰も考えていないアイデア」はおそらく存在しません。コカ・コーラのレシピは問題不出ですが、ペプシをはじめとして他のメーカーもコーラを作っています。つまり厳重に管理しても自分たちだけで独占することは不可能です。
 

それでも技術で他社を凌駕し、トップランナーであり続けるには、技術開発を継続し、他社よりも常に前に進み続けるしかありません。そのためには優れた研究開発ができる人材、体制とそのための投資が必要です。また売り上げ規模の少ない企業が幅広い分野に製品を展開すれば、技術でトップに立つことはできません。狭い日本市場のみで事業を展開していれば投入する研究開発費も少なくなり、グローバルで事業を展開している企業とは差がついてしまうでしょう。
 

参考文献

「中国自動車企業の海外進出パターンと戦略」苑 志佳
「中国進出 日本自動車企業の戦略課題」井上 隆一郎
 

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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中小企業が使える経営戦略手法は?

経営戦略とは?

経営戦略の必要性

中小企業に経営戦略が必要かどうかについては様々な意見があります。しかし製造業の経営において経営戦略の知識は必要です。

理由は中小企業の取引先の多くが大企業だからです。
 

今日では、それまで安定していた市場が、突然別の業界から強力なライバルが出現して、根こそぎ市場を奪われることがあります。例えば、フィルムカメラは、2000年に入ると急速にデジカメにとって代わられました。そのデジカメも2010年代に入ると市場をスマートフォンに奪われ、デジカメ市場は年率30%以上という猛烈なスピードで縮小しました。

図1 中小企業と取引の経営戦略の影響
図1 中小企業と取引の経営戦略の影響
 

従って、中小企業にとって、取引先の市場、競争環境や社会環境の変化、そして取引先の経営戦略の情報を収集することは、自社の経営を安定させるためには不可欠です。その上で、自社が長期的に発展する経営戦略を立てる必要があります。
 

一方、大企業の経営と中小企業の経営では、企業規模や市場への影響力が大きく違います。したがって大企業の経営戦略と中小企業の経営戦略では異なるはずです。しかし世の中に出ている経営戦略の本や情報はほとんどが大企業の経営に関するものです。しかも大半が現状の結果に対して、後から原因を述べているものです。その点では、大学での経営学も同様です。
 

では、これらの経営戦略論や経営理論は、現実の経営において役立つものでしょうか。つまり自社の経営戦略を考える、あるいは取引先の将来を考えるときに、これらの理論に照らし合わせれば、予測できるのでしょうか?
 

この経営戦略につい本経営コラムでは、中国企業の価格戦争を取り上げ、価格戦争は中国企業が欧米企業とは異なる環境の中で生き残るために選択したものでした。アメリカ発祥の多くの経営戦略論は、アメリカ企業が生き残るために生まれたものです。対して中国企業が生き残るためには価格戦争のような新たな経営戦略が生まれました。
 

では、日本の中小企業が生き残るためにはどのような経営戦略があるのか?

巷の経営戦略手法を総括し、中小企業経営における戦略について考えました。
 

経営戦略とは何か

それでは経営戦略とは何でしょうか?
経営戦略については、第12回「戦略とは何か?戦略と戦術について考える」で詳しく述べました。その中で経営戦略を以下の図に示すように、企業の長期的な目指す姿「ゴール」への道筋とします。そしてゴールを実現するために時間をかけて会社を変革する活動が個別戦略です。これに対して、成果を得るための短期(1年以内)での活動は、戦術に分類します。これは企業における中期計画、年度計画に該当します。
 

戦略について述べている書籍の中には、長期的な活動でなく、個別の利益を上げる、あるいは効率を上げる活動を戦略としているものもありますが、ここではそれらは戦略からは除外して考えます。
 

図2 経営戦略と戦術の関係
図2 経営戦略と戦術の関係

 

経営戦略の歴史と発展

経営戦略論の発展は、アメリカでの経営環境の変化と、経営戦略を事業としたコンサルティングファームの発展と密接な関係があります。
 

アメリカの黄金期の経営戦略

1950はアメリカの黄金期でした。ヨーロッパは第二次世界大戦の痛手から立ち直っておらず、日本をはじめとしたアジア諸国はまだ貧しく工業化の途上か、農業国でした。こうして発展したアメリカ企業も市場が飽和すると成長が頭打ちになってきました。
 

① アンゾフ 多角化

こうして既存事業の成長の行き詰まりから、アメリカ企業は多角化に取り組みます。この多角化の戦略に指針を提示したのがアンゾフの多角化戦略です。1957年イゴール・アンゾフは、四つの成長戦略「市場浸透」「市場開拓」「製品開発」「多角化」を発表し、これらをマトリックスに表しました。製品化、市場か、どの方面から多角化するのかの指針となりました。
 

図3
 アンゾフの4つの成長戦略
図3 アンゾフの4つの成長戦略
 

② 多角化の弊害から、事業を整理する戦略

一方で無秩序な多角化は、シナジー(相乗効果)が得られず、多角化した事業の収益が低いため、全体の収益性の低下をもたらしました。ボストンコンサルティンググループ (BCG)のブルース・ヘンダーソンは、フレームワークとしてプロダクトポートフォリオ (PPM)というフレームワークを開発し、それぞれの事業分野を評価し、不採算事業の整理に活用しました。これは大ヒットし、外部コンサルティングという市場が拡大しました。
 

図4 BCGのポートフォリオマトリックス
図4 BCGのポートフォリオマトリックス
 

③ SWOT分析

SWOT分析は、外部環境や内部環境を強み、弱み、機会、脅威の4つの分野に分析し、自社の経営資源に適した経営戦略を策定する方法です。1920年代、ハーバードビジネススクールにより開発され、1960年代から70年代にはスタンフォード大学のアルバート・ハンフリーがフォーチュン500の企業のデータの分析・研究に活用されました。
 

SWOT分析は、本来は戦略が決まった後に活用する戦略を分析するツールです。なぜなら戦略によって同じ外部環境でも機会になったり、脅威になったりするからです。SWOT分析はこの点に注意が必要です。
 

図5 SWOT分析
図5 SWOT分析
 

④ ハーバード学派とシカゴ学派の論争

1950年代のアメリカでは、政府が積極的に介入し企業に独占をさせないことを主張するハーバード学派と、むしろ政府の介入は自由な競争を妨げると反対するシカゴ学派の論争がありました。

当初はハーバード学派が優勢で、独占的と判断された企業には反トラスト法が適用され、独占企業を分割して強制的に競争を促進しました。この時、産業構造と産業の成長性の関連付けた理論がS-C-Pパラダイムでした。

これに対し、シカゴ学派は少ない企業が集中したのは優れた企業が競争に勝ち残った結果であり、むしろ政府の規制や介入が独占を招くと反対しました。そして1980年代に入ると、シカゴ学派が勝利し、レーガン政権が規制緩和を積極的に促進しました。
 

図6 S-C-Pパラダイム
図6 S-C-Pパラダイム
 

⑤ ハーバード学派 マイケルポーター

窮地に立ったハーバード学派は、同学派のマイケルポーターがS-C-Pパラダイムを個々の企業活動の分析に応用しました。そして企業が利益を拡大するためには、不完全競争状態の産業を見つけて参入するか、イノベーションを起こして不完全競争状態をつくり、独占化を進める必要があると考えました。そしてファイブ・フォース・モデルという分析ツールを開発しました。
 

図7 ポーターのファイブ・フォース・モデル
図7 ポーターのファイブ・フォース・モデル
 

そして参入可能な業界を見つけた企業が、競争に優位に立ち独占状態を作り出すための戦略が3つの競争戦略です。
 

図8 ポーターの3つの競争戦略
図8 ポーターの3つの競争戦略
 

一方、ファイブフォース分析は、大きな変化を前提としない静的な分析です。変化の穏やかな市場やある時点での環境分析には効果的ですが、市場の変化が激しい業界には限界がありました。

また3つの競争戦略について、実際には企業が「コストリーダーシップ戦略」と「差別化戦略」を同時に取る場合もあります。あるいは最初は「コストリーダーシップ戦略」を取り、のちに「差別化戦略」を取る場合もあります。
 

長引く不況と自信の喪失

繁栄を誇ったアメリカ経済でしたが、1970年代の石油ショックにより不況とインフレが同時に発生するスタグフレーションに見舞われました。さらに1980年代に入ると日本企業からの低価格で高品質な製品の輸出攻勢にさらされます。自信を失ったアメリカ企業は積極的に日本企業から学び、JITやTQCなどの日本的経営が導入されました。
 

① ベストプラクティス

同時にベストプラクティスという考え方が広まりました。他社でうまくいっている方法、つまりベストプラクティスを自社に導入して、自社の業績を高めようという考え方です。これには株主の圧力やプロ経営者の台頭の影響もありました。優れた経営者は、会社や業界が異なっても企業の業績を上げることができるという考え方です。

業績の思わしくない企業に、外部からプロ経営者が招聘されると、まず経営計画が発表され、株価が上昇します。しかし招聘された経営者は、その会社や業界に対し十分な知識がないため、外部のコンサルタントを活用し、新しい戦略やベストプラクティスを導入し、経営計画を立てます。JITやTQCなどもこうしたベストプラクティスの一例です。
 

しかし企業文化や組織・人員の全く異なる企業に同じ経営手法や仕組みを導入して、うまくいくのでしょうか?

これに対して、企業が元々持っていた優れた能力に注目すべきという考え方が「コアコンピタンス」です。
 

② コアコンピタンス経営 

コアコンピタンスとは1990年に、プラハラードとハメルによって提唱された企業の「核となる能力・得意分野」です。かつてのように多角化に走らず、事業ノウハウや技術などの自社の得意分野にヒト、モノ、カネなどの経営資源を集中して競争力を高める経営を指します。

ソニーの小型化技術、米フェデラル・エクスプレスの物流管理システム、トヨタの生産管理方式などがコアコンピタンスの代表例として挙げられます。

これはそれまでの経営戦略論が市場や産業など外部環境と競合の分析が主体であったのに対して、企業内部に目を向けたものでした。その半面、企業内部の資源の分析は外部のコンサルタントには容易でなく、コンサルティングビジネスに影響を与えました。
 

③ リソースベーストビュー (RBV)

コアコンピタンスの考え方を実際の経営戦略に落とし込んだ方法が、バーニーが提唱したリソースベーストビュー (RBV)です。これは企業が競争優位を保てるかどうかは、企業の経営資源や内部的なケイパビリティ(経営資源を活用できる能力)であるとし、これを高める戦略です。

自社の経営資源や内部ケイパビリティを分析するツールがVRIOフレームワークで、企業の内在価値を、経済価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Inimitability)、組織(Organization)、の4つに関して分析します。
 

図9 イギリスの小売業 マークス・アンド・スペンサーポーターのRBV
図9 イギリスの小売業 マークス・アンド・スペンサーポーターのRBV
 

一方、リソースペーストビューは、企業内部の内部の経営資源を見えるようにするのが容易でなく、また環境が変化すると強みが強みでなくなるという課題がありました。

また新規事業の場合は必要な経営資源をすべて持っている方が稀です。もし自社の経営資源だけを見て、実現できることだけをやろうとすれば、ビジネスの空白地帯を見つけることはできません。実際にはいち早くビジネスの空白地帯を見つけてそこに参入し、その中で固有の技術やノウハウを身に着けて優位に立つ必要があります。

このビジネスの空白地帯に注目したのが「ブルー・オーシャン戦略」です。
 

④ ブルー・オーシャン戦略

競争優位を確保するために企業が製品やサービスを差別化しようとしても、既存市場ではすぐに競合に模倣され競争が激化し、利益が出ない状況「レッド・オーシャン」となってしまいます。そこでW.チャン.キムとレネ.モボルニュの提起するブルー・オーシャン戦略は、競争とは無縁の新しい価値市場「ブルー・オーシャン」を創造することを提唱したものです。

これは戦略キャンパスとアクションマトリックスを用いて自社と競合を分析し、競合は何に投資しているのか、顧客はどんなメリットを感じているのか分析します。そして競合が力を入れていない、しかし顧客がメリットを感じている市場を見出し、そこに新たに進出します。図はあるワイン会社の新市場開拓の例で、高級ワインとデイリーワインの間に、親しみやすい高付加価値ワインという市場を創出することで、差別化とコスト競争の優位を獲得しました。
 

図10 アクションマトリックス
図10 アクションマトリックス
 

しかし現実には、この手法が公開されれば競合も同じ市場を発見します。その結果、ブルー・オーシャンは短期間にレッド・オーシャンに変わってしまいます。特にブルー・オーシャンが発見され市場の価値が認知されるほど、短時間にレッド・オーシャンに変わってしまいます。
 

⑤ 何を捨てるか?選択と集中

経営資源の限られている企業は、どの事業分野に経営資源を集中するか、言い換えればどの事業分野を捨てるかという選択と集中が必要になります。国内では最も規模の小さい自動車メーカーのひとつ、スバルは四輪駆動技術を強みとしていました。そのためアメリカ、特に北部の雪の降る地域では、スバルの四輪駆動技術が高い評価を受けていました。しかし国内市場に合わせたコンパクトな車体は、アメリカ人には小さすぎ販売は伸びませんでした。

そこでスバルは、現在の設備で大きくできるギリギリまで、具体的には5センチ車体を拡大する決断をしました。さらに軽自動車の製造から撤退し、ダイハツからのOEM供給に切り替えました。これには販売店、OB、役員からの強い反対がありました。
「国内ディーラーの怒る顔がぱっと浮かんだ」吉永社長(当時、営業本部長)は語っています。しかし国内市場を捨てて、北米市場に合わせた車にすることでスバルは好業績を維持しています。
 

中国企業の競争戦略

今まで述べた欧米企業の競争戦略に対し、中国企業は異なる戦略を取っています。それは低価格戦略と価格戦争です。新興国や先進国の低所得者層は、価格がネックとなって最新の製品を購入することができませんでした。その点で新興国市場はブルー・オーシャンでした。

中国企業は、自国で同業者同士の熾烈な価格競争を生き残り、そこで得た圧倒的な低コストで製造する能力を強みとしています。その特徴は、極力技術はコピー、または買ってきて短期間で開発する、低価格を実現するために機能や材料は必要最低限に絞り込む、ただしデザインはしっかりと行い、顧客は所有することで満足感を得られるようにすることです。

こうして中国企業は低所得者層の市場を押さえ、次第に中間層へと浸透していきます。そして市場で競合が増えて過当競争になったときは、自ら価格戦争を仕掛けて競合を追い落とします。彼らにとって価格戦争は「正当な戦術」でした。こうして中国企業に普及品、中級品の市場を奪われた先進国メーカーは、少量の高価格品市場に追いやられます。そして低コストで大量生産する能力を失います。

そして先進国メーカーは、普及品や中級品は中国企業からOEM品を供給してもらわなければ事業が成り立たなくなります。これがパソコン、家電、その他日用品に見られた図式でした。
 

経営戦略手法の総括

経営戦略手法とその特徴を以下の表に示します。
 

表1 大企業の経営戦略手法

戦略手法 分析手法 大企業
多角化戦略
(アンゾフ)
多角化マトリックス 経営資源の制約が含まれていない
多角化戦略 M&A 株価上昇に効果大
成功例は少なく、高く買って安く売る事例も多い
競争戦略
(ポーター)
ファイブフォース分析 市場を独占するための戦略だが、
市場や環境の変化が考慮されていない
クロスSWOT SWOT分析 市場や事業分野が
多岐にわたると大変
リソース・ペースト・ビュー VRIOフレームワーク 経営資源の優位やケイパビリティは
常に変化するため、戦略が持続しない
ブルー・オーシャン 戦略キャンパス
アクションマトリックス
新市場を見つける手法として活用できる
しかし競合からすぐ真似されるリスクがある
低価格&価格競争
(中国企業)
なし 過去に多くの先進国の企業はこれに敗北したが
いまだに危機感を持っていない人もいる

 

表2 中小企業の経営戦略手法

戦略手法 分析手法 中小企業
多角化戦略
(アンゾフ)
多角化マトリックス 新規事業に取り組む際に参考になる
多角化戦略 M&A 合併後の企業文化の融合が困難
評価が難しく、思わず不良資産があることもある
競争戦略
(ポーター)
ファイブフォース分析 市場を独占する機会は限られ
使う場面は少ない
クロスSWOT SWOT分析 戦略を構築した後でないと機会と脅威が変わる
SWOT分析から戦略を構築するのは矛盾がある
リソース・ペースト・ビュー VRIOフレームワーク 優位となるものが見つからず、SWOT分析の強みのような定性的なものになってしまう
ブルー・オーシャン 戦略キャンパス
アクションマトリックス
BtoCで新しい顧客層を考えるツールになる
低価格&価格競争
(中国企業)
なし 中小企業がこの領域で戦ったら
勝ち目はないので踏み込まない

 

21世紀の経営戦略

21世紀に入り、以下の点で20世紀と大きく変化し、これが企業間競争を大きく変えました。
 

  • 資本の集中と投下が容易
  • 有望な事業には短時間で大量の資金が集まり、急速に事業が立ち上がります。
     

  • 技術・ノウハウが容易に移転
  • 情報は短時間で世界中を駆け巡り、人も活発に移動するため、技術やノウハウが容易に移転されます。
     

  • 流通のフラット化、販売チャネルの確保が容易
  • かつては流通網や販売チャネルの構築に多大な労力が必要でしたが、インターネットでの直販や宅配での流通など、自前の販売チャネルがなくても事業を立ち上げることができます。
     

  • 物流コストの低下、消費地での生産にこだわらない
  • コンテナ物流や航空便の発達により、短時間に低コストで輸送できるようになりました。かつて飲料などは輸送コストがネックとなり消費地での生産していましたが、今では世界中どこでも最適な生産地で生産できます。

 

経営戦略に対する国民性の違い

  • 欧米
  • 欧米人は、経営戦略を学問として捉え、理論的な整合を取って普遍性を追い求める傾向にあります。また理論的革新性、独自性にこだわります。そこからポーターなど独自の経営戦略論が生まれました。
     

  • 日本
  • 経営を理論的、体系的にとらえる点が弱く、優れた経営者の「○○式経営」というのが多い。経営学も個々の企業のケーススタディ的なのが多く、日本式経営のような経営戦略を体系的にまとめたものは少ない。

    日本企業のイノベーションや技術開発も、もともと欧米からの技術導入が出発点でした。ただ新しい技術やノウハウを導入するだけでなく、これを高い熱意で実用化、製品化しました。そこからさらに独創的な製品や技術へ意欲を持った技術者もいましたが、和を重んじ同調圧力の強い組織や、リスクを嫌う上司・企業文化が弊害となり、組織的に新しい製品を生み出すことは限られていました。

    そのため、日本が生み出したVHSビデオや青色LEDなどの革新的な製品の多くは、組織からはみ出したアウトロー的技術者が開発したものでした。
     

  • 韓国、中国
  • 新しい技術やノウハウは、自ら時間と手間をかけて開発するよりも、買ってでもいいから早く手に入れようとします。場合によっては盗用も厭いません。一方新しい技術を製品化する意欲は非常に高く、極めて短期間に製品化し、多少不完全であっても他社に先んじて市場へ投入します。さらにコストを下げて市場を押さえるためには大胆にリスクを取って巨額の投資を行います。

 

