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原材料、人件費、光熱費などいろいろなものが値上がりしています。

値上げしなければ事業の継続が困難になります。

しかし取引先から「値上げするなら他に発注する」と言われ、なかなか値上げを言い出せない状況です。

製造業の値上げ交渉のポイントをまんがで解説

そこで

値上げ交渉はどのようにすればいいのか

取引先から値上げの根拠を求められたらどうすればいいのか

製造業の値上げ交渉に必要な準備と交渉のポイントをまんがで解説しました。

まんがでわかる製造業の値上げ交渉のポイント

内容

  • 値上げの手順
  • どんな資料を出せばいいのか
  • 原価はどうやって出すのか
  • 値上げが高すぎると言われた場合
  • 適正価格とは?

 

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    値上と価格交渉のポイント


     

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    「中小企業の資金調達と金融機関との関係2」~米国の中小企業金融との比較~

    中小企業金融のキーワード

    中小企業に対し金融機関は様々な取組を行っています。しかし、それぞれについて企業経営者の間ではあまり知られていません。そこで、主なものを以下に紹介します。
     

    リレーションシップバンキング(通称 リレバン)

    リレーションシップバンキングは、「金融機関が顧客の間で長期安定的な関係を築き、顧客の事業に対して質の高い情報を双方が共有することで貸出しを行うビジネスモデル」です。アメリカなどでは、リレーションシップバンキングと対比するものとして、「決算書などの公開情報のみで機械的に融資の可否を決定するトランザクションバンギング」があります。
     

    リレバンは顧客の経営に関する質の高い多くの情報が必要で、地域金融機関と付き合いの深い中小企業や、地域金融機関と長期的な取引関係を築いている企業に適した資金調達手段です。
     

    金融庁は不良債権処理を強力に推進する過程の中で、地域金融機関に対しては中小企業への円滑な融資を継続するために、2003年に「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」を交付し2005年まで取組ました。その4年後「地域密着型金融の取組みについての評価と今後の対応」の中でリレバンを恒久的に続けていく方針が示されました。
     

    このリレバンを活用することで、借り手の中小企業は、一時的に不振に陥っても金利の減免や追加融資などを受けられる可能性があります。また貸し手の金融機関も財務データ以外の多くの定性的な情報を入手することで、貸し出しリスクの低減を図ることができます。
     

    知的資産経営

    「知的資産」とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となるものです。これは、特許やノウハウなどの「知的財産」だけではなく、組織や人材、ネットワークなど企業の強みとなる幅広い資産の総称です。このような企業に固有の知的資産を認識し、有効に活用して収益につなげる経営を「知的資産経営」と呼びます。
     

    図1 知的資産とは

    図1 知的資産とは


     

    企業が勝ち残っていくには、差別化が必要です。そのためには身の回りにある「知的資産(見えざる資産)」を活用し、他社と差別化し、経営の質や企業価値を高めることができます。企業が持つ技術、ノウハウ、人材などの知的資産を洗い出しと評価を行い、それらをどのように活用して価値を生み出したかを示したものが「知的資産経営報告書」です。
     

    過去から現在までの価値創造のプロセスに加えて、 将来のプロセスも明らかにし、企業がこれからの価値創造を説明する際に、信頼性を高めます。財務諸表だけでは、中小・ベンチャー企業の良い点がなかなか理解されず、また経営者にとっては当たり前でも取引先や金融機関が知らないことがあります。
     

    知的資産経営報告書は、中小・ベンチャー企業が有する技術、ノウハウ、人材などの知的資産を企業自身が的確に認識し、それを取引先や金融機関に伝えるには大変有効です。
     

    図2 知的資産を開示するメリット

    図2 知的資産を開示するメリット


     
     

    ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)

    ローカルベンチマークは、企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツールとして、経済産業省が推進するものです。これにより経営者や金融機関・支援機関が、企業の状態を把握し、双方が同じ目線で対話を行うことができます。また事業性評価の「入口」として活用されることが期待されています。
     

    図3 財務情報分析画面

    図3 財務情報分析画面

    図3 財務情報分析画面


     

    体的には、「参考ツール」を活用して、「財務情報」と「非財務情報」に関する各データを入力します。これを使って企業の経営状態を把握することで経営状態の変化に早めに気付いて早期の対話や支援につなげていくことができます。
     

    図4 非財務情報入力画面

    図4 非財務情報入力画面


     

    事業性評価に基づく融資

    「事業性評価融資」とは、決算書の内容や保証・担保だけで判断するのではなく、企業の事業内容や成長可能性も評価して行う融資のことです。
     

    • 一般的な融資  … 財務データと保証・担保で融資可否を決定
    • 事業性評価融資 … 事業内容や成長可能性等も評価して融資可否を決定

     

    従来の決算書などの財務情報や保証・担保のみによる融資では、成長力があっても財務面がよくない企業には、必要な資金が調達できないことがありました。そのような成長力のある企業が資金的な制約で事業に支障をきたすことは地域経済、さらに日本経済にとってもマイナスです。そこで2014年の「日本再興戦略」に「地域金融機関等による事業性を評価する融資の促進等」が盛り込まれました。
     

    さらに2014年金融庁の「平成26年度 金融モニタリング基本方針」に「事業性評価に基づく融資等」が盛り込まれました。この方針の中で、「金融機関は、財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、借り手企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価し、融資や助言を行い、企業や産業の成長を支援していくことが求められる」と明記されました。
     

    これだけを見ると、先のリレーションシップバンキングと同じように見えます。実際は、前回の金融の歴史で説明したように金融庁の金融検査マニュアルに基づく不良債権の査定が厳しく、手形貸付(短期融資)が減少し、中小企業のキャッシュフローが悪化したことの対策として取り組まれたものでした。財務データや担保・保証に依存しない融資は、通常運転資金を証書貸付(長期融資)から手形貸付(短期融資)へ転換することを意味しています。将来性が有望であってもリスクの高い融資を増やす意味ではありません。
     

     ただし業況の厳しい企業にとって、財務指標以外の自社の強みや事業の有望性をPRすれば、「事業性評価に基づく融資」の流れが追い風になります。また金融庁は、金融庁検査の中で、事業性評価に基づく融資も審査しています。対して金融機関の中には、事業性評価シートを現場の行員がひたすら埋めているような金融機関もあり、対応に差があります。
     

    ABL(Asset Based Lending:資産担保融資)

    ABLは、企業が保有する在庫や売掛債権、機械設備等を担保として実行する融資です。従来融資の担保の多くは不動産や個人保証でした。ABLはそれらに依存しない融資として関心が高まっています。一方ABLを実施する場合、担保となる在庫や売掛債権、機械設備等は資産価値の評価が不動産に比べて容易でありません。また、定期的な再評価も必要となるため審査やモニタリングにコストがかかるという課題があります。
     

    金融アセスメント法

    「地域と中小企業の金融環境を活性化させる法律」(金融アセスメント法)は、中小企業家同友会が主体となり国に制定を働きかけている法律です。これは次の実現を目指しています。
     

    1. 物的担保優先や連帯保証による融資の割合を減らし、中小企業の潜在能力や事業性による融資を拡大する
    2. 貸手と借り手の公正な取引関係を目指す
    3. 融資姿勢の情報を公開し、地域と中小企業との共存共栄を図る金融機関を利用者が支援し、育てること。

     

    その趣旨は、金融機関から評価・査定されるだけでなく、借り手の企業からも金融機関を評価しようとするものです。この制度のモデルはアメリカの地域再投資法(Community Reinvestment Adt / CRA)です。CRAは経済的正義をかかげ、低所得者層が住む地域の金融の円滑化を図り地域の発展を目指すものです。CRAでは、銀行は企業の将来性を考慮して融資しているか、地域貢献を考慮した融資をしたかなどが審査されます。
     

    日本の金融機関とアメリカの銀行との比較

    オーバーバンキングの問題

    「日本は銀行が多すぎ過当競争に陥っている」一部の識者やマスコミにはこのような論調が見られます。では、実際にはどうなのか、アメリカの銀行の数と資産規模と、日本の銀行・信用金庫の数と資産規模を表に示します。
     

    表 日米の金融機関数の比較
    表 日米の金融機関数の比較
     

    2012年には、アメリカの銀行数は7,083行、そのうち資産規模10億ドル未満の銀行が6,421行と全体の90%を占めています。対して日本は銀行、信用金庫を合わせて387行しかありません。資産規模では1,000億円未満の銀行、信用金庫は35行で、資産規模1兆円以上の銀行、信用金庫が122行と全体の31%を占めています。つまり日本の銀行、信用金庫の数は、アメリカよりも少なく、一方規模はアメリカよりも大きく、1行が取引する顧客数も多いことがわかりました。
     

    1行取引と銀行との信頼関係

    アメリカは、従業員が20万人以上という日本のメガバンクの10倍近い超巨大銀行がある一方、日本の地方銀行・信用金庫より規模の小さい地域密着型の銀行が多数あるという特徴があります。
     

    貸出先は、資産規模100億ドル以上の大手銀行では中小企業の割合が2割程度なのに対し、資産規模1億ドル未満の銀行では貸出先の9割が中小企業です。これに対し、日本では都市銀行で貸出し先の約6割、第二地銀で約8割が中小企業です。従ってアメリカの銀行ほど明確な棲み分けがなされてなく、都市銀行でも利幅の厚い中小企業向け融資を重視していることが分かります。
     

    日本では中小企業でも複数行取引が一般的なのに対して、アメリカでは中小企業の8割以上が1行取引です。銀行と経営者との親密な関係によるリレーションシップバンキングが主流となっています。
     

    しかし近年は中小企業でも大手銀行からの貸し出しが増え、複数行と取引を行う中小企業も増えました。大手銀行が行う「コンピューターの財務データ分析で融資可否を審査するクレジットスコアリングレンディング」は中小銀行より金利が低く、そちらを選択する中小企業が増えたためでした。一方で、クレジットスコアリングレンディングは業績が悪化すると無条件に融資を止められることがあり、これに気付いた中小企業の中には、従来の中小銀行との取引に回帰するところもあります。
     

    アメリカの銀行の実例から

    従業員3,000人程度の中堅銀行の例

    各種預金、クレジットカード、短期・長期資金融資、貿易金融、不動産ローン、プライベートバンキング・資産管理などのサービスを提供しています。
     

    信用力のある中小企業や個人事業主に対し、顧客が必要とする様々な金融商品やサービスを提供しています。近年はビジネスクレジットカードに力を入れていて、仕入れにもビジネスクレジットカードが活用され、短期融資枠の小さい企業では、運転資金の一部を担う場合があります。顧客との関係性構築は、企業への融資だけでなく、経営者やその家族の口座開設や住宅ローンなど多面的なアプローチを行っています。
     

    中小企業のオーナーは非常に多忙で複数の銀行と取引し同じことを何度も説明することを好みません。当行から様々なサービスを提案し、当行と取引することのメリットを理解してもらい、当行に集約するように働きかけています。
     

    従業員100人以下の複数の小規模銀行の例

    規模拡大よりも優良顧客の獲得を重視しています。リレーションシップマネージャーなど営業担当者に対して、預金残高や貸付額の拡大も一応評価しますが、最も評価するのは健全性の高い企業を獲得することです。融資審査は、財務諸表の分析の他、オーナーや経営陣のマネジメントスキルと実績が審査の重要なポイントです。中でも評価の中心は経営者個人の能力や誠実さです。
     

    担保価値は不動産、売掛債権、在庫などに一定の掛け率をかけて行います。経営者の個人資産と個人保証を合わせとることが多いのですが、融資が焦げ付いたとしても住宅を差し押さえることはしません。リレーションシップマネージャーが最低でも年に4回は顧客を訪問し様々な話をします。
     

    その中で顧客の要望が高いのは、

    1. 融資相談に対する迅速な対応
    2. 問題が生じた時の対応策の提示
    3. 事業や経営のアドバイス・コンサルティング
    4. 当行の最高責任者などマネジメント層との直接面談

    です。
     

    5C (現金Cash, 規模Capacity, 信用Credit, 経営者の特徴Character, 担保Collateral)はどれも重要ですが、最も重視するのは経営者の特徴(Character)と担保です。経営者の特徴の判定では、信用履歴や管理能力、事業に対する経験などを確認します。担保や経営者の個人保証は大抵取りますかが、当行は財務状況基づき堅実に融資を決定するので、経営者個人の住宅まで担保に取ることはしません。
     

    ABLについては、売掛債権や在庫の一部を担保に取ることはありますが、純粋な意味でのABLは行っていません。当行はあくまで企業のキャッシュフローに対する融資であり、業績が芳しくない企業の場合は、こうした企業にABLを実施しているハイリスク・ハイリターンの金融機関やファイナンスカンパニーを紹介しています。
     

    中小企業の金融機関との関係 従業員12人の製造業の例

     資金調達は銀行からの融資が中心です。大手金融機関から設備投資資金の融資を受けた際は、導入した設備を担保としたほか、経営者の個人保証も行いました。大手金融機関のリレーションシップマネージャーは、若い行員が多く中小企業への理解が不十分と感じています。金融危機後は融資が厳しくなり、財務諸表を提出し担保に出せる物件や売掛債権もあり、新たに受注した契約書も見せたが融資が受けられなかったことがあります。
     

    日本のリレーションシップバンキングについて

    本来、リレーションシップバンキングは、企業がメインバンクである金融機関に対して非公開情報を独占的に与えることで、金融機関から経済環境に左右されることのない安定した融資を受けられるという互恵的関係です。しかし日本では銀行に対する保護政策がこの健全なリレーションシップを阻害してきました。
     

    戦後、国は産業育成の資金供給を目的として金融機関に対して

    1. 調達金利の規制(規制金利)
    2. 金融当局による経営介入および暗黙の保証
    3. 資本市場機能の意図的な制限
    4. 銀行業務への参入制限

    等の保護を与えてきました。
     

    そのため①、②により、取引先に対する積極的な情報収集や信用リスク計測など金融機関が情報の非対称性を解消しようとする意欲が消失し、一方で、③、④により借り手企業側の自由な資金調達手段が封じられました。
     

    このためそれまでの日本は、取引先との間での情報の非対称を解消する必要がありませんでした。また上昇を続ける不動産価格を担保に融資することで、表面上は企業とのリレーションシップを維持し続けることができました。
     

    しかし1990年代以降、不動産等資産価格の暴落と規制緩和による公的保護の消失、さらに経済情勢の低迷による企業収益の悪化、90年代後半の金融機関への自己資本規制の本格導入が金融機関の経営を変化させました。一方、企業が資金調達手段の多様化をしてこなかったのは、金融機関との親密な関係が不況の時でも安定的に資金供給を受けられるという期待があったためでした。これは金融機関の貸し渋りにより、期待は裏切られました。
     

    このように規制により歪められた日本型リレーションシップバンキングは、経済環境の激変により瓦解しました。そこで新たに金融庁は「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」で、地域金融機関に対して「リレーションシップ」による収益力強化を求めています。
     

    リレーションシップバンキングは、金融機関の収益性と中小企業の融資の利便性の双方の向上をもたらすものでした。しかし収集される経営者の特性や地域での評判など「定性情報」は、財務情報のように数値で表すことが困難です。そのため融資の際に、数値による基準が設けられない以上、人間による「判断」が必要となります。
     

    この「判断」に最も適しているのは直に定性情報源に接する営業担当者であり、営業担当者にある程度の与信権限を与えるのが最も効果的です。しかし営業担当者が顧客企業に接近しすぎると過剰な融資や杜撰なモニタリングを行い、結果として収益性の悪化を招くことが想定されます。
     

    アメリカの銀行などは営業担当者の報酬体系に融資実行の実績だけではなく、そのパフォーマンス(利益率、回収・延滞率)等の成績も含め、営業担当者が既存融資へのモニタリングに関心を失ったり、過剰な貸し込みを行ったりすることを防いでいます。
     

    今後は大手「主要行」は、中小企業のような小口の案件についてはクレジットスコアリングを主とした「トランザクションバンキング」により、効率化・低コスト化を図っていくと思われます。一方、「地域金融機関」はそれぞれの地域の情報に精通しており、リレーションシップバンキングを活かして優位となるはずです。しかし優良な取引先に対しては「主要行」と競争となった際は、リレーションシップバンキングはトランザクションバンキングに対して価格競争力の点で不利です。
     

    これまで金融機関は量的拡大を重視してきました。しかし今後は収益性向上が至上命題となります。そのため、企業ごとに収益性を考慮して営業手法を選択するようになります。大手銀行と競争となるような優良な顧客に対してはトランザクションバンキングを活用し、トランザクションバンキングの対象とならない情報の非対称性の大きい顧客については、長期的視野からリレーションシップバンキングを構築していきます。こうすることで安定した利益を得ることができます。
     

    金融機関の目線から見た銀行とうまく付き合う方法

    それではこのような状況にある金融機関と上手に付き合うにはどうしたらよいでしょうか。金融機関の置かれている状況から考え、金融機関にとって良い取引先となる方法を考えます。
     

    定期的な報告 数字は銀行員の食べ物

    今後、金融機関には事業性評価による融資やリレーションシップバンキングなど、企業とより密接な関係を構築することが求められます。しかし様々な業務を抱えている金融機関の担当者には、このような取組は容易ではありません。また貸出先の経営情報は、定性的な情報だけでなく数字も必要です。
     

    そこで企業の方から定期的に経営状況を報告すれば、金融機関の担当者はとても助かります。企業によっては、毎月試算表、残高表、売上予定表の3点を毎月持参し、業況の悪い時もそのまま報告しているところもあります。さらに毎月直接会うことで親密な関係を築くことができます。そして定性的な情報だけでなく試算表や売上計画などの数字も提出します。元銀行員のある方は「銀行員にとって数字は食べ物」と語っています。
     

    経営計画書との対比

    一方現在だけでなく、「今後会社はどうなるのか」、「経営者はどうしようと考えているのか」こういった情報は口頭だけでなく、文書化するのが有効です。金融機関の担当者は顧客の情報を上司や本部に報告しなければならないことがあり、その際に文書であれば容易に伝えることができます。
     

    このような文書に経営計画書があります。3年の中期経営計画と1年の年間計画があり、会社の将来の姿を適切に伝えることができます。たとえ現在業績が思わしくなくても、今後の具体的な計画が示されていれば担当者は安心できます。また計画に対する進捗を経営者自身が数字で確認することは、現状が把握できて経営に役立ちます。
     

