『直感』による意思決定はうまくいくのか?

目次
    1. 直感のほうがうまくいく
      1. 2つの選択方法
      2. 直感とは?
      3. 不確実な状況での意思決定
      4. 調べすぎる問題
      5. リスクと判断
    2. 直感は誤った判断を誘発する
      1. 自信過剰と視野狭窄
      2. 集団の均一性
      3. 結果が予測できない場合
      4. 平均回帰とハロー効果
      5. 想定していないものは見えない
      6. 直感による判断は正しいのか
      7. 参考文献
    3. 経営コラム ものづくりの未来と経営
    4. 中小企業ができる簡単な原価計算手法
      1. 書籍
      2. セミナー
      3. 原価計算システム

適切な意思決定を行うには「多くの選択肢を比較し、結果を予測し、意思決定に結果影響を受ける人や組織を考慮するべき」と言われています。しかし実際の意思決定はどのように行っているのでしょうか。案外「直感」で行っているのではないでしょうか。

直感は意外と優れていて、直感のほうが上手くいく場合があります。一方、人は錯覚や誤解をするので、直感は危険だという主張もあります。はたしてどちらが正しいのか2つの考えを比較しました。
 

直感のほうがうまくいく

1985年心理学者のゲイリー・クラインは、消防隊⻑にインタビューをしました。

消防隊⻑は台所の火事現場に到着し、すぐさまリビングから台所に放水を開始しました。しかし、一向に火勢が落ちません。隊⻑はなぜ放水が消火の役に立たないのか不思議に思っていました。その時、隊⻑の第六感が閃いて急に不安に襲われました。隊⻑が部下に「すぐに外に出ろ」と怒鳴った直後、リビングの床が崩落しました。火元はリビングの下にあった地下室だったのです。

直感が彼と彼の部下の命を救いました。

クラインによれば、人が専門的知識を深め、いろいろな状況に遭遇する回数が増えるほど、

経験のパターンを数多く発見します。

そして目の前の現実と過去の経験を照合する能力が 精緻なものになります。これにより直感が研ぎ澄まされていきます。
 

2009年1月 US エアウェイズ 1549便がカナダガンの群れと遭遇し、エンジンが両方ともカナダガンを吸い込んで停止してしまいました。エアウェイズ 1549便は即座に空港に向かいました。

無事に空港に着けるかどうかの判定を機⻑は

「管制塔に視線を固定し、前面ガラスの中でせり上がってきたら空港には着けない」

という経験則に従いました。しばらく飛行して、前面ガラスの中で管制塔がせり上がってきたため、機⻑はハドソン湾への不時着水を決意しました。
 

2つの選択方法

アメリカ合衆国の政治家ベンジャミン・フランクリンが、二股をかけて迷っている甥に書いた手紙があります。

「迷っているなら、賛成する理由と反対する理由を 1 枚の紙に左右 2 列に書き出す。同じ価値を持つ項目同士は線を引いて消して、残った項目の数で決めろ。」

テレビ番組を選ぶ際にすべてのチャンネルを選択してから決める、ショッピングなどであらゆる選択肢を比較してから最善のものを買うなどはベンジャミン・フランクリンの方法です。これを「マキシマイザー」と呼びます。

一方、追及はそこそこで、まあまあと思った最初の選択肢でさっさと決めるのを「サティスファイサー」と呼びます。直感はサティスファイサーの意思決定方法です。
 

直感とは?

スポーツのような身体的な活動は直感的な動作が多くみられます。

野球でフライの捕球をする際に外野手は緩慢に走っているように見えます。そこで監督が「もっと真剣に走れ」と叱咤した結果、むしろ落球が頻発しました。理由は、実は外野手はフライがどこに落ちるのかわかっていなかったのです。それでも捕球できるのは、上がっていくフライが一定の速度で上がっていくように走る速度を調整していたからです。
 

図1 フライの捕球

図1 フライの捕球


 

これは注視ヒューリスティックと呼ばれ、動物や昆虫など多くの生物が三次元空間を移動する物体を補足する能力です。
 

なぜ直感がはたらくのでしょうか。それは違和感があるからです。違和感は「モヤモヤする」「つらい」といった感情に結びつきます。この違和感は自分へのメッセージになります。