中小企業の経営戦略

経営戦略への賛否

経営戦略については、様々な批判や意見があります。
 

「現実に社会では、戦略は実際のところ非常に単純なものだ。大まかな方向性を決めて、死に物狂いで実践する。
…だが、戦略を複雑にしてしまってはいけない。考えれば考えるほど、データや詳細な計画を掘り下げれば下げるほど、何をしたらよいのか、身動きが取れなくなってしまう。それでは戦略ではない。単に苦痛でしかない。」

ジャック・ウェルチ (元GE CEO)

 

実際、正しい戦略を構築するのは容易ではありません。なぜなら、顧客のニーズですら正確に把握するのは困難だからです。化粧品会社のグループインタビューで「どんな化粧品が欲しいですか」と聞いても、「安くて良いもの」という結論になってしまいます。実際、マーケティング調査で架空の製品の話をしても、よくわからないということになりがちです。

ヤフーがポータルサイトの変更に際し、1対1やグループインタビューわ行い、顧客のニーズを調査しました。顧客のニーズは

「世界情勢のニュースが必要で芸能ニュースはいらない」

でした。しかし実際には世界ニュースをクリックしている人はほとんどおらず、芸能ニュースにクリックが集中していました。
 

経営戦略に必要なこと

経営戦略が長期的に自社の目指す姿、ゴールへの道のりとすれば、経営戦略の立案には何よりもまず、自社の目指す姿を明確にしなければなりません。つまり、○○年後に「我社はどうなっていたいのか?」です。
 

これを考えるには、わが社の顧客を具体的、かつ明確に絞り込む必要があります。

  1. ○という顧客に
  2. ○という製品やサービスを提供する
  3. ○な会社

 

これが具体的になれば、それを実現するための道のり、つまり経営戦略を立てることができます。逆にこの3つがあいまいだと、経営戦略手法を用いても、あるいは分析ツールを用いてもあいまいな戦略しか出てこないのではないでしょうか。
 

そして戦略を考える際には常識を疑って考え抜く癖をつける必要があります。

宅急便を生み出したヤマト運輸の小倉元社長は、百貨店の小口配送業務をやっていた時、なぜ儲からないのか考えました。そして百貨店の配送業務は、ピークの荷物量が7~8倍と繁閑ギャップが大きいため、閑散期の固定費負担が大きい点に着目しました。そこで個人の荷物を相手にすることで荷物の量の変動を減らし、単価を高くすれば儲かるのではないかと考えました。
 

参考文献

「戦略学」 菊澤研宗 著 ダイヤモンド社

「ストーリーとしての競争戦略」 楠建 著 東洋経済新報社

「ハーバード戦略教室」 シンシア・モンゴメリー 著 文藝春秋

「戦略の原点」 清水勝彦 著 日経BP社

「ゼロからの経営戦略」 沼上幹 著 ミネルヴァ書房

「戦略集中講義」 リチャード・コッチ 著 英治出版

「なぜ新しい戦略はいつも行き詰まるのか?」 清水勝彦 著 東洋経済新報社
 

本コラムは2018年8月26日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

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中国製品を駆逐したホンダの二輪車戦略

2000年代初頭、アジアの二輪車市場は拡大が続きました。ホンダをはじめとする日本メーカーは、現地生産を拡大し、拡大する市場に対応しますが、中国製の安価なコピーバイクにシェアを奪われていきます。

これに対抗するためにホンダは他社では思ってもみない戦略を採用しました。その結果、東南アジアの市場を中国メーカーから奪回しました。

しかしホンダが成功した背景には戦略以外に製品の特性や市場環境などの要因がありました。このホンダの斬新な戦略と成功の要因について考えます。
 

ローエンド市場からシェアを失う日本

エレクトロニクス製品に代表される日本メーカー

1970年代から90年代にかけて、エレクトロニクス製品に代表される多くの日本企業は、欧米のライバル企業よりも高性能かつ低価格の製品を実現し、欧米に輸出して成長しました。

しかし1990年代以降は、韓国や中国などの企業と価格競争に陥り、市場シェアを失い苦境に陥っています。そこには以下のような共通のパターンが見られます。
 

  1. 中国が経済発展し、魅力的な市場になる
  2. 当初は中国に製品を輸出していた日本企業は中国政府の輸入規制や安価な人件費を求めて中国企業と合弁で中国に工場を建設する
  3. 中国の地場企業が、性能や品質は日本企業に及ばないが低価格の日本製品のコピーをつくり中国国内で販売する
  4. アジアなどの新興国が経済成長し、新興国にこういった製品の市場ができる
  5. 日本企業は新興国に輸出するが、先進国向けに作られた生産は新興国にはとても高価なため、市場になかなか浸透しない
  6. この新興国の市場へ中国企業が日本製品より大幅に安い価格で輸出する
  7. 新興国の市場、特に低価格品の市場が拡大し、中国企業の輸出も増大し、生産量は拡大する
  8. 中国企業のグローバルでの生産量が日本企業を追い越し、生産量が増えたことでさらにコストが下がる
  9. グローバルでの低価格品の市場を占有した中国企業は、品質を徐々に高め、高価格品の市場にも進出する
  10. 高価格品の狭い市場に追いやられた日本企業は生産量が減少し収益性が悪化する
  11. リストラでその事業を売却する

 

この流れで日本企業は、白物家電、メモリなど半導体、パソコン、携帯電話などが競争力を失い、その一部は売却されました。
 

二輪車市場

ところが今でも日本企業が中国企業に対してグローバルで市場の多くを抑えている製品があります。

それが二輪車市場です。

二輪車の市場はアジアなどの新興国の経済成長に伴い大きく伸びました。これに対して日本の二輪車メーカー ホンダ、ヤマハ、スズキは比較的早くから海外展開していました。しかし、2000年代初頭、他の製品と同様に中国製の安価な二輪車がグローバル市場で急増しました。
 

例えば、ベトナムでは2000年から中国製の二輪車が大量に輸入されました。年間の販売台数は200万台に及び、そのうちの約8割を中国製の二輪車が占めました。

ところが2003年以降中国企業のシェアは減少し、日系企業のシェアが増加しました。

 

どうして二輪車は中国製品を駆逐することができたのでしょうか。

二輪車の市場は2000年以降右肩上がりで成長しています。中国、インドネシア、ベトナムの市場の伸びは今後減少しますが、代わってインドや他の新興国の市場が伸び、2025年には7400万台と予想されています。

ただし、主役は、100~150ccの二輪車です。
 

二輪車市場のガラパゴス化

日本の二輪車市場は、新興国や他の先進国とは大きく異なっています。つまり二輪車市場も日本はガラパゴス化しています。

原因は免許制度と車検制度です。

日本の二輪車免許は以下のようになっています。

  • 原付 50cc未満 普通自動車運転免許で可
  • 小型二輪車 125cc未満
  • 中型二輪車 400cc未満 (250cc未満は車検がない)
  • 大型二輪車 制限なし

日本ではわざわざ免許を取ってまで二輪車に乗る人の大半は趣味で二輪車に乗る人です。趣味性の高い二輪車は大型が多く、人気が高いのは排気量の大きな大型の二輪車です。
 
図1 大型二輪車1800cc (Wikipediaより)
図1 大型二輪車1800cc (Wikipediaより)
 

しかし以前は大型二輪車の事故が多かったため、大型二輪車の免許の取得は極めて困難でした。
(指定教習所がなく、各県の運転免許試験場で試験を受けなければならず、その合格率は2~6%という低さでした。)

そのためライダーの多くは自動車教習所で取得できる中型二輪免許でした。その上限は400ccでした。

一方免許と別に、二輪車は排気量により車検制度が異なります。251cc以上の二輪車は車検が義務付けられ、2年ごとに10万円近い費用がかかります。これに対して250cc未満の二輪車は車検がなく維持費が安くなります。
 

図2 中型二輪車250cc (Wikipediaより)
図2 中型二輪車250cc (Wikipediaより)
 

また50cc未満の二輪車は、原付と呼ばれ普通自動車運転免許で乗ることができます。つまり二輪車免許を取る必要がありません。そのため手軽な移動手段として人気があります。
 

図3 原付二輪車50cc (Wikipediaより)
図3 原付二輪車50cc (Wikipediaより)
 

しかし実用的な移動手段としては50ccは非力で、新興国ではもう少し排気量の大きい100cc前後が最もポピュラーです。

日本ではこの100~150ccは、前述の免許制度のために最も人気のないジャンルでした。

ただし近年二輪車に対する排気ガス規制が強化され、50ccでは十分な動力が得られなくなってきたたため、日本でも50ccから100cc前後の排気量に移行しつつあります。

一方生産面では、100ccの二輪車と1000ccの大型バイクは、部品点数が大きく違います。そのため生産工程も異なり、同一の生産ラインでは生産できません。自動車はミニバンとプリウスは同じ生産ラインで混流生産しています。しかし50ccと1000ccの二輪車を混流生産するのは、軽自動車とマイクロバスを同じラインで生産するようなものです。

つまり50ccと1000ccの二輪車は、同じ二輪車ですが、全く別の商品です。
 

日本では二輪車市場はピークの1982年には320万台を超えていました。その後市場は急速に減少し、2016年には33万台とピークの1/10になりました。増加するアジアの新興国に比べ、今日では日本の二輪車市場は世界の中では非常に小さな市場です。
 

新興国での二輪車の発展

 

2015年の世界全体の二輪車市場は5,260万台、そのうち中国、インド、インドネシア、タイの4か国で3,323万台と世界市場の半分以上を占めています。二輪車市場の各メーカーの市場シェアを図4に示します。

図4 インド、インドネシア、タイ、ベトナムのシェア (2015年)

図4 インド、インドネシア、タイ、ベトナムのシェア (2015年)

 

ホンダのアジア市場での営業利益は二輪車事業全体の80%に上り、売上高営業利益率は8.5%になります。(ホンダの四輪車の売上高営業利益率は5%以下) ヤマハもアジア市場での利益が高く、日本メーカーはアジア市場で稼ぐビジネスモデルになっています。
 

新興国のニーズ

趣味性の高い大型二輪車は、エンジンや車体構成が車種ごとに違います。ひとつの車種にも多くのバリエーションがあり、それぞれが全く別の製品です。ところが新興国向けの小型二輪車は、エンジンは125cc、4サイクル単気筒エンジン、車体の構成もほとんど違いがありません。しかし外観デザインとカラーリングはバラエティに富み多くの車種が生まれています。つまり自動車より随分前にプラットフォームが統一化されています。部品の共用化も進み、その点で小型二輪車は、すりあわせ型というよりモジュール型に近い商品です。
 

発展途上国モデル

ホンダのCG125は発展途上国向けに開発されたモデルで、日本では販売されていません。CG125は発展途上国での使われ方を考慮し、日本のモデルにはない特徴があります。
 
図5 ホンダCG125(Wikipediaより)
図5 ホンダCG125(Wikipediaより)
 
例えば、紙製のエアクリーナーエレメントは目詰まりすると顧客が破ってしまうため、オフロードバイクによく使われている発砲ウレタン製を採用しています。目詰まりしたら顧客は洗って再使用します。

また泥やほこりの多い苛酷な環境に耐えられるようにドライブチェーンには強化チェーンを使用し、金属製のカバーでチェーンは覆われています。エンジンは低速トルクを重視し、フレームは2~4人乗りに耐えられるように強度を高めています。このように実用車として高い耐久性と頑丈さを備えています。CG125は途上国モデルのスタンダードモデルとなり、東南アジア、中近東、アフリカなどに広く輸出されました。

このように発展途上国では、二輪車は先進国のようなレジャーの道具ではなく、庶民の唯一の動力付きの交通手段です。そのため多人数乗車や過剰な積載など日本ではは考えられない過酷な使われ方がされます。ホンダはそのような現地のニーズにいち早く対応したことで、市場シェアを高めました。
 

図6 過積載の例(Wikipediaより)
図6 過積載の例(Wikipediaより)
 

では、こういった日本企業に対抗するようになった中国の二輪車メーカーはどのように発展してきたのでしょうか?
 

中国の二輪車メーカー

 

日本メーカーの中国進出

家電製品と同様、日本の二輪車メーカーは1980年代に相次いで中国企業と技術提携を結び中国に進出しました。中国嘉陵工業股分有限公司(以下、嘉陵工業)は1982年からホンダと技術提携を結び、当初は50ccのモペットタイプ、その後はCD70というビジネスバイクを生産しました。生産に必要なダイカストマシンやプレス機、マシニングセンタのような生産設備は日本製を導入しました。高度な技術が必要な金型も日本から購入しました。
 

使用する部品もチェーンのような耐久性が必要なものは日本から輸入しました。当時、中国には満足な品質の部品を作れるサプライヤーがなく、300社以上のサプライヤーの育成や指導もホンダの協力のもとに行われました。
 

他の二輪車メーカーも同様に現地企業と提携し、ヤマハは1984年に中国建設集団を皮切りに1996年までに5社と提携しました。スズキも1985年に中国軽騎工業集団を皮切りに6社、カワサキは1985年から3社と提携しました。
 

サプライヤーの成長と部品の横流し

中国政府は1994年新自動車工業産業政策を公布し、7年後の2001年には100万台生産規模の二輪車メーカーを10社育成する方針を打ち出しました。その一方で1995年頃から交通量の増加や環境問題のため、都市部ではナンバープレート公布が規制されるようになりました。その結果、中国での二輪車の需要は低迷しました。
 

その一方で日本から技術導入した合弁企業は、サプライヤーの育成に注力し部品の国産化を進めました。また中国企業は部品を複数社に発注して競合させる方式をとるため、サプライヤーが急増しました。

ところが1995年以降、中国の二輪車市場の低迷もあり需要以上に部品が製造され、余った部品が市場に流通するようになりました。そして市場にある部品を集め、それを組み立てて完成車として売るコピーメーカーが出現しました。こういったメーカーはパーツを買ってきて組み立てれば簡単に事業が始められ、10台も売れば利益が出るため、参入する企業が次々に現れました。こうして部品の需要が増えれば、そのコピー部品をつくる企業が現れ、質の低いさらに安い部品も出回るようになりました。
 

この1990年代半ば、日系企業の二輪車の価格は20~30万円、対するコピーメーカーの価格は7~10万円でした。収入が低く日系企業の二輪車に手が出ない層は、品質は低くてもコピーメーカーの二輪車を購入しました。
 

その結果、中国国内の二輪車メーカーの数は、2002年には156社に増加しました。2005年には、生産台数100万台以上の二輪車メーカー、大長江、嘉陵摩托、建設、銭江、洛陽北方と5社ありました。
 

コピーメーカーの反乱に対して、中国では知的財産権の保護はどうなっているのでしょうか。
 

知財は無力

知的財産権の侵害には、特許権侵害、意匠権侵害、商標権侵害などがあります。しか、知財侵害を取り締まる地方政府は、地場メーカーを取り締まると地場メーカーからの税収が減少するため取締りに消極的でした。また意匠権侵害で裁判を行っても、意匠侵害の判断は裁判所の判断による点が大きく、裁判は中国の法廷で争われるため日系企業の勝算は極めて低いといえます。明らかに法律違反を立証できるとすれば、商標権侵害ぐらいしかありませんが、コピーメーカーも心得ていて、一見日系メーカーと思わせる、しかし微妙に違う商標を使います。
(例 HOMDA Keweseki SUKIDAなど)
 

コピーメーカーの台頭

こうした中、コピーメーカーからスタートした企業の中には、徐々に力をつけ日系企業との合弁メーカーに生産台数で匹敵する企業も出てきました。後にホンダと提携する新大州もその1社です。これらのメーカーは経営者の積極的な経営姿勢と、部品を徹底的に安く仕入れるルート開拓により、日系企業よりも大幅に低コストの製品を実現しました。そして彼らは都市部でなく地方都市や農村部をターゲットに販売を拡大しました。
 

そして低価格と幅広いバリエーションの製品で市場シェアを広げていきました。低い品質も、顧客の方も値段が半額なら故障してもやむを得ないとおおらかにいう考えるため、大きな問題になりませんでした。こうして1990年代後半には中国は世界最大の二輪車の市場を持ち、世界最大の生産規模を持つ国になりました。一方価格面で不利な合弁の日系二輪車企業はシェアが低下しました。
 

ホンダの失敗

1990年代ホンダは中国で上海汽車、チャイタイグループ、嘉陵工業、広州摩托の4社と提携し、合弁企業を立ち上げました。しかしこういった合弁企業は母体が国有企業のため意思決定のスピードが欠け、製品投入のタイミング遅れ、価格面でもコピーメーカーに勝てずシェアは徐々に低下しました。この中には嘉陵本田のように二輪車から撤退し汎用エンジンに特化したメーカーもありました。
 

ホンダの戦略転換

 

コピーメーカーと手を組む

合弁企業がじりじりと市場シェアを低下させるのを見かねたホンダは、コピーメーカーである海南新大洲摩托車と提携しました。同社は「SUNDIRO」というオリジナルのブランドで、ホンダのCG125のコピー車を生産・販売していました。その規模は60万台/年で、SUNDIROの価格はホンダの半額でした。同社は1990年に株式上場し、その資金で投資しさらに生産を拡大していました。
 

本来であれば海南新大洲はホンダの知的財産を侵害している敵ですが、あえてホンダは同社と提携しました。つまり「自社より圧倒的に安い二輪車を作れるという事実」を受け入れ、そこから学ぶことにしました。海南新大洲にとっても、中国国内ではたとえ大手でも所詮はコピーメーカーであり、将来の中国がWTOに加盟し、海外から競合が安く入るようになれば生き残れないかもしれません。そこでグローバル市場で生き残るためにホンダとの提携を選択しました。そして天津本田摩托を吸収合併して海南新大洲本田摩托有限公司を設立しました。
 

コピーメーカーから学んだもの

この提携によりホンダは、海南新大洲が安くつくることに関して、妥協を許さない徹底したシステムを構築していることを知りました。モデル毎の販売台数を毎日集計し、その台数を元に毎日数量や納期をサプライヤーに提示し、部品を徹底して安く購入する仕組みを作り上げていました。部品のつくり方ひとつとっても従来のホンダでは品質にこだわって考えつかなかったようなつくり方を実現していました。ホンダにとっても安くつくることに関して学ぶべき点は大いにありました。
 

中国製工作機械のレベルも上がり、新大洲本田の新工場では工作機械は中国製、射出成形機は台湾製を使用しています。サプライヤーとの交渉は新大洲のやり方で行い、徹底的にコストを下げています。その中でホンダ流の品質の考え方や作業標準を導入しました。部品は、新大洲のサプライヤーの中でホンダの基準をクリヤした部品だけを受け入れ、性能面や品質面でホンダの基準をクリヤできない部品は純正品に置き換えました。そうすることでコピーメーカーである海南新大洲の製品にホンダブランドをつけることを認めました。こうして海南新大洲の工場は160万台/年の生産能力と日本品質の工場に生まれ変わりました。
 

ホンダは2002年には海南新大洲本田で製造したスクーター「Today」を日本に輸入し、94,800円と10万円を切った価格で販売し大ヒットしました。
 

ダブルブランドの問題

一方でホンダの意図とは異なって新大洲本田はHONDAとSUNDIROのダブルブランドを継続しました。ホンダが欲しくても価格が高くて買えない顧客には、少し安いSUNDIROブランドを売って販売を広げました。新大洲本田はSUNDIROブランドはコピー車でなく、、ホンダと中身は同等であることを顧客に訴え、コピー車という悪いイメージを払拭しました。
 

タイでの現地化の徹底

ホンダは1997年にタイに開発拠点HRS-T(Honda R&D Southeast Asia Co., Ltd.)を設置し、デザイン、設計、テストの現地化を推進しました。特にデザインは国ごとに文化や好みの違いが大きく、現地化のメリットはとても大きいものがありました。