    できれば経営計画を作る際に、将来会社をどのようにしたいのか、経営理念や経営方針も含めて文書化します。その際に、ローカルベンチマークなどを活用して自社の良い点、弱い点など定性的な特徴もまとめておきます。これは金融機関にとっては貸出先の事業性評価の資料にもなります。
     

    未来のB/Sをつくる

    貸借対照表(B/S)は、毎期企業が得た利益と調達した資金の使途によりつくられます。その結果、十分な自己資本があれば、景気の変動にも影響されない強い財務体質の企業になります。そのためには企業自身が将来どのようなB/Sにするのかを計画し、経営計画書に盛り込むと良いです。この十分な自己資本の蓄積には、法人税を払い内部留保を増やすことも重要です。
     

    参考文献

    経営者保証に関するガイドライン 

    知的資産経営のすすめ 

    金融アセスメント法の制定に関する請願 

    「米国企業における中小企業金融の実態」日本公庫総研レポート

    「中小企業金融とリレーションシップバンキング」信用中央金庫 金融調査情報
     

    本コラムは2020年1月22日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

    人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

    ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

    未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

    経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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    「中小企業の資金調達と金融機関との関係1」 ~国の金融政策と銀行経営の変節~

    企業における資金調達

    企業に必要なお金

    もしあなたが新たに事業を起こそうとした場合、どうやって必要なものを用意するでしょうか?
    例えば、洋服店の場合、店舗や什器等の設備が必要です。商品の仕入れをしなければなりませんし、従業員も雇わなくてはなりません。
     

    そのためにはお金が必要です。もし自己資金が足りなければ、銀行から借ります。こうして集めたお金は、図1のように、建物や設備などの固定資産と仕入れた商品の在庫、そして支払いのための現金となります。この資金の調達手段とその結果を示したものが貸借対照表(バランスシート:B/S)です。
     

    図1 バランスシート

    図1 バランスシート


     

    資金の調達方法は、返済不要の資本金(出資金)と返済が必要な借入金があります。出資金は、自分が出したお金や親族や知人から出してもらったお金、他にはベンチャーキャピタルなどの投資機関が出資したお金があります。
     

    借りたお金には、企業が社債を発行して市場から直接調達する直接金融と、金融機関から借りる間接金融があります。企業規模や創業からの年数に応じた資金の調達方法を図2に示します。
     

    図2 企業の資金調達手段

    図2 企業の資金調達手段


     

    資金の調達は、企業の信用力と成長性によって変わります。信用力のある大企業は、株式市場から出資を受けたり、社債を発行して市場から直接お金を借りることができます。あるいはコマーシャルペーパーCP(無担保の約束手形)を発行して、市場からお金を集めることもできます。また将来大きな成長が見込まれるベンチャー企業は、信用力が低くてもベンチャーキャピタルから出資を受けることができます。そうでない多くの中小企業は、金融機関からの借入が主な資金調達手段です。
     

    運転資金とは

    さて、もしあなたが洋服屋を創業した場合、最初に直面するのは資金繰りです。仕入れた商品は売れなければお金は入ってきません。一方商品を仕入れるには、お金を払わなければなりません。この仕入れの支払いタイミングと、販売後の代金回収までの時間差のために必要な資金が必要運転資金です。
     

    あなたは入ってくるお金と出ていくお金を見ながら、資金をうまく回していかなければなりません。そして支払いと入金のずれは常時生じるので、この雑貨店では一定額の運転資金が常に必要になります。さらに商品がいつもより多く売れれば、多く仕入れなければならず、運転資金はより多く必要になります。そのため、金融機関からさらに多くお金を借りなければなりません。
     

    図3 運転資金

    図3 運転資金

     

    あるいは法人のお客様がたくさん買ってくれましたが、支払は3か月の手形でした。その場合、現金が入るのは、手形を受け取ってから3か月後になります。その分だけ運転資金が必要になります。
     

    借入金の意味

    あなたの会社は創業期を過ぎ経営は順調に行っています。店舗が手狭になり、店舗拡大のため、お金を借りました。この時の借入の意味について考えます。
     

    もし社内に十分なお金があれば、借入をする必要はなく、自己資金ですぐに店舗を拡大できます。もし、自己資金が足らなければ、必要な金額になるまでお金を貯めます。そして、図3の左のように、貯めたお金で店舗を拡大すれば、そこからは売上の増加が加速し、会社に入るお金も増えます。
     

    図4 企業の成長と資金調達方法

    図4 企業の成長と資金調達方法

     

    ここでお金がなくても金融機関から借りれば、店舗はすぐに拡大できます。その結果、早く売り上げが増加し、早くお金が増えます。これは見方を変えれば、お金を貯めるには時間がかかるので、借入によりその時間を縮めたことになります。早く設備投資を行い、早く利益を増やせば、途中借入金を返済していても、返済が終われば利益はどんどん増えていきます。自己資金が貯まるまで待ってから設備投資をするよりも早く会社を成長させることができます。
     

    逆に利益を増やさないものに借入をして投資すると、会社に入ってくるお金が減ります。賃料の高いオフィスへの移転や豪華な自社ビルの購入は、利益を生まず逆に経費が増加するため、経営を悪化させる原因になります。
     

    借り入れの種類

    金融機関からお金を借りる場合、短期の借入(手形貸し付け)と、長期の借入(証書貸付)の2種類があります。短期の借入は、決めた時になれば一括で返済します。その際、継続して運転資金が必要であれば、再度借ります。借りた額と同額をまた借りることを「借り換え」と言います。
     

    長期の借入は毎月決まった額を返済します。毎月きちんと返していれば、急に全部返せと言われることはありません。もし途中で売上が減少し、予定通りの金額を返済できなくなった場合は、返済額を減らすか、一旦返済を猶予してもらいます。これは返済の予定を変えるので「リスケジュール(リスケ)」といいます。
     

    金融機関の種類

    中小企業が利用する金融機関には、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工中金)などがあります。
     

    【銀行】

    都市銀行、地方銀行、第二地方銀行があります。都市銀行は全国に支店があり、取引先には大企業から中小企業まであります。このうちで規模の大きい3行がメガバンク(三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行)と、りそな銀行、埼玉りそな銀行です。
    地方銀行は、都道府県に本店を持ち、都道府県をベースに展開している銀行で、これには第二地方銀行も含まれます。(第二地方銀行とは、従来の相互銀行が普通銀行に転換したものです。)
     

    【信用金庫】

    信用金庫法に依り「国民大衆のために金融の円滑を図り、その貯蓄の増強に資する」ことを目的とした会員の出資による協同組織の非営利法人です。会員資格は、その地区内に住んでいる人、働いている人とその地区内の企業です。ただし、企業は、その規模が「従業員300人以下、または資本金9億円以下」の制限があります。また預金の制限はありませんが、融資は原則として会員を対象としています。
     

    【信用組合】

    協同組合による金融事業に関する法律(協金法)に依り「組合員の相互扶助を目的とし、組合員の経済的地位の向上を図る」ことを目的とした組合員の出資による協同組織の非営利法人です。会員資格はその地区に住んでいる、または働いている人とその地区内の企業です。企業は規模が「従業員300人以下または資本金3億円以下の事業者(卸売業は100人または1億円、小売業は50人または5千万円、サービス業は100人または5千万円) 」という制限があります。預金・融資とも原則として組合員が対象です。
     

    【日本政策金融公庫】

    国が100%出資する金融機関で「一般の金融機関を補完する機関」の役割があります。銀行で融資が受けられない場合でも、事業資金や運転資金の調達を受けることができます。同公庫には、国民生活事業、中小企業事業、農林水産事業の三つの事業があり、他に大規模災害が起こった場合の危機対応(被災地の企業へ金融の融資)、環境の変化や産業競争力強化のための融資などを実施しています。
     

    【商工中金】

    株式会社商工組合中央金庫の略称で、政府と民間団体が共同で出資する唯一の政府系金融機関で、中小企業金融の円滑化を目的として、預金の受け入れ、資金の移動や貸し付け、手形取引などを行っています。融資の対象は、商工中金に出資する中小企業団体の構成員などに限定されています。
     

    国の債務保証(信用保証協会)

    中小企業が金融機関から融資を受けようとする場合、経営状況が芳しくない、担保が不十分などの理由により融資を受けられないことがあります。信用保証協会は、そのような中小企業がスムーズに資金を調達できるように金融機関に対して信用保証(保証承諾)を行います。この信用保証に基づき金融機関は融資を行い、信用保証協会は信用保証料を借り手の企業からもらいます。もし企業が返済できなくなった場合、保証協会が金融機関にお金を返します(代位弁済)。実際は、保証協会に対して、日本政策金融公庫(国)から代位弁済額の8割の保険金が支払われます。
     

    金融機関にとって保証協会付融資は、回収不能になっても損失額は20%しかないリスクの低い融資です。しかし保証協会付融資は、原資が国の税金のため、経営が悪化しても基本的には債権カットに応じません。つまり企業が存続する限り、永遠に支払いを求めてきます。
     

    一方、銀行独自の融資(プロパー融資)であれば、返済不能になった場合、債権カットや債権をサービサーに売却して債務を軽くし再建に取り組むことができます。その意味で保証協会付融資は借り手にとってリスクのある借入です。(実際には経営が悪化しても中小企業に対して金融機関が債権カットに応じることはめったになく、大抵は倒産します。しかし中堅の中小企業の中には、金融機関や地域社会が事業を存続すべきと判断し事業再生に取り組む場合もあります。その際、保証協会付融資がネックになることがあります。)
     

    担保と保証人

    お金を借りる場合、金融機関は担保の提供を求めます。そして会社の土地や建物を抵当に入れます。加えて経営者の個人保証も求めます。個人保証があるため、会社の担保を処分しても返済できなければ、経営者個人の財産を処分して返済しなければなりません。それでも不足する場合は、自己破産することになります。
    出資金であれば倒産しても出資者に返す必要はありません。その代わり、出資金は毎期利益が出れば配当を出す必要があり、その配当は借入の利息よりも高くなります。もしベンチャーキャピタルから出資を受けた場合、彼らは配当よりも株式上場による売却益が目的のため、高い成長(事業の拡大)を求めます。
     

    連帯保証制度

    【連帯保証人】

    経営者だけの保証で不足する場合、金融機関が追加の連帯保証人を求めることがあります。この連帯保証人は、債務者と同等であり、債務者に返済能力があっても、金融機関はいきなり連帯保証人に支払いを求めることもできます。
    ただ金融機関は、連帯保証人に印をもらう際に債務者(借りている人)の金額、経済状況、返済の見込み等を連帯保証人に説明する義務があります。連帯保証人は、債務者が夜逃げしたり、支払いを拒んだ場合、代わりに金融機関から取り立てを受けます。現在破産申し立てをする人の10人に1人は連帯保証人と言われています。また主債務者に、自殺や一家離散が多いなど『人権問題』として度々取り上げられ、民主党はマニフェストに連帯保証人の廃止も視野に入れた法改正が盛り込みました。
     

    【根保証人】

    根保証とは、将来発生する一定の範囲の債務を極度額まで保証することです。一般的な保証では、債務者が5000万円借りた後、2000万円返済すれば、保証人は3000万円分の債務を保証になります。この後、債務者が1000万円追加で借りても、この1000万円を保証する義務はありません。これは連帯保証人でも同様です。
    しかし5000万円を限度額とした根保証の場合、債務者が5000万円借りた後、2000万円返済し、新たに1000万円追加で借りたら、保証人はこの1000万円も保証しなければなりません。債務者の債務の合計が5000万円であれば、常に5000万円の保証をすることになります。
     

    【根抵当権】

    同様に、金融機関から融資を受ける際に担保権が設定されたとします。普通抵当権の場合、別途新たに融資を受ける場合、別の抵当権を設定しなければなりません。不動産の場合、抵当権を設定するには登記しなければならず、その費用が掛かります。
    そこで根抵当権であれば、極度額(その時点で借りられる最高額)の範囲内で、全ての融資が根抵当権により担保されます。
     

    【保証人のルール変更】

    2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」が2020年4月1日から施行(適用)されます。大きく変わるポイントは以下の3つです。
     

    1. 上限額(極度額)を定めていない個人の根保証契約は無効
    2. 個人が連帯保証する際、極度額(その時点で借りられる最高額)を保証する人とされる人の間で、書面などで「○○円」と合意してはっきり定めなければ無効になります。

    3. 特別な事情による保証の終了
    4. 保証人が破産した、主債務者または保証人が亡くなったなどの場合、その後に発生する主債務は保証の対象外になります。

    5. 個人が事業用の融資の保証人になる場合、公証人による保証意思の確認手続きが必要
    6.  

      会社や個人事業主が事業目的で融資を受ける際、事業に関係ない親戚や友人が安易に保証人になり、多額の債務を背負う(自己破産する)ケースが多いため、個人が事業用の融資の保証人になる場合、公証人による保証意思の確認手続が必要になります。その手数料は
      1万1000円程度の予定です。

     

    金融の歴史

    江戸時代までの日本社会は、個人商店とその規模が大きくなった豪商でした。資金需要も大きくなく、お金が必要になった場合は、知人や高利貸しから借りていました。借りる人の信用もまちまちで、返せなくなれば、取り立てるか、財産を取り上げるしか方法がなく、相手に力があればそれもかないません。実際、財政の行き詰まった大名などは、商人から借りたお金を踏み倒しています。
     

    産業振興と資金需要

    明治に入り、産業振興が盛んになると巨額の設備投資が必要になり、金融の需要も大きくなりました。そこで1873年に日本で最初の商業銀行として第一国立銀行が設立されました。さらに貿易が盛んになると海外との決済や支払も必要になり、1880年に日本で最初の外国為替を扱う横浜正金銀行が設立されました。
     

    その一方で中小企業や個人商店に必要な資金は、数の限られている商業銀行では対応できませんでした。そのため大企業に資本が集中し農民や中小商工業者が困窮したことから、1900年に産業組合法が制定され、会員企業が資金を出し合って、必要な事業者にお金を貸す信用組合が各地に設立されました。一方、信用組合は会員以外からの預金が認められないなど都市部の中小商工業者にとっては制約が多かったため、1917年産業組合法が一部改正され、市街地信用組合が生まれ、これが後の信用金庫へと発展しました。
     

    その後、多くの人たちが会社や工場で働くようになり、現金収入が増え、お金を銀行に預けるようになりました。預金が増えることで、銀行は事業者に多くのお金を貸すことができるようになりました。
    しかし事業者が倒産して貸したお金が返ってこなければ、その銀行の資金はどんどん減り、経営が危なくなります。お金を貸すのはリスクを伴うため、銀行は貸したお金に見合うだけの財産、例えば家や土地などの不動産を担保に取り、万が一の場合は担保を売却して回収できるようにします。この担保主義が今でも日本の金融に根幹にあります。
     

    銀行の倒産と取り付け騒ぎ

    もし大口の貸出先が倒産すれば、銀行自身の経営が危うくなります。銀行が倒産すれば、預金したお金は返ってきません。預金している人たちがそのような不安に駆られると、銀行が倒産する前に預金を引き出そうと銀行に殺到します。そうなるとこの急激な預金の引き出しが原因で銀行が倒産します。これが取り付け騒ぎです。
     

    1927年に、衆議院予算委員会で片岡大蔵大臣が「東京渡辺銀行がとうとう破綻を致しました。」と間違った情報を発言し、全国各地で「銀行が危ない」という噂が広がりました。ここから取り付け騒ぎが起こり、金融恐慌にまで発展しました。
     

    バブル経済とその崩壊

    バブル崩壊以前の高度経済成長期の日本は、経済が拡大しており、企業の資金需要も旺盛で資金不足の状況でした。今と比べると銀行の資金も少なく、企業は銀行から十分な資金提供が受けられないこともありました。
    これはニクソンショック以前は、米ドルは金との交換を保証していたため、ドルの発行総額は金の保有量で決まっていました。世界中を駆け回るお金の総額は、今よりずっと少なかったのです。
     

    1982年、日本企業の輸出攻勢に困ったアメリカは、円高に誘導することを日本政府に約束させます。これがプラザ合意です。こうして急激な円高が発生し、日本企業の成長は急ブレーキがかかり、円高不況と呼ばれました。
     

    この不況を緩和するために日銀は公定歩合を5%から2.5%に引き下げました。しかし成長にブレーキがかかった産業界に余剰な資金を吸収する力はなく、余ったお金が土地と株式に向かいました。大都市圏に人口が集中し、利用できる土地に限りのある日本は、これまで土地の値段は下がったことがありませんでした。当時人口は増加していて今後も土地の需要は増えるため、土地は格好の投機対象となりました。こうして土地は異常なまでに値上がりしました。
     

    これは金融機関にとって不幸な事でした。担保至上主義の日本の金融機関は、担保となる土地の値段が上昇すれば、どんどん融資ができます。担保で保全されていますから、リスクはなく、企業や個人に過剰に貸すことで銀行の業績はみるみる良くなりました。このプラスの循環が続き、景気は過熱しました。
     

    しかし下がらないはずの土地の値段が1991年ごろから下がり始め、1992年には急落しました。バブル崩壊です。それまで土地や不動産を持っている企業に過剰に融資していた銀行は、担保価値の急落に見舞われます。また土地の値上がりを見込んで融資を受けて土地を買い、工場や自社ビルを建てた企業は、バブル崩壊による不景気の到来とともに大打撃を受けます。そして、それまでの借入金の返済や利息が重くのしかかり、経営を圧迫します。
     

    金融システム崩壊の危険と不良債権処理

    金融機関も担保価値の低下とともに、貸出先の業績が低下し、貸したお金が返らない危険が高まっていました。これが不良債権です。多額の不良債権を抱えた金融機関は経営が悪化しました。もしある銀行の経営不振が広まれば、取り付け騒ぎが起きて、それが原因でその銀行は倒産する恐れがありました。そして1行の倒産は、他の銀行の倒産を招きます。戦前は1行の倒産から金融恐慌が起きました。不良債権問題を放置すれば、日本全体が金融不安に陥る可能性がありました。
     

    そこで大蔵省は各金融機関に自己資本が貸出金の4%以上となるように自己資本比率を定め指導しました。そして貸出先を表のように区分し、貸出先のリスクに応じて引当金を増やすように指導しました。その結果、返済不能とみられる貸出先(不良債権)の倒産や民事再生が起きました。これが不良債権処理です。
     

    表1 金融検査マニュアル

    表1 金融検査マニュアル

     