逆に好きと感じれば、理屈ではなく、体でピピピと感じることがあります。好きだとやる気が出て、その物事を継続できます。がんばれるから結果が出ます。良い結果を見て、「自分にとってこれは正しかった」と思うでしょう。
 

直感には3種類あります。

  • 直感 (gut feeling) 一瞬で意識に上る判断
  • 直観 (intuition) 基になっている理由が自分でもよくわからない判断
  • 勘 (hunch) 行動を移すに足る確固たる判断

 

直感を構成するのは

  1. 単純な経験則=ヒューリスティックス
  2. 脳の進化した能力

と言われています。
 

ではなぜ直感が働くのでしょうか?それは人間の特徴として協調性があるからです。
 

チンパンジーの実験

檻に入ったチンパンジーの前に2つのハンドルがあります。
「親切なハンドル」は自分と隣の檻のチンパンジーに餌がもらえます。
「意地悪なハンドル」は自分だけ餌がもらえます。

ハンドルを回す回数を記録すると隣の檻に血縁関係のあるチンパンジーが入っていても、チンパンジーが「親切なハンドル」を回す回数は変わりませんでした。

同様の実験を人間の子供に対し行ったところ「親切なハンドル」を回す回数が多くなりました。子供はほかの人にも分け与えるほうを選んだからです。

何かを判断する時、人は相手も喜ぶような方法を感覚的に選ぶ傾向にあります。これは人類が進化の過程の中で獲得した能力「協調性」によるものです。
 

不確実な状況での意思決定

不確実な状況では多くの情報をあえて無視して意思決定を行う

ことがあります。問題解決の選択肢の中で、最も有効であると思ったひとつの理由だけで意思決定を行うことを「最善選択ヒューリスティック」と呼びます。
 

実は鳥の多くは巣の中のヒナを見分けられません。図々しいカッコーは自分のヒナを他の鳥の巣に入れて育てさせます。カッコーの托卵です。しかし人の子供は知っている人とそうでない人を瞬時に見分けます。人は個別再認能力が他の動物よりも高いからです。

これは全く見たことがないものよりも見たことがあるものを優先する「再認ヒューリスティック」が生じます。

実は「商品を選ぶなら聞いたことがあるブランドにしよう」という再認ヒューリスティックがあるため、多くの企業がテレビコマーシャルに多額の費用をかけるのです。
 

最善選択ヒューリスティック

極楽鳥の一種は、メスが相手を探す際に尾羽の一番⻑いオスを選びます。

⻑い尾羽は飛行の際にハンディキャップになるはずですが、求愛するオスは実に上手く飛びます。メスは種の間で、尾羽の⻑く、且つ飛ぶのも上手いオスを選ぶようになりました。

尾羽の⻑いオスの方が尾羽の⻑い子供が生まれ、更に繁殖できるチャンスが増えます。
 

図 2 尾羽の⻑い極楽鳥(Wikipediaより)

図 2 尾羽の⻑い極楽鳥(Wikipediaより)

このダーウィンの雌雄淘汰説は 100年間無視されていましたが、今では生物学の一分野として確立しています。

 

イギリスで子供が夜間急に医者にかからなければならない場合の医者の選び方を調査しました。
以下の 4つの選択肢、
①態度(話をちゃんと聞いてくるか)
②場所、③どんな医者
④待ち時間に
YES、NO で回答してもらいました。

その結果、「①態度(話をちゃんと聞いてくるか)」による選択が最も重視されました。それ以降の選択肢が違っても選択に変化は見られませんでした。多くの親は、態度が YES であれば、それ以外の要因はさほど重要ではないと回答したのです。

つまりたった一つの理由が決め手になっていました。

 

同様の調査を NBA(バスケットホール)、ブンデスリーグ(ドイツのサッカーリーグ)の試合結果の予測で行っても、ひとつの理由「これまでの勝ち数の多いチームが勝つ」だけで、多くの人は予測していました。
 