新興国の二輪車は、エンジンやサスペンションなどの基本コンポーネントは同じで外観やカラーリングなどでイメージを変えて、豊富なバリエーションを用意しています。他社との販売競争に打ち勝つには、スピーディにモデルチェンジを行い、新鮮で豊富なラインナップを揃える必要があります。そのためにはデザインや外観設計の現地化は不可欠でした。

一方エンジンは10年に1回程度のサイクルでモデルチェンジを行いますが、開発は日本で行っています。
 

基本的には金型費用が高く、体積が小さい部品、カムシャフト、キックスピンドル、オイルポンプなどは、海外生産の価格が低ければ、海外から輸入するメリットが大きいです。一方外装の樹脂成形部品のように金型費用が安く、体積の大きい部品は、輸送費が高くなるため現地生産に向いています。
 

ベトナムでの勝利

ベトナムは、所得の増加に伴い二輪車市場も急増し、1990年代後半には40~50万台の市場に成長しました。ホンダは1997年ベトナムで現地生産を開始し、排気量の110ccのカブ「スーパードリーム」(1230ドル)を販売しました。スーパードリームは耐久性が高く、高い人気がありましたが、価格が高く庶民にとっては高値の花でした。
 
さらにホンダは都市部向けにスーパードリームのスポーツモデルを発売し、「売れる人に売る」という高価格戦略を取りました。1999年にはホンダは現地生産と日本からの輸入車を合わせてベトナムでは50%強のシェアを占有していました。

図7 スーパードリーム(Wikipediaより)

図7 スーパードリーム(Wikipediaより)

 

ところが2000年に入ると中国国内の二輪車市場が政府の規制のため縮小し、多くの中国のコピーメーカーは市場を求めて海外に輸出しました。こうして急成長するベトナム市場に中国のコピーメーカーが大挙して押し寄せ、ホンダは市場を奪われ市場シェアは9%に低下しました。その一方で市場は急成長し、2000年には175万台、2001年には200万台に達しました。
 

今まで自社がターゲットしていた顧客層の下に、はるかに大きな市場があることにホンダは気づきました。そこでこの市場に向けた低価格モデルを開発して対抗しました。中国のコピーメーカーの製品を調査し、彼らの製品の中でコストと品質の優れた部品はその納入先を調べて、ホンダもそこから部品を調達しました。こういった部品の調査は新大洲本田が行いました。その結果、2002年にホンダがタイで開発した「Wave α」は中国製部品を使って徹底的にコストダウンを行い、667ドルと従来のモデルの1/3の価格を実現しました。

図8 ホンダWaveα(Wikipediaより)

図8 ホンダWave α(Wikipediaより)

Wave αは渋滞が多くスビートが出せないベトナムの交通事象に合わせて、時速80km以上の性能は切り捨てました。さらにベトナムとフィリピンにしか売らないとう思い切った発想でコストを劇的に下げました。その結果、中国メーカーとの価格差は、従来の2.3倍から、1.37倍に縮小しました。2005年時点でのベトナムのワーカーの給料は月に100ドル程度でした。年収に相当する日系メーカーの1200ドルの二輪車は、良いことが分かっていても手が出ませんでした。そこへホンダは高い品質と667ドルと中国コピーメーカーの1.37倍の価格のWaveαを投入し、顧客を自分たちに振り向かせることに成功しました。
 

さにタイの開発拠点を通じて、ベトナム人の好みに合うデザインの製品をシリーズ化し、次々とモデルチェンジを行うことで、商品の魅力を高めて販売力を維持しました。この継続的な新モデルの投入に中国のコピーメーカーは対抗できず、中国のコピーメーカーのシェアは低下しました。
 

ベトナム政府の規制

また政府の規制もホンダには追い風になりました。2002年には輸入総量規制により、関税が引き上げられました。現地生産がメインの日系メーカーに対し、輸出に頼る中国のコピーメーカーには逆風となりました。
 

2003年にはさらに規制が強化され、1人1台までしか登録できず、ハノイ中心区では新規の登録が禁止されました。二輪車は高価な財産でしかも生活必需品のため
「どうせ1台しか買えないのならば品質の良いものを買おう」
と日系企業を選択する顧客が増えました。
 
また中国製バイクの事故や品質不良に関する報道も、顧客が安価な中国製コピーバイクから離れる原因になりました。実際、中国製コピーバイクはあまりにも故障が多く、修理費用や下取り価格の低さを考えれば、少々高くても日本製バイクを買った方が得なことに人々は気づきました。
 

二輪車市場の特徴とホンダの戦略

 

ローエンド市場から逃げるわけにはいかなかった

東南アジアの二輪車市場は、先進国のように大型バイクの市場が存在せず、市場の厚みが薄いという特徴がありました。先進国のように大型バイクの市場が十分にあれば、日本企業は低価格品市場を中国メーカーに明け渡し、利幅の大きいハイエンド製品の市場に逃げる戦略を取ることができたかもしれません。

かつてホンダがアメリカに進出した時、ホンダの主力製品ドリーム350cc、250ccは、性能面でハーレーダビッドソンやトライアンフなど欧米の二輪車メーカーに勝てませんでした。その中で、ホンダはスーパーカブ、次にオフロードバイクといった小型バイクの市場からアメリカ市場に参入しました。

対してハーレーダビッドソンやトライアンフなどは小型バイクの市場は放棄し、大型バイクに集中しました。そして最後はその大型バイクの市場も日本メーカーに奪われました。

しかし東南アジア市場では、ハイエンドといっても同じ125ccです。低価格品市場から逃げることは、市場を放棄することを意味しました。
 

中国企業が低価格品市場を発見した

日本メーカーは従来の高品質を維持したままベトナムに進出したため、ベトナム人にとっては高価な商品でした。そして、より低い価格帯にもっと大きな顧客が潜在していることに気づきませんでした。ところが中国コピーメーカーが大挙押し寄せ市場が急拡大したことで、低価格品市場の膨大な顧客の存在が分かりました。そこでホンダは中国製コピーバイクと自社製品との価格差が大きくなりすぎないように一定の範囲内にして、しかも顧客が品質の差を認めてくれる差の価格を設定しました。さらに100~150ccの狭い範囲にローエンドからハイエンドまで豊富なバリエーションでフルラインを揃えました。
 

顧客自身もも2000年代後半になると、価格以外にも品質や機能、デザインを求めるようになりました。ホンダは、それに応える魅力的な製品を市場に次々と投入しました。
 

敵からも学ぶ

ホンダは新大洲と提携することで、新大洲のネットワークを使って膨大な数のサプライヤーを調べ、中国での部品の調達価格を徹底的に調査しました。さらに日系の系列サプライヤーでもコストが合わなければ現地サプライヤーに切り替えました。中国にあるホンダ関連の日系サプライヤーの約半数は2002年にはコストが合わないため、新大洲本田の開発に参加できませんでした。またホンダは部品のつくり方も新大洲から学び、新興国市場には過剰と思われる機能は落としました。
 

品質の悪さが顕著に出る製品

新興国市場で顧客が中国コピーメーカーの約1.4倍というホンダの価格を受け入れたのは、二輪車が品質の差が顕著に出る製品だからです。彼らにとって二輪車は日常生活に不可欠なもので、しかも日々使用することで消耗するため、品質の悪さは顕著に現れます。故障し立往生すれば、非常に不快な思いをし、修理にお金もかかります。そんな目に何度も遭えば、次は彼らは1.4倍のプレミアム価格は高くないと思うようになります。中でもホンダのスーパーカブの耐久性は極めて高く、日本ではエンジンとオイルさえ入れておけば、一生壊れないという「伝説」もあります。
 

これが家電製品やパソコンは、品質が悪くても買ってすぐに壊れることは稀です。品質の悪い製品は大抵は1年くらい過ぎたあたりで壊れ始めます。しかしその頃にはなぜ壊れたのか、品質が悪いのか、使い方の問題なのか、たまたまハズレだったのか見わけがつきません。また壊れても二輪車のように立往生することもないので壊れても二輪車ほど大きな痛みは感じません。つまり品質の悪さが目立ちにくい製品です。
 

環境規制の強化

東南アジアでは苦戦している中国コピーメーカーですが、中国市場では日系メーカーを押しのけ市場を独占しています。他にもアフリカなどの新興国で市場に浸透しています。その一方、現存する中国メーカー112社のうち開発能力のあるメーカーは1割程度しかありません。
 
もし今後各国で二輪車の排ガス規制が強化されると、それに対応した二輪車を開発しなければなりません。そうなるとコピーメーカーは生き残ることが厳しくなるかもしれません。

それとも排ガス規制のデバイスまでコピーするのでしょうか。
 

本コラムは2018年1月21日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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競争戦略としての価格戦争と、そのメカニズム

価格を下げると売れる?

 

伝統的な経済学では、商品の価格と需要は、「価格と需要曲線」で表されます。商品の価格が低下すれば、需要は増加します。つまり販売量を増やしたければ、価格を下げれば良いのです。この原理に従い、多くの商店、スーパーマーケット、量販店は値下げを行い、競争します。
 
図1 価格と需要曲線
図1 価格と需要曲線

 

安売り雑貨店

1878年フランクWウールワースは、ニューヨーク州ユーティカに安売り雑貨店をオープンしました。当時ヨーロッパではアメリカより大量生産の体制が整い手ごろな日用品を安く大量生産出来ました。ウールワースは、アメリカ製よりも質は良くないが安くて見栄えがする掘り出し物を探しては、アメリカに送り大儲けしました。

人々がたくさん買ってくれるためには、丈夫で長持ちするものより、安くて見栄えが良く、それでいてすぐに壊れるものが求められました。ウールワースは、以下のように安売りの核心を掴んでいました。

「日用品は価格が価値に勝る」

そのうちヨーロッパの製造工程を研究してアメリカの業者に教えて、アメリカに大量生産技術を導入し、さらに安い仕入先をつくりました。
 

ディスカウントストア

1950年代、大型店や値下げに関する規制が緩和されると、大型の安売りチェーン店が台頭しました。多くの人は休日郊外のディスカウントストアに車で出かけ、大型のショッピングカートに「お買い得」と思われるものを次から次へと放り込みました。

そうして大型のディスカウントストアは、ますます力をつけてきました。食品や日用雑貨のメーカーは、ディスカウントストアが「ノー」といえば、直ちに生産は半減し、従業員の給料にも困ることになってしまうほどでした。

 

安売りは低所得者にとって福音?

さらに近年2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックなどにより貧しいアメリカ人の収入は低下しました。

2003年にアメリカ人が衣料品にかけた金額は、親の世代に比べ32%減少、家電にかけた金額は52%、食料品にかけた金額は18%減少しました。

 
図2 アメリカのディスカウントストア

図2 アメリカのディスカウントストア (wikipediaより)
 

しかしそれ以上に住宅ローンの支払額は76%、健康保険が74%、税金が25%増加しました。そして保育費は親の世代にはゼロだったものが、シングルマザーには重くのしかかるようになりました。

現代のアメリカの中流家庭、しかも共働きの家庭は、収入の4分の3を固定費に費やしています。ローンや保険に半分以上の収入をつぎ込み、残ったお金で食品や衣料品をやりくりしています。

 

グローバルでの価格競争

農産物、補助金

アメリカに代表される現代の工場式の大規模農業は、非常に高い効率で安価に農産物を生産しています。その結果、1974年から2005年にかけて食料価格は3分の1に下がりました。その原因に多額の農業補助金があります。

アメリカ農務省は、1995年から2006年にかけて、約1770億ドルの農業補助金を交付しました。しかし農業補助金の4分の3は、10%の大規模農家や農業法人に集中しています。アーカンソー州のライスランド社は世界最大の精米販売業者です。アメリカ全土で生産される穀物の3分の1を扱い、ヨーロッパ、中東、中南米へ輸出しています。同社は1995年から2006年にかけて、5億ドルの補助金を受けました。

そのためアメリカの独立型の家族経営の農家は、その大半が今では農業を断念しています。一部の農家は、有機栽培穀物や特選品へと多角化し、生き残りを図っています。またより付加価値の高い上質なチーズや燻製肉などの事業に取り組む農家もあります。
 

図3 大規模な稲作

図3 大規模な稲作
 

しかし開発途上国の農家には、アメリカの穀物に大規模農家や農業法人の安い穀物と張り合う術はありません。

西半球の最貧国ハイチは、1995年IMFとアメリカの圧力に屈して輸入米の関税を35%から3%に下げました。その結果、米の輸入は150%増加し、ハイチの農家は競争力を失いました。かつて米を輸出していたハイチは米の輸入国になり、農民は土地を捨て都市に移り、都市はスラム化しました。また一部はアメリカへ渡りました。

こうしたこともあってアメリカの移民、2007年には3,700万人に上りました。

 

工業製品の価格競争

汎用品の工業製品は多くの製造工程を人の手に頼っています。その面では、大規模化した農業よりも人件費の比率が高い産業です。その結果、安い商品を求める企業は、生産拠点を新興国に移していきます。

 

規模の経済

その一方、製造工程が高度に自動化した製品は、人件費より設備の費用(減価償却費)の割合が高くなっています。いかに設備を止めることなく稼働させるかが重要です。そして設備の稼働率が上がれば、生産コストは下がります。またより大型で効率の高い設備の方が生産コストはより下がります。

この二つの条件にから、自動化した設備を使って生産する企業は、できる限り規模の大きな工場を建て、大量に製品を供給し高い稼働率を目指します。そして販売量を増やすため、価格をさらに引き下げます。こうして市場シェアトップの企業はますます生産量が増えシェアが拡大し利益も増えます。そして二番手以下はどんどん引き離されていきます。

 

価格戦争

チャイナプライス

アメリカのマーケティング専門家は価格戦争は最後の手段だと考えていました。「フォーチュン」誌の古い記事には、
「価格戦争が何の役に立つのか? 何の役にも立たない」と述べています。

しかし、こういったマーケティングの教科書は中国にはないようです。多くのアメリカ企業は、市場価格より大幅に低いチャイナプライスで怒涛の如く押し寄せる中国製品に辟易していました。

アメリカの価格設定の専門家は、アメリカ企業に脅威を与えている中国企業に対して
「10%いや、20%、なぜ彼らはその程度の価格の引き下げに留められないのか。そうすれば彼らは価格優位を維持出来るし、もっと大きな利益を上げられるのに」と言っています。

従来の欧米のマーケティングの考え方では、価格戦争を戦略的に活用する発想はなく、それを専門に研究することもありませんでした。チャイナプライスは、意図的な戦略でなく、低価格の商品が先進国市場に流れ込んだことによって結果的に生じたものと考えられていました。

 

価格戦争は意図的に行われる

中国において、ビジネスとは戦いです。戦略(strategy)に相当する中国語「战略(Zhànlüè)」は、「戦闘計画」「戦闘戦略」という意味を示します。ビジネスは勝つか負けるかであり、勝つための手段には中国では「価格戦争」も含まれます。そして中国では価格戦争に勝利することは「将軍」として称賛されることです。

実際、中国では何百もの企業が価格戦争を仕掛け、価格を大幅に引き下げる戦略で競合をふるい落としてきました。そしてその中から世界的なリーダー企業が成長しました。

 
1995年中国市場のパソコントップ3は、IBM、コンパック、ヒューレット・パッカードでしたが、3年後の1998年には、トップ5は全て価格戦争で勝ち上がってきた中国企業になりました。

1999年中国市場の携帯電話は、モトローラ、ノキアなど外国企業が支配し、中国企業は5%に満たしませんでした。2003年には、激しい価格戦争を経て、中国ブランドが市場の50%以上を手にしました。

2005年には、創業から10年の自動車メーカー、チェリー(奇端汽車)が数度にわたって価格戦争を展開し、中国市場のシェア4位になりました。

 

価格戦争の理論

この価格競争の理論が増分損益分岐点分析(IBEA)です。これを用いれば価格引き下げを行った時、どれだけ販売数量が増加すれば価格引き下げ前と同等以上の利益が得られるか分かります。これは以下の式で表されます。

 ∆q : 損益分岐点となる売上数量増分率
 ∆p : 価格の引き下げ率
 cm : 限界利益率(価格引き下げ前)
 ∆c : 価格引き下げによる限界費用低下率

 

  • ∆p:価格引き下げ率(%)
  • 今までよりも価格を引き下げる割合
    ∆pが30%であれば、今までより30%価格を引き下げることです。

  • ∆q:損益分岐点となる売上数量増分率
  • 価格を∆p(%)引き下げた場合、どれだけ売上が増えれば利益がでるかを示す値(%)
    ∆pが30%、∆qが50%の場合、価格を30%引き下げた時、売り上げが50%以上増加すれば利益が出る、つまり赤字にならないで済みます。

  • cm:貢献利益率

管理会計で用いられる指標で、会社で発生する費用を以下の2つに分けます。
・変動率
 売上が増えるに従い、増える費用
 例)材料費、外注費など
・固定費
 売り上げの増減に関わらず、一定の費用
 例)人件費、設備の費用(減価償却費など)、工場の維持費、事務所の費用など

実際は人件費は生産量が増えれば残業のため増えます。また、電気代などは使用量に関わらず毎月一定額払う固定部分と、使用量に応じて金額が変わる従量課金部分があります。これらの費用は、固定部分と変動部分の割合からどちらかに分類します。

  •  限界利益
  • 売上高から変動費を引いたものです。限界利益が固定費よりも少なければ赤字となり、会社の存続が危ぶまれます。

    限界利益=売上高-変動費
     

  • 貢献利益
  • 限界利益から直接固定費を引いたものです

  • 直接固定費
  •  固定費の中で、売上の増減に直接影響する費用で、広告宣伝費などの販促費用や接待交際費などがあります。

  • 間接固定費
  •  直接固定費以外の固定費です。
    貢献利益=売上高-変動率-直接固定費

  • 貢献利益率

貢献利益率=貢献利益/売上高

 
図4 変動費と固定費、貢献利益
図4 変動費と固定費、貢献利益
 

製造業などで、販促費用や接待交際費が多くない場合は

限界利益率=貢献利益率

  • ∆c:価格引き下げによる限界費用低下率

限界費用とは、生産量を小さく一単位だけ増加させたときの、総費用の増加分です。経済学では、費用曲線を微分して算出します。企業の利潤が最大化するのは、限界費用と限界利益が一致する生産量です。
 
価格引き下げにより生産量が増大すれば、1製品当たりの費用は減少します。
この現象の程度を表したものが、限界費用低下率です。
 
図5 限界費用低下率
図5 限界費用低下率
 

生産量Q₁のときの限界費用C₁

C₁=Δh₁/∆q

生産量Q₂のときの限界費用C₂

C₂=Δh₂/∆q

限界費用低下率∆C


 

生産量が増加するに従い、限界費用が減少すれば、限界費用低下率はプラスになり、生産量が増加するに従い、限界費用が増加すれば限界費用低下率はマイナスになります。

30%値下げした際、利益を増やすためにはどのくらい数量が増えれば良いかを表1に示します。ここで売上数量増分率∆qが小さければ、販売量がわずかに増えるだけで利益が増えます。

つまり価格戦争が起きやすくなります。
 
表1 価格を引き下げた時に必要な売上数量の増加分

ケース1 ケース2 ケース3
∆p : 価格の引き下げ率 25% 25% 25%
cm : 貢献利益率 50% 40% 30%
∆c : 限界費用低下率 40% 30% 20%
∆q : 売上数量増分率 21% 21% 58%