    BIS規制と貸し渋り・貸しはがし

    さらに、国際金融業務を行う金融機関は自己資本比率8%以上が必要というBIS規制が、日本では1993年に適用されました。無謀な貸し出しと担保価値の低下で自己資本比率の低下した大手銀行の自己資本比率は2%前後と低く、この時期に8%の自己資本比率を求めるのは非常に厳しい条件でした。その結果、多くの金融機関が自己資本比率を高めるために、貸したお金の回収を行い、黒字で経営が順調な企業が突然資金を回収されて倒産した例が相次いで出ました(貸しはがし)。あるいは突然融資の中止を告げられ、資金繰りがつかずに倒産した企業もありました(貸し渋り)。
     

    銀行の健全経営に主眼をおいた金融検査マニュアル

    ある意味でこれを助長したのが大蔵省の金融検査マニュアルでした。国は金融恐慌を防ぐためには、銀行経営の健全化を第一の目的としていました。本来は、金融不安を避けるために、一部の金融機関には税金を投入してでも早期に立て直すべきでした。ところが当時ノーパンしゃぶしゃぶなど官民接待の疑惑から国民の厳しい視線が大蔵省に向けられ、バブル崩壊で辛い思いをした人々は銀行への税金の投入には強く反対しました。
     

    対して過大な不良債権を抱えた一部の金融機関は、不良債権とすべき債権を正常債権に区分したりして、経営状態を取り繕う行為が横行しました。そのため、大蔵省(現在の金融庁)は、金融検査マニュアルに基づいて、貸出先の区分の厳格化と、貸出先の資産価値の適正な評価を厳しく行いました。そして、これが中小企業を顧客とする地方銀行の姿勢を大きく変えました。
     

    例えば、通常運転資金として借りていた短期借入金に対して、金融庁は担保価値を厳しくチェックしました。そして正常運転資金であっても適切な担保がなければ不良債権としました。その結果、金融機関はそれまで借り換えを継続し返済不要であった短期借入金を、毎月返済が必要な保証協会付きの長期借入金への転換を進めました。これは企業のキャッシュフローの悪化の原因となりました。
     

    債務者区分と引当金

    表に示したように金融機関は金融庁が示す信用格付けに基づいた債務者を区分しています。そして債権者区分応じて、相当の貸倒引当金を計上しなければなりません。そして貸倒引当金が増えれば、貸出できるお金が少なくなり、業績が低下します。さらに貸倒引当金が増えれば、自己資本比率が低下し、最悪の場合債務超過に陥り倒産にします。
     

    ●正常先

    業績が良好であり、財務内容にも特に問題がない企業
    貸倒引当率は0.2%程度で、通常に融資は受けられる

    ●要注意先

    業況が低迷・不安定だったり、財務内容に問題がある企業
    貸倒引当率は5%、融資の実行は可能だが、無担保で借せるかどうかは金融機関の判断による

    ●要管理先

    要注意先のうち、元金または利息の支払いが3カ月以上延滞している企業
    全部、または一部のリスケ中
    貸倒引当率は15%程度、新規融資はほぼ見込めない

    ●破綻懸念先

    経営難の状態にあり、今後破綻に陥る可能性が高い企業
    業況が著しく低調でリスケ中など、元本や利息の回収に重大な懸念、売上高および利益が計画の80%未満
    貸倒引当率は75%程度

    ●実質破綻先

    経営破綻に至っていないものの、深刻な経営難で返済の見通しがないなど、実質的には経営破綻に陥っている企業
    貸倒引当率は100%

    ●破綻先

    法的・形式的に破綻している企業、貸倒引当率は100%
     

    経営改善計画書の提出で債務者ランクが変わる

    • 「実現可能性の高い抜本的な経営改善計画」(実抜計画)に沿った金融支援の実施により経営再建が開始されている場合
    • 要管理債権→要注意先 ランクアップ(別名 卒業)

    • 「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画」(合実計画)に沿った金融支援の実施により経営再建が開始されている場合
    • 破綻懸念先債権→要注意先(要管理先を含む)2段階ランクアップも可能

     

    金融機関の姿勢の変化

    このような金融を取り巻く環境の変化は、金融機関の姿勢の変化をもたらしました。金融検査マニュアルによる厳格な審査は、貸出先の評価を厳しくさせ、プロパー融資よりもまず保証協会付融資に注力するようになりました。短期借入金は、金融庁の検査で不良債権とされかねないため、長期借入金主体の融資となりました。その結果、中小企業の中にはキャッシュフローの悪化や恒常的な運転資金不足に悩む企業が増えました。
     

    一方で長期借入(証書貸付)は一旦審査が通れば、返済が行われている限り、貸出先企業に関心は向きません。これが短期借入(手形貸付)の場合は、手形の期日になれば借り換えの手続きが必要なため、企業に足繁く通い、経営状況にも関心を払います。
     

    加えて金融機関の担当者は、毎期営業目標のノルマを課せられています。彼らは、長期借入の手続き終わってこれ以上の融資が見込めない顧客より、新たな融資の可能性のある企業を回らなければなりません。しかし低成長下の日本では新たな資金需要は少なく、ノルマを達成するのは容易ではありません。さらに金融機関は、投資信託や保険商品の販売も手掛けるようになり、金融機関の担当者の業務は増えています。そのため、貸出先への訪問は、ますます足が遠のいていきました。
     

    中小企業金融を取り巻く環境

    中小企業の借入金の一部は疑似資本

    日本の中小企業の多くは、自己資本が少なく、総資本の中で借入金が高い割合を占めています。この借入金の一部は、定常的な運転資金として借り換えを継続していて、疑似資本の性格を持っています。ところが金融庁の指導もあり、金融機関が短期借入金を返済が必要な長期借入金に切り替えていったことで、毎月の返済が必要になり、多くの中小企業はキャッシュフローが悪化しました。
     

    国の中小企業支援

    大企業のような信用力がなく、資金調達手段限られる中小企業を資金面で支援するために、国は様々な支援制度を設けています。
     

    【セーフティネット制度】

    取引先の再生手続の申請や事業活動の制限、災害、取引金融機関の破綻により経営に支障を起きた中小企業に、保証限度額の別枠化を行い、追加の融資を受けられるようにする制度です。各自治体が認定し、認定証を金融機関に提出します。
    保証は信用保証協会が行います。
     

    図5 セーフティネット保証制度

     

    1号 連鎖倒産防止

    民事再生の申立を行った大型倒産に対して、売掛金債があるために資金繰りに支障が生じた中小企業を支援するための措置です。
    <対象中小企業>
    倒産企業に対し50万円以上の売掛金を有している中小企業
    倒産企業に対し売掛金は50万円未満であるが倒産企業との取引が20%以上ある中小企業
     

    2号 取引先企業の事業活動の制限

    生産量の縮小、販売量の縮小、店舗の閉鎖など事業活動の縮小を行っている企業と直接・間接的に取引を行っているため、売上が減少している中小企業を支援するための措置です。
    <対象中小企業>
    該当企業と直接取引(又は間接的な取引、又は近隣の事業所)を行っていて、その企業に対する取引依存度が20%以上、かつ事業活動の縮小を受けた後の3か月間の売上高等が前年同期比▲10%以上の見込みの中小企業
     

    3号 突発的災害(事故等)

    突発的災害(事故等)の発生に起因して、売上高が減少している中小企業を支援するための措置です。
    <対象中小企業>
    指定地域内において、1年間以上継続して事業を行っており、災害等の影響を受けた後の3か月間の売上高が前年同期比▲20%以上の見込みである中小企業
     

    4号 突発的災害(自然災害等)

    突発的災害(自然災害等)の発生に起因して、売上高等が減少している中小企業者を支援するための措置です。
    <対象中小企業>
    指定地域内において、1年間以上継続して事業を行っており、指定を受けた災害等の発生に起因して、売上高等が前年同期比▲20%以上の見込みである中小企業
     

    5号 業況の悪化している業種(全国的)

    全国的に業況の悪化している業種に属する中小企業を支援するための措置です。
    <対象中小企業>
    指定業種の事業を行っていて、最近3か月間の売上高が前年同期比5%以上減少の中小企業、または指定業種の事業を行っていて、製品原価のうち20%を占める原油等の仕入価格が20%以上、上昇しているにもかかわらず、製品価格に転嫁できていない中小企業
     

    6号 取引金融機関の破綻

    破綻金融機関と金融取引を行っていたため、借入の減少等が生じている中小企業を支援するための措置です。
    <対象中小企業者>
    破綻金融機関と金融取引を行っていたため、健全に事業を営んでいたのにもかかわらず、金融取引に支障をきたし、破綻金融機関等からの借入金の返済を含めた資金調達が必要となっている中小企業者
     

    7号 金融機関の経営の合理化に伴う金融取引の調整

    金融機関の支店の削減等による経営の合理化を行い、借入が減少している中小企業を支援するための措置です。
    <対象中小企業者>
    該当する金融機関に対する取引依存度が10%以上であり、その金融機関からの直近の借入金残高が前年同期比▲10%以上で、金融機関からの直近の総借入金残高が前年同期比で減少している中小企業
     

    8号 金融機関の整理回収機構に対する貸付債権の譲渡

    整理回収機構(RCC)に貸付債権が譲渡された中小企業のうち、事業の再生が可能な者を支援するための措置です。
    <対象中小企業者>
    金融機関からの直近の総借入残高が前年同期比で減少し、適切な事業再生計画を作成し、RCCに対する債務について返済条件の変更を受けている中小企業
     

    【金融円滑化法】

    金融円滑化法(「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」の略称)は、2008年のリーマンショックの際に景気低迷による中小企業の資金繰り悪化の対策として、2009年12月に2年間の時限立法として施行され、その後二度にわたって延長され、2013年3月に終了しました。
     

    この法律により金融機関は、経営の悪化した中小企業に対し無条件での条件変更(リスケ)に応じました。金融機関にとっては、同法に基づくリスケは債務者の格付けを変えなくても良いため、不良債権にならないというメリットがありました。これはバブル崩壊後に金融機関が企業の貸出に対して厳しい態度をとったために倒産する企業が多かったことを踏まえての処置でした。
     

    一方、リーマンショック後の経営の回復は低調で特に中小企業には厳しい状況が続いたため、金融円滑化法終了後の対応が不安視されました。そこで金融円滑化法終了を見越して2012年には金融担当大臣が「中小企業金融円滑化法終了後も金融機関の対応は何ら変わることは無く、特に不良債権の定義は変えることなく対応するので、貸付条件の変更依頼には法律終了前と同様な対応をするよう金融機関には周知徹底をしている」という談話を発表しました。
     

    2012年には「中小企業金融円滑化法の最終延長を踏まえた中小企業のための政策パッケージ」が発表され、

    1. 金融機関によるコンサルティング機能の一層の強化
    2. 企業再生支援機構(現在は地域経済活性化支援機構に改組)および中小企業再生支援協議会の機能及び連携の強化
    3. その他の経営改善・事業再生支援の環境整備

    が盛り込まれました。
     

    このように同法は、リーマンショックでの中小企業の倒産を防ぐ効果はありましたが、その後、金融機関にとって見えない不良債権の増加となっています。今後、これらの中小企業の倒産が起きれば、不良債権として引当金が積まれていないため、金融機関の経営に大きな影響を与える恐れがあります。言い換えれば同法によりリスケを継続している企業の経営が改善され、正常先にならなければ、いつか爆発する爆弾を先送りしているようなものです。
     

    金融行政の変化

    森金融庁長官

    2015年7月森信親氏が金融庁長官に就任すると、それまでの金融検査マニュアル重視、銀行の健全経営一本だった金融庁の方針が大きく変化しました。まず2015年から2017年にかけて複数回企業アンケート調査を行いました。2017年度は3万社に実施し、8,546社から回答を得ました。この企業アンケート調査結果から、多くの金融機関が担保と保証協会付融資に依存し、企業やその経営に全く関心を払っていないことが分かりました。また企業自身もそのような金融機関に対し、金利以外の助言や支援を期待していないこともわかりました。
     

    一方、地域金融の事業性評価の取組として広島銀行の例があります。広島県には、マツダのサプライヤーの中小企業が多くあります。バブル崩壊後これらの中小企業の業績は苦しく、財務数値だけでみると融資を打ち切らなければならない企業もありました。そこでこれらの企業は「マツダの車づくりに必要な技術を持ったサプライヤーなのか」といった定性面と財務面の両面で評価し、必要な技術を持ったサプライヤーであれば財務数値が悪くても支援しました。そのため広島銀行の融資部に自動車の専門家であるマツダからの転籍者を集めました。
     

    このような事例を収集し、地域金融機関に事業性評価など企業の事業そのものに目を向け、融資判断を行う方向に転換を促しました。さらに金利だけでなく、企業との関係を深め、課題解決を支援するリレーションシップバンキングの推進を促しました。そして金融庁は、金融検査マニュアルの廃止を決定しました。
     

    一方、日銀のマイナス金利導入により、金融機関の収益は悪化し、2017年度は、地域銀行106行中54行が、本業で赤字となっています。優良な貸出先を巡って低金利競争は激しく、収益低下の原因となっています。そこで顧客の課題解決に取り組むことで金利競争に陥らず、他行よりも高い利息で融資を行っている金融機関の事例を集め、そのような取組により業績を高めることを促しています。
     

    個人保証に頼らない融資

    中小企業の借入に対する経営者の個人保証は、倒産時には自殺や一家離散の原因ともなっています。そこで国は「経営者保証に関するガイドライン」を作成し、2014年2月から運用開始しました。法的な拘束力はありませんが、「中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルール」と位置付けられており、経営者がこのガイドラインを金融機関との交渉に活用することができます。
    ガイドラインでは、個人保証なしで融資を受けるためには経営者に以下の対応を求めています。
     

    (1)法人と経営者の関係の明確な区分・分離

    • 役員報酬・賞与・配当、オーナーへの貸付など、法人と経営者の間の資金のやりとりを、「社会通念上適切な範囲」を超えないような体制とし、その運用状況について、公認会計士・税理士などの外部専門家が検証し、結果を金融機関に適切に開示する。

    (2)財務基盤の強化

    • 財務状況や業績の改善を通じて返済能力の向上に取り組み、信用力を強化する。

    (3)経営の透明性

    • 自社の財務状況を正確に把握し、金融機関からの情報開示要請に応じて、資産負債の状況や事業計画、業績見通し、及びその進捗状況などの情報を正確かつ丁寧に説明して経営の透明性を確保する。
    • 情報を開示した後に、事業計画・業績見通し等に変動が起きた場合は、自発的に金融機関に報告し、適時適切な情報開示に努める。
    • 情報開示は、公認会計士・税理士など外部専門家による検証結果と合わせた開示が望ましい。

     

    金融機関に対しては、以下の対応が求められています。
     

    (1)「保証を求めない融資」や「代替的な融資手法」の検討

    • 融資を求める企業が上述のような経営状況の場合、金融機関には、「経営者保証を求めない融資」や「経営者保証付き融資に代わる融資の方法(代替的な融資手法)」を検討することが求められます。

    〔代替的な融資手法〕
    停止条件や解除条件付保証契約、流動資産担保融資(ABL)、金利の一定の上乗せ など

    (2)やむを得ず、経営者保証を求める場合の対応
    やむを得ず、経営者保証を求める場合、金融機関には、以下の対応に努めることが求められます。

    • 中小企業に、経営者保証の必要性や、経営者保証の変更・解除などの見直しの可能性があることなどを、丁寧・具体的に説明すること。
    • 適切な保証金額を設定すること。「保証債務履行時にはガイドラインに則して適切な対応を誠実に実施する」旨を保証契約に規定すること。

     

    経営者保証に関するガイドラインの適用事例

    【既存の保証契約の見直し】
    C社 
    ガソリンスタンドを主な販売先としている自動車用品卸売業者で、経営状況は堅実な調子で推移しています。このたび、経営者を交代することになったため、資金の借入れをしているD銀行との保証契約の見直しを行うこととしました。その際、C社は前経営者の保証を解除することと、新経営者の保証を提供せずに融資を継続することを希望しました。
     

    D銀行
    C社の意向を受けて検討し、以下のような点から、法人と経営者との関係の区分・分離が図られていることなどを勘案し、C社の前経営者の保証を解除し、新経営者に対しても、新たな保証を求めないことにしました。

    • C社の事業用資産はすべて法人所有となっている。
    • 法人から役員への貸付がない。
    • C社の代表者は内部昇進での登用が中心であり、その親族は取締役に就任しておらず、取締役会には顧問税理士が監査役として参加しているなど、一定の牽制機能の発揮による社内管理体制の整備が認められる。
    • 法人単体の収益力により、将来にわたって借入金の返済が可能であると判断できる。
    • 財務諸表のほか当行が求める詳細な資料(試算表等)の提出にも協力的である。

     

    【保証債務の整理】
    E社
    宿泊業を営んでおり、過去に多額の資金を投じ、設備投資や事業の多角化を行ったものの、意図した投資効果を得られずに過剰債務に陥りました。
     

    その後、一定のキャッシュフローの創出はできていましたが、事業価値を維持するための設備投資資金の調達が困難であることや、競争環境が厳しくなったことなどから、自主再建は困難であると判断。事業再生ADR(※)を活用して保証債務を整理することを希望しました。
     

    ※事業再生ADR:平成19年度産業活力再生特別措置法(産活法)により創設された制度で、会社更生法や民事再生法などの法的手続によらずに、債権者と債務者の合意に基づき、債務を猶予・減免し、事業価値を著しく毀損することなく、経営困難な企業を再建すること。
     

    F銀行
    事業再生ADRを活用した事業再生計画に基づき、E社はスポンサーからの出資・貸付や不動産の売買、経営者の保証履行により金融債務の一部を弁済。残りの債務については、ガイドラインに則して、以下のような流れで保証債務の免除を行うこととしました。
    まず、保証人である経営者が、ガイドラインに示す条件に即して次のような対応を行いました。

    • 経営者が保有資産の内容を開示するとともに、その内容が正確であることを文書で保証(表明保証)するとともに、支援専門家がその適正性について確認を行い、その旨の報告書を提出した。
    • 上記の表明保証をした内容がもし事実と異なっていた場合は追加弁済を行うことを、経営者が表明した。
    • 経営者の退職金を、保証債務弁済の一部に充てた。

     

    これらを踏まえてF銀行は、ガイドラインに則り、次の資産を残存資産として退任した経営者に残すことを認めました。
     

    (1)破産手続の自由財産に相当する現預金
    (2)生命保険を解約した場合の返戻金(破産手続においても自由財産として認められる 可能性が高いことを考慮)
    (3)自宅(華美とは認められず、今後の生活の維持を考慮)
     

    生命保険の解約返戻金のほか、自宅が残存資産として元経営者に残ったことで、その後の元経営者の生活再建に大きく寄与することになりました。
     

    参考文献

    「捨てられる銀行」 橋本卓典 著 講談社現代新書
     

    本コラムは2018年10月21日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

    人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

    ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

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    中小企業が使える経営戦略手法は?

