企業が環境の変化に適応し成長し続けるには、適切な経営戦略を立案し……
と言われます。
では、この経営戦略とは何でしょうか。
これまでの経営コラムを振り返りながら、製造業の経営戦略と、失敗事例について考えます。
経営戦略とは
戦略とは、元々軍事用語で、局地的な戦闘の方針戦術と対比して、広範囲、長い期間の戦いの方針です。これがいつのまにか経営に使われるようになりました。しかも経営における戦略の定義は人により様々です。
「経営戦略とは何か」と聞かれて即答するのは容易ではありません。
目指す姿への長期的な方針
この戦略は、現状から目指す姿へ向かうための長期的な方針・計画と私は考えます。これは会社全体での方針を示す全体戦略と、商品企画、製造プロセス、社内体制などの個別戦略があります。それらを具体的に年単位で行う取り組みが戦術です。この関係を図に示します。

経営戦略
そう考えると、自社の目指す姿がはっきりしていなければ、経営戦略は策定できません。
この経営戦略についての参考記事が以下にあります。
コンサルティングファームの台頭と経営戦略
一方で経営戦略という言葉が広まったのは、欧米のコンサルティングファームが台頭したためでもあります。
それは1950年代黄金期を迎えたアメリカ企業が1960年代に成長が鈍化した時に、それまでの過度な多角化を見直す際にコンサルティングファームが様々な分析手法を提案し、それを元に新たな方針を提言したためでした。
この中から、ボストンコンサルティンググループやマッキンゼーなどの著名なコンサルティングファームが台頭してきました。
一方、コンサルティングファームは、常に新しい戦略手法を生み出し、企業に提案しなければなりませんでした。その結果、様々な経営戦略手法が現れました。中には一時期非常にブームになったものの、今は顧みられなくなった手法もあります。
その経営戦略手法は自社の実情に合っているか?
その点では、かつての経営戦略手法は多角化が行き詰ったアメリカ企業に対するものであり、その後の経営戦略手法には、コンサルティングファーム自身が必要に駆られて創出した面があります。
そのような手法の中には、日本の中小企業の実情には合わないものも多くあります。経営戦略手法やフレームワークを活用する際は、その手法の特徴だけでなく生まれた背景や主に適用されている企業規模なども考慮する必要があると考えます。
コンサルティングファームと経営戦略手法についての参考記事が以下にあります。
価格戦争という戦略
一方、経営戦略は企業がある国や社会の環境、国民性によっても変わります。利に敏感で価格を非常に重視する中国では、欧米の経営戦略の教科書には載っていない「価格戦争」が非常に重要な戦略です。こうして価格を武器に、格力、美的、ハイアール、ハイセンスなどの中国企業が世界での市場を席巻しました。これにより日本企業の独壇場であった家電、エレクトロニクス製品の市場は中国企業に奪われていきました。
日本の価格競争
積極的な価格競争は日本企業も行っています。
1956年国内シェア1位、売上高利益率10%、万全の財務体質で東洋経済やダイヤモンドなどの経済雑誌でも優良会社といわれた会社がありました。
しかしその会社は4年後に赤字に転落、8年後に会社更生法の適用を受けました。現在は二輪車事業から撤退し、船舶用船外機のメーカー、トーハツ(株)です。
なぜ万全の財務体質のトーハツが倒産し、ホンダが飛躍したのか?
その原因はホンダの仕掛けた価格競争にありました。二輪車のようなマスマーケット市場では、いくら自社が良い経営をしていてもライバルからの攻撃に対抗できなければ、短期間に市場を失います。このトーハツとホンダの戦略の違いについの参考記事が以下にあります。
「なぜ、万全の財務体質のトーハツが倒産し、ホンダが飛躍したのか?」
このホンダの戦略を立案・実行したのは、専務の藤沢武夫氏でした。藤沢氏の参考記事は以下にあります。
「「経営に終わりはない」ホンダという会社を創った男 藤沢武夫(前篇)」
「「経営に終わりはない」ホンダという会社を創った男 藤沢武夫(後編)」
日本独自の経営戦略手法
経営戦略手法の中には、日本独自の手法もあります。経営コンサルタントの田岡信夫氏は、イギリスの航空技術者ランチェスターの軍事戦略「ランチェスターの法則」を経営に応用したランチェスター戦略を提唱しました。
このランチェスター戦略は、小規模企業が大企業と戦うための戦略として日本で独自に発展しました。このランチェスター戦略には「弱者と強者」「弱者の五大戦略」などがあります。
一方田岡氏は学問分野にあまり関心がなく、経営学では取り上げていないことが多く、知らない方もいます。その一方、熱心に勉強している経営者も多くいます。