 

このような業界として、民生用電子機器、家電、パソコン、携帯電話、通信機器、ケーブルテレビ、自動車などがあります。これらの業界は、当初利益率が高かったために起きました。

この式をモデルケースに当てはめて考えてみます。
 

【ケース1 】設備主体の事業(半導体など)
ケース1は半導体のように設備が主体となって、生産する企業です。
この企業の売上と費用の構成を表2に示します。
 

表2 ケース1の現状の売上と費用と利益   単位 万円(以下、同じ)

 売上  30,000
材料費 労務費 減価償却費 販管費 営業利益
3,000 6,000 8,000 6,000 7,000
製造原価 17,000

 

表3 限界利益、限界利益率、限界費用

限界利益 限界利益率 限界費用
27,000 90% 2,500

 
この企業が、設備投資を行い2倍の生産能力を獲得し、販売量を増やすために25%値下げしました。どれだけ販売量を増加すれば利益が出せるか計算します。
 

表4 ケース1の生産量の増加に伴う費用の増加

生産量(万個) 材料費 労務費(変動) 労務費(固定) 減価償却費
1,000 1,000 1,000 3,000 7,000
2,000 2,000 2,000 3,000 7,500
3,000 3,000 3,000 3,000 8,000 現状
4,000 4,000 4,000 3,000 13,600
5,000 5,000 5,000 3,000 13,800
6,000 6,000 6,000 3,000 14,000 投資後

 
ここで労務費は、工場を維持するための固定的な人員と、製造のための変動的な人員に分けて考えます。

また設備は3000万個を超えると、1ライン増設するため大幅に増加します。

生産量の増加に比例して、材料費は増加します。労務費は生産量の増加に比例する変動部分と、比例しない固定部分に分けてまとめました。

一方、生産量が現状より多くなると、もう1ライン設備投資が必要となり、減価償却費が大きく増えます。

生産量が2倍になった場合の売上と費用の構成を表5に示します。
 

表5 ケース1の投資後の売上と費用と利益

 売上  40,000 (2×30,000×0.75)
材料費 労務費 減価償却費 販管費 営業利益
6,000 9,000 14,000 8,000 8,000
製造原価 29,000

 

表6 限界利益、限界利益率、限界費用

限界利益 限界利益率 限界費用 限界費用低下率
39,000 86.7% 2,200 0.1

 

表7 販売数量の増加計算結果

1(1-cm)∆c 1.33%
値下げ∆p 25%
販売数量増加 38%

 

表3、表6から貢献利益率と、限界費用低下率が計算できます。
その結果、価格を25%引き下げた場合、販売数量を38%以上増加すれば、利益が増加することがわかりました。
 

【ケース2 】組立主体の事業(家電製品、自動車など)
自社の工場は組立が主体で部品は協力会社からしている場合、製造原価の大半が購入品となります。購入品の生産数が多い程、製造コストが低下する場合、こういった組立主体の事業で価格を25%引き下げたときに必要な売上数量の増加を計算します。
 

表8 ケース2の現状の売上と費用と利益    単位 万円(以下、同じ)

 売上  30,000
材料費 労務費 減価償却費 販管費 営業利益
11,500 4,000 1,400 6,000 7,100
製造原価 16,900

 

表9 限界利益、限界利益率、限界費用

限界利益 限界費用
51.7% 3,700

 

表10 ケース2の生産量の増加に伴う費用の増加

生産量 材料費 労務費(変動) 労務費(固定) 減価償却費
100 6,000 1,000 1,000 1,000
200 9,000 2,000 1,000 1,200
300 11,500 3,000 1,000 1,400 現状
400 13,500 4,000 1,000 1,600
500 15,000 5,000 1,000 1,800
600 16,000 6,000 1,000 2,000 投資後

 

材料費(購入品)は生産量の増加に伴い、コストの上昇は低くなります。一方、労務費は組立主体のため変動部分が多く、生産量の増加に伴い増加します。

設備の割合は高くないので、減価償却費は増加しますが、割合はケース1ほど高くありません。

この結果、生産量が2倍になった場合の売上と費用の構成を表11に示します。
 

表11 ケース2の投資後の売上と費用と利益

 売上  45,000 (2×30,000×0.75)
材料費 労務費 減価償却費 販管費 営業利益
16,000 7,000 2,000 8,000 12,000
製造原価 25,000

 

表12 限界利益、限界利益率、限界費用

限界利益 限界費用 限界費用低下率
51% 2,200 0.4

 

表13 販売数量の増加

(1-cm)∆c 19.6%
値下げ∆p 25%
販売数量増加 12%

 

この結果から、組立主体の企業でも購入部品のコストが生産量の増加により大きく下がれば、価格戦争を起こすメリットが出てきます。

一方中国企業にとっては、先進国市場は自社の低コスト生産能力を活かし、自社に有利な為替レートという条件もあり、利益率の高い魅力的な市場に映ります。従って価格を大幅に下げて積極的に市場シェアを拡大する戦略は効果的です。

 

価格戦争が起きやすい条件

規模の経済性が高い産業
多く生産すれば、それだけコストが下がり、利益が増える産業です。半導体や素材製品など固定費の割合が高い製品が該当します。反面自動車は、自動車メーカーから見れば、自社製造コストより購入部品の原価の方が圧倒的に高く、自動車メーカー自身は過剰生産になりにくいです。

製品の差別化が少ない産業
顧客がブランドスイッチに抵抗なく、価格が低ければ容易に買ってくれる産業です。特にその産業の製品が標準化され、技術革新や品質改善の余地がほとんどなくった時に価格競争が起きやすくなります。

 
市場が成長する段階で、価格引き下げにより需要が拡大する見込みがある場合、競合を退けることができなくても価格戦争を仕掛けることがあります。価格戦争に需要が拡大すれば自社のシェアが拡大するからです。また市場シェアの小さい企業の方が価格戦争を始めやすい傾向があります。

さらに設備型の製造業では、設備稼働率を維持したいという要求から薄利多売に走る傾向にあります。

一方いずれ中国市場でも製品が成熟し市場の成長の余地がなくなると、価格戦争の効果は下がり、中国での価格戦争は減少すると予測されます。

 

中国企業の価格戦争の例

競争戦略として価格戦争を選択した中国企業は、入念に準備して、競合に反撃する機械を与えず、不意打ちをかけます。以下に2社の価格戦争を紹介します。

チャンホンのカラーテレビ

1996年当時の中国では地方政府の支援を受けた大小合わせて130社ものカラーテレビメーカーがありました。そのほとんどが年間販売台数12万台未満でした。そのなかでチャンホンは、二番手メーカーの二倍以上の生産規模を持つ中国最大のテレビメーカーでした。
 
一方、大きな規模の中国市場に、海外のテレビメーカーが相次いで進出してきました。又テレビの輸入関税が引き下げられたこともあり、早晩中国のテレビメーカーは外国のメーカーに席巻されると思われていました。チャンホンのCEO ニイ・ルンフォンは、様々な戦略を比較検討した結果、価格戦争という結論に達しました。
 
これにより小規模な国内のテレビメーカーは、値下げにより収益力が低下するか、価格を維持してシェアを失うか、選択を迫られます。海外のテレビメーカーは、プレミアム価格を維持すれば、市場シェアは低下します。価格を追随すれば、利益は減少し、プレミアムというブランド価値を損ないます。
 
またチャンホンには有利な条件がそろっていました。中央政府は地方政府に財政引き締めを図っていて、地方の小規模テレビメーカーを支援する力が削がれていました。チャンホンは17の製造ラインを1個所に集約した効率の良い工場があり、多くの主要なテレビ部品を自社で調達可能でした。

同社の利益率は20%に達し、他のテレビメーカーを引き離していました。さらに同社は100万台近い在庫を抱えており、在庫費用29億元にあえいでいましたが、それは一方で十分な弾丸が装填されていることを意味していました。さらに1996年は、中国のカラーテレビ市場がまだまだ大きく成長する段階でした。
 
詳細な分析の結果、価格を10%引き下げれば、海外メーカーとの価格差は30%に拡大し、彼らを追い落とし、さらに国内のテレビメーカーを赤字にできるはずでした。それでもチャンホンの利益率は20%でしたので、10%の引き下げても十分に利益が残りました。

1996年3月チャンホンは、17インチから29インチまでの全てのカラーテレビを8~18%値下げすると発表しました。国内の小規模メーカーは不意を打たれて激怒しましたが、すぐに価格を引き下げ出来る体制にないため、状況を静観しました。

市場リーダーのソニーとパナソニックは、正攻法である、価格でなく機能と品質に力を入れました。それは成熟市場では正しい選択でしたが、急速に成長する中国市場には誤った判断でした。

中国メーカーの中には、チャンホンの値下げに追従したメーカーもありました。しかし生産規模と供給能力が不足し、わずかな製品しか値下げできませんでした。
 
価格戦争開始3ヶ月後、総合的な市場シェアは16%から31%に上昇しました。特に25インチテレビでは、20%から45%と大幅に伸びました。

その結果1996年初頭には、海外ブランドのシェアが64%を占めていたのに対し、1997年には、中国のテレビブランドのトップ10のうち、8つが中国ブランドになり、残っていた海外ブランド パナソニックとフィリップスのシェアはどちらも市場の5%以下でした。
 

電子レンジメーカー ギャランツの例

1996年中国最大の電子レンジメーカーのひとつギャランツは、競合ワールプール・シアファと共に25%のシェアを獲得していました。当時の市場は約100万台でしたが、家庭における普及率は2%しかありませんでした。電子レンジの利益率は30~40%と極めて高く、電子レンジメーカーの数は116社に増えていました。

慎重に戦略を検討した結果、ギャランツは価格戦争を決定しました。

成長段階にある中国市場は価格を引き下げれば販売台数を2倍にできると予想しました。価格戦争により効率の悪い小規模の企業を退陣させることで、高い利益率にひかれてこれ以上競合の参入を食い止めることができると予測されました。さらに販売台数の大幅な増加により生産コストが下がり、十分な利益を出すことが見込めました。
 
そのためには入念に計画し実行しました。価格戦争の2か月前には生産ラインを24時間稼働させ、十分な在庫を用意しました。そして販売の閑散期の8月、ライバルの不意を衝いて、一部は40%、平均で20%の価格引き下げを発表しました。
 
この攻撃は成功し、販売台数は200%増加し、平均コストは50%低下しました。純利益は価格引き下げ後にむしろ増加し、市場シェアは25%から34%に拡大しました。

その後ギャランツは4度にわたって価格戦争を仕掛け、2003年には電子レンジは、上位3社が市場の90%以上を支配するようになりました。
 

ホンダの価格戦争

HY戦争

1981年ボストンコンサルティンググループ(以降、BCG)日本支社の堀紘一氏の最初の大型コンサルティング案件がホンダでした。

ホンダの経営学とは、「ビジネスは勝負事だ」でした。
「勝負事である以上喧嘩と同じで、やるからには絶対勝たなければならない、喧嘩の場合、当然、出血や骨折は覚悟の上である。逆に言えば、出血や骨折がいやなら喧嘩などしてはいけない。」
 
当時、原付ブームに乗って二輪車市場が急速に成長していました。業界2位のヤマハは1位の座を狙って積極的に攻勢をかけていました。

図6,7 HY戦争で火花を散らしたパッソルとタクト
図6,7 HY戦争で火花を散らしたパッソルとタクト

図6,7 HY戦争で火花を散らしたパッソルとタクト (wikipediaより)
 

危機感を抱いたホンダは、BCGの堀氏にヤマハを叩き潰す戦略を構築させました。ホンダの二代目社長 河島喜好氏の命令は以下のものでした。

  • ヤマハを無配に転落させる。
  • 今後10年間はホンダの尻尾を踏むのも怖くて何もできない会社にする。
  • そのために多少の無茶も厭わないし、金に糸目はつけない。

 
そして様々な戦略を次々に実行しました。新車を52種類一度に投入したり、自転車が3万円した当時、50ccのスーパーカブを19,800円と自転車より安く売ったりもしました。

1982年に入りヤマハは勢いを失い、1983年になると過剰設備と余剰在庫で企業存続の危機となりました。4月の決算では、経常利益144億円減の2億円、特別損失のため総利益がマイナス160億円になりました。1984年度は、経常利益200億円の赤字を見込み、社長以下役員9人は退任または降格となりました。
 

競合をふるい落とした価格戦争

1953年、国内の一二輪車メーカーのホンダは1年間で総額4.5億円の設備投資を行いました。これは当時のトヨタ、日産よりも多い金額でした。本田宗一郎氏は、このお金で海外の高性能な工作機械を次々と購入しました。

当時、設計課長だった河島喜好は、輸入工作機械購入決定のいきさつを、こう語っています。
 

「前略 はっきり言っておきますが、ホンダの工場はいわゆる生産工場ではなくて、組立工場だったのです。

部品メーカーからほとんどの部品を買ってきて、それを組み立ててオートバイをつくっていたんです。ギヤ1個さえ社内ではつくれない。あるのは組立ラインと塗装ラインだけ。溶接すら外注でした。

かろうじて内作していたのは、カムシャフト、クランクシャフト、シリンダーなどのエンジン部品で、それは全部品の20%にも満たなかった。

ここで、本田と藤澤の経営者としての先見の明が、決断を下したのです。

デフレ不況が去って、E型が売れて、一時期の危機こそ乗り越えたが、このままでは大きな成長は望めない。しかも戦前の古い工作機械でつくった部品を買って使っているようでは、世界のホンダになれるわけがない。

お二人は、ホンダを、生産工場を持った会社にする決意をした。何が何でも最新鋭の工作機械を買おうと。それで、4億5000万円分の外貨申請を出したのです」

 

ダイキャスト
「入社間もない1950年の夏で、ダイキャストに関連してでした。『砂型でアルミ部品をつくるより、ダイキャストでつくったほうがどれほどいいのか、どういう点で勝っているか、ちゃんと説明できれば、通産省が補助金を40万円出すと言っている。だから、リポートを急いで書け』と、突然命じられました。

そこで、とにかく砂型との優劣やコストを比較してみた。そりゃ大量生産の部品をつくるのならダイキャストがいい。でも、ホンダは、これに見合うほど製品をつくっていない。月に100台か、せいぜいが200台です。最低でも1000台、1万台ぐらいつくるのでなければ、コストが合いません。困ってしまって『どう計算しても砂型が有利でダイキャストが不利です。書けません』と言ったんです」。

計算が緻密だったせいか、本田は、白井の返事に怒り出しもせず、珍しく諄々(じゅんじゅん)と説きました。

「『現実は、そうだよ。職人が1個ずつ砂型でつくった方が今んところ手っとり早いし、安い。

けどなぁ、日本の将来は工業立国しか手がないんだ。世界を相手の商売となったら、1番大事なのは量産性のあること、部品が均質であることだ。だからウチはつらいのを承知で、最初っからダイキャストでやってる。そこに力点を置いて書け』と。

正直言って、吹けば飛ぶような町工場の社長です。

当時大企業の社長でも口にしない”世界を相手に”なんてことを、本気で言ってるんです。びっくりしながらも、この人はただの職人あがりの技術者じゃないと思った。スケールが違うぞ、と。リポートは、言われた通りに書きました。」

 
多額の借入金と、1954年景気の減速とドリーム号のトラブル、スクーター ジュノウの販売不振により、ホンダは深刻な経営危機に陥りました。

しかし1955年からの神武景気で息を吹き返し、市場が再び成長に転じた1957年、

ホンダは増産体制を整えて20%の価格引き下げを行いました。

対抗するメーカーは、商品企画と開発が遅れ、さらに大手メーカーの価格に対応するために高品質で勝負しようとすれば値上げせざるを得なくなりました。

これにより国内生産台数が第1位になりました。

競合メーカーは、価格競争からやむなく値下げをしていった結果、粗製乱造となりました。

性能、外観、部品精度など目に見えて低下し、これがユーザーの信用の低下を招きました。

1957年には名古屋を代表するメーカーでキャブトンのみづほ自動車製作所(犬山市)が倒産。

1958年にはトヨモーターで一世を風靡した株式会社トヨモータース(刈谷市)も社内整理に入りました。
 

本コラムは2017年4月16日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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発明を守る方法と、権利を守る戦い その2 知財により優位を維持した例

発明を守る方法と、権利を守る戦い その1 特許とは何か、本当に知財を守れるのかで、特許、実用新案、商標の特徴と現在の特許制度の問題点について述べました。

現在の特許制度は、先進国の大企業が互いに技術開発を競っている状況に適した制度です。その場合、大抵は双方が多数の特許を権利化し、互いの特許を侵害し合っている状態となっていて、クロスライセンス契約により侵害の程度によりライセンス料を払っています。

これに対して、特許の権利を持つが事業を営んでいない場合、相手は一方的に特許を侵害している状態となり、訴訟は不利になります。近年はこういった特許を買って、メーカー相手に訴訟を起こすパテントトロールという人たちもいます。

一方、画期的な技術を開発しても、同時期に他の企業も開発していることも多く、双方がクロスライセンス契約する中で技術が拡散していきます。近年は日本企業が新製品を開発しても、後発の韓国、中国メーカーがより低価格の製品を市場に大量に投入し、結果的に市場を奪われるケースが多くあります。
 

世界市場で技術やノウハウを守る戦い

 
画期的な技術を開発しても、製品が市場に広がる過程でクロスライセンスや設備を通じて技術が流出し、日本メーカーはその優位性を失いました。半導体や液晶テレビ、DVDプレーヤーなどは、日本が多くの技術を開発したにも関わらず、現在は日本以外のメーカーが主に製造しています。
 
その中で、自社の技術やノウハウを戦略的に守り、利益を確保している2社の例をご紹介します。
 

三菱化学のDVD技術

DVDは日本がその大半の技術を開発し、特許の95%を日本企業が押えていました。しかし日本企業のシェアは下がり、今では家電製品売り場で日本製のDVDプレーヤーはほとんどありません。(最近はDVDプレーヤー自体をあまり見ませんが)
 
しかし日本企業が特許を押さえ、他国のメーカーがDVDプレーヤーを製造するには ライセンス料を払う必要があり日本製より高くなるはずです。なぜ日本メーカーより安い価格で売られているのでしょうか。

 

DVDプレーヤーのカギとなる技術は、ピックアップヘッドとディスク(メディア)です。海外メーカーは日本メーカーからピックアップヘッドを購入し、自社で開発したディスクドライブと制御基板をオリジナルデザインの筐体に組み込んでDVDプレーヤーを製造しています。つまりDVDプレーヤーは、モジュール型のものづくりです。
 
図5 DVDプレーヤーの内部(Wikipediaより)

図5 DVDプレーヤーの内部(Wikipediaより)
 

そしてピックアップヘッドなどのモジュール部品メーカーは、モジュール部品メーカー同士でし烈な争いをしています。競合に勝つためには、少しでも多く販売してコストを削減しなければなりません。そのため中国や台湾メーカーにも積極的に販売します。

そして中国や台湾の企業は、人件費が安く開発や管理などの間接部門が少ないため、元々の製造コストが低く、日本メーカーより低価格なDVDプレーヤーを大量に生産し、市場を席巻しました。
 
DVDメディアもかつては日本メーカーが市場を席巻していました。
「こんな難しいものアジアではできない」といわれていましたが、装置メーカーが設備一式を供給することで、アジアのメーカーが一斉に参入し価格競争に陥りました。
 