20件の実験について

  • ひとつの理由で決める最善選択ヒューリスティックの予測結果
  • 複雑な理由で決定する方法(重回帰分析)での予測結果

を比較しました。

その結果、最善選択ヒューリスティックの方が正答率は高かったのです。つまりたったひとつの理由で決めた方が正確でした。

  1. 将来を予測しなければならない
  2. 将来の予見が困難
  3. 情報が限られている

この3つが揃った場合、たったひとつの理由で決めた方が正確さは増すのです。

一方、
将来が十分に予測可能である場合、
あるいは情報が豊富な場合、
複雑な分析のほうが正確さは増します。
 

図3 予測を立てる分析の方法

図3 予測を立てる分析の方法


 

調べすぎる問題

アメリカでは医療訴訟が頻発するのはよく知られています。ある患者は前立腺がんの検査は受けないことにしました。しか不幸なことに、彼はその後前立腺がんで死亡しました。訴訟で原告側弁護士は「検査をしなかったのは医師の過失である」と主張しました。

アメリカではこうした訴訟が相次ぐため、医師はためらわずに過剰診断、過剰医療に突き進みます。

  • 過剰診断
  • 本来なら患者が生涯気づかずに済んだはずの疾患を、検査によって発見すること

  • 過剰医療
  • 本来なら患者が生涯気づかずに済んだはずの疾患を治療すること

しかし情報は多ければいいというものではないようなのです。
 

こんな例があります。

全身 CT スクリーニングによって冠状動脈疾患のリスクの高い人を特定できる確率は 80%です。そう聞くと高いい確率に感じます。

しかし、これは残り20%の人はハイリスクにも関わらず陰性と判断されることを示しています。彼らは偽の安心感を植え付けられて、治療の機会を逃してしまいます。

逆にリスクのない人を陽性と判定する確率が 60%もあります。つまり 60%の心配する必要がない人が、かかるはずがない病気におびえながら、残りの時間を過ごすはめになるのです。
 

米国予防医療サービス対策委員会は、前立腺、肺、膵臓、卵巣、膀胱、甲状腺のがん検診はメリットよりデメリットの方が大きいので受けないようにと勧告しています。検診してもがんがなくなるわけではないので、早期発見よりも予防の方が効果が期待できるとしています。喫煙、肥満、不適切な食生活、過度の飲酒を避け、適度な運動を行うことを推進しています。

 

リスクと判断

確実性をめぐってふたつの幻想があります。

① ゼロリスクの幻想
リスクはあるのにないと思うことです。

HIV 検査での偽陽性(誤った陽性判定)が起きると、陽性判定を受けた人が自殺したり、生活が破綻してしまうことが起きます。
 

② 七面鳥の幻想
殺されるかもしれないとおびえつつ毎日餌をもらえる七面鳥の逸話です。
n 日えさをもらった時、再び餌がもらえる確率は
(n+1)/(n+2)
で計算できます。100 日過ぎれば明日もエサがもらえる確率は
(100+1)/(100+2)=99%、
明日もエサがもらえるのはほぼ確実です。

七面鳥にとって不幸なことに 101 日目はクリスマスでした。
 

未来の予測に使ったモデルは短期には有効でも、⻑期も有効とは限らない例です。
 

図 4 確実性の幻想

図 4 確実性の幻想

リーマンショックについて、ゴールドマンサックス CEO デビッド・ヴィニア氏は

「『25シグマの事象』が数日連続で起きるという不測の事態が当社のリスクモデルを襲った」

と語りました。そして同社のリスクモデルでは 7〜8シグマの市場はビッグバン以来 1度だけ起きた頻度だと説明しました。

これは起こりえないことが起きたのでなく、同社のリスク評価モデルが間違っていたとみるべきです。

リスクは確率や可能性で数値化できます。しかし

リスクが「恐れ」とつながると人の行動が変容します。

 

「恐れ」つまり恐怖は脳の基本的な情動回路のひとつで、扁桃核を中心に形成されます。その多くは後天的に学習します。
 

 図5 2種類の確実性の幻想

図5 2種類の確実性の幻想


 