    経営戦略とは?

    経営戦略の必要性

    中小企業に経営戦略が必要かどうかについては様々な意見があります。しかし製造業の経営において経営戦略の知識は必要です。

    理由は中小企業の取引先の多くが大企業だからです。
     

    今日では、それまで安定していた市場が、突然別の業界から強力なライバルが出現して、根こそぎ市場を奪われることがあります。例えば、フィルムカメラは、2000年に入ると急速にデジカメにとって代わられました。そのデジカメも2010年代に入ると市場をスマートフォンに奪われ、デジカメ市場は年率30%以上という猛烈なスピードで縮小しました。

    図1 中小企業と取引の経営戦略の影響
    図1 中小企業と取引の経営戦略の影響
     

    従って、中小企業にとって、取引先の市場、競争環境や社会環境の変化、そして取引先の経営戦略の情報を収集することは、自社の経営を安定させるためには不可欠です。その上で、自社が長期的に発展する経営戦略を立てる必要があります。
     

    一方、大企業の経営と中小企業の経営では、企業規模や市場への影響力が大きく違います。したがって大企業の経営戦略と中小企業の経営戦略では異なるはずです。しかし世の中に出ている経営戦略の本や情報はほとんどが大企業の経営に関するものです。しかも大半が現状の結果に対して、後から原因を述べているものです。その点では、大学での経営学も同様です。
     

    では、これらの経営戦略論や経営理論は、現実の経営において役立つものでしょうか。つまり自社の経営戦略を考える、あるいは取引先の将来を考えるときに、これらの理論に照らし合わせれば、予測できるのでしょうか?
     

    この経営戦略につい本経営コラムでは、中国企業の価格戦争を取り上げ、価格戦争は中国企業が欧米企業とは異なる環境の中で生き残るために選択したものでした。アメリカ発祥の多くの経営戦略論は、アメリカ企業が生き残るために生まれたものです。対して中国企業が生き残るためには価格戦争のような新たな経営戦略が生まれました。
     

    では、日本の中小企業が生き残るためにはどのような経営戦略があるのか?

    巷の経営戦略手法を総括し、中小企業経営における戦略について考えました。
     

    経営戦略とは何か

    それでは経営戦略とは何でしょうか?
    経営戦略については、第12回「戦略とは何か?戦略と戦術について考える」で詳しく述べました。その中で経営戦略を以下の図に示すように、企業の長期的な目指す姿「ゴール」への道筋とします。そしてゴールを実現するために時間をかけて会社を変革する活動が個別戦略です。これに対して、成果を得るための短期(1年以内)での活動は、戦術に分類します。これは企業における中期計画、年度計画に該当します。
     

    戦略について述べている書籍の中には、長期的な活動でなく、個別の利益を上げる、あるいは効率を上げる活動を戦略としているものもありますが、ここではそれらは戦略からは除外して考えます。
     

    図2 経営戦略と戦術の関係
    図2 経営戦略と戦術の関係

     

    経営戦略の歴史と発展

    経営戦略論の発展は、アメリカでの経営環境の変化と、経営戦略を事業としたコンサルティングファームの発展と密接な関係があります。
     

    アメリカの黄金期の経営戦略

    1950はアメリカの黄金期でした。ヨーロッパは第二次世界大戦の痛手から立ち直っておらず、日本をはじめとしたアジア諸国はまだ貧しく工業化の途上か、農業国でした。こうして発展したアメリカ企業も市場が飽和すると成長が頭打ちになってきました。
     

    ① アンゾフ 多角化

    こうして既存事業の成長の行き詰まりから、アメリカ企業は多角化に取り組みます。この多角化の戦略に指針を提示したのがアンゾフの多角化戦略です。1957年イゴール・アンゾフは、四つの成長戦略「市場浸透」「市場開拓」「製品開発」「多角化」を発表し、これらをマトリックスに表しました。製品化、市場か、どの方面から多角化するのかの指針となりました。
     

    図3
 アンゾフの4つの成長戦略
    図3 アンゾフの4つの成長戦略
     

    ② 多角化の弊害から、事業を整理する戦略

    一方で無秩序な多角化は、シナジー(相乗効果)が得られず、多角化した事業の収益が低いため、全体の収益性の低下をもたらしました。ボストンコンサルティンググループ (BCG)のブルース・ヘンダーソンは、フレームワークとしてプロダクトポートフォリオ (PPM)というフレームワークを開発し、それぞれの事業分野を評価し、不採算事業の整理に活用しました。これは大ヒットし、外部コンサルティングという市場が拡大しました。
     

    図4 BCGのポートフォリオマトリックス
    図4 BCGのポートフォリオマトリックス
     

    ③ SWOT分析

    SWOT分析は、外部環境や内部環境を強み、弱み、機会、脅威の4つの分野に分析し、自社の経営資源に適した経営戦略を策定する方法です。1920年代、ハーバードビジネススクールにより開発され、1960年代から70年代にはスタンフォード大学のアルバート・ハンフリーがフォーチュン500の企業のデータの分析・研究に活用されました。
     

    SWOT分析は、本来は戦略が決まった後に活用する戦略を分析するツールです。なぜなら戦略によって同じ外部環境でも機会になったり、脅威になったりするからです。SWOT分析はこの点に注意が必要です。
     

    図5 SWOT分析
    図5 SWOT分析
     

    ④ ハーバード学派とシカゴ学派の論争

    1950年代のアメリカでは、政府が積極的に介入し企業に独占をさせないことを主張するハーバード学派と、むしろ政府の介入は自由な競争を妨げると反対するシカゴ学派の論争がありました。

    当初はハーバード学派が優勢で、独占的と判断された企業には反トラスト法が適用され、独占企業を分割して強制的に競争を促進しました。この時、産業構造と産業の成長性の関連付けた理論がS-C-Pパラダイムでした。

    これに対し、シカゴ学派は少ない企業が集中したのは優れた企業が競争に勝ち残った結果であり、むしろ政府の規制や介入が独占を招くと反対しました。そして1980年代に入ると、シカゴ学派が勝利し、レーガン政権が規制緩和を積極的に促進しました。
     

    図6 S-C-Pパラダイム
    図6 S-C-Pパラダイム
     

    ⑤ ハーバード学派 マイケルポーター

    窮地に立ったハーバード学派は、同学派のマイケルポーターがS-C-Pパラダイムを個々の企業活動の分析に応用しました。そして企業が利益を拡大するためには、不完全競争状態の産業を見つけて参入するか、イノベーションを起こして不完全競争状態をつくり、独占化を進める必要があると考えました。そしてファイブ・フォース・モデルという分析ツールを開発しました。
     

    図7 ポーターのファイブ・フォース・モデル
    図7 ポーターのファイブ・フォース・モデル
     

    そして参入可能な業界を見つけた企業が、競争に優位に立ち独占状態を作り出すための戦略が3つの競争戦略です。
     

    図8 ポーターの3つの競争戦略
    図8 ポーターの3つの競争戦略
     

    一方、ファイブフォース分析は、大きな変化を前提としない静的な分析です。変化の穏やかな市場やある時点での環境分析には効果的ですが、市場の変化が激しい業界には限界がありました。

    また3つの競争戦略について、実際には企業が「コストリーダーシップ戦略」と「差別化戦略」を同時に取る場合もあります。あるいは最初は「コストリーダーシップ戦略」を取り、のちに「差別化戦略」を取る場合もあります。
     

    長引く不況と自信の喪失

    繁栄を誇ったアメリカ経済でしたが、1970年代の石油ショックにより不況とインフレが同時に発生するスタグフレーションに見舞われました。さらに1980年代に入ると日本企業からの低価格で高品質な製品の輸出攻勢にさらされます。自信を失ったアメリカ企業は積極的に日本企業から学び、JITやTQCなどの日本的経営が導入されました。
     

    ① ベストプラクティス

    同時にベストプラクティスという考え方が広まりました。他社でうまくいっている方法、つまりベストプラクティスを自社に導入して、自社の業績を高めようという考え方です。これには株主の圧力やプロ経営者の台頭の影響もありました。優れた経営者は、会社や業界が異なっても企業の業績を上げることができるという考え方です。

    業績の思わしくない企業に、外部からプロ経営者が招聘されると、まず経営計画が発表され、株価が上昇します。しかし招聘された経営者は、その会社や業界に対し十分な知識がないため、外部のコンサルタントを活用し、新しい戦略やベストプラクティスを導入し、経営計画を立てます。JITやTQCなどもこうしたベストプラクティスの一例です。
     

    しかし企業文化や組織・人員の全く異なる企業に同じ経営手法や仕組みを導入して、うまくいくのでしょうか?

    これに対して、企業が元々持っていた優れた能力に注目すべきという考え方が「コアコンピタンス」です。
     

    ② コアコンピタンス経営 

    コアコンピタンスとは1990年に、プラハラードとハメルによって提唱された企業の「核となる能力・得意分野」です。かつてのように多角化に走らず、事業ノウハウや技術などの自社の得意分野にヒト、モノ、カネなどの経営資源を集中して競争力を高める経営を指します。

    ソニーの小型化技術、米フェデラル・エクスプレスの物流管理システム、トヨタの生産管理方式などがコアコンピタンスの代表例として挙げられます。

    これはそれまでの経営戦略論が市場や産業など外部環境と競合の分析が主体であったのに対して、企業内部に目を向けたものでした。その半面、企業内部の資源の分析は外部のコンサルタントには容易でなく、コンサルティングビジネスに影響を与えました。
     

    ③ リソースベーストビュー (RBV)

    コアコンピタンスの考え方を実際の経営戦略に落とし込んだ方法が、バーニーが提唱したリソースベーストビュー (RBV)です。これは企業が競争優位を保てるかどうかは、企業の経営資源や内部的なケイパビリティ(経営資源を活用できる能力)であるとし、これを高める戦略です。

    自社の経営資源や内部ケイパビリティを分析するツールがVRIOフレームワークで、企業の内在価値を、経済価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Inimitability)、組織(Organization)、の4つに関して分析します。
     

    図9 イギリスの小売業 マークス・アンド・スペンサーポーターのRBV
    図9 イギリスの小売業 マークス・アンド・スペンサーポーターのRBV
     

    一方、リソースペーストビューは、企業内部の内部の経営資源を見えるようにするのが容易でなく、また環境が変化すると強みが強みでなくなるという課題がありました。

    また新規事業の場合は必要な経営資源をすべて持っている方が稀です。もし自社の経営資源だけを見て、実現できることだけをやろうとすれば、ビジネスの空白地帯を見つけることはできません。実際にはいち早くビジネスの空白地帯を見つけてそこに参入し、その中で固有の技術やノウハウを身に着けて優位に立つ必要があります。

    このビジネスの空白地帯に注目したのが「ブルー・オーシャン戦略」です。
     

    ④ ブルー・オーシャン戦略

    競争優位を確保するために企業が製品やサービスを差別化しようとしても、既存市場ではすぐに競合に模倣され競争が激化し、利益が出ない状況「レッド・オーシャン」となってしまいます。そこでW.チャン.キムとレネ.モボルニュの提起するブルー・オーシャン戦略は、競争とは無縁の新しい価値市場「ブルー・オーシャン」を創造することを提唱したものです。

    これは戦略キャンパスとアクションマトリックスを用いて自社と競合を分析し、競合は何に投資しているのか、顧客はどんなメリットを感じているのか分析します。そして競合が力を入れていない、しかし顧客がメリットを感じている市場を見出し、そこに新たに進出します。図はあるワイン会社の新市場開拓の例で、高級ワインとデイリーワインの間に、親しみやすい高付加価値ワインという市場を創出することで、差別化とコスト競争の優位を獲得しました。
     

    図10 アクションマトリックス
    図10 アクションマトリックス
     

    しかし現実には、この手法が公開されれば競合も同じ市場を発見します。その結果、ブルー・オーシャンは短期間にレッド・オーシャンに変わってしまいます。特にブルー・オーシャンが発見され市場の価値が認知されるほど、短時間にレッド・オーシャンに変わってしまいます。
     

    ⑤ 何を捨てるか?選択と集中

    経営資源の限られている企業は、どの事業分野に経営資源を集中するか、言い換えればどの事業分野を捨てるかという選択と集中が必要になります。国内では最も規模の小さい自動車メーカーのひとつ、スバルは四輪駆動技術を強みとしていました。そのためアメリカ、特に北部の雪の降る地域では、スバルの四輪駆動技術が高い評価を受けていました。しかし国内市場に合わせたコンパクトな車体は、アメリカ人には小さすぎ販売は伸びませんでした。

    そこでスバルは、現在の設備で大きくできるギリギリまで、具体的には5センチ車体を拡大する決断をしました。さらに軽自動車の製造から撤退し、ダイハツからのOEM供給に切り替えました。これには販売店、OB、役員からの強い反対がありました。
    「国内ディーラーの怒る顔がぱっと浮かんだ」吉永社長(当時、営業本部長)は語っています。しかし国内市場を捨てて、北米市場に合わせた車にすることでスバルは好業績を維持しています。
     

    中国企業の競争戦略

    今まで述べた欧米企業の競争戦略に対し、中国企業は異なる戦略を取っています。それは低価格戦略と価格戦争です。新興国や先進国の低所得者層は、価格がネックとなって最新の製品を購入することができませんでした。その点で新興国市場はブルー・オーシャンでした。

    中国企業は、自国で同業者同士の熾烈な価格競争を生き残り、そこで得た圧倒的な低コストで製造する能力を強みとしています。その特徴は、極力技術はコピー、または買ってきて短期間で開発する、低価格を実現するために機能や材料は必要最低限に絞り込む、ただしデザインはしっかりと行い、顧客は所有することで満足感を得られるようにすることです。

    こうして中国企業は低所得者層の市場を押さえ、次第に中間層へと浸透していきます。そして市場で競合が増えて過当競争になったときは、自ら価格戦争を仕掛けて競合を追い落とします。彼らにとって価格戦争は「正当な戦術」でした。こうして中国企業に普及品、中級品の市場を奪われた先進国メーカーは、少量の高価格品市場に追いやられます。そして低コストで大量生産する能力を失います。

    そして先進国メーカーは、普及品や中級品は中国企業からOEM品を供給してもらわなければ事業が成り立たなくなります。これがパソコン、家電、その他日用品に見られた図式でした。
     

    経営戦略手法の総括

    経営戦略手法とその特徴を以下の表に示します。
     

    表1 大企業の経営戦略手法

    戦略手法 分析手法 大企業
    多角化戦略
    (アンゾフ)
    多角化マトリックス 経営資源の制約が含まれていない
    多角化戦略 M&A 株価上昇に効果大
    成功例は少なく、高く買って安く売る事例も多い
    競争戦略
    (ポーター)
    ファイブフォース分析 市場を独占するための戦略だが、
    市場や環境の変化が考慮されていない
    クロスSWOT SWOT分析 市場や事業分野が
    多岐にわたると大変
    リソース・ペースト・ビュー VRIOフレームワーク 経営資源の優位やケイパビリティは
    常に変化するため、戦略が持続しない
    ブルー・オーシャン 戦略キャンパス
    アクションマトリックス
    新市場を見つける手法として活用できる
    しかし競合からすぐ真似されるリスクがある
    低価格&価格競争
    (中国企業)
    なし 過去に多くの先進国の企業はこれに敗北したが
    いまだに危機感を持っていない人もいる

     

    表2 中小企業の経営戦略手法

    戦略手法 分析手法 中小企業
    多角化戦略
    (アンゾフ)
    多角化マトリックス 新規事業に取り組む際に参考になる
    多角化戦略 M&A 合併後の企業文化の融合が困難
    評価が難しく、思わず不良資産があることもある
    競争戦略
    (ポーター)
    ファイブフォース分析 市場を独占する機会は限られ
    使う場面は少ない
    クロスSWOT SWOT分析 戦略を構築した後でないと機会と脅威が変わる
    SWOT分析から戦略を構築するのは矛盾がある
    リソース・ペースト・ビュー VRIOフレームワーク 優位となるものが見つからず、SWOT分析の強みのような定性的なものになってしまう
    ブルー・オーシャン 戦略キャンパス
    アクションマトリックス
    BtoCで新しい顧客層を考えるツールになる
    低価格&価格競争
    (中国企業)
    なし 中小企業がこの領域で戦ったら
    勝ち目はないので踏み込まない

     

    21世紀の経営戦略

    21世紀に入り、以下の点で20世紀と大きく変化し、これが企業間競争を大きく変えました。
     

    • 資本の集中と投下が容易
    • 有望な事業には短時間で大量の資金が集まり、急速に事業が立ち上がります。
       

    • 技術・ノウハウが容易に移転
    • 情報は短時間で世界中を駆け巡り、人も活発に移動するため、技術やノウハウが容易に移転されます。
       

    • 流通のフラット化、販売チャネルの確保が容易
    • かつては流通網や販売チャネルの構築に多大な労力が必要でしたが、インターネットでの直販や宅配での流通など、自前の販売チャネルがなくても事業を立ち上げることができます。
       

    • 物流コストの低下、消費地での生産にこだわらない
    • コンテナ物流や航空便の発達により、短時間に低コストで輸送できるようになりました。かつて飲料などは輸送コストがネックとなり消費地での生産していましたが、今では世界中どこでも最適な生産地で生産できます。

     

    経営戦略に対する国民性の違い

    • 欧米
    • 欧米人は、経営戦略を学問として捉え、理論的な整合を取って普遍性を追い求める傾向にあります。また理論的革新性、独自性にこだわります。そこからポーターなど独自の経営戦略論が生まれました。
       

    • 日本
    • 経営を理論的、体系的にとらえる点が弱く、優れた経営者の「○○式経営」というのが多い。経営学も個々の企業のケーススタディ的なのが多く、日本式経営のような経営戦略を体系的にまとめたものは少ない。