その結果、DVDメディアメーカーの三菱化学メディアは累積損失が1000億円になっていました。
 
【三菱化学メディア 製造から素材販売へ】
そこで同社はビジネスモデルを転換して利益の改善を図りました。まずDVDメディアの自社生産は中止し、台湾メーカーとパートナーを組んで生産を委託しました。
 
そして台湾メーカーが生産したDVDを三菱化学のブランドで販売しました。また技術のない新興国の企業には、製造レシピなどの製造基盤も販売しました。
 
三菱化学は、DVDメディアの記録層を構成する素材のAZO色素を自社で開発していました。高品質のDVDを製造するためには、AZO色素が不可欠でした。

まずAZO色素単体では販売せず、装置と合わせてセットで販売しました。さらにAZO色素を使用した時の製造条件を、レシピとして新興国に提供しました。さらに国際標準に働きかけ、DVDの互換性の基準にAZO色素を使ったものを組み込みました。

その結果、他の色素材料を使って製造した場合は、互換性を保証するための検証が必要になりました。そこで多くのDVDメディアメーカーはそのような手間を避け、AZO色素を使用しました。

つまり三菱化学は、AZO色素と設備をセットにしてブラックボックス化する反面、メディアの生産はオープンにしたのです。そしてメディアメーカーは、DVDメディアの生産に余力があれば、三菱化学のライバル企業にもDVDメディアを売ることを認めました。

その結果、AZO色素の販売が増え、三菱化学の利益が増える仕組みになりました。その2年後には同社の売上高営業利益率は15%に達しました。
 

日亜化学の知財戦略

【青色LEDの開発】
1993年日亜化学工業株式会社(以下、日亜化学)は、窒化ガリウムを用いて世界で初めて青色LEDを開発しました。この日亜化学は、四国の徳島県で蛍光灯やTVブラウン管の蛍光発光体をつくっている従業員350人、売上高170億円の中堅企業でした。
 
LEDは消費電力が非常に小さく寿命が長いことから、それまでも動作表示ランプなどに使用されていました。しかし赤と黄緑色しかありませんでした。青色ができればRGBの三原色が揃い、カラー照明ができます。そのため青色LEDの開発は世界中の企業や研究者が取り組んでいました。しかし次元は困難をきわめ、今世紀中の実用化は無理とまでいわれていました。
 
その青色LEDを四国の中小企業 日亜化学が実用化しました。青色LEDができれば、その補色の緑色と赤を組合せれば、白色をつくることができます。
 
【青色LEDから白色LEDへ】
しかし純粋な緑色発行する蛍光体の開発は困難を極めました。日亜化学は、あらゆる蛍光体を試してようやくYAG(Yttrium Aluminum Garnet)系蛍光体にたどり着きました。そして1996年世界に先駆けて白色LEDを発売しました。
今日では白色LEDの世界市場は4,782億円(2012年)に上ります。また使用用途も照明向けが年々増加しています。
 
図6 白色LED照明の世界市場(Wikipediaより)

図6 白色LED照明の世界市場(Wikipediaより)

 

今日では、白熱電球や蛍光灯に変わり広く使用されている白色LEDも、発売当初はオーディオなどの液晶表示のバックライト光源として売れる程度でした。白色LEDを使用することで液晶表示がカラーになるからです。それが携帯電話の普及に伴い、携帯電話の液晶のバックライト光源として急速に市場が拡大しました。
 

【市場が急激に拡大】
白色LEDの市場は大きく成長し、同社の売上高は、1995年から2005年までの10年間で10倍以上増加しました。
 
同社にとって幸運だったのは、最初から大きな市場があったわけではなく、白色LEDというイノベーションにより、カラー液晶や照明など新たな市場が形成され、それに伴い同社が成長できたことでした。もし最初から大きな市場があった場合、大手が積極的に参入して市場を奪われていた可能性もあります。
 
2018年の日亜化学のLEDの売上高は、24億ドルで世界シェア1位です。対して同時期に白色LEDの開発に成功した豊田合成のLEDの売上高は1.4億ドルで世界シェアは8位です。世界シェア2位以下には、ドイツのオスラム、アメリカのクリーなど日亜化学と同時期に白色LEDの開発に成功したメーカーの他に韓国や台湾の後発メーカーがあります。
 
日亜化学が激しい競争を勝ち抜いてシェア1位を維持しているのは同社の周到な戦略の結果でした。
 

【日亜化学の周到な戦略】
同社は、かつて市場の拡大期にそれに対応した多額の投資をためらって韓国勢に敗北した日本のDRAMから学びました。そしてイノベーションが繰り返される事業分野では、市場の拡大に対応した積極的な供給能力の増強が最も重要と考えました。そして白色LEDの発売当初から売上高の10%以上という台湾や中国企業に見られる果敢な設備投資を行いました。
 
その上で、いくら特許で技術を囲い込んでもいずれ競合メーカーがライセンス供与すると予想しました。そして白色LEDを安価に製造するメーカーが多数出現し価格競争に陥ると考えました。そこで市場の成長に合わせて、同社は3段階の戦略を立案しました。
 

  • 第一段階 黎明期

まだ白色LEDが市場に出回らず貴重で付加価値の高い黎明期は、技術を囲い込み、高い利益を上げて、その利益を研究開発と設備投資に投入しました。

具体的には、自社内で特許を保有し、ライセンスは供与しない、そしてダイス(半導体チップ単体)販売は行わず、パッケージ製品として自社で販売しました。大手にライセンスを供与しライセンス料で儲けるよりも、市場を独占しできる限り大きな利益を上げることを目指しました。
 
一方で同社は積極的に特許出願すると同時に豊田合成やアメリカの競合クリー等に対して、特許侵害訴訟を起こしました。四国の一中小企業の日亜化学が豊田合成に対して40件もの侵害訴訟を起こしました。その狙いは他の競合に対して日亜化学は怖い会社と思わせ、市場参入を思いとどまらせることを狙ったものでした。
 

  • 第二段階 市場拡大期

携帯電話の爆発的な普及により白色LEDの市場は急速に拡大し、需要を自社だけではまかないきれなくなってきました。アメリカのクリーやドイツのオスラムなど日亜化学と異なる方式で白色LEDを製造する企業が現れ、これらの企業が台湾や韓国メーカーにライセンス供与し、台湾や韓国で大量生産するようになりました。
 
この段階で日亜化学は、市場を独占することが困難になったと判断し、各社とクロスライセンスを締結しました。
 

  • 第三段階 普及期

白色LEDが携帯電話のバックライトから、液晶テレビ、自動車のヘッドランプ、照明器具へと用途が広がり、市場は急速に拡大しました。
 
図7 普及するLED照明
図7 普及するLED照明
 
その結果、価格競争が激しくなり、高性能なハイエンド製品でも年率10~20%のペースで市場価格が下落するようになりました。
 
その結果、携帯電話のテンキーや玩具など品質の要求されないものには台湾、韓国メーカー、携帯電話のバックライトや液晶テレビなど高輝度と均一性が要求される箇所に日亜化学が使われました。しかしこれも台湾、韓国メーカーの技術力が向上し、携帯電や液晶テレビにも使用されるようになりました。
 

  • 研究開発の強化

そこで日亜化学は、研究開発を強化しLEDの発光効率を高めて自動車のヘッドライトや工場の天井用照明など、より高付加価値な製品を開発しました。

さらに白色LEDの後の製品として、ハイパワー紫外光LED、車載用LD(レーザダイオード)の開発を強化し、産業機械やプロジェクター用、車載用など付加価値の高い分野の開発に取り組みました。
 
日亜化学の売上高は、2013年には3,096億円(連結)になりました。しかしLED市場は2009年から2016年にかけて約2倍近く拡大したため、日亜化学のシェアは2008年の19%から、2010年には15%に低下しました。しかし事業の主力を利益の低い普及品から高付加価値品にシフトすることで、利益を維持するとともに、世界シェアでトップを維持しています。
 
対して競合の豊田合成のLED事業の売上高は、2012年度の550億円から2014年度に約400億円に低下し、2016年には佐賀工場(佐賀県武雄市)での生産を終了しました。
 
多くの日本企業は、画期的な製品を開発してもグローバルでの技術流出を防ぐことができず、短期間で事業価値を失いました。日亜化学は、事前にそれを見越し、逆算して経営戦略や知財戦略を構築、一見無謀とも思える投資を行い、リーダー企業としての存在感を維持することに成功しました。
 

本コラムは2017年2月15日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

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製造業の経営戦略について

 
企業が環境の変化に適応し成長し続けるには、適切な経営戦略を立案し……
と言われます。

では、この経営戦略とは何でしょうか。

これまでの経営コラムを振り返りながら、製造業の経営戦略と、失敗事例について考えます。
 

経営戦略とは

 

戦略とは、元々軍事用語で、局地的な戦闘の方針戦術と対比して、広範囲、長い期間の戦いの方針です。これがいつのまにか経営に使われるようになりました。しかも経営における戦略の定義は人により様々です。

「経営戦略とは何か」と聞かれて即答するのは容易ではありません。
 

目指す姿への長期的な方針

この戦略は、現状から目指す姿へ向かうための長期的な方針・計画と私は考えます。これは会社全体での方針を示す全体戦略と、商品企画、製造プロセス、社内体制などの個別戦略があります。それらを具体的に年単位で行う取り組みが戦術です。この関係を図に示します。
 

経営戦略

経営戦略


 

そう考えると、自社の目指す姿がはっきりしていなければ、経営戦略は策定できません。
この経営戦略についての参考記事が以下にあります。

戦略とは何か、戦略と戦術について考える
 

コンサルティングファームの台頭と経営戦略

一方で経営戦略という言葉が広まったのは、欧米のコンサルティングファームが台頭したためでもあります。

それは1950年代黄金期を迎えたアメリカ企業が1960年代に成長が鈍化した時に、それまでの過度な多角化を見直す際にコンサルティングファームが様々な分析手法を提案し、それを元に新たな方針を提言したためでした。

この中から、ボストンコンサルティンググループやマッキンゼーなどの著名なコンサルティングファームが台頭してきました。

一方、コンサルティングファームは、常に新しい戦略手法を生み出し、企業に提案しなければなりませんでした。その結果、様々な経営戦略手法が現れました。中には一時期非常にブームになったものの、今は顧みられなくなった手法もあります。
 

その経営戦略手法は自社の実情に合っているか?

その点では、かつての経営戦略手法は多角化が行き詰ったアメリカ企業に対するものであり、その後の経営戦略手法には、コンサルティングファーム自身が必要に駆られて創出した面があります。

そのような手法の中には、日本の中小企業の実情には合わないものも多くあります。経営戦略手法やフレームワークを活用する際は、その手法の特徴だけでなく生まれた背景や主に適用されている企業規模なども考慮する必要があると考えます。

コンサルティングファームと経営戦略手法についての参考記事が以下にあります。

「経営戦略の発展とそれぞれの戦略の特徴」
 

価格戦争という戦略

 

一方、経営戦略は企業がある国や社会の環境、国民性によっても変わります。利に敏感で価格を非常に重視する中国では、欧米の経営戦略の教科書には載っていない「価格戦争」が非常に重要な戦略です。こうして価格を武器に、格力、美的、ハイアール、ハイセンスなどの中国企業が世界での市場を席巻しました。これにより日本企業の独壇場であった家電、エレクトロニクス製品の市場は中国企業に奪われていきました。
 

日本の価格競争

積極的な価格競争は日本企業も行っています。

1956年国内シェア1位、売上高利益率10%、万全の財務体質で東洋経済やダイヤモンドなどの経済雑誌でも優良会社といわれた会社がありました。

しかしその会社は4年後に赤字に転落、8年後に会社更生法の適用を受けました。現在は二輪車事業から撤退し、船舶用船外機のメーカー、トーハツ(株)です。

なぜ万全の財務体質のトーハツが倒産し、ホンダが飛躍したのか?

その原因はホンダの仕掛けた価格競争にありました。二輪車のようなマスマーケット市場では、いくら自社が良い経営をしていてもライバルからの攻撃に対抗できなければ、短期間に市場を失います。このトーハツとホンダの戦略の違いについの参考記事が以下にあります。

「なぜ、万全の財務体質のトーハツが倒産し、ホンダが飛躍したのか?」
 

このホンダの戦略を立案・実行したのは、専務の藤沢武夫氏でした。藤沢氏の参考記事は以下にあります。

「「経営に終わりはない」ホンダという会社を創った男 藤沢武夫(前篇)」

「「経営に終わりはない」ホンダという会社を創った男 藤沢武夫(後編)」
 

日本独自の経営戦略手法

 

経営戦略手法の中には、日本独自の手法もあります。経営コンサルタントの田岡信夫氏は、イギリスの航空技術者ランチェスターの軍事戦略「ランチェスターの法則」を経営に応用したランチェスター戦略を提唱しました。

このランチェスター戦略は、小規模企業が大企業と戦うための戦略として日本で独自に発展しました。このランチェスター戦略には「弱者と強者」「弱者の五大戦略」などがあります。

一方田岡氏は学問分野にあまり関心がなく、経営学では取り上げていないことが多く、知らない方もいます。その一方、熱心に勉強している経営者も多くいます。
 

ランチェスター第一法則

ランチェスター第一法則


 

このランチェスター戦略の参考記事は以下にあります。

「軍事戦略から日本独自の経営戦略へ、ランチェスター戦略」
 

環境の変化

 

経営戦略を考える際に、今後の環境の変化を無視することはできません。そのために書籍やニュースを見ても、手に入るのは数年先の予想ぐらいしかありません。しかも多くの目を引くように扇動的な内容ばかりです。

では、今後はどのように変わるのか?

確率の高い情報は人口とGDPの変化です。人口の変化はこれまでの変化からかなり確実に予想できます。ここから各国の経済規模、GDPの変化もある程度予測ができます。

これを見れば世界の中で日本の立ち位置が今後変わっていくことがわかります。世界の中で日本の影響力は低下していきます。日本と回買い゛との関係は今後もどんどん変化していくでしょう。

では、どのように変化するのか、人口とGDPの変化を以下にまとめました。

「2050年、日本は世界の中に埋もれるのか。36年後の世界を統計データから読み解く」

日本の人口減少と社会の変化を以下にまとめました。

「人口減少社会とこれから起こる変化」
 

過去の歴史を振り返る

経済情勢の変化を考える際に、過去を知ることも役に立ちます。20年前、30年前のことを振り返ろうとすると、積極的に調べないとわかりません。私たち自身、昔のことは漠然としたイメージで「高度成長期の頃は景気が良かった」と捉えてしまっています。

実際には、1970年代以前の高度成長期でも不況があり、多くの企業倒産がありました。
 

日本のGDPの成長


 

これについては、以下を参照願います。

「高度成長時代の不況を振り返る。~30年先の経営を考えるために~」

また平成バブルについて、

なぜバブルが起きたのか?

国はどうすべきだったのか?

今から振り返ることも勉強になります。

「平成バブルはなぜ起きたのか?どんな過ちがあったのか?」
 

環境の変化に適応できず失敗した企業の事例

 

長期的にみれば、今までの企業の取組や経営方針が今後も適切とは限りません。しかし環境の変化は非常にゆっくりしているため、よほど注意深く観察していないとわかりません。
 

日本の産業黎明期には、工業製品を製造できることだけでも価値がありました。金属加工の技術が未熟で十分な工作機械がなかった大正、昭和の初期には、自社の金属加工技術を生かして、様々な製品を製造する企業がありました。

工作機械の名門 (株)池貝は、英国の旋盤のコピーから始まって日本を代表する工作機械メーカーになりました。その後軍の要請もあり、ディーゼルエンジン、自動車、戦車などを手がけました。また新聞輪転機も製造しました。

戦後はプラスチック押出成形機、様々な工作機械の製造を手がけました。その後、産業の主役が重工業から、自動車や家電などに移行すると、得意とする大型工作機械が不振となりました。さらにNC化への対応の遅れなどから経営不振に陥り、2001年民事再生法を申請しました。

同社の衰退の原因には様々なものがあります。そのひとつに、技術が専門化し、それぞれの専門分野の企業が台頭する時代に変化したことが挙げられます。アップルはiPhone、iPod、iPad、Macなど製品ラインナップは多くありません。それであれだけの規模の企業となりました。

時代は変化し、多くの製品を手掛けていては開発力が分散し、起用号に打ち勝つことが出来なくなっていたのです。しかし池貝は従来の製品ラインナップを整理できませんでした。

この(株)池貝の変遷の参考記事は以下にあります。
「変化への対応 工作機械の名門 株式会社池貝の変遷と富士フイルムを襲ったデジタル化」
 

市場が急速に変化する今日

一方、今日では技術や情報の伝達スビートが非常に早くなり、市場の変化はかつてないほど急速に訪れます。新製品が市場に投入されてから、市場が拡大し、衰退するまでは、今までは釣り鐘型のゆっくりとした変化でした。それが今日では、市場が急速に立ち上がり、衰退するサメのヒレ(シャークフィン・カーブ)のような変化を起こします。
 

この市場の急速な変化とシャークフィン・カーブの参考記事は以下にあります。

「これから10年で起こる、社会の劇的変化」
 

本業喪失の危機

有名な例では、フィルムカメラからデジタルカメラへのイノベーションがあります。フィルムカメラ市場は年々拡大を続け、1999年にはピークを迎えました。一方で1990年代に製品化されたデジタルカメラは、2000年までは市場シェアはわずかでした。しかし2000年に入ると市場は急速に拡大し、2005年にはフィルムカメラは一部の愛好家にしか売れなくなりました。

このような市場の変化にポラロイド、コダックは倒産し、コニカはフィルムから撤退しました。富士フィルムでも「フィルムカメラはあと30年は持つのではないか」という楽観論が支配的でした。

本業喪失の危機に直面した富士フィルムの参考記事は以下にあります。

「変化への対応 工作機械の名門 株式会社池貝の変遷と富士フイルムを襲ったデジタル化」
 

経営戦略を立てることは、未来への道筋を考えること

 

このように考えると、自社の経営戦略を立てるためには、自社の事業とそれを取り巻く環境の変化を10年先、20年先まで考える必要があります。そこから自社の目指す姿をつくり、それに向かって取り組む方針を立てることが経営戦略の立案です。

そんな先のことはとても考えにくいのですが、現在はその未来に向かって確実に動いていきます。しかもそのスピードは早くなっています。

その結果、様々な職業が消えていきました。

電話交換手、鍛冶屋、たばこ屋、キーパンチャー、時計修理、製図のトレース、印刷の写植、行商

これらは現在ほとんど見なくなってしまった職業です。

今後も技術の進歩や新しいサービスの出現で多くの仕事がなくなってしまうでしょう。

そのような時代にあなたの会社は、どのような事業を行っているでしょうか。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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経営戦略の発展とそれぞれの戦略の特徴

経営戦略の起源

 
経営コラム「戦略とは何か、戦略と戦術について考える」で、経営戦略について、戦略の起源と軍事での戦略と経営での戦略について考えました。今回、経営戦略の歴史と変遷について考えます。
 

経営戦略以前

 
経営戦略が生まれる前の時代のアメリカ人経営者にとって、利益を上げるための重要な要素は、顧客(customer)、競合(competitor)、コスト(cost)の3Cでした。当時の競争の力学は、自社と他社という見方のみで、自社の製品や経営に相手が対抗してくるという発想はありませんでした。
 