恐怖の内容を学習するメカニズムは以下の2つがあります。

  • 「社会的模倣」

自分が属する集団が恐れるものは恐れることです。

クリスマスキャンドルはドイツ人にはかかせないものです。しかしアメリカ人にとって火のついたローソクは火災の危険と背中合わせでとんでもないものです。そこでアメリカ人の多くはローソクを電飾に変えましたが、キャンドルの不注意による火災で死亡するドイツ人と、電飾の電灯による誤飲や感電で死亡するアメリカ人の数は同じでした。

遺伝子組み換え食品に対する姿勢や放射能に対する姿勢もアメリカとヨーロッパでは大きく異なり、ヨーロッパでは強い反対があります。これは自分が属する社会集団が恐れるものは自然と恐れるようになる例です。
 

  • 「生物学的準備性」

蛇におびえるサルのビデオを見せられた別のサルも、蛇を見ておびえるようになります。動物でも自分に危害を加える生き物の情報は他者に伝搬します。
 

現代社会の病理

安全な社会になればなるほど、病気や事故など危害を加える事象が減少し、遭遇する機会も減少します。些細な事件がクローズアップされて報道されると、社会に伝搬する不安や「恐れ」が広く共有されていきます。
 

アメリカで大うつ性障害になる若者は1920年代生まれで2%だったのに対し20世紀中盤生まれでは20%に増加しました。別の調査でも1930年代以降は、自己愛的、自己中心的、反社会的、不安、憂うつ感が強くなっていると判っています。

一方、第二次世界大戦、冷戦の時期、労働争議の60年代、学生運動の70年代など社会が不安定な時期はうつ病の発症率は低い傾向にあります。

リスクに対する誤った判断とマスコミの功罪では、BSE(狂牛病)騒動や O157騒動は記憶に新しいのではないでしょうか。
 

直感は誤った判断を誘発する

直感、つまり主観に頼った判断は、人によっては大きな判断ミスを引き起こします。なぜなら、人は自信過剰で楽観的に考えるからです。
 

自信過剰と視野狭窄

人は主観的な視点にとらわれ、良い点ばかりに目を向けて現状認識が楽観的に陥ることがあります。
それは3つの幻想があるためです。

  1. 自分は人より能力が高いという幻想
  2. 80%以上の人が自分の運転技術は上位50%以上に入ると回答しています。

  3. 楽観主義の幻想
  4. 自分の未来が他人より明るいと考えます。

  5. コントロールの幻想
  6. コントロールできない確率的な事象をコントロールできるように思ってしまいます。例 ファンドマネジャー

カリフォルニア大学のキャメロン・アンダーソン、ギァビィン・キルダフは知らない学生同士を集めて4人のグループをつくり数学問題を解く実験を行いました。グループのやり取りをビデオに録画し、それをメンバーに見せて誰がリーダーにふさわしいか判定させました。リーダーに選ばれたのは数学の力でなく、支配的な人でした。支配的な人は自信のある態度を取るため、他のメンバーは彼を信頼し従おうとしました。
 

アンカリング

特定の情報、特徴に基づいて考え始め、それを元に結論に至る方法です。アンカーというバイアスが効いて、正しい答えから逸脱してしまいます。そしてアンカリングがあると、起こりうる事柄を十分に考慮しない視野狭窄(トンネルビジョン)に陥ってしまいます。人は自分が導き出した仮説から推論し、それに矛盾しないものだけを考慮の対象にしてしまい、間違っているかもしれないという可能性が考えられなくなるものです。従って最初に問題をどう捉えるかが、意思決定に大きく影響します。
 

つまり

  • その問題がどのように表現されて伝わったのか
  • それについてどのように感じたのか
  • その人がそれについてどれだけの事前知識があるのか

これによって意思決定が変わります。
 

視野狭窄(トンネルビジョン)を避けるためには

  1. 様々な他の選択肢を考える、複数のシナリオを考える
  2. 自分と異なる意見を積極的に探す
  3. 意思決定の背後にある理論的な根拠を記録し、後で振り返る
  4. 平常心でない場合は重要な意思決定は行わない
  5. インセンティブの影響を理解する(金銭、地位、名誉は誤った決定を導く)