ランチェスター第一法則
このランチェスター戦略の参考記事は以下にあります。
環境の変化
経営戦略を考える際に、今後の環境の変化を無視することはできません。そのために書籍やニュースを見ても、手に入るのは数年先の予想ぐらいしかありません。しかも多くの目を引くように扇動的な内容ばかりです。
では、今後はどのように変わるのか?
確率の高い情報は人口とGDPの変化です。人口の変化はこれまでの変化からかなり確実に予想できます。ここから各国の経済規模、GDPの変化もある程度予測ができます。
これを見れば世界の中で日本の立ち位置が今後変わっていくことがわかります。世界の中で日本の影響力は低下していきます。日本と回買い゛との関係は今後もどんどん変化していくでしょう。
では、どのように変化するのか、人口とGDPの変化を以下にまとめました。
「2050年、日本は世界の中に埋もれるのか。36年後の世界を統計データから読み解く」
日本の人口減少と社会の変化を以下にまとめました。
過去の歴史を振り返る
経済情勢の変化を考える際に、過去を知ることも役に立ちます。20年前、30年前のことを振り返ろうとすると、積極的に調べないとわかりません。私たち自身、昔のことは漠然としたイメージで「高度成長期の頃は景気が良かった」と捉えてしまっています。
実際には、1970年代以前の高度成長期でも不況があり、多くの企業倒産がありました。

日本のGDPの成長
これについては、以下を参照願います。
「高度成長時代の不況を振り返る。~30年先の経営を考えるために~」
また平成バブルについて、
なぜバブルが起きたのか?
国はどうすべきだったのか?
今から振り返ることも勉強になります。
環境の変化に適応できず失敗した企業の事例
長期的にみれば、今までの企業の取組や経営方針が今後も適切とは限りません。しかし環境の変化は非常にゆっくりしているため、よほど注意深く観察していないとわかりません。
日本の産業黎明期には、工業製品を製造できることだけでも価値がありました。金属加工の技術が未熟で十分な工作機械がなかった大正、昭和の初期には、自社の金属加工技術を生かして、様々な製品を製造する企業がありました。
工作機械の名門 (株)池貝は、英国の旋盤のコピーから始まって日本を代表する工作機械メーカーになりました。その後軍の要請もあり、ディーゼルエンジン、自動車、戦車などを手がけました。また新聞輪転機も製造しました。
戦後はプラスチック押出成形機、様々な工作機械の製造を手がけました。その後、産業の主役が重工業から、自動車や家電などに移行すると、得意とする大型工作機械が不振となりました。さらにNC化への対応の遅れなどから経営不振に陥り、2001年民事再生法を申請しました。
同社の衰退の原因には様々なものがあります。そのひとつに、技術が専門化し、それぞれの専門分野の企業が台頭する時代に変化したことが挙げられます。アップルはiPhone、iPod、iPad、Macなど製品ラインナップは多くありません。それであれだけの規模の企業となりました。
時代は変化し、多くの製品を手掛けていては開発力が分散し、起用号に打ち勝つことが出来なくなっていたのです。しかし池貝は従来の製品ラインナップを整理できませんでした。
この(株)池貝の変遷の参考記事は以下にあります。
「変化への対応 工作機械の名門 株式会社池貝の変遷と富士フイルムを襲ったデジタル化」
市場が急速に変化する今日
一方、今日では技術や情報の伝達スビートが非常に早くなり、市場の変化はかつてないほど急速に訪れます。新製品が市場に投入されてから、市場が拡大し、衰退するまでは、今までは釣り鐘型のゆっくりとした変化でした。それが今日では、市場が急速に立ち上がり、衰退するサメのヒレ(シャークフィン・カーブ)のような変化を起こします。
この市場の急速な変化とシャークフィン・カーブの参考記事は以下にあります。
本業喪失の危機
有名な例では、フィルムカメラからデジタルカメラへのイノベーションがあります。フィルムカメラ市場は年々拡大を続け、1999年にはピークを迎えました。一方で1990年代に製品化されたデジタルカメラは、2000年までは市場シェアはわずかでした。しかし2000年に入ると市場は急速に拡大し、2005年にはフィルムカメラは一部の愛好家にしか売れなくなりました。
このような市場の変化にポラロイド、コダックは倒産し、コニカはフィルムから撤退しました。富士フィルムでも「フィルムカメラはあと30年は持つのではないか」という楽観論が支配的でした。
本業喪失の危機に直面した富士フィルムの参考記事は以下にあります。
「変化への対応 工作機械の名門 株式会社池貝の変遷と富士フイルムを襲ったデジタル化」
経営戦略を立てることは、未来への道筋を考えること
このように考えると、自社の経営戦略を立てるためには、自社の事業とそれを取り巻く環境の変化を10年先、20年先まで考える必要があります。そこから自社の目指す姿をつくり、それに向かって取り組む方針を立てることが経営戦略の立案です。
そんな先のことはとても考えにくいのですが、現在はその未来に向かって確実に動いていきます。しかもそのスピードは早くなっています。
その結果、様々な職業が消えていきました。
電話交換手、鍛冶屋、たばこ屋、キーパンチャー、時計修理、製図のトレース、印刷の写植、行商
これらは現在ほとんど見なくなってしまった職業です。
今後も技術の進歩や新しいサービスの出現で多くの仕事がなくなってしまうでしょう。
そのような時代にあなたの会社は、どのような事業を行っているでしょうか。
本コラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
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このコラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストを元にしています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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