当時は、競合より先に、顧客の求める新製品を発売し、そして製造コストを下げることが利益を高める上で重要なポイントでした。
 
これはその時代の背景も影響しています。
戦後の高度成長期は、常に技術が進歩し、新しい製品が生まれていました。家庭の娯楽は、かつてはラジオでしたが、テレビが現れ、そして白黒からカラーテレビに変わりました。顧客も常に新しい製品を求めていました。
 
従って、常に競合よりも早く新製品を提供すること、これが当時の企業間競争において最も重要なテーマでした。
 

戦略の3段階

 
その後、コンサルティングファームが台頭し、経営戦略というものが一般的になってきました。この経営戦略は以下の3段階で変化しました。
 

  • 第一段階

ポジショニング・・・経験曲線と事業ポートフォリオ

  • 第二段階

プロセス・・・タイムベース競争、コアコンピタンス、ビジネスプロセス・リエンジニアリング

  • 第三段階

人が中心・・・取り換え可能なプロ経営
 

第一段階の戦略

 

最初の経営戦略 アンゾフ

 
1957年イゴール・アンゾフは、四つの成長戦略「市場浸透」「市場開拓」「製品開発」「多角化」を発表し、これらをマトリックスに表しました。
経営に軍事用語である戦略という概念を導入しました。

図1 アンゾフの4つの成長戦略
図1 アンゾフの4つの成長戦略
 

経営コンサルタントファームの台頭

 
ボストン・コンサルティンググループ(以下、BCG)は、ブルース・ヘンダーソンが1963年7月1日に創設しました。
彼は競争の原理を解き明かしたいという強烈な好奇心を持っていました。
 
しかし彼のコンサルティングビジネスは順調にスタートしたとは言い難い状況でした。
財産の運用管理や中小企業の経営アドバイスから始め、ビジネスに関する小論文を掲載した「パースペクティブ」を発行したり、経営に関するイベント「ビジネス・カンファレンス」を開催したりしていました。
 

経験曲線の発見

 
航空機メーカーは1925年には、生産量を増やせば増やすほど製造コストが低下することに気づいていました。その後、1964年ウィンフレッド・ヒルシュマン教授が、ハーバード・ビジネス・レビュー誌に「学習曲線から得られる利益」という論文を発表しました。
 

ブルース・ヘンダーソンは、クライアント企業が競合他社に価格で太刀打ちできない問題を解明するため、クライアント企業の原価と競合の価格、業界のコスト傾向を調べていました。そして、生産量の増大とコスト低減の関係を経験曲線として体系化して理論にまとめました。
 
この理論によれば、どのくらい生産量を増やせば、コストがどのくらい低減するかが定量的に把握できました。
 
図2 経験曲線
図2 経験曲線
 
 
電動工具メーカーのブラック・アンド・デッカー社は、1950年代末に電動工具の市場シェアが20%に達し、そこからはシェアが頭打ちになっていました。BCGのコンサルティングチームは、製品の価格を引き下げれば販売量は著しく増大することをアドバイスしました。
 
販売量が5万台/年の丸のこぎりの価格を30ドルから19.95に引き下げたことで、60万台/年売れるようになりました。この戦略により、1964年に1億ドルだった同社の売上は、5年後には倍増し、10年後には5億ドルを超えました。
 
一方で経験曲線に頼る戦略は果てしない価格競争に陥る危険性がありました。また実際の経験曲線の勾配は産業より異なり、企業の期待より15~25%ほど逸脱することがありました。
 

ポジショニングと市場シェア

 
そして1967年、ブルース・ヘンダーソンは、日本企業を含む多くの企業の債務比率のデータを調べました。その結果、日本企業は負債比率が高く、資金を積極的に設備投資に活用していることが分かりました。
 
経験曲線によれば、借入により設備投資を行い、コストを下げることで競合より有利に立ちより早く成長できることが明らかになっています。
そこでキャッシュフローに着目して、それぞれの事業をそのステージによって資金を必要とする事業と、資金を生み出す事業に分けました。
 
これを市場シェアと市場の成長性の2つの軸で4象限に分類し、プロダクト・ポートフォリオ・マトリックス(PPM)が完成しました。
 
図3 BCGのポートフォリオマトリックス
図3 BCGのポートフォリオマトリックス
 
当時のアメリカでは、多くの企業が自社の市場の拡大が緩やかになったため、多角化することで売上を増やし事業を安定化させ用としていました。しかし過度の多角化により経営効率が低下し収益性が悪化、事業を見直す必要に迫られていました。
 
PPMはたった一枚の図で、クライアント企業の事業構造と収益性を明らかにし、力を入れるべき事業と売却すべき事業を見極める事ができました。
図4 PPMの例
図4 PPMの例
 
この図は、後に100万ドルのスライド(これだけで100万ドル払う価値があるという意味)と呼ばれるようになりました。
 

BCGはここに至ってようやく「商品」を生み出しました。この商品は、5年かかって、今の事業のPPMを作成し、次の5年で次のPPMを作成するという終わらないコンサルティングとなり、BCGに大いなる収益をもたらしました。
 
つまり当時のBCGのコンサルティングは、事業を適切にポジショニングし、投資と売却の意思決定の手助けをすることでした。
 

競争の戦略(1980年)マイケル・ポーター

 
 ハーバード・ビジネス・スクールの教員になるべくMBAを取っていたマイケル・ポーターは産業組織経済学で競争要因の作用を表すモデルを学びます。
 
これを基に五つの要因の力学関係をあらわしたフレームワークが、ファイブ・フォース・モデルです。これは1980年に出版された「競争の戦略」に掲載され、一躍有名になりました。
 
 ポーターは、ファイブ・フォースのフレームワークに従い、競合を分析し、戦略を立てて行動することが重要であると説いています。
 
図5 ポーターのファイブ・フォース・モデル
図5 ポーターのファイブ・フォース・モデル
 
 

ポーターは、競争戦略として「差別化戦略」「コストリーダーシップ戦略」「集中化戦略」の3つを説いています。
 
図6 ポーターの3つの競争戦略
図6 ポーターの3つの競争戦略
 
 

人と組織への着目と戦略のコモディティ化

 

経営戦略とは無縁な思想家ドラッカー

 
ピータードラッカーは20世紀の経営学者・社会学者で、その思想は多くの経営者に影響を与えました。一方彼の思想は学問的には体系化されたものの、戦略として具体的な方法論に落とし込まれていないため、MBAや学術界への影響は限定的でした。
 

エクセレントカンパニー 人と組織に焦点

 

マッキンゼーのトム・ピーターズとロバート・H・ウォーターマン・ジュニアは、組織と戦略に関する調査研究をまとめました。
 
その結果、優れた企業には行動思考、顧客密着、自主性と起業家精神、人による生産性向上、価値感の実践、既知の事業分野から離れない、単純な組織形態と小さな本社、ゆるやかさと厳しさを併せ持つなどの特徴がありました。
 
ピーターズとウォーターマンは、これらの特徴を「七つのS」というフレームワークで表しました。これをまとめた「エクレントカンパニー」は1982年に出版され、500万部を超えるベストセラーになりました。
図7 マッキンゼーの7つのS
図7 マッキンゼーの7つのS
 
一方でこの7つのSのフレームワークは、数量的根拠の欠如や定義の曖昧さなどから、戦略至上主義者たちから数々の批判を浴びました。また同書でエクセレントカンパニーの例とされた企業の1/3がこの本の出版後に低落したことも批判されました。
 

 

戦略のコモディティ化とカウンセラーとしてのコンサルタント

 

1980年代に入り、コンサルティングビジネスが広く知られるようになると、多くの企業がコンサルティングを導入したために、どの企業も同じ戦略となりました。つまり戦略がコモディティ化するようになりました。
 
コンサルタントの戦略を採用する限り、ライバル企業も同じ戦略を取るため差別化にならなくなったのです。
 
図8 マッキンゼーの9象限マトリックス
図8 マッキンゼーの9象限マトリックス
 
このような中、BCGのデビッド・ホールは、カウンセラーの母の仕事を見ていて、コンサルタントは決して答えを与えず、クライアントの思考を促し、問題を体系化する手助けをするべきではないかと考えました。
 
ホールの考えた新しいコンサルティングは成功し、BCGの売上は増えました。

 

プロセスに対する関心

 
戦略がコモディティ化し、競合との優位性を得られなくなったため、戦略はより個別事業の詳細に入り込むようになりました。業界、分野ごとの個別のプロセスの改善に向かっていきました。
 

ボストン・コンサルティンググループ タイムベース競争

 
高度成長期に急激に発展した日本企業を調査・研究した結果、日本企業は製品ラインを増やすことでコストは増加するものの、その影響を最小限にしていることが判明しました。
その理由は、生産スピードを上げることでコストが削減されるためでした。
 
これは、トヨタのカンバン方式や1981年のHY戦争でのホンダの大量の新製品投入などが例として挙げられています。
 
事実、サプライチェーン全体において、付加価値が得られる時間は全体の時間に対し0.05~5%程度しかなく、95%以上の時間が、前工程の待ち時間や手直し、検査などに費やされていました。
 
そこでBCGはタイムベース競争理論を打ち立て、時間を1/4にすることで生産性は2倍に上がり、利益率は20%向上すると訴えました。
 
時間短縮によって得られるベネフィット

  • 価格プレミアム
  • 生産性向上
  • リスク低減
  • シェア拡大

 

コアコンピタンス経営 ハメル&プラハラード

 
コアコンピタンスとは、1990年にハメルとプラハラードによって提唱された「その企業の核となる能力・得意分野」の意味です。
コアコンピタンス経営とは、むやみに多角化に走らず、事業ノウハウや製品開発力、技術力など得意とする分野にヒト、モノ、カネなどの経営資源を集中して競争力を高める経営のことを指します。
 
コアコンピタンス経営の代表例として、ソニーの小型化技術、米フェデラル・エクスプレスの物流管理システム、トヨタの生産管理方式などが挙げられます。
 
図9 コアコンピタンスと事業の関連
図9 コアコンピタンスと事業の関連
 

リソース・ベースト・ビュー ワーナーフェルト

 
このコアコンピタンスの考え方を具体的なフレームワークに落とし込んだものがリソース・ベースト・ビューです。
リソース・ベースト・ビューとは、企業が競争優位を保てるかどうかは企業の経営資源や内部的なケイパビリティ(経営資源を活用できる能力)の開発次第であるとして、1984年にB・ワーナーフェルトによって提唱、その後1991年にジェイ・B・バーニーが展開し注目されるようになった戦略論のことです。リソース・ベースト・ビューはRBVと略されます。
 

【VRIOフレームワーク】 
リソース・ベースト・ビューの代表的なフレームワークで、企業の内在価値を探る4つ要素に対する分析です。
 

  • V:経済価値(Value)に関する問い

企業の保有する経営資源やケイパビリティ(組織としての能力)は、外部環境の脅威を無力化できるか? 
あるいは機会を捉えることができるか?
 

  • R:希少性(Rarity)に関する問い

その経営資源をコントロールしているのは、ごく少数の競合企業か?
 

  • I:模倣困難性(Inimitability)に関する問い

その経営資源を保有していない企業は、それを獲得あるいは開発する際にコスト上の不利に直面するか?
 

  • O:組織(Organization)に関する問い

企業が保有する、価値があり、稀少性があり、模倣コストが大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きが整っているか?
 
図10 VRIOフレームワーク
図10 VRIOフレームワーク
 

ビジネスプロセス・リエンジニアリング ハマー&チャンピー

 
ビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)は、1993 年に出版されたマイケル・ハマー&ジェイムズ・チャンピーによる「リエンジニアリング革命」で提唱されました。
 
定義

  • リエンジニアリングとは、

顧客満足度の視点から、
対競合に対して優位になるように業務プロセスを根本的に再設計し、
コスト・品質・サービス・スピードの面で経営を革新すること、
です。

 
リエンジニアリングの3つのキーワード

  • FUNDAMENTAL 抜本的に
  • RADICAL 過激に
  • DRAMATIC 劇的に

 
解釈

  • エンジニアリング(設計)ではなく、リエンジニアリング(再設計)だから、これは継続的な改善(On・Going・Improvement)である→ゴールドラットの「ザ・ゴール」のサブタイトル。
  • 対競合に対して優位となるベンチマーキングの手法も包含
  • 「プロセスのリエンジニアリング」とは、ベンチマーキングによるベストプラクティスの探求による再設計である。

 
BPRは「コスト、品質、サービス、スピードなどを劇的に改善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜本的にデザインし直すこと」です。
 
それまで社内の組織や個々の業務が主であった改革において、「顧客の立場を組織の横断的なプロセス単位で捉え、業務のやり方を根本的に再構築する」という点で新しいものでした。一方その取り組みは従来日本企業が取り組んでいたものを発展させたものでした。
 
実際には、ベンチマーキングによるベストプラクティスの探求は、他社が成功している方法を自社に導入するものですが、企業文化の異なる組織の方法を導入しても定着しませんでした。さらにBPRはダウンサイジングと同義語と捉えられ、リストラや人員削減の代名詞となったため、多くの社員の反対に遭い、急激に衰退しました。
 

バリュー・チェーン ポーター

 
バリュー・チェーンは、、マイケル・ポーターが著書で用いた言葉で、事業は顧客の価値を創造する活動と考え、価値の創造の視点から分解し、個々の活動のつながりを再構築する方法です。
 
バリュー・チェーンは、主活動と支援活動に分かれています。
主活動は、製品・サービスが顧客に届くまでの、「材料や部品の購買」「製造」「出荷」「販売・マーケティング」「サービス」などです。
支援活動は、「調達」「開発」「人事・労務管理」「全般管理」などがあります。すべての支援活動は個々の主活動に関連し、更にバリューチェーン全体を支援します。
 
図11 ポーターのバリュー・チェーン
図11 ポーターのバリュー・チェーン

 

ケイパビリティに基づく競争

 
コアコンピタンスがバリュー・チェーン上の特定の技術と生産の専門性を強調しているのに対し、BCGのケイパビリティはバリュー・チェーン全体においてより広い範囲を包括しています。
 
以下に、バリュー・チェーンの各段階でのケイパビリティの例と、レベル別に製品開発能力や企画力などのスキルや業務フローなどのスキルがる具体例を示します。
 
製品の納期が短いという特徴で差別化するにしても、製品開発力や生産技術力に加えて、業務フローや情報システムにも工夫が必要です。

 

ケイパビリティの具体例(バリューチェーン別)
■主要機能
開発

  • 開発人員
  • 開発スピード

生産

  • 生産ライン数
  • 生産能力

マーケティング

  • 製品市場管理能力

販売

  • 直販営業の質
  • 営業拠点数
  • 営業員数

 
■組織

  • 意思決定のスピード、情報共有化のレベル

 
■人材

  • 問題発見力、目標実現力

 
■技術

  • 特許、システム構築方法論

 
■財務・経理

  • 資金調達能力、製品価格設定力(原価企画など)

 
ケイパビリティの具体例(レベル別)
■スキル

  • 製品開発力、生産技術、企画力、コスト管理力、テクニカル・サポート

 
■プロセス

  • 情報システム、業務フロー、コミュニケーション

 
■プラットフォーム

  • 企業文化、意思決定システム、業績評価システム

 

ケイパビリティの基づく戦略とは、戦略の外的側面、市場における競争優位性に加えて、戦略の内的側面 組織能力の優位性を併せ持つ考え方です。この戦略の重要な要素として組織能力、業務プロセスそのものがあります。
 
カギとなる業務プロセスを顧客により高い価値を提供できるように高めるために、組織を変革したりプロセスに投資する必要があります。
 
重要なのは、ケイパビリティを、何かを遂行することできる能力として理解することです。ウォルマートの「EDLP(エブリデー・ロープライス)戦略」がケイパビリティなのではなく、その戦略を運用できるビジネスプロセスや仕組みこそが、戦略的なケイパビリティです。
 
実際にはウォルマートのクロス・ドッキング方式は、様々な利点があるにもかかわらず、競合他社が採用しないのはその運用の難しさのためです。クロス・ドッキング方式を運用するのにあたっては、各部門が高度に連携して遂行する高い能力が組織に必要です。
 

技術の視点

 

技術のS字曲線 マッキンゼー ディック・フォスター

 
1986年マッキンゼーのディック・フォスターは著書「イノベーション -限界突破の経営戦略-」で図のように新技術の投資に対する成果は、S字曲線を描くこと、そしてある技術で成熟した企業は次の技術にうまく飛び移れないことを主張しました。
 
図12 技術のS字曲線
図12 技術のS字曲線
 
その事例として真空管メーカーの上位3社、トランジスターメーカーの上位3社と、その後の主要半導体メーカーには全く関連がないことを示しました。
 

イノベーションのジレンマ クレイトン・クリステンセン

 
1997年ハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンは、大企業にとって、新興の事業や技術は市場が小さく魅力がない上、既存の事業と競合するため取組が遅れ、新興企業に市場を奪われることを指摘しました。
 
これは既存の事業が強力であればあるほど、その事業を改良することに注力し、顧客の新たなニーズに気がつかないことも原因です。
 

株価至上主義

 
グローバル金融主義は、1980年代アメリカの深刻な貿易赤字により大量のドルを発行し、世界中にお金余りの状況を作り出しました。世界を駆け巡る投資マネーは、アジア通貨危機やITバブルを生み、リーマンショックでは多大な被害を世界経済に与えました。
 
一方で実体経済をはるかに超える通貨は、投資家の力を強大にし、株価至上主義という状況を生みました。
 
今や経営者は、企業の長期的、永続的な発展より短期的な株価を上げるためのプレッシャーにさらされています。CEOが交代すると、どのような戦略を打ち出すのか、それにより株価はどう変わるのか、市場は注目します。
 
新CEOは経営コンサルタントに多額の費用を払い、企業価値を高める戦略を提案させ、市場に向けて発信します。それは基本的には以下のいずれかです。

  • 事業の売却、
  • 借入、投資(M&Aを含む)
  • コスト削減

 
しかしこれらの戦略の目指すところは、来期の売上や利益といった短期的な指標です。そして投資家もその企業の株を長期的に保有する意思は持ち合わせていません。
 

財務分析コンサルティング 価値創造経営(Value Based Management:VBM)

 
価値創造経営(VBM)とは、企業価値を高めることを目標とした経営であり、企業価値は、将来、その企業が獲得するキャッシュフローの現在価値より求められます。企業価値が投下資本を上回れば価値の創造がなされたことになります。
 
企業価値を測定するための経営指標には、経済付加価値と、市場付加価値とがあります。
 

  • 経済付加価値(Economic Value Added : EVA)

税引後営業利益から資本コストを引いて計算したもので、アメリカのスターン・スチュワート社が開発しました。
EVA(経済的付加価値)
=支払利息控除前税引後利益-資本コスト額
=(投下資本事業利益率-資本コスト率)× 投下資本額
 

  • 市場付加価値(Market Value Added : MVA)

MVAとは企業の市場価値の増加を表す指標で次のように計算できます。
 MVA = 株式時価総額 - 株主資本金額(簿価)
 

MVAが大きいということは、企業が株主から預かっている資金を効率よく運用して、付加価値を生み出していることになります。MVAは、将来期待されるEVAの現在価値合計と考えられるので、EVAを長期的に向上させることが、MVAの上昇に繋がります。
 
企業が価値を創造するためには、事業に使用する資産を調達し維持するために必要な費用を上回るだけの儲けを生み出すことが必要です。要するに、長期的に資本コストを上回るキャッシュフローを獲得しなければ企業は価値を生み出しているとは言えません。
 
VBMを徹底することで、経営目的が明確化し、適切な戦略判断が行われ、インパクトの高い業務改善が可能となります。さらに投資に必要な資金の内部留保が行われ、性格の異なる複数の事業の統括、事業リストラが促進されるなどの効用があります。
 

まとめ

 
このように経営戦略の歴史と発展を追っていくと、その時々の時代背景、経営理論の発展に加えて、アメリカ企業の事情やコンサルティングファームのビジネス背景が経営戦略論に大きな影響を与えていることが分かります。
従って、経営戦略論や経営戦略手法を用いる際には、その理論の成り立ちや時代背景を理解した上で用いる必要があります。
 

本コラムは2016年9月21日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

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イノベーターの敗北、真の勝者は模倣者か?