      日本企業のイノベーションや技術開発も、もともと欧米からの技術導入が出発点でした。ただ新しい技術やノウハウを導入するだけでなく、これを高い熱意で実用化、製品化しました。そこからさらに独創的な製品や技術へ意欲を持った技術者もいましたが、和を重んじ同調圧力の強い組織や、リスクを嫌う上司・企業文化が弊害となり、組織的に新しい製品を生み出すことは限られていました。

      そのため、日本が生み出したVHSビデオや青色LEDなどの革新的な製品の多くは、組織からはみ出したアウトロー的技術者が開発したものでした。
       

    • 韓国、中国
    • 新しい技術やノウハウは、自ら時間と手間をかけて開発するよりも、買ってでもいいから早く手に入れようとします。場合によっては盗用も厭いません。一方新しい技術を製品化する意欲は非常に高く、極めて短期間に製品化し、多少不完全であっても他社に先んじて市場へ投入します。さらにコストを下げて市場を押さえるためには大胆にリスクを取って巨額の投資を行います。

     

    中小企業の経営戦略

    経営戦略への賛否

    経営戦略については、様々な批判や意見があります。
     

    「現実に社会では、戦略は実際のところ非常に単純なものだ。大まかな方向性を決めて、死に物狂いで実践する。
    …だが、戦略を複雑にしてしまってはいけない。考えれば考えるほど、データや詳細な計画を掘り下げれば下げるほど、何をしたらよいのか、身動きが取れなくなってしまう。それでは戦略ではない。単に苦痛でしかない。」

    ジャック・ウェルチ (元GE CEO)

     

    実際、正しい戦略を構築するのは容易ではありません。なぜなら、顧客のニーズですら正確に把握するのは困難だからです。化粧品会社のグループインタビューで「どんな化粧品が欲しいですか」と聞いても、「安くて良いもの」という結論になってしまいます。実際、マーケティング調査で架空の製品の話をしても、よくわからないということになりがちです。

    ヤフーがポータルサイトの変更に際し、1対1やグループインタビューわ行い、顧客のニーズを調査しました。顧客のニーズは

    「世界情勢のニュースが必要で芸能ニュースはいらない」

    でした。しかし実際には世界ニュースをクリックしている人はほとんどおらず、芸能ニュースにクリックが集中していました。
     

    経営戦略に必要なこと

    経営戦略が長期的に自社の目指す姿、ゴールへの道のりとすれば、経営戦略の立案には何よりもまず、自社の目指す姿を明確にしなければなりません。つまり、○○年後に「我社はどうなっていたいのか?」です。
     

    これを考えるには、わが社の顧客を具体的、かつ明確に絞り込む必要があります。

    1. ○という顧客に
    2. ○という製品やサービスを提供する
    3. ○な会社

     

    これが具体的になれば、それを実現するための道のり、つまり経営戦略を立てることができます。逆にこの3つがあいまいだと、経営戦略手法を用いても、あるいは分析ツールを用いてもあいまいな戦略しか出てこないのではないでしょうか。
     

    そして戦略を考える際には常識を疑って考え抜く癖をつける必要があります。

    宅急便を生み出したヤマト運輸の小倉元社長は、百貨店の小口配送業務をやっていた時、なぜ儲からないのか考えました。そして百貨店の配送業務は、ピークの荷物量が7~8倍と繁閑ギャップが大きいため、閑散期の固定費負担が大きい点に着目しました。そこで個人の荷物を相手にすることで荷物の量の変動を減らし、単価を高くすれば儲かるのではないかと考えました。
     

    参考文献

    「戦略学」 菊澤研宗 著 ダイヤモンド社

    「ストーリーとしての競争戦略」 楠建 著 東洋経済新報社

    「ハーバード戦略教室」 シンシア・モンゴメリー 著 文藝春秋

    「戦略の原点」 清水勝彦 著 日経BP社

    「ゼロからの経営戦略」 沼上幹 著 ミネルヴァ書房

    「戦略集中講義」 リチャード・コッチ 著 英治出版

    「なぜ新しい戦略はいつも行き詰まるのか?」 清水勝彦 著 東洋経済新報社
     

    本コラムは2018年8月26日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

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    ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

    未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

    経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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    製造業の経営戦略について

     
    企業が環境の変化に適応し成長し続けるには、適切な経営戦略を立案し……
    と言われます。

    では、この経営戦略とは何でしょうか。

    これまでの経営コラムを振り返りながら、製造業の経営戦略と、失敗事例について考えます。
     

    経営戦略とは

     

    戦略とは、元々軍事用語で、局地的な戦闘の方針戦術と対比して、広範囲、長い期間の戦いの方針です。これがいつのまにか経営に使われるようになりました。しかも経営における戦略の定義は人により様々です。

    「経営戦略とは何か」と聞かれて即答するのは容易ではありません。
     

    目指す姿への長期的な方針

    この戦略は、現状から目指す姿へ向かうための長期的な方針・計画と私は考えます。これは会社全体での方針を示す全体戦略と、商品企画、製造プロセス、社内体制などの個別戦略があります。それらを具体的に年単位で行う取り組みが戦術です。この関係を図に示します。
     

    経営戦略

    経営戦略


     

    そう考えると、自社の目指す姿がはっきりしていなければ、経営戦略は策定できません。
    この経営戦略についての参考記事が以下にあります。

    戦略とは何か、戦略と戦術について考える
     

    コンサルティングファームの台頭と経営戦略

    一方で経営戦略という言葉が広まったのは、欧米のコンサルティングファームが台頭したためでもあります。

    それは1950年代黄金期を迎えたアメリカ企業が1960年代に成長が鈍化した時に、それまでの過度な多角化を見直す際にコンサルティングファームが様々な分析手法を提案し、それを元に新たな方針を提言したためでした。

    この中から、ボストンコンサルティンググループやマッキンゼーなどの著名なコンサルティングファームが台頭してきました。

    一方、コンサルティングファームは、常に新しい戦略手法を生み出し、企業に提案しなければなりませんでした。その結果、様々な経営戦略手法が現れました。中には一時期非常にブームになったものの、今は顧みられなくなった手法もあります。
     

    その経営戦略手法は自社の実情に合っているか?

    その点では、かつての経営戦略手法は多角化が行き詰ったアメリカ企業に対するものであり、その後の経営戦略手法には、コンサルティングファーム自身が必要に駆られて創出した面があります。

    そのような手法の中には、日本の中小企業の実情には合わないものも多くあります。経営戦略手法やフレームワークを活用する際は、その手法の特徴だけでなく生まれた背景や主に適用されている企業規模なども考慮する必要があると考えます。

    コンサルティングファームと経営戦略手法についての参考記事が以下にあります。

    「経営戦略の発展とそれぞれの戦略の特徴」
     

    価格戦争という戦略

     

    一方、経営戦略は企業がある国や社会の環境、国民性によっても変わります。利に敏感で価格を非常に重視する中国では、欧米の経営戦略の教科書には載っていない「価格戦争」が非常に重要な戦略です。こうして価格を武器に、格力、美的、ハイアール、ハイセンスなどの中国企業が世界での市場を席巻しました。これにより日本企業の独壇場であった家電、エレクトロニクス製品の市場は中国企業に奪われていきました。
     

    日本の価格競争

    積極的な価格競争は日本企業も行っています。

    1956年国内シェア1位、売上高利益率10%、万全の財務体質で東洋経済やダイヤモンドなどの経済雑誌でも優良会社といわれた会社がありました。

    しかしその会社は4年後に赤字に転落、8年後に会社更生法の適用を受けました。現在は二輪車事業から撤退し、船舶用船外機のメーカー、トーハツ(株)です。

    なぜ万全の財務体質のトーハツが倒産し、ホンダが飛躍したのか?

    その原因はホンダの仕掛けた価格競争にありました。二輪車のようなマスマーケット市場では、いくら自社が良い経営をしていてもライバルからの攻撃に対抗できなければ、短期間に市場を失います。このトーハツとホンダの戦略の違いについの参考記事が以下にあります。

    「なぜ、万全の財務体質のトーハツが倒産し、ホンダが飛躍したのか?」
     

    このホンダの戦略を立案・実行したのは、専務の藤沢武夫氏でした。藤沢氏の参考記事は以下にあります。

    「「経営に終わりはない」ホンダという会社を創った男 藤沢武夫(前篇)」

    「「経営に終わりはない」ホンダという会社を創った男 藤沢武夫(後編)」
     

    日本独自の経営戦略手法

     

    経営戦略手法の中には、日本独自の手法もあります。経営コンサルタントの田岡信夫氏は、イギリスの航空技術者ランチェスターの軍事戦略「ランチェスターの法則」を経営に応用したランチェスター戦略を提唱しました。

    このランチェスター戦略は、小規模企業が大企業と戦うための戦略として日本で独自に発展しました。このランチェスター戦略には「弱者と強者」「弱者の五大戦略」などがあります。

    一方田岡氏は学問分野にあまり関心がなく、経営学では取り上げていないことが多く、知らない方もいます。その一方、熱心に勉強している経営者も多くいます。
     

    ランチェスター第一法則

    ランチェスター第一法則


     

    このランチェスター戦略の参考記事は以下にあります。

    「軍事戦略から日本独自の経営戦略へ、ランチェスター戦略」
     

    環境の変化

     

    経営戦略を考える際に、今後の環境の変化を無視することはできません。そのために書籍やニュースを見ても、手に入るのは数年先の予想ぐらいしかありません。しかも多くの目を引くように扇動的な内容ばかりです。

    では、今後はどのように変わるのか?

    確率の高い情報は人口とGDPの変化です。人口の変化はこれまでの変化からかなり確実に予想できます。ここから各国の経済規模、GDPの変化もある程度予測ができます。

    これを見れば世界の中で日本の立ち位置が今後変わっていくことがわかります。世界の中で日本の影響力は低下していきます。日本と回買い゛との関係は今後もどんどん変化していくでしょう。

    では、どのように変化するのか、人口とGDPの変化を以下にまとめました。

    「2050年、日本は世界の中に埋もれるのか。36年後の世界を統計データから読み解く」

    日本の人口減少と社会の変化を以下にまとめました。

    「人口減少社会とこれから起こる変化」
     

    過去の歴史を振り返る

    経済情勢の変化を考える際に、過去を知ることも役に立ちます。20年前、30年前のことを振り返ろうとすると、積極的に調べないとわかりません。私たち自身、昔のことは漠然としたイメージで「高度成長期の頃は景気が良かった」と捉えてしまっています。

    実際には、1970年代以前の高度成長期でも不況があり、多くの企業倒産がありました。
     

    日本のGDPの成長


     

    これについては、以下を参照願います。

    「高度成長時代の不況を振り返る。~30年先の経営を考えるために~」

    また平成バブルについて、

    なぜバブルが起きたのか?

    国はどうすべきだったのか?

    今から振り返ることも勉強になります。

    「平成バブルはなぜ起きたのか?どんな過ちがあったのか?」
     

    環境の変化に適応できず失敗した企業の事例

     

    長期的にみれば、今までの企業の取組や経営方針が今後も適切とは限りません。しかし環境の変化は非常にゆっくりしているため、よほど注意深く観察していないとわかりません。
     

    日本の産業黎明期には、工業製品を製造できることだけでも価値がありました。金属加工の技術が未熟で十分な工作機械がなかった大正、昭和の初期には、自社の金属加工技術を生かして、様々な製品を製造する企業がありました。

    工作機械の名門 (株)池貝は、英国の旋盤のコピーから始まって日本を代表する工作機械メーカーになりました。その後軍の要請もあり、ディーゼルエンジン、自動車、戦車などを手がけました。また新聞輪転機も製造しました。

    戦後はプラスチック押出成形機、様々な工作機械の製造を手がけました。その後、産業の主役が重工業から、自動車や家電などに移行すると、得意とする大型工作機械が不振となりました。さらにNC化への対応の遅れなどから経営不振に陥り、2001年民事再生法を申請しました。

    同社の衰退の原因には様々なものがあります。そのひとつに、技術が専門化し、それぞれの専門分野の企業が台頭する時代に変化したことが挙げられます。アップルはiPhone、iPod、iPad、Macなど製品ラインナップは多くありません。それであれだけの規模の企業となりました。

    時代は変化し、多くの製品を手掛けていては開発力が分散し、起用号に打ち勝つことが出来なくなっていたのです。しかし池貝は従来の製品ラインナップを整理できませんでした。

    この(株)池貝の変遷の参考記事は以下にあります。
    「変化への対応 工作機械の名門 株式会社池貝の変遷と富士フイルムを襲ったデジタル化」
     

    市場が急速に変化する今日

    一方、今日では技術や情報の伝達スビートが非常に早くなり、市場の変化はかつてないほど急速に訪れます。新製品が市場に投入されてから、市場が拡大し、衰退するまでは、今までは釣り鐘型のゆっくりとした変化でした。それが今日では、市場が急速に立ち上がり、衰退するサメのヒレ(シャークフィン・カーブ)のような変化を起こします。
     

    この市場の急速な変化とシャークフィン・カーブの参考記事は以下にあります。

    「これから10年で起こる、社会の劇的変化」
     

    本業喪失の危機

    有名な例では、フィルムカメラからデジタルカメラへのイノベーションがあります。フィルムカメラ市場は年々拡大を続け、1999年にはピークを迎えました。一方で1990年代に製品化されたデジタルカメラは、2000年までは市場シェアはわずかでした。しかし2000年に入ると市場は急速に拡大し、2005年にはフィルムカメラは一部の愛好家にしか売れなくなりました。

    このような市場の変化にポラロイド、コダックは倒産し、コニカはフィルムから撤退しました。富士フィルムでも「フィルムカメラはあと30年は持つのではないか」という楽観論が支配的でした。

    本業喪失の危機に直面した富士フィルムの参考記事は以下にあります。

    「変化への対応 工作機械の名門 株式会社池貝の変遷と富士フイルムを襲ったデジタル化」
     

    経営戦略を立てることは、未来への道筋を考えること

     

    このように考えると、自社の経営戦略を立てるためには、自社の事業とそれを取り巻く環境の変化を10年先、20年先まで考える必要があります。そこから自社の目指す姿をつくり、それに向かって取り組む方針を立てることが経営戦略の立案です。

    そんな先のことはとても考えにくいのですが、現在はその未来に向かって確実に動いていきます。しかもそのスピードは早くなっています。

    その結果、様々な職業が消えていきました。

    電話交換手、鍛冶屋、たばこ屋、キーパンチャー、時計修理、製図のトレース、印刷の写植、行商

    これらは現在ほとんど見なくなってしまった職業です。

    今後も技術の進歩や新しいサービスの出現で多くの仕事がなくなってしまうでしょう。

    そのような時代にあなたの会社は、どのような事業を行っているでしょうか。
     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

    人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

    ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

    未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

    経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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    経営コラム 労働生産性とは何か? 設備投資で向上するのか検証する

     
    国は企業の労働生産性を高めるために様々な施策を提示しています。
    例えば、設備投資の奨励や賃上げの要請です。
    あるいはマスコミは、企業が利益を内部留保し設備投資をしないため、雇用が回復しないと報道しています。

    果たして本当にそうなのでしょうか?

    設備投資をすれば労働生産性は向上するのでしょうか?

    労働生産性について考えました。
     

    労働生産性とは

     

    そもそも労働生産性とは何でしょうか?

    労働の生産性ですから、一生懸命働いて生産性が向上すれば、労働生産性は高くなるのでしょうか?

    実は労働生産性 (英語では、Labor Productivity) は、従業員の労働とはあまり関係がありません。

    さらに国レベルでいう労働生産性と個別の企業の労働生産性では、その定義も異なります。

    国レベル、つまり国際社会における労働生産性とは、GDP (国内総生産)を就業者数で割ったものです。

    労働生産性 (国)の計算式
     

    国は、逆に考えているようです。

    つまり、GDPを上げるためにはどうしたら良いか?

    日本は人口減少が続くので、GDPを上げるためには労働生産性を高めるしかありません。

    では、日本の労働生産性は他の国と比べてどうでしょうか?
     

    日本の労働生産性は低い

    日本の労働生産性を外国と比較したものを図1に示します。
    これによると日本の労働生産性は、アメリカの7割程度、G7やOECDの平均と比べても低い水準です。
    図1では全就業者数でなく、労働投入量として労働時間を用いています。
     

    図1 2006年の各国の労働生産性

    図1 2006年の各国の労働生産性


      

    しかしここで疑問が起きます。労働生産性が一人一人の生み出す価値だとすれば、ルクセンブルクやノルウェーの人は日本人の2倍の価値を生み出しているのでしょうか?
     

    労働生産性の分子は、GDP

    これはGDPと、労働者の生み出す価値を一緒にしたために生じた誤解です。

    GDPは企業や国が生み出す価値 (お金)の総額です。
    従って金融や投資によってもGDPは増えます。
    そして金融や投資によって価値を生み出すには、製造に比べてずっと少ない人で済みます。

    ということは、製造業が強い国と金融が強い国の労働生産性を比較してもあまり意味がありません。
    マラソンランナーと柔道の選手を比較するようなものです。

    では、労働生産性の変化はどうでしょうか?
     