などを考えると良いでしょう。

 

集団の均一性

集合知の正確性「みんなの言っていることはなんとなく正しい」と思うことはないでしょうか。牛の体重当てコンテストでは、専門家の推定よりも多くの人の投票結果の平均値の方が正確でした。ただしこれは多くの人が互いに話し合わず独立して予想した場合です。

参加者が自分の頭で考えず、他人の考えやメディアの情報を信用すると、多くの人が同じ値を予測するようになりました。つまり多様性が喪失してしまったのです。ブームや流行が起こったのも、他人の考えやメディアの情報を信用し多くの人が同じ考えを持ったためです。
 

こういった状況の影響力を回避するには以下のような方法があります。

  1. 状況を考慮
  2. 他人の判断は組織の影響など状況の影響を受けていないか注意する

  3. 「横並びの強制力」に注意
  4. 「無意識のうちに」同業者のまねをしてしまう傾向がある

  5. 惰性を回避
  6. 組織は往々にして凝り固まった手順を踏襲する

医療機関、取締役会、裁判所など、いずれも意思決定は社会的な行為です。そのためプライミング効果、デフォルト、感情などの周囲に影響されます。
 

結果が予測できない場合

相互作用の多いシステムでは一部を変更した影響が予期しない結果を引き起こすことがあります。
 

1800年代イエローストーン国立公園で ヘラジカがハンターに殺されるのを見て、ヘラジカの餌を増やしました。公園内の野生動物を増やして公園内の生態系を蘇 生させるためです。しかし、増えすぎたヘラジカは植物を食べ尽くし、土壌浸食が 発生しました。木が減ったためビーバー がダムをつくれずに減少し、ダムがなくなり、川の水質が悪化しました。

こうしたエサ不足でヘラジカが大量死したのを人はオオカミのせいと思い込み、オオカミを殺戮し、公園内のオオカミは絶滅、さらに状況はさらに悪化しました。
 

図 6 ヘラジカ(Wikipediaより)

図6 ヘラジカ(Wikipediaより)

日本でも、風が吹けば桶屋が儲かるという格言があります(桶屋が儲かる仕組みを知っていますか?)。複雑な状況では意思決定の結果から起こることが容易にはわかりません。様々な状況を考慮して、総合的に判断する必要があります。
 

図7 風が吹けば桶屋が儲かる

図7 風が吹けば桶屋が儲かる


 

平均回帰とハロー効果

平均回帰

平均回帰とは、特別なことが起こるとこれを打ち消すような反対の出来事が起きることです。統計学では、「ある事象を何度も独立させて繰り返して行うと、相対頻度が理論的な確率に近づいていく」という「大数の法則」があります。

簡単に言えばいいことの後には悪いことが起こる

ということです。
 

スポーツ界の2年目のジンクスは、1年目に大活躍をした新人選手が2年目には成績が落ちることです。いろいろ理由が言われていますが、統計的には平均回帰であり、当たり前のことです。

心理学者ダニエル・カーネマンは、イスラエル空軍の操縦指導教官のトレーニング技術を指導した際、指導教官に「もっとパイロットをほめるべき」と助言しました。

これに対し指導教官は「パイロットはうまくいったと褒めると、次の飛行ではうまく飛べず、へたくそと罵倒した後はもっとうまくできる」と主張しました。この指導教官の過ちは平均回帰を理解していなかったことでした。うまくいった後にへたくそだったのは、単に平均に回帰しただけで、ほめたことは無関係だったのです。
 

ハロー効果

ハロー効果とは、一般的な印象に基づいて特定のことを結論づけてしまうことです。

ある企業が良い業績を出していると「正しい戦略、ビジョンのあるリーダー、活気あふれる企業文化」と称賛されます。しかし翌年は業績が平均回帰によって大きく低下します。戦略もリーダーも企業文化も何一つ変わっていないというのに。
 

多くのシステムは複雑で、結果は運と実力の影響が混在しています。チェスや囲碁は実力があれば勝つことができ、運の影響は少ないですが、中には実力があっても勝てないゲームがあります。