なぜたびたびイノベーションを取り上げるのか?

 

中小企業経営に対するイノベーションのインパクト

この経営コラムでも、イノベーションについていろいろと記事を書いてきました。理由は、大きなイノベーションが起こると、それまで広くつくられてきた製品が一気に変わってしまうからです。

これは自社製品を持たず、メーカーに部品や設備を納入する下請け企業には大きな影響があります。時には売上の大半を占める企業の製品がイノベーションの波にのまれ消えてしまい、自社の売上が激減することもあります。
 

愛知県豊橋市のプラスチック成形の中小企業 樹研工業の松浦社長は、たまたま新幹線で乗り合わせたエリクソンの社員が日本の東北に部品を買い付けに行っていることを知ります。そして日本ではまだ珍しかった携帯電話が世界的に広まっていることを知りました。それをきっかけに調べたところ、欧米ではゼニス、RCAなど名だたる家電メーカーがことごとく、家電から撤退していることを知ります。
 

受注の大半を家電メーカーに依存していた樹研工業の松浦社長は、将来大きな危機が来ることを予感しました。そこで小型で精密な樹脂成形技術の開発に取り組み、10万分の1グラムの歯車を試作し、展示会に出展しました。これをきっかけに時計メーカーと取引を開始し、家電の売上比率は減少しました。その直後、国内の家電メーカーは円高のため大挙して工場を海外へ移転し、廃業する下請けの中小企業も出ました。同社の事業転換は、会社の存続にギリギリ間に合いました。
 

かつて世界を席巻した日本の半導体、日本の独自開発で特許のほとんどを押さえていたDVD、世界的な発明といわれた青色LED、これらの製品の現在の主要メーカーはどこでしょうか?

では、自動車はどうでしょうか?他業種、他社からのイノベーションによりシェアを失うことはないのでしょうか?

私たちは、松浦社長のように常にアンテナの感度を高くして、来る変化を見逃さないようにする必要があるのではないでしょうか?
 

企業が生き残るのに本当にイノベーションが必要?

 

近年、イノベーションの重要性が強く叫ばれています。大企業は、

「生き残るためには新たなチャレンジに取り組みイノベーションを起こさなければならない」

と言われています。

日本では国が2007年に長期戦略指針として「イノベーション25」を策定しました。

欧米でも同様で、

「イノベーションか、死か」

とまでいわれています。
 

イノベーション理論は「後出しじゃんけん」ではないか?

では、本当にイノベーションを起こした企業が発展し、生き残っているのでしょうか?
後述するように画期的なイノベーションを起こした企業が後発企業に市場を奪われた例は少なくありません。そう考えると、多くの書籍や経営学の論説は、成功した結果に後から理論を当てはめた「後出しじゃんけん」になっていないでしょうか?
 

  • 日本はすり合わせ型ものづくりに強い

パソコンのように個々に互換性のある製品を組合せて完成する「モジュール型製品」に対し、デジタルカメラのように画像センサーと画像処理回路などを高度に微調整(すり合わせ)しなければならない「すり合わせ型製品」は、すりあわせに高度な技術が必要なため、日本は優位といわれていました。その「すり合わせ型製品」のデジカメ、中でもコンパクトデジカメは、スマートフォンに市場を奪われ、価格競争が激化し、日本はシェアを急速に落としました。では「すり合わせ型製品」の自動車はどうでしょうか?
 

  • 技術開発で先行し、技術を特許で守れば勝てる?

DVDは日本が独自開発した技術で、主要特許の大半を日本が押えています。しかし日本製のDVDプレーヤーは今やほとんどありません。
 

  • 専門家の誤謬

破壊的イノベーションの理論を打ち立てたクリステンセン氏は、2007年iPhoneが登場した際、次のように評しました。

「私の理論でいくと、アップルはiPhoneで成功しない。彼らは同じ産業の既存のプレーヤー同士の異常なまでに競合するということが動機になっているにすぎない。それでは本当に破壊的とは言えない。歴史を見る限り、成功の可能性は限られている。」

クリステンセン氏でさえ、iPhoneの破壊的な要素に気がつきませんでした。
 

クリステンセン氏も気づかなかったiPhoneの破壊的な点は、外出先でもどこでも手軽にインターネットを使えるようにしたことです。これをタッチパネルという新しいユーザー・インターフェースで実現しました。そしてご承知のように「どこでもインターネットを使える」ことで、私たちの生活は激変しました。
 

クリステンセン氏のようにイノベーションを研究している専門家でさえ誤るとしたら、誰が画期的な製品や革新的な技術を見出すのでしょうか?
 

イノベーションは会社や上司から理解されない

イノベーションは「革新的であるがゆえに、誰もそれが革新的なことが分からない」という一面があります。

そのため、多くのイノベーターたちは、上司から認められることなく、あるいはこっそりと隠れて(通称 闇研)何年も革新的な技術やアイデアを開発してきました。
 

  • VHSビデオを開発したビクターの高野氏は、開発費の削減を迫る本社の目をごまかすために、水増しした販売予測や事業計画を作って予算をつなぎとめました。
  • カメラ事業からコピー機事業に軸足を移しつつあった小西六写真工業で、オートフォーカスカメラの研究を続けた百瀬氏は、とうとう研究費も失いました。それでも百瀬氏の上司は、隠れ蓑となる研究テーマを彼に与え、会社には内密で研究費を捻出し、研究を続けさせました。そして彼の研究は「ジャスピンコニカ」として大成功を収めました。

 

このように革新的な製品や技術を生み出したイノベーター達は、その研究を続けるのに大変な苦労をしました。
 

冷ややかな反応だった初代ウォークマンのマスコミ発表

たとえ製品化しても、革新的な製品はそれを受け入れる市場がありません。そのため市場を創るところから始めなければなりません。
 
ソニーが最初にウォークマンを発売した時、発表会での反応は散々でした。それまで歩きながら音楽を聞く習慣がなかったため、記者たちもこの製品をどう評価してよいのかわかりませんでした。顧客の反応も悪く、発売後1か月はほとんど売れませんでした。

そこでソニーは、販売員にウォークマンを持たせて、ヘッドフォンで音楽を聞きながら東京の繁華街を歩いてPRしました。そして発売して2か月ほど経ったころ、若者たちの間で「音楽を聴きながら歩くのがかっこいい」という流れができて爆発的ヒットしました。
 

イノベーションよりイミテーション

 

それなら自らイノベーションを起こさずに「イノベーターが切り開いた道をあとからついていった方が良い」かもしれません。

現実にイノベーター達が大変な苦労をして開拓した市場の多くは、後から参入した模倣者に奪われています。
 

マネシタ電器

この模倣戦略を徹底していたのが、かつての松下電器(現在のパナソニック)です。

創業者の松下氏は、ランチェスター戦略も学んでいました。このランチェスター戦略は、シェア1位の企業は常に2位以下の企業に気を配り、彼らが新たな製品を開発したら間髪を入れず対抗製品を出して1位の座を守ります。松下氏も常々社員に「しっかりまねしているか」と激励していたそうです。
 

松下氏は、
「うちはソニーという研究所が東京にありましてなあ、ソニーさんがね、何か新しいものをやってね、こらええなとなったら、われわれはそれからやりゃあいい」
と語っていました。
 

マネをするにも技術がいる

多くの日本企業もかつては模倣者でした。戦後から高度成長期にかけて、技術では欧米に後れを取っていた日本企業は、まず欧米の技術を導入し、製品をマネしました。ただ、例え原理や技術が分かっても、実現するためには多くの苦労がありました。マネをするにも技術が必要でした。
 

トランジスタの製法から開発したソニー

ソニーは、トランジスタラジオを開発するために、米国ウェスタンエレクトリック社からトランジスタの特許を巨費を投じて買いました。つまり技術を買ったわけです。
しかし、トランジスタの製造方法の情報はわずかしかありませんでした。トランジスタは各社で製造に取り組み始めたばかりで、量産技術は確立していませんでした。ソニーは特許は買ったものの、製造は自前で量産技術を開発し、ラジオをつくることを決意します。
 

ソニー創業者のひとり、井深大氏は以下のように語っています。

「トランジスタの歩留まりが100個のうち5個になったとき、ラジオの生産に踏み切った。当たり前の企業家だったらこんな無茶な計画は立てるわけがない。しかし、歩留まりは必ず向上する目算があったので、私は思い切って決断した。
もしあのとき、アメリカでものになってからとか、欧州の数字を見てからこれに従ってなどと考えていたとしたら、日本がトランジスタラジオ王国になっていたかどうかは甚だ疑わしく、今日のソニーもあり得なかっただろうし、この無謀は貴重な無謀だったと考えている。」

このように相当大きなリスクを取った上の決断でした。

そしてソニーがトランジスタラジオを発売し、大ヒットすると、直ちに国内メーカーが追随し激しい競争となります。一度できることが分かれば、「できることが分かっていることにチャレンジする」のは容易だからです。
 
評論家の大宅壮一氏は週刊誌に以下の記事を書きました。

「トランジスタでは、ソニーがトップメーカーであったが、現在ではここでも東芝がトップに立ち、生産高はソニーの2倍半近くに達している。つまり、儲かると分かれば必要な資金をどしどし投じられるところに東芝の強みがあるわけで、何のことはない、ソニーは、東芝のためにモルモット的役割を果たしたことになる」

これがソニーモルモット論です。
 

ソニー製 トランジスタラジオ1号機

図1 ソニー製 トランジスタラジオ1号機(Wikipediaより)
 

これに対し井深氏は、
 

「私どもの電子工業では常に新しいことを、どのように製品に結び付けていくかということが、一つの大きな仕事であり、常に変化していくものを追いかけていくというのは、当たり前である。
決まった仕事を、決まったようにやるということは、時代遅れと考えなくてはならない。ゼロから出発して、産業と成りうるものが、いくらでも転がっているのだ。これはつまり商品化に対するモルモット精神を上手に生かしていけば、いくらでも新しい仕事ができてくるということだ。
トランジスタについても、アメリカをはじめとしてヨーロッパ各国が、消費者用のラジオなどに見向きもしなかった時に、ソニーを先頭に、たくさんの日本の製造業者がこのラジオの製造に乗り出した。これが今日、日本のメーカーのラジオが世界の市場で圧倒的な強さを示すようになった一番大きな原因である。これが即ち、消費者に対して種々の商品をこしらえるモルモット精神の勝利である」

とし、さらに

「トランジスタの使い道は、まだまだ私たちの生活の周りにたくさん残っているのではないか。それを一つひとつ開拓して、商品にしていくのがモルモット精神だとすると、モルモット精神もまた良きかなと言わざるを得ないのではないか」

と語っています。
1960年、井深の藍綬褒章受章を祝って、社員は井深氏に“モルモット”の像を贈りました。
 

ところが、21世紀に入りイノベーターがモルモットで終わり、模倣者が勝利する例が増えてきました。
 

模倣者の利点

模倣者はイノベーターに比べて以下の点で有利です。
 

  1. イノベーターが大変な労力をかけて新製品を顧客に認知させ、時には新たに創り出した市場にただ乗り(フリーライド)できる。
  2. すでに完成した技術をコピーするため研究開発費を節約できる。この研究開発費には、イノベーターが商品を当てるために費やした数々の失敗も含まれる。
  3. すでに市場があり、顧客に認知されているのでマーケティング費用も節約できる。
  4. ベータマックス対VHSのような覇権争いに巻き込まれることもなく、市場を制覇した陣営に最初から加わることができる。
  5. イノベーターの製品の欠点が分かっているので、最初からより優れた製品を提供できる。
  6. イノベーターは成功体験があるため自信過剰に陥り、顧客の声をよく聞き改良することをないがしろにすることがあるが、模倣者は商品の良さや使い勝手でイノベーターを凌駕しなければならないため、そのような自己満足に陥ることがない。

 
実際、松下電器の例でみても、ソニーの後追いで出した製品は、ソニーにない機能や利点を備えていて、使いやすかった記憶があります。
(私が流行り物は人より遅れて手に入れるタイプだったために、余計そう感じるかもしれません。)
 

模倣者の成功例

カルフォルニア州に本拠地を置く液晶テレビメーカー、ビジオ社は、60万ドルの資本金で立上げ、現在はアメリカ市場でサムソンと匹敵するシェアを確保しています。
 

同社は研究開発や製造に投資しておらず、株主である台湾のOEMメーカーと契約してコストコ、ウォルマート傘下の大規模小売店を通じて販売しています。

大規模小売店のネットワークを活用して競合企業より安く売ることで優位性を得ています。
 

アップルはイノベーターか?

「アップルは革新的」というイメージを抱いている人は多いと思います。しかし実はアップルから生まれた技術は多くはありません。その点、多くの技術を自前で開発したソニーとは好対照です。スティーブ・ジョブズ自身

「次の革命を起こそうとするな。スマートで手頃な消費者商品を作り出せば、それでいい」

と語っています。

実際、革新的なパーソナルコンピューターだったマッキントッシュは、その技術の大半はアップルで発明されたものでありませんでした。ビジュアル・インターフェースやマウスは、ゼロックスのパロアルト研究所を訪問した時に見たものから着想しました。その後パロアルト研究所から数人の研究者を雇い入れています。
 

つまりアップルはアッセンブリーイミテーションの達人であり、自社のアイデアと外部の技術を縫い合わせて、エレガントなソフトウェアとスタイリッシュなデザインをまとわせることに強みがありました。

そういった点で、アップルは技術のオーケストレーター、あるいはインテグレーターだったのです。
 

どこまでが模倣で、どこまでがイノベーションか?

アップルのように「既に世の中にあるものを使って新たな製品やサービスを生み出すこと」は模倣と定義すれば、全てのイノベーションは模倣となってしまいます。
 

トヨタ自動車のカンバン方式は、同社の大野氏がアメリカのスーパーマーケットを視察した時にヒントを得ました。言い換えればスーパーマーケットのやり方を生産工場に持ち込んだだけです。しかしそれが決して簡単でないことは、多くの企業がカンバン方式を導入して挫折した点から容易に推察できます。
 

セオドアレビットは、イノベーションの定義として

「世の中の初めての試みである」
ことと共に
「その業界や市場にとって、初めての試みである」

ことを挙げています。

このように模倣もイノベーションと考えれば、模倣とイノベーションの境界はあいまいになってきます。
 

模倣スピードの拡大

 

さらに近年は模倣のスピードが加速し、イノベーターの先行者利益が極めて小さくなってきています。
 

後発医薬品の例

1990年代初め、カルシウム拮抗薬「カルディゼム」は特許が切れてから、後発医薬品に市場の8割を奪われるまでに5年かかりました。しかしその10年後に開発した降圧剤「カルデゥラ」は、特許が切れてから9ヶ月で後発医薬品に市場の8割を奪われました。そしてイーライリリーの抗うつ薬「プロザック」は、特許が切れてからわずか2ヶ月で市場を後発医薬品に明け渡しています。
 

このように模倣のスピードは以下の表のように早まっています。
 
表 模倣の広まる期間

1877年~1930年 平均23.1年
1930年~1939年 平均9.6年
1940年~ 平均4.9年

 
表 模倣者が市場に参入するまでの期間

1961年 20年
1981年 4年
1985年 1~1.5年

 

後発者が市場を奪ったPDA市場の例

PDA(携帯情報端末)市場は、アップル、シャープ、タンディ、カシオが先行し、その1年後にIBM、モトローラ、ソニー、ベルサウスが参入しました。しかし残ったのは、リサーチインモーション(RIM)、パームコンピューターでした。

リサーチインモーションは現在ブラックベリー・リミテッドと社名を変え、日本ではNTTドコモの3G及びGSMネットワークを直結し、企業向けソリューションとしてメールや自動車の車載システムなどの事業を提供しています。
 

模倣の容易性 デジタル化とモジュール化

様々な機能が水平分業化されたことで、従来は大企業でなければできなかった製品が零細企業でも容易にできるようになりました。
 

例1

 パソコンはマザーボードと電源、増設ボード、ディスクドライブを組合せれば個人でも製作できるようになりました。デザインやインストールするソフトに特徴を持たせれば、容易に新しい製品ができます。
 

例2 

携帯電話も無線集積回路、RISCチップ、アプリケーションソフトにモジュール化されているため、サードパーティモジュールを組合せて、中国のメーカーが新規参入し、中国市場の半分以上のシェアを獲得しました。
 

新興国プレーヤーの増加

中国などの新興国では、メーカーになって「一発当てる」ことを目指して多くの中小零細企業が切磋琢磨しています。彼らは「80%の確率で失敗するが、80回はトライする」といわれる粘り強さでチャレンジしています。

その理由の一つとして、先進国の製品が新興国の需要を取り込み切れていないため、空白の市場があるからです。先進国の製品は価格が高すぎ、新興国の需要を満たすことができません。機能を減らし、品質を落としてでも、価格を1/2、1/3にすれば、膨大な新興国の市場のニーズを満たすことができますが、今までの企業文化、新興国市場へのウェイトから、そのような製品を提供しません。一方新興国のメーカーは、もともとブランド力がなく、価格しか訴求すべき点がないため、徹底した低価格路線を貫きます。
 

法的保護の低下

国をまたいで競争するため、他国での自社の知財を保護しきれない問題があります。特許を出願しても、模倣コストを増加させる効果は、エレクトロニクス7%、化学20%、医薬品30%程度しかなく、模倣を遅らせる効果は限られています。
 

他国で特許を申請しても異議申し立てを受けて権利化できなかったり、特許を分析して迂回方法を発明したりします。さらに模倣者がその特許に手を加えて新たな特許を出願します。

新興国では裁判所も自国の企業に有利な判決を下すことがあり、例え特許を取得しても権利を守り切れないこともあります。
 

模倣のポイント

何を模倣し、何を模倣しないか、その選択は極めて重要です。
 

破綻したスカイバス航空

アメリカ オハイオ州コロンバスを本拠としていた超格安航空会社(LCC)スカイバス航空は、開業から1年で経営破綻しました。サウスウェスト航空やジェットブルー航空の優れた顧客サービスと、ライアンエアー航空の徹底したコスト削減の両方を取る戦略で、論理的に成り立たない複数の要素を模倣しようとしたためでした。
 

模倣する際の注意点

  1. 車輪を再発明しようとしない
    既にあるものや使い道がほとんどないものを発明するには、膨大な時間と労力がかかる。
    オリジナリティにこだわらず、すでにある技術や製品を活かしてより良いものを作ることに努力すべき。
  2.  

  3. 類人猿に従え
    生物的に決して強くない類人猿が今日まで生き残っているのは模倣能力があるからである。模倣は高度な能力であることを理解して、企業の模倣スキルを高める。
  4.  

  5. すぐに頭に浮かぶものを集めるな
    自社の専門分野以外も広く探索し、小さな企業だけでなく失敗した企業にも目を向ける。そして巷のイノベーターにも注意する。イノベーターのいるところ必ず模倣者もいる。
  6.  