    日本の労働生産性の伸び率の鈍化

    図2 日本とアメリカの労働生産性の伸び率

    図2 日本とアメリカの労働生産性の伸び率


     

    図2は、日本とアメリカの労働生産性の変化を示したものです。

    日本の労働生産性の伸び率は1980年代後半には4.2%でしたが、1990年代に入り2%台に低下しています。
    一方、アメリカは1980年代後半及び1990年代前半は1%台でしたが、1990年代後半から2%台に上昇しています。
     

    労働生産性の低下と人口減少で、GDPも減少

    こうしてみると、絶対値の比較は別として、日本は労働生産性が低下しています。

    さらに人口も減少するため、GDPが低下し、経済が縮小してしまいます。

    「今後とも少子高齢化・人口減少が進行する中で労働生産性の向上をどのように図るかが焦眉の課題である」
    と中小企業白書では述べています。
     

    グローバル企業が海外で成長してもGDPは増えない

     
    ただし、労働生産性はGDPから算出されるため、海外の現地法人が生み出した価値はGDPに含まれません。
    多くの製造業が海外に工場を展開し、海外売上の方が国内より高い企業も少なくありません。

    つまりグローバル企業が海外で成長しても日本のGDPには貢献しません。
     

    企業における労働生産性

     

    個々の企業の労働生産性は、企業の生み出した付加価値を投入した労働量で割ったものです。
    従って国際社会での労働生産性とは定義が異なります。

    この企業の労働生産性や労働分配率について、モデル企業から計算してみます。

    モデル企業 製造業A社
    売上高1億円 従業員(経営者含む) 10人 
     

    図3 モデル企業 製造業A社

    図3 モデル企業 製造業A社


     

    企業の労働生産性は以下の式で表されます。
     
    企業の労働生産性
     

    付加価値とは

    ここで付加価値とは売上高から外部から購入した価値を引いたもので、自社が生み出した価値のことです。
    外部から購入した価値とは、具体的には製造業では、材料費、外注加工費、購入部品費、運送費などです。
     

    付加価値== 売上高 - 外部購入価値

    外部購入価値とは、材料費、購入部品、運送費、外注費など

    ここで外部購入価値以外の価値とは、人件費、減価償却費、営業利益などです。

    一般的にはこれを付加価値と呼びます。
     

    付加価値=営業利益 + 人件費 + 減価償却費

    分母となる投入労働量は、人数や時間で表します。

    例えば、A社では付加価値は以下のようになります。

    付加価値は、3,500万円(人件費)+1,000万円(減価償却費)+600万円(人件費)+500万円(営業利益)
    付加価値=5,600万円

    従業員10人、年間総労働時間20,000時間 とすると

    労働生産性(一人当たり)=560万円/人

    労働生産性(1時間当たり)=2,800万円/h
     

    付加価値率とは

    売上高に占める付加価値の割合です。
    以下の式で表されます。
     

     

    A社の付加価値率は、56%です。

    この付加価値率は、業種により大きく変わります。
    従って、自社の付加価値率は同じ業種で比較しないと意味がありません。

    一方、自社の経営分析をする中で、付加価値率の変化を見ておけば、収益構造が変化していないか見ることができます。

    以下に代表的な業種の付加価値率、労働分配率、労働生産性を示します。
     

    表1 代表的な業種の付加価値率、労働分配率、労働生産性

    表1 代表的な業種の付加価値率、労働分配率、労働生産性


    (経済産業省 平成28年企業活動基本調査速報-平成27年度実績-より抜粋)
     

    労働分配率とは

    労働生産性によく似た指標に労働分配率があります。
    これは付加価値に占める人件費の割合で、以下の式で表されます。
     


     

    賃金を上げれば労働分配率は高くなります。
    自社の経営を数値で見ている経営者の多くは、労働分配率からどのくらい人件費をかけるべきか判断する指標にしています。

    A社の労働分配率は、62.5%です。

    表1を見ると、飲食サービス業は労働分配率が最も高い、つまり企業活動で生み出した価値の多くを人件費に充てている一方、労働生産性は最も低く、生み出す価値は最も低いことが分かります。
     

    労働生産性を高めるにはどうすべきか

     

    では労働生産性を高めるにはどうしたら良いでしょうか。

    中小企業と大企業の違い

    図5に「企業活動基本調査」から企業規模別の労働生産性を示します。
    製造業、情報通信業等の6業種すべてで中小企業の労働生産性の水準が大企業よりも低いことが分かります。
     

    図5 労働生産性の水準

    図5 労働生産性の水準


     

    設備投資をすれば労働生産性は上がるのか

    そこで国は、中小企業は大企業に比べて、設備が不十分で (資本装備率が低い) そのため労働生産性が上がらないと考え、積極的に設備投資をすることを奨励しています。

    では、先の製造業A社で設備投資をした場合、労働生産性がどうなるのか検証します。
     

    A社は1,000万円の設備投資をした結果、設備の生産性が10%向上しました。
    ただし、1年目は減価償却費が200万円増えました。
    その結果、より短い時間で生産できるようになり、残業時間が短くなり、人件費が10%減少しました。
    人件費が10%減少したことにより、営業利益が710万円に増えました。
     

    図6 設備投資の結果

    図6 設備投資の結果


     

    付加価値は、3,150万円(人件費)+1,200万円(減価償却費)+540万円(人件費)+710万円(営業利益)
    付加価値=5,600万円

    従業員10人は変わらず、年間総労働時間が18,000時間 に減少したとすると

    労働生産性(一人当たり)=560万円/人

    労働生産性(1時間当たり)=3,100万円/h

    つまり設備投資をして労働時間を短縮して人件費を削減すれば、時間当たりの労働生産性は向上します。
    しかし人数が同じであれば、一人当たりの労働生産性は変わりません。

    ただし、設備投資により売上も増えれば、労働生産性は上がります。
     

    賃上げをすれば労働生産性は上がるのか

    次に賃上げをしたら労働生産性がどうなるのでしょう。
    5%賃上げをした結果、労働生産性は以下のようになりました。
     

    図6 賃上げの結果

    図6 賃上げの結果


     

    付加価値は、3,675万円(人件費)+1,000万円(減価償却費)+630万円(人件費)+295万円(営業利益)
    付加価値=5,600万円

    従業員10人、年間総労働時間20,000時間 とすると

    労働生産性(一人当たり)=560万円/人

    労働生産性(1時間当たり)=2,800万円/h

    つまり売上が増えなければ、賃上げの分だけ営業利益が減少するだけで、労働生産性は変わりません。
     

    売上が増えなければ、設備投資も賃上げもできないという真実

     

    これはどういうことかというと、労働生産性を高めるという問題の方程式の解き方が逆です。

    「労働生産性を上げる」という問題の方程式に対し、
    結果として起きる「賃上げ」や「設備投資」を最初にやろうとする点に問題があります。

    本来は、
    売上増加→利益増加→利益処分の方法 (①賃上げ、②設備投資、③内部留保) →①②の結果、労働生産性上昇→売上増加 
    という順序です。

    本来は、各企業が儲かるビジネスモデルに転換して利益を増やす必要があります。

    むしろ今は
    労働生産性向上→人員削減→業務効率向上→現場の疲弊→ミスやスキル不足で問題多発→業績不振→さらなる人員削減
    という負のスパイラルに入っている企業があります。

    たしかにムダ取りは継続すべきですし、まだまだムダな作業はあります。

    しかし一番のムダは、不良や品質問題に人や時間を割いている点ではないでしょうか。

    実際に発注先の大企業担当者の自己保身と官僚的思考から、無理な要求を下請けのサプライヤが押し付けられ、それに反論できずに不良が多発して疲弊している企業も少なくありません。
     

    儲かるビジネスモデルこそ、生命線

     

    かつて日本の半導体工場は、稼働率90%以上、極めて効率の高い運営がされていました。
    その半導体工場は、東芝を除いて多くが国際的な競争力を失いました。

    対して、台湾のファウンドリーは稼働率が60%でも利益が出ていました。

    技術を過信した日本メーカーは、設備にも過剰な仕様を盛り込み、コスト競争力を失っていきました。
    設備投資の段階でコスト競争力がないため、いくら現場が努力しても海外メーカーに勝てませんでした。

    自社が儲かる体制をどうやってつくるのか、難しい時代になってきました。

    賃上げも設備投資の、その結果に過ぎないのではないでしょうか

     

     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

    人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

    ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

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    中小企業の高収益化の課題

     

    中小企業と大企業との格差

     

    現在、大企業はリーマンショックから回復し、円安もあって特に輸出割合の高い企業の業績は回復しています。

    それに対し、その下請けをはじめとする中小企業は「利益なき繁忙状態」で、大企業と中小企業の格差が拡大しています。
     

    実は、高度成長期以前は、日本企業は近代的な大企業と、前近代的な小企業・零細企業・農業等に分かれた「二重構造」でした。

    そのため中小企業と大企業の間に賃金、生産性等に大きな格差が存在していました。
     

    高度成長期以前の中小企業二重構造論

     

    高度成長期以前の中小企業と大企業の格差の原因ほ以下に示します。

    第一次世界大戦の好景気の際、大企業は良質な従業員の継続的な雇用のために、年功序列賃金や退職金制度を導入しました。

    対して中小零細企業は、人口増加に伴う労働力の過剰により、低賃金化が進み、その結果、格差が拡大しました。

    戦後も農地解放や戦地からの復員などにより、労働力の過剰供給が続きました。
     

    その結果、昭和20年から30年代にかけて企業の付加価値生産額は、大企業の100に対し、中小企業は40と低い水準で、経済白書1957年版では、中小企業を「わが国の中の後進圏」とまで言っています。

    つまり大企業の急速な待遇改善と、中小企業への過剰な労働力が、大企業と中小企業の格差の原因でした。
     

    高度成長期の中小企業成長論

    こうした「立場が弱く大企業から搾取される中小企業」という見方は、高度成長期に入り変化しました。
     

    経済成長に伴い、所得水準自体が大きく向上しました。

    高度成長期には労働力が不足し、中小企業も積極的に賃上げを行った結果、大企業との賃金格差はかなり縮小しました。
     

    図1 実質労働生産性上昇率の企業規模間格差(中小企業-大企業)の推移とその変動要因(2014年度中小企業白書より)

     
    図1を見ると高度成長期に中小企業は積極的な設備投資を行い、資本装備率は大企業に比べ高くなり、実施労働生産性も大企業に比べ増加率が高くなりました。
     
    こうした中、中小企業の中には大企業に匹敵するような成長を経て、中堅企業に発展する中小企業が出てきました。
     
    このような中小企業は以下の特徴がみられました。

    • 専門分野を掘り下げ、研究開発と独自の製造技術による、技術の高度化
    • 専門分野を掘り下げ、多くの産業や最終需要に適合する商品の開拓

     

    国の中小企業支援方針の変化

     

    1999年に改正された中小企業基本法は、このような変化を踏まえ中小企業政策の新たな理念を「多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展」を図ることに置き、
     

    1. 中小企業の経営基盤の強化
    2. 創業や経営革新に向けての中小企業者の自助努力の支援
    3. セイフティネットの整備

    を基本的な柱とするものになりました。
     

    バブル崩壊と格差の拡大

     

    図2の大企業と中小企業の収益性を売上高経常利益率で見ると、高度成長期の1975年に大企業と中小企業が逆転し、その後差は拡大しています。

    そしてバブル崩壊後の1993年に差はかなり縮まりましたが、その後また差が開いています。

    そしてリーマンショック前の2006年には大企業は4.8%と過去最大になりましたが、中小企業は2.4%と差は拡大しました。
     

    図2 大企業と中小企業の売上高経常利益率(2011年度中小企業白書より)

    図2 大企業と中小企業の売上高経常利益率(2011年度中小企業白書より)


     

    格差拡大の原因

     

    一方、アメリカやドイツなど海外の中小企業とROA(株主資本利益率)を比較すると、日本の中小企業は劣っていて、海外の中小企業と比較しても収益性が低いです。

    その原因として、以下の3点が考えられます。
     

    ・複雑な流通経路により、流通コストが高い

    製品がメーカーから消費者に渡るまでに何重もの中間業者を経由するため、小売価格が上昇します。

    一方1990年以降、日本はデフレに突入し、販売価格を上げる事ができなくなっていて、そのしわ寄せが、力の弱い中小・零細事業者にきています。

    建設業では元請けが受注する工事金額に対し、4次5次の下請けの施工業者が受け取る金額は、元請けの受注金額の30%程度と言われています。
     

    ・収益性が低い原因は過当競争

    日本政策金融公庫などの政府系金融機関が非効率な中小企業に資金を供給し続けることで、非効率な企業が市場から退出せず、過当競争になっています。

    他国に比べても、政府が行う中小企業向けの金融支援は、直接融資、買い出し保証金額とも群を抜いて高いものとなっています。
     

    ・製品やサービスが差別化できていない
     

    日本の中小企業は、アメリカの中小企業に比べROAの分布が低い方の一か所に集中していることから、多くの企業がリスクを取って収益性の高い事業に取り組んでいないためと考えられています。

    ハイリスク企業が多いと図のようにROAの分布がばらつく傾向にあります。
     

    図3 企業のリスクテイク行動とROAの関係(2016年度中小企業白書より)

    図3 企業のリスクテイク行動とROAの関係(2016年度中小企業白書より)


     

    これを日本とアメリカの中小企業と比較すると、日本の中小企業はローリスク企業が多いことがわかります。
     

    また開業率、廃業率とも日本は他国に比べて低い水準であり、開業は少ない資金で始めることができる小売、飲食業が多いという特徴があります。
     

    従って日本の中小企業の収益性が低い原因は、

    • 流通構造の多段階性が中間投入費を押し上げている。
    • 中小企業が過当競争に陥っている。
    • イノベーションなどのリスクを取った行動を行えていない。

    この3点があげられます。
     

    そのため、国や県の産業振興策、及び中小企業振興策には、創業支援や研究開発への支援が盛り込まれています。
     

    日本の中小企業のイノベーションが海外より低調な原因

     

    海外の企業と比較する際、日本企業固有の問題として、経営者の個人補償があります。
     

    多くの中小企業は、負債に対して経営者が個人補償を行っています。

    従って有限責任の株式会社でありながら、経営者個人に対しては無限責任となっています。
     

    これは経営者の無軌道な借り入れを防止し、モラルハザードを防ぐ点で効果がある反面、倒産すると巨額の借金を個人が負う為、個人破産せざる得ない場合もあります。

    社会的な評判や他者の視線を気にする日本社会の特徴もあり、倒産や破産により生活が破たんしたり、自殺の原因になったりします。
     

    企業の開業、廃業率が低いことや、中小企業がリスクを取らない原因は、経営者の個人補償の問題が影響しています。

    アメリカでは、負債に対し経営者の個人補償を求めることは少なく、個人補償をしたとしても、倒産時に債権者が個人財産の供出を強制することは人権問題となるため、極めて困難です。

    海外のように何度も起業に失敗して、最後にIPOに成功して億万長者になることは、日本では極めて困難です。

    一度失敗すれば、再起不能になるため、海外の起業家のようなリスクを取った行動はできません。
     

    以前、インドのハイラマバードのインキュベーション施設の方と会いました。

    大きなビルに300人以上の若者が入居し、起業していました。

    その大半は、新しいITサービスでした。

    彼らは、最初の資金は政府系の融資を受けて、新しいサービスを開発します。

    そして数年である程度の形が出来上がると、民間のベンチャーキャピタル融資を受けます。

    その中には、日本の孫正義氏の会社もあるそうです。

    このハイラマバードには、マイクロソフトやグーグルも進出しています。

    そして最終的には、彼らは自分の開発した製品やサービスをマイクロソフトやグーグルに買ってもらいます。

    富を得て、マイクロソフトに迎えられます。

    そして出資したベンチャーキャピタルも利益を得ます。

    そうして一獲千金を夢見た若者たちがしのぎを削っています。
     

    格差の原因 設備の老朽化

     

    内閣府が発表した平成25年度 年次経済財政報告によれば、中小企業の課題として、全要素生産性TFPが低い点が指摘されています。

    全要素生産性(TFP)とは、生産の増加のうち、労働や資本と言った生産要素以外の要因での増加を計測したもので、一般的には、技術的な進歩を示します。

    具体的には、作業改善やより効率の高い設備への更新による生産性の向上などです。

    TFPが低い要因の一つとして、設備投資が抑制され、生産効率の高い設備への更新が進まない点があります。

    そして設備の老朽化が、生産効率全体を押し下げていると考えられます。

    原因は、長年に渡るデフレにより実質金利が高止まりしている点や、過剰債務問題など考えられます。

    その結果、設備投資が抑制され、生産効率の高い新規設備の導入を見送られています。
     

    技術が高ければ、利益は高い?

     

    このような背景の中、低収益に 苦しむ中小企業の業績は悪化する一方、大企業を超える高収益を実現する中小企業も増加しています。

    やはり高い技術があり、ライバルが少ない企業は高収益なのでしょうか?
     

    神戸大学大学院経営学研究科は、2001年に東大阪市の中小企業を対象に技術の高度性や市場の専門性と収益との関係を調査しました。

    その調査結果から、意外なことがわかりました。
     

    技術の高度性と収益性

    調査結果には、高度な技術を持っていながら低収益の企業がある反面、高度な技術を持たなくても高収益な企業も多数存在しました。

    中小企業の技術の高度性と企業収益の間には、関連がありませんでした。
     

    市場の独占性と収益性

    市場では自社しかない独占状態の企業の中には、高収益な企業が存在する反面、低収益な企業も存在しました。

    一方で市場に10社以上存在する競争の激しい市場でも高収益な企業と低収益な企業が存在しました。

    市場の独占性と企業収益の間にも関連がありませんでした。
     

    この傾向は対象を下請け企業に限定しても変わらず、高度な技術を持ちながらも低収益な下請け企業もあれば、技術が高くなくても高収益な下請け企業がありました。
     

    つまり今までの常識に反して、中小企業の

    • 技術の高度化
    • 市場の専門性(ニッチトップ)
    • 下請け企業か否か

    3点は収益性に関連がないと調査結果は示しています。
     

    高収益な中小企業の要因

     

    では、高収益の原因は何か、考えられる複数の要因のうち、以下の3点を挙げます。
     

    ・取引先(収益性、取引姿勢

    仕事を発注する取引先(メーカー)の経営が良くないと、そこからの受注の収益性が低下する傾向にあります。

    また、経営状態以外にも、外注管理の方針の変化により採算性が大きく変わります。

    つまり儲かっていない会社の仕事は儲からない、下請けいじめで利益を上げようとする会社の仕事は儲からないということです。
     

    ・経営姿勢(利益重視と売上重視)

    高度成長期のような市場が拡大する状況では、顧客の需要を満たすために供給能力の確保、売上至上主義になります。

    事実、売上が拡大している場合、経費の増加より売上の増加の方が大きく、利益は拡大します。

    しかし売上が横ばい、もしくは下降傾向の局面では、個々の受注の利益をしっかりと押さえておかないと、全体の利益が確保できません。

    一方中小企業は、原価や販管費を製品ごとに振り分ける仕組みがなく、個々の受注ごとの利益がわからない企業もあります。
     

    ・技術、製品を取り巻く環境

    発注先企業の製品や製造技術が大きく変化すると、受注そのものがなくなったり、競合にシェアを奪われたりして、収益性が大きく変わります。

    海外への生産移転や発注先企業の製品自体の消滅などもあります。

    逆にこのような変化を活かして、より利益率の高い受注を獲得する企業もあります。
     

    高収益な取引先

     