これは故意に負けることができるかどうかで判断できます。例えば、ルーレットやスロットなどのギャンブルは完全に運が支配するゲームです。なぜならわざと負けることはできないからです。

では投資についてはどうでしょうか? S&P500種指数を上回るポートフォリオを構成するのはとても難しいことはわかります。逆に大幅に下回るポートフォリオをつくるのもとても難しいのです。

しかし、そのことに多くの人は気づいていません。

 

想定していないものは見えない

2001年2月9日原子力潜水艦グリーンヴィル号の艦⻑スコット・ワドルは潜望鏡で付近を確認しました。「船は何も見えなかった」、「ほかの船がいることは予想も期待もしていなかった」と後に述べました。

そしてデモンストレーションのため艦は急速潜航した後、緊急浮上しました。潜水艦が船首から海に飛び出すように浮上すると、それと共に激しい衝撃が潜水艦を襲いました。漁業実習船えひめ丸に衝突した瞬間でした。最大の疑問は「なぜ潜望鏡で確認したのに見えなかったのか」に尽きるでしょう。
 

オートバイ事故の半数以上が別の乗り物との衝突で、そのうちの65%以上が直進するバイクと右折する車の事故です。なぜバイクが直進するのにドライバーは右折しようとするのでしょうか。

それはドライバーにはバイクが見えず、バイクが直進してくると予想しなかったからです。ドライバーにはオートバイの存在は想定外でした。そしてこういった事故を起こしたドライバーの中にバイクに乗ったことがあるドライバーは皆無でした。派手な色のウェアやヘッドライト点灯 もないよりはましですが、最も効果があるのはオートバイを車に似せることです。ヘッドライトの間隔を離せば注意をひきやすくなります。
 

図8 いわゆる「右直事故」

図8 いわゆる「右直事故」


 

直感による判断は正しいのか

日常生活での錯覚は、自分たちの能力を過大評価させ、自信を増大させます。人の思考プロセスは以下の2つがあります。

  1. 素早い反射的な思考
  2. ゆっくりとした内省的な思考

 

素早い反射的な思考は、見落としや錯覚を引き起こします。

ゆっくりとした内省的で高次の思考は、反射的な思考の見落としを見つけることができます。しかし適切な修正ができなければ結局問題が起きてしまいます。

人の話を鵜呑みにしたり、多くの人が常識と考えていることを無条件に信じることは間違った判断を引き起こす原因になります。
 

素早い反射的な思考、別名「直感」はこうささやきます。

「自分は十分に注意を行き届かせることができる、 自分の記憶は詳細で正確、自分はものごとをよく知っている、 自信のある人は能力がある、 偶然や相関関係には因果関係がある、 自分は脳の10%しか使っておらず大きな可能性に満ちている…」

こうした直感は全て間違っているのです。
 

経営者が直感に従った具体例

モトローラの首脳陣は衛星電話ビジネス「イリジウム計画」を画策しました。地球上に 64 基の人工衛星を打ち上げ、地球上のどこにいても通話が可能になります。ただし 1 台 3,000 ドルの端末と1分3ドルの通話料を払えば。

プロジェクトは 1 年で崩壊し、50 億ドル近い損失が残りました。
 

注記)
現在、衛星インターネットは複数の会社が提供しています。通信の遅れなど問題はあるものの、広まりつつあります。直感が正しいかどうか、それはその事業をいつ行うのか、その時の技術的、社会的なバックグラウンドはどうかによって大きく変わります。
 

参考文献

「なぜ直感のほうが上手くいくのか?」ゲルト・ギーゲレンツァー著  インターシフト
「賢く決めるリスク思考」ゲルト・ギーゲレンツァー著 インターシフト
「まさか!? 自身がある人ほど陥る意思決定の 8つの罠」マイケル・J・モーブッサン著 ダイヤモンド社
「しらずしらず」レナード・ムロディナウ著 ダイヤモンド社
「錯覚の科学」クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ著  文藝春秋
 

本コラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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このコラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストを元にしています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。

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