  7. 物事の脈略(ストーリー)を読み取れ
    ある環境でうまく行っているものがほかでもうまく行くとは限らない。模倣する対象の脈略(誰に、何を、どのようにというストーリー)を理解し、異なる対象には、どのようなストーリーが適しているかよく吟味する。
  8.  

  9. ピースを正しく合わせろ
    ストーリーを正しく理解したうえで、必要な要素を分解して、適切に組み合わせること。
  10.  

  11. より価値の高い新製品をつくれ
    安い、質が良いだけでなく、より低コストでの製造なども模倣能力には必要である。

 
 

模倣からイノベーションを守る

 

日本企業の例 キャノン

同社は、創業間もない頃は設計の極意を会得するため、ライカなど海外の名機と呼ばれるものを隅から隅までデッドコピーしました。デッドコピーすることで、開発した人の設計思想を深く理解し、自分の中に取り込むことができます。そして、一流のものほど単純で美しいことに気づきました。
さらに同社は、コピー機事業で王者ゼロックスに立ち向かった時は、ゼロックスの中核特許を一字一句丸写ししました。そうすると良い特許には優れた製品設計と同様の美しさがあり、簡潔明瞭でありながら、適用範囲が広く、競合は簡単に突破できないようになっていました。
こうした学習の結果、同社は競合を困らせる手厚い特許を申請できました。こうしてコピー機市場は、主要特許がゼロックスとキャノンに押えられてしまい、他のメーカーは作っても高額なライセンス料をキヤノンとゼロックスに払わなければならないため、低い利益になってしまいました。 

画期的な製品を開発しても模倣者に市場を奪われることもあります。
あなたの取引先の業界には、今後どのようなイノベーションが起きるのでしょうか?
そして勝者はイノベーターか、それたも模倣者でしょうか?
 
(参考)
「コピーキャット 模倣者こそがイノベーションを起こす」 オーデッド・シェンカー 著 東洋経済
 

【イノベーションについてのまとめ】

イノベーションとは何か、日本企業のイノベーションの例、画期的なアイデアとそれを実現する方法、そしてイノベーターを脅かす模倣者の戦略など、今までのコラムを
「過去のイノベーションとデジタル時代のイノベーションについて」
にまとめました。良かったら、こちらもご参照ください。
 

本コラムは2016年7月17日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

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中小企業の高収益化の課題

 

中小企業と大企業との格差

 

現在、大企業はリーマンショックから回復し、円安もあって特に輸出割合の高い企業の業績は回復しています。

それに対し、その下請けをはじめとする中小企業は「利益なき繁忙状態」で、大企業と中小企業の格差が拡大しています。
 

実は、高度成長期以前は、日本企業は近代的な大企業と、前近代的な小企業・零細企業・農業等に分かれた「二重構造」でした。

そのため中小企業と大企業の間に賃金、生産性等に大きな格差が存在していました。
 

高度成長期以前の中小企業二重構造論

 

高度成長期以前の中小企業と大企業の格差の原因ほ以下に示します。

第一次世界大戦の好景気の際、大企業は良質な従業員の継続的な雇用のために、年功序列賃金や退職金制度を導入しました。

対して中小零細企業は、人口増加に伴う労働力の過剰により、低賃金化が進み、その結果、格差が拡大しました。

戦後も農地解放や戦地からの復員などにより、労働力の過剰供給が続きました。
 

その結果、昭和20年から30年代にかけて企業の付加価値生産額は、大企業の100に対し、中小企業は40と低い水準で、経済白書1957年版では、中小企業を「わが国の中の後進圏」とまで言っています。

つまり大企業の急速な待遇改善と、中小企業への過剰な労働力が、大企業と中小企業の格差の原因でした。
 

高度成長期の中小企業成長論

こうした「立場が弱く大企業から搾取される中小企業」という見方は、高度成長期に入り変化しました。
 

経済成長に伴い、所得水準自体が大きく向上しました。

高度成長期には労働力が不足し、中小企業も積極的に賃上げを行った結果、大企業との賃金格差はかなり縮小しました。
 

図1 実質労働生産性上昇率の企業規模間格差(中小企業-大企業)の推移とその変動要因(2014年度中小企業白書より)

 
図1を見ると高度成長期に中小企業は積極的な設備投資を行い、資本装備率は大企業に比べ高くなり、実施労働生産性も大企業に比べ増加率が高くなりました。
 
こうした中、中小企業の中には大企業に匹敵するような成長を経て、中堅企業に発展する中小企業が出てきました。
 
このような中小企業は以下の特徴がみられました。

  • 専門分野を掘り下げ、研究開発と独自の製造技術による、技術の高度化
  • 専門分野を掘り下げ、多くの産業や最終需要に適合する商品の開拓

 

国の中小企業支援方針の変化

 

1999年に改正された中小企業基本法は、このような変化を踏まえ中小企業政策の新たな理念を「多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展」を図ることに置き、
 

  1. 中小企業の経営基盤の強化
  2. 創業や経営革新に向けての中小企業者の自助努力の支援
  3. セイフティネットの整備

を基本的な柱とするものになりました。
 

バブル崩壊と格差の拡大

 

図2の大企業と中小企業の収益性を売上高経常利益率で見ると、高度成長期の1975年に大企業と中小企業が逆転し、その後差は拡大しています。

そしてバブル崩壊後の1993年に差はかなり縮まりましたが、その後また差が開いています。

そしてリーマンショック前の2006年には大企業は4.8%と過去最大になりましたが、中小企業は2.4%と差は拡大しました。
 

図2 大企業と中小企業の売上高経常利益率(2011年度中小企業白書より)

図2 大企業と中小企業の売上高経常利益率(2011年度中小企業白書より)


 

格差拡大の原因

 

一方、アメリカやドイツなど海外の中小企業とROA(株主資本利益率)を比較すると、日本の中小企業は劣っていて、海外の中小企業と比較しても収益性が低いです。

その原因として、以下の3点が考えられます。
 

・複雑な流通経路により、流通コストが高い

製品がメーカーから消費者に渡るまでに何重もの中間業者を経由するため、小売価格が上昇します。

一方1990年以降、日本はデフレに突入し、販売価格を上げる事ができなくなっていて、そのしわ寄せが、力の弱い中小・零細事業者にきています。

建設業では元請けが受注する工事金額に対し、4次5次の下請けの施工業者が受け取る金額は、元請けの受注金額の30%程度と言われています。
 

・収益性が低い原因は過当競争

日本政策金融公庫などの政府系金融機関が非効率な中小企業に資金を供給し続けることで、非効率な企業が市場から退出せず、過当競争になっています。

他国に比べても、政府が行う中小企業向けの金融支援は、直接融資、買い出し保証金額とも群を抜いて高いものとなっています。
 

・製品やサービスが差別化できていない
 

日本の中小企業は、アメリカの中小企業に比べROAの分布が低い方の一か所に集中していることから、多くの企業がリスクを取って収益性の高い事業に取り組んでいないためと考えられています。

ハイリスク企業が多いと図のようにROAの分布がばらつく傾向にあります。
 

図3 企業のリスクテイク行動とROAの関係(2016年度中小企業白書より)

図3 企業のリスクテイク行動とROAの関係(2016年度中小企業白書より)


 

これを日本とアメリカの中小企業と比較すると、日本の中小企業はローリスク企業が多いことがわかります。
 

また開業率、廃業率とも日本は他国に比べて低い水準であり、開業は少ない資金で始めることができる小売、飲食業が多いという特徴があります。
 

従って日本の中小企業の収益性が低い原因は、

  • 流通構造の多段階性が中間投入費を押し上げている。
  • 中小企業が過当競争に陥っている。
  • イノベーションなどのリスクを取った行動を行えていない。

この3点があげられます。
 

そのため、国や県の産業振興策、及び中小企業振興策には、創業支援や研究開発への支援が盛り込まれています。
 

日本の中小企業のイノベーションが海外より低調な原因

 

海外の企業と比較する際、日本企業固有の問題として、経営者の個人補償があります。
 

多くの中小企業は、負債に対して経営者が個人補償を行っています。

従って有限責任の株式会社でありながら、経営者個人に対しては無限責任となっています。
 

これは経営者の無軌道な借り入れを防止し、モラルハザードを防ぐ点で効果がある反面、倒産すると巨額の借金を個人が負う為、個人破産せざる得ない場合もあります。

社会的な評判や他者の視線を気にする日本社会の特徴もあり、倒産や破産により生活が破たんしたり、自殺の原因になったりします。
 

企業の開業、廃業率が低いことや、中小企業がリスクを取らない原因は、経営者の個人補償の問題が影響しています。

アメリカでは、負債に対し経営者の個人補償を求めることは少なく、個人補償をしたとしても、倒産時に債権者が個人財産の供出を強制することは人権問題となるため、極めて困難です。

海外のように何度も起業に失敗して、最後にIPOに成功して億万長者になることは、日本では極めて困難です。

一度失敗すれば、再起不能になるため、海外の起業家のようなリスクを取った行動はできません。
 

以前、インドのハイラマバードのインキュベーション施設の方と会いました。

大きなビルに300人以上の若者が入居し、起業していました。

その大半は、新しいITサービスでした。

彼らは、最初の資金は政府系の融資を受けて、新しいサービスを開発します。

そして数年である程度の形が出来上がると、民間のベンチャーキャピタル融資を受けます。

その中には、日本の孫正義氏の会社もあるそうです。

このハイラマバードには、マイクロソフトやグーグルも進出しています。

そして最終的には、彼らは自分の開発した製品やサービスをマイクロソフトやグーグルに買ってもらいます。

富を得て、マイクロソフトに迎えられます。

そして出資したベンチャーキャピタルも利益を得ます。

そうして一獲千金を夢見た若者たちがしのぎを削っています。
 

格差の原因 設備の老朽化

 

内閣府が発表した平成25年度 年次経済財政報告によれば、中小企業の課題として、全要素生産性TFPが低い点が指摘されています。

全要素生産性(TFP)とは、生産の増加のうち、労働や資本と言った生産要素以外の要因での増加を計測したもので、一般的には、技術的な進歩を示します。

具体的には、作業改善やより効率の高い設備への更新による生産性の向上などです。

TFPが低い要因の一つとして、設備投資が抑制され、生産効率の高い設備への更新が進まない点があります。

そして設備の老朽化が、生産効率全体を押し下げていると考えられます。

原因は、長年に渡るデフレにより実質金利が高止まりしている点や、過剰債務問題など考えられます。

その結果、設備投資が抑制され、生産効率の高い新規設備の導入を見送られています。
 

技術が高ければ、利益は高い?

 

このような背景の中、低収益に 苦しむ中小企業の業績は悪化する一方、大企業を超える高収益を実現する中小企業も増加しています。

やはり高い技術があり、ライバルが少ない企業は高収益なのでしょうか?
 

神戸大学大学院経営学研究科は、2001年に東大阪市の中小企業を対象に技術の高度性や市場の専門性と収益との関係を調査しました。

その調査結果から、意外なことがわかりました。
 

技術の高度性と収益性

調査結果には、高度な技術を持っていながら低収益の企業がある反面、高度な技術を持たなくても高収益な企業も多数存在しました。

中小企業の技術の高度性と企業収益の間には、関連がありませんでした。
 

市場の独占性と収益性

市場では自社しかない独占状態の企業の中には、高収益な企業が存在する反面、低収益な企業も存在しました。

一方で市場に10社以上存在する競争の激しい市場でも高収益な企業と低収益な企業が存在しました。

市場の独占性と企業収益の間にも関連がありませんでした。
 

この傾向は対象を下請け企業に限定しても変わらず、高度な技術を持ちながらも低収益な下請け企業もあれば、技術が高くなくても高収益な下請け企業がありました。
 

つまり今までの常識に反して、中小企業の

  • 技術の高度化
  • 市場の専門性(ニッチトップ)
  • 下請け企業か否か

3点は収益性に関連がないと調査結果は示しています。
 

高収益な中小企業の要因

 

では、高収益の原因は何か、考えられる複数の要因のうち、以下の3点を挙げます。
 

・取引先(収益性、取引姿勢

仕事を発注する取引先(メーカー)の経営が良くないと、そこからの受注の収益性が低下する傾向にあります。

また、経営状態以外にも、外注管理の方針の変化により採算性が大きく変わります。

つまり儲かっていない会社の仕事は儲からない、下請けいじめで利益を上げようとする会社の仕事は儲からないということです。
 

・経営姿勢(利益重視と売上重視)

高度成長期のような市場が拡大する状況では、顧客の需要を満たすために供給能力の確保、売上至上主義になります。

事実、売上が拡大している場合、経費の増加より売上の増加の方が大きく、利益は拡大します。

しかし売上が横ばい、もしくは下降傾向の局面では、個々の受注の利益をしっかりと押さえておかないと、全体の利益が確保できません。

一方中小企業は、原価や販管費を製品ごとに振り分ける仕組みがなく、個々の受注ごとの利益がわからない企業もあります。
 

・技術、製品を取り巻く環境

発注先企業の製品や製造技術が大きく変化すると、受注そのものがなくなったり、競合にシェアを奪われたりして、収益性が大きく変わります。

海外への生産移転や発注先企業の製品自体の消滅などもあります。

逆にこのような変化を活かして、より利益率の高い受注を獲得する企業もあります。
 

高収益な取引先

 

中小企業が高収益になるためには、高収益な企業と取引することが必要です。

では、高収益な取引先(メーカー)にはどのような企業があるのでしょうか。
 

従来、中小企業の取引先には、日本の大手メーカー、家電、自動車、工作機械などの系列航空機などは、日本を牽引が多く、そういった企業を思い浮かべます。

確かにこのような企業は、量も多く一度取引が始まれば安定した受注がありました。

しかし、家電や自動車などは、今は海外の企業と激しい競争を行っており、それほど儲かる製品はなくなってきています。

特に大量生産品は、中国企業が積極的に参入しています。

中国企業は、日本企業とは異なる価値観、戦略で経営しており、それは大規模な投資による低価格と大量供給による競合の殲滅です。

この戦略で国内の激しい競争を生き残った企業が、巨額の政府資本をバックに海外企業に挑戦しているのが実情です。

そのような大量生産市場よりも、グローバルでの市場はそれほど大きくなく、高度な技術やノウハウが必要な製品で、日本企業は強い存在感を示しています。

そのような企業は市場シェアや利益率が高い企業が多いです。

こういった企業をグローバルニッチトップ企業と呼びます。

そこで経済産業省が2015年に発表したグローバルニッチトップ100選から、収益性の高い大手~中堅企業を紹介します。
 

日特エンジニアリング株式会社

設立:1972年 従業員数:557名

平成27年3月期 売上高207億円、営業利益22.5億円、売上高営業利益率10.9%

【製品・サービスとその内容、強みの理由】

電子部品や、自動車や家電などに使用する各種モーターに使われるコイルを製造する自動巻線機を開発・製造しています。
自動巻線機は顧客に合わせて製造するため、これらの設計、組立には匠の技が必要です。
研究開発、ノウハウの蓄積、技術伝承を強みとし、世界市場シェア4割を有しています。
 

株式会社小森コーポレーション

設立:1946年 従業員数:1,814名

平成27年3月期 売上高912億円、営業利益64億円、売上高営業利益率7.0%

【製品・サービスとその内容、強みの理由】

オフセット印刷機の専業メーカーとして、精密加工や印刷ソフト等の技術、APC(刷版交換装置)や生産性向上のための自動化、省力化装置を世界に先駆けて開発し、世界市場シェア1割を有しています。
証券印刷機では、独立行政法人国立印刷局をはじめとして、世界十数カ国に紙幣印刷機を納入し、高い生産性と偽造防止技術があります。
 

フロイント産業株式会社

設立:1964年設立 従業員数:348名(連結)

平成26年2月期 売上高176億円、営業利益12億円、売上高営業利益率7.3%

【製品・サービスとその内容、強みの理由】

医薬業界に向けて、世界に先駆けて自動フィルムコーティング装置とフィルムコーティング液を開発しました。 
錠剤フィルムコーティング業務で蓄積したノウハウと、 独自の技術を活かして、国内市場における造粒・コーティング装置市場では7割のシェア、世界市場においては2割のシェアを有しています。
 

株式会社堀場製作所

設立:1953年 従業員数:5,787名(2013年12月31日現在)

平成27年12月期 売上高1708億円、営業利益193億円、売上高営業利益率11.3%

【製品・サービスとその内容、強みの理由】

VWの排気ガス対策の不正を暴いたポータブル式エンジン排ガス測定装置を始めとした、規制対象ガス成分の分析計として世界シェア8割を有し、各国排ガス規制や自動車開発の要望に対応しています。

他にも様々なガスや液体の計測や分析装置を製造しています。
 

Asynchronous machine as dynamometer for engine test bench, 250 kW

titl : Asynchronous machine as dynamometer for engine test bench, 250 kW


 

TOWA株式会社

設立:1979年 従業員数:425名

平成27年3月期 売上高212億円、営業利益16億円、売上高営業利益率7.5%

【製品・サービスとその内容、強みの理由】

半導体の素子を保護するために樹脂で覆うモールディング装置の開発から、販売・アフターサービスを行い、世界シェアは5割を超えます。

モールド工程の完全自動化を実現した全自動半導体樹脂封止装置、生産量によって増減可能なモジュール構造全自動半導体樹脂封止装置、樹脂有効使用率100%・樹脂流動レスの量産向け半導体圧縮成形樹脂封止装置などがあります。
 

日本電子株式会社

設立:1949年 従業員数:2742人(2013年3月末)

平成27年3月期 売上高953億円、営業利益29億円、売上高営業利益率3.0%

【製品・サービスとその内容、強みの理由】

試料表面に電子線を照射し、透過した電子をレンズで拡大投影して観察する透過電子顕微鏡を世界で初めて量産しました。
現在は11のグローバルニッチトップ商品があり、最も世界シェアの高い製品のシェアは7割になります。
 

エスペック株式会社

設立: 1954年 従業員数:1318名(連結)、844名(単体)

平成27年3月期 売上高336億円、営業利益26億円、売上高営業利益率7.7%

【製品・サービスとその内容、強みの理由】

家電製品などの信頼性、耐久性の評価に不可欠な環境試験器を日本ではじめて開発・発売し、約3割の世界シェアを獲得しています。
米国、中国、韓国、ドイツに100%子会社、中国(上海)、マレーシアに合弁会社を設け、世界43か国に販売代理店33社を設置し、販売およびアフターサービスを行っています。
 

株式会社日立ハイテクノロジーズ

設立:1947年 従業員数:10,436名(連結)4,351名(単独)

平成27年3月期 売上高6374億円、営業利益441億円、売上高営業利益率6.9%

主要製品 半導体製造装置、電子顕微鏡、素材・部品など

【製品・サービスとその内容、強みの理由】

日立製作所 中央研究所が開発したマルチキャピラリ方式により遺伝子配列を解析する、キャピラリ電気泳動型DNA解析装置を開発・製造しています。
これは、ヒトゲノムプロジェクトを始め、生物学、医学などのライフサイエンスに関わる研究分野に広く用いられ、世界トップシェアを獲得しています。
 

どうやって取引するのか

 

では、このような高収益企業があったとしても、すぐに新たに取引できるものではありません。

多くの企業は、地道に新規開拓していく中で、高収益な企業に巡り合ったというのが実情ではないでしょうか。

そのための方法として、展示会の活用があります。

ものづくりや製品開発に課題のある企業の技術者と出会う場として、展示会は有効です。
 

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