    中小企業が高収益になるためには、高収益な企業と取引することが必要です。

    では、高収益な取引先(メーカー)にはどのような企業があるのでしょうか。
     

    従来、中小企業の取引先には、日本の大手メーカー、家電、自動車、工作機械などの系列航空機などは、日本を牽引が多く、そういった企業を思い浮かべます。

    確かにこのような企業は、量も多く一度取引が始まれば安定した受注がありました。

    しかし、家電や自動車などは、今は海外の企業と激しい競争を行っており、それほど儲かる製品はなくなってきています。

    特に大量生産品は、中国企業が積極的に参入しています。

    中国企業は、日本企業とは異なる価値観、戦略で経営しており、それは大規模な投資による低価格と大量供給による競合の殲滅です。

    この戦略で国内の激しい競争を生き残った企業が、巨額の政府資本をバックに海外企業に挑戦しているのが実情です。

    そのような大量生産市場よりも、グローバルでの市場はそれほど大きくなく、高度な技術やノウハウが必要な製品で、日本企業は強い存在感を示しています。

    そのような企業は市場シェアや利益率が高い企業が多いです。

    こういった企業をグローバルニッチトップ企業と呼びます。

    そこで経済産業省が2015年に発表したグローバルニッチトップ100選から、収益性の高い大手~中堅企業を紹介します。
     

    日特エンジニアリング株式会社

    設立:1972年 従業員数:557名

    平成27年3月期 売上高207億円、営業利益22.5億円、売上高営業利益率10.9%

    【製品・サービスとその内容、強みの理由】

    電子部品や、自動車や家電などに使用する各種モーターに使われるコイルを製造する自動巻線機を開発・製造しています。
    自動巻線機は顧客に合わせて製造するため、これらの設計、組立には匠の技が必要です。
    研究開発、ノウハウの蓄積、技術伝承を強みとし、世界市場シェア4割を有しています。
     

    株式会社小森コーポレーション

    設立:1946年 従業員数:1,814名

    平成27年3月期 売上高912億円、営業利益64億円、売上高営業利益率7.0%

    【製品・サービスとその内容、強みの理由】

    オフセット印刷機の専業メーカーとして、精密加工や印刷ソフト等の技術、APC(刷版交換装置)や生産性向上のための自動化、省力化装置を世界に先駆けて開発し、世界市場シェア1割を有しています。
    証券印刷機では、独立行政法人国立印刷局をはじめとして、世界十数カ国に紙幣印刷機を納入し、高い生産性と偽造防止技術があります。
     

    フロイント産業株式会社

    設立:1964年設立 従業員数:348名(連結)

    平成26年2月期 売上高176億円、営業利益12億円、売上高営業利益率7.3%

    【製品・サービスとその内容、強みの理由】

    医薬業界に向けて、世界に先駆けて自動フィルムコーティング装置とフィルムコーティング液を開発しました。 
    錠剤フィルムコーティング業務で蓄積したノウハウと、 独自の技術を活かして、国内市場における造粒・コーティング装置市場では7割のシェア、世界市場においては2割のシェアを有しています。
     

    株式会社堀場製作所

    設立:1953年 従業員数:5,787名(2013年12月31日現在)

    平成27年12月期 売上高1708億円、営業利益193億円、売上高営業利益率11.3%

    【製品・サービスとその内容、強みの理由】

    VWの排気ガス対策の不正を暴いたポータブル式エンジン排ガス測定装置を始めとした、規制対象ガス成分の分析計として世界シェア8割を有し、各国排ガス規制や自動車開発の要望に対応しています。

    他にも様々なガスや液体の計測や分析装置を製造しています。
     

    Asynchronous machine as dynamometer for engine test bench, 250 kW

    titl : Asynchronous machine as dynamometer for engine test bench, 250 kW


     

    TOWA株式会社

    設立:1979年 従業員数:425名

    平成27年3月期 売上高212億円、営業利益16億円、売上高営業利益率7.5%

    【製品・サービスとその内容、強みの理由】

    半導体の素子を保護するために樹脂で覆うモールディング装置の開発から、販売・アフターサービスを行い、世界シェアは5割を超えます。

    モールド工程の完全自動化を実現した全自動半導体樹脂封止装置、生産量によって増減可能なモジュール構造全自動半導体樹脂封止装置、樹脂有効使用率100%・樹脂流動レスの量産向け半導体圧縮成形樹脂封止装置などがあります。
     

    日本電子株式会社

    設立:1949年 従業員数:2742人(2013年3月末)

    平成27年3月期 売上高953億円、営業利益29億円、売上高営業利益率3.0%

    【製品・サービスとその内容、強みの理由】

    試料表面に電子線を照射し、透過した電子をレンズで拡大投影して観察する透過電子顕微鏡を世界で初めて量産しました。
    現在は11のグローバルニッチトップ商品があり、最も世界シェアの高い製品のシェアは7割になります。
     

    エスペック株式会社

    設立: 1954年 従業員数:1318名(連結)、844名(単体)

    平成27年3月期 売上高336億円、営業利益26億円、売上高営業利益率7.7%

    【製品・サービスとその内容、強みの理由】

    家電製品などの信頼性、耐久性の評価に不可欠な環境試験器を日本ではじめて開発・発売し、約3割の世界シェアを獲得しています。
    米国、中国、韓国、ドイツに100%子会社、中国(上海)、マレーシアに合弁会社を設け、世界43か国に販売代理店33社を設置し、販売およびアフターサービスを行っています。
     

    株式会社日立ハイテクノロジーズ

    設立:1947年 従業員数:10,436名(連結)4,351名(単独)

    平成27年3月期 売上高6374億円、営業利益441億円、売上高営業利益率6.9%

    主要製品 半導体製造装置、電子顕微鏡、素材・部品など

    【製品・サービスとその内容、強みの理由】

    日立製作所 中央研究所が開発したマルチキャピラリ方式により遺伝子配列を解析する、キャピラリ電気泳動型DNA解析装置を開発・製造しています。
    これは、ヒトゲノムプロジェクトを始め、生物学、医学などのライフサイエンスに関わる研究分野に広く用いられ、世界トップシェアを獲得しています。
     

    どうやって取引するのか

     

    では、このような高収益企業があったとしても、すぐに新たに取引できるものではありません。

    多くの企業は、地道に新規開拓していく中で、高収益な企業に巡り合ったというのが実情ではないでしょうか。

    そのための方法として、展示会の活用があります。

    ものづくりや製品開発に課題のある企業の技術者と出会う場として、展示会は有効です。
     

    本コラムは2016年3月20日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

    人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

    ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

    未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

    経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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    会計が判断を誤らせる、会計と実務のギャップ

    なぜ会計は分かりにくいのか?

     
    多くの経営者、幹部社員は、会社のお金=会計は分かりにくいと感じています。

    損益計算書や貸借対照表の見方は分かっていても、どの数字が実際の業務にどのように影響するのか、そこまで理解するのは容易ではありません。

    キャッシュフロー計算書になると、よくわからないという方もいるのではないでしょうか。
     

    そこで税理士や公認会計士が講師のセミナーや勉強会に出ても、

    「やっぱり、よく分からない、すっきりしない」

    ということになります。
     

    なぜでしょうか?

    会計は外国語

    これは学ぶ人の問題では決してありません。

    実は会計は、販売や製造などの実務を行っている人にとって、外国語のようなものでからです。
    実務を行っている人たちが日本語を話すのに、会計の人たちは中国語を話すような感じです。

    そして外国語で、会計独特の考え方を説明しています。

    つまり日本人が、中国語で中華料理の作り方を習っているようなものです。

    原因のひとつは、会計の世界の人たちの多くは、実務にあまり関心がありません。
    お金が何に変わり、どのように人が働いて給与になるのか、そこには関心があまりないのです。
     

    会計のセミナーの多くは、実務に関心の薄い会計の専門家が、会計の世界観を会計の言葉で説明しているわけですから、実務を行っている人からは、

    「それが何になるの、仕事どう関りがあるのか?」

    分からないので、どうしても難しくなってしまいます。

    実務の人と会計の人との間には、深くて大きな溝があるのです。
     

    会計と実務者の間の溝

    会計と実務者の間の溝


     

    会計の素人に仕訳は苦痛

    会計の勉強に行くと、勘定科目や仕訳と言った簿記から入ったりします。
    しかし経理担当や会計事務所でもない限り、実務の人たちにとって、仕分けなど簿記の知識は必要ありません。

    そして簿記に関心のない人が簿記を学ぶのは大変苦痛です。
     

    会社のお金の大まかな流れを知る必要性

     

    利益を増やすためには、

    • 会社に入るお金を増やすか
    • 出ていくお金を減らすか

    いずれかが必要です。

    そのためには会社のお金の大まかな流れを知る必要があります。
    会計を全く知らなければ、効率よく利益を増やすことはできません。

    また誤った会計の知識のために、会社のお金が出て行ってしまうこともあります。
     

    利益増加のためには正しい会計の知識が必要

    利益増加のためには正しい会計の知識が必要


     

    会社のお金の大まかな流れを知るためには、会計とはどのようなもので、それぞれの会計の特徴を知っていれば十分です。そこで、

    1. 会計とは何なのか
    2. どうして会計は出来たのか
    3. そして会計の誤解について

    お伝えします。
     

    そもそも会計とは?

     

    会計と利害関係者

    【会計とは、(会計用語辞典より) 】

    企業などの経済主体が自ら行う経済活動を記録・測定し、会計情報と報告することを「会計」といいます。
    会計の目的は、会計情報を使用者に提供し、利用者へ説明責任を果たし、利用者の意思決定を助けることです。
    それには公正さと正確さが求められ、そのため一定のルールや形式に従う必要があります。

    注記)

    経済活動 : お金の流れのこと

    利用者 : 投資家、債権者、税務署のこと

    【説明責任/会計責任=アカウンタビリティ】

    経営者は株主からの出資により企業の経営を任されているため、株主に対して自らの活動内容を定期的に報告し、説明しなければなりません。

    会計とは、一定期間の企業活動の結果、会社の資産の状況、損益の状況、現金支払い能力などを財務諸表の形でまとめ、利害関係者に報告することです。

    • 投資家 投資した資金が適切に運用され、会社の資産が適切に増えているか
    • 債権者(多くは金融機関)貸したお金がちゃんと返済されるか
    • 税務署 利益や資産に対して適切に税金が支払われるか

     

    財務会計の基準

    適切に会計が行われるように、以下の3つの基準があります。

    1. 企業会計委員会が設置する企業会計基準(大企業をはじめとして多くの企業が従う)
    2. アメリカ基準(アメリカで上場している企業は、アメリカ基準での作成も認められている。)
    3. 中小企業の会計に関する指針 (平成17年 日本公認会計士協会、日本税理士会連合会、日本商工会議所、企業会計基準委員会が審議し、中小企業庁が取りまとめ)

     

    《中小企業の会計に関する基本要領》

    (平成24年 日本商工会議所が主体となる中小企業会計に関する検討会)
    中小企業会計に関する指針を平成17年に制定したが、まだ内容が複雑すぎて定着しなかったため、日本商工会議所が主体となって中小・零細企業も遵守できる会計の指針として、平成24年に制定し、中小企業庁が推進。
    参考ウェブサイト中小企業庁ホームぺージ 財務サポート「中小会計要領」
     

    以下、中小企業庁のホームページより、

    非上場企業である中小企業にとって、上場企業向け会計ルールは必要ありませんが、中小企業でも簡単に利用できる会計ルールは今までありませんでした。
    「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」は、次のような中小企業の実態を考えてつくられた新しい会計ルールです。

    • 経理人員が少なく、高度な会計処理に対応できる十分な能力や経理体制を持っていない
    • 会計情報の開示を求められる範囲が、取引先、金融機関、同族株主、税務当局等に限定されている
    • 主に法人税法で定める処理を意識した会計処理が行われている場合が多い

    税務会計の特徴

    税務会計は、税金の計算のために税務署に提出する会計です。
    財務会計では、利益や費用となるものが、税務会計では認められない場合があります。
    ここで、費用と利益は、下表のように税務会計では異なった表現になります。

    財務会計と税務会計の違い
    財務会計 税務会計
    利益 益金
    費用 損金

     

    ① 利益でなくても、益金になるもの

    長期請負工事にかかる収益は、一部の工事では、財務会計における収益認識のタイミングと、税務会計における益金算入のタイミングがずれることがあります。
    その結果、財務会計における工事収益より、税務会計における益金算入額が少なくなることがあります。

    ② 利益でも、益金にならないもの

    益金にならないものが多いほど、利益に比べ納税額が少なくなります。
    資産評価益は、財務会計上は特別利益となりますが、税務会計では益金になりません。
    受取配当金も一定の条件を満たせば、益金にならなくなります。

    ③ 費用でなくても、損金になるもの

    税務会計上の赤字(繰越欠損金)は損金になり、9年間繰り越すことができます。

    ④ 費用でも、損金にならないもの

    以下の費用は、一定額を超えると損金の金額に上限があり、超過分は損金にならなくなります。

    • 交際費
    • 寄付金
    • 各種準備金および引当金
    • 役員報酬および賞与および退職金
    • 減価償却費

     

    《税務会計か、財務会計か》

    税務会計の目的は、税金を安く抑えるためなので、税務会計では売上を抑え、費用を増やす傾向にあります。
    財務諸表は、財務会計より経営状態の良くないものになりがちで、金融機関からの融資には不利に働きます。

    従って融資や投資家からの資金調達を重視するのであれば、法人税が多少高くなっても財務会計を選択します。
     

    管理会計 予算と統制に会計を活用

    19世紀後半のアメリカ、イギリスで発達したもので、最初は工場の管理に会計を用いて、毎月仮決算を行って月次の工場利益を算出するところから始まりました。
    この管理会計は経営者の意思決定や組織内部の業績測定・業績評価に役立てるなど内部統制を目的とするものです。

    管理会計の情報は、組織内部で使用され機密情報として扱われることが多く、外部の利害関係者のために報告に使用される財務会計の情報とは異なります。

    財務会計の情報は、企業会計原則や商法、金融商品取引法、法人税法などによる規制がありますが、管理会計にはそのような規制はありません。

    管理会計は主に、原価計算と予算管理から構成されます。

    また事業部制を採用している組織では、事業部単位での予算管理に活用されます。
     

    財務会計の主な目的は、過去の数字を整理して、企業の利益と資産を適切に算出することです。
     

    財務会計は過去の数字

    財務会計は過去の数字


     

    一方管理会計は、過去の数字を元に、今後の数字を予算として予測し、それを実現するための業務をコントロールする指標を提示します。

    これは図のように企業の各オペレーションにお金という管理指標を加えて評価し、目標利益を達成するためにPDCAを回す仕組みです。
     

    利益を増やすための会計

    利益を増やすための会計


     

    つまり各々の業務を会計という鏡を使って映し出し、改善していこうということです。

    問題は、この会計という鏡が歪んでいることです。
     

    日本の会計基準の特徴

    従来の日本の会計は、資産は時価評価でなく、取得原価評価でした。

    これにより資産の価値は維持されるため、資産は再評価の手間がかかりませんでした。

    資産価値が変動しないため、経営者も安心して次の投資に踏み切ることができ、貸借対照表においても資産が目減りしないため、融資を受けやすくなっていました。
     

    この大きな資産を重視する経営は、高度成長期における鉄鋼、重化学工業など資本装備率の高い企業には非常に有利でした。

    一方、産業構造が成熟期に入り、低成長時代になると、このような経営は過剰設備を引き起こす一因となりました。

    さらにバブル崩壊後により、土地などの資産価値が減少し、過剰設備、過剰債務、不良債権が発生しました。

    そして取得原価評価の前提が崩れ、時価評価に移行していきました。
     

    会計の歴史

     

    会計の起源

     

    【古代】

    エジプトでは、紀元前4000年頃より国家が形成され、金銀銅や家畜や穀物が租税として徴収されました。
    そこで、これらを管理するために会計記録官、記録官や人夫が配置され、税として徴収したものの管理を行いました。
     

    【古代バビロニア】

    商業が盛んだった古代バビロニアでは、紀元前3500年の会計記録が存在しており、エジプト同様の会計の仕組がありました。

    バビロニアの会計記録官は、契約成立時の立会人の役割を果たし、時には粘土板上に契約内容を刻んで債権者に手渡し、万が一の際の保証としていました。
     

    【古代ギリシア・ローマ】

    ギリシア・ローマ時代には貨幣が現れ、デロス島の神殿跡からは紀元前180年頃の会計記録が発見されています。
    そこには租税収入や賃貸料、貸付金金利、賃金や祭祀のための支出などの記録が記されていました。

    ローマ時代には備忘帳や会計日記帳に相当するアドヴルサリアというものがあり、元帳に相当するコデックスも用いられていました。
    貸方・借方の概念もこの時代に発生したとされています。
     

    【中世ヨーロッパ】

    13世紀末期から14世紀初頭のイタリアにて、これまでの単式簿記に替わる複式簿記の基礎が形成されました。
    これを体系化したのは、ルカ・パチョーリの著書スムマ(算術、幾何、比および比例に関する全集)とされています。

    複式簿記自体は、それ以前からありましたが、これを知識として形にしたパチョーリの功績は大きく、「会計の父」と呼ばれています。

    また同時期にヨーロッパでは、従来のローマ数字に代わり、アラビア数字が普及して、記帳の簡便性が増しました。
     

    【16~17世紀オランダ】

    オランダは、当時商業の発達した黄金時代にあり、オランダ東インド会社など大規模な組織も設立され、簿記の研究がどんどん発達していました。

    オランダの二大簿記書に、ジャン・イムピンの「新しい手引き」(1543年発行)、とシモン・ステヴィンの「数学の伝統」(1605年発行)があります。

    イムピンの書には、決算日に在庫を繰り越す期間損益計算の概念が取り入れられ、ステヴィンの書には、年度ごとの損益を比較するための年次期間損益計算の概念が取り入れられていました。
     

    コラム【複式簿記】(Wikipediaより) 
    複式簿記(ふくしきぼき、英: Double-entry bookkeeping system)とは、簿記において、全ての簿記的取引を、その二面性に着眼して記録していき、貸借平均の原理に基づいて組織的に記録・計算・整理する記帳法のことをいいます。

    複式簿記では1つの取引における取引金額を、取引の原因と結果の観点から借方と貸方に振り分け、それぞれ同一金額を記録してゆくことになるので、最終的に借方と貸方の合計額は常に一致することになります。これを貸借平均の原理といいます。

    複式簿記は単式簿記よりも手順としては複雑になりますが、資金の収支に限らず全体的な財産の状態と損益の状態を把握できるという利点があります。
     

    複式簿記の構成

    複式簿記の構成


     

    期間計算の成立

    中世イタリア商人による地中海貿易では、企業とは、その時限りの企業でした。

    1回の貿易航海が終わったらそれで終わり、という当座企業として行なわれ、利益の計算は航海が終わったところでの清算していました。
    当座企業は、事業を企画し、資金を集め、事業が終わり、清算して、再度また事業を企画していました。

    しかし貿易航海は、次もあるわけでこれは大変非効率的でした。

    そこで継続企業へ移行します。

    継続企業の場合は、終わりがありませんので、期間を定めて、期間内で利益を計算しなければなりません。
    この一定期間が 1 年の場合、一般的な年次期間計算になります。

    コラム【貸借対照表】

    貸借対照表(Balance Sheet:B/S)は、企業の一定時点における企業の(瞬間的な)「財政状態」を表します。
    この貸借対照表という言葉は、英語のBalance Sheetの訳ではなく、明治23年の旧商法の「貸方及び借方の対照表」に由来します。
    貸借対照表の左側・借方には資産、右側・貸方には負債・資本が記入されます。
    つまり貸方は資金とその調達方法を表し、左側借方は、調達した資金の使われ方を表します。
     

    発生主義の成立

    今日の会計は一般に「発生主義の会計」と呼ばれています。
    この「発生主義」に対しては、「現金主義」があります。
     

    現金主義は、お金の出入りにもとづいて利益を計算するものです。
    当座企業の場合は、企業の全生涯に渡って、入ってきたお金から、出ていったお金を引いたものが、利益です。
    継続企業の場合は、期間計算となるため、期間内に入ったお金から、期間内に出て行ったお金を引いたものが利益です。
     

    しかしこれでは困ったことが起きました。
    お金の動きを伴わない信用取引が増えてきたのです。
    例えば、商品は販売したが、その期間内にお金を受け取っていない場合、その取引は記載されません。

    そこで発生主義という考え方が生まれました。
     

    信用取引の場合の売上

    信用取引の場合の売上


     

    商品を販売した時点で売掛金として売上を計上します。

    そしてお金を受け取った際に、売掛金を現金に記載し直します。
    同様に商品を買ったがお金を払っていない場合も、買掛金として計上します。

    また固定資産は、例えば貿易航海で船を買った場合、現金主義では、船の購入代金はすべてその期間内の費用になります。
     

    しかしその船は、その後の航海に何度も使用します。最初の期間内にすべて費用とすると、その期間は大幅な赤字となってしまいます。

    しかし翌年からは、船の費用はかからないので利益が大幅に増えます。

    これでは各航海の収益に偏りができるため、船が10年使用できるのであれば、10年間に均等に費用を配分する方が適切です。

    そこで費用を設備の耐用年数で配分するのが、減価償却です。
     

    設備を購入した場合

    設備を購入した場合


     

    コラム【損益計算書】

    かつては事業の結果は、貸借対照表でした。近世に入り継続会社として株式会社が現れると、期間内の利益を明らかにして配当を決定する必要が出てきました。
    そこで貸借対照表に加えて、損益計算書(Profit and Loss Statement : P/L)を作成し、期間内での利益を明確にするようになりました。
    損益計算書は、経営成績(経営の結果としての「利益」または「損失」)を明らかにするために作成されます。
    貸借対照表が事業活動の結果とすれば、損益計算書は、その原因を示しています。
     

    会社法の制定

    19世紀前半のイギリスでは、数多くの詐欺的会社ができ、投資家から資金をだまし取る問題が起きました。

    そのため株主の利益を保護する必要がありました。

    そこで、会社の設立と運営に関して、会社の情報を公開することが求められました。

    イギリスで1844年にはじめて制定された会社法は.

    • 会社の取締役に対して,会計帳簿へ記入すること
    • 会計帳簿から正確な貸借対照表を作成すること
    • 監査役による監査を受けること

    この3点を求めました。
     

    《投資家への情報開示》

    ブラックマンデーに端を発した1929年のニューヨーク株式市場の崩壊により、市場は混乱し、多く投資家が多額の損失を被りました。
    そこで投資家の保護が強く求められ, 1933年には証券法が,1934年には証券取引所法が制定されました。

    企業は「一般に公正妥当と認められた会計原則」(GAAP) に適合した財務報告書の作成が求められ、投資家に対して適切な情報を十分に開示することが要求されました。
     

    管理会計の生成

    20世紀に入り、アメリカ経済が大量生産と大量消費により発展したとき,会計を経営管理に役立てる管理会計という考え方が生まれました。

    固定資産への投資や、競争に勝つために製品原価の引き下げを、会計により綿密なコントロールしようという考えです。
    そしてこの管理会計から、標準原価,予算および経営計画などが構築されました。
     

    江戸時代の会計

    江戸時代、各商家は独自に様々な「複式決算簿記」を作成していました。

    「複式決算簿記」は,すべての取引が、勘定と貨幣情報に分類され、それぞれが体系的に記録されたものです。
    しかしその形式は、現代の左右対称勘定型式や貸借複記仕訳型式等ではありませんでした。
     

    《和式複式決算簿記の形成》

    複式決算の最古の事例は,大坂の鴻池両替店の1669/70年の「算用帳」です。

    殆ど同じ時期,伊勢の川喜多家,三井家,長谷川家など多くの商家で複式決算が実施されていました。

    寛文期(1661年-1673年)から元禄期(1688年-1704年)は,都市の繁栄と新興町人の台頭により、遠隔地商業や為替金融が発達しました。

    江戸・京都・大坂の三都と諸藩城下町との間で,全国的な商品流通が形成され、この市場経済の「担い手」が前述の近畿出身の新興商人層でした。

    彼等のみが「和式複式決算簿記」の「担い手」でもありました。
     

    コラム【簿記】

    「簿記」という言葉は、bookkeepingの訳語で、「帳簿記入」を略して命名されたといわれています。あるいはbookkeepingという語の音を反映したとも言われています。
     

    M&A時代の会計

    企業買収が活発になると、買収対象として、企業価値の適切な評価が重要になりました。

    そして資産価値は、取得価格でなく時価評価が求められ、営業権や顧客、技術や製造ノウハウなども適切に金額で評価する必要が出てきました。

    その結果、買収により企業間を会計上結合する場合、買収価格が純資産の時価より大きい場合、のれんとして計上するようになりました。

    こののれんは、一定期間に償却されます。
     

    会計のゆがみ

    正しい姿とは?

    【正しい姿は複数ある】

    財務会計は、企業会計基準に従って作成されます。
    しかし企業会計基準に従っても、計上の仕方により結果が異なります。
    例えは売上をいつ計上するのかは、製造した時、納品した時、検収が上がった時など企業により様々です。
    原価計算もどれを直接製造原価にして、どれを間接費とするかは企業独自の考え方があります。
    その結果、同一の企業でもやり方により、会計の真実の姿は複数あります。

    【正しい姿を見ない】

    税務会計の影響により会計の姿が変わります。

    例えば減価償却は、定率法と定額法の2種類があり、企業が選択することになっています。

    実際の価値の劣化は、一定割合なのに、税制に有利なために減価償却を定率法で行う場合もあります。
    あるいは売上が厳しい場合、決算内容が良くするために、その年は減価償却をしない企業もあります。
     

    変動費と固定費

    管理会計では製造原価は、全部原価計算ではなく直接原価計算で求めます。

    一方企業会計基準では、原価計算は、全部原価計算で行わなければなりません。

    この直接原価計算は、損益分岐点の計算や利益計画の策定に活用されます。

    この直接原価計算は、製造原価を変動費と固定費に分けて、計算します。
     

    例えば、労務費は、残業手当のように売上に応じて変化する変動費と、基本給や社会保険料のように売上に関わらず変化しない固定費があります。

    同様に販売費及び一般管理費においても、生産量に応じて変化する変動費と変化しない固定費があります。
     

    変動費と固定費の分解

    変動費と固定費の分解


     

    【あいまいな区別】

    実は変動費と固定費の分解はそれほど簡単ではありません。

    費用によっては固定費の要素と変動費の要素があるからです。
    例えば電気代は、基本契約である固定料金と利用量に応じた課金の2種類があります。
     

    変動費と固定費の両方の要素

    変動費と固定費の両方の要素


     

    事業の性質から、電気代自体が大きくなく、かつ売上の変化に応じてそれほど大きく変化しない場合は、固定費として構いません。
     

    【固定費の分配の問題】

    個々の製品の原価を計算する際は、固定費を分配する必要があります。
    ここでどのように分配するかにより、製品の製造原価は変わります。

    この分配の基準は、とくに決まったものはなく、各々の企業が自社に合った基準を決める必要があります。
     

    原価計算の問題

    原価計算は、算出の仕方により企業の利益が大きく変わるため、統一した基準が必要です。

    そこで1962年に大蔵省企業会計審議会が「原価計算基準」を策定し、今日でもこれが基準となっています。

    原価計算には、製造段階で発生した費用を適切に記帳する必要があるため、そのための工業簿記が発達しました。
    これは内部取引も含めた記帳する複式簿記です。
     

    【全部原価計算の問題】

    財務諸表の作成や税金の計算などの財務会計では、原価計算は全部原価計算で行わなければなりません。
    この全部原価計算では、売上がなくてもたくさん製造して在庫すれば、その期の費用は少なくなるという性質があります。
     

    期末在庫が多い程製造原価が下がる

    期末在庫が多い程製造原価が下がる


     

    従って在庫を増やすほど利益が出ます。

    しかし売れない在庫は資金の回転を悪化させ、また在庫が長期間滞留すると保管費用や製品の劣化など経営に悪影響を及ぼします。

    なぜそうなるのか?
     

    変動費と固定費という観点から考えてみます。

    全部原価計算では、今期の売上と在庫に、今期の製造原価が割りつけられます。
    しかし在庫は資産として来期に持ち越されるため、今期の費用には含まれません。

    従って在庫に割り付けられた製造原価は今期の費用ではなくなります。
     

    製造原価の在庫への分配

    製造原価の在庫への分配


     

    在庫を多く作るほど、今期の製造原価(固定費と変動費)が、今期売上の製品だけでなく在庫にも分配されます。

    そして在庫の費用は今期の費用とはならないため、今期の費用が少なくなります。
    その結果、利益が増えます。
     

    実際期末に製品をつくりだめして在庫を増やしている企業もあります。

    しかしそうして生産した在庫が、来期すぐに売れれば問題ないのですが、滞留することもあります。
    それは資金繰りに影響し、また在庫の保管場所の確保や保守に関わるコストがかかります。
    さらに長期間滞留した製品は出荷の前に再度確認や清掃が必要になり、工数が増加します。
     

    税務会計のゆがみ

    税金を出来るだけ少なくするために、税務会計を重視すると売上を少なく費用を多くしようとします。
    しかし本来会計は、数字により企業活動の結果を正しくとらえることが目的です。
    そのためにはできるだけ正しく企業の姿を現すようにすべきですが、税金を少なくするために本来の姿とは違った姿になってしまいます。
     

    粉飾

    投資家や金融機関に対して、できるだけ良く見えるように会計の数値を良くしようとする場合があります。
    これが架空の売上や在庫を計上すれば、粉飾決算になります。
     

    しかし合法でも本来の姿と異なる数字にすれば、企業の姿を適切にとらえられなくなります。

    例えば税務会計では減価償却は行わなくても良いため、売上の少ない年は減価償却を計上しなければ利益は増えます。
    あるいは赤字のために経営者が自身のお金を雑収入として会社に入れる場合もあります。

    その結果、本来の会社の姿を捉える事ができず、早急に対処すべき内容を見過ごしてしまう危険があります。
     

    ジャストインタイムと財務会計

    リードタイム短縮、1個流し、在庫削減などのトヨタ生産方式の考え方は、ムダをなくし、経営を改善するのに非常に有効な考え方です。

    ところが伝統的な全部原価計算により製造原価を計算すると、これらの取組は会計的な効果が全くない場合や、逆に利益が減少する場合があります。
    その結果、多くの企業がトヨタ生産方式に取り組んでも、製造原価の低減のためにロットを増やし、在庫を増加させ、とよた生産方式が定着しません。
     

    【リードタイム】

    ロットを出来る限り少なくし、最終的には1個流しにすることで、ものの流れ、製造工程のムダが見えるようにして、ムダを改善する事ができます。

    しかしロットを少なくするほど、段取り回数が増えて製造原価が高くなり、経理から製造原価の上昇を指摘されます。
    さらに今まで大ロットに慣れている現場の人たちもロットを小さくすることに反対します。
    その結果、小ロット化が進みません。
     

    【在庫】

    現場での仕掛品や完成在庫を減らすことは、在庫の維持管理という付加価値を生まない作業を減らすと共に、現場の生産スピードの遅れをすぐに見えるようにして改善ができるようなります。

    しかし前述のように全部原価計算では、在庫が多いほど間接費を在庫が負担するため、製造原価は低くなります。
    その結果、企業によっては利益を増やすために期末に在庫を増産することも行う場合もあります。

    それでも低金利時代の今日、在庫の負担する金利はそれほど大きくはなく、会計的には問題ありません。
     

    トヨタの管理会計

    では、トヨタ生産方式の元祖のトヨタ自動車はどうしているのでしようか。

    トヨタ自動車では、管理会計と現場の管理とは、棲み分けがされています。

    • 経理部門は、会計のディクロージャーのために全部原価計算で行う。
    • 製造現場は、会計を無視して生産システムと物理的目標を達成する。

    つまり経理の原価計算は財務会計のためのものであり、現場の管理はタクトタイムなど現場独自の指標で行っています。
     

    一方で製造原価のコントロールは、生産技術が製品の最初の段階から、原価企画として参画しています。

    そして、リードタイム短縮、在庫削減で一時的に利益が低下しても、経理は製造現場に口を出さないという棲み分けがされています。
     

    【大野氏の決断】

    JITを開始した当初、工場の利益の大幅下方修正が避けられなくなりました。

    その時、大野氏は
    「ワシが責任を持つ。そのまま続けよ。」
    と指示し、
    工場のJITの手綱を緩めませんでした。

    結局、半年後には会社の利益が好転し、工場のことは大野氏らに任せてよさそうだという棲み分けが成立しました。
     

    つまり小ロット生産、在庫の削減を行うと、一時的には製造原価が上昇します。

    しかしその後改善を続けることで、改善すべき点が見つかり、その結果、工数自体が短縮され、製造原価が低下します。

    しかしアメリカの企業は、全部原価計算による管理会計が浸透し、会社の利益に対して財務部門が強い権限を持っているため、トヨタ生産方式を学んでも数値が悪化することで、トヨタ生産方式が浸透しませんでした。
     

    「原価というものは、使い道によっては怖いものだということをきちんと理解できる人が原価計算を使ってこそ、会社の利益に結びつくものだ。」

    元トヨタ経理部A氏の発言です。
     

    【トヨタ自動車とは異なる取組 京セラのアメーバ経営】

    京セラのアメーバ経営では、工場の各組織を、後工程、前工程を取引先と考え、売上と原価、付加価値と投入工数を金額換算して、利益が出るように利益を目標として管理します。
     

    工程間の時間を測定しない、T社の取組

    T社では、製造現場での赤字を削減するため、各工程の実績時間の測定と、標準時間に対する実績時間の差異レポートの提出を廃止しました。

    理由

    • 実績時間のコンピューターへの入力が直接作業者の総工数の5%に達していた。
    • 小ロット化(ロットサイズ1/6)を実現するためには、実績時間の廃止が必要だった。

    T社の製品の製造原価は、以下の方法で計算していました。

    【改革前】

    • 製造原価=材料費×加工費
    • 加工費=標準機械時間×時間レート(間接費配賦率)
    • 時間レート=総製造間接費/予定標準出来高合計

     

    製造部門が協力し機械時間を短縮するために多くの提案が出しました。

    それに精力的に取り組みましたが、実際の効果がありませんでした。

    実はT社は、JITを学び、小ロット化を改善の柱にしていました。
    その結果伝取り回数は増え、会計上の製造原価は上昇しました。

    JITは間違いだったのか、

    それとも従来の原価計算に問題があったのか、

    議論した末に、製造原価をリードタイム配賦基準に変えました。

    【リードタイム基準配賦法】

    • 製造原価=材料費×加工費
    • 加工費=リードタイム×配賦率
    • 配賦率=総製造間接費/リードタイム合計

     

    実はある工程は時間を1~2分削減しても、他の工程に制約され、リードタイム短縮の効果が現れませんでした。

    原価計算方法を変えることで、リードタイム短縮効果のあるポイントに絞って改善を行い、リードタイムを大幅に短縮できました。

    リードタイムを短縮することで、キャッシュフローを改善し、成果につなげる事ができました。
     

    最後に

     

    コストが厳しくなる今日、管理会計を導入し、個々の製品の原価を把握することは重要です。特に見積り段階で製造原価が明確になっていないと

    「どこまで下げてもよいのかわからず」

    赤字受注になるケースが多くあります。

    一方会計は、必ずしも会社のお金の真実を示しているわけではありません。

    税務などの要因で「ゆがんでいる」ことも少なくありません。

    数字の示す意味を適切に把握し、対処しないと誤った方向に行くこともあります。
     

    その点でトヨタ自動車は、会計はディスクロージャーのためであり、現場の改善は会計でなく現場の指標に任せています。

    一方京セラのアメーバ経営では、工場の各組織もプロフィットセンターと考え、収益と費用を計算し、利益を出すように求めています。

    どのような方式が適切かは、事業内容や企業により異なりますが、一般的には、

    「原価を知らない営業」

    「売価を知らない工場」

    では、存続は厳しいのではないでしょうか。
     

    元信越化学工業株式会社常務で、公認会計士試験委員や金融監督庁顧問)等を務めた金児昭氏は、

    「良い貸借対照表を通せば、時間差はあるが、利益は必ず現金になる。」

    と貸借対照表を軸にした経営を勧めています。

    「貸借対照表の内容がきちんとしていれば、しっかりとしたキャッシュフロー経営になる。貸借対照表の構造を見れば、右下にある利益は、資本、負債を経由して、左上にある現金へと、人の血液のように流れていく。

    中略

    繰り返すが、利益とキャッシュは自転車の両輪であり、利益の最大の源泉は売上高である。」

     

    参考文献

    「会計とは何か」 山本昌弘 著 講談社選書

    「トヨタシステムと管理会計」河田信 著 中央経済社
     

    本コラムは2015年10月18日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
